No.537139

~貴方の笑顔のために~  Episode21 絆

白雷さん

一刀が冥琳を助けることは容易なことではなかった。
それは、彼の命がかかっていた・・・

2013-01-28 13:30:29 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:11228   閲覧ユーザー数:8991

一刀は冥琳の病気を治療することに成功した。

しかし、一刀がはらう代償は大きかった・・

 

~貂蝉視点~

 

もう、泣くことはやめました。あの日、彼が、一刀が私のもとを去り、

卑弥呼が私のもとに来てくれ、私は一日中ずっと涙を流していました。

けれど、私は彼が、もう一度いつか必ずあおうと言ってくれたから、

泣きやむことにしたんです。

いつまでも泣いていては、彼に、私が愛する彼に、

示しがつかないから。

 

彼の活躍は卑弥呼からずっと聞いていました。

私は、もう力を失っているので、銅鏡の中から彼の姿を見ることも

できなくなっていました。

 

それでも、親友である卑弥呼は逐一彼の様子を報告してくれていました。

 

魏にいったのに曹操ちゃんにあっていないことを聞いたときは驚きましたけど、

彼の覚悟をきいて、やっぱりと思いました。

でも、すこしは悔しかったです。そんな風に私も思われてみたいって思いました。

 

それでも、彼が、彼のままでいてくれてうれしかった。

 

 

彼は時代に、歴史に立ち向かって戦っていった。

そして彼は多くの仲間の命を救った。

 

そんな彼でも、救えないものはある、そう思っていました。

戦いなどであるならば、彼はその場に行き、

本当の歴史を変えることができるかもしれない。

変えられないもの・・・それは病です。

いくら彼がいろいろなことをしっていようが、変えられないのです。

だから、私は、周瑜さんのことを一刀がどう受け止めるのか心配でした。

 

そんなときです。卑弥呼が血相をかえて駆け付けてきたのは。

 

「どうしたの?卑弥呼。」

 

「貂蝉、おちついて聞くのよ。」

 

「何?今日はなにが聞けるのかしら? また一刀の活躍話?」

 

私は、いつものようにそんな風に聞いていました。

 

「そう、じゃない。このままでは彼はあぶない。」

 

私はその言葉をきいても事態がまだ読み込めていませんでした。

 

「・・え?どういうこと・・?」

 

「周瑜、しってるわよね」

 

「ええ、もちろん」

 

周瑜・・彼女の名を聞いた途端いやな勘が私を襲った。

 

「彼は、周瑜を助けるために、氣術対価をつかったわ。」

 

「・・・」

 

思考が停止する。氣術対価・・氣をすべて使うことにより菌で侵されている病を

治すことができるという禁断の医療術。

 

「うそ・・・ですよね・・」

 

こんなことになるなんて夢にも思っていませんでした・・

私は確かに、彼にこの術を教えた。

いや、正確にいうのならば氣をすべて解放してはいけないということを

彼に氣を教えていたころにいったのです。

彼も彼で勉強していたので、氣で人が治せるということがわかっていました。

それで私は言いました。

氣門をすべて解放すれば確かに無理といわれる病も治すことができるのかもしれない。

けれど、氣をすべて使い切るということは、それは術者の死を意味する。

 

「わたしの、せいだ・・」

 

私が、彼に病のことを教えていなかったらこんなことになっていなかった・・

 

「どうしよう、卑弥呼」

 

「どうしようって、いったって・・・」

 

「お願い、卑弥呼・・たすけて」

 

私にはもう何もできない・・・

私は震える声でそういう。

 

「でも・・・」

 

卑弥呼が言おうとしたことはわかっていた。

私たちは直接外史にはかかわれない。

以前の一刀なら、外史の人間ではなかったから、ここに呼ぶこともできた。

けれど、今の一刀は外史の人間だ。

もう、何もすることはできない・・・

 

「いやっ、」

 

「貂蝉・・・」

 

「いやっ!、一刀が死んじゃうよ」

 

無力感・・・私は、なんて無力なんだろう。

 

「いやっ、」

 

はじめての好きな人を。

 

 

「私のせいで、一刀、一刀!」

 

私は卑弥呼の袖にしがみつきそう彼の名を呼ぶ。

 

 

私は、そう叫び続ける。

 

そしてその涙は彼からもらったネックレス流れ、ネックレスはきらりと輝いた。

 

 

 

 

~雪蓮視点~

 

一刀が倒れてから一日がたった。

冥琳は無事に目を覚まし、一刀が冥琳に行った治療法を華佗から

説明され、意識を取り戻さない一刀の手を握り、

一日中涙を流し続けた。

 

やっぱり、一刀はその方法をとったのかと、そう思いながら。

 

二日がたった・・・

 

 

私、冥琳、祭の三人は交代で一刀の手を握りながら

一刀に話しかけていた。

 

三日がたった。

 

華佗がいうには、まだ命が危うい状態らしい・・・

 

四日がたった。

 

五日がたった。

 

六日がたった。

 

 

そして、一刀が倒れてから一週間が経過した。

 

この日も私たちは、一刀の手を握りながら

一刀に話しかけていた。

 

「ねえ、一刀・・・華琳はね、あなたがいたから

 今の道を歩いていると言っていたわ。

 この三国同盟も、あなたがいたから

 なしえたことなのよ・・・

 この平和は、民たちの笑顔は、あなたがつくってくれた・・・

 

 私たちが赤壁で負けて、三国同盟がなった翌日、

 私は華琳からあなたのことを聞いて、

 怒りが抑えきれなかった。

 祭の命を呉から一度奪って、

 それを背負おうともしないで、

 それどころか、魏のみんなまで悲しませた最低な奴、

 ・・・・そう、思ったわ。

 

 でも、それは違った・・・。

 私、今、わかったのよ。あなたに会って。あなたと話して。

 一番命の重さを理解していた、

 一番別れを悲しんでいた、

 一番、大きなものを背負っていた・・・・

 それはあなただったのね、一刀。

 

 私はあなたにいわなきゃいけないこと、

 ううん・・・

 いいたいことがいっぱいあるの・・・

 だから・・・・起きてよ・・・一刀」

 

 

「北郷、いや一刀、お前は言ったな。

 “人が人を殺す動機なんて知ったことじゃないが、

  人が人を助けるのに論理的な思考が必要か?”と。

 私はそんな言葉、生まれてきて初めて聞いた・・・

 

 この間までは、人が人を殺す、

 それが日常で・・・・

 死というものが常に隣り合わせで・・・

 

 だから私も自分がもうすぐ死ぬとわかったとき、

 それを受け入れていた。

 天命、そう思ったからだ。

 

 けど、お前は違った。

 命はどれほど重いものなのかということを

 教えてくれた。

 生きる強さを教えてくれた。

 私が手を伸ばしたら、その手を放さなように

 しっかりと握りしめてくれた。

 

 お前は私に、生きる希望を与えてくれた。

 

 だから私はこの口でお前に伝えたいんだ、

 生きていてよかったと、

 私は幸せだと。

 

 だから、目を覚ましてくれ、一刀」

 

 

「お主は策殿と玉座の間で話しておったとき

 いっておったな・・・

 “志半ばで倒れた仲間の思いを胸に、

  今を、そしてこれからを

  いきていかなければいけない。

  共に手を取り合っていかなければいけない”と。

 

 なぁ、一刀よ、

 そこにお主は含まれていなかったのか?

 これから先に思いを紡いでいくのでは

 なかったのか?

 

 何か言ってはどうじゃ・・・一刀」

 

 

 

 

 

~一刀視点~

 

「あれ?ここはどこだ?

 確か俺・・・冥琳の治療をしていて

 そこで・・・たおれた?」

 

「何を言っておるか、一刀よ」

 

「・・・っ!?じいちゃん?」

 

「久しく見ないと思ったら、

 なんじゃ、そのふぬけた面は・・・」

 

「ははっ・・・じいちゃん・・・じいちゃん?

 え?  ってことは、・・そうか、もう、俺は・・」

 

「よいのか?」

 

「・・・え?」

 

「それでよいのかと聞いておる」

 

「・・・・」

 

「お前が皆に伝えてきた思いはなんじゃ?」

 

「・・・・」

 

「どんな時でも大切にしていた思いはなんじゃ?」

 

「・・・・生きたい」

 

「それは過去の思いなのか?

 今はもう・・・よいのか?」

 

「・・・・違う」

 

「よく聞こえんが」

 

「生きたいっ!今を、そしてこれからも

 俺は生きたいっ!

 ・・・いや、違うな。

 俺はまだこんなところで死なない。

 絶対に生きるんだっ!!」

 

「そうじゃ、それでよい」

 

「・・・そっか、そう・・だよな」

 

「うむ」

 

「・・・ありがとう、じいちゃん」

 

「まだまだ甘ったれじゃな。

 じゃが、先ほどよりはだいぶましな

 顔つきになったの」

 

「当たり前だ、誰の孫だと思ってるんだ?」

 

「はっ、はっ、はっ、・・・いいおるわい。

 

 ・・・ではな、一刀」

 

「ああ、ありがとう」

 

そう言うとじいちゃんは俺の前から

スッと姿を消した。

 

そして、じいちゃんが姿をけしたところには女性がたっていた。

 

 

そうか・・・俺はまた君に助けられたのか・・・

 

「貂蝉・・」

 

俺はそういって、泣いている彼女のそばに歩いて行った。

 

 

~貂蝉視点~

 

私には何もできなかったけれど、卑弥呼が私に彼に会う機会をくれました。

彼の夢へ送ってくれたのです。

 

私は彼にただ謝りたかった。

 

私の思いは最後まで閉じ込めて。

だって、こんな時に伝えるのはずるいですから・・・

 

でも、卑弥呼は元の姿の私のまま送りました・・・

 

彼は私の姿を知らないのに。

どう話しかければいいんだろう。どう説明すればいいんだろう。

私がそんなことを考えているともう目の前には、一刀がいました。

 

私の目からは涙があふれてきました。もう泣かないってそう

決めたのに。私はなんて謝ったらいいかわかりませんでした。

 

そんな私をみて彼は言ったのです。

 

「貂蝉・・・」

 

私の名をそう呼んだのです。

 

「・・え?」

 

私は顔をあげました。彼は私のもとに近づいてきました。

 

「なん、で?」

 

「なんで、私が貂蝉だって・・」

 

そういう私の頭に彼はそっと手を置きました。

 

「気づいていたよ。いや、教えてくれたんだ。卑弥呼が。

 最初の一年でね。」

 

「・・え?」

 

「わかっていたんだ。」

 

なんで?・・なんで一刀は気づいていたのに

わたしに伝えなかったの?

私の気持ちに気づいたから?それとも一刀にはどうでもよかった?

 

「なんで、いってくれなかったの?」

 

わたしは彼の服の裾をつまむ。

 

「だって、貂蝉がそう、決めたから。

 何か理由があったのかもしれない。

 だから正体を教えてくれなかったんだろう?」

 

「それはっ」

 

「それに、俺にとって、君は君だ。

 俺の命を救ってくれた恩人、貂蝉だ。」

 

「一刀・・私は・・・」

 

「また、会えたな」

 

そういって、笑う一刀。

ずるい、ずるいよ・・

私だけ知らなかったなんて。

そして私だけこんな気持ちをもってるなんて。

 

「うん」

 

でも、私は彼の言葉にただ頷くことしかできなかった。

 

「貂蝉、ありがとう」

 

そして、彼は私の手を握ってそういったんだ。

 

「なんで、なんでですか!私は一刀、あなたのことを」

 

そう、前は救うことができた。けど今回はっ!

 

「感じるんだ。貂蝉の氣を。」

 

「え?」

 

「覚えてる?貂蝉がくれた刀」

 

「・・・あっ!」

 

彼がそう言ったとき私は気が付きました。

私は彼に30年間氣を注ぎ込んだ刀を上げたのでした。

そこには、彼が万が一使えるように

彼の氣とほとんど同化させたものを注ぎ込んだのでした。

 

「だからさ、また、助けられたな」

 

「ううん、一刀の役にたててよかった」

 

「そろそろ、いかなきゃ。俺を待っててくれる人がいる」

 

いや、一刀。私は・・・

 

「一刀・・」

 

「なんだ?貂蝉?」

 

ううん、駄目よ。彼には、あちらの世界がある。

何もできない私に何も言う資格はない。

 

「貂蝉」

 

そんな私の手を一刀はまた再びぎゅっと握った。

 

「これは、さようならじゃない。」

 

「え?」

 

「また、絶対に会える。いや、俺のこのたびが終わったら、

 必ず君にあいにく。」

 

「そのときは、そうだな。また一緒に朝食食べて、

 鍛錬して、散歩に行って、夕食をたべよう」

 

「はい」

 

そんなことを笑顔で言った彼に私もそうう頷きかえした。

 

一刀、私はあなたの言葉を信じています。

次ぎあえるときは必ず、もっと強くなってるから、

もっと笑えるようになってるから、

もっと、気持ちを素直に伝えられるようになってるから。

 

だからそのときは私を、女としてみてください。

 

 

 

~雪蓮視点~

 

私たちが、いまだ目を覚まさぬ彼に話しているとき、突然、明命が刀を

抱えながら部屋に入ってきた。

 

「この部屋への立ち入りは禁じているはずよ!」

 

冥琳の命を救った一刀が倒れた後、雪蓮は呉の者たちに事情を説明し、

部屋を立ち入り禁止にしていた。

 

「何事?」

 

「申し訳ありません、雪蓮様。それでも、この刀が。」

 

 

明命が抱えている刀は確かに一刀のものであった。

そしてその刀はわずかであるが光を発していた。

 

「これは、氣・・じゃな」

 

その刀を見ながら祭がそう言った。

 

「え?どういうこと?」

 

私たちが、そんなことを言いながらその刀をみていると、

その光が少しずつ一刀のほうへ移っていく。

 

「これは・・・」

 

「どういうこと、祭?」

 

「いや、わからん。わしには人に氣を移すことはできんからの」

 

そう、一刀を確実に助ける方法。それは強い氣を注ぐこと。

それはしかし、無理なことであった。

氣を発せるものはいたが、人に治療として移すことができる者はいなかった。

そして、彼を補えるほどの量を注げるものはいなかった。

 

刀から注がれる氣は光をだんだんと強く発し、

一刀の体に移って行った。

 

そして、彼の指がかすかに動いた。

 

 

「一刀?一刀!」

 

私はそう呼びかける。

 

 

 

 

「ただいま、雪蓮、冥琳、祭さん」

 

あかないかもしれないと思っていた彼の眼は徐々に開き、

そう私たちにいったんだ。

 

 

「「「か・・・ずと?かずとっ!一刀ぉーーー!!」」」

 

私たちの表情は驚きにあふれ、目からは涙が流れていた。

 

 

「もう・・ど・・れだけ・・心配・・した・・と

 思って・・るの?」

 

「一刀、すまな・・・

 いや、ありがとう!」

 

「・・・あまり老人を・・いじめ・・・ないで

 ほしいもの・・・じゃ」

 

私たちは、言うべき言葉が見つからなかった。

それはたぶん、あまりにもうれしすぎて言葉に出なかったのだろう。

だから私たちは言った。

 

「おかえりなさい、一刀」

 

そんな一言を。

 


 
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