南征隙を突いて攻めてきた呂布軍を、何とか撃退した雪蓮ら呉軍は、追撃を敢行し更に呂布の勢力を削った。
追い詰められた呂布軍は劉備が治める下丕城へ退却。呉の再三の引き渡し要求に応じようとせず、劉備は呂布を保護していたのであった。
「そう、劉備は呂布を保護したのね。丁度良いじゃない、これで徐州に攻め入る口実ができて。まぁ、あの子は私達が攻め込んでくることを承知の上でしょうけど。冥琳は劉備の事どう見る?」
「同盟破棄を画策したり、今回の呂布の件を見てもあなどれない人物ですね。それに今までの行いを見ても機知に富み、即決しない慎重さが顕れてますね。関羽、張飛を筆頭に蜀軍の武将も戦うとなれば手強い相手ばかりでしょう」
「そういう奴の事を腹黒いと言うのじゃ。のう冥琳よ」
「………なぜ私に聞くのですか。黄蓋殿?」
「いや何、特に理由はないがな。何となく聞いてみたかっただけじゃよ」
冥琳と祭の間では明らかに火花が散っていた。このままでは軍議が進まない。そのため呉の面々からは「一刀、お前が何とかしろ」のような視線が送られていた。
「あぁー、えーっと、劉備さんのその後の動きはどうなってるのかなー、冥琳さん?」
不自然極まりない尋ね方であった。
「下丕には兵糧が送り込まれ、徴募も頻繁に行われている……戦の備えは万端といったところね。さてこれを聞いて北郷、お前ならどうする?早く軍議を進めたいのでしょう?」
「ぐ、軍議を進めたい!?何のことかな~………(魂胆バレバレじゃねぇかよ)う~ん、ここは充分に準備をしてから行動するべきかな。確かに今の敵は蜀だけど、本当の敵はその後ろに控えている魏だと思う。その為にもここは先の南征で投降した兵士に訓練を施して使えるようになった後に出陣するのが良いと思う……どうかな冥琳?」
「ふっ、北郷、お前は本当に成長したな。その通りだ。皆北郷の言った通り、我々の本当の敵は曹魏だ。その為ここは慎重に行動するべきだ。黄蓋殿、甘寧、周泰は投降兵の訓練にあたれ。陸遜、呂蒙は兵站の準備を整えよ。出陣は20日後にs………」
「ちょっと待ちなさーーい!!」
冥琳の指示のもと戦の準備に取り掛かろうとしていたところ不意に雪蓮から声がかかった。……嫌な予感しか感じないのはおそらくこの場に居る皆の思いであろう。
「はーい皆、注ー目!明日は全員で川へ魚釣りに行きまーす。明日の朝、庭に集合ね。あぁご飯は川で釣った魚を食べるからいらないわよ。そういう事で戦の準備は明後日以降でお願いね。じゃあ解散!」
「「「「「「「「「……………………はっ?」」」」」」」」
雪蓮の斜め上を行く発言により固まってしまった面々。そしてまたしても「ほら一刀、またお前の出番だぞ。何とかしろ」のような視線を送る一同。
「あのー雪蓮さん?どうして急に釣りになんて行かれるのですか?しかもこの時期に皆で」
「いやね、昨日急に子供の頃に食べた焼き魚の味を思い出しちゃってね」
「……えっ!?それだけ?」
「そっ、それだけよ。ちなみに皆、拒否権は無いからね。……王の命令に歯向かうということがどういう事を意味するかは分かってるわよね?」
卑怯だ。こんな風に言われれば逆らえるはずがない。そんな中でも冥琳の顔だけは「北郷、何とかしろ。雪蓮はお前の担当だろ」と語っていた。………もう本当に勘弁して下さい(泣
翌日、集合場所の庭に集まる一同。そんな一同を待っていたのは釣竿を両手に携えた呉王様であった。
「皆おっそーい!それじゃはりきって行くわよー!!」
「「「「「「「「「……………………おー……」」」」」」」」」
こうして小川へと出発した御一行様。道中話をしていると、実は何だかんだで皆今日の事を楽しみにしていたことが分かった。亞莎と明命、蓮華、小蓮は朝早くからおやつとして胡麻団子を作り、祭と思春、穏は昨日のうちに酒をしこたま買いに行っていた。ちなみに釣竿を調達してきたのは冥琳だったりする。それに皆昨日のうちに今日の分の政務は終わらせてきたのである。そうこうしているうちに川へと到着した御一行。そして早速釣りを開始する一同。
深呼吸をすれば胸一杯に爽やかな空気が広がり、気分が落ち着く――
最近は戦や政務ばかりでこんなにのんびりとする暇もなかったな――
青々と輝く木々、空いっぱいに広がる青空、小鳥の囀り、流れる川の音、そして澄んだ空気―――
どれをとっても癒される……あぁまさにここは癒しの空間であっt
「あー、もう!つまんない!!全っ~然釣れないじゃない!!どうなってるの!」
あぁ、癒しの空間が音をたてて崩れていく…………
「姉様…まだ始めて一刻も経っていませんが……」
「そうじゃぞ策殿。儂ですらもう少しは辛抱できるぞ」
「五月蠅い!もう、いい!やめた!あぁーお腹減った~、思春あんた元水賊でしょ!?魚くらい簡単に獲れないのー?」
「……無理です」
「ぶーぶー、なら亞莎、何か魚を簡単に捕まえる策を考えなさい!」
「ええぇぇー!?も、もう少し辛抱してみてはいかがでしょうか?」
「もう無理よ。飽きちゃったもの。明命……はまだ先の傷が癒えてないから今回はいいわ」
「(た、助かった……)」
「小蓮、周々と善々っておいしs………」
「ダメーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
「何よーまだ何も言ってないじゃない!うーん、しかしこのままだとご飯が胡麻団子だけになっちゃうわね……よし、こうなったら三班に分かれましょう。一つはこのまま釣りをする班。もう一つは山菜やキノコとか山の幸を採ってくる班。そして肉を狩ってくる班、この三つにわけましょう」
という雪蓮の案に皆賛成であった。なぜなら折角の酒の肴が胡麻団子というのは何としても避けなければならなかったからだ。
「ふむ、なら班分けはどうする?狩猟組は、祭殿、思春、雪蓮が無難だろう。山菜狩りは私、穏、亞莎であれば有毒かどうかの区別ができる。釣り組は残りの北郷、蓮華様、小蓮様、明命でどうだろうか?」
「「「「「「「「うん、それで問題な……」」」」」」」」
「ちょっと待ったーー!」
えつ、昨日の再現?またですか雪蓮様……ほらまた皆が俺を見てくるorz
「……今回は如何様な御用件で御座いましょうか?」
「うーんさっきの冥琳の班分けじゃ当たり前すぎておもしろくないじゃない?実は私こんなこともあろうかと思って籤を作っといたの。この中に番号が書かれているから一が狩猟、二が山菜狩り、三が釣りという事にしましょう!ちなみに一が四枚、二が二枚、三が四枚入ってるから。一応今回は魚釣りが目的だからと、狩猟は人数が多い方が良いということで四枚ずつにしたから。公平に私と一刀は籤を引くのは最後で良いから」
もう突っ込みどころが多すぎて誰も突っ込む気になれずもう籤でいいやのような流れになりとりあえず皆籤を引いて行った。引く順番は蓮華、小蓮、冥琳、祭、穏、明命、亞莎、思春であった。籤の結果は
一 蓮華、冥琳、穏、明命
三 小蓮、祭、亞莎、思春
となった。
「あら、少ない二枚が残るなんて珍しいこともあるのね。そういうわけだから一刀行きましょ♪」
そう言って一刀の手を取り山へ行こうとした雪蓮であったが、
「待て、雪蓮。その残りの籤を見せてみろ」
「な、何でよ~決まったことに文句を言うなんてダメよ冥琳」
「……祭殿、思春」
冥琳がそう言うと祭が雪蓮の背後にまわり羽交い締めにし、思春が籤を奪うという素晴らしい連携を見せてくれた。そして奪った籤には二枚とも「三」と書かれていた。
「おや?これはどういう事かしらね雪蓮。二番の籤なんてどこにもないわね」
そう氷の微笑を浮かべる冥琳。一方の雪蓮はまさに蛇に睨まれた蛙であった。
「ゴメンゴメン!私ったら番号を書き間違えていたみたいだわ!それじゃもう一回やり直しましょうか!!」
「えぇ書き間違えでしょうね。まさかとりあえず「一」か「三」どちらかが四枚出るまで引かせてその後に籤はすり替えたりなんてはしていなかったでしょうしね」
全部バレバレであった。そういう訳でもちろんやり直しとなった。その結果は、
狩猟組 小蓮、祭、亞莎、思春
山菜組 雪蓮、一刀
釣り組 蓮華、冥琳、穏、明命
という風になった。
「キターー!!天は我を見放さず!行きましょ、か~ずと♪」
「「「「「「「「バ、バカな………」」」」」」」」
恐るべし雪蓮の強運。もはや天命が雪蓮に味方をしているとしか思えなかった。
―――――――狩猟班
「あぁーあ、シャオも一刀と二人っきりになりたかったな~」
「まぁまぁ小蓮様、そう不貞腐れずとも我らは我らで楽しみましょうぞ」
「…それでは祭殿、何を捕まえましょうか?」
「はいはーい!、シャオはねぇ、熊が良いでーす!」
「小蓮様、熊はダメですよ。あれは調理をするまでに時間がかかり過ぎます。そうですね…猪なんてかいかがでしょうか?」
「ふむ猪か……ならば誰が一番大きな獲物を捕まえられるか競争するというのはどうじゃ?」
勿論この提案には皆賛成であった。(亞莎は戸惑っていたが勿論押し切られた)
虎の周々に跨り山を駆ける小蓮、正確無比な弓術を操る祭、音もなく近づき仕留める思春、本来の力(?)を発揮し次々と斃していく亞莎……4人が山のように猪を捕まえてきたのは言うまでもない
―――――――釣り班
「冥琳様~こんな感じでどうでしょうか~」
「うむ、ではそれを川へ仕掛けておいて」
「蓮華様!つ、釣れました!ど、どうしましょう!!?」
「明命、落ち着いて竿を魚の動きに合わせて動かしなさい。そして弱った所で一気に引きなさい」
小さい頃から雪蓮とよく釣りに来ていた冥琳と蓮華。そのおかげで今は魚、釣りの知識には結構なものがあるのである。釣りが初めてだという穏と明命に釣り方を教えつつ、穏には仕掛けを作らせたりしていた。穏やかな時を過ごしながらも順調に魚を捕まえている4人であった。
「あぁ、釣りというものは本来こんなに静かで楽しいものだったのですね蓮華様……」
「そうね冥琳……私もそう感じていたわ…姉様が居ないだけでこんなに違うものなのね……」
―――――――山菜班
「なぁ雪蓮、あれって何の実?桃?」
「あぁ、あれは李よ。美味しいわよ、食べてみる?」
「良いのか?では早速………んぐっ、んぐっ…おぉ、うめーーこれ!」
「ふふっ、そう?なら李で作った果実酒が城にあるから飲んでみる?こっちも美味しいわよー」
「へー、そりゃ楽しみだ。それじゃ他にも色々と探しますか………あ、あれはまさかっ!!!」
そう言って急に駆け出した一刀。そんな一刀を不思議に思いながらついて行く雪蓮。そんな二人の足元にはあるキノコがあった。
「間違いない…こ、これはマツタケ様じゃないですか!!しかもこんなに大量に!」
「一刀?それって食べれるの?私達は食べないわよ」
「何だって!!?これは俺の居た世界では超高級品なんだ!それを食べないだなんて!!!」
「わ、分かったから落ち着いて一刀!採って帰るから!皆で食べましょう」
「マジですか!やべーますます楽しみが増えたぜ。実は俺まだ食べた事なかったんだよなー。それじゃ雪蓮はりきって他のモノも探そうぜ!」
「そ、そうね……」
一刀が今まで見せたこともない様なやる気を見せ、それに戸惑う雪蓮という珍しい光景が広がっていた。そんな時一刀が不意に口を開いた。
「雪蓮、今日はありがとな」
「んっ?何が~?」
「最近戦いと政務ばっかりで皆参っていたからな。そんな時に雪蓮が偶然魚が食べたくなったおかげでこんな風に皆で休暇をとることができたからな。おかげで良い気分転換になったよ。魚様に感謝しないとなー」」
「えぇー、私じゃなくて魚に感謝するのー?何それー(ありがとう一刀…)」
付き合いは長くはないが雪蓮の事は冥琳ほどでは無いにしろ、それに近いほど分かっている一刀にはここで素直にお礼を言ってもひねくれ者の雪蓮は喜ばないと分かっていたのだ。その事は雪蓮本人にも伝わっていた。
「そうだな、今度は二人で来ないか?皆にバレないようにしてさ」
「おっ、いいわねー。今度はお弁当でも持って来ましょうか。私の手作り料理が食べたい人ー!?」
「…………………」
「ちょっとー!!何でそこで手を上げないのよ!!」
「いや……ちなみに雪蓮さん?何が作れるのですか?」
「ゆで卵!目玉焼き!おにぎり!」
「うわーい………楽しみだなー……その時は雪蓮俺も料理を手伝うよ」
「なに一刀料理できるの?人は見かけによらないわねー。良いわ、一緒に作りましょ!………その為にもさっさとこの戦いを終わらせましょうね一刀」
「一言多いよ……そうだな戦いは早く終わらせような。と言っても俺は戦闘には使えないし、軍師としても全然まだまだだけどさ。でもこの呉という国を守りたいという気持ちなら誰にも負けないよ。そして雪蓮、君も守ってみせるよ。……と言っても前の時みたいに盾ぐらいにしか俺は使えないけどな(苦笑」
「一刀!自分は盾としか使えないですって!?あんた私を嘗めてるの!?それならもっと屈強な兵士でも傍に置くわよ!何故私がそうしないか分かる!?それはね一刀、あなたにはそれぐらいの価値が十分あるからよ。確かに最初は天の国からきた人物だから置いていたけど、いつまでも使えない奴を置いておくほど私は甘くないわよ。あなたは私の期待通り……いえそれ以上の働きを十分しているわ。それは私だけでなく冥琳や祭、蓮華……いえ、呉に居る者皆がそう思っているはずよ一刀。お礼を言わなければならないのは私達の方よ…………ありがとう、一刀」
本当に俺は役に立っているのか―――――――?一刀の頭の中には常にこのことがあった。戦いはできない、軍略も知らない、知っている知識はほとんど役に立たない…………俺はただ天の国から来たからという理由だけでここに『居させて』もらっているのだと思っていた。しかし目の前であの誇り高き英雄王・孫伯符が俺に頭を下げながらありがとうと言っている。俺がここに『居る』ことに対してである。これほど嬉しい事はあるだろうか―――そう思っていた一刀の目からは涙…嬉し涙が少し溢れていた。
「しぇ……れ…ん、雪蓮、ありがとう………俺は雪蓮の傍に居ても良いのか…?」
「当り前じゃない。しょうがないわね…一刀は……」
そう言って優しく一刀の頭を自分の胸に抱きしめる雪蓮。それが決め手となり一刀の目は決壊した。
「あああぁ、ぁあ、あぁあぁぁぁぁああーーーーーーーーー」
「全く…しょうがない子ね……」
雪蓮は一刀が泣き止むまでずっと抱きしめていた。それは深い慈しみに満ちた表情であった―――
「……もう大丈夫かしら一刀」
「あぁ、ゴメンな雪蓮」
「良いわよ~別に。それにおもしろいものが見れたしね♪」
「うっ、それは出来れば秘密にしておいて欲しいなーなんて…」
「さぁ、それはどうかしらね~(言うわけないないでしょ一刀…)さっ、そろそろ帰りましょ。ちょっと遅くなってしまったしねー」
そう言って元いた場所へ戻っていった二人であったが、その二人が見たものは………もう料理を食べ終えていた全員の姿であった……
「どーゆーことよこれは!!!!」
「あら遅かったわね二人とも。もう皆食べ終わったわよ。魚や肉、果物もあってとても美味しかったわよ。それじゃ皆そろそろ帰りましょうか」
「「「「「「「「はーい」」」」」」」」
「何よ皆だけ食べて!もう何にも残ってないじゃない!これから帰って政務があるってのにお腹ぺこぺこよ!皆はもう食べたから良いけどさー」
「ええっ!?姉様まだ政務が残っているのですか!?」
「ええ、普通に大量に残っているわよ♪何蓮華は昨日のうちに全部終わらせたの?優秀ね~。さすが私の妹」
「いや、私だけと言いますか……全員昨日のうちに終わらせているのですが……」
「なっ、何ですってえぇぇぇぇ!!!!!!全員!!??」
「「「「「「「「(コクッ)」」」」」」」」
「一刀!あんたも!?」
「うん。ってか雪蓮の部屋に遅くまで明りが点いてたからてっきり政務をしてたんだと思ってたんだけど……」
「あぁ、あれはただドキドキして寝れなかっただけよ」
「子供か!!あんたは!」
「そんなー私だけ帰って政務があるなんて嫌ーー!一刀手伝って!!(じゃないと今日の事バラすわよ、一刀)」
「横暴だーーーーーーーーー!!」
呉は今日もすこぶる平和です。
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調子にのって第九s(ry
原作の九章は一瞬で終わってしまう為今回ちょっと苦労しました。そのため微妙にオリジナルな感じですのでご了承下さいマセorz
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