#28
華琳ちゃんの治める陳留を出て、俺は平原を荷車と共に進む。
「だから馬くらい買えよと……」
ひとりごちながら、陽の光が降り注ぐ中、ゆったりと次の街を目指して進んでいれば、
「よう、兄ちゃん。大層な荷物じゃねぇか」
「いやいやいや」
囲まれる。
「ひぃ、ふぅ、みぃ――――だいたい100人くらいか」
指差し確認で数を数えれば、前回秋蘭ちゃんに助けられた時のおよそ2倍。
「……数え終わったか?」
「あれ、待っててくれたの?いい人だね、兄さん」
その賊を率いているのは、年若い兄さんだった。年の頃は俺より少し下だろうか。中性的な顔立ちのイケメンだ。チクショウ。
「うるせぇっ!いいからさっさとその荷物を寄越しやがれ!……死にたくなかったらな」
だが短気なお人らしい。腰の剣を俺に突き付け、脅してきた。
「嫌に決まってんだろ。俺の商売道具なんだから」
「じゃぁ死ぬか?」
「嫌に決まってんだろ。誰が死にたがるかよ」
「じゃぁ寄越すか?」
「嫌に決まってんだろ。俺の商売道具なんだか――――」
「だぁあああああっ!いい加減にしやがれ!おい、テメェら!やっちまえ!」
「「「「「おうっ!!」」」」」
あーあ、キレちゃった。
※※※
ここで少しばかり補足をしておく。以下略。
※※※
「「「「「ずびばぜんでじだ……」」」」」
「分かればよろしい」
俺、勝利。
賊共に土下座をさせ、ひとまず俺は怒りの矛を収める。
「んで、なんでこんな事してんだ?」
「こんな事ってぇのは?」
「おらぁっ!」
「ぶべっ!?」
俺は、首領の顔を踏みつける。
「てめぇ、何しやがんだ!」
「お、お頭ぁ!?」
「うるせぇぞ、てめぇら。潰すぞ……〇玉を」
「「「「「ひっ――――」」」」」
ざわつく部下たちを脅し、俺は再び首領に向き直る。
「あ、あの…なんで蹴られたんだ……?」
「言葉遣い」
「へっ?」
「誰がため口きいていいっつったんだ、あ?」
「すすすすいやせんっ!」
もう一度踏みつけようと片足をあげれば、必死の勢いで頭を地にこすり付ける。
「俺、勝者。お前ら、敗者。この意味、わかるな?」
「はぃ゙……」
俺に頭を踏みつけられたまま、そいつは答える。そろそろ解放してやるか。
「よし、顔を上げろ」
「あ、ありがとうございやすっ!」
上げた顔は、土で汚れていた。でもイケメン。クソが。
「話を戻すぞ。なんで賊なんかやってたんだ?」
「へい…自分らは元々黄巾党の者なんです……張角たちが討たれた後、邑や街には戻るに戻れず、こうして徒党を組んでいるわけでして……」
「で、罪なき人々から色々奪って暮らしてる、と」
「ち、違いやすっ!基本的に役人関係の積み荷しか奪ってやせん!」
「へぇ?」
「元は農民や邑の出です。役人どもの酷さも、貧しい奴らの境遇も知っていやす。だから自分たちは、みんなを苦しめる役人や、そいつらとつるんでる豪族の荷しか奪わないようにしてるんです!」
なるほど、義賊か。だが。
「俺、役人じゃないけど?」
そう、俺は役人じゃない。確かに役人を相手にする事も多いが、一般人だって相手にしてる。それを、こいつらは襲ってきやがった。
「あ?どういう事だ?」
「それは、その……」
ぎゅるるるるるぅぅぅぅぅううぅぅぅうぅぅ……
「止むに止まれぬってか」
「へぃ……」
こういう時、俺がとるべき行動は。
「じゃ、さよなら」
「ちょちょちょちょっと!待ってくださいよぉ!?」
さっさと旅に戻ろうとすれば、縋りついてくる首領。
「抱き着いて来るな、気持ち悪い!俺はノンケなんだよ!」
「こういう時は、お恵みくらいくれたっていいじゃないですか!こっちだって限界なんですよぉ!」
「そうなる前に、近くの街に行って仕事でも見つけりゃよかっただろうが!」
「それはさっき説明したじゃないですかぁ!元黄巾党の自分らは、何処にも行けないんですよ!」
「んなもん知るか!というか、てめぇら賊の顔なんざ誰も覚えちゃいねぇよ!それにそんだけ人数いるなら、軍の部隊にでも志願すりゃいいだろうが!」
「嫌ですよぉ!」
うぜぇ。マジうぜぇ。色々と言い訳をつけて行動しないニートやらすねかじりやらと同じ位うぜぇ。
「いい加減に……しろやぁ!」
「きゃっ!?」
俺も我慢の限界なわけで、力任せにそいつの胸を突き飛ばす。途端、上がる高い声。
「……へっ?」
「んにゃぁ……」
俺の手には、柔らかな感触が残っている。こいつは、まさか。
「ちょっと失礼」
「んにゃっ!?」
地面に転んだソイツの胸に手を当てて、力を籠める。
「にゃっ!?にゃうんっ……」
「お前、女か」
それならこの見た目も納得できる。
「そそそそうだよっ!なんか文句でもあんのかゴラァッ!」
「言葉遣い」
「ぶべっ!?」
ため口になったので、右手で乳を掴んだまま左手でソイツの顔を掴む。
「 言 葉 遣 い は ? 」
「ばび、ずびばぜんでじだ……」
「よろしい」
「んにゃっ!?」
顔は解放し、右手でもう1回だけ揉んでおいた。
「――――という訳で、飯だ」
「ありがとうございやすっ!」
「「「「「ありがとうございやすっ!!!」」」」
乳を揉ませてもらったお礼に、俺は100人分の飯を用意した。ほとんど食材もなくなったし、さっさと次の街に行かないとなぁ。
「美味いか?」
「はいっ!」
「「「「「美味いっす!!」」」」」
俺は商売人だが、料理人でもある。こうして喜んでもらえるのは、背景はどうあれ嬉しいねぇ。
「そんじゃ、お前らは今から俺の部下だから」
「はいっ!」
「「「「「へいっ!!!!」」」」」
「よし、決定」
「「「「「「…………へっ?」」」」」」
「いやいや、世の中ただで飯が貰えると思うなよ?これ、契約の証。お前ら、それ受け取った。よって、お前ら、俺の物」
「「「「「「…………」」」」」」
さっき首領の女に言ってて思いついたんだよね。こいつら労働人材として派遣するのもありじゃね?
「安心しろ。俺のところで働けば、食いっぱぐれる事はねーから」
総合商社を目指すのに、焼鳥屋だけとはこれ如何に。新たなジャンルに手を出すぜ。
※
そんなこんなで旅の仲間が100人増えました。
「そういや、お前の名前聞いてなかったな」
「アタイですか?波才っていいやす」
「なるほど。俺は北郷だ。ま、これからよろしく」
「よろしくお願いしやす、兄貴」
「「「「「兄貴っ!!」」」」」
「馬鹿野郎ぉぉぉおおおおおっ!!」
「ぐぶらっ!?」
「「「「「姉御ぉぉおおおおおおおっ!!?」」」」」
すっとぼけた事を抜かすので、殴り飛ばす。
※波才ちゃんは特殊な訓練を受けています。この後スタッフがおいしくペロペロ(^ω^)
「あ、兄貴……?」
「俺の事は、社長と呼べぇっ!!」
「社長っ!」
「「「「「社長ぉぉおおおおおおおっ!!!!!」」」」」
「うるせぇっ!!」
「ごもびょっ!?」
「「「「「姉御ぉぉおおおおおおおおっ!!?」」」」」
という訳で、商業旅団の結成です。
「社長、クマを捕らえてきやした!」
「社長、山菜を集めて参りやした!」
「社長、このキノコは喰えやすか?」
旅の途中でも拠点を決め、色々なものを集めさせる。あぁ、波才。そのキノコ、毒入ってるから。
「んなっ!?」
こいつ、強いくせに使えねぇな。
「――――で、ここで敵が突っ込んできたとしよう。どうする?」
時々座学。傭兵としても売り込めるように、知識を蓄えさせる。
「はい!」
「よし、波才。答えて見ろ」
「真っ直ぐ来るたぁ、言い度胸でさぁ!こっちも正面からぶつかってや――」
「却下」
「――ぶべっ!?」
「んな事すりゃぁ、被害が出るだけだ。数で負けてる以上、こっちは頭を使わにゃ勝てねーからな。まずは少しずつ下がっていく。ただし、真ん中だけだ。敵は押していると勘違いするから、そこを両翼で包囲する。そしたら――――」
他にも色々と個人面接。
「なるほど?社員B君は、昔は料理人をやっていたと」
「はい、ラーメン屋を営んでましたが、同業他社に負けてしまい、店が潰れまして……」
「で、黄巾党に入ったと」
「はい」
まぁ、ラーメン屋は競争率が激しいからな。昔ながらの顧客を抱えるか独自の路線、あるいはチェーン店くらいしか生き残るのは難しい。昔ながらのラーメン屋、俺は好きだけど。
「じゃぁ、この街でいっちょ開くか」
「何を開くんですか?」
「あぁ、ラーメン屋だよ。ラーメン屋経験者が3人いたからな。そいつらに教える意味でも、俺が店を開く」
「ラーメンも作れるんで?」
「当たり前だろ。という訳で、俺が動けない間は、お前が指示を出せ、波才」
「へいっ!」
たった数ページで迷走している気がするが、まぁ、なんとかなるだろ。
そんなこんなで、立ち寄ったとある街。俺と料理人3人は、新たな店を出す。客席10席のカウンター式。ちょっと大きめの屋台。鍋は3つ。麺・野菜・スープ用だ。
「お客さん、大蒜は?」
「大蒜・野菜・脂で」
十数日も経営すれば、リピーターがやって来るようになった。ここからが本番だ。
「そっちの大豚
「全部泰山盛りでお願いっ!」
「お、ちっちゃいのにたくさん食べるんだね?」
「せいちょーきだから、いっぱい食べるのだ!」
季衣もこんぐらい食べてたし、大丈夫だろ。
「小の方、大蒜は?」
「メンママシマシで」
「ねぇよ!!」
「ぎゃぁああああああああっ!!?」
アホな事を抜かした青髪の女客には、スープの鉄槌を。
「目が!目に
「カネシ!カネシ!」
ビシャッ ビシャッ!
「某の一張羅が真っ黒に!?」
「ニンチョモでおしまいだゴルァア!!」
「鼻が潰れるぅぅうううううううっ!!?」
ふん、天罰だ。
「愛紗ちゃん、新しいラーメン屋さんだよ」
「ほう、食べていきますか?」
「うん!」
「いらっしゃい」
新規の客のようだ。大丈夫かな。
「あれ、桃香様に、愛紗さん」
「朱里ちゃん!」
「朱里も来たのか」
「はい、どうもこの味が恋しくなって……」
「そうなんだ、楽しみだなー」
「桃香様、恐れ入りますが、声は抑えめに」
「へっ?」
「まわりを見てください。皆、静かに食べているでしょう?」
「う…そういえば、独特の雰囲気だね……」
「お客さん、大蒜は?」
「えっ?」
チッ トーシロカヨ ググッテカラコイヤ
「桃香様、店主に『大蒜は?』と問われたら、
「えっと、じゃぁ…大蒜抜きの……最近少し太ったから、野菜多めでお願いします……」
「桃香様、それは――」
「隣の黒髪のお客さんは?」
「同じで」
バンッ ダン ガンッ
「愛紗さん、ちゃんと答えないと――」
「そっちの大豚
「あ、ニンチョモ野菜脂マシマシのカラカラで」
「あいよ」
「しゅ、朱里ちゃん…なに、そのおまじないみたいなの……」
「ただの
「え…朱里ちゃんの顔が怖い……」
「ちゃんと、食べてきってくださいね?」
「う、うん……シュリチャンガコワイョ」
「へい、大蒜抜きの野菜多め2つに、大豚Wのニンチョモ野菜油マシマシのカラカラね」
「「えっ?」」
「いただきます」
金髪幼女は丼を受け取ると、黙々と食事を始めるが、隣の新規客2人は茫然としている。
「桃香様、愛紗さん。早く食べないと伸びてしまいますよ」
幼女は箸とレンゲを上手く使って麺と野菜の上下を入れ替えるが、隣の2人は気づいていない。ただ、野菜の量に茫然としていた。
「い、いただきましょう、桃香様……」
「う、うん……」
数分後。
「うぅ…野菜ばっかで麺が出てこないよぉ……」
「味が濃くて、キツイものがある……」
「……」ズルズルズルッ
「やっと麺が出て来たぁ……って、伸びてるぅ……」
「と、桃香様……」
「う、うぅ……もう、おなか、いっぱいだよぉ……」
バンッ
「きゃっ!?」
「何事だ!?」
「「「「「
「ふぇえ、愛紗ちゃぁん……」
「なんなのだ、この
「
「朱里ちゃんっ!?」
「朱里!?」
そんな事もあり。
「――――さて、もうすぐ俺の出身の領内に入るわけだが」
しばらくもすれば、商業旅団の規模も大きくなった。波才と同じように黄巾の出の者たちや、それとは別に貧しい街を抜けて新天地を求める者たちなど、ジャンルは様々になる。だが、俺は過去や出身など気にしない。学歴もひとつの指針としてはアリだが、それ以外の部分も見て欲しいものだね。
「お前らに言っておくことがある」
その数はいまや300人近くにも上っていた。先のラーメン屋以外にも大工をしていた奴らや、農業をしていた奴ら、兵をしていたが、城ごと負けて職を失った奴らもいる。最初は
それはいいとして。
いま言ったように、元賊軍、元兵士の奴らも大勢いる。要するに、見た目がムサイ……じゃないくて、厳めしい。つまりは、不信感を持たれやすいということだ。
「なんですか、社長?」
「周りを見てみろ。俺たちは、元々の生業もあり、見た目が仰々しい。つまりは、どこぞの賊と疑われる事もあるかもしれないということだ」
「『元』って点を除けば、間違っちゃいないですけべへぇっ!?」
「過去なんざ関係ないんだよ!今を生きろ!Carpe diemだ!リピート・アフター・ミー!
Carpe diem!」
「「「「「かるぺでぃえむ!!」」」」」
「分かったか、波才!!」
「な、なんで殴られたんですか……?」
※波才ちゃんは特殊な訓練を(ry。
「という訳で、ここからは孫策の領地であり、もしかしたら孫家の軍と遭遇する事もあるかもしれない。だが、絶対に変な動きは見せるな。俺たちは商売人だ!何も悪い事なんざしちゃいねぇ!」
「昔はしてましたけどねべらっ!?」
「堂々と、俺に合わせていろ。抵抗をする事は許さん。これは業務命令だ。いいな!」
「「「「「いえす・ぼす!!!」」」」」
「な、なんでアタイだけ……」
領境辺りで社員たちに、指示を出しておく。ま、問題はないだろ。
そんな事を考えていれば。
「――――孫家の御方が、ただの商人である俺たちに何の御用ですかね?」
俺たちは『孫』の旗を掲げる軍に包囲されていた。千単位はいるだろう。俺たちは動く訳にもいかない。
「ただの商人が、これほどの数になる事などありえない。貴様ら、賊か何かか?」
皆には暴れないように再三言い含め、俺は向こうから出て来た1人の少女に対応する。フンドシ姿の狐目のお嬢さんだ。その向こうには、桃髪に褐色の肌、コバルトブルーの瞳のお嬢さん。雪蓮ちゃんに似ている。……あぁ、あれが孫権か孫尚香あたりか。
「答えろ」
「答えるもなにも、そのまんまですよ。荷物だって見てくれていいですぜ?」
俺は手を広げて荷車の列を示す。それを合図に、社員たちも荷車から離れた。
「どうぞ?」
「……おい」
「はっ」
ミニチャイナのフンドシちゃんは、視線と剣の切っ先を俺から外さずに、部下に指示を出した。指示を受けた兵たちも、それぞれ荷車の布を剥ぎ、積み荷を確認していく。
「甘寧様、特に不審な点はありませんでした!」
「こちらも同様です!」
しばらくして、兵士たちは確認を終え、命令を出した女の子に報告をする。
「……」
「なにか問題でも?」
殺気すら滲ませて睨んでくる。怖いねぇ。
だが、それもすぐに収まった。甘寧さんとやらは、ゆっくりと剣を腰に収めると、
「……解放してやる」
それだけ言って、雪蓮ちゃんの妹さんのところへと戻って行った。
「待ちな」
だが、それを俺は許さない。
「……なんだ」
甘寧ちゃんは振り返り、相変わらずきつい目で睨めつけながら問うてくる。
「疑われた事は別にいいよ。ムサイ男たちが、何百人と隊列を作って荷物を引いている。どこぞの官軍でもない。なるほど、確かに怪しく見えるだろうさ」
「なにが言いたい」
そりゃ、人間関係の基本さ。
「繰り返すぞ。疑われる事は別にいい。予想していたしな。だが、そうして疑いをかけ、さらには剣を向けて、謝罪の一言もないってのはどうなんだい?」
「疑われるような事をしているお前達が悪い」
「アンタには話してねぇよ。そっちのお嬢さんさ」
「貴様、何を――」
「なぁ、どういうつもりだい、孫家のお姫様?」
俺の言葉に、ようやく自分に向けて言葉をかけられていたと気付いたのだろう。妹ちゃんは、ハッとした表情で俺を見据える。
「さっきのがアンタの命令か、このお嬢ちゃんの進言かはわからないよ?でも、少なくともここにいる軍のなかで1番偉いんだったら、部下の非礼の責任は取らなきゃな。それともなんだ?このお嬢ちゃんは自分の手に負えないような奴だから、知ったこっちゃないってか?」
「貴様、孫権様を愚弄する気かっ!」
「おっと」
「社長っ!」
激昂した甘寧ちゃんが、一気に距離を詰めて斬りかかってくる。俺は軽く躱すが、後ろの波才が反応し飛び出し、俺の前で双剣の曲刀を構えた。
「いいよ、波才」
「ですが社長!」
「命令だ」
「……はい」
それを俺は制する。
「別に愚弄なんざしちゃいねぇよ。それとも、本当の事だから怒ったのか?」
「貴様ぁ!」
「だから甘寧ちゃんには聞いてねぇって言ってんだろ」
何度も曲刀を振るう甘寧ちゃん。怒りに身を任せているからか、その軌道は読む事も躱す事も容易い。
「そのうえ、ただの一般人に本気で攻撃を仕掛けるとか、どうなってんだ……よっ!」
「ぐっ!?」
そろそろめんどくさくなったので、俺は甘寧ちゃんの腕を掴み、組み伏せる。
「動くな」
「「「「「っ……」」」」」
それを受けて兵士たちが構えようとするが、俺の言葉と、将軍の首筋に添えられたクナイに、身体を硬直させる。
「さて、この落とし前、どうやってつけるつもりだい……孫権ちゃん?」
俺が視線を向ければ、孫権ちゃんはようやく動き始めた。
「……」
そのままゆっくりとこちらに歩み寄り、口を開く。
「そこまでにしてもらえるか……北郷?」
えっ?
「――――えっ?」
「その反応……やはりお前が北郷か」
おいおいおい、どういう事だよ。
「思春…甘寧を放してもらえるかだろうか」
「……暴れないように命令してくれる?」
「あぁ。思春、聞いた通りだ。その者に攻撃を加える事を禁ずる」
その言葉を受け、俺は甘寧ちゃんを解放した。
「……おいおい、そんな睨むなよ」
「黙れ、殺すぞ」
おー、怖い怖い。
「ま、それはいいとして、だ」
俺は孫権ちゃんに向き直った。
「どうして俺の名前を知っているんだ?」
「ふっ、お前は、自分がどれだけ姉様に気に入られているか、本当にわかっていないのか?」
「雪蓮ちゃん?」
「貴様、孫策様の真名を――」
「思春、やめなさい」
「ですがっ!」
「私たちは姉様の真名を口に出してはいない。それなのに、彼は知っていた。姉様が預けたと考えるのが当然の流れでは?」
「……失礼しました」
んー、まだ孫権ちゃんの掴み所がわかんないなぁ。
「話を戻す。姉様から、よく手紙が来ているのだ。街の事や軍の事……もちろん、お前やお前の妹達の事もたくさん書いてあった」
「あー……そういう事ね」
「『商人のくせして、私よりも強い。冥琳たちが認めるほどに、頭だっていい。度胸もある。先日、商品を仕入れに行くとか言って、街を出てしまったものだから退屈で仕方がない』……姉様の手紙に書いてあった事だな」
「結構空けちゃったしなぁ」
「こうも書いてあったぞ?『義には薄い部分を持っているくせに、商売人という性格からか、義とはまた違った信頼関係を非常に重く見ている。非礼に関しては、それを許す事を是としない』ともな。どうだ?『商人』で『強く』て、『度胸』があり、『非礼を許さない』……ここまで挙げた特徴、姉様の言う『北郷』と重なるだろう?」
「別に俺の事なんて書かなくてもいいのに……」
「だが、書いてあったからこそ、私はお前を北郷と思い、カマをかけてみた。正解だったわけだ」
「そうだな。……うん、俺の負けだよ、孫権ちゃん」
孫権ちゃんも、酷い事をしてくれやがる。まさか、俺が口で負けてしまうとはな。
「――――というのは、冗談だ」
「んぁ?」
内心悔しがる俺を他所に、孫権ちゃんは後ろを振り向いて声をかける。
「そろそろ出てきていいぞ」
そして出てきたのは。
「あの…お久しぶりです、一刀様……」
猫フェチ娘だった。
あとがき
新しい女の子が出て来たよ!
今ならオリキャラも描ける気がする……
てなわけで、また次回。
バイバイ。
オマケ
今度は亞莎たんをとっても可愛く描いたんだよ!
こいつぁ、流行るぜ!
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前回のあらすじ。
一郎太が初めて投稿した絵が大盛況。
今回のオマケ。
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