No.534956

いきなりパチュンした俺は傷だらけの獅子に転生した

たかBさん

第九十九話 カウントスタート

2013-01-22 22:32:32 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:5615   閲覧ユーザー数:5021

 第九十九話 カウントスタート

 

 アリシアの体の中にあった『傷だらけの獅子』。

 アリシア蘇生中?をしている間このスフィアはマグナモードの成熟のブレーキ役を務めていた。

 だが、度重なる激戦。マグナモード連発。ピリオド・ブレイカ―。

 『傷だらけの獅子』の力を強くするには十分だろう。

 

 ―…まぁ、すぐに覚醒するわけでは無い―

 

 俺は俺自身の意識の中でアリシアの姿をした『傷だらけの獅子』から聖痕(スティグマ)の話を聞かされる。

 

 ―強くならなければ、力を求めなければスティグマは刻まれない。だが…。お前は力を求めるんだろう?―

 

 「ああ、アサキム相手に手加減は出来ない。全力でやらないとやられる。だから、俺は…」

 

 ―・・・。マグナモードの激痛。スティグマを刻むまでの成熟は出来るだけ俺が抑えておいてやる。怪我の方も何とかしよう。これでお前は魔力が続く限りマグナモードが使えるだろうよ―

 

 「っ。そうか、それはありがたい」

 

 ―だけど、時間はそう長くないぞ。何もしないでいてもスフィアが成熟するまでに一年。マグナモードを使えばさらに短くなる―

 

 「今すぐにいなくならなくてもいいんだなっ」

 

 ―まあ、な…―

 

 「そっか…。よかった」

 

 ―…恨んでいないのか?『傷だらけの獅子(オレ)』の事を?―

 

 目の前にいるアリシア。『傷だらけの獅子』は何かに怯えているような顔をして俺に話しかける。

 

 「恨んでなんかいない。お前がいなかったらアリシアは生き返らなかったし、プレシアとも仲良くやっていけなかった」

 

 ―…そうか。もし、俺の力を限界まで引き上げたくなったらいつでも言ってくれ。サポートも出来るだけする―

 

 俺の言葉を聞いて少しだけ気が楽になったかのような顔をした『傷だらけの獅子』だったが、すぐに顔を引き締めて俺に向かって言う。

 

 ―もうそろそろお前が待っているところに行った方がいいな。ここでの時間はあっちでの時間はだいぶ違うからな―

 

 「そうなのか?」

 

 ―ああ、今。お前がここにいる間で『知りたがりの山羊』『偽りの黒羊』が衝突し始めたな。他の奴らもだ今、乱戦というべきかな。『知りたがりの山羊』もさすがの多さに四苦八苦している―

 

 そりゃあ、あのシステムU―D『偽りの黒羊』にリインフォース『悲しみの乙女』を同時に相手するだけならまだしも、遠距離のなのは・はやて。近接のフェイトやヴィータにシグナム。他のサポート要員全員がアサキム襲い掛かれば何とかなるだろう。

 

 ―っ!…そうとも言えないぞ相棒。『偽りの黒羊』が暴走した。これで三つ巴だな、マテリアル達も結構きつい状況にある。急いで戻らないとやばいぞ!―

 

 「なら早く戻してくれ!」

 

 ―わかった。だが、もう一つ忠告しておく。『痛み』には十分に気をつけろ。外的要因もそうだが何よりお前は心が弱い。誰かが傷ついただけでお前の心は痛がる。それだけでもお前があいつ等の傍にいられる時間は短くなる。それだけは頭に置いておけよ―

 

 「わかった!」

 

 俺がそう言うと俺のいた白い世界がさらに白みを帯びていく。

 

 ―あ、一つ言い忘れていたけど…―

 

 なに?何かほかにも伝えるべきことがあったのか?

 

 ―『揺れる天秤』。どっかで落としたみたいだから、これが終わったら一応回収しておけよ―

 

 「一番重要じゃないのそれ!?」

 

 俺がそう言いながら『傷だらけの獅子』の方を向くが既にそこは真っ白で…。

 なんでこんな時に限ってフェードアウトすんだよー!

 

 

 高志視点。

 

 「ぶるわぁあああああああ!!」

 

 「ひゃっ」

 

 「わっ」

 

 つい、若本な声を上げて俺は寝かされていたベッドから跳ね起きる。

 と、そんな俺の奇行に驚いたのか俺のベッドのそばにあった椅子に座っていたテスタロッサ姉妹が驚いていた。

 

 「あ、すまん」

 

 「お、兄ちゃん」

 

 「…タカシ」

 

 「どうした二人共。いや、そんなことよりガンレオンは何処に…」

 

 体を起こした状態で俺はあたりをきょろきょろと辺りを探していると…。あった。枕元に置いてあった水差しの横にあった。

 俺が待機状態のガンレオンを手にするのを見て姉妹がそろって俺に飛びついた。て、フェイトも?!

 

 「お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!」

 

 「よかった!…本当によかったよぉおおおお!」

 

 フェイトは胸元に抱きついて、ぎゅ~っと締め上げてくる。

 アリシアの方は腹に抱きついてグリグリと頭を擦りつけるように抱きついてきた。

 

 「一時間ぐらい前にアリシアがユニゾンアウトしてから急に体をビクンと跳ね上げさせたから、もしかしたらって思ってぇえええ」

 

 「三時間も眠ったままだったんだよ!」

 

 そんなにか…。

 て、そんなに時間が経過していたらやばいんじゃ…。

 

 「他の皆は!他の皆はどうしている!」

 

 「お母さんはリンディさんと一緒に指令室に行っているよ。なのはちゃん達ははやてちゃんに似た王様達に会いに行ったんだけど…。それから後のことはわからない。ここにいなさいって言われたから」

 

 「そうか、あいつらまだ戦っているのか。…なら!」

 

 俺は待機状態のガンレオンを持ってベッドから降りようとしたらさらに二人から抱き止められる。

 

 「行っちゃ駄目!私、もう、わたしぃいいい」

 

 「そうだよ、お兄ちゃん!今行ったらお兄ちゃん、今度こそボロボロに…」

 

 涙をこらえながら二人は俺を押さえつけようとする。

 俺を、これ以上傷つけないようにと必死になっている。

 

 「大丈夫だって…。それにほら、俺の体、ちゃんと動くだろ。怪我も治っている。それに『傷だらけの獅子』の力も今なら、今の俺なら完全に扱いきれるだから…」

 

 「大丈夫なんかじゃない!もう、私達を助けるために、守る為にボロボロになろうとしないで!」

 

 「そんなお兄ちゃんっ、私達はもう見たくないんだよ!」

 

 二人がさらに強く抱きしめてくる。

 フェイトの方は痛く感じるくらいに。アリシアの方は足を絡ませながら俺にしがみつくように。

 

 「大丈夫だって…。それに、…ほら」

 

 俺は緑色のレンチを手のひらに出現させてみせる。

 これは『傷だらけの獅子』のスフィアが無ければ出てくることのない『回復のレンチ』。

 

 「『傷だらけの獅子』のスフィアも俺の中にある。俺に何かあってもアリシアには危害が加わることはもう…」

 

 「っ!」

 

 ガリィッ。

 

 骨が軋むぐらいに、自分の歯が欠けるくらいにアリシアが『回復のレンチ』を俺の手の平ごと噛みついた。

 

 「いだだだだだだっ!!あ、アリシア?!なにをっ?」

 

 「うー!うー!」

 

 「あ、アリシア?!」

 

 ガリガリと何度も何度も俺の手をかみ砕かんばかりにアリシアは俺の手に噛みつく。まるで、スフィアをもう一度取り込もうとしているようにも見えた。

 それを見たフェイトが慌ててアリシアと俺を引き離す。が、その作業の間にもムグムグと俺の手の平を噛み続けるアリシア。

 

 「アリシア。なんでこんな事をす」

 

 「馬鹿!!私はそんなことに全然嬉しくなんかないよ!私はどんなことがあってもお兄ちゃんといたいの!傍にいたいの!」

 

 「…アリシア」

 

 ふー、ふー、肩で息をするほど興奮して、大量の涙を流しながら俺を睨みつけるアリシア。そして、その瞳は怒りと悲しみに染まっていた。

 

 「だからっ、だ、からぁぁ。そ、んな、悲し、いことを言わないでぇえ。私と、一緒にいてよぉおおお」

 

 「………お姉ちゃん」

 

 「…返して。…『傷だらけの獅子』のスフィアを返してよぉおおおおお」

 

 泣き崩れながら噛みついた俺の手を取り、今度は許しを請うかのようにアリシアは俺を引き留める。

 そんな姿に俺は…。

 

 「…ごめんな。アリシア」

 

 泣き崩れているアリシアの頭を優しく抱き止める。

 

 「…俺が悪かった。でも、今行かなきゃ、なのはやはやて。ユーノやクロノにアルフ。ヴォルケンリッターの皆も危ないんだ。だから行かなきゃ…」

 

 「…や、いやぁ」

 

 アリシアはそれでも落ち着かないのかイヤイヤと首を振る。

 俺をこんなにも欲してくれる。必要としてくれる。こんな人がいるのなら俺は…。

 

 「…大丈夫。俺は必ず帰って来る。そしたら時間が許す限り一緒に皆と。アリシアといるからさ。…約束するよ」

 

 「…ほんと、う。本当に?」

 

 アリシアは顔を上げて俺の顔を見る。

 捨てられた子犬のように潤んだ瞳がとても可愛かった。

 前世から、転生した今世まで、ここまで愛おしいと守りたいと思った瞳は見たことない。

 

 「ああ、本当だ。だから行かせてくれ。…フェイトも行かせてくれるか?」

 

 「…約束だよ。絶対戻るって!皆で帰るって約束だからね!一緒にいてよね!」

 

 「ああ、時間が許す限り、ずっと一緒にいるよ。約束だ」

 

 フェイトにも出撃の許可と約束も済ませて、医療室を出る。

 

 

 ―…いいんだな?相棒―

 

 部屋を出るときに俺の体の中にある『傷だらけの獅子』が話しかけてきた。

 

 ああ、いいんだ。俺の事をここまで思ってくれているんだ。だから、俺は…。

 

 ―アリシアを。いや、他の奴等も泣いてしまうだろうな―

 

 スフィアを限界まで引き上げる(・・・・・・・・・)。例え、この戦いが終わってスティグマを刻み込ませるほどにその因子が強まっても構わない。

 

 ―もう、後戻りはできないぞ―

 

 ああ、もう一人で生きていく(・・・・・・・・)には十分すぎるほどの愛情を貰ったさ。

 

 ―…分かった。カウント10000/10000。これがゼロになったらお前は完全に覚醒する―

 

 十分だ。それだけあれば…。

 俺は隣を歩いている少女達を守れるのだから…。

 

 ―今からお前は生きているだけでカウントが進む。ダメージを受ける、マグナモードを解放すると減少していくスピードも上がってていく。ピリオド・ブレイカ―も―

 

 それでふと思ったんだが『悲しみの乙女』。リインフォースはピリオド・ブレイカーで助けることは出来るかな?

 

 ―…俺が何とかしよう。いや、してみせるさ―

 

 そっか。これで心残りは消えた。

 

 …いや、あるか。

 

 ごめんな、アリシア。

 俺は『傷だらけの獅子』が覚醒するまでの時間はお前の傍にいる。

 だけど、覚醒した瞬間、お前の前からいなくなる。

 

 

 

 お前とずっと一緒にいることは出来ないよ。

 俺は、皆が、アリシアの事が本当に大好きだから…。

 スティグマを刻ませることなんて出来ない。

 

 

 

 俺は『傷だらけの獅子』のスフィアを解放した。

 

 ―カウントスタート―

 

 

 

 ごめんな。アリシア。

 

 

 


 
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