部屋に戻ろうとしていた司狼は、ばったりと箒に鉢合わせた。
「よう。お前か。どうした?俺の首でも取りに来たってか?」
「違う!頼む。私にもう一度チャンスをくれ。ライダーとして・・・・」
「断る。」
「なっ・・?!」
「意外そうな顔をするな。ノーと言うのに理由はいらないだろうが。今ここでお前を狼の餌にしても良いんだぞ?言った筈だ、お前はライダーとしてもIS乗りとしても中途半端だと。そんな奴にライダーの力を与えた日にはどうなるか分かったもんじゃない。もしデッキを破壊されてしまったらそれこそ大損だ。契約のカードやデッキだってタダじゃないんだ。」
「分かっている!恥を承知で頼んでいるのだ・・・・私は中途半端で、力に流され易い愚か者だ。だが、これからそれを変えたい。いや、変わってみせる!」
司狼は頭を深々と下げる箒を暫く見ていたが、踵を返した。
「そう簡単に信用すると本当に思ってるのか?お前はあの時、俺だけでなく一夏の命すらも危険に晒した。それに一夏の事となると見境が無くなる。そんな危なっかしい奴を側に置いても疑心暗鬼になって全体の指揮が下がるのがオチだ。ISがあるんだから、それで我慢しろ。ミラーモンスターを相手にするのは俺達で十分だ。ライダーは確かに一人でも多い方が良いが・・・・・アテは幾らでもある。」
そう言い残したが、箒は尚も食い下がる。
「だが・・・・何故私では」
「言っただろう?お前は真面目過ぎるって。もっと馬鹿になれよ。お・・・・?お出ましだな。ガゼール共が。まあ良い。見てろ。お前はモンスターだけじゃなく、時には他のライダーとも戦わなきゃならない。それを覚えておけ。ほら。ライダーがお出ましだ。」
インペラーが親指で首をかき切る動作をして来た。
「ライダーってのは自分の為に戦う奴が殆どだ。ミラーモンスターなんて探せば幾らでも出て来るしな。まあ、他のライダーが相手をしたいと言うのなら、話は別だが。今からここでテストをやる。」
「テスト・・・?」
「そうだ。」
ポケットからデッキを取り出し、見せた。
「お前がリュウガに変身して、あいつを倒せ。お前の手で、奴を、殺せ。俺の時間を無駄にするな。十秒やる。十、九、八」
「殺せ・・・・だと・・・?!何を馬鹿な事を」
「七、六、五、四」
「やめろ!私は人を殺したくない・・・」
「三、二、一、・・・・ゼロ。不合格だ。変身。」
リュウガのデッキを構え、変身するとミラーワールドに飛び込んだ。
(あいつが・・・・あの時の黒い龍騎・・・・)
「よく見てろ。命のやり取りはISバトルとは違う本気の殺し合いだ。」
インペラーの繰り出す素早い足技を物ともせずに避け、重い一撃を幾つも叩き込む。
「どうした?その程度じゃ無いだろう?」
「くっ・・・・」
『スピンベント』
ガゼルバイザーを召喚して振り回すが、リュウガはドラグバイザーを器用に使ってガゼルスタッブを振るった時に威力が最も弱くなる部位を的確に当てて防御に使い、蹴り飛ばした。
「全く。勝負を挑むならそれに見合った実力を身につけろ。ま、カードの量も多少勝負を左右するだろうが・・・」
インペラーは追い込まれた所で自棄になってファイナルベントのカードを引っ張り出したが、ベントインする前に壁の一角を蹴り飛ばし、コンクリートの破片がカードを手から弾いた。
『ストライクベント』
ダークドラグクローを召喚し、ダークドラグクローファイアーを放った。
「ウワアアアアアアアアアアアアア!!!」
爆発が起きた地点には、インペラーの姿は無かった。
「そん・・・な・・・・!」
ミラーワールドから出て来た司狼の胸ぐらを掴み、乱暴に揺すった。
「何故だ!何故・・・!?」
「奴を殺したか?あいつは勝負を仕掛けて来た。そして俺が勝ち、生き残った。奴
は負けて死んだ。それ以上も、それ以下も無い。ライダーと言うのは、悪魔と相乗りしているの同じさ。契約を結べば最期、死ぬまでその呪縛からは解き放たれない。お前は、死を覚悟して、数多の骸の山を築き、手を血に染め、それを乗り越え、この世界を変える為に世界に喧嘩を売る度胸はあるか?」
だが箒は何も言わずに、走り去った。足音が聞こえなくなった所で、臣と憲司が現れた。それぞれゾルダとインペラーのデッキを持って・・・・
「全く、社長は酷いね。俺をサンドバッグに使うなんてさ。」
「手加減したんだから良いだろ?本気でやったらお前位簡単に殺せるぞ?」
冗談に聞こえない血腥い会話を平然としてしまうのは、人外の極みである。
「しかし、今回はまた随分と手の込んだ事をしましたね、社長。私にあの攻撃をゾルダに変身させて相殺、尚且つ彼が死んだ様に見せかけるとは・・・」
「あいつの目からは嘘は見えなかった。が、やはり信用するのは危険だと俺は判断した。だから、奴は突き放す。ISがあるんだから、それで満足すべきだ。さてと、」
更にゾロゾロとAD・VeX7のライダー達が現れた。
「始めようか、捻じ曲がった世界を変える準備を。」
時を同じくして、アリーナでは・・・・・・
「やっぱり、負けちゃった・・・・ふふ・・・・ははは・・・!」
ISバトルを終えた更識姉妹が寝転んでいた。どこまでも晴れ渡っている青空を眺める二人の顔は、同じ位すっきりとしている。
「そうね。でも、簪ちゃんも充分強かったわよ。一夏君にも感謝しないとね・・・あれ?」
「お姉ちゃん、どうしたの?」
「あんな包み、あったかしら?」
ピットのすぐ近くで黒い布に包まれた物が置いてあった。その上には英文字のイニシャルでO.I. と書いてある紙切れが挟んである。
「これは・・・・映画の前売り券に・・・・お弁当?」
「あ、これ新作だよ!四日前に公開されたばっかりで物凄く手に入り難い物の筈なのに・・・・どうやって・・・?」
『姉妹水入らずで行って来い。美味ければ良いが。』
「今度、二人で行きましょう?」
「え、でもお姉ちゃんこう言うの見るの・・・・?」
「良いじゃない、これ位サービスするわよ。ん・・・?」
キイイイィイイイィィィィィイイイイ・・・・
近くの鏡面化していた所に、バズスティンガー・ブルーム、ホーネット、ワスプ、ビーの四体が写っていた。そしてその中心には、ハチをモチーフにした黄色と黒のマフラーらしき物を二つ背中に靡かせたライダーが立っている。メタリックブルーの複眼はどこか威圧的だ。右腰にはバズスティンガーの持つニードルを模した細長い二本のクナイ、刺突召刃スティングバイザーが納めてあった。
(あれは・・・・ライダー?!)
だが、只の様子見で来ただけなのか、そのライダーは姿を消した。それと同時にか菜切り音も消える。
「どうしたの、お姉ちゃん?」
「ん?ううん、何でも無いわよ。ほら、食べましょ。」
そうは言った物の、別のライダーがいた事に彼女は驚きを隠せなかった。
「ライダーは、まだいる・・・・・」
眼鏡をかけて赤い薄手のセーターにベージュのチノパン、黒と黄色の縞模様の指無し手袋に青いマフラーを首に巻き付けた一人の青年が、デッキを見つめてそう呟いた。
「これからどうした物かな・・・・まさか、
ポケットにデッキを押し込むと、マフラーを風になびかせながら歩いて行った。
『私も私なりに動くぞ、司狼。』
オーディンは人知れず彼の後ろ姿を眺めながらそう囁いた。黄金の羽が風に巻き上げられ、消えて行く・・・・
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今度は箒をちょっと突き放します。そして新たなライダーが・・・?