#29
孫権ちゃんに促され、おずおずと歩みでた猫フェチ娘。俺は、その顔を掴み上げる。
「む゙に゙ょ゙っ!?」
「ほっ、北郷!何をしている!?」
「貴様っ、明命から手を離せ!」
孫権ちゃんと甘寧ちゃんが制止に入るが、俺はそれを無視して口を開く。
「おい、テメェ、どういう事だ?」
「にょにょにょにょにょっ!?」
ギチギチと両頬を締め上げれば、奇妙な声。
「俺はお前に言ったよなぁ?店で、妹達の護衛を頼む、って。そしてらお前、なんつった?俺の記憶違いじゃなけりゃ、『命を賭して、店と妹達を守る』って言ってなかったか?あぁ!?」
「あばばばばばばばばっ!?」
「それがどうして、こんなトコにいるんだ?妹たちをほっぽって、こんなトコで何してんだって聞いてんだよ、コラ」
「待て!それは私から説明する!だから明命を放せ、北郷!」
孫権ちゃんが、慌てて口添えをしてきた。
「このまま聞く」
「……み、明命に与えられた仕事については、私も知っている。だが、明命がここにいるのは、姉様の命令なのだ」
「雪蓮ちゃんの?」
「そうだ。帝が崩御した事は知っているだろう?崩御の後、後継者争いの際に、十常侍が涼州の董卓を招致した。その董卓が、新しい帝を傀儡とし、洛陽で暴政を働いているという噂が流れている」
「そのくらいは知っている」
これでも商人だからな。噂はいくらでも手に入る。それに、知識だってあるのだ。
頷き、孫権ちゃんは続けた。
「そこに、袁紹の檄によって反董卓連合の結成が呼び掛けられた。いくら連合が巨大になろうも、我らとて力を注がぬ訳にはいかない。明命を外す事は出来ないのだ」
「それで?」
「姉様は私たちにも連合参加を命じ、その連絡役として、明命を遣わした」
「なるほど?だが、その事と、俺との契約を破った事に、何の関係がある」
「雪蓮姉様からの手紙に書いてあった。明命を店から離した場合、きっと北郷は怒り狂うだろうと。だから、妹たちとも話し合い、その為の方法を採ったと」
「……方法?」
おそらくは、雛里や人和あたりだろう。いったいどんな策なのだろうと思っていたら。
「失礼します!孫策軍本隊より参りました!」
1人の伝令兵が駆けてきて、孫権ちゃんの前に膝を着いて報告を始める。
「あと半刻ほどで、合流いたします!」
「おいおい、雪蓮ちゃん達も来てるって……まさか」
「ぷぎゃっ!……あぁぅ、痛かったです」
思わず脱力し、明命を落としてしまう。そんな俺の表情に、俺が考えている事を理解したのだろう。孫策ちゃんもフッと表情を緩めて、言葉をかけてきた。
「お前の考えている通りだ、北郷。もうすぐ、愛しの妹たちとの再会だな」
「……マジかよ」
ちなみに、最初に俺たちの積み荷を調べたのは、甘寧ちゃんが孫権ちゃんの言葉があっても、まだ疑わしいと酷い事を言い出したかららしい。まぁ、主たちを守るって意味じゃぁそのくらいの疑り深さを持つのは間違いじゃないわな。俺なんて好きに軍に入って、勝手に出ていったようbな奴だし。。
伝令の報告通り、半刻もすれば孫権ちゃんのとは別の『孫』の牙門旗を掲げた部隊がやってきた。
「お久しぶりです、雪蓮姉様」
「久しぶりね、蓮華、思春。……それに一刀も」
甘寧ちゃんと明命を引き連れた孫権ちゃんが、雪蓮ちゃんに挨拶をしている。俺たちは軍の部隊ではないので離れた位置で見ていたが、雪蓮ちゃんは俺にも視線を向け、言葉を投げかけてきた。
「久しぶり、雪蓮ちゃん。それで、天和達は?」
「あらあら、相変わらずの妹煩悩ね。いま後方で、兵の食事の準備をしてくれている。みんないつもより士気が高いものだから、ありがたいわ」
「やっぱり連れてきてんのかよ……」
「だって、店の用心棒がいなくなったら、困るでしょ?でも、私たちだって誰かを残す訳にはいかなかった。だから、臨時の輜重管理人として雇わせてもらったの。明命の事で相談した時に、人和が言い出したのだけれどね」
「そうかい」
想像通りだよ、くそ。まぁ、あの娘達が安全ならそれでいいんだけどさ。
「じゃ、俺は妹達に挨拶してくるよ」
「えぇ、どうぞ。貴方なら、兵達も余計な混乱はしないでしょうし」
「おー」
雪蓮ちゃんの許可も受け、俺は社員たちを引き連れて後方へと向かう。その道中、隣を歩く波才がおずおずといった感じで声を掛けた。
「あ、あの…社長……」
「どうした?」
「聞き間違いじゃなけりゃ、その…さっき、『天和』とか『人和』って言ってませんでした?」
「あぁ、俺の妹たちだ」
耳聡いな。
「ちなみに…ちなみになんですけど、もう1人『地和』って妹さんは、居やしませんか?」
「なんでわかったんだ?」
「もっとお聞きしますけど……それって、張三姉妹の事で?」
なんで知ってるんだ?そう問おうとして、思い出した。こいつら元黄巾党だ。
「……その通りだ」
「マジっすぱぎゃ!?」
騒ぎ出そうとした波才の顔を潰す。
「おいおい、大声を出してくれるな。張角たちは死んだ事になってんだからな」
「んっ!ふんっ!」
コクコクと頷き、了承を示したので波才を解放する。
「本人を前にしても、騒ぎ立てるんじゃないぞ?それが守れなかったら、お前クビにするから」
「へいっ!」
とりあえず、言いくるめて置く。
そして。
「あーっ!お兄ちゃんだー!」
「えっ、兄貴!?」
「兄さん…?」
雪蓮ちゃんの言った通り、後方で食事の準備をしていた天和達に会いに行けば、料理を放り出した長女が駆け寄り、飛びついてきた。
「天和!会いたかったぞ!」
「姉さんばっかりズルい!私も!」
「兄さん、私も……」
負けじと下2人も抱き着いて来たので、まとめて抱き締め返し、頬擦りをする。あぁ…俺の可愛い妹たちだ。
「ごめんなさい、兄さん。お店、休業しちゃった」
「雪蓮ちゃんから聞いたよ。むしろ、よくやった。明命もいないのに店を続けるよりかは、よっぽど安心したよ。偉いぞ、人和」
「うん」
眉根を下げて報告する人和を労い、頭を撫でてやる。途端、ふにゃっと表情を緩ませてすり寄る。可愛いなぁ、もぅ。
「あ、あの…社長……」
「あ?」
「ひぃっ!?」
俺が妹達との再会を楽しんでいれば、後ろかから掛かる声。なんだよ、邪魔すんなよ。
「すいやせんっ!でも、本当に天和ちゃん達が居るなんて……」
「最初からそう言ってるだろ、もう忘れたのか、波才」
服を引っ張ってくる波才に適当に返していれば。
「えっ、はっちゃん?」
「才
「波才さん…」
え、3人も知ってんの?なんだよ。てっきり、自分が一番アイドルに近いと勘違いしているオタク野郎かと思ってたのに。
「なんだ、お前らも知ってるんだな」
「うん!はっちゃんは、私たちの
「そうよ。人が増えてからは、親衛隊をまとめてくれてたんだから!」
「よかった…生きてたんですね……」
「お三方こそ…よく御無事で……っく、ひっく……」
おっと、ここは感動の再会のようだ。社員の大切な時間は、守ってやるのも社長の仕事である。
という訳で。
「ふっ、北郷一刀はクールに去るぜ……」
某名脇役の如くに台詞を残し、俺はその場を離れるのだった。
そんな訳で、社員たちに食事の準備を手伝うように命じて、俺は軍の中を進む。余談ではあるが、社員の中には波才がまとめていた元賊の奴らもおり、そいつらも感動の雄叫びを上げていた事を、ここに記しておく。いや、んな事はどうでもいいとして。
「……お兄ちゃん?」
「えっ…一刀、さん……?」
俺は、残りの妹達を見つける。向こうも俺に気づいたようで、先ほどの天和よろしく、瞳を潤ませて駆けてきた。
「一刀さん、一刀さんっ!」
「お兄ちゃんっ!」
「よーしよしよし。久しぶりだな、亞莎、雛里。元気にやってたか?」
抱き着いてくる2人を抱き締め、頭を撫でてやる。あぁ、久しぶりの感触。
「寂しかったよぅ……」
「会いたかったです……」
「あぁ、俺もだよ」
すりすりと頬を寄せてくる2人。ほっぺのぷにぷにとした感触が堪らない。
「孫権ちゃんから聞いたよ。なんでも、反董卓連合に参加するんだって?」
「はい。袁術からの命もあり、ここで風評を手に入れる為にも参加が決まったんです」
「出陣前にお兄ちゃんに帰ってきて欲しかったけど……でも、こうしてまた会えたから、結果的にはよかったかも」
「そうだな。予想外の再会だが、嬉しい限りさ」
そんな事をしていれば。
「失礼します!呂蒙様、鳳統様!これから軍議を開くので、お集まりをとの事です!」
「はい、わかりました。すぐに向かいます」
伝令がやって来て、軍議の招集がかかった。
「お兄ちゃんも、一緒に行く?」
「え、俺も行っていいの?」
「んー…まぁ、緊急ではないですし、元将軍ですし、大丈夫じゃないでしょうか」
雛里と亞莎に誘われた。冥琳ちゃんとかが怒りそうだけど……まぁ、挨拶くらいはしにいくか。
「じゃ、そうしよっかな」
「はいっ!」
「うん!」
俺は雛里を右腕に抱き替え、左手を亞莎の右手と繋いで、再び軍の前方へと向かう。
いいなぁ、この感じ。久しぶりだ。
「――呂蒙、鳳統、入ります」
陣が敷かれる中、ひと際大きな天幕に辿り着くと、亞莎が言葉を掛けた。おぉぅ、しっかり軍人やってるなぁ。
「お邪魔しまーす」
「あわわっ、適当過ぎましゅ!?」
「一刀さん…」
だが、俺は軍人ではない。という訳で、いつものようにフランクに入幕。
「おぅふっ!」
したところで、襟元を掴まれた。なんというデジャヴ。
「久しぶりだなぁ、一刀」
「め、冥琳ちゃん、久しぶり。また一段と綺麗になった、ね゙っ!?」
鬼の形相をした冥琳ちゃんだった。挨拶代わりに褒めてみれば、グイッと再度服を引かれる。なんというデジャヴ(2回目)。
「あわわっ!?」
一緒に揺られた雛里が可愛いです。
「ずいぶん長い仕入れの旅だったなぁ、一刀」
「いやいや、いいものを探したいってのが商人の性でしでへっ!?」
「お前が帰ってこない間、こちらは大変だったんだぞ。明命は使えないし、そのくせ、連合の招集がかかるし」
「ま、まぁ…こうやって使ってるんだからいいじゃんごぉぅふっ」
「青州に行くにしては、随分と時間がかかったと思うのだが?」
まぁ、徒歩だったからな。
「そんなにカリカリするな。美人が台無しだよ?」
「またお前はそのような戯れ言をっ!」
これくらいの
「落ち着けって、冥琳」
「ふぁっ!?」
俺は雛里をおろし、胸元を掴む冥琳を抱き寄せる。可愛い声が上がった。
「俺に会えないのが寂しかったからって、こうやって誤魔化すのはよくないぞ」
「そ、そのような事は――」
「ないって言い切れる?こんなに頬を染めて言っても、説得力はないよ?」
「うぐっ……」
大人しくなった。可愛いなぁ、もぅ。
「これで、機嫌を直してくれるか?」
「んんっ!?」
そう言って、俺は最後に、冥琳の頬に口づけを落とした。
「はやややややあああっ!?」
「あわわわわわわわあわわわあわわわわわ……」
亞莎と雛里は壊れてしまったらしい。奇声を上げながら、煙をプスプスと漏らしている。
「冥琳がまた寝取られた!なにヤダ悲しい!むしろ混ぜて!!」
あれ、1人増えてる。
おまけ
「まさか、冥琳のあのような顔を見られるとはな……」
「おっ、権ちゃん」
壊れる冥琳・亞莎・雛里。テンパる雪蓮。そんなカオスの天幕に、孫権ちゃんがやって来た。後ろには甘寧ちゃんもいる。
「権ちゃんっ!?」
「貴様っ、孫権様をそのような舐めた呼び方でっ!」
おっと、怒らせてしまったようだ。問答無用で斬りかかってくる。
「はいはーい。ギャグパートじゃそんなの当たりませんよー」
「くっ!このっ!当たれぇっ!」
ひょいひょいと甘寧ちゃんの剣を躱しながら、俺は孫権ちゃんに向き直る。
「ねぇ、権ちゃん」
「う…その呼び方は……」
「なに、すぐに慣れるさ。それより、1個お願いがあるんだけど」
「え、えぇ。先ほどの思春の事もあるし、可能であれば」
「じゃぁさ――」
そんな訳で、次回に続くぜ。
あとがき
はっちゃんが、実は天和達と知り合いだったよ!
冥琳ちゃんは相変わらず可愛いよ!
前回のイラストも大反響だったんだよ!
ではまた次回。
バイバイ。
オマケ
前回細かい事に突っ込んだ奴がいたので、もっかい上げるよ!
皆が大好きな雛里んも描いたよ!
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今夜は無理そうなので、休憩中にこっそり。
前回のあらすじ。
※波才ちゃんは特殊な訓練を受けています。この後スタッフがおいしくペロペロ(^ω^)
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