No.529954 遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-第二章・十四話月千一夜さん 2013-01-09 23:00:23 投稿 / 全8ページ 総閲覧数:5502 閲覧ユーザー数:4556 |
「戦う為の砦・・・か」
白蓮は、そう呟いき
深い、本当に深い溜息を吐き出した
“白帝城”
雛里からその城の名を聞き
そして、その城のことを説明され
彼女は、何ともいえない気持ちになった
乱世が終わった後に造られた
“戦う為だけの砦”
その話を聞き、気が重くなる
「すいませんでした・・・」
という雛里の言葉は、恐らくは“今まで秘密にしていたこと”に対してのものなのだろう
そんな雛里の言葉に対し、白蓮は少し躊躇ったあと
“いや、いいよ”と声を漏らす
「そりゃ、言いたいことは色々あるけどさ
けど、今はそんな場合じゃないもんな」
「白蓮さん・・・」
「ほら、顔をあげろよ雛里
私たちが今すべきことは、ここでジッと突っ立ってることじゃないだろ?」
言って、白蓮は笑う
それに続くよう、星も笑顔で雛里の肩を叩いた
「私も、このザマだ
今は一刻も早く皆と合流し、そしてこの状況を挽回することを考えよう」
「星さん・・・はいっ!」
雛里は、力強く頷いた
その彼女の姿に、皆も自然と笑顔になる
「しかし、まずは・・・」
と、その中で
白蓮は困ったように、こう言うのだった
「まずは、この森からどうやって出るか・・・だよなぁ」
≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫
第二章 十四話【望まれない再会】
ーーー†ーーー
「以上が・・・愛紗さん達がいない間、成都で起こったことの全てです」
白帝城
その、玉座の間
朱里のその言葉が、いやに重く響き渡った
その、おおよそ信じられないような内容に
皆は驚き
そして・・・“恐怖”していた
「そんな・・・馬鹿、な
死んだはずの“劉璋”が、成都を奪ったなど」
“そのような話・・・”と、愛紗は震えながら口をつぐむ
一度死んだはずの人間が蘇るなど、確かに信じられる話ではないし
まず、有り得ない
しかし、彼女自身・・・普通では絶対に有り得ないような
そんな状況に、その身を投じていたのだ
「あれは・・・確かに、本物の劉璋でしょうぞ」
と、そんな彼女の葛藤を知ってか知らずか
桔梗は、そう言って愛紗の肩を叩いた
「あ奴がまだ幼いころから、儂はあ奴を知っていますからな」
“見間違えるはずがない”と、桔梗は苦笑する
紫苑もまた、その言葉に頷いていた
そんな二人の言葉を聞き、愛紗は“そうか”と下を向いた
「まさか・・・そのようなことが、あるというのか
あの、“自ら命を絶ったという男”が再び蘇り
そして、我らを滅ぼさんとするとは」
愛紗の言葉
不意に、桃香は思い出したように声をあげる
それから彼女は、しばし悩んだ後
桔梗と紫苑を見つめた
「あの・・・桔梗さん
ちょっと、いいかな?」
「なん、ですかな?」
桔梗の返事に、桃香は少し躊躇った後
ゆっくりと、言葉を続ける
「私・・・最初に成都に入った時、劉璋さんは“自ら命を絶った”って桔梗さんから聞いたじゃない?」
「ふむ、そうでしたな」
「だけど、さ・・・」
≪“お前は私が殺したハズなのに”、だろう?≫
「あの時、劉璋さんは・・・確かに、そう言ってた
桔梗さんを見つめながら、確かにそう言ってたよね」
「・・・」
桔梗は、桃香の言葉に対し
まさしく“痛いところをつかれた”と
そんな表情を浮かべ、項垂れてしまう
「おい、桔梗・・・それって、どういうことだよ?」
「桔梗、さま?」
翠と焔耶が、桔梗のその姿に若干驚き、そして聞いた
他の者の視線も、驚きを含んだままで桔梗に集まっている
「申し訳、ありませぬ・・・」
やがて、彼女は顔をあげ
観念したかのように・・・言ったのだ
「儂が・・・劉璋を、殺したのです」
“殺した”
その部分が、嫌に耳に響いた気がした
桃香は、桔梗の言葉を聞き・・・体が、震える
「ど、どうして・・・?」
「蜀の為・・・蜀に住む民の為、致し方なかった!!」
桔梗の叫び
驚きながらも、口を開いたのは焔耶であった
「き、桔梗様
それは・・・本当のこと、なのですか?」
「焔耶・・・」
“すまぬ・・・”と、桔梗
そんな彼女の言葉に、焔耶は“何故”と項垂れた
「何故・・・私に、何も教えてくれなかったのですか?」
「焔耶ちゃんは、まだ若い
こんな汚れ役、私たちで充分だと・・・そう決めたの」
“だから・・・知っているのは、私たち二人だけ”
焔耶の言葉
紫苑は、そう言って桔梗の隣に立った
「まさか・・・他の、将軍たちも?」
「うむ・・・儂らが、“始末”した」
「そん、な・・・」
“他の将軍たち”という、焔耶の言葉
それに反応したのは、蒲公英である
彼女は微かに首を傾げながら、隣にいた焔耶を見つめ口を開いた
「ねぇ、焔耶・・・他の将軍たちって・・・?」
「桔梗様と紫苑様と、同等と言っても過言ではない“実力”を持った
劉璋様の“直臣”である、将軍たちのことだ」
焔耶はそう言って、思い出すように言葉を紡いでいく
「山中や森林での戦闘を得意とした“森羅将軍”こと、“黄権将軍”
伏兵を主とする戦術を得意とした“幻影将軍”こと、“李厳将軍”
二軍での連携術を得意とした“雷紅将軍”こと、“呉蘭将軍”と“雷銅将軍”
この四人の将軍達のことだ」
“黄権”
“李厳”
“呉蘭”
“雷銅”
焔耶の口から出た、四人の将軍の名
皆は、一斉に息を呑んだ
「私があの、宙に浮かぶ武具に襲われた時
それらを操っていると思われる“男の声”が、確か自分を“李厳”と名乗っていたハズだ
それに・・・」
「此処に来る前に、私たちを追っていた者の名は・・・確か、“雷銅”でしたよね」
朱里はそう言って、桔梗を見る
それに対し、桔梗は僅かに頷いていた
「それと・・・雷銅を呼びに来た男
あ奴の名は、“呉蘭”という」
「蘭・・・」
“呉蘭”
その名に、微かに動揺する紫苑
しかし、そんな彼女の様子に皆は気づかなかった
「にゃ~、つまりどういうことなのだ?」
「劉璋以外にも、その将軍たちも生き返ってるってことかよ?」
鈴々と翠の言葉
朱里は、“だと、思います”と零した
それから彼女は桔梗と紫苑を見つめ、申し訳なさそうに言葉を紡ぐ
「おかしいとは、思っていたんです
幾らお二人が投降してきたからといっても、あまりにも“順調すぎる”と
ずっと、気にはなっていたんです」
「朱里ちゃん・・・?」
「つまり桔梗さんと紫苑さんは、私たちがすぐに成都に辿り着けるよう
裏で、多くの手を回していたと・・・」
“そういう、ことですね?”
朱里の言葉
桔梗と紫苑は、観念したかのように・・・頷いて見せた
「あ奴らとまともに戦えば、幾ら桃香様達とはいえ苦戦は必至
故に、儂らがそれぞれの将軍を・・・」
その先は、言わずともわかった
故に、誰も続きを聞こうとはしない
代わりに、愛紗は眉を顰め呟く
「しかし、まさか・・・蜀に、そのような将軍たちがいようとはな
我らが蜀の情報を集めた際は、そのような話は聞かなかったが」
「それこそが、李厳による策なのだ
あ奴は情報を操ることにも長けていたからな
己らのことを隠し、油断したところを得意の戦術で撃破しようとしたのだろう」
“しかし・・・”と、桔梗
彼女は、唇を噛み締め・・・言葉を吐き出す
「己らの実力を、隠すことは出来ても
蜀の・・・劉璋の“悪評”までは、隠しきれんかった」
“悪評”
桃香たちが、蜀に攻めるに至った主な要因でもあるそれは
己の実力を隠せた李厳ですら、隠すことが出来なかったほどに
“酷いものだった”
「儂は、その時に思ったのだ
“あの男では、民は苦しみ続ける”と
だから・・・」
「劉璋を、殺すと決めたのか・・・」
言って、翠は拳を握り締めた
その拳は、小さく震えている
「他の将軍たちにも、無論この話をした
しかし奴らは・・・“蜀の将軍”として“殉ずる”ことを選んだ
故に、致し方なかった
あの戦いが長引けば、いたずらに民が苦しむだけ
蜀には、一刻も早く・・・“新しい王”が必要だった」
桔梗は、そんな翠の姿に気付かぬふりをしたまま
ようやく、そう言って言葉を止める
その隣、紫苑はソッと桔梗の肩に触れるのだった
「そんな、ことが・・・」
“あったのか”と、愛紗
重い
あまりに、重い
「しかし・・・そんな儂らでも、殺せぬ者が一人いた」
そんな空気の中
再び口を開く桔梗
「名を・・・“張仁”
蜀が誇る“武人”にして、儂らの無二の“戦友”であるあ奴だけは
儂らは、殺せなかった」
“張仁”
その名の女性を、蜀の皆は知っていた
成都に辿り着いた彼女達を待っていたのは
他ならぬ、彼女だったのだから
「だけど、彼女は劉璋に対して“誰よりも忠誠”を誓っていた
彼女は絶対に、蜀を裏切らない」
「仮に、劉璋を先に殺したとしても
彼女は確実に、その後を追おうとする
彼女は、劉璋に対しては“誰よりも強い想い”を持っていたから
“蜀”に、ではなく・・・あの、“劉璋”に対して」
「だから儂らは、まずは張仁にばれぬ様劉璋を“殺し”
そして、その死を“自害”と偽った」
「張仁に対して、“自分が亡き後の蜀を、見守ってほしい”という
“嘘の遺言”まで用意したわ
これで彼女は、後を追わないと思った」
“だけど・・・”と、紫苑は項垂れる
思い出したのだ
あの日、桃香たちを迎え入れた後
張仁がとった、その行動を
『愚かな私は、縁様の後を追うことすら敵いませぬ
しかしせめて、この節穴の目を焼いてお詫びいたしましょう』
彼女は、確かに劉璋の後を追わなかった
しかし代わりに、自身の両目を“焼いたのだ”
その両の眼を、“節穴”だと・・・そう言いながら
「これが・・・儂らがした、“愚かな行為”の全てです」
「そう、だったんですか・・・」
神妙な顔つきのまま呟くのは桃香だ
“愚かな行為”と、そう言った桔梗を見つめ彼女は思う
桔梗は“武人”である
それこそ桃香たちの軍に降る前に、己の主に相応しいかどうか
自身の力をもってしてぶつかり、確かめてきたほどに
彼女は、根っからの武人である
そんな彼女が、このように“裏で動く”などとは
やはり桃香は、想像することが出来ないでいた
それほどまでに、彼女は
桔梗と紫苑は、ある種の“決意”を持って望んだのだろう
この国の、蜀の為を想って・・・
「けど、だとしたら・・・」
そんな中、朱里は神妙な面持ちのまま言葉を吐き出す
今までの桔梗と紫苑の話を聞き、何か思うことがあったのだろう
朱里はしばし考えたよう俯いた後、顔をあげ桃香を見つめ呟いた
「目的はやはり、私たちへの復讐・・・でしょうか?」
「恐らく、な」
桔梗の言葉
それから彼女は、“どちらにせよ”と表情を強張らせる
「決着を、つけねばなるまい
何故、蘇ったのか・・・いったい、あの不可思議な力が何なのか
気になることは多々あるがな」
「それに・・・劉璋に言われて成都に残した“緑”のことも、心配だわ」
桔梗の言葉
紫苑は、頷き同意してみせた
そんな二人に対し、“つーか”と首を傾げるのは翠であった
「そこなんだよ
いっかい死んだはずの人間が、いったいどうやって生き返ったっていうんだ?
あれか、五胡の“妖術”とかか?」
翠の言葉
朱里は、ゆっくりと首を横に振る
「それは・・・わかりません」
と、彼女は困ったように溜め息をついた
愛紗から聞いた、宙に浮かぶ武器の話
桔梗と紫苑から聞いた、劉璋たちの死の真実
聞けば聞くほどに、情報が集まれば集まるほど
“わからなくなってしまう”
まるで
まるで・・・先のまったく見えないほどに暗い、“闇”のようだった
「えっと・・・そろそろ、私たちの出番ですかね~」
「張勲さん・・・」
響いた声
皆の視線が集まった先
其処には、張勲こと七乃が立っていた
その後ろには、夕・祭・美羽・王異の四人の姿もあった
「張勲さん・・・これは、我々蜀国内の重要な話し合いの場です
未だ“敵である可能性のある”貴女方は、こちらから呼ぶまで待機しておくよう言いましたよね?」
驚きは、しかし一瞬だった
彼女はすぐに“軍師”の顔になると、冷たくそう言い放つ
朱里の言うとおり
蜀の今後を決める、重大な話し合いの場に
まさか“敵か味方か”もわからない七乃たちを入れるわけにはいかない
故に、朱里は彼女達を別室にて待機させていたのだ
彼女の記憶が正しければ、見張りも何人かつけていたはずである
だが、言われた本人
七乃はというと、そのようなことなど微塵も気にしていないような
そんな笑顔を浮かべていた
「あまりにも、時間がかかっているものですから
我慢できずに来ちゃいました
私たちにも、事情がありますから
いつまでも、ここで立ち止まってるわけにはいかないので」
“それに・・・”と、七乃はいつもの通り
もはやお決まりとなった仕草
人差し指を口元でピンと立て、意味あり気に微笑み言うのだった
「死んだはずの者が蘇ったというお話
実は私たち、ここに来る前に実際に同じような人に出会ったことがあるんですよ」
「・・・っ!?」
七乃の言葉
場は、一斉にざわついた
それでも尚、彼女は一向に焦ることもなく
ましてや、興奮するでもなく
やはり、“いつも通り”に笑うのだった
それから、彼女は話しを始める
話すのは無論、あの“天水”での出来事である
天水での暮らしから、太守である姜維のことについて
そして、その父である男
“蘇った男”・・・“馬遵”のことについて
七乃は、次々と語っていく
ただ、幾つか
一刀の正体についてや、“天の御遣い”の記憶については一切触れることはなく
あの天水での出来事を、彼女は実に上手く話していった
「・・・以上が、天水で起こったことの全てです」
「そんなことが・・・」
“あったのか”と、愛紗
まさか今回の事件と同じようなことが起きていようとは、恐らくは夢にも思っていなかったのだろう
皆の言葉数は、自然と少なくなっていく
「しかも・・・その事件を解決したというのが、予言で蜀を滅ぼすと言われた
あの、“鄧艾”だと?」
“そんな馬鹿な”と桔梗
七乃はそれを聞き、僅かに眉を顰めた
「まぁ、信じる信じないは勝手ですけどね
とにかく、私たちは早く鄧艾さんと合流しなくてはなりません
だから、いつまでもここにいるわけにはいかないんです」
“かといって”と、彼女はため息をついた
「今成都に行っても、物凄く大変そうですし
そもそも、成都に着けるかどうかすら怪しいです」
「そうじゃのう・・・」
七乃の言葉
祭は、同意するように頷く
その隣、夕は静かに腕を組んでいた
「あ、あの・・・」
と、そんな中
静まり返ったその場に、気弱な少女の声が響いた
その声の主が月であることに気付くのに、皆は少しだけ時間がかかってしまう
「今日はもう、皆さんも疲れているでしょうし
ひとまず、お話の続きは明日ということで・・・」
“どうでしょうか?”と月
その言葉に、皆は無言になる
確かに、彼女の言うとおりだった
特に愛紗や翠など、あの過酷な戦いを繰り広げた者などの疲れは計り知れない
「そう、ですね」
やがて、朱里のこの言葉
これによって、今日は解散となったのだった・・・
ーーー†ーーー
「さって・・・どうしたものか」
と、そう言ったのは夕だった
彼女は相変わらず、腕を組んだままで眉を顰める
そんな彼女の言葉
王異は、壁に寄りかかったままで口を開く
「いっそのこと、こっから抜け出すっちゅうんは?」
「却下じゃな
抜け出したとして、今の状態の成都に入れるとは思えんしな」
「せやなぁ・・・」
祭の言葉
“そらそうか”と、王異は溜め息を吐き出した
「しかし、すまんのう王異
妾たちの問題に、巻き込んでしもうて」
と、そんな彼女に向いそう言ったのは美羽だ
しかし、王異は“ええよ、別に”と笑う
「ま、しゃーないやろ
乗りかかった船ってやつや」
美羽は、“頼もしいのう”と感心したように笑う
それから、その視線を七乃へと向けた
「して、七乃よ
この先どうしたらいいかのう?」
「この先、ですか・・・」
“そうですねぇ”と、七乃は腕を組む
彼女はしばらく考えた後、人差し指をピンと立てる
それは、彼女にとってもはやお決まりとなった“合図”
「何か、考えがあるのじゃな?」
祭はそれに気づき、七乃にそう言った
否、気付いたのは祭だけではない
皆の視線が、七乃に集まっているのだ
「一つ・・・あります」
七乃は、静かに言葉を紡いでいく
「劉備さんに協力して・・・共に、成都に向いましょう」
七乃の言葉
皆は、静かに息を呑んでいた
「劉備に、協力するのか?」
やがて、ゆっくりと言葉を吐き出したのは祭だった
その言葉に頷き、七乃は話を続けた
「幾つか、理由があるんですが
まず始めに、このままでは成都に入るのは困難だからです」
「うむ、そうだな
よしんば入れたとして、こちらも無事で済むとは思えん
何より、一刀と合流できねば話にならん」
夕の言葉
七乃は“その通りです”と笑う
「それに、今のまま一刀さんと会ったとして・・・果たして、劉備さん達が黙っているかどうか」
「う~~~、確かにその通りなのじゃ」
“参ったのう”と美羽
しかし、それに反して隣にいた王異は・・・笑っていた
「なるほどなぁ・・・“そういうこと”かいな」
と、王異
七乃は笑顔のまま、“そういうことです”と指をたてる
「劉備さんと一緒に行動することによって、成都までの道のりは少しは楽になるでしょう
さらに劉備さん達と一緒に戦うことで、私たちが敵ではないと強く印象づけられます
もっと言ってしまえば、それに伴い一刀さんの疑いも少しは薄れるかもしれません」
「なるほど・・・!」
七乃の言葉
夕は目を見開き、それから笑った
「確かに・・・我らだけでは、あの者達の相手はキツイ
しかし、劉備の軍が味方につけば・・・」
「うむっ!
流石は七乃なのじゃっ!」
美羽に褒められ、七乃は上機嫌そうに笑う
ともあれ、道は決まった
“ならば”と、美羽は拳を握り締める
「妾たちは、劉備に協力するのじゃ!
そして、一刀の疑いを晴らすぞよ!!」
“おーーーーー”と、元気よく声を出す五人
その心は、確かに一つになっていた
ーーー†ーーー
「ふぅ・・・」
暗い、部屋の中
重い溜息を吐き出した桔梗は、杯に注がれた酒を飲むわけでもなく
ただ持ったまま揺らし続けている
「桔梗、大丈夫?」
そんな彼女を心配してか、その向かい側に座る紫苑が声をかけた
それに対し、桔梗は“うむ”と苦笑する
「と言っても・・・お主相手に強がっても、無意味か」
「桔梗・・・」
「やれやれ・・・まさか死んだ者が、再び蘇るなどとはな」
言って、彼女は杯をようやく空にした
それから、静かに呟く
「いよいよ、罰が当たったのかもしれんな」
桔梗の言葉
紫苑は、同じように杯を空け・・・頷く
「そうね
国の為と言って、私たちは多くの人を騙し・・・殺してしまった」
“当然の報いよね”と、紫苑は笑う
“しかし”と、そう返したのは桔梗だ
「儂らはともかく、他の皆を巻き込むのは・・・間違っている」
「ええ、そうね」
杯を置き、桔梗は立ち上がった
それに続くよう、紫苑も立ち上がる
そして見つめるのは、窓の向こう・・・真っ暗な闇だった
「責任を、取らなくてはな
この命と引き換えにしてでも・・・儂らが」
「そうね
私たちが、終わらせましょう」
言って、2人は笑いあう
深い決意を、その瞳に宿して
その時だった
「桔梗、紫苑っ!
た、大変だっ!!」
「「っ!」」
慌てて二人の部屋に駆け込んできたのは、翠だった
その様子は、只事ではない
「どうしたの、翠ちゃん!?」
「た、大変なんだよっ!!」
「何が、大変なのだっ!?」
「と、とにかく城壁に来てくれっ!!
皆もう、集まってる!!」
「城壁・・・だと?」
嫌な予感がした
二人は顔を見合わせると、急ぎ翠と共に城壁へと向かうのだった・・・
ーーー†ーーー
「紫苑さん、桔梗さんっ!」
「桃香様、いったい何が・・・っ!?」
城壁の上
其処にはすでに、蜀国の主だった者達は集まっていた
その中から桃香の姿を確認し、急ぎ二人は駆けて行く
「これは、いったい・・・!?」
「それが、その・・・」
戸惑いながら、桃香が見つめる先
暗闇の中、漆黒の闇の中
浮かぶ・・・“幾つもの光”
「これは・・・」
「まさか・・・」
その光りが何なのか、皆は一瞬にして気付いた
そして、ドッと冷や汗が流れる
その光の正体に、気付いていながら
やはり、どこか信じられなくて
だからだろう・・・
「そんな・・・いくらなんでも、早すぎます!」
朱里は、そう叫んでいた
誰よりも冷静でいなければならない彼女が、叫んでいた
しかし、現実は変わらない
眼下に広がるその光は、確かに近づいている
“間違いない”と、愛紗は息を呑んだ
「これが・・・劉璋軍!
なんという、なんという速さだ!!」
ダンと、彼女は城壁を叩く
その隣では、彼女の妹である鈴々が困ったように首を傾げていた
「にゃ~~~、凄い火の数なのだ」
「壮観、だなぁ」
と、翠は苦笑する
“けど”と、彼女は腕を組んだ
「まだ、かなり距離はある
とにかく、準備を・・・」
と、そう言い掛けた時だった
彼女は咄嗟に、槍を構えていた
他の者も同様だ
皆が一斉に、“何故かわからないままに武具を構えていたのだ”
その瞬間だった
“ヒュンッ”という、風を切る音が聴こえたのだ・・・
「なっ・・・!?」
その音に気付き、咄嗟に視線を追った先
愛紗は、言葉を失ってしまう
その視線の先
城壁の一番上・・・揺れる、蜀の旗
其処に・・・“一本の矢”が刺さっていたのだ
「そんな、馬鹿な・・・!」
「ウソだろ、有り得ないッ!!」
慌てて見つめる先
光りは、未だ遠い・・・!
「あの距離から、届いたっていうのかよっ!!」
“ありえない”と、声を荒げ叫ぶ翠
しかし、その彼女の言葉
桔梗は、静かに口を開く
「いや・・・一人だけ、いる」
「なん、だと・・・?」
桔梗は、そのまま視線をうつした
隣にいた紫苑に、である
「奴の名は・・・“呉蘭”」
“呉蘭”
その名を、皆は覚えていた
蜀にいた、将軍の名前である
しかし、次の瞬間
桔梗の口から、信じられない事実が告げられるのだった
「かつて、紫苑の軍にいた・・・紫苑の愛弟子であり、そして“後継者”となる予定だった男だ」
ーーー†ーーー
「さって・・・挨拶は、これでいいな」
そう言って、男はゆっくりと弓を下した
その隣、雷銅はニヤリと笑みを浮かべていた
「さすがさすが、相変わらずの腕前ですなぁ」
「当たり前だ」
言って、男は・・・呉蘭は笑う
それから弓を背負い、ジッと見つめる
その視線の先には、暗闇の中に浮かぶ“砦”が見えた
「なにせ俺は・・・あの黄忠将軍から、技を受け継いだ男だぜ」
そんな彼の姿を見つめ
“羨ましいですなぁ”と、雷銅は笑う
「さって、そんじゃまぁ・・・いっちょ、始めますか」
「そうですな」
言って、2人が振り返った先
“呉”と“雷”という旗を掲げた、多くの兵が並んでいる
その兵を前に、2人はグッと拳を天高く掲げた
「行くぞ・・・“紅焔兵”よ」
「行きますぞ・・・“雷電兵”よ」
やがて、二人の拳が向けられたのは
白帝城
最期の砦である
「全てを、燃やし尽くせっ!!」
「全てを、貫くのですっ!!」
瞬間、兵は声をあげる
その叫びに、確かに“大地が揺れていた”
「「突撃っ!!!!」」
そして、その体内に溜まった“大きな力”が
“爆発”した
一方は、紅の“大きな炎”に
一方は、蒼き“稲妻”に
その身を、包み込みながら・・・
「さぁ、全ての決着をつけようぜ・・・紫苑っ!!」
今、ここに
壮絶なる戦いの火蓋が、切って落とされたのだ
★あとがき★
どうも
月千一夜です
二章・十四話の公開です
いよいよ、衝突となりそうな雰囲気の中
未だに、届かない白き光り
さて、彼は皆を救うことが出来るのか・・・?
次回につづきます
さて、今回は久しぶりに挿絵も追加
下手なのは、勘弁して下さいww
オリキャラが特に多い今回の章、やはりイラストがあった方が物語に入り込めると思い描きました
紫苑と呉蘭の二人です
では、またお会いする日まで
あでゅー
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どうも、おばんです
遥か彼方、投稿です
動画に追いつかれない様、頑張りますwwww