No.510499

俺妹 兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ

主成分はパク……オマージュです

中二病でも恋がしたい!
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2012-11-20 23:55:05 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:3095   閲覧ユーザー数:2880

俺妹 兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ

 

「お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ……。なるほど。答えは得たわね」

 アタシは生まれてこの方大きな思い違いをずっとしていた。

 正しい兄妹の恋愛について何も分かっていなかった。

『お兄ちゃんのことなんかぜんぜん好きじゃないんだからねっ!』

 これこそが兄妹の愛の形として唯一にして最も正しいものだと思い込んでいた。

 即ち、ツンデレな態度を取りながら兄貴がアタシに欲情しつつ愛へと靡くのを待つ。

 それこそが正しい兄妹愛だと勝手に思い込んでいた。

『ウザっ! 話しかけないで。近寄らないで。見られるのも嫌』

 だからアタシは兄貴のことを異性として好きだと気付いた時からずっとツンツンして来た。

 けれどそれは兄貴との冷戦状態を作り上げるだけで何ら恋愛に寄与しなかった。

『黒猫が最近とても可愛く見えてきちゃって困ったもんだ。なっはっはっは』

 そこでアタシはツンツンしながら兄貴の気を惹く最後の手段に打って出た。

 アメリカへの陸上留学がそれだった。

 

 アタシが遠くに行ってしまうとなれば兄貴はアタシの大切さに気づくに違いない。

 兄貴はアタシを懸命に引き止めるに違いない。そしてその過程でアタシへの愛を告白する。

 そうなる筈だった。

『My sister is very cute, isn’t it?』

『やっぱり時代は妹っぽさを見せつつ姉だったりする女の子だよなあ』

 アタシがリビングで意味ありげに一生懸命英会話を練習していてもまるで気付かない。

『へぇ~。テリーマンってアメリカのテキサスの出身なんだぁ。やっぱりテキサスって大きいんだろうなあ。行ってみようかな~』

『邪気眼中二病って個性なんだと最近は思うぜ』

 アタシがアメリカのガイドブックを見ていてもまるで関心を示さない。

『へぇ~。最近のパスポートって電子チップが内蔵されているんだあ。これじゃあ偽造はしにくいわよね』

『ゴスロリって見慣れると可愛いよな』

 アタシがパスポートを新たに取得してチラチラ眺めていても何の関心も示さない。

 そしてとうとう出発するまでアタシは兄貴にアメリカ行きを悟られず、当然の如くして止められることもなかった。

 そしてアタシは1人アメリカへと飛び立っていった。

 何かとってもムカついたので黒いのにはアタシのアメリカ行きを告げなかった。黒いのにバレる可能性が高いので沙織にも告げなかった。ていうか一切の情報を秘匿した。

 あやせに伝えるのは素で忘れた。

 

 そんなこんなで兄貴の気を惹く為に地球の反対側まで行った。

 3ヶ月ほど兄貴の顔は見られなかったけど、アタシと兄貴の仲を劇的に深めるという意味では効果があった。

『お前がいないと寂しいんだよっ!』

 アメリカまで迎えに来てくれた兄貴はアタシの為に泣いた。そして泣きながらアタシを連れ戻そうと必死に訴えかけて来た。

 アタシは勿論日本への即時帰国を選択した。

 兄貴は確実にアタシの存在を強く意識し、きっと近い内に愛を告白する。

 そう思っていた。

 でも、それは大きな間違いだった。

 

 アタシは確かに兄貴との距離を近付けた。

 だけどアタシ以上に兄貴と親密になっている泥棒猫がいた。

『あら? そうだったわね? 最近は、いつもこの部屋に来ていたものだから、つい間違えてしまったわ』

 黒いのだった。

 黒いのは兄貴のベッドにごく自然に寝転んでいた。

 それだけでもう十分だった。

 2人がどんな関係にあるのかは言われずとも分かってしまった。

 この2人、既に男と女の関係になっていると。

 でもアタシは怒りをグっと堪えた。

 兄貴はアタシがいない寂しさに耐え切れなくて黒いのについ手を出してしまったのだろうと。そこに愛はなくても肉を求めてしまったのだろうと。

 その証拠に2人は付き合っていなかった。体だけの関係に違いなかった。

 だからアタシはまだ自分の恋を諦めるつもりはなかった。

 

 その後アタシは御鏡さんを利用して兄貴を焦らせて気持ちを向かせようとした。

 けれど、この作品は完全に裏目に出た。

 この一件が元で兄貴と黒いのは正式に付き合うようになってしまった。

 アタシは自分の迂闊さを呪いながら2人を見守るしかなかった。

 アタシの恋は完全に終わったと思った。

 でも、チャンスは意外な形で再び巡ってきた。

 

 黒いのが兄貴と別れた。

 黒いのは結局兄貴とアタシのどちらかだけを選ぶことが出来なくて自分の心に押し潰されたらしい。

 もしかすると兄貴との体の相性が悪かったのかも知れない。きっとそうなのだろう。

 とにかく兄貴と黒いのは別れた。

 アタシはこの天佑とも言えるこのチャンスを絶対に逃すわけにはいかなかった。

 でも、このままじゃまた同じ結果を迎える。

 そんな時に出会ったのが秋に始まった1本のアニメ作品だった。

 そのアニメは『お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ』という題名だった。

 アタシの疑問を全て氷解してくれる作品名だった。

 

 

 

 アタシはさっそくこのアニメに従って行動を取ることにした。

 アニメ『おにあい』に拠れば、兄と妹が離れ離れになってしまい再び一緒に住むことで兄妹ではなく男女の愛情が育まれるらしい。

 つまり、アタシは兄貴と一度別れて暮らす必要があった。

 本来ならばアメリカ留学がそれに該当するのだろう。けど、口惜しくもその機会をアタシは逃してしまった。黒いのに兄貴を独占されていたからだ。

 だからアタシはもう一度イベントを起こす必要があった。

 そして早速行動を起こすことにした。思い立ったら即行動がアタシの信条だ。

『あっ、おばさ~ん。アタシ今度お兄ちゃんとデートすることになったんです。やっほぉ~♪』

『おじさ~ん。アタシこの間お兄ちゃんにキスされちゃったんです。えっへっへ♪』

『おばあちゃ~ん。アタシ、これからお兄ちゃんと指輪見に行く所なんです。ぐっへっへっへ♪』

 即ち、兄貴との禁じられた関係ネタを自分でご近所さんにバラまいた。

 効果は覿面だった。

 それはそうだ。他ならぬアタシ自身が噂を流しているのだから。

 アタシと兄貴が不健全な仲にあるという噂はあっという間に両親の耳に入った。

 そして両親の予備調査というべき追及が始まった。

 

『桐乃。アンタ、この間の日曜日はどこに行っていたの?』

『公園であやせと一緒に撮影したって言ったじゃん』

『でも確か、週末はあやせちゃんが熱を出したと言っていなかった?』

『えっ? そうだったかしら? あっはっはっはっは』

 わざと隙だらけの回答をして両親の疑念を深めさせる。

『あら、丁度帰って来たのね京介』

『うん? 何か用か?』

『アンタ、日曜日はどこにいたの?』

『赤城と一緒に図書館で勉強してたけど、それがどうかしたか?』

『つまり、アリバイはないってことね』

 両親はアタシ達に対する疑念を更に深めた。

 兄貴の行動を把握した上で仕掛けた罠に隙はなかった。

 

 アタシの攻勢は更に続いた。

 内股で痛そうに、そして思い詰めた表情で歩いている様子をご近所の人々に見せる。

 兄貴に無理やり一線を超えさせられてしまったかのように。

 先週まで明るく振舞っていたのに、今度は知り合いの顔を見る度にビクッとして逃げ去る演技付きで。

 効果はまたまた覿面だった。

『桐乃、最近体に異変をきたしていないか?』

『なっ、何を言っているのお父さん? あ、アタシはこんなに元気だよ』

 本当は空元気なんだけど両親の前では元気に振舞っているフリをする。

『京介、お前は前の日曜日午後にどこに行っていた?』

『ゲーム研究会の男友達共とカラオケに行っていたけど』

『……アリバイはなしということか』

 両親の疑念はことここに至って確信に変わった。

 その後の処置は早かった。

 

『……京介、あんた……桐乃に変なことしてないでしょうね』

 

 10月上旬のある日、兄貴はアタシとの仲を疑われて高坂家を追放されることになった。

 兄貴は家を出て割と近所のアパートに独り暮らしすることになった。

 アタシの思惑通りに事態は進展してくれたのだ。

 でも、本当の勝負はこれからだった。

『何としてでも、お父さん達が疑っている仲にアタシはなってやるんだからっ!!』

 アタシは熱く熱く燃えていた。

 

 けれど、状況は決して楽観視出来るものじゃなかった。

『お兄さんが独り暮らし? ペロっ。鴨ネギとはこのことですね。お兄さんにネギ。フフフ』

『へぇ~きょうちゃん。料理できないのに独り暮らしは大変だよね~』

『にゃっはっはっは。加奈子の隠れ家がまた一つ増えたって感じだよな~』

 兄貴を狙う飢えた獣たち、ううん、恋のライバル達の動向は予想以上に素早かった。

 兄貴の家には毎日、性欲しか頭にない破廉恥な女どもが入り浸り状態。

 一方でアタシは、兄貴との仲を疑われているのでなかなか動けない。

 でも、動けないでは意味がない。

 『おにあい』を見たのに何も学んでいないことになってしまう。

 だからアタシは一世一代の大勝負に打って出ることにした。

 

『アタシ……この家を出ていくからっ!!』

 モデル事務所を後ろ盾にしてアタシは実家を出ていく大鉈を振るったのだった。

 勿論両親は反対した。

 そして両親が反対すれば事務所もアタシの後ろ盾となることを渋る。

 そんな両者を納得させる為の秘策が兄貴の再活用だった。

『アタシと京介が恋仲? そんなわけがないじゃん』

 アタシはごくあっさりと兄貴との仲を否定してみせた。

 それにより両親は兄貴を追放している大義名分を事実上失った。

 独り暮らしをすれば成績が上がるなんてことはないのだから。普通に考えて家事に手間を取られる分、勉強時間が減ってしまう。

 でも、アタシが出ていこうとしたことで兄貴追放は再び意味を持ったのだった。

『誰もいない所にお前をやるわけにはいかん。だが、京介が一緒なら話は別だ』

 兄貴をアタシの保護者代わりとすることで実家を出ていく許可をもらった。

 こうしてアタシはアパートの兄貴の隣の部屋を借りて独り暮らしすることになったのだった。

 

 

 

 遂にアタシは念願の独り暮らしを勝ち取った。

 しかも兄貴の隣の部屋。

 これで間違いが起きないはずがない。ううん、間違いじゃない。正しい愛があのアパートから始まるのだ。

 アタシは身一つで兄貴のアパートの前へと立っていた。

 今日から、真・高坂桐乃の生活が始まる。

 愛と肉欲に塗れた真実の日々が。

「よしっ!」

 気合を入れながら自分の部屋ではなく、兄貴の部屋の玄関前に立つ。

 当面の目標としては、この部屋がアタシの帰る場所になるように兄貴との関係を進展させる。愛欲の日々の形成。

 ちなみに次の目標は妊娠と出産だ。

 素敵ワールドの実現を前にしてアタシの手は微かに震えている。

 さて、兄貴に何て声を掛けようか?

 と、その時、何もまだリアクションを起こしていないのに扉が開いた。

 中から兄貴が出て来た。

 10日ぶりの生兄貴だった。

 

「あ、あの、その……お久しぶり……」

 何を喋るか頭がまとまらなくて、とても他人行儀な挨拶をしてしまった。

「親父から話は聞いている。予定より早く来たんだな。実家まで迎えに行こうかと思ってたんだが」

 兄貴の声は爽やかで、実家を出て行かされた苛立ちをアタシにぶつける風でもなかった。

 そんな兄貴の声に少し安心する。

「そんなの、当然でしょ。アタシはいつも2時間前には目的地に到着するように動いてるっての」

「お前は俺と待ち合わせする時はいつも遅刻して、しかも平然としてたじゃねえか」

 兄貴の非難がましいジト目がアタシに向けられる。小物っぽい仕草。

 兄貴と会話しているって感じがする。

「まっ、このアタシが特別にアンタの顔を立てて次からは10分の1の確率で時間通りに来てあげるわよ」

「10分の9は来ないのかよっ!」

 兄貴のツッコミが周囲に響き渡る。

 この男はハーレム系ライトノベルの男主人公よろしくツッコミが特技だ。むしろツッコミしか取り得がないと言っても良いぐらい。

「荷物はもう届いてるぞ。部屋の中に入ってる。まだ掃除は済んでないけどな」

「何でアタシが着ていない内に荷物が中に入ってるのよ?」

「ああ、親父から合鍵を預かっていてな。それを使った」

 兄貴はあっさりと真相を暴露した。

 でも、アタシはその情報をあっさりと聞き流すわけにはいかなかった。

「それじゃあ京介はアタシの部屋に入り放題ってことじゃないのよ!」

 兄貴がアタシの部屋に入り放題。 

 親はなく、アタシ1人の空間に兄貴がいつでも侵入できる。

 それってつまり……。

 

 

『桐乃。今夜は性的にムラムラして眠れそうにないんだ。ヤラせてくれ』

 夜、アタシが布団に入りながら本を読んでいると突然玄関が開いて兄貴が押し入ってきた。

『やっ、ヤラせてって、アンタ一体何を考えているのよ!? アタシは妹なのよ!』

『だがその前に女じゃないかっ! しかもとびっきり美味そうな美少女だっ!』

 布団から起き上がる前に兄貴が飛び掛ってきた。

 あっという間に両肩を布団に押し付けられて押し倒されてしまうアタシ。

『ちょっ!? 何を考えているのよ!? 冗談にしても限度ってもんがあるでしょうが!』

『冗談じゃないもんね~~♪』

 パジャマのボタンをプチプチと外されていく。

『おっ。桐乃は寝る時にブラをつける派なんだな』

 遂に全てのボタンが外されてアタシの白い下着が兄貴の眼前に晒されてしまう。

『いっ、いい加減にしなさいよね。本気で怒るわよ!』

『このブラも邪魔だな。えいっ』

 兄貴は慣れた手つきでアタシのブラをあっさりと外してしまった。

『あっ』

 あまりの早業にアタシの思考は一瞬麻痺する。

 黒いのとの淫乱の日々で得たに違いないスキルはアタシを窮地に追い込んだ。

『それじゃあ、受験勉強の鬱屈を桐乃の身体で発散させてもらうとするか♪』

『そ、そんなの……』

 嫌と叫ぼうと思った。

 でも、出来なかった。

 アタシの唇は兄貴によって塞がれて声を出せなくなってしまったから。

『へえ。桐乃の唇ってこんな味がするんだ。じゃあ、こっちの感触はっ、と』

 兄貴の手がアタシのむき出しとなった胸へと伸びてくる。

『だ、だめぇ……』

 震えたアタシには大きな声を出すこともできない。

『悲鳴上げないんだな。まっ、この部屋は防音はしっかりしているから、桐乃が泣こうが喚こうが無駄なんだけどな♪』

 その夜……アタシは兄貴にもてあそばれ続け、心と身体に大きな傷を負った。

 夜が明けた時、アタシの身体には兄貴に征服されてしまった痕跡が生々しく幾つもついていた。アタシは昨日までとは違うアタシになってしまった……。

 

 

「ぐへへへへ。ぐへへへへへへへ」

「何で突然よだれを垂らしながら気味の悪い笑いを浮かべ始めるんだ。気持ち悪いぞ!」

 はっ。いけない。

 これから訪れるに違いない不幸を考えたら愉悦に浸ってしまった。

 これじゃあエロい妄想しかしないあやせと変わりがなくなってしまう。

「とにかく、アタシは歩いてここまで来たから疲れたの。お茶でも出してよね」

 兄貴の部屋に向かって入ろうとする。

 そう。兄貴の部屋……に。

「えっと、その、お邪魔します……」

 ここはまだアタシの部屋じゃない。

 そう思うと緊張した。

「お邪魔します。じゃ、ねえだろ」

 兄貴は優しい声でアタシの行く手を塞いでいた。

「えっ?」

 兄貴を見上げる。去年からほとんど身長が変わらないアタシに比べて兄貴はまだ身長が伸びている。

 大人びた兄貴が大人びた表情でアタシを見ていた。

「お帰り。桐乃」

 その声はとても優しかった。

 兄貴のお帰りという言葉を聞いて……アタシはとても嬉しくなった。

「うん。ただいまっ」

 元気良く返事をしてみせた。

 

 

 

 

 アタシは京介と一緒に荷物の片づけをして1日を過ごした。

 アタシの新しい部屋のディスプレイが大体完成した頃にはすっかり日が暮れていた。

「さて、今日は荷物の片付けとか掃除で疲れたから、風呂に入って早めに寝るか。俺の部屋の方の風呂を沸かしておいたからすぐに入れるぞ」

 アタシの部屋で腰を下ろして休みながら兄貴がとても気になる提案をしてきた。

「おっ、お風呂……っ」

 それはつまり、兄貴はアタシと一緒にお風呂に入りたいということだろうか?

 兄貴と一緒にお風呂……。

 

 

『桐乃、もっとこっちに寄れよ。せっかく数年ぶりに一緒に風呂入ってるんじゃねえか』

『だっ、だから恥ずかしいんでしょうがっ!』

 兄貴に背を向けながら湯船に浸かる。

 京介とお風呂に入るなんてもう何年ぶりのことだろう?

 あの頃とは違う。

 当時のアタシ達はまだ子供だった。

 でも、今はそうじゃない。アタシは女で兄貴は男。

 体つきの違いが嫌でもアタシにそれを意識させる。

『その体勢でいられると……この風呂は2人で入るには狭すぎるんだよ』

 水が跳ねる音がする。

 そしてアタシの背中に兄貴の身体が押し付けられる感触が伝わってきた。それと同時に兄貴の腕が伸びてきてアタシの身体を抱きしめた。

『ほんと、桐乃も大人に成長したもんだ』

 しみじみ語る兄貴。

『あの……アンタの右手、アタシのおっぱい掴んでるんだけど』

 アタシを抱きしめる手はアタシの身体をいやらしく触っていた。

『だって桐乃の胸を掴みたかったんだもの』

 兄貴はごく平然と返してみせた。

『何でよ…………アタシ、実の妹なのに』

『俺にとって桐乃は妹である前に可愛い可愛い女の子だよ』

 気障ったらしい声が耳元で囁かれる。

『俺、桐乃のことが欲しいんだ……』

 兄貴の声はとても官能的だった。

 お風呂の中という環境もあってアタシの脳はもうクラクラだった。

『好きにすれば……。どうせアタシはもう逃げられないんだし』

『じゃあ、好きにさせてもらうぜ』

 ゆっくりと重なるアタシと兄貴の唇。

『長い夜になるぜ、桐乃』

『責任は取ってもらうかんね』

 アタシは兄貴へと身体の向きを直してもう1度キスをした。

 淫らな夜の始まりだった。

 

 

「ぐへへへへ。ぐへへへへへへへ。ぐへへへへへへっへへへ」

「何でまた突然よだれを垂らしながら気味の悪い笑いを浮かべ始めるんだ。本気で気持ち悪いぞ!」

 はっ。いけない。またやってしまった。

 これから訪れるに違いない不幸を考えたら再び愉悦に浸ってしまった。

 これじゃあエロい妄想しかしないあやせと変わりがなくなってしまう。

 あやせと同じだなんて舌を噛み切りたくなるほどの恥辱だ。

「とにかく風呂に先に入ってくれ、桐乃」

「えっ?」

 兄貴の言葉に戸惑う。

 一緒に入るってことじゃなかったのか。

 いや、本当にそうなのだろうか?

 兄貴は何かアタシに隠しているのかも知れない。

 何を隠しているのか考えてみると……。

「あっ!」

 兄貴の下卑た欲望の正体に気付いた。

「じゃあアタシ、先に入ることにするわ」

 兄貴の策略に気付いてニヤニヤが止まらない。

 この、ケダモノめ♪

「じゃあ、俺はこの部屋で待っているからな」

 ごく自然に、だけどアタシにとってはわざとらしく聞こえる口上を述べる兄貴。

 アタシは着替えとシャンプーその他を持って兄貴の部屋へと向かった。

 

 

 兄貴の部屋の風呂、要するにアタシの部屋の風呂と同じ作り、は1人暮らしのワンルームの部屋のものだけあって高坂家のお風呂より狭い。

 ちょっと不満を覚えつつも、若い男女が愛し合いながら入浴するのにはこのぐらいの狭さが丁度良いと思い直す。

 そしてこの日の為に取り寄せた特製のボディーソープで身体をピカピカに磨き上げる。

「全ては……今夜の為に♪ ううん。今夜よりももっと早い事態に対応する為に♪」

 耳を済ませながらその瞬間が訪れるのを待つ。

 ところが……。

「遅いっ!」

 兄貴はいつまで経ってもアタシの前に現れなかった。

『いやぁ~桐乃がまだ入っていることに気が付かなくてめんごめんご』

 ヘラヘラした顔でアタシの入浴を覗きに来る筈の奴が現れない。玄関が開く音さえもしないのでまだ隣の部屋を出てもいないことになる。

 アタシの堪忍袋の緒は切れた。

 バスタオル1枚巻いた状態で部屋を出てアタシの部屋へと駆け込んでいく。

 

「兄貴っ! これは一体どういうことなのっ!」

 大の字になって床に寝転んでいる兄貴に向かって怒鳴る。

「ん? 何がだ?」

 半分眠った状態の兄貴が上半身を起こしながらアタシを見る。

「へっ?」

 兄貴は目を丸くし

「ええと、とりあえず服を着ろ!」

 ついで焦った声を出した。アタシのバスタオル姿に焦ったらしい。

 でも、アタシは兄貴の言うことを聞けなかった。

「話を逸らさないで頂戴っ! これはどういうことかと訊いているのよ!」

「ていうか……ごめん。何がだ?」

 兄貴は大きく首を捻った。

 アタシが何に腹を立てているのか本気で理解していないらしい。

 仕方なくアタシはこの低脳な兄に解説してあげることにする。

 

「アタシがお風呂に入っているのに、どうして覗きに来ないのよ? アンタ、ホモなの?」

 美少女な妹に欲情しないなんてあり得ない。コイツはもしかするとE.T.じゃなくて、CDでもなくてそんな感じの何かかも知れない。

「ええと、もう1回言ってくれるか? 聞き間違いした気がする」

 一方で兄貴は更に渋い顔をしてみせた。

「アタシがお風呂に入っているのにどうして覗きに来てくれないのかってのよ!」

 兄貴の不誠を声を大にして追及する。

「一緒に入らなかったのは、後でこっそりと覗きに来るつもりだったからなんでしょ!」

「いや、全然そんなつもりはなかったんだけど」

 兄貴はブンブンと首を横に振ってみせた。

「えぇえええええええええええぇっ!?!?」

 兄貴の反応にショックを受ける。

 15歳の美少女妹のお風呂を覗こうと考えないなんて……。

 

「見てみなさいよっ! このシミ一つない艶々のお肌をっ! 綺麗でしょ!」

 兄貴にピカピカに磨き上げた肩を見せる。

「まあ、確かに綺麗だけど」

 兄貴は僅かに目を逸らしながら認めてみせた。

「そうでしょ。自慢の肌なのよっ! 読モ舐めんなっての! つまり覗いて当然。覗いて然るべきでしょうがっ!」

 まったく、兄貴には美を必死になって追い求める気概が欠けている。だから平凡な顔で平凡な人生しか歩めないんだ。そんな人生改めなさいっての。

「いやいやいや。ないからな」

 兄貴は首と手を左右に振ってアタシの訴えを更に否定する。

「何故よっ!」

「何故って、そりゃ、俺達が実の兄妹……」

 大声で兄貴の発言を遮る。

「兄妹である以前に男と女でしょうがっ!」

 兄と妹であっても子供は産める。これは兄妹よりも男と女であることが優先される事実を示している。

「いや、逆だろ。普通。男と女である以前に兄妹だろうが」

 けれど兄貴は頑なにアタシの言葉を認めない。

 あんなにも沢山の妹エロゲーをプレイさせて啓蒙したというのに。やはり黒いのと付き合ってリア充思考に脳を毒されてしまっているのかもしれない。

 

「いいわ。なら、寛大なアタシがもう1度だけチャンスをあげるわ」

 寛大なアタシは馬鹿で間抜けで愚かな兄貴にもう1度だけ更生の機会をあげることにした。

「チャンス?」

「アタシはこれからお風呂に入り直してくるわ。後は言わなくても分かるわよね?」

 兄貴の顔をジッと見る。

 ところが兄貴はここでもアタシの意を受け入れなかった。

「馬鹿を言うなっての。妹の風呂を覗くなんてそんな変態っぽい真似ができるか」

 兄貴は頑なに覗きを拒否する。

「とにかくっ! 覗きに来るまでお風呂から出て来ないんだから! 分かった!?」

 言葉による交渉はおしまいにし、兄貴がアタシに対する欲情を抑えきれなくなるのを風呂場で待つことにする。

 アタシのバスタオル姿も目に焼き付けたことだし、覗きにきて襲い掛かってくるのは時間の問題だった。

 そう時間の……。

 

「8888、8889、8890、8891……」

 ……兄貴はいつまで経ってもお風呂を覗きにきてくれなかった。

「酷い。酷すぎる……。まさか本当に覗きに来てくれないなんて」

 このままではお湯に解けきってしまう。

 これ以上の入浴を諦めて次なる作戦に移る決意を固める。

「もうアタシは怒ったんだからぁ~~っ!」

 アタシと兄貴の戦いは次なるラウンドへと移行したのだった。

 

 

 

 

 お風呂から上がってパジャマに着替え自分の部屋へと戻る。

 兄貴は英単語を暗記するのに忙しそうだった。

 言い換えればアタシの入浴には本当に興味がなかったことになる。

「フンッ!」

 兄貴を睨んでから顔を背けた。

「そろそろ機嫌直せよな」

 兄貴が半目で困ったように顔を上げる。

「だったら誠意を見せなさいっての!」

「誠意って?」

 首を捻る兄貴。

 妹の願望も分からない愚かしい兄に仕方なく丁寧に伝えてあげる。

「今夜はアタシと寝なさいっての!」

「はぁああああぁっ!?」

 兄貴は大声を出しながら驚いた。ついで呆れた表情を見せた。

「なあ、桐乃。そりゃあ昔は同じ布団で寝ていたこともあったさ。でもな、今は俺は18歳でお前は15歳だ。同じ布団で寝るような年齢じゃない。分かるよな?」

 兄貴は優しく諭すように言った。

 とても優しい表情。

「はっ!」

 兄貴が何を言わんとしているのかアタシは唐突に理解した。

「よく分かったわよ、兄貴」

「そうか。分かってくれたか」

 嬉しそうに頷いてみせる

「うん。今日からまた一緒に暮らせるようになったんだし、アタシもなるべく兄貴と争わないいい子でいたいと思うし。なので、一緒の布団で寝るのは諦めるわ」

 兄貴はアタシの話を聞いてウンウンと頷いた。

「まあ、俺としても妹の言うことはできるだけ聞いてあげたいんだが。ちょっと、こればっかりはな」

「まっ、今はその言葉で満足してやるわ。10日ぶりだけど京介は相変わらずのシスコンみたいだしね」

 兄貴はこの10日間でアタシに会えない寂しさを募らせてシスコンをこじらせた。

 それが分かったのは大きな収穫だった。

「はぁ~」

 大きく安堵してみせる兄貴。

「それにしても兄貴も大胆になったわねぇ」

 そんな兄貴を見ながら今度はアタシが大きく頷いてみせた。

「何がだ?」

「兄貴に比べたらやっぱりアタシはまだまだ子供だわね。さすがは高校生。18歳」

 両手を頬に当てて顔を左右に振る。

 大人びていると言っても中学生のアタシとはやはり次元が違う。

 そんな超次元の京介をアタシを怪しんでいる。

 どうやらアタシに全部を言わせたいらしい。この鬼畜が♪

「初夜からいきなり布団じゃなくて、青姦が良いだなんて。恥ずかしいけど、アンタの変態趣味に付き合ってあげるわ」

 そう。京介はアタシが初めてにも関わらず外でエッチしたいという願望を持つ超鬼畜変態だったのだ。

 

 

『あ、兄貴……本当にこんな所でする、の? ここ、公園だよ?』

 同じアパートで暮らし始めたはじめての夜、兄貴に無理やり手を引っ張られたアタシは児童公園まで連れてこられた。

『ああ、そうだな。俺と桐乃が昔よく遊んだ思い出の公園だな』

 そう。ここは、アタシが幼い頃兄貴とよく一緒に遊んだ公園だった。

『あの滑り台を昔はよく一緒に滑ったもんだったよな』

 兄貴の視線の先には滑り台が10年前と同じく存在していた。

 でも、アタシ達が大きくなったからか、昔より小さく見えた。

『よし、あの滑り台をベッド代わりにしてさっそく楽しもうぜ』

『えっ?』

 兄貴は強引に手を引いて滑り台の所へとアタシを連れて行き、滑り台の合金製の斜面にアタシの背中を押し付けた。

『ま、マジでここでする気なの?』

『うん。マジマジ♪』

 やたら軽く答える京介。

『あ、アタシ……初めてなのに……』

『星空の下なら忘れられない思い出になるって♪』

『でも、外でなんて……だ、誰かに見られでもしたら……』

『俺は見られている方が燃えるんだよ♪』

 兄貴の手がアタシのシャツのボタンに掛かる。

『桐乃が空の星の数を数えている間に終わるさ♪』

『星の数なんて10ぐらいしかないじゃないのよ。……どんだけ早いのよ』

 こうしてアタシの初体験は変態な兄貴色に染め上げられていく最初の一歩となった。

 

 

「ぐへへへへ。ぐへへへへへへへ。ぐへへへへへへっへへへ。ぎっぎょぎょぎょっぎょ」

「何度も何度もよだれ垂らして気味悪い笑いを突然浮かべるなっ!」

 はっ! 

 またエロあやせ化してしまった。

 あれとだけは何としてでも一線を画さないといけないというのに。

 アタシは慌てて表情を引き締め直した。

「とにかく、ちょっと寒そうだけど、大丈夫なの。すぐに熱くなってくる筈だから」

 冬山で遭難した時と同じ。

 男女が裸で暖めあっていればすぐに熱くなる!

「いや、ちょっと待て。お前は何を言っている? 初夜って何のことだ?」

「愛し合う男女が初めてを迎える夜のことに決まってるでしょ」

 当然の返答をしたら兄貴はとても遠い瞳でアタシを見た。

「何を勘違いしているのか分からんが、俺は1人で寝るからな」

「えぇええええええええええぇっ!?」

 兄貴の仰天発言にアタシは顎が外れんばかりに驚いた。

「嘘よね? 冗談よね? 10日ぶりに会ったのよ!?」

「例え10年ぶりでも答えは一緒だっての。俺達は実の兄妹だろうが」

 兄貴の態度はやたら冷たい。

 まるで女をもてあそぶだけあそんでポイッと捨てるプレイボーイのよう。

「酷いじゃないっ! ここまで期待させておいてっ! アタシはこんなにもドキドキしているってのに! 心も体もバッチリ準備ができているってのに!」

 今夜という日を迎える為にアタシがどれだけの努力を重ねてきたのか兄貴は分かっているのだろうか?

「準備って……とにかく俺はもう寝るぞ」

 兄貴は軽く目を瞑りながら息を吐き出した。

「俺の部屋で俺1人でだ」

 声こそ荒げていないものの、強い意志が篭められていた。

 譲りそうにない決意が見て取れる言葉だった。

 

「分かったわよ。アタシ、どうかしていたわ。きっと京介と久々に会ったから感情が高ぶっていたんだわね」

 兄貴の決意が固い以上、方針を替えるしかない。

「うんうん。そうかそうか」

 兄貴はやたら嬉しそうに頷いている。やはり道を変えて正解だった。

「もうこんなことは口にしないわ。質実剛健を旨とする高坂家の息女らしく自重するわ」

「うんうん。いい心がけだ」

 兄貴が喜んでくれてアタシもとても嬉しい。

「あっはっは。それほどでも」

「で、本音は?」

「うん。兄貴がどうしてもその気にならないというのなら、草木も眠る深夜になるのを待って夜這いを……」

 あ……っ。

 兄貴はアタシの部屋を出て行き、厳重に戸締りをしてから寝てしまった。

 アタシは室内に入れなかった。

 

******

 

 独り寂しく寝て起きた翌朝。

 アタシは日曜のひと時を兄貴の部屋で兄貴が準備した朝食を共に採りながら過ごしていた。

「最近は思うのよ。ブラコンは個性だって。兄貴もブラコンの希少性とその価値をまず正しく認識しなさいよね」

 いきなりのゴールインが難しい以上、兄貴を啓蒙することが現在最優先される仕事だった。そう。兄貴を妹のことしか考えられない真のお兄ちゃんとして覚醒させることが。

「美味いだろ、この味噌汁」

 兄貴はアタシの顔を見てニッコリと微笑んだ。

「まあまあね。お母さんのよりは美味しいかも」

 料理が全く出来ないアタシと比べたらプロ級のお袋の味。

 京介の奴、いつの間にこんな料理の腕を?

「麻奈実昨日作って持ってきてくれたんだ」

「……やっぱり地味子味か。どおりで昔飲んだことがある味だと思ったのよね」

 味は変わらないのに急に美味しくなくなった。

 地味子に出せてアタシには出せないこの味……。

「まあ、いいや。それでブラコンと言うのは……」

「この漬物も美味いだろ」

 兄貴はナスときゅうりのお漬物を差し出してきた。

 一口ずつパクッとしてみる。

「まあまあね。スーパーのよりは美味しいかも」

 市販品とは違う、味わいに奥行きが感じられる一品。

「麻奈実に料理を習い始めた加奈子が持ってきてくれたんだ」

「あの一生涯料理とは無縁そうな加奈子までがそんな真似を……チッ」

 加奈子の奴、好きな男ができた途端に尽くす系の女に生まれ変わるなんて。

 ほんと、侮れないわねあの三次元メルルは。

「本当に料理が上手くなったよな、加奈子のやつも」

 満面の笑みを浮かべる京介。なんか、自分の娘の成長を喜んでいるかのよう。

 すごく、面白くない。

「でも、まあ、これも放っておく。ところでブラコンと言うのは……」

 アタシが啓蒙に成功すれば妹以外は目に入らなくなるのだから。

「明るいだろ、電灯。あやせが今流行の省エネLED蛍光灯を持ってきてくれたんだぜ」

 そして明かされるストーカー女あやせの介入の痕跡。

 あの蛍光灯には……隠しカメラか収音装置が内蔵されている可能性が高い。

 アタシと兄貴が愛し合う様を見せ付けてやるのもいいけど……早い内に理由をつけて処分しよう。絶対にだ。

 それはさておき……

「さてはアタシの話を聞く気がないんでしょう?」

 兄貴を睨む。

 一方で兄貴はそ知らぬ顔でアタシをスルーしようとしている。

「大事な話なのっ!」

 声を大にして訴える。

「まあ、確かにあれだ。これから一緒に暮らしていくのに放っておく訳にもいかないよな。リアルとゲームがごっちゃになってしまっているゲーム脳の妹を」

「ゲーム脳って言うな! 個性よ、個性。アタシのアイデンティティだっての!」

 自分の胸を叩きながら熱く語る。

「で、結局何が言いたいんだ?」

 兄貴が面倒臭そうにアタシを見ている。

「アタシがわざわざアンタと一緒に食事してあげるんだから、ご褒美に抱っこぐらいしなさいっての」

「最近のお前の頭の中身がどうなっているのか、俺は兄として本気で心配になってきたぞ」

 兄貴に思い切り心配されてしまった。

「ごめん。ちょっと調子に乗ってた」

「分かれば良いんだよ」

「抱っこは諦める。キスで十分よ」

 仕方なく次善の選択肢を提案する。

「おいっ。ハードル上がってるぞ」

「抱いてくれるだけでも良いわよ」

「それって所謂ハグじゃなくて男と女の関係ってことだよな?」

 兄貴の顔が引き攣った。

「とにかくアタシはご褒美が欲しいのよっ! どうしてそれが分からないのよ! 妹は思春期なのよっ!」

「逆ギレかよ! そしてそれはまた別の作品だっ!」

 兄貴は少しもアタシの要望を聞き入れてくれない。

 だけど……フフフフフ。

「でも、既にアタシの術中に嵌っているとも気付かないで愚かなことね」

「何がだよ?」

 愚かな兄貴にアタシの仕掛けた壮大な罠の正体を披露する。

「こうしてたわいもないやり取りを続けること自体が既にイチャイチャの範疇に入っているのよっ! 第三者がこの状況を見ていれば、アイツらいちゃついてやがるって思うに違いないわ」

 泥棒猫あやせは今頃ハンカチを引き千切って悔しがっているに違いない。ザマァ~♪

「罠に落ちたことも知らずそんな平和な顔をして兄貴ってば超ウケるぅ~~♪」

 21世紀の孔明とはアタシのことなのよ。あっはっはっはっは。

「おかわり、いるか?」

「うん♪」

 地味子の作った味噌汁も加奈子の漬けた漬物もすごく美味しかった♪

 

 

 

 日曜のお昼のひと時を兄貴とアパートの敷地の片隅に椅子を並べてのんびりと過ごす。

「いい天気ね~。これで兄貴の膝枕でもあれば最高なんだけど」

 兄貴の顔をチラッと見る。

「言っておくけど、やらないからな」

 兄貴はごく自然な笑顔で断った。

「これで兄貴の膝枕でもあれば、思い残すこともないんだけど……」

「一気に湿っぽくなったな」

 笑顔が面倒臭そうな表情に変わった。

「桐乃が家を出ることになった遠因には俺とあり得ない噂を立てられたことがあるからな。スマンとは思ってる」

 兄貴は複雑そうな表情を浮かべた。

 どうやらアタシが家を追い出されたと思っているようだ。

 それは勘違い。

 勘違いなのだけど……勘違いしていてくれた方が都合が良い。

「アタシは別に京介と一緒なら……洞窟でも橋の下でも」

 荒川橋の下な世界だって。

「ありがとな。桐乃」

 兄貴が頭を撫でてくれた。

 凄く懐かしい感じがした。

「お礼を言うのはアタシの方よ。あのまま実家にいても……」

 兄貴と男女の関係にはなれない。そう続けようとしたら兄貴に言葉を遮られた。

「湿っぽい話はここまでにしようぜ」

「兄貴……」

 兄貴の顔をジッと見る。

「うん?」

 ここに来てから本当に久しぶりにとても穏やかな気分になれた気がする。

 小学生の時以来に。

「大好きっ♪」

 その言葉はごく自然と出た。

 自分でも驚くぐらいに。

「俺も、桐乃が大好きだぜ」

 兄貴からとても自然に好きだと言われてしまった。

 きっ…………キィィィタアアアアアアアアアアアアアァッ!!

 アタシは嬉しさのあまり卒倒した。

「……兄貴と2人きりの平凡な生活。桐乃は幸せ……です。本当に……夢のよう」

 兄貴に背中を支えてもらえながらこの幸せに浸る。

 こんな幸せがずっと続いたら良いなあ。

 ううん。きっと続くに決まっている。

 アタシと兄貴の2人きりの平凡だけど幸せな生活が……。

 

 

 

「……兄貴と2人きりの平凡で幸せな生活になる筈だったのに」

 現状に、あってはならない現実にアタシの頭はおかしくなりそう。

「何でこうなったのよぉ~~~~~~っ!!」

 悲しいまでに思い通りにならない現況に大声で不満を漏らす。

 

「桐乃。大声出したら受験勉強中のお兄さんにご迷惑だよ」

「何であやせがこのアパートに引っ越してくるのよっ!」

「たまたま偶然にわたしの部屋をダイナマイトで吹き飛ばしてしまって、当分の間外で暮らすことになって、たまたま偶然にこのアパートに空き室があったから」

「あの部屋、あやせが引っ越してくる前日まで普通にOLが暮らしていたわよっ!」

 ストーカー女、大敵新垣あやせが同じアパート、しかも京介の隣の部屋へと越してきた。

 

「そう怒るな桐乃。京介の身はこの加奈子様が守ってやるから心配するなっての」

「加奈子もあやせ同様に敵だってのっ! 何でアンタまでこのアパートに引っ越してきたのよ?」

「いやぁ~。最近姉貴の所にも居辛くなってさ。どこか住む場所を探して事務所に相談したら、新垣家がこのアパートのオーナーになったとか何とかで安く入居できるってんでここに住むことにしたんだ」

「やっぱりあやせは裏で色々仕組んでるんじゃないのよっ!」

「まあ、何はともあれ京介の彼女になれるようにこれから頑張るぜ」

「頑張らなくて良いわよ~~っ!!」

 最近になって京介に素直に愛情を表現するようになったダークホース来栖加奈子も京介のちょうど真上の部屋へと引っ越してきた。

 

「まあまあ~きりのちゃん。そんなに怒ったら美人さんが台無しだよ~~」

「アンタの存在が一番怖いのよ。何でアンタまでこのアパートに越してきてるのよ!?」

「あやせちゃんの渡す~だいなまいとの調合にちょっと失敗しちゃって~自分の部屋を吹き飛ばしてしまったからなんだよ~てへっ♪」

「アンタがあやせの黒幕か~~~~っ!!」

 黒いのと並び京介のお嫁さん候補ナンバー1の強敵地味子までこのアパートに引っ越してきた。

 

「兄貴との背徳的で官能的でラブラブな生活の筈が……これから一体どうなっちゃうのよぉ~~~~っ!!」

 アタシの嘆きの声が11月の青空に木霊したのだった。

 

 

 

 

 

 

 


 
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