~恋視点~
あの夜、刃にぃは私にだけ話してくれた。
呉に天の御使いとして行かなければいけないと。
最初は、ついていくといったけど、刃にぃがごめんと真面目に話しているのを
見て、行かないことに決めたんだ。
でも、桃香たちには、すこし旅に出たいといって、刃にぃが出て行った翌日、
成都をあとにした。
ちんきゅーはいつもどおりついていきたい、といってくれたけど、今回は
一人で行くことにしたのだった。
刃にぃについていくわけではない。刃にぃの妹としていつかにぃの隣にたてるように、
いろいろな体験をして、いろいろな人と出会って、
そして、もっと自分を鍛えたかったのだ。
旅に出てから、1か月半月がたったころ、私は蜀と魏の境目のあたりにいた。
そこはちょうどよいいなかで、お金にもこまらなかった。
そんな時だった。町の様子が変わりだしたのは。
兵が頻繁に町に出入りし始めた。町の外もなぜか騒がしい。
「お前、なにがあった。」
ちかくにいた、隊長らしきものにそう聞いた。
「おまえとは失礼だろっ! 身をわきま・・・・っ!呂布様!!??」
「ん」
「しっ、失礼いたしました」
「別にいい・・で、なにがあった?」
「はっ、呂布様も知っての通りかと思いますが、魏に天の御使いを名乗るもの
が攻めてきたそうで、このあたりの兵は皆、町人の安全を守るために
動いているのであります」
「・・・、天の・・御使い、それは・・・どこ?」
「は、洛陽の真北にある、上谷郡へ向けてのということです」
それをきくと、もう足があってに動いていた。
後ろで、さきほどのものが呼び止める声がしたがそんなの聞いていられなかった。
天の御使い・・北郷一刀・・
そんなの、ありえるわけがない。
刃にぃはそんなことぜったいにしない。
そもそもいま、刃にぃは呉にいる。
要件が終わったら帰ってくるって約束した。
だったら、にせもの・・・
許さない・・・絶対に・・
刃にぃの名前をけがす奴はぜったいに許さない。
刃にぃのやさしい思いをけがすものは恋が許さない。
刃にぃ、まってて。
今度は恋が刃にぃを守るばん。
刃にぃの笑顔をけがす奴は、恋がたたききる。
~一刀視点~
「ちょっと、大丈夫。一刀」
そう、雪蓮は俺に尋ねてくる。はっきり言ってまだ何が起こっているのか理解できない。
蜀が五胡に攻められ、呉に、蜀および魏から完全武装した部隊が送られ、
そして、魏は俺の名を名乗るやつに侵攻を受けている・・・
考えろ・・考えろ
「ちょっと、一刀ってば」
「ああ、ごめん、雪蓮。少し動揺していた」
「いや、それはわかるけど、でも一刀・・」
「ああ、わかってる。
そう、だよな。ここにいても何も始まらない。何かしなければ」
どうなっているんだ・・・
あの、まとまりのない五胡が大軍で蜀に侵攻だと・・
そんなことが、ありえるのか?
いや、確かにありえる。これがもし、すべて相手の策ならば。
五胡をひとつに、蜀と戦う勢力としてまとめ上げ、そして魏へ俺の名をかたり
兵を送っている人物がいるとすれば。
そして、こう考えれば蜀と魏が兵を呉に送ってきたことに説明がつく。
呉の内部にこの事件に関連している敵がいるということ・・・
「なにをするにも、われわれは、魏と蜀に兵を送ってきたことにつきて
聞かなければ何も始まらんぞ、雪蓮」
考えている俺たちにそう冥琳がいう。
「なあ、冥琳。こんなことをいうなんて馬鹿げているかもしれないが
聞いてくれるか?」
「なんだ、一刀?」
「もし、こう考えれば蜀と魏の兵に説明がつくのだが・・・」
「なによ、一刀。そんなもったいぶらないではやくいっちゃいなよ」
「呉は、豪族のまとまりでできている国だろ・・・」
「うん、そうだけど」
「冥琳、その豪族って呉の兵のどれくらいを占めている?」
「・・っ!一刀、まさかお前」
俺のその言葉に冥琳は俺の言おうとしていることが分かったようだ。
「え、どういうこと?」
まだ、状況がのみこめていない雪蓮におれは説明を続ける。
「もし、だ。雪蓮。その豪族たちが寝返り、同盟に不満を持っていた民たちを
率いて反乱をおこしたらどうなる?」
「??ちょっとまってよ、だいたい反乱なんか起こっていないじゃない。
そもそも、そんなこと私たちは魏や蜀に伝えた覚えはないわよ」
「一刀。後は私が説明する。
いいか、雪蓮。たしかに一刀がいったことが本当ならば今起こっていることに
すべて説明がつくんだ。
それは、今回のことすべてを裏で手引きしている奴がいるということ。
そして、呉の豪族たちがそれにかかわっていて、もし奴らが
魏、蜀に、何かしらの、たとえば援軍要請の文を出していたら。」
「そうだ、雪蓮。呉の豪族たちは古くからいたものが多い。
しかし、それは仲間としてではなく呉に住むものとして、ではないのか?
それに加えて彼らには、相当な地位が与えられていると思う。
呉の名前で手紙を書き、呉の重要書類として他国に送ることも簡単ではないのか?」
「ちょっと、まって。冥琳、一刀。言っていることが意味が分からないんだけど。
確かに一刀の言うとおり、彼らは母様がいた時からの付き合いで
それなりの地位もある。けれど、彼らが寝返った時に、救援の文を書くいみなんて・・」
「それが、あるんだよ。雪蓮。
蜀、魏ともに敵に侵攻されている。
魏の敵の数は不明だし、蜀は25万の五胡兵だ。人員をあまりさくことはできない。
かといって呉からの要請には必ず応えないはずがない。
つまり、蜀、魏に文を送ればそれに応えでてくる将は必ず優秀な将である。
そして、その将たちが率いる兵数は必要最低限、つまり少数だ。
げんに、蜀からは関羽。魏からは張遼がこちらに派遣されている。
そこをまず豪族たちが、呉兵の格好をしてたたく。
そもそも、関羽たちは加勢としてきた部隊だ。直接たたかれたら長くはもたないだろう。
そして、そのまま、いっきに蜀、魏を後ろからたたく。」
「まさか、そんなわけ・・・では一刀と冥琳は、奴らはこの三国そのものを
叩こうとしているとでもいうの?」
「まあ、推測ではあるが。しかし、一刀。よくその考えにたどり着いたな」
「ああ、それは絶対に愛紗と霞が意味もなく侵攻なんてするはずがないから、それと、」
「そう、そうよね。って、一刀は蜀の将たちとも親しくなっていたのね」
「え、まあ、それほど親しいってわけでもないけど・・」
「まあ、雪蓮。それは一刀のことだ。考えなくてもわかる。 それより一刀、
それと、なんだ?」
「ああ、それは・・」
「それは?」
「俺が敵だったらそうするからだ」
「??一刀が敵だったら・・・今の状況をまるっきり同じく作り上げるってこと?」
「ああ、もし俺が三国転覆を考えているのであればまず蜀、魏に兵を送り込み、
呉の豪族を寝返させ、魏、蜀をそのまま叩く。
そしてその後、反乱軍とともに、呉をたたく。
その、大義は・・・」
そう言いかけた時、俺の中で何度も後悔が押し寄せる・・・
仮面をかぶった意味。それは痛いほど俺には分かっている。
逆に、この仮面をかぶらずにいたら、今の俺はいなかった。
でも・・・いま、その報いを支払う時が来たとでもいうのか・・
「ああ、そういうことか・・・一刀」
「えっ?どういうこと?冥琳」
「いいか、雪蓮。どんな戦いにでも大義が必要だ。そして、
その大義が大きければ大きいほど巻き込む勢力は拡大する。
そして、今回掲げた奴らの大義は、天の意志だ。」
「・・・っ! そう、なのね。」
「ああ、魏が以前かかげたものと同じ、天の御使いという名。
事実、皆は天の御使いは魏が統一という役目を成し遂げ、
帰還したと伝わっている。
そして、今回天の名をかたるものが現れた。
そして今回は規模が大きいがために、よりその名を信じる者は
多くなるであろうって、おい雪蓮!」
冥琳の話を聞き終わった直後雪蓮は部屋を飛び出した。
しかし、なんなんだ。何かが引っ掛かる。
この作戦に万が一冥琳が気づくことを奴らは考えていなかったのか。
もし呉がこの作戦に気づいたら、愛紗、および霞にすぐに知らせ
ともに反乱軍に当たるだろう。
事実、雪蓮は今、部屋を飛び出し、その準備にあたっている。
時もたつことなく、愛紗、霞のもとに呉の部隊が送り込まれるとともに、
呉からも反乱分子の捜索が始まるであろう・・・
そうしたら、敵の負けは必然となる。
しかし、これだけの策にこれだけの大きい穴があいていてよいものなのか・・
それとも、俺の・・・考えすぎなのだろうか・・
「おい、一刀、私たちも動かなければ」
そう考えると、冥琳がそう呼びかける。
「ああ、そうだな」
そう、冥琳に言われ、俺は冥琳とともに、雪蓮がいるであろう王座の間へと向かっていた。
「雪蓮、状況は」
俺たちが王座の間につくと、雪蓮はそれぞれに指示をだしていた。
「とりあえずだけど、明命には魏との接触を。もう、明命は出て行ったと思うわ。
数日もたたずに霞はこちらの軍の合流すると思うわ。
蜀との接触には、今、荊州の一番近くにいる、亞莎にお願いすることにしたわ。
伝令をだしておいたからここも大丈夫でしょう。
荊州のほうは少し距離があるから、こちらの軍に合流することではなく、
守りを固め、状況を見るということにしておいたわ。」
「はあ、雪蓮。そういう前に、私にちゃんと、話してくれ」
「んでも、冥琳だって、同じ命令をしていたはずよ」
「・・・はぁ」
「それに、冥琳。あなただって、明命を魏のほうへ、
亞莎を蜀のほうへあたらせようと考えていたはずだと思うけど。
私が、命令を出す前に明命はもういく準備万端だったみたいだし」
「それは、だな・・はぁ、もういい。
で、雪蓮、私たちはとりあえず、反乱分子を探すといったところか」
「まあ、そうね。とりあえず、全部隊に戦闘態勢を整えさせ・・」
そういったところで、彼女の言葉は途切れる。
それはそうだ、戦闘態勢、これから戦うのは、お互い少なくとも呉のために
ともに戦ってきた者たちである。
どんな感情を胸に戦っていたのかは知らないが、呉の兵士として、民として、
この地に一度は身をささげた者たちである。
雪蓮が、王として守らなければならないと決めていた者たちである。
彼女の気持ちを考えたら・・・・つらいことだ。
「守るべきもののため、戦うわよ」
でも、やはり彼女は強い・・そう思う。
ちゃんと、濁さず、戦うという意志を示したのだから。
「一刀は、魏に行きなさい」
雪蓮は命令が命令を一通り終えた後、俺にそういった。
「俺も、なにか・・」
「ううん、こちらとしても確かに一刀がいたほうが安心できるわ。
でも、あなたをもっと必要としている国があるでしょう」
「・・・わかった。」
魏の敵勢はそれほど多いというわけではない。それに比べ、呉は何か起こるかわからない。
しかし、雪蓮は気を使ってくれているのだろう。
「うん、気をつけなさいよ。いってらっしゃい、一刀。」
「ああ、いろいろありがとう。急な別れになっちゃうけど、
また会えることを願ってる」
「そうね、願ってなくていいから、絶対そうしなさい。
ろくに別れの宴ももうけないで、ごめんなさいね。みんなには私から
いっておくわ。」
「いや、いいさ。こんな事態だしな。
ああ。そうしてもらえると、ありがたい。いまここにいない、
明命と亞莎にも・・・」
「?」
「明命と、亞莎・・・」
「?どうしたの、一刀??」
なんだ、なんなんだ、この違和感は・・・
「どうかした、一刀?」
「いや、なんでも・・」
そう言いかけた時先ほどの、雪蓮の言葉がふと頭によぎる。
「明命は魏のほうへ、亞莎は蜀のほうへ・・・」
「・・・っ!!」
「どうした、一刀。さっきから様子がおかしいぞ」
くそっ、なんなんだ、どうなってやがる。
これが、歴史の修正力の力なのか・・・・
でも、今回の件は明らかに歴史と状況が違う。
でも、いや、だからこそ、今の状況が再現されていると考えると
怖い。
歴史上、関羽は荊州にて呂蒙によって、死に追いやられる・・・
しかし、だいたい歴史では呉と蜀は当時、敵対していた。
でも・・・
「雪蓮・・・愛紗、関羽がいるのはどこだ?」
「??なに?関羽? 荊州といったはずだけど・・・」
「いや、その荊州のどこかなんだが」
鼓動が早まるのを感じる。
「樊城よ。」
その答えを聞いた瞬間俺の脚は外へと動いていた。
「ちょっと、一刀どうしたのよ!!」
後ろからそんな声が聞こえているが、俺は、全速力で外へとかけて行った。
あとがき。
みなさん、いつも読んでくださりありがとうございます。
さて、物語もいよいよ終盤に近付いてまいりました。
歴史の修正力に立ち向かう一刀の運命、そして彼がこれからとる
道を見守っていてあげてください。
白雷でした!(^^)!
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