『絵画の世界』が飾られている通路は、不気味なぐらい誰も人が居なかった。まるで、ここだけが隔離されているような、そんな感じを彷彿させる。
フリシンは意を決してからその通路を通る。そして、通路の壁に掛けられている絵画『絵画の世界』を見た。
「あ……」
目の前には巨大な長方形の絵画。全てのゲルテナ作品が描かれている絵は、恐ろしいほどに精巧に描かれていて、その作品達が動いている絵だった。そして、背景は暗い紫や黒などを基調としており、全体が不気味な感じの世界観を作り上げており、絵のことに全く詳しくないフリシンさへ、純粋に凄いと感じ、また、ゾッとするような怖しい何かを背中から忍び寄ってくる感覚もまた、感じた。
「……?」
絵画に目を奪われた彼は一瞬、電気の光が消えた気がして、絵画から視線を外し、辺りをキョロキョロ見渡した。すると、いつの間にか彼の隣に見知らぬ少女が立っていて、驚いた。
「うわっ!」
「え?」
フリシンはいつの間にか隣りで絵画を見ていた少女に驚き、同時に彼女を驚かしてしまった。
「驚いて済まない。てっきり人が隣に居るとは気がつかなかった」
彼は素直に驚かせた事に謝罪し、頭を下げる。少女は綺麗な鈴のような音色の声音で、口を開いた。
「気にしてないからいいよ? こっちこそおどろかせちゃってごめんなさい」
フリシンは自分が驚かせてしまったのに、何故か逆に彼女が謝ってしまい、本人はガラにも無く慌ててしまった。
「いやいや、君は謝らなくてもいいんだよ? むしろ謝るのはこっちさ! 驚かせてごめんよ」
「う……うん」
ここでフリシンは、「君、名前は?」っと少女に聞きたかったが、自制した。いきなり見知らぬ人物から声を掛けられても彼女は困るだろうからだ。彼は「ほんとうにごめんね」っと彼女に謝ったあと、その場からゆっくりと離れ、イルーネの下に戻ろうとした。
『絵画の世界』が飾られてある部屋を抜け、二階の『無個性』と呼ばれるマネキンが置かれている場所まで歩くと、フリシンは違和感を覚えた。
「何で誰も居ないんだ?」
先程までは静かだが人で賑わっていた通路、しかし、今は無人で誰も居なくなっていた。そして、人の息遣い、歩く音、囁くような声も無くなっており、まるでこの美術館の中に一人だけ居るような感じがした。
「下に行こう」
様子が明らかにおかしくなった美術館に彼は戸惑いを隠せなかったが、心を落ち着かせて一階へ行く決意をした。
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クリスマスはIbをして過ごしました。お正月はゆっくり何をしようかな