司馬日記16 の2月15日「馬鹿には利かない向精神薬」
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を稟が服用したお話。
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『昼過ぎに合同塾校庭の長腰掛でお待ちします』
そんな稟の指示通りに合同塾の校舎の裏手を抜けて校庭へ向かう。
休日の合同塾は構内外共に静かだ。
『華琳様とネタ被りしたので練り直しになって悩んで悶えて悩みまくった末に、割りと稟ちゃんらしい選択でしたよー』
具体性に欠ける事前の風情報を思い返し、緊張をほぐすために大きめに息を吐きながら歩く。校舎裏を抜けると、待ち合わせのベンチだ。大丈夫、何見ても引かぬ笑わぬ絶句せぬ。
人影を見て稟お待たせ、と声をかける。
「はい」
そう言いながら振り向いた女性は。
下ろしたセミロングの黒髪に、眼鏡の無い穏やかな笑顔。
白い半袖で丈の長いワンピースをまとい、頭には服と揃いの白いリボンの巻かれたつば広の麦藁帽子。
この可愛い子誰?という思いを強制的に稟だ稟のはずだと理性で切り替える。それに絶句は駄目だ、
(どうせ私にはこんな可愛らしい服は似合わないなんて知っていましたよ)
(年甲斐も無くとか思ったのでしょう?)
もう火を見るよりも明らかにネガティブに捉えられる。
「…可愛いね。似合ってるよ、驚いた」
「有難う御座います、でも誰だろうという顔をしていましたよ」
軍師様の慧眼を誤魔化すのは無理か。でも笑顔だし拗ねたような言い方じゃないので怒ってはいないようだ。
「ごめん、正直可愛すぎた。あと眼鏡外してるし」
人の心が読める人達と接する方法として身につけた、『とにかく嘘つかない』で対処する。
彼女は『まあ普段の私は可愛くありませんからね』等といじける事も無く、微笑を浮かべてでは行きましょうか、と言いながら肩の高さに差し出された手を取ると彼女は立ち上がった。その手をなんとなく離し難く、そっと握ったままでいると
「今日は、このままで良いですか?」
と再び微笑まれ、当然に頷いた。
それからは、何をするでもなく校内の散歩だった。
グランドの脇を歩き、池というには大き過ぎる池を廻り、校舎内の廊下をぶらつく。細かい設定が判らないので会話の選び方は恐る恐るだけれど、眼鏡は無くてもいいのかと聞くと歩けないほどではないのでと答えた。それから風がどうした、美羽とのバンドがこうしたというような話をして、仕事の話は避けたし彼女からもしなかった。
開校式を行った教室に入り、窓に手を添えて彼女が外を見る。
「私は、この塾こそ今の象徴だと思うのですよ」
ちょっと踏み込んだ話題に、少し緊張しながらどうして、と聞いた。
「水鏡女学院はさておき、戦乱の時代にいくら人材確保が重要だと知っていたとしても実際に予算と時間をかけることは不可能で、諸侯はそれぞれ耳目を頼りに遺賢を求めるほかありませんでした。それが今では人材を探すのではなく育てる、しかも大陸共同で行えるというのは平和と進歩、そして経済の発展を示すものだと私は思います」
そう思うと感慨深いものがありませんか、と問う彼女に首肯し、会議でも言った様にいつかはこれが全国に造られるといいと思うと返す間も、彼女は瞳を逸らさない。
…瞳を逸らさない。
その間のおかしさに、はっと彼女のお誘いだと気づいた。
動揺を気づかれぬようゆっくりと歩み寄り、背後から緩く抱きしめるとごく自然に胸元へ倒れこんでくる。麦藁帽子を外し、誰が見ている訳でもないが彼女の顔を窓の外からの視線から隠すように掲げながら頤に指を沿え、瞳を合わせる。
すると二人の唇が重なる直前に、彼女は待ってと言い、流れを止めて瞳で彼女に何かと問うた。
今だけで良いのです…『あなた』と呼んでいいですか。
愛した女に涙目でそんな事を言われて、駄目だと言う奴が居れば見てみたい。
頼むから呼んでくれよと囁くと彼女は瞳を閉じ、珠の涙が目尻から溢れて落ちた。それを合図に熱く舌を絡め、強く抱きしめ合う。息継ぎの合間に、瞳を閉じたままの彼女から貴方、貴方、と呼ばれる度に愛しさが増していく。
激情のままに指を這わすと、再び待って下さい、これ以上は私も止まれなくなってしまいますと胸に手を当てられた。
「この部屋は鍵が掛からないので…私の部屋へ」
胸の中で喘ぐ様に呟く彼女に、鍵など無くともこのままという衝動にも駆られたがその気持ちを思うことで欲望を捻じ伏せた。
夕焼けの中を、ごく自然に彼女に腕を取られた状態で歩く。
言葉は少ない。あまりこうして歩いた事無かったね、なんだかちょっと気恥ずかしいですね、と言った他は無言で彼女の部屋へと辿り着いた。
ものも言わずに唇を重ねてもつれるように寝台へと倒れこむと、愛して下さい、と耳元で囁かれた。
「あまりに少女趣味で、笑われるかと思いました」
腕枕で余韻に浸りながら、胸元まで掛け布を引き上げて彼女は言った。
「いや…会うまでは思いもつかなかったけど、今考えてみれば稟に良く似合ってるよ。可愛い」
ふふ、流石にそういうところは外しませんね一刀殿はと彼女は笑い、あの呼び方はもういいの?と聞くと、ええ満足しましたからと答えた表情は不満を覗かせなかった。
「ホントはですね、全く別の路線も考えていて料理とかもあったのですよ。折角なので後で温めて食べて行かれませんか?」
ああ是非と答えると、少し照れたようないたずらな表情で暫く俺の方を見ていたが、
ちょっと用意しますから向こうを向いていて下さい、いいと言うまでこっちを見てはいけませんよと言うので背を向けると寝台から出て行き、暫くして衣擦れの音と共にもういいですよと稟の声がして振り向いた。
そこには裸にエプロン一つ、細身の体に比して豊かな胸がそれを押し上げながら、小悪魔を気取ろうとしながらも照れが隠し切れない表情で寝台に座る稟が居た。
「お、お帰りなさい貴方、お風呂になさいます?夕食にします?それt
「稟にする」
「きゃ、ちょっ!もう一刀殿、最後まで言わせて下さいよ!」
無理、可愛すぎだしエロ過ぎ。
「一刀殿じゃなくて呼んでよもう一回。俺は呼べるよ?なあ、『おまえ』」
彼女の耳を甘噛みしながらエプロンの中をいろいろふにふにすると、弱弱しく怨ずるような顔と共に呼んでくれたが、どうにもこうにもS心を刺激される。
色々体中可愛がりながら『聞こえない、もう一度聞かせて』と繰り返させると、回を追う毎に彼女が俺を呼ぶ声が甘く蕩けたものになっていくのが堪らなく幸せだ。
何度も何度も互いを呼んで、甘く夜は更けていく。
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稟さんです。秋蘭をハブらない馬岱の大軍に感動してつい書きました。
尚申し訳ありませんが、悪戯シリーズはスランプの為ちょっと休憩させて下さい。本編は続けますしこの誰得もどきも少し書いてみたいと思いますので今後も御笑覧頂けると嬉しいです。