No.532099

遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-第二章・十六話

月千一夜さん

どうも、こんにちわ
月千一夜です

遥か彼方、二章十六話
公開です

続きを表示

2013-01-15 04:52:39 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:5779   閲覧ユーザー数:4823

白帝城

 

そこで衝突したのは

劉備軍と劉璋軍

“蜀”と“旧・蜀”の戦い

有利だったのは、呉蘭・雷銅が率いる旧蜀軍であった

彼らが率いる“紅焔兵”“雷電兵”に対し

劉備軍の兵士たちは、大きな恐怖を抱いていたからだ

 

 

しかし、その状況は一変する

 

 

まず、呂布の登場である

彼女はその“武神”とまで讃えられた武をもって戦場に現れ

そして、その武をもって幾人もの敵を屠っていった

 

これにより、劉備軍の士気は増幅

兵士たちの恐怖心は、一気に和らいだ

 

そして、もう一つ

 

 

 

“鄧艾”・・・一刀の存在である

 

 

 

これを知る者は、恐らくは少ない

このことに気付かないままの者の方が多いだろう

それでも尚、この戦場の流れを変えたという事実に

 

変わりは、なかった

 

彼はその身を毒に犯されながらも

危機一髪のところで、蜀の王である劉備を助け

戦えない、星たちを守り

 

そして・・・家族の為、戦場へと向かおうとしていた

 

その行動が

その存在が

 

この戦場の流れを変えるだろうと、不思議とそう思わせるのだ

 

 

 

 

 

 

「鄧艾、殿・・・」

 

 

彼女もまた、目の前で戦う彼を見つめ

そう考えた、数少ない中の一人である

 

彼女は・・・星は、未だにこの鄧艾という人物のことをよく知らない

まだ会って間もないのだから、無理もない話である

 

だがしかし、それでも尚

彼女には、“わかった気がしたのだ”

 

彼が

一刀が、どんな人間なのか

彼女は、わかった気がしたのだ

 

 

 

「鄧艾・・・士載」

 

 

 

故に、それ故に

彼女はこのような状況の中でも

“笑み”を浮かべ、言うことが出来たのだ

 

 

 

 

 

 

「貴方という人は・・・本当に、不思議な方だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫

第二章 十六話【嘘が下手な貴方】

 

 

 

ーーー†ーーー

 

「は・・・ははは・・・」

 

 

静まり返った戦場

彼は・・・呉蘭は、自身の頭をおさえ

 

嗤う

 

 

 

「はっはっはっは!

コイツは傑作だぜ、まったくよぉ!!」

 

 

 

 

“傑作”

 

そう言った彼の顔は、心底“楽しそうだった”

故に、彼のすぐ目の前

其処にいた彼女・・・紫苑は、表情を歪めるほかない

 

 

「呉蘭・・・」

 

「あ~、悪い悪い

あまりに“俺らしくって”、思わず笑っちまったよ」

 

 

“いや、本当に”と、彼は黄忠を見つめ言う

それから、一つ息を吐き出すと

弓を握り締める手を見つめ・・・笑みを浮かべた

 

 

 

 

「相変わらず・・・だな」

 

「呉蘭・・・?」

 

「んあ~、気にすんな

ただの独り言だ」

 

 

“それより”と、彼は弓を構える

その顔から・・・笑みが消えた

 

 

 

 

「そろそろ、殺り合おうぜ?」

 

 

 

 

 

瞬間

再び、辺りを恐ろしい程の殺気が包み込んだ

しかも、先ほどよりも“濃い”ような

そんな気がした

 

 

「呉蘭・・・ええ、そうね」

 

「紫苑・・・っ」

 

「愛紗ちゃん、お願いだから邪魔はしないで

これは・・・私が、決着をつけなくてはならないことなの」

 

 

紫苑の言葉

愛紗は何かを言おうとしたが・・・それを、呑み込んだ

それから青龍偃月刀を握り締める

 

 

 

「死ぬなよ・・・」

 

「ええ・・・」

 

 

 

言って、愛紗は駆けだした

恋のおかげで、戦線はだいぶマシにはなった

しかし未だ、苦戦しているという事実に変わりはない

だからこそ彼女は、その味方を助けるべく戦場を駆けたのだ

それに続くよう、翠と蒲公英

そして祭は、それぞれ戦場を駆け抜けていく

 

残ったのは、紫苑と呉蘭

これで、邪魔者はいなくなった

 

 

 

「これでいいんでしょう・・・呉蘭」

 

「ああ

俺が用あんのは、黄忠だけだからな」

 

 

“でしょうね”と、紫苑は苦笑した

 

 

「目的は、“復讐”でしょう?」

 

 

“復讐”

紫苑の放った言葉

呉蘭は、一瞬眉を顰める

それから、頭を掻き・・・フゥと息を吐き出す

 

 

「さぁてな・・・どうだろうな?」

 

 

“けどよ”と、呉蘭

それから、彼はニヤリと笑みを浮かべる

 

 

「そんなん、もうどうだっていいだろ?

戦場で敵同士が向かい合う・・・そしたらもう、やることは一つ」

 

 

“そうだろ?”

この言葉に、紫苑はゆっくりと頷いた

“そうね”と、そう言葉を零しながら

 

 

 

 

「ならば、始めましょう

今度こそ貴方を、殺してあげるわ」

 

「はっはぁ、いいね!

そうこなくっちゃ!!!!」

 

 

 

 

 

そして、互いに矢を放つ

その矢が、丁度二人の真ん中あたりで

 

“弾けた”

 

“弓”対“弓”

その戦いの初撃は、二人の“力量の高さ”をそのまま物語っていた

 

 

 

「さぁ、楽しもうぜ・・・!!」

 

 

 

呉蘭の言葉

その言葉が発せられるのと同時に

 

彼の周り

真紅の炎が、燃え広がっていった・・・

 

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

「これはこれは・・・」

 

 

騒然とする戦場の中

彼は、雷銅は溜め息をついていた

 

その目の前

膝をつき、苦しげな表情を浮かべる夕の姿があった

 

 

 

「もう少し、楽しめるものだと思っていましたが

なにやら、期待はずれですなぁ」

 

 

そんな彼女の姿を見つめ、雷銅は鼻で笑う

“期待外れ”だと

そう、心底“残念そうに”零しながら

 

 

 

「やはり、な・・・」

 

 

しかし、だった

そんな彼の反応もよそに、彼女はその傷だらけの体に鞭打ち

其の場から、立ち上がってみせたのだ

 

そして、戦斧を片手にこう言ったのだ

 

 

 

 

「雷銅、貴様・・・やはり、“違うのだな?”」

 

「・・・っ!」

 

 

 

 

“違う”

その、夕の言葉に

雷銅は、今までにない程の“動揺”を示した

 

 

「“違う”とは・・・いったい、何のことですかな?」

 

 

しかし、それも一瞬のことだった

彼はすぐに、先ほどのように笑みを浮かべる

 

夕は・・・その言葉に、眉を顰め言う

 

 

「蜀の者達は、お前らが蘇った理由を・・・“復讐の為”だと思っている

しかし、それは“違う”」

 

 

言って、彼女は戦斧を強く握りしめた

 

 

 

「貴様が私に放つ、その“一撃”は

そんな理由で、放てるようなものじゃない!」

 

「っ!!」

 

 

 

夕の言葉

雷銅の表情は、再び驚愕に染められた

 

 

「まさか、まさかまさか

それを確かめる為に、わざと・・・ワザと、“私の攻撃を受けていたと!!?”」

 

 

 

“ヨロリ”と、雷銅の体が揺らめいた

それから、そのまま自身の額をおさえる

 

 

「復讐の為ではない・・・ならば、貴様はいったい“何の為に此処にいる”

答えろ、雷銅!!」

 

 

そんな彼に向い、夕は手にした戦斧の切っ先を彼に向け

叫んだのだった

力強く、響く彼女の言葉

 

彼は・・・“力なく笑うのだった”

 

 

 

「参った、参りました

どうやら私は・・・“本当に運が良かった”」

 

 

そう言って、笑った彼

その彼の表情に、夕は眉を顰める

 

 

「せめて、“蘭の願いだけは叶えたい”と・・・そう思っていたのですが

いやはや、やはり“生き返ってみるものですなぁ”」

 

 

雷銅は、そう言って短戟を強く握りしめる

それから、夕を真っ直ぐと見据え言った

 

 

 

 

「私の“願い”・・・ようやく、叶いそうですよ」

 

「雷銅・・・」

 

 

 

 

夕は、思う

雷銅の瞳

その奥に・・・“火”が灯っているような

そんな錯覚

いや、これは錯覚などではない

 

彼は、“本気”だ

 

そう考え、夕は笑った

空気が、先ほどまでとは違う

 

 

 

 

「さぁさぁ、華雄殿

次は、本気で来てくださるのでしょう?」

 

「ふっ・・・無論だ」

 

 

 

 

言って、夕は駆けだした

同時に雷銅も駆け出しているのが見えた

 

一気に、縮まっていく距離

 

 

 

 

「私が・・・終わらせてやろうっ!!!!」

 

 

 

 

その距離が、零になった時

辺りを、凄まじい風圧が襲い掛かった・・・

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

『紫苑、ちょっといいか』

 

 

それは、ある晴れた日のこと

いつものように仕事をしていた私のもとに、突然あの人はやってきた

 

 

『あら、アナタ・・・いったい、どうしたの?』

 

『なに、少し頼みがあってな』

 

 

そう言って、“あの人”は笑う

いつもと同じ

私や璃々に向ける、あの温かな笑みを

 

 

『入りなさい』

 

『は、はい・・・!』

 

 

そんな、あの人に連れられて

 

“貴方”はやって来た

 

“紅い髪”をした

その頃はまだ十を越えたばかりの、背の低い少年だった

 

 

『あら、彼は?』

 

『最近、私の隊に入ってきた子なのだがな

これがなかなか、見所がある少年でな』

 

『あらあら』

 

 

私が見つめる先

あの人は、上機嫌に笑っていた

よほど、その少年が気に入ったのだろう

 

 

『それでそれが、私へのお願いとどう関係が?』

 

 

そんな、私の言葉

あの人は少年の背を押し、無邪気に笑って言った

 

 

 

『この子を、鍛えてやってくれないか?

この子ならばきっと、将来はお前と同等か・・・いや、それ以上の将になれるかもしれん』

 

 

 

あの人の言葉

“あらあら”と、私は笑う

それから、未だ緊張したままの“貴方”を見つめて言う

 

 

『貴方は、どうしたいの?』

 

『お、おれは・・・』

 

 

やや、緊張したまま

だけど貴方は、まっすぐに私を見つめ

 

こう言ったのを、未だに覚えている

 

 

 

 

『強く、なりたいんです・・・もう、“おれみたいな子供”を、増やしたくないんです』

 

 

 

 

あとで聞いた話

貴方は、家族を皆・・・賊に殺されてしまった

それからあてもないまま、フラフラと、それこそ居場所もないまま

ずっと、一人で生きてきた

そんな貴方を、あの人は拾い、職を与え

 

そして・・・私の前に、来たんでしょう?

 

 

 

『鍛えるというからには、厳しくなるわよ?』

 

『覚悟してます』

 

 

 

 

だから貴方は、その瞳の奥

力強い“覚悟”を秘め、私の言葉にも頷いた

 

 

『貴方、お名前は?』

 

 

幼い少年の、その覚悟に

私も、応えたいと・・・そう思ったの

 

 

 

 

 

『呉蘭・・・それが、おれの名前です』

 

 

 

 

呉蘭

貴方のことは・・・今でも、ここまで鮮明に思い出せる

 

貴方との、“大切な思い出”を

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

「ふふ・・・」

 

 

ボロボロ、だった

彼女・・・紫苑の今の状況を表す一言は、まさにこれで充分である

 

その衣服は、所々が焼け焦げ

彼女の美しい体にも、幾つもの傷や火傷の跡が見てとれる

“満身創痍”

 

しかし、そんな状況の中

彼女は、不意にそう笑いを零したのだ

 

 

 

「なんで・・・今、こんなことを、思い・・・出したのかしらね」

 

 

呟き、彼女が見つめる先

其処には、その身に真紅の炎を身に纏った男

“呉蘭”が立っていた

 

 

「ねぇ、呉蘭?」

 

「は?

んだよ、いきなり」

 

 

“わけわかんねぇ”と、呉蘭

彼は自身の頭を乱暴に掻くと、吐き捨てるように言う

 

 

「んだよ・・・もう、終わりかよ」

 

 

この言葉

紫苑はその瞳を閉じ、フッと笑った

 

 

「そうね

貴方の、勝ちよ呉蘭」

 

 

そう言って紫苑は、その瞳を開き

彼に、言った

 

 

 

 

「さぁ、私を・・・殺しなさい」

 

 

 

 

静寂

未だ騒然とするはずの戦場

しかしこの場だけは、その騒音も叫びも響いてこない

 

 

 

「なんだよ・・・それ」

 

 

 

そんな、静寂の中

彼の、呉蘭の声が・・・響く

この言葉に、紫苑は弱々し笑みを浮かべたまま答えた

 

 

「私を・・・恨んでいるのでしょう?

貴方を裏切った私を、殺したいほどに憎んでいるのでしょう?」

 

 

 

 

 

“だから・・・貴方は、此処にいる”

 

 

 

 

 

そう言った、紫苑の顔

呉蘭は、苛立ったような

 

しかし・・・どこか、悲しげな眼差しを向けていた

 

 

 

「アンタ、本当に・・・馬鹿な女だよな」

 

 

言いながら頭を掻き、そして彼はその弓を構えた

つがえられた矢が、赤く赤く燃えている

 

 

「いいぜ

望み通り、殺してやるよ」

 

 

瞬間

その表情から、感情が消えた

瞳には、深い闇が宿る

 

 

 

 

「さよなら、紫苑」

 

 

 

 

やがて、紡がれる言葉

 

“別れの言葉”

 

 

 

しかし・・・その矢が、放たれることはなかった

 

 

 

 

 

「おい、おいおいおい・・・」

 

 

呟き、彼は弓を下ろす

そして深い溜息を吐き出し、言うのだった

 

 

「今は、二人きりの大事な時間なんだけどな」

 

 

振り返り、彼が見つめた先

 

一人の“青年”が立っていた

白き衣服を身に纏い、大きな弓を持った青年である

 

 

「あ、貴方は・・・」

 

 

その青年の姿に気付き、紫苑も驚いたように声をあげた

この言葉

青年は、その長き髪を風に揺らし答える

 

 

 

「鄧艾・・・士載」

 

「っ・・・」

 

 

 

“鄧艾士載”

その名を、彼女は知っていた

 

忘れもしない

今から数日前、管輅によって齎された予言

その予言に出てきた名前である

 

蜀を滅ぼすと、そう言われた・・・“忌むべき名”

 

しかし、紫苑は思う

蜀を滅ぼす、その名前を持つ青年

彼から感じる、その雰囲気が

 

その名に反して・・・とても、“温かいのだ”

 

 

 

「紫苑っ!!」

 

 

と、そんな彼女のもと

慌てて駆け寄るのは、星だった

 

 

「星ちゃん、無事だったのね・・・」

 

「それは、こちらの台詞だ」

 

 

“紫苑のほうが、ボロボロではないか”と、星は苦笑する

それから彼女は自身の腹部をおさえながら、“私も負けてないか”と零した

 

 

「それよりも、彼は・・・?」

 

「ああ、鄧艾殿か

あの方は私と雛里を助けてくれた・・・命の恩人だ」

 

「そう、だったの」

 

 

“信じられない”

しかし、目の前の少女が嘘をつくとは思えなかった

彼女はそう思いながら、目の前の二人の青年を見つめるのだった

 

 

 

「おいおいおい・・・お前、なに邪魔してくれてんだよ?」

 

「邪魔・・・?」

 

「ああ、見りゃわかんだろ」

 

 

その紫苑の視線の先

呉蘭は、明らかに苛立った態度をもって一刀にそう言っていた

 

 

「これは・・・俺の、俺らの問題だ

悪いけど、邪魔しないでもらいたいんだけどな?」

 

 

彼がそう言った瞬間、彼の周りは真紅の炎で包まれる

だがしかし、一刀は怯えることはなく

いつものように、無表情のまま言う

 

 

 

 

「本当、に・・・“それでいいの?”」

 

「っ・・・」

 

 

 

 

“それでいいの?”

 

呉蘭の表情が、一瞬にして変わった

それを知ってか、或いは知らずになのか

 

彼はその視線を、紫苑に向ける

 

 

「君も、同じ・・・」

 

「ぇ・・・?」

 

 

言われ、紫苑は言葉を失った

 

 

「いったい、どういう・・・」

 

「本当に、それでいいの?

それが・・・“答え”だと、そう、思っているの?」

 

「っ!」

 

 

ハッと、紫苑は息を呑んだ

彼が、目の前に立つ青年が

 

優しげに、微笑んでいた

 

 

 

 

「鄧艾殿

先ほどから、いったいどういう意味ですかな?」

 

「遠くから、見て

そして・・・“気付いた”」

 

 

星の言葉

一刀はそう言って、紫苑を見つめる

 

 

「君も・・・本当は、気付いてる」

 

「私が・・・」

 

 

紫苑は、思わず言葉を失った

しかしそれも、ほんの僅かである

 

彼女は、静かに頷くと

その弓を構え、呉蘭を真っ直ぐに見据え・・・

 

 

 

「そう、なのかもしれないわね」

 

 

 

静かに、吐き捨てるように

そう言ったのだ

 

 

 

「呉蘭・・・貴方の願いは、私を殺すことなの?」

 

「ああ、そうだ」

 

 

 

言いながら、彼は“やれやれ”と頭を掻いていた

そんな彼の姿を見つめ、紫苑は笑みを浮かべる

 

悲しげな、しかし優しい

そんな、温かな笑みを・・・

 

 

 

「呉蘭・・・貴方は、やっぱり“貴方のままだったのね”」

 

「は?」

 

 

呉蘭は、首を傾げる

“こっちの話”と、紫苑はまた笑う

 

 

 

 

「呉蘭・・・続きと、いきましょう?」

 

「ああ、そうだな」

 

 

 

 

それから、彼女はその笑みを消し

弓を構える

 

その瞳は、先ほどまでとは違い・・・強い、輝きを放っていた

 

 

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

『はぁっ!!』

 

 

叫び、放たれた矢

その矢は、見事に的の真ん中に命中する

“見事よ”と、私は確か笑っていたはずだ

 

 

『蘭・・・素晴らしいわ』

 

『あ、ありがとうございますっ!!』

 

 

嬉しそうに、貴方は笑う

その笑みにつられ、私は思わず吹き出してしまう

 

 

『それにしても・・・この五年の間で、よくここまで成長したわね

“あの人”もきっと、天から微笑んでくださっているわ』

 

 

この昨年

私は、夫を亡くしていた

もともと私よりも歳が上だった夫は、その身を病に侵され

そして、死んでいった

璃々と私、そして蘭を残して・・・

 

 

 

『蘭、これからは貴方も立派な一人の将よ

その力を、この国に住む民の為に使いなさい』

 

『はい、黄忠将軍っ!!』

 

 

そう言って、頭を下げる蘭

しかしそんな彼の姿に、やはり私は吹き出してしまった

 

 

『ねぇ、蘭

私にとって貴方は、璃々と一緒・・・実の息子のようなものなの

だから、そんな堅苦しい言葉遣いは止めてちょうだいって

前にも言ったじゃない』

 

『は、はぁ・・・』

 

 

今の言葉の通り

夫が無くなる以前から、私は蘭にそう言っていた

私にとって蘭は、息子のようなものだと

蘭もまた、私のことを母と思ってもいいと

そう言っていた

 

しかし、未だに蘭はどこか“余所余所しい”

 

 

 

『その、他の人にそれはダメだと・・・そう言われて』

 

『嘘、ね』

 

 

 

私の言葉

蘭は、頭を掻きながら驚いたように私を見つめていた

 

 

『嘘つくの下手よね、蘭』

 

『す、すいません・・・』

 

 

そう言って、蘭は申し訳なさそうに項垂れた

 

 

『貴方に預けた真名に誓って、私は貴方を大事に思っているわ

それでもまだ、貴方は私を信じられないの?』

 

『いや、そういうわけじゃ・・・』

 

『蘭』

 

『うっ・・・』

 

 

“わかりました”と、蘭は困ったように頷いていた

その頬は、少しだけ赤く染まっている

 

 

 

『し、紫苑様・・・』

 

『まだ、固いわね』

 

『し、紫苑さん・・・』

 

『もう一声』

 

『ぅ、ぅえ!?

もう一声!?』

 

 

“ほら、はやく”と、私は蘭を急かした

戸惑う蘭だったが、やがて覚悟を決めたのだろう

 

彼は、静かに言うのだった

 

 

 

『紫苑・・・』

 

『っ・・・』

 

 

 

驚いた

本当は『お母さん』と、そう言ってほしかったのだが

だけどその響きは、どこか亡くなった夫に似ていて

 

私は、思わず微笑んでいた

 

 

 

『うん・・・良い感じね、蘭』

 

『ありがとう、ございます

あ、いやっ・・・ありが、とう?』

 

 

“そんな感じ”と、ぎこちない彼の言葉に

笑いながら、私は思う

 

いつか

いつの日か、彼に・・・私は、この国の未来を任せてみたいと

 

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

「また、思い出していたわ・・・」

 

 

燃え盛る、真紅の炎

その炎を身に纏った彼を見つめ、紫苑は小さく呟いていた

 

 

「呉蘭・・・貴方との、大切な思い出を」

 

 

この言葉に

呉蘭は一瞬戸惑ったような表情を浮かべ、しかしすぐに射殺すような視線を紫苑に向ける

 

 

「おいおいおい、随分余裕じゃねぇか」

 

「そうね・・・そうかも、しれないわね」

 

「あぁ?」

 

 

呉蘭の瞳

その瞳を真っ直ぐに見据え、紫苑は微笑んだ

 

 

 

「呉蘭・・・覚えてるかしら?

貴方、昔はずっと私のことを“黄忠様”って呼んでたわよね

真名を預けてからも、しばらくずっとそのままだった

貴方に、私の真名を呼んでもらうのは・・・苦労したわ」

 

「・・・さぁな

んなこと、覚えてねぇよ」

 

「嘘、ね」

 

「っ・・・」

 

 

紫苑の言葉

呉蘭は、頭を掻いていた手を止め・・・そして、表情を歪める

 

その瞬間

彼の構える弓を、“真紅の炎が包み込んだ”

 

 

 

 

「ごちゃごちゃ、五月蝿いんだよ!!!!」

 

 

 

 

そして、放たれるのはもはや“矢”とは言えないだろう

凄まじい量の、勢いの炎が纏わりついたそれは

 

さながら“巨大な龍”のように、凄まじい勢いで飛んでいく

 

 

 

 

「早く・・・早く終わらせようぜ、黄忠!!!!」

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

轟音は、まさに龍の“咆哮”のようで

その勢いは、まさにすべてを平らげるであろう

 

まさに・・・必殺の一撃

 

 

 

「ええ、そうね・・・“蘭”」

 

 

 

しかし

彼女は、それを避けようとはせず

何一つ、臆することなく

 

“前に出た”

 

 

 

「貴方の言う通りよ」

 

 

 

彼女が前に出ることにより

無論、彼女が呉蘭の放った“龍”と接触するであろう時間は

一気に縮まった

それでも尚、彼女はその足を止めない

 

“わかっていたからだ”

 

彼女は、わかっていたのだ

彼のその攻撃

己に襲い掛かる、その凶悪な龍が

 

 

 

“自分に当たることはない”と・・・

 

 

 

「終わらせましょう、蘭」

 

 

 

故に、彼女はその足を止めない

やがて、彼女の目の前

 

 

 

 

“龍”が・・・跡形もなく、消え去った

 

 

 

 

そして、見えたのは

悲しげに・・・微笑む、一人の青年の姿

その姿を確認し、そして彼女は弓を構える

 

 

 

 

 

 

「これが・・・私の答えよっ、蘭!!」

 

 

 

 

 

やがて

彼女の、その手によって

 

“終わりを告げる矢”は、放たれたのだ

 

 

「はぁ・・・」

 

 

その、矢の先

彼は、“いつものように”頭を掻き

 

 

そして・・・笑みを浮かべていた

 

 

 

 

 

「まったく・・・“最悪”だぜ」

 

 

 

★あとがき★

 

 

どうも、こんばんわ

月千一夜です

 

今回は、呉蘭編と言っても過言ではないくらいの内容

オリキャラですが、しかし好きなもんは好きだからしょうがない

 

次回は、いよいよ白帝城の戦いの決着!?

 

 

 

 

それでは、またお会いする日まで


 
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