「あ、おかえりなさいノワールさん」
「・・・フンッ」
「ただいま戻りました」
セーフハウスに戻るとフェイトはほっとした様子で。アルフは少し不機嫌に鼻を鳴らしている。
「あの子はどうなりましたか?」
「今日の朝には目も覚めて一緒に朝食も取ってきた。またあいつらは向かってくるそうだ。
すまない、俺にはもうあいつと戦うのは・・・。戦闘しか役に立たないのにな」
「いいんですよ。ノワールさんはいろいろ助けてもらってます。それに...」
「?」
「始めて会った時はすごく冷たい目で・・その・・・・」
「あ・・・」
そういえば最初にフェイト達と会った時は殺気を飛ばしていた。それ以降も仕事と考えてサバサバと・・・
「今はその、昔の母さんみたいに・・・すごくやさしい・・・・目です」
「・・・そうか」
今は・・・か。やはりフェイトの背中にある傷は母親に。
ワンピースやレオタードのようなバリアジャケットなど薄い服装が多いのでよく目立っていた。
しかし俺は、ダメだな・・・近くに俺のことをちゃんと見てくれている子も居たというのに・・・俺は相手をちゃんと見ていなかった。これからは相手をちゃんと見ないとな。
「フェイトさn・・・いや、フェイト」
「え?あっ、はいっ!」
「いろいろと勝手をしてすまなかった。戦いもあの魔導師達とはもう行えないと思う。
けど、なにかフェイトが危なくなったら俺が絶対に助けてやる」
「えっ!?あ、え?」
「あっ・・すまん。突然こんな事言って・・それに人間なんだから絶対なんてないのに・・な。俺なに馬鹿なこと言ってんだろ・・・あいつらに影響されたのかな・・は、ははは・・・・」
我ながら気恥ずかしいことをズケズケとよく言えたものだ。
相手を困らせてしまうばかりで相変わらず迷惑を掛けてしまう。
「そ、そんなこと・・そんなことないです!ノワールさん!」
「フェイトさん?」
「もう、フェイトでいいですよ。わたしもその・・・ノワールって呼びますから・・これからも一緒にお願いします!///」
「あ・・・。ああっわかった!これからもよろしくなフェイト!」
互いの右手を握り合い。フェイトと握手をしているとアルフが静かなことに気が付く。
見るとなにやら目を回していて倒れていた。そして小さく呟いている。
「・・・・お」
「「お?」」
「お腹すいた・・・」
完全に忘れていた。ここの食事やらなんやら家事の全ては俺が担当していたことを。
フェイトは小食だがアルフはその分よく食べる奴だ。
一食でも抜いたら倒れても不思議じゃない。
「す、すまん!作り置きとか用意してなかったな!すぐ作るから待ってろ!」
「もうアルフったら」
「うう・・・だって~」
俺はすぐに台所に向かい。フェイト達の遅い朝ごはん兼お昼ご飯を作り始めた。
その日から少しだけ、フェイト達とのセーフハウスでの生活は笑顔が見えるようになった。
そして次の日の朝、おみやげに貰っていた翠屋のケーキを持ち。
俺、フェイトにアルフの三人は定期報告の為、フェイトの母親の待つ時の庭園に次空転移魔法を使い転移していた。
「相変わらず寂れたところだな」
「昔はもう少し綺麗だったんだけど・・・お世話をする人が居なくなって・・・・」
寂れた庭を見つめて呟いた言葉でフェイトが何かを思い出して悲しげな顔をしてしまった。
「あ・・あ~えーと・・・そういえば通信機を借りたいだけどいいか?」
「アルフ、ノワールの案内お願いできる?報告はわたし一人でいいから」
「ああ、わかったよフェイト」
「悪いね、俺も後で行くから。こっちも傭兵団に確認したいことと定期連絡入れたい事があってな」
「いいえ、大丈夫ですよ」
フェイトと分かれてアルフと二人、時の庭園の廊下を歩きながら話す。
「なあ、アルフ」
「なんだい?」
「いや、いいかな・・・」
相手をしっかりと見ることは決めたがズカズカと踏み込み過ぎるのは良くないだろう。
「さっきの話のことだったらあれだよ・・・もう一人仲間の使い魔の話だよ」
「もう一人の使い魔?」
「リニスって言ってフェイトのお母さんのプレシアの使い魔さ」
「へぇ、流石に優秀な親子だな。親子で使い魔を持っていたのか」
「だけど・・リニスは私やフェイトの魔法の先生でね。魔法とか戦闘の訓練が終わると
もう必要ないってプレシアは契約を切ったんだよ・・・・私達にとっての大事な姉さんだったんだけどね」
使い魔の契約解除。使い魔は主の魔力が無ければ生きていく事ができない。
一度契約が解除されると誰かと再契約でもしない限り。体の魔力がその内切れて死んでしまう。
死んだまたは死に掛けの動物などを素体にする為にその第二の命は主次第・・・。
使い魔ともなれば人間と差して変わらない頭もあり。ある意味、生命の冒涜だ。
ま、人を沢山殺して来た俺が今さら道徳の話などしても意味は無いが。
「すまん。使い魔のアルフからそんな話しを話させてしまって・・・」
「いや、別にいいよ。私のご主人様はあの鬼婆と違って優しいからね。ほら、ここが通信室だよ」
話しているといつの間にか辿り着いていたらしい。
「ありがとう」
「このぐらいのこと別にいいよ♪それにあんたが来てから少しフェイトの笑顔も増えたしね。昨日からは特に。私だけじゃフェイトの笑顔は作れないからさ」
「・・・あ、ああ。そうなら良かった///」
そうも真顔で言われると恥ずかしい。
「な~に照れてんのさ。まあいいや、私はフェイトのところに戻るからまた後でね~」
「ああ、また後で」
アルフと別れて一人通信室の扉を開いて。中の機械を操作し。
エングレイブ傭兵団のアジトにしている世界の座標などを打ち込み通信を送ってみるが....
《・・・・》
「あれ・・・おかしいな」
何度か打ち込んだ数字などを調べても間違いはない。
だというのに通信機には雑音も入らない。
アジトを変えた?いや、それならなにかしらの連絡が来ても可笑しくない。
それにアジトを変えるとなると管理局に目を付けられたりした場合のみで。
それも大分前から事前に分かっており。急に場所を移すことなどありえない。
アジトの通信機にエラーでも起こっているのか。とりあえず出来ることは無い様子なので。
フェイトとアルフの元に戻ることにしたのだが....。
「・・・ここ、何処だ?」
前途多難である。
「はぁ、やっと見つけた」
いたる所を歩きまわって15分後。やっと扉の横で座り込んでいるアルフを見つけて駆け寄る。
「おい、アル〈きゃッ!〉っ!?」
〈あっ!・・ひっ!・・・クッ!!・・・ああぁ!!・・・・〉
扉の奥からはフェイトの物だと思われる悲鳴が聞こえてきた。
アルフを良く見れば両手で耳を塞ぎ。目を閉じて堪えるように座り込んでいる。
中から聞こえるムチの音とフェイトの悲鳴が聞こえないように。
「お、おい!アルフッ!」
「はぁ・・はぁ・・・なんだよ・・なんなんだよ・・・」
「アルフッ!」
「あっ・・ノ、ノワール・・・」
今までのが聞こえていなかったようで。恐る恐るこちらの顔を鳴きそうな目で見つめてくる。
「あっ、じゃないぞ!これはどういうことだッ!」
「フェイトのお母さんだよ・・・あの鬼婆・・・・ジュエルシードをたった4つしか回収できなかったからって」
「それで虐待か・・・アルフはここで待て」
「え!?き、危険だよッ!鬼婆はああ見えてもSランクの大魔道士なんだ!いくらアンタが強くても」
「勘違いするなアルフ。俺は別に戦う訳じゃない、意見しに行くだけだ。
同じ回収を任されている身としてな。それにフェイトと約束したからな。
助けてやるって・・・約束した二日目に破ったら不味いだろ?」
「ノワール・・・ありがとうよ」
「礼は後でだ。行って来る」
悲鳴の聞こえる重い扉を押し開き中に入る。
部屋の中央ではフェイトがロープ状のバインドで両手を左右に開かされて吊るされており。
バリアジャケットを着ているのだがムチに打たれて所々破け。
破れた皮膚の一部からは血が滲み出ている。よくも短時間にここまで痛めつけれるものだ。実の娘を。
「失礼する」
「なにあなた?今、取り込み中なんだけど?あなたもフェイトと同じようにされたい?」
ギロリと蛇のような目でプレシア・テスタロッサがこちらを睨み付けてきた。
「残念ながらそんな趣味はありません。しかしながら進言させてもらいます」
「なにかしら?」
「それ以上フェイトを苛められますとジュエルシードの回収に響きます。
前にも言いました通り自分は魔導戦闘専門ですので」
「本当に役立たずね。高い金を支払ったというのに」
「なんとでも言ってください」
暫しの間プレシア・テスタロッサとにらみ合うと徐にプレシアが持つムチが振られ。
《パシッン!》俺の頭部に当てられた。
だが、俺はなにも言わず仁王立ちのままプレシアを睨み続ける。
どろりとした血が目を伝うが、手で拭いも瞬きもせずままに。
「ッ・・・・」
「つまらないわね・・・ま、いいでしょう。あなたの言うとおりにしてあげる。
ファイト?次はもっといい成果を聞かせてくれる事を母さんは期待しているわ」
フェイトのバインドが解かれ。力なく座り込みそうになったところを受け止める。
そして、プレシア・テスタロッサは何事も無かったかのように闇が続く部屋の奥へと消えていった....。
「ノ・・ワールさん?」
「ああ、俺だ。外でアルフが待ってるぞ」
「・・・・はい」
そのままフェイトを横抱きに抱きかかえてフェイトと共に部屋を出る。
「フェイトッ!」
「アルフ?」
「フェイト!フェイト!フェイト!フェイトー!」
アルフがこちらに駆け寄り。抱きかかえているフェイトに泣きながらしがみ付いてくる。
「うん・・・わたし大丈夫だから。落ち着いてアルフ」
「落ち着けるもんかぁ!フェイトは頑張ったのにこんな・・こんなのってないよ!」
「大丈夫、平気だから。母さんはちょっと不器用なだけだから・・・」
不器用ねぇ・・・あれはそんな目じゃなかった。
プレシア・テスタロッサの目はまるで物を見るかのような。
一切の感情が欠落していた目だった。とても娘を見るような目じゃない・・・。
「なあ・・・」
「なんですか?・・ノワール」
「あ、いや・・・」
寂しげな様子のフェイトを見て思わず声を漏らしたが。
俺もなのはや高町家の人のように振舞えるか自信はない・・・だけど。
「フェイト・・・悲しかったらアルフみたいに泣いていいんだぞ?」
「えっ?」
「・・・俺には親が居なかった。でも、家族に冷たくされて悲しくない子供なんて居ない事くらいは分かる。結果が出せなかったとか・・・自分が悪いとか・・・そんなの全部抜きにしてな・・・。お前には慕ってくれるアルフも居るし・・その・・俺も居るし・・・俺が受け止めてやるから・・・。泣いていいんだ・・辛かったら泣いていいんだぞフェイト・・・・」
こんなこと言って。相手にちゃんと伝わらなかったら黒歴史だな・・・
喋りながら思わず顔を背けてしまっていたので。ゆっくりと腕の中にいるフェイトに視線を向けると
「あ・・・うっ・・・ぁぁ・・・」
ゆっくりと涙を流しながら嗚咽を漏らし始めていて。どうやら思いは伝わったようだった。
「ほら・・泣いていいんだ・・・フェイト」
「ノ・・ワール・・・さん・・う・・ぁぁ!うっ・・・うぁぁぁぁぁぁ!!!!」
フェイトが俺の胸に顔を埋めて抱きつきながら止まることのない涙を流し始め。
俺はその場に座り込み、フェイトを膝の上に乗せたまま彼女を抱きしめて。頭を優しく撫でていく。
「うう・・ノワール!!・・・うぅ・・・」
「アルフお前もか?仕方ないな・・・ほら、おいで」
「・・・うぁぁぁぁぁぁん!!!!」
右腕でフェイトを撫でながら左手でアルフを抱きしめて同じように腕を回して頭を撫でる。
使い魔は主人と精神リンクしているのも影響しているのだろう。先ほどより涙の量は多く。
二人とも言えるが、やはりしっかりと甘える相手も居なかった様子だ。
それからしばらくの間、二人の涙が止まるまでまでゆっくりと頭を撫で続ける。
ちょっと前の自分からは想像も出来ないような行動である。
「いつかあいつらに礼を言わないとな」
そして、3人で再び地球のセーフハウスに戻ったのだが....
「私がやるからフェイトは休んでなよ」
「わたしの所為で怪我させちゃったから、わたしがやる。アルフは下がってて」
「私はフェイトの使い魔なんだ。態々主人にさせるなんて・・ねぇ?ノワール?」
「ノワールはどっちにしてほしい?」
「俺に振るな・・・・」
セーフハウスに戻ると一目散にフェイトの怪我の治療をして。それが終わると次は俺の怪我の治療に移った。
一回だけ頭をムチで打たれただけで、小さな傷が出来ている程度で大げさなことは必要ない。
フェイトの治療と同じく消毒してガーゼを当て、包帯を巻く程度だ。
目に伝うほど血が沢山出たのは頭や顔などは血管が多く通っている所為で。
見た目ほどには怪我は全然酷くない・・・のだけども...
「やっぱりここは使い魔の私が」
「アルフはわたしの治療で疲れてるでしょ?わたしがやる」
「はぁ・・・」
どうやらかなり二人に懐かれてしまったようだ。
ただ、俺は二人にメンタル面で楽になって欲しかっただけなんだが・・・
先ほどからベッドの上で薬箱を広げて座っている状態で。二人に左右から挟まれて。
体がほぼ寄り添っている状態のまま、どちらが治療するかと言う軽い言い争いが続いている。
だが、このまま続けられても夕食の準備もジュエルシード探しにも影響が出てしまう。
「そんなにしたいなら。二人でやってくれないか?」
「あ、はいっ!アルフもそれでいい?」
「私もそれでいいよ♪フェイトは消毒をしてくれる?」
「うん、わかった」
俺の言葉で決着が付き。ようやく頭に包帯が巻かれることになり。
フェイトの疲労からその日はジュエルシード捜索に出ずに休むことにして。
ゆっくりと3人でささやかな休日を過ごすこととなった。
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神様などに一切会わずに特典もなくリリカルなのはの世界へ転生した主人公。原作知識を持っていた筈が生まれ育った厳しい環境の為にそのことを忘れてしまい。知らず知らずの内に原作に介入してしまう、そんな魔導師の物語です。 ※物語初頭などはシリアス成分が多めですが物語が進むにつれて皆無に近くなります。 ※またハーレム要素及び男の娘などの要素も含みます。さらにチートなどはありません。 初めて読む方はプロローグからお願いします。