No.528959

~貴方の笑顔のために~ Episode 20 大切なもの

白雷さん

一刀は冥琳の治療を開始した。しかし、それはもろ刃の剣だった。 その覚悟を背負った一刀の結末とは?

2013-01-07 13:54:51 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:11664   閲覧ユーザー数:9140

一刀は、氣により冥琳の治療を始めた。

その手段はすべての氣門を開放しありったけの氣を冥琳にそそぐということであった。

それは、一刀にとっても大きな決断であった。

なぜなら、その手段はもろ刃の剣。一刀にとっても危険が大きかった。

成功すれば、冥琳は助かるが一刀自身、どうなるのかわからない。

成功しなければ、冥琳は死んでしまい、一刀自身もどうなるのかわからない。

つまり、一刀にとっては命を懸けた戦いなのである。

しかし、雪蓮、祭、そして冥琳の姿を見、そして華琳への思いを胸に

一刀は決断したのであった。

胸に誓ったのであった。

 

冥琳を助けることを。

 

 

~雪蓮視点~

 

私は、彼に言われて、その部屋の扉をしめた。

その扉はなぜかいつもよりも自然と重く感じられた。

部屋の中では何が起きているのかわからない。

正直、冥琳とずっとともにいたいと思う。

しかし、一刀がいった言葉が重く、響いている・・

 

絶対に開けてはいけない。

 

その、彼の言葉が。

 

 

「なに?・・・このすごい氣は・・・」

 

一刀が治療を始めたのであろうか、部屋の外にいても

わずかだが、その濃密な氣を感じることができた。

 

「・そうじゃな・・やつはなにものじゃ?」

 

氣を使える祭ですら、そのように言っている。

実際、部屋の外にいる分、冥琳と感じ方はずいぶん異なっているだろうが、

彼は、やはり武のほうにも優れているということを納得せざる

おえなかった。

 

そこからは、私は自分との戦いだった。

冥琳が一刀と叫ぶ声が聞こえ、一刀もまるで、戦いで突撃する兵のような

叫び声を出している。

 

わたしは祭と顔を見合わせなにが起こっているのかを見てもいいのではないか

という気分に駆られた。

しかし、なぜか私の勘がそれをしてはいけないと告げていた。

 

そんなときである。

 

いや、いつもこの時間に来てくれていたから当たり前といえば

当たり前だったのだけれど、

あちらから、表情を変えた華佗が走ってきたのである。

 

「どうしたのよ、華佗?」

 

そんなにあわてている彼の様子を見たことがない私はそう問いかける。

 

「いま、この部屋で何が起こっている!」

 

「・・・え?」

 

突然の言葉に反応できなかった。

なぜ、彼はこんなにもあわてているのだろうか?

 

「孫策!この部屋で何が起こっているんだ!」

 

そして、なぜこうも彼はあらあらとしているのであろうか?

私はいままでこんな彼の姿を見たことがない。

 

「落ち着いてってば、華佗。大丈夫よ、ただある男が冥琳の治療を

 しているだけだから。」

 

華佗はなにをもとにこの部屋で何が、という質問をしているのだろうか?

部屋から冥琳のものではない氣を感じて怪しいものがいると感じたのであろうか?

 

「そんなことわかっている!」

 

・・え?治療しているのがわかっている・・・

ならばどうして?

 

「わからないのか!孫策!」

 

なんなのだ・・彼の手は震えている・・・

それは私たちが何も知らずにここにただ座っていることへの怒りで

あるかのようだった。

 

「そう・・か」

 

呆然としている私たちを無視するかのように、華佗はその部屋の扉に

手をかける。

 

「ちょっと、まって華佗。ここへ入ってはだめ」

 

そういう、私の言葉に華佗は私を強く睨み返す。

今まで見たことのない目だった。

 

「彼女の、周瑜の治療をいますぐにやめさせるんだ・・」

 

私が扉を開けようとする華佗の手をつかむと彼はゆっくりとした声で

そういった。

 

「・・え?なにをいっているの?」

 

正直訳が分からなかった・・なぜ彼がそれほどまでに一刀の治療を止めたがるのか・・・

 

「孫策、これは間違いなく五斗米道の医術に基づいたものだ。

 この氣からしてそう判断できる。

 しかし、どうやってこの地点に到達したのかはわからない・・・

 なにせこんな方法は、誰一人としてできるものがいなかったからだ。」

 

「よく、わからないのだけれど。五斗米道、その医術はあなたのよね?」

 

「ああ、俺以外にもつかっている医者は少なくないと思う。

 それでも、これほどまでの者は見たこともない。」

 

「・・どういう、こと?」

 

「この、治療は、すべてのおのれの氣を対価に、助けようとする方法だ」

 

その言葉に私は立ち上がる、それは祭も同じだった。

 

やっと、理解した。

わたしが扉を閉めるときに感じた違和感。

そして彼が私たちの真名を尋ねた理由。

 

 

「そうだ、孫策」

 

 

私はどうしていいかわからなかった。

ただ、彼の発する言葉を待っていた。

 

 

 

「このままでは医術を行っているものは死ぬ」

 

 

 

その言葉に私は扉に手をかける。

しかし、扉を開く力が私にはなかった。

 

「孫策!」

 

「どうされたのじゃ、策殿!」

なにをしているの?

一刀が危ないのよ・・・

わかっている、わかっているけど・・・

でも、一刀。あなたはこれを知っていたうえで、

だからあの時こういったのよね。

 

 絶対に入ってきては駄目だと・・

 

それが、あなたの決意だったから・・

 

 

だから・・、私は・・

 

 

“バッ”

 

 

私は、祭と華佗が部屋に入らないように、その扉の前で両手を広げ立ちはだかる。

 

「孫策!君は何をしているんだ!」

 

「なにをしておるのじゃ策殿!

 このままではあやつがっ!」

 

私のとった行動に二人はそう私に叫んでいる。

 

「祭っ!あの子がどんな覚悟をもってこの部屋に入ったのか、

 どんな思いであの話をしてくれたのか、

 わかるでしょうっ!」

 

そう言う私の頬には涙が伝わっていた。

そう、彼はいったのだ。あの時王座の間で。

 

 人を助けるのに複雑な理由が必要か、助ける理由はいらない、と。

 

そして私たちに彼は預けた。彼の真名ともいえる名前を。

 

 

「・・策殿・・・そう、じゃったな」

 

私の言葉に祭はそう、納得した。

 

「なっ!何をしているんだ!

 どんな理由があろうが、俺は医者だ!

 こんな命を捨てるような行為は

 みすご“捨ててるんじゃないっ!!”・・・っ!?」

 

それでも反対する華佗に私も叫ぶ。

 

「華佗!これだけは、これだけは私は譲れないわ。

 あの子の覚悟、それを無駄にするのは誰一人として

 してはいけないっ!

 わたしが、王として、そして一人の人として許さない!」

 

私が、今できること。それは一刀が歩こうと決めた道を

守ること。

それは、自分勝手な理由かもしれない。

正直、冥琳に助かってもらいたいって思ってしまう気持ちもある。

けれど、それよりも今は、彼を最後に見たときの

あの、微笑みがどうしても忘れることができなかった。

彼が決めた道を私は捻じ曲げたくなかったのだ。

 

 

わたしは、そういって華佗の目をまっすぐに見つめた。

 

「・・・・」

 

そんな私を無言でじっと見る華佗。

 

「お願い・・・だから」

 

私の声は震える。

 

「・・・・そうか」

 

(・・・彼女だって、すぐに部屋に飛び込んで

 いきたいはずなんだ・・・

 でもそれをしてしまえば、

 治療者の覚悟は、思いは無駄になってしまう・・・

 俺は、それはなんなのか聞いてはいないが、

 呉王孫策がこれほどまでにいうんだ・・

 ・・俺は、情けないな

 自分のことしか考えられなくて・・

 ただ、自分の思いしか考えてなかった。

 彼の、治療者の思いなど、考えていなかった。)

 

「分かった。

 治療が終わり次第部屋に入って彼を助ける」

 

私の思いを華佗はそう、受け取ってくれた。

 

「ええ、お願い」

 

私は涙を流してそうつぶやいた。

 

 

 

~一刀視点~

 

くそっ!苦しい・・息ができない。

 

「かはっ、ゴホッゴホッ」

 

つらい・・もうだめだ、酸素がほしい・・

 

“ゴホッゴホッ”

 

 くそっ!なに甘えてるんだ!もう少しなんだ!もう少しなんだよ。

 もう少しだから、全てをぶつけろよ北郷一刀!

 何のための力だ!何のための覚悟だ!

 こんなところで、こんな中途半端なところで

 終わりでいいのか!

 いや、違う!

 俺は、俺は・・・・

 もう後悔しないってそう決めたんだ。

 笑顔を守るってそう決めたんだ!

 大切なものを失わないとそう決めたんだ。

 どんなつらいことがあっても乗り越えていくって心に誓ったんだ!

 だからっ!

 こんなとこで、倒れてたまるかっ!

 

「はあぁぁぁぁああああ!!!」

 

そう叫びながら俺は自分の中に残っている

ありったけの氣を開放した・・・・・

 

 

・・・おわっ・た・・・

これで、もう・・大丈夫だ

 

「ははっ、あん・・がい、・・でき・・る

 もの・・だな

 ゴホッゴホッ」

 

あぁ、空が・・青いな・・

でも、あの輝きには、まだまだとどきそうに・・ない・・・や

 

俺は窓の外の空へと手をのばしながらその場に倒れた。

 

 

 

~雪蓮視点~

 

“ドサッ”

 

部屋の中から人が倒れるような音が聞こえてきた。

その音に、私たちは部屋へと入って行った。

 

 

部屋に入った私はは目の前の光景をみて目が点になった。

それは、想像していたよりも悲惨な光景だった。

 

「・な・・に・・これ?・・・こんなの・・」

 

私はとっさに口を押える、それでも彼の姿を見ると涙が流れる。

 

自分の血で真っ赤に染まりながら

苦しそうに悶えている・・・・そんな一刀の姿を私は見た。

 

 

「一刀っ!!」

 

そう叫んで私は一刀に近づこうとする。

 

「触るなっ!!」

 

その時華佗がそう叫ぶ。

 

「・・・華佗?」

 

「いまからすぐに強制的に開放された氣門を閉じる!」

 

そういうと、華佗は次々に一刀に針を刺していった。

 

「かはっ、ゴホッゴホッ」

 

そんな中、血を吐き続ける一刀・・・

 

「一刀、なんで?なんで貴方はこんなにも、

 こんなにも貴方はっ!」

 

私はただ、その彼の姿に涙を流すことしかできなかった。

 

そんな彼女の震える手にそっと一つの

手がおかれた。

 

「・・・かず、と?」

 

次の瞬間私はもう、涙どころでは済まなくなっていた。

 

一刀は・・

 

苦しいはずなのに、死ぬかもしれないのに、

自分を心配してくれ、笑顔でほほ笑んだのだ。

 

「めいりんは、だいじょうぶだ、もう。」

 

「うん、うん・・わかってるよ一刀。」

 

部屋に入った時、彼女の今までの苦しそうな表情は消えていた。

 

「ははっ、そっか。」

 

「・・うん」

 

私はただ泣きながら頷くことしかできなかった。

 

「・・さ・・いご・・まで・・・

 やらせて・・・くれて・・・

 ありが・・とう・・・雪蓮」

 

感謝するのはこちらのほうなのに、

そう一刀は私につぶやいた。

 

「あり、がとう」

 

私はは流れている涙を袖でぬぐい、

一刀に微笑み返した。

 

私ができるのはこれくらいだから・・・お願いっ!死なないで一刀!

 

 

その状態のまま彼は意識を手放した。

 

「華佗、一刀の状態は?」

 

「分からない。一応開放されたすべての氣門を

 封じたからこれ以上氣を流すことはない・・・

 だが、心臓をはじめ、いろいろな器官に

 負担をかけすぎている・・・

 ・・あとは彼の精神力しだいだ・・・」

 

「・・・そう」

 

「・・・一刀、貴方は話してくれたわね、

 なんで仮面をつけているのか、その思いを。

 貴方はまだ役目を果たしていないじゃない・・・

 何のために、今まで頑張ってきたの?

 華琳にみんなにまだ会っていないじゃない・・

 

 貴方はいつも自分のためといって、

 結局は全部相手のためじゃない・・・

 

 私は、あなたの覚悟を知ってるわ、その思いも・・・

 だからっ!

 こんなところで死ぬなんて私が許さない、

 生きなさいっ!一刀!」

 

私は、そういいながら一刀の手をギュッと握りしめた

 

その手はまだ確かに暖かかった。

 


 
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