No.512430

たとえ、世界を滅ぼしても ~第4次聖杯戦争物語~ 偽装工作(愉悦教唆)

壱原紅さん

※注意、こちらの小説にはオリジナルサーヴァントが原作に介入するご都合主義成分や、
微妙な腐向け要素が見られますので、受け付けないという方は事前に回れ右をしていただければ幸いでございます。

それでも見てやろう!という心優しい方は、どうぞ閲覧してくださいませ。

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2012-11-26 15:57:21 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:1060   閲覧ユーザー数:1049

史実は巡る

されど正史は覆され

綴られ続けるは異端の謡

正史とは異なる結末を、異端が齎すというのなら

 

 

――――――――――その行動は、他の者すらも巻き込むのだろう

町の中で消火活動が行われていた冬木ハイアットホテルの倒壊現場では、レスキュー隊の作業が夜を徹して行われていた。

ホテル側の避難誘導に『手違い』があった事が後になって発覚、当初は無人と判断されていたホテル内に、実は宿泊客が取り残されていたという事が分かったのである。

その生存は、もはや絶望的。

それでも遺体は確認せねばならないと、せめてその亡骸でも家族の元に返さねばと隊員達による重機を使った瓦礫の撤去は急ピッチで進められていた。

夜が明け、隊員達の疲労も色濃くなり始めた頃に、ソレは見つかった。

 

「……なんだ、これは。」

 

知らせを受けた現場主任とその他数名が目にしたのは、直径3~4メートルもあろうかという銀色の球体であった。

どう見ても、ホテルの残骸ではない物体は、瓦礫の山の中から忽然と姿を現したのだという。

 

「ホテルのオブジェの1つか?随分とおかしな物体だが。」

「でも主任、あの崩壊の中で傷一つないなんて…気味悪くないですか?」

 

主任の隣に立っている青年は、いささか不気味だといいたげに顔を顰めた。

他の者も、少し近寄りがたいのか遠巻きに球体を見ている。

確かに言われてみればこの球体には欠損も無かった。

艶やかな光沢に鏡のような透明感、まるでこの場で磨き上げたようなその、存在感。

 

「おいおい、こんなのほっとくわけにもいかないだろう?しかし…まるで、水銀の滴みたいな――――――」

 

 

現場主任は、そう呟きながら球体へ近寄るとその表面へ手を触れた。

そうして―――ずぶり、と軍手を嵌めた掌が、球体へと沈んだ。

 

「っ?」

 

思わず瞠目したものの、主任がよく見れば自身の手は冷たい球体に触れているだけだった。

 

「主任?どうしたんですか。」

「……………………こいつを、運び出さないと。」

「は?」

「トラックに乗せるんだ、さあ急げ。」

 

狐につままれたような表情をしていた主任の突然の言葉に隊員達は戸惑ったが、

落ち着いた有無を言わさぬ語調で指示を出す主任の様子に、何も言わなかった。

みな一様に訝しがり気味悪く思ったが、この球体が邪魔な障害物でしかないのは間違いなかったからだ。

そうして、すぐさま銀の球体はダンプトラックの荷台へと搬送された。

 

 

――――――――――――その後

 

 

突然の現場主任の職場放棄とも思われる謎の行動により、銀色の球体はその行方をくらませる。

ただいえるのは、運転していたトラックの荷台はもぬけの殻となり、その周囲に数羽の雀がいたぐらいだ。

そして…その荷台にはやはりというべきか。

 

数滴の水銀が、零れ落ちていただけだった。

<SIDE/言峰綺礼>

 

――――――――冬木ハイアットホテルの事件から一夜明け。

久宇舞弥を襲撃した言峰綺礼は、教会で自らの父親でもあり聖杯戦争の監督役でもある言峰璃正を交えて、遠坂時臣に連絡を入れていた。

ハイアットホテルにおける事後処理は相当なものになったが、そちらに関しては既に手を打っている為問題は無い。

むしろそのホテルの爆破事件以外に、放っていたアサシンによって入手した、あるサーヴァントの情報を伝える為に。

そして、そのサーヴァントによって引き起こされている事態を伝える為に、綺礼は報告を行った。

 

『そうか、ホテルの爆破はやはり敵のマスターによるものだったか…』

「今回の事件については、ホテル側の欠陥建設と管理ミスという形で話はつくと思われます。

それによる被害者及び従業員についても、病院での精密検査という名目である程度の暗示をかけておく事も考慮しています。」

『一般人に対する処置は問題はないようだが、ランサーのマスターはどうなったのか分かるかい?』

「ホテルからは遺体等は発見されず、魔術的な痕跡も残されてはおりませんでした。

おそらく…何らかの手段を用いて、ホテルの崩壊を乗り越え逃亡したと思われます。

現在アサシンを使ってその行方を追跡中です。」

『成程、流石はかの時計塔の『神童』とまで呼ばれた魔術師だな。

ホテルを爆破するような外道の魔術師に後れを取るような無様な姿は見せないか。

しかしそれ以上に気になるのは…………キャスターの姿を捉えた?しかも、正体が【ジル・ド・レェ伯】だと?』

「はい、セイバーとそのマスターの前に姿を現し、自らの真名を明かした以上、その言葉に偽りはないかと。

またその後をアサシンに追跡させたところ「工房」の入口は発見しました…しかし魔術師の英霊だけはあり、工房への侵入は困難かと……それでも大凡の位置は特定できたので、現在も周囲一帯を包囲して監視下に置いております。」

『綺礼、つまり…キャスターとそのマスターは、籠城ではなく積極的に活動しているということかい?』

「はい、キャスターは籠城する事よりも外に行く事に「なんらか」の意味を見出しているようです。

その行動も逐一アサシンによって把握しております………ですが。」

 

 

そこで一度言葉をきり、綺礼は言ってしまうべきか躊躇する。

この事を言ってしまえば、遠坂時臣は確実に『そのサーヴァント』に関して気付く。

正体不明のサーヴァント等、障害以外の何物でもない。

自らの勝利を絶対とするこの魔術師にとっては目障りでしかないだろう。

そしてそのサーヴァントに対して確実に警戒を増し、下手をすればアーチャーを差し向けかねない。

(キャスターのサーヴァントは、あの咆哮の主とは違いすぎる……あの行動からしても、バーサーカーに肉弾戦で挑むような輩ではない。

だからこそ、師は排除しようと動くだろう…それでは駄目なのだ、私が、私が自ら【逢わねばならない】……)

 

綺礼はそう判断すると、キャスターのサーヴァントについて詳しく話していく事にした。

あくまでも、聖杯戦争のサーヴァントは「7騎」だというその固定観念を利用させてもらう。

明らかな裏切りだと分かっていても、衛宮切嗣の姿を求めてハイアットホテルに向かったように。

言峰綺礼は『そのサーヴァント』の事も、決して語ろうとは思っていなかったのだから。

 

「……キャスターとそのマスターは、深山町から隣市を股に掛けて、就寝中の児童を次々に誘拐しています。

昨晩だけでも15人です――――――その内の3件については、家人が目を覚まし騒ぎになりかけ、一家皆殺しという事態にまで発展しました。」

『―――――っ!』

「キャスターについては何の躊躇いも無く魔術を使い、その痕跡の秘匿も一切行わない程の無関心さです……恐らく、最初からする気が無いのではないかと。」

『……………何を考えているんだ、キャスターのマスターは?』

「アサシンの聴覚でこの2名の会話を聞く限り、かのマスターはキャスターの召喚よりも前に同じような凶行を繰り返していたようです。

これは推測でしかありませんが、このマスター…今世間を騒がせている連続殺人犯ではないかと思われます。」

『ッ…』

 

通信機から時臣の苦悶の声が漏れる。

時臣にとっては、よりにもよって聖杯戦争の実施に重なってこんな事件が引き起こされたのは予想外でしかなく。

しかもそのサーヴァントのマスターが、連日に渡って三面記事の紙面を飾るような狼藉者だった等、いっそ冗談であってほしかった。

 

そもそも、魔術師とはその魔術の存在を公にする事なきよう、秘匿するのが絶対なのである。

自らの業を徹底して秘匿し、守秘できぬ者は速やかに魔術協会の手で排除される。

こと――――『事態の隠滅』に関する限り、魔術協会は断固として徹底的だ。

その事柄に一片たりとも『魔術』が関わっているのなら、魔術協会は『どんな手を使ってでも(・・・・・・・・・・)』隠蔽するだろう。

 

「更に会話の内容を確認しましたところ、このマスターの名は『龍之介』というようです。

マスターとしての聖杯戦争の知識どころか、魔術師としての自覚すら備わっていない模様です。」

『成程、大方なにかの偶然で魔術師の資格も無い部外者が、サーヴァントの契約を交わしてしまったのだろう……となれば、恐らくはキャスターの傀儡と成り果てているのか。』

「いえ、それが…どうにも、キャスターのサーヴァント自身が常軌を逸脱しているようです。

聖杯は我が手に在り、聖処女ジャンヌを救う等…的を得ない話ばかり繰り返しています。

私個人の感想を言ってしまいますと、もはやこのマスターとサーヴァントには、『聖杯戦争そのものが眼中にない』のではないかと。」

『―――――っ錯乱して暴走したサーヴァントと、ソレを律する事も無いマスターだと?一体どうしてそんな連中が聖杯によって選ばれたというんだ?』

 

時臣はその綺礼の言葉を聞いて、内心の苛立ちを隠せないようだった。

深々とした溜息と、少しばかり苦々しげに呟く声が響いた。

 

サーヴァントが人間を襲う。

それ自体は決しておかしい事ではない、魔力を糧とするサーヴァントは、【魂食い】という殺傷した犠牲者の魂を喰う事で力を得るのだ。

今回の聖杯戦争において、その行動を取る者が現れたとしても何の不思議も無いと、時臣とて予想の範囲内だった。

そう、それ自体は構い等しない。

魔術師は論理で是非を問う事は無いのだ。

無関係な一般人に、どれだけの犠牲が出ようとも、それが慎重に隠匿され、秘密裏に行われるのなら【黙認】しても【構わない】。

だが―――そう言った殺戮を堂々と繰り広げ、魔術師の面を汚すような騒動を引き起こすとあっては言語道断という他ない。

 

それが

 

魔術師でもあり、冬木の土地の管理人でもある、遠坂時臣(・・・・)の考え方だった。

 

 

「これは放任できんでしょう、時臣君。」

 

苦虫を噛み潰したような渋面で、璃正が口を挟んだ。

 

「キャスターの主従の行動は明らかに今回の聖杯戦争の進行を妨げている、ルールを逸脱し崩壊させかねない。」

『無論です、それ以前に私は――――『魔術の秘匿に責任を負う者』としても、断じて赦せない。』

 

冬木の地のセカンドオーナー―――――――即ち、この地における「霊脈の管理」と「怪異の監視」を、魔術協会から直々に委託されてきた責任職。

これが遠坂という家門をもつ魔術師である。

遠坂が『始まりの御三家』の一角に数えられるのも、聖杯戦争の舞台として自らの管轄地を提供した事が要因とされているのが大きい。

従って、遠坂の当主は、聖杯を巡るマスターとしてではなく、『土地の責任者』としてキャスター陣営の狼藉を阻まなくてはならない『立場』であるのだ。

…………そう、あくまでも『魔術師(・・・)』として、の立場なのだが。

 

「おそらくは、4度目の殺人事件より以降に続いている児童失踪事件もこの2名によるものだと思われます。

父上、早急に手を打つ必要性があります。」

「うむ、既に警告や罰則程度で済まされる問題ではない、キャスターとそのマスターは排除するしか他にあるまい。」

「しかし…サーヴァントに対して有効なのはサーヴァントです、私のアサシンを差し向けるわけには…」

「………時臣君、若干のルール変更は監督役である私の権限の内です。

ひとまず全てのマスターを、キャスター討伐に動員するように手配しましょう。」

『ほうそれは、何か策がおありとみますが…神父。』

「キャスターを仕留めた者にはそれ相応の『恩賞』を用意するのです。

他のマスター達とてキャスター陣営によって聖杯戦争そのものが瓦解してしまうのは困るでしょう―――必ずや応じてくるはずです。」

『成程――――――――ゲームの趣向を変えて、【キツネ狩り】を競う、ということですか。』

「ええ、しかし他の猟犬に獲物を倒されては困ります故……やはり、キャスターにとどめを刺すのは、アーチャー(・・・・・)でなくてはなりますまい。」

通信機越しに璃正神父は、遠坂時臣に含み笑いでそう告げる。

この神父は、つまりはこう言っているのだ。

 

【アサシン】による監視を利用し、頃合いを見計らって【アーチャー】でキャスターを屠れ、と。

他の陣営はあくまでもキャスターを疲労させる為の【囮】でしかないのだ、と。

 

『――――成程、当然ですな。』

 

その言葉に納得したように時臣は満足げな声をもらす。

結局は遠坂陣営の戦術に変更は無く、降って来るであろう当然の結果を待っていればいいだけなのだから。

「では、早速他のマスターを招集する準備を整えますので。」

そう言って璃正神父は席を離れ、地下室から退出していった。

綺礼もまた、その場を後にしようと腰を上げたところで………

 

 

『―――時に綺礼、聞けば君は冬木教会の敷地を出て行動を起こしたそうだが?』

 

 

……時臣の声に、呼び止められた。

 

 

やはり、気付かれていた――――当然のように、己の行動について問われるのは必須と解っていた綺礼はすぐに返答する。

 

「申し訳ありません…危険は承知の上でしたが、小うるさい間諜に目をつけられた為、処置する為にやむを得ず……」

『間諜…教会にいる君に対してか?』

 

責める時臣の声音が厳しさを増す。

計画では、アサシンの1体を消費する事で、敗北者として【言峰綺礼】は聖杯戦争が終わるまでは冬木教会から出ない筈だったのだ。

それなのに、綺礼の行動は一歩間違えればそれを台無しにしかねなかった。

 

「ご心配なく、曲者の口は封じました…抜かりはありません。」

 

これは完全な嘘だった。

綺礼は殺して等いない、邪魔が入ったが為にその口封じは叶わなかったのだ。

その嘘を、さらりといってのけてから、綺礼はこの、自らの師に対する初めての虚言に何の抵抗も感じなかった事に、むしろ

【言峰綺礼】自身が驚いていた。

 

『なぜサーヴァントを使わなかった?』

「それには及ばない瑣事と判断しまして」

『……たしかに君ほどの手練てだれの代行者ともなれば、己の手練を頼みとするのも解るがね。今のこの局面においては、いささか軽率すぎたのではないか?』

「はい、今後は慎みます」

 

重い沈黙を破って紡がれる不興の念を、あっさりと無視して紡がれる【嘘】。

言峰綺礼は、恐らくだが何度も忍んで戦場へ赴く事を自分自身で確信していた。

【衛宮切嗣】・【正体不明のサーヴァント】、この2名の影を追い求めて。

自らの人生の問いを、答えてくれるだろう者達へ。

 

いずれ―――――巡り合うだろうその時まで。

 

それっきり沈黙した通信機を背に、今度こそ綺礼は地下室を後にしたのだった。

……自らの私室のドアを開けた途端、綺礼はまるで間違って他人の部屋に踏み込んだような違和感に囚われた。

匂いでもなく湿度でもないその、雰囲気としか言いようのない空気の感触。

明らかに変わっていた。

綺礼の質素に徹していた部屋が、まるで宮廷の一室のような華やかで雅な気配で満たされていた。

その原因を見咎めると、綺礼は少なからず驚きに眉を顰めた。

 

「……アーチャー?」

 

遠坂時臣に召喚された英霊。

燃え立つような黄金の髪に紅玉の如き双眸―――――――英雄王ギルガメッシュ。

その男が、何故か冬木教会の綺礼の私室に、どうゆう経緯か居座っていた。

しかもキャビネットのワインを無断でグラスに注いで、優雅に呷っている。

どうやら……部屋にあるボトルを片っ端から持ち出してきて、利き酒でもしていたようだ。

 

「数こそ少ないが、時臣の酒蔵よりも逸品が揃っている。けしからん弟子もいたものだ」

「……」

 

おそらく、世辞でもなんでもない本心からの感想だろう…が、勝手に押しかけてきた男になんぞ褒められても歓迎する気にもならなかった。

そういえば、遠坂邸の酒蔵も同じ被害を被ったと聞いたような気もするが、そんな事は綺礼からすればどうでもいい。

―――――――気になるのは、何故アーチャーが自分の部屋に居るかだ。

単独行動のスキルによって町中好き勝手に出歩いているのは時臣から聞き及んでいたが、冬木教会に現れるとは予想外だった。

 

「一体、何の用だ?」

 

感情を殺して問い掛けると、アーチャーは意味深な視線を綺礼に投げ返す。

 

「退屈を持て余している者が、我の他にもいる様子だったのでな」

「退屈?」

 

その言葉に綺礼は内心舌打ちする。

どういう次第かは知らないが、この目の前の英霊は、昨夜の綺礼が時臣の意図する行動を反していた事を知っている。

 

 

「どうなのだ綺礼とやら?お前も、あの時臣めに奉仕するばかりで心満たされているわけではないのだろう?」

「……今さら契約が不服になったのか?ギルガメッシュ」

 

その問いに返事をする事も無く、綺礼は憮然と問い返す事を選んだ。

この英霊が何者であろうと、綺礼には無駄に謙る理由等どこにもなかった。

 

あくまでも、目の前の存在は【サーヴァント】でしかない。

それ故に、この男は自分と同じ『時臣の下に位置する存在』なのだ。

せいぜい同格の立場。

頭を下げる義理等、綺礼にはなかった。

 

「我を招いたのは時臣だし、この身の現界を保っているのも時臣の供物によるものだ。

 そして何よりも奴は臣下の礼を取っている…まぁ、応えてやらんわけにもいくまい」

 

その綺礼の態度に機嫌そ損ねる事無く、軽く鼻を鳴らすとアーチャーはグラスを呷った。

そして、どこか律儀な発言をした後で、赤い瞳を翳らせて溜息を吐いた。

 

「だが正直、あそこまで退屈な男とは思わなんだ!まったくもって面白味の欠片もない。」

「……とてもサーヴァントのものとは思えん言い種だな、まったく…そんなにも退屈か?時臣師の差配は。」

「ああまったく退屈だ――――――万能の願望機を以てして【根源の渦に至る】、だと?つくづくつまらん企てがあったものだな。」

 

その魔術師の悲願ともいえる事柄を、英雄王は失笑交じりに一蹴した。

そういう面に関してならば、綺礼とて解らなくはなかった。

 

「『根源』への渇望は魔術師だけの固有のものだ。あれは、部外者がとやかく言えるものではない」

「そういうお前も部外者だそうだな、綺礼―――しかも聞くところによれば、本来は魔術師どもと対立する立場にあるそうではないか」

「……『根源』へと至る道程とは、いわば世界の“外側”への逸脱だ。

 それによって“内側”であるこの世界に何がもたらされるわけでもない。

 だから、“内側”の視野しか持たない教会われわれにとって、魔術師たちの探究はまったく意味のない、つまらない企てとしか理解できない」

 

 つまるところ、『根源』への探究については聖堂教会もアーチャーと同じ意見なのだ。

 【外】を見つめるか、【内】を見つめるかの違いだけだろうとも、その違いは大差ないのかもしれないが。

 それでも、その行為を冷静に第三者の視点から見てみると、滑稽以外の何物でもないモノも、実際は多かったりするように。

 聖堂教会からすれば、魔術協会の者達が必死に行っている事柄は、何一つとして意義が感じられないモノでしかなかったのだ。

 

 

「もし冬木の聖杯が『根源』を求めるためだけに特化した装置であったなら、いくら魔術師どもが血眼になろうとも聖堂教会は放任していただろう。

 ところが不幸にも聖杯は“万能”であった―――――世界の“内側”をも変革しうる可能性を無限に秘めている。

 まさに極めつけの異端であり、我らの信仰を脅かすものだ…だからこそ聖堂教会は【遠坂】を選んだ。

 放置できない程に危険な異端であればこそ、それを“無意味でつまらない”用途に使い潰してくれるなら、我々にとっては望ましい結末だからな―――もっとも私の父には、それとは別な私情もある様子だが」

「では時臣以外のマスターどもは、時臣とはまた違った動機で聖杯を求めているわけか?」

「時臣師は魔術師の典型であると同時に最右翼だ。

 実際、あれほど純粋に魔術師の本道を貫いている人間はそうはいるまい。

 他の連中が求めているのは総じて浮き世の名利であろうよ…威信、欲望、権力……すべて世界の“内側”だけに完結する願望だ。」

「結構ではないか!どれも我が愛でるものばかりだぞ。」

「お前こそは俗物の頂点に君臨する王だな―――――ギルガメッシュ」

 

 その評価にアーチャーは不敵に笑うと、手の中のグラスを飲み干した。

 綺礼のその評価を、決して侮辱とは取らずに笑いながら問い掛けてくる。

 

「そういうお前はどうなのだ?綺礼、聖杯に何を望む?」

「私は―――私には……べつだん望むところなど、ない」

「それはあるまい。聖杯は、それを手にするに足る者のみを招き寄せるのではなかったか?」

「そのはずだ。が……私にも解らない。成就すべき理想も、遂げるべき悲願もない私が、何故この戦いに選ばれたのか」

「それが迷うほどの難題か?理想もなく、悲願もない。ならば愉悦を望めばいいだけではないか」

「馬鹿な!」

 

その瞬間――――――言峰綺礼が、その言葉を否定したのは全くの無意識であった。

 

「神に仕えるこの私に、よりにもよって愉悦など―――そんな罪深い堕落に手を染めろというのか?」

「罪深い?堕落だと?なぜ愉悦と罪とが結びつく?」

「っそれは……」

 

 返答に困る綺礼をよそに、アーチャーは意地の悪そうな笑みを深めていた。

 

「……成程、悪行で得た愉悦は罪かもしれん。

 だが善行によっても得る歓びもまた愉悦、その【悦】が罪であり悪であるなどと断じるとはな……言峰綺礼、俄然、貴様に興味が湧いてきたぞ。

 よし綺礼、我の【娯楽】に付き合え。」

「娯楽だと――――?」

「ああ、そうだ。なに、片手間でできる事だ…敵の調査がお前の役目であったであろう?その調査の内容に、聖杯戦争に参加した動機を加えるだけだ。

 そして我に語り聞かせろ、奴らの度し難き願望と祈り、その奇跡にまで縋らなくてはならない【理由】を、その中には面白味のある奴が必ずや混ざっていようとも。

 その者の中に―――――貴様の琴線に触れる者がいるやもしれぬぞ?」

 

何故自分がそんなことを、と惑い拒否しようとした綺礼の脳裏に、ふと「ある事」がよぎった。

それは、ハイアットホテルの周辺を探索していたアサシンが、偶然発見した形ではあったが、『そのサーヴァント』の名残の事だった。

 

余り大事になっていないが、あの崩壊していたホテルから、それこそ『奇跡』的な生還をとげた人間がいたという。

救出されたのは子供だったようだが、本来ならば救出は不可能の状態だったようだ。

その子供が無事に親元に帰されたというのだ。

恐らくは―――――――聖杯戦争の関係者マスターが、サーヴァントに命令して助けさせたのだろう。

 

そして綺礼が知る限り、キャスターも含めて『全て』のマスターとサーヴァントには、アサシンの監視がついていた。

その誰もが動いてはいなかったのにも関わらず、子供は崩壊したホテルから救い出されたのだ。

 

 

故に、綺礼は確信に至った。

有り得ないはずの、『8番目』が、やはりこの聖杯戦争に参戦しているのだと。

そしてその8番目こそが『咆哮の主』、自らの「望み」に応えてくれるかもしれないサーヴァントなのだと。

 

 

ギルガメッシュの言うとおり、他のマスターの動向を探りながら、

衛宮切嗣だけではなく、かのサーヴァントを従えているマスターの正体と、その目的を知る。

それは、このうえなく、言峰綺礼にとって有意義なモノではないかと感じたのだ。

 

 

だが、何よりも―――――――――あの時聞こえた『咆哮』が、忘れられなかった。

 

 

魂すらも揺さぶらんばかりの、凄まじい声。

あの声が、耳から離れないのだ。

まるで、沁み付いてしまったかのように。

悍ましいのに、心が揺れたのだ。

 

 

ただ、その姿見えない相手に対して、焦がれるかのような、衝動が生まれたのだ。

 

 

 

ただ――――――――【逢いたい】と、いう願望が。

 

 

 

 

「……いいだろうアーチャー、その要望請け負った。

 しかしそれなりに時間はかかるぞ。」

「構わぬ、気長に待つとしよう―――まぁ、今後も酒の面倒を見に来るぞ。

 ここの酒は天上の美酒とまではいかんが、僧侶の蔵如きで腐らせるには惜しいモノばかりだからな。」

 

その返事を聞くと共に、アーチャーはグラスの中身を呑みほしソファーを立った。

そしてさも満悦そうに笑い声をあげるとそのまま部屋から出て行った。

 

 

「………愉悦等では、ない。」

 

 

―――――何故、自らが聖杯戦争に参加しているのか、それが分からないマスター等、自分ぐらいだろう。

しかし、【理由】はあると綺礼自身感じてはいた。

でなければ、アーチャーの言うように、この身に令呪を宿した事に説明はつかない。

ならば、この心のどこかで、言峰綺礼は聖杯の奇跡を求めているという事になる。

 

だが、だからこそ

 

 

「そんな、モノではない筈だ…」

 

 

断じて、アーチャーの言うような【愉悦】ではない。

そこばかりは、綺礼のこれまでの生涯の全てを求道に費やしてきた身として、決して譲れない事だった。

 

 

 

「衛宮切嗣……お前ならば、【答え】を知っているのか?」

 

 

 

自らの望み求め欲する回答に、誰よりも迫ったであろう男。

あの男に会い、そして識りたいのだ。

例えその言葉の応酬が、銃と剣のぶつかり合いでも構わない。

むしろソレで知れるならば安いモノだとすら思う。

 

そんな虚しい願いと祈りを胸に宿しながら。

そして、その胸に、小さな焦がれを抱きながら。

 

綺礼は自らの部屋に散らばった酒瓶の片づけを始めるのだった………

戸惑う言峰さん、AU王との愉悦問答の巻でした。

冒頭にだけ現れていた水銀君ですが、こちらは次回にも詳しい内容を乗せる予定です。

どうやって生き延びたの?どうやってホテルの崩壊を遅らせたの?は次回のお楽しみでお願いしますm(__)m

 

今回のBGMは、Fate-stay night A.OSTから、【魔術師】でした。

 

※感想・批評お待ちしております。


 
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