これは、あるかもしれなかった物語のほんの一部のお話。
拝啓、姉上様
董卓騒動も落ち着きを見せ始め、諸侯の動きが朝廷から独立を始めているいまの時代をいかがお過ごしでしょうか?
私、あなたの弟である桂枝は現在・・・
桂枝
「よし、できた。いつも通りの時間だとそろそろ・・・」
孫策
「おっはよ~桂枝♪わぉっ。今日も朝から美味しそうね!」
桂枝
「おはようございます雪蓮さん。いま並べますのでそちらに座ってお待ちください。」
揚州の孫策さんの元で働いております。
周瑜
「おはよう徐栄。すまないな。毎朝毎朝手間を掛けさせる。」
そういいながら周瑜さんは孫策さんの隣に腰掛ける。その動き一つとっても優雅さを感じることができるあたりさすがは美周郎といったところなのだろう。
桂枝
「いえ、一人作るのも二人作るのも手間としては大して変わりませんよ。」
そんなことをいってるうちに並べ終わった。すぐにお茶を用意し私は一礼。この場をさろうとする。
雪蓮
「あら、いっちゃうの?アナタが作ったものでしょうに。」
桂枝
「ええ、まだやるべきことが残っていますので」
それに主と食事の席を共にするというのは臣としていかがなものかというのもある。
雪蓮
「また遠慮してるの?こっちに来て一緒に食べましょうよ。もう何度も一緒に食べてるっていうのに・・・別に私が主君だからって気にすることはないわよ。」
しかしそういう機微は彼女の前では無力だったようだ。
桂枝
「いえいえ、確かにそれもありますがやることがあるというのも本当の話でして。」
雪蓮
「ふーん、まぁいいわ。そのやることは後回しにして座りなさい。これは命令よ♪」
・・・命令と言われては仕方ない。
桂枝
「・・・御意に。」
私は諦めて自分の分の食事の支度をした。
雪蓮
「では改めて・・・頂きます。」
桂枝
「はい、どうぞ。お召し上がりください。」
ひと通り食事の準備が整ったところで三人同時に食事を開始した。
雪蓮さんは真っ先に主役である魚を、周瑜さんはその隣にある付け合せの野菜を、私は出来の気になる湯(たん)をと各々食べる順番にも個性が出ていて少し面白い。
そんなことまで観察できるほどの余裕を持つほどにはここに来てからの時間も経過していた。
ここにくるきっかけとなったのはあの反董卓連合での最後の決戦の時だ。
あの洛陽での決戦前日。私はとある事情で姉が曹操軍にいることを知った。
そうとわかれば私としては曹操軍と戦う訳にはいかない。
なので決戦では曹操軍と戦わないよう気を配りつつすでに姉がいないとわかった袁紹軍を積極的につぶし続けていた。
そして・・・敗走後追撃してきた曹操軍との合流。霞さんと夏侯惇さんが一騎討ちを始め、他の将も集まってきた。
こちらとしては姉がいる軍だとわかっている以上、戦う訳にはいかなず、しかし張遼さんをむざむざ討ち取らせるわけにもいかない。
だから膠着状況を作り一騎討ちの邪魔を防いでいたのだ。最悪私が割り込めるような位置を陣取りつつ最悪の状況ならば割って入って止めるまで考えていたのだ。
しかし・・・そこでいきなり乱入してきた部隊があったのだ。ご丁寧に私のいる位置を境目とし、まるで狙いはこちらにあるかのような采配で。
そしてその部隊を率いていた人こそ・・・、
雪蓮
「ん~美味しい!この御飯だけでも拾ってきた甲斐があるというものよね!」
ここで美味しそうに魚を頬張っている雪蓮さんである。
あの日一騎討ちを強制させられた私は完敗を喫し、そのままこの地まで連れ去られたのである。
こうなっては仕方ないなと考えた私はこの国の在り方を聞いた。
聞くところによるとここの目標は「孫呉の独立と平安」という。雪蓮さん曰く「孫呉の地が平和ならば後はどうでもいい」とのことだ。
幸いなことに非常に私の性分に合っている国だったので、2つの条件付きでここに仕えることにしたのだ。
1つは命の借りを返したらここを去って行く事。そしてもうひとつは・・・
周瑜
「ああ、こんなうまい食事を毎日食っていた姉は・・・どんなやつなんだろうな?徐栄」
姉のいる勢力と戦いになった場合、私は絶対に手を出さないということである。
桂枝
「いい姉でしたよ。自分にとってはですがね。」
当然曹操軍にいるということは教えていない。その情報がすでに姉に不利に働くだろうし私の名も自ずとバレる可能性があるからだ。
それでも私としては譲歩しているほうであろう。一応全力で仕えるつもりではあるのだから。
雪蓮
「ふ~ん・・・いずれその姉もここに来てくれるといいんだけどね。ところで徐栄、今日の予定は?」
いつの間にやら食べ終わっている雪蓮さんがおわんを差し出しながら問うてくる。
桂枝
「今日は・・・午前中が政務で昼頃からは豪族との面会ですね。おそらく日暮れ前には終わるかと」
私はそれにご飯をよそりつつ今日の予定を伝えた。それというのも今の私の仕事は・・・
雪蓮
「本当?じゃあ桂枝。全部終わったら今日も一戦するわよっ!」
この人の補佐だからだ。
桂枝
「またですか?毎日毎日・・・よく飽きませんね。」
「将としての才能がないから補佐しか出来ない」と最初に宣言した私はその場、その瞬間に「じゃあ私の手伝いね♪」と言われてこの人の補佐にされた。
お陰で真面目な妹さんや一部の諸侯からはぽっと出の降将が何故・・・?と懐疑の目を向けられているのが現状だ。
雪蓮
「いいじゃない。桂枝も鍛錬ができて、私も楽しめる。なにが不満だっていうの?」
しかもこの人は毎日毎日暇さえあれば勝負勝負と突っかかってくる。正直勝てないとわかっている勝負を延々とし続けるのは個人的にはご勘弁願いたいのだが・・・
桂枝
「・・・いえ、わかりました。ご命令とあればやりましょう。」
とりあえず勝負の約束をすれば書類以外の仕事はやってくれるので周瑜さんたってのお願いで聞き入れてることにしている。
雪蓮
「ふふっ。決まりね。じゃあ今日もそれを楽しみにお仕事頑を張るとしましょうか!」
まぁこうやって上機嫌で働いてくれるのだからそれはそれでいいのかなぁとおもう私であった。
周瑜
「・・・本当に迷惑をかけるな。」
桂枝
「いえ、お構いなく。では、そろそろ失礼しますね。」
そういって会話中にも黙々と準備していたおにぎりを3つ、適当な皿に乗せる。
雪蓮
「あら?そのおにぎりはなぁに?」
首をかしげる雪蓮さん。先程まで朝食を食べていたのに更に追加となればそれは不思議がるだろう。
桂枝
「ええ、ちょっと早朝の鍛練中に気になることがありましたので。」
しかしこれは私が食べるために作ったものではなく、とある人物に渡すために作ったものだ。
周瑜
「・・・あの娘か?」
周瑜さんはそれをたった一言で察した。
桂枝
「おそらく周瑜さんの推測で間違いないかと・・・失礼します。」
理解を得られたと判断した一度頭をさげ私はその場を退席したのであった。
~~
桂枝
「ああ、やはりまだいたか」
城壁へと登ってみれば案の定、黒髪の少女ーーー周泰が城の外をじっと見つめていた。
桂枝
「朝からご苦労だな。周泰」
声をかけてやって初めて気づいたのかちらりとこちらを見やる。そしてそれが私だと認識した彼女の表情がぱぁっと明るくなる。
そしてこちらに駆け寄ってきた周泰は・・・
周泰
「おはようございます!お師匠様!」
満面の笑顔でそう挨拶をしてきた。
桂枝
「・・・だから師匠はやめろと言っているだろうが」
ちょうどいいところにある額を軽く小突くと「あうっ」という声を出し額を抑える。
周泰
「うう・・・申し訳ありません。お師匠様」
しかし肝心の部分を改善しようとする努力はしない彼女をみて私はかるくため息をついた。
最初のうちは普通に徐栄さんと呼んでいたのだ。これほど慕ってくることもなかったし他の人たちよりかは話す機会の多い程度の間柄だった。
きっかけはここにきてそれほどたっていない・・・私が中庭で本を読んでいるときに猫が擦り寄ってきたときだったと記憶している。
いつものことだろうと膝をあけてやったら予想通り膝に乗ってきた猫はそのまま寝入り始めた。
話によるとどうやらその猫はこの町にいる猫の中でもとりわけ気難しい気質を持つ猫だったようだ。まぁ私のところに来る猫なんて大抵がそんな猫ばかりなので気にも留めていなかった。
しかしそれをみていた周泰にとってはそうではなかったらしく、驚愕と感動、そして大きな敬愛の混じった視線で私を見た後・・・
周泰
「今日からお師匠様と呼ばせていただきます!そして私にお猫様と仲良くなる術を教えてください!」
そう嘆願してきたのである。
こうして彼女は私を師匠と呼ぶようになり、何かにつけては猫について熱く語ってくるし、聞いてこようとする。
私のこれは一種の体質みたいなものだから教え用にも不可能だと言ってもあきらめくれない。
その執念は評価に値するが・・・正直困っていると言える。
周泰
「それにしても・・・こんなところまでどうしたのですか?はっ!ついに私にお猫様と仲良くなる秘訣を教えていただけるんですかっ!?」
何やらいつも通りの勘違いをしている彼女をいつも通りにいなそうと思ったが・・・今日はあえてこれを利用させてもらうことにする。
桂枝
「そうだな・・・今日は一つ、猫と仲良くなる方法を教えてやるか。」
周泰
「っ!?はいっ!!よろしくお願いしますっ!」
ビシっと改めて立ちなおす周泰。その表情は真剣そのものであり一言一句絶対に聞き逃すものかという強い意志を感じた。
・・・そんな大したことをいうわけではないので少し罪悪感があるな。
桂枝
「これは猫ではなくほぼすべての動物に言えることだが・・・自分より強い相手の元に進んで近寄る者はいないというのはわかるな?」
周泰
「はいっ!野生の動物は自身が生きることを最優先するからですよねっ!」
桂枝
「ああ、わかっているようで何よりだ。そして猫にとって人間というものは「自分より強い存在」だ。だから野生の猫は人間を警戒しているんだよ。いつ自分が殺されるかわからないからな。」
周泰
「そ・・・そんな。私はお猫様を害する気持ちなんてこれっぽっちもありませんっ!」
凄く悲しそうな目で言ってくる周泰。私にそんな目を向けられてもな・・・
桂枝
「まぁ俺はそれを理解しているが・・・難しいだろう?猫にそれを伝えるのは。」
周泰
「う・・・はい。まだ未熟ですのでお猫様との会話はできません・・・」
そういうと耳があったらしおれているだろうなぁというくらいにへこむ。もう既に猫の感情くらいは理解していそうだからおそらく意思疎通もできるのでは?と思っているのは内密にしておくことにしよう。
そろそろ本題へとつなげていくことにする。忙しい身の上なので時間もあまりない。
桂枝
「そして猫が警戒する理由の一つに「食べられるかもしれない」というものがある。だから猫になついてほしいのならばまず自分の腹を満たしておくことが大事だ。
それだけで仲良くなれるとは言えないが・・・少なくともこちらが満腹だとわかれば猫も食べられるなんて警戒もしないからな。」
これはちょっと強引な理由かつ正論だ。実際獲物を狙う目をした強者にわざわざ近づく馬鹿は野生には存在しないのだから。
そしてこのちょっとの強引さに気づいてくれれば話が早かったのだが・・・
周泰
「おおっ!なるほど!そうだったのですかっ!」
すっかり感心してしまっている彼女にそれを求めるのは不可能というものだろう。女性相手に指摘したいことではないが仕方ない。私は諦めて・・・
桂枝
「ーーーーさて、周泰。お前は今の自分の状況を理解しているか?」
先ほどからくぅくぅなっているおなかを指差した。
周泰
「へっ・・・?はぅあ!」
言われてようやく気付いた周泰は恥ずかしそうにおなかを押さえた。
そう、私が気になったというのはこれのことである。日課の早朝鍛錬の時にはすでに城壁にいた周泰はおよそ1刻近く続けていた鍛錬の最中もなおその場に立ち尽くしていた。
さすがにそのときに聞こえたわけではないが間違いなく空腹だろうと考えたのでわざわざ出向いてきたというわけだ。
桂枝
「流石にそれでは猫も近づけんよ。ほら、これでも食べて少し落ち着つくといい。」
そういっておにぎりを差し出すと「すみません・・・」と恥ずかしそうにいいながらモクモクと食べ始めた。
周泰
「おいしいです~」
どんどんと食べる速度が上がっていくその姿からみて口に合わなかったということはなかったようだ。
桂枝
「夜中からなにも食べてなければ腹も減るだろう。今後は何か携帯できる食料を持ち込むといい。」
周泰
「はいっ!そうすればお猫様が来てくれるかもしれないというわけですねっ!」
・・・いや、それは多分無いだろうなぁと思いはするのだが
桂枝
「ああ、そうだな。少なくとも空腹でいるよりかは可能性はずっとある。」
期待に胸を膨らませている彼女にそれを言うのは酷というものだろう。
桂枝
「ではな。私は仕事に戻るから・・・またあとで会おう。」
周泰
「はいっ!おにぎり、ありがとうございました!」
ブンブンと手を振る周泰に答えつつ私は城壁を降りたのであった。
城壁を降り切り背伸びを一回。空を見れば僅かな雲と透き通るような青空。そしてカンカンと照りつける太陽の光。
桂枝
「さて・・・今日も頑張って仕事しますか。」
気になっていたこともなくなり、ちょうどいい時間にもなってきた。仕事をするにはいい日になるだろう。
こうして私のこの国での一日は幕を開けたのであった・・・
あとがき
桂枝と孫呉は実は結構相性がよかったり。こんな感じで一日をたどるように呉のキャラクター全部たせたらいいなぁと考えています。
なお、全部で5話程度を予定しています。
無論本編を書きためしながらの投稿を理想としていますので、少しの間だけ私の気分転換にお付き合いくださいますようお願いいたします。
Tweet |
|
|
18
|
0
|
追加するフォルダを選択
乱世を歩む武人も50作目を迎えました。ちょっと本編ネタがうまくまとまらないことあり気分転換も兼ねて投稿いたします。本編とは関わりがありませんのでご了承ください。
お知らせ:ツイッター始めました。ユーザープロフィールから飛べるので良ければフォローお願いします。