No.537917 真・恋姫†無双~絆創公~ 第二十三話 【星空への誓い】2013-01-30 16:13:18 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:1860 閲覧ユーザー数:1640 |
第二十三話
宴が開かれてから数時間が経過し、空には無数の星が瞬く頃、一人の男性が大広間の外の廊下に出ていた。
その視線は、空に浮かぶ無数の星々に注がれている。表情は満足げな微笑みを浮かべている。
「あれ? 父さん」
不意に後ろから聞こえてきた声に、視線を空からそちらに移す。
「一刀か……」
声の主が自分の息子であることを確認すると、その表情は先程と同じ微笑みになる。
「星を観てたの?」
「ああ……一刀は、酔い醒ましか?」
「というよりは……腹ごなし、に近いかな?」
そう話す一刀の表情は、幾分苦しそうに見える。
「大変だな、モテる男は?」
「ハハハ……まあ、せっかく作ってくれた物を、残す訳にはいかないし……」
「フッ…………なあ、一刀」
「何?」
「綺麗だな……この世界の星空は……」
視線は再び、夜空へと向けられた。
「うん、凄く…………」
「この世界には、私達の世界には当たり前に存在する、数多くの物が無い。だが、この星空のように、私達の世界で失われてしまった数多くの物が、ここにはあるんだ……」
「…………」
少し心苦しそうに語る父親の言葉を、一刀は黙って聞いている。
「こちらの世界と私達の世界。どちらの方が良いか悪いか、という話では無いんだ。ただ、何を思い、何を感じ、何をするか……それが大切なんだと、私は考えてたんだ…………」
「うん……俺も、いきなりこの世界にやってきて、色々と大変な事に直面して……でも、俺なりに……大切なものを、見つけたんだ…………」
「そうか…………それはちゃんと、守れてるか?」
「まだ不安だらけだけど、そう易々と手放すつもりはないさ……」
「…………わかった」
二人は意味深長な笑みを交わすと、視線をほぼ同時に星空へと向けた。
「……二人して、天体観測か?」
しばらくして、二人の後ろからまた違う声が聞こえてきた。
「ああ、お義父さん……」
「爺ちゃんも、酔い醒まし?」
「まあ、な…………」
声の主は、腕組みをしながら二人の横に並んだ。
一刀を挟むように、両脇に父親と祖父が立っている。
「やはり空気が澄んでいるのだな。よく見える……」
「ええ、本当に綺麗ですよ……」
祖父も二人と同じように、自然に顔を夜空へと向けた。
「爺ちゃん、まだ元気みたいだね……」
「フッ、まだまだお前に負けんよ」
「ですが、曾孫には負けているようでしたが?」
「そ、それを言うでない!!」
「ハハハッ、すいません……」
顔を真っ赤にした祖父を、軽く笑いながら眺める父親と息子。
「しかし、まさか一刀に子供が居るなんてな……驚いたぞ…………」
「うむ…………」
「驚かせるつもりは無かったんだけど…………ていうか、皆が来るなんて思ってもみなかったし」
「まあ、確かにな……」
「それよりも、三国志の登場人物が女性だったのが、爺ちゃんにしてみれば驚きだったんじゃないの?」
「いや、それに関してはあまり驚かなかったぞ」
「あれ? 意外だな」
「歴史的、人間的観点から観れば、こういう事は良くある事だ。史実と事実の違いとも言うな」
「と言いますと?」
祖父からの興味深い意見に、二人の好奇心が揺さぶられた。
「劉備玄徳が実は女性だったのではないか、というのは聞いたことがあるか?」
「ええ、あります」
「それと似た話だ。元々三国志の登場人物全員が、この世界のように女性だったという可能性も考えられるのだ」
「だとしたら、何で書物の記録は男性になってんの?」
「それも様々な理由付けが出来る。その勇猛さを聞き伝っていく内に男性と認識された……男性と言ってしまえば本人達の身を守ることが出来る……彼女達に負けた男兵士どもが、女に負けたという事実を認めたくないが為に、敢えて男性にした……しかし、歴史書の記録と事実に違いがあると、様々ないざこざが生じる故、例え真実であっても表沙汰になりにくい、という具合にな……」
「へぇ~…………」
「なるほど……考えられなくもないですね」
聞き終わった二人は、感心したように深く頷く。
「……と、思ってはみたのじゃが」
「へ?」
「あの貂蝉と卑弥呼は……嘘であってほしい……」
「ああ……あれは流石に……」
嫌なことを思い出して渋い顔をする老人を、二人は苦笑いで眺めた。
「あっ、三人ともいた……」
「あらあら、お揃いで」
また後ろの方から、今度は女性二人の声が聞こえた。
「あ、佳乃……母さん……」
「可愛い孫娘は、疲れてみーんな寝ちゃったから、少し休憩に来たの」
「佳乃は……確か紫苑と桔梗と祭さんと話していたけど……大丈夫か?」
「…………うん、大丈夫」
少し酒の匂いにやられた感じになっているみたいで、それを見た一刀は苦笑した。
「ハァ…………綺麗…………!!」
「アラ……本当…………!!」
やはり同じように、満天の星空を見て溜め息を吐く。
「ああ……これは写真じゃなく、頭の中に収める方が良いな…………」
「…………よし、決めた!」
少し強めに喋った祖父に、全員の視線が集中する。
「何だよ、爺ちゃん?」
「この件が全て解決したら、家族全員で月見酒をするぞ」
「お爺ちゃん、私お酒呑めないんだけど……」
「分かっとるわ、無粋な……ささやかながら祝いの宴をしよう、と言っとるんだ!」
「あら、素敵ねー!」
「ハハハ、お義父さんは相変わらずの風流人ですねー……」
和やかな空気の中、一人浮かない顔をして下を向いている人物がいた。
一刀である。
「全て……解決したら…………」
その瞬間、言葉の意味を、全員が理解した。
解決するという事は、つまり………………
「……どうじゃ、一刀?」
その言葉に顔を上げると、家族の視線が自分に集中している。
「…………うん、やろう! 家族全員で!!」
その瞳に、決意の色が映るのが見えたのか、残る四人は一刀に穏やかな表情を向けた。
そのやりとりを、五十名の女性達と、三名の男性が、大広間の中から心配そうな顔で見つめていた。
-続く-
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今回の話は、喜多見の職場の同僚の話からヒントを得ました。