No.509433

真・恋姫†無双 異伝 「伏龍は再び天高く舞う」外史動乱編ノ九


 お待たせしました!と言っても今回も早めですが。

 今回より劉璋討伐編…なのですが、そこにいろいろと

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2012-11-17 23:17:54 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:7295   閲覧ユーザー数:5523

 

 ~成都にて~

 

「そういえば最近は董卓よりの使者は来ぬのぉ。ようやく諦めおったか?」

 

 その太った体を面倒に揺すりながら、そう側近に聞いていたのは一応ここ

 

 益州の太守をしている劉璋である。

 

(ちなみにこの時点で劉弁は劉璋追討の勅を発しているので公的には太守の

 

 職を剥奪されている)

 

「はっ、何と言っても劉璋様がいてこそ、この益州の平穏も保たれていると

 

 いうもの。董卓殿もその辺りをようやくご理解なされたものと」

 

 そう返事をしたのは劉璋の側近である王累である。

 

「そうか、そうか。しかし余とて王累と張任の助けがあってこそじゃがの。

 

 とはいえ、これで余の地位も安泰よの。はっはっは」

 

 どこからどう見てもお世辞にしか聞こえないような王累の言葉に劉璋は

 

 満面の笑みで答える。少々この人の頭は残念な構造をしているようだ。

 

「それでは私は張任殿と相談いたしたき儀がございます故、これにて失礼

 

 させていただきます。劉璋様は奥にてお休みを。いつもの様に準備は整っ

 

 ておりますので」

 

「おおっ、そうか。それならば行かずばなるまい。では王累、後は任せる」

 

 そう言って劉璋は先程までとは比べ物にならない位の速さで奥へと消えて

 

 いった。準備というのは言うまでもなく伽の相手の事である。劉璋の頭の

 

 中は既にその事で一杯になっていたのである。

 

 それを見送っていた王累はそれを完全に馬鹿にしたような目で見ていたの

 

 であった。

 

 

 

「それでは王累殿、劉弁皇帝はこの益州に攻め入ってくるというのか!?」

 

 そう王累に詰め寄ってきたのはこの益州の筆頭武官を務める張任であった。

 

「ああ、この間来た使者を斬った事に対する報復であろう」

 

「しかし、あれは向こうの態度に原因があったのであろう?何故、我らが攻め

 

 られるのだ?」

 

 張任のその質問に王累はわざとらしく渋い顔をして答える。

 

「それは首を持って行かせた者にも伝えさせたのだが、どうやら聞く耳を持た

 

 ぬようじゃな」

 

「何たる事か!!いくら皇帝だからと言っても理不尽が通用すると思っている

 

 のか!!」

 

 張任はそう声を荒げる。王累はそれを見てほくそ笑みながら続ける。

 

「張任殿の仰られる通り。だからこそ我らは黙ってこのまま攻め込ませるわけ

 

 には行かぬのだ」

 

「ならば王累殿…」

 

「ああ、この益州全土が火の玉となって討伐軍とやらに思い知らさせてやらね

 

 ばならん。その為に全ての城に戦支度をさせているところだ」

 

「あい分かった!ならばこの張任に全軍の指揮はお任せあれ」

 

 その言葉を聞き、王累はさらに笑みを深める。この男を味方につければ、

 

 まず間違いなく劉璋の為に命尽きるまで戦ってくれるからだ。張任は真面目

 

 で融通が聞かない分、これと決めたら揺るぐ事も無いのだ。

 

「しかし王累殿、我らだけではいくら益州が天然の要害とはいえ心許無いので

 

 はないのか?向こうは四方八方から攻め入ってくるだろう?」

 

「それについては問題無い。皇帝に憤っているのは何も我らだけではないのだ

 

 からな。事が起きると同時に同士が蜂起してくれる。それを待て」

 

(くくっ、儂にも運が向いてきたかの。精々儂の為に働いてくれよ、張任。そ

 

 して「張怨」よ。折角儂が相国の使者を斬ってまでお膳立てしてやったのだ

 

 からな。皆、手の上で踊らされているだけとも知らずにの…ふっふっふ)

 

 

 

 その頃、ここは荊州と揚州の境目の辺りより少し揚州寄りに行った辺りにあ

 

 る山の中である。一見すると普通の山であるが、実は中に入るとそれは一つ

 

 の城になっていた。そしてそこには数千にのぼる兵が潜んでいたのであった。

 

 そのほとんどが黄巾の残党や山賊の成れの果てのような連中であったが、そん

 

 な者達が集まっているのに誰にも知られる事なく今日まで至っていた。それは

 

 この集団の頭目がここに集まった者達に殺人や略奪を禁止してきたからだ。

 

 しかも、それだけの統率をしながら、その頭目は姿を見せる事はあまり無く、

 

 兵の中でも見た事が無い者もいる位であった。ただ「張怨」と名乗る女性らし

 

 いという事だけは知れ渡っていたのである。ちなみに「らしい」と記したのは、

 

 その姿を遠くから一目見た者がその体つきから女性である事だけを判別出来た

 

 からである。体つきでしか判別出来なかったのはその女性が深々と兜を被って

 

 いたからであった。

 

「お頭、洛陽の方で動きがあったようですぜ。お頭の言う通り、益州へ攻め込む

 

 つもりのようです」

 

 側近の一人が頭目にそう伝える。その言葉に反応するように頭目が振り向くと

 

 その男はビクッと体を強張らせる。

 

 何故ならその頭目は所々焼け焦げた跡のある銀の兜をすっぽりと被り、その奥

 

 には怪しげに光る眼だけが見えるからだ。

 

「わかりました。それではこちらも準備をするよう伝えてください」

 

「それじゃ…!」

 

「ええ、ずっと我慢させてきましたが事をおこした時には好きなだけ好きな物を

 

 略奪して結構です」

 

「ひゃっほ~っ!!この一年余り、我慢に我慢を重ねてきた甲斐があったっても

 

 んだぜ!!」

 

「但し、必ず私の指示には従うように」

 

 その視線に射られたかのようにその男の動きが止まる。

 

「わ、わかってますって…」

 

「ならば行きなさい」

 

「はいっ!」

 

 側近が駆け出して行くと、その頭目はその怪しげな眼の光をさらに怪しく光ら

 

 せて考え事をし始める。

 

(私はお嬢様と笑って過ごせてさえいればそれで良かった。でもこの世界は私を

 

 否定した。ならば、今度はこっちがそちらを否定する番…覚悟していてください、

 

 孫策、北郷、そして諸葛亮…北郷軍が益州に攻め入るなら、確か王累とか言いま

 

 したね…この方には精々役に立ってもらいましょう)

 

 

 

 ~南陽にて~

 

 劉弁の命を受け、劉璋討伐の為に北郷軍を中心としてここに軍を集結させる…

 

 予定であったのだが、ここに来て少し予定が狂って来ていた。

 

「白蓮の所も援軍には来れないのか…葵さんからも五胡の動きが急に活発になって

 

 きたからと援軍が中止になったばかりだというのに…」

 

「西涼からの援軍ならここにいるぞぉーーーー!!」

 

 俺がぼやくと同時に蒲公英がそう声をあげる。

 

「いや、お前は半ば無理やりこっちについて来ただけだろう。それにお前が連れて

 

 いる兵は三十人程だしな…ていうか、蒲公英は西涼に帰らなくてもいいのか?五胡

 

 が動くのなら、お前の力が必要になるんじゃないのか?」

 

「いいの、いいの。葵伯母様や翠姉様には『こっちは何とかするから北郷殿の力にな

 

 ってやりなさい』って言われてるしね」

 

「そうか、なら期待してるぞ」

 

「うんうん、蒲公英、一刀お兄様の為に頑張っちゃうから!!」

 

 俺がそう声をかけると蒲公英はすごく嬉しそうに答える…お兄様?

 

「え~っと、蒲公英?今の『お兄様』って?」

 

「今日からそう呼ぶって蒲公英もう決めたから!!」

 

 蒲公英はそう宣言してさっさと自分の兵の所へ向かってしまった。

 

 流琉に続いて蒲公英からも「兄」と呼ばれるのか…まあ、悪くはないけどね。

 

 

 

「風もお兄さんの事を『お兄さん』って呼んでますけどー?」

 

「うわっ!?風、何時からそこに?」

 

「風は常にお兄さんと一緒にいるって決めたんですー。だからお兄さんのいる所に必ず

 

 風の姿ありですねー」

 

 突然現れて半ば勝手に側近宣言しているのは星の友達で程立…いや、程昱である。

 

 何故彼女がここにいるのかというと…何故だろう?何時の間にか現れて『風は今日か

 

 らお兄さんの軍師になるのですー。そして今日から程昱と名乗る事になったのですー。

 

 でもお兄さんは真名の『風』と呼んでくださいねー』って勝手に宣言して勝手に居座

 

 ってしまったのである。ちなみにもう一人友達がいたのだが、その彼女は思う所があ

 

 って何処かへ旅立ってしまったらしい。

 

 最初は突然現れた彼女に対して皆、訝しげな態度を取っていたが、彼女の有能さや雰

 

 囲気に接しているうちに短期間ですっかり溶け込んでしまったのである。実際、俺も

 

 程昱という名前を聞いた瞬間に、彼女があの?って思ったのだが。

 

 しかし『もしかして改名したのって俺が君にとっての日輪になったという事か?』と

 

 聞いた瞬間に『やっぱり風の眼に間違いは無かったのですねー。不束者ですが、末永く

 

 よろしくお願いするのですー』とまるで嫁いできたかの如くに言ってきた時の朱里の顔

 

 とその日の晩の事は…ブルブル。

 

 と、それはさておき、そういうわけで彼女は何時の間にか我が軍の軍師としてここに

 

 いるのであった。雛里が抜けた穴を埋めてくれてるし、まあいいか。

 

 

 

「一刀、援軍ならここにもいるけど?」

 

 そう言ってきたのは雪蓮であった。

 

「ああ、頼りにしてるよ、雪蓮。でもいいのか?確か揚州で大規模な賊が出たとか聞い

 

 たけど?」

 

「多少今までよりも大きいみたいだけど、賊如き蓮華達で十分でしょ。すぐに鎮圧する

 

 に決まってるわ」

 

 まあ、確かに孫呉の兵は強いからな。心配するまでもないか。と、その時…。

 

「孫策様に申し上げます!!」

 

 そこに一人の孫呉の兵が駆け込んできた。

 

「どうした!そんなに慌てて何があった!!」

 

「昨日、賊討伐に向かった孫権様の軍が敗退!孫権様は手傷を負われたものの、何とか

 

 無事ではあるのですが…」

 

 そこまで言ってその兵は口を噤む。

 

「…どうした、蓮華はって、まさか」

 

「陸遜様が賊の放った毒矢に当たり、現在意識不明の重体。甘寧様、周泰様も負傷され、

 

 現在治療中です」

 

 その時、その場にいた全員が騒然となる。

 

「ごめんなさい、一刀…」

 

「わかっている。そんな状態じゃ援軍なんて言ってる場合じゃない。益州の方は俺が何と

 

 かするから雪蓮は戻れ」

 

 そして雪蓮は軍を率いて戻っていったのであるが…しかしこれは何か嫌な予感しか

 

 しない。これから始まる戦いはどうやら一筋縄ではいかないようだ。

 

 

 

 その頃、張怨の城では、

 

「わっはっはっはっは!!見たか、あの孫呉の奴らの顔」

 

「ああ、俺達が現れた瞬間、鬼でも現れたかのようなあの慌てっぷり。今思い出しただけ

 

 でも笑いが止まらねぇよな!!」

 

 略奪した物資とその時の話を肴に宴会となっていた。

 

 その奥では張怨が一人静かに酒を飲んでいた。

 

「お頭、折角の勝ち戦なんですから、もっとパ~っといきましょうや!!」

 

 酒の勢いもあったのか側近がズカズカと近づいてきたその瞬間、張怨は冷たい眼を向ける。

 

「ひっ!」

 

 その眼に射すくめられたその男は酒の酔いも何処へやらその場で腰を抜かす。

 

「…私の事は気にせずに楽しみなさい」

 

 張怨のその言葉に男は慌てて這いずるように去っていった。

 

「まだ始まったばかり…それに本当はここで孫権を仕留めるはずだったのに…でもこれで次は

 

 孫策が出てくるはず…次こそは」

 

 張怨はその冷たい眼で空の彼方を見つめていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

                                

 

                                   …続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 とても早く再会出来ました。今回は珍しくここまでスラスラと書けました。

 

 このモチベが続いてくれれば良いのですが。

 

 ちなみに「張怨」の正体は言わずとも皆様分かっていらっしゃるかとは思い

 

 ますが、本来なら主君を愛でるのだけに一生懸命なあの方です。

 

 しばらくこんなキャラで行きますので。

 

 

 それでは次回、外史動乱編ノ十でお会いいたしましょう。

 

 

 

 

 

 

 追伸 今、揚州に医者王が向かっている最中ですので。

 

 

 

 


 
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