No.498153

モバマス荒木比奈小説「比奈の五年前【中編】」

スーサンさん

まったく関係ありませんがニコニコ動画でアイマス動画をアップしてます。
タイトルは「モバマスのアイドルと無駄な話をするだけの無駄なお話」と長ったらしいタイトルで連載してます。
ただ、最近、私の人柄が出てしまったか人気が落ち始めてますけど……(苦笑い)

2012-10-20 12:48:28 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:972   閲覧ユーザー数:969

「はい! いっち、に! いっち、に!」

 ベテラントレーナーの合いの手に合わせ比奈は必死に手と足を前に出した。

(キ、キツイ……)

 息を殺しながら、必死に比奈はレッスンにくらいついた。

 今まで、運動らしい運動をしたことのない比奈にはアイドルレッスンは想像以上にキツかった。

 ようやく、レッスンが終わると比奈は目を回しバタンッと床に倒れた。

「ちかれた~~……」

「ほい、お疲れ」

「ひぁ!?」

 頬にピトッと冷たい感触が広がり、比奈は思わず飛び起きてしまった。

「な、なにするんすか!?」

 缶ジュースを持って自分を見るプロデューサーに比奈は恨みがましい目を向けた。

「レッスンごときで倒れてる情けないアイドル候補生に愛の手を届けてやってるんだ」

「余計なお世話っす!」

 頬につけられた缶ジュースを奪い、プルタブを外した。

 炭酸の抜ける爽やかな音が響き、比奈は一息入れた。

「ゴクゴク……うぶぅ!? ゴホゴホ!?」

「炭酸を勢いよく、飲むからだ……」

 炭酸にむせて涙目になる比奈を尻目にプロデューサーも自分の分のコーラのプルタブをはずしジュースを飲み始めた。

「うぶぅ!? ゴホゴホ……」

「人のこと言えないっすね?」

「ごもっとも」

 缶ジュースを床に置くと比奈の頭を撫でた。

「トレーナーさんが褒めてたぞ。根性無さそうなのに、一番根性があるって!」

「それ、褒めてるんすか……?」

 子供のように頭を撫でられ、比奈はくすぐったそうに目を細めた。

(最後に親に頭を撫でてもらったのはいつだっただろう……)

 比奈は昔を思い出し暗い気持ちになった。

 少なくとも自分の記憶にあるうちはもう頭を撫でてもらってなかった。

「で、どうだ、レッスンは? 楽しいか?」

「……」

 比奈も残ってるジュースの缶を床に置き、天井を見上げた。

「楽しくないっすよ……みんな、自分と違って、若くて可愛いし」

「そうか? お前もいいセン、いってるぞ!」

 また頭を撫でようとするプロデューサーの手を払った。

「最近、ガードが固くなったな?」

「それは一ヶ月もレッスンすれば……一ヶ月?」

「どうした?」

 比奈は思い出したようにレッスン室の窓から見える外を見た。

(そういえば、ここに来てから、もう一ヶ月か?)

 最初はレッスンの厳しさに減らず口も叩けないほどグッタリしてたのに今は流れる汗も自分で抑えられほど体力がついた。

 心なしか痩せた気もした。

 一ヶ月前と違う、健康的で張りのある痩せ方だ。

 なにか嬉しかった。

 ちょっと自分が変われた気がし、不本意だがこのプロデューサーに感謝した。

 プロデューサーは比奈の心の機微を理解し、ニヤニヤした。

「レッスンをこなしてるくらいで、いい気になるなよ?」

「あうぅ~~……」

 生意気娘をグリグリするように頭を撫でられ、比奈は情けない悲鳴を上げた。

「本当の勝負はライブや演技だ! お前はまだ、基礎を叩き込まれてるだけだからな!」

「わ、わかってるっすよ」

 頭を強引に撫でられ、比奈はテレ臭そうに離れた。

「アハハ♪ 相変わらずテレやだな!」

「……」

 ボサボサになった頭を元に戻し、比奈はムッとした。

 プロデューサーは嬉しそうにまだ笑っていた。

「どうだ、一ヶ月祝いでどこかに食いにいくか? 奢るぞ!」

「あ……えっと」

 今日は親が珍しく家に帰ってくることを思い出した。

「きょ、今日は大人しく帰るっす」

「そうか。送っていこうか?」

「いえ、一人で帰れますから」

「そっか……」

 どこか寂しそうにするプロデューサーに比奈は考えた。

「途中まで送ってくれないっすか?」

「いいぞ!」

 

 

 プロデューサーの車の助手席に座りながら、比奈は一ヶ月前までの生活を思い出した。

 一ヶ月前まで、こんなことをしてるなんて、夢にも思わなかった。

 嫌な気持ちはなかった。

 むしろ、今の自分は生きてるって実感が確かにあった。

 自分が変わってる喜びに比奈は自然と顔が綻んだ。

「いい笑顔をするようになったな?」

「ほへぇ?」

「最初会ったときは生きてるって顔してなかったぞ!」

「それは悪かったっすね?」

 いつも一言多いなと比奈はムッツリした。

「でも、今のお前は出会った頃のお前よりも、ずっと可愛くなってるぞ! もちろん、最初から可愛いがな?」

「……」

 顔を赤く黙り込む比奈にプロデューサーは大笑いした。

「アハハ♪ 相変わらず可愛い奴!」

 そんな比奈にプロデューサーは車を運転しながら、うなづいた。

「この調子なら、アレを進めてもいいかもな?」

「アレ? アレってなんすか?」

「比奈をさらに可愛く輝かす手段だよ!」

「ッ!?」

 プロデューサーの歯に衣着せぬ物言いに比奈は慌てて顔を上げて、鼻を押さえた。

(な、なに焦ってるんだろう、私?)

 鼻歌を歌いながらハンドルを切るプロデューサーに比奈は必死に鼻血を抑えようと上を向いた。

 

 

 結局、家の前まで送ってもらうと比奈は車から降り、ぺこりと頭を下げた。

「ありがとうっす。それじゃあ、また、明日……」

「明日、迎えに来てもいいぞ!」

「断固、拒否します!」

「ぶぅ~~……」

 面白くなさそうに窓を閉めるとプロデューサーは手を振りながら車を出した。

 比奈は心の中で、「また明日」とささやいた。

 明日が待ち通し顔で家に入ると比奈はギョッとした。

「た、ただいま……」

 自分を睨む両親に比奈は全身、冷や汗をかき、苦笑いした。

「こんな時間まで、どこをほっつき歩いてたんだ?」

 威圧感ある父の言葉に比奈は誤魔化すようにいった。

「ど、どこだっていいっしょう? 自分だって二十歳なんだから、好きなところ行ったって……」

「親に養ってもらってる分際で言い訳するな!」

「んっ!?」

 ビクッと固まった。

 同じように腕を組んだ母が娘を見るとは思えない冷たい目でいった。

「実はアナタの部屋をあさったら、こんなのが出てきたの」

 取り出された書類を見て比奈はビックリした。

 それは今いる事務所に勤めるための契約書だった。

 母親は血相を変えて怒鳴った。

「こんな低俗なことをしてたなんて、アナタ、私たちに恥をかかせたいの!?」

 父親も続けて怒鳴った。

「育ててやった恩も忘れて、親に恥をかかせるとは! なにを考えてるんだ!?」

「べ、別に迷惑は……」

「口答えするな!」

「ひぃ……」

 短い悲鳴を上げる比奈に両親はため息を吐いた。

「これは本当に厚生施設に預けたほうがいいかもしれないな!」

「こ、厚生施設?」

 真っ青になる比奈に母親はスッキリした顔で父を見た。

「働きもせず、こんなくだらないことをしてたなんて、私たちのことを考えなさい!」

「……」

 納得のいかない説教に比奈は拳を握り締めた。

「とにかく、お前の手で明日、事務所を辞めるよういえ! どうせ、お前みたいななにもない奴、アイドルとして成功するわけがない! 私たちが恥をかく前にちゃんとした仕事を探せ!」

「出来ないなら、厚生施設に預けるから覚悟しなさい!」

 言うだけいい、自分の部屋に戻る両親に比奈は玄関先で悔しい気持ちを隠せずにいた。

 

 

 

 次の日、事務所に入るとプロデューサーが声をかけた。

「あれ、まだレッスンには時間があるぞ。それとも自主トレか?」

「……」

 プロデューサーの顔を見ると比奈は悔しそうに目を瞑った。

「どうした? なんで、泣いてるんだ?」

「うぅ……」

 気付いたら比奈はプロデューサーに抱きついていた。

「ど、どうした、比奈!? 後一時間もすれば、人が来るぞ? お相手なら、時間外でゆっくり……」

 本気で泣き出す比奈にプロデューサーは冗談じゃないなと顔をしかめた。

「なにがあった?」

「うぅ……」

 泣いたまま口を開こうとしない比奈にプロデューサーは落ち着くまで抱きしめてやった。

 十分して、ようやく落ち着くと比奈は手に持った封書をプロデューサーに渡した。

「辞表って!?」

 プロデューサーの顔が真っ青になった。

「アイドルを辞めるのか!?」

「……」

 目線をそらす比奈にプロデューサーは違うなと納得した。

 比奈の目は夢を諦めたものじゃなかった。

 夢を諦めきれずに泣いてる目だった。

「なにがあったか、話してみろ。俺はお前のプロデューサーだ。絶対に見捨てたりなんかしない!」

「……実は」

 グシッと涙を拭った。

 

 

 事情を理解するとプロデューサーもいつもの飄々とした態度が嘘のように顔がこわばり、怖くなっていた。

 会議室の外で他のアイドル候補生たちが二人を覗いていた。

 前から、二人の関係は事務所内で噂になっていた。

 中にはワイドショーみたいに応援している女の子もいた。

 情けないことにトレーナー四姉妹も、その中の一人だというのだから、事務所の未来が心配である。

 プロデューサーがイスを蹴飛ばすように立ち上がるとドアの近くにいたアイドル候補生(+トレーナー)が逃げ出した。

「来い、比奈!」

「え……?」

 いきなり腕を掴まれ、会議室から追い出された。

「少し、出かけてきます!」

 まるでケンカでもしそうな勢いのプロデューサーに事務所に残った人間は心配そうに顔をしかめた。

「ケ、ケンカかな?」

 事務所仲間の島村卯月が申し訳なさそうにかな子を見た。

「さ、さぁ……私たちの出刃亀がバレたとか?」

 三村かな子も視線を泳がせて答えを探した。

「それって、ボク達のせいってことですかね?」

 輿水幸子も不安そうに口を開いた。

 全員(+トレーナー)、神に祈るように手を合わせた。

(私たちのせいであの二人が別れませんように……)

 結構、勝手な連中であった。

 

 

 プロデューサーに無為やり車に押し込まれると比奈は戸惑った顔で聞いた。

「ど、どこに行くんすか!? いきなり、車に乗せて!?」

「お前の両親の会社だ! 文句を言ってやる!」

「え、でも……そんなことしたら」

「許せないんだよ」

「え?」

「アイドルをバカにしたこともそうだが、お前の努力を認めない両親が許せないんだ。そして、その場にいなかった俺が一番許せない!」

「プロデューサー……」

 自分のことのように怒りを露にするプロデューサーに比奈は嬉しくなった。

 味方がいないと思っていた自分に味方がいた。

 それが自分のプロデューサーだと思うと余計に嬉しかった。

 車が大きなビルの前に止まると比奈は喉を鳴らした。

 そこは比奈の両親が勤める会社だった。

 初めて見るが、ビルの名前に堂々と自分の両親が勤めている社名が書かれてあった。

 こんなに大きなビルに勤める人だったのだと、二十年か養ってもらって知りもしなかった。

 比奈は自分がまだ子供だと思い知らされ、また、萎縮してしまった。

「いくぞ」

「え?」

 逆にプロデューサーは気にした風もなく、比奈の手を引っ張り、会社に入った。

 自分の勤める事務所の何倍もデカイ建物に一切の気負わず……

 むしろ、自分のほうが偉いんだと思わせるほど堂々と社内を歩くプロデューサーに何人かの社員が萎縮した。

 受付でプロデューサーは比奈の両親を呼びつけるよう係員に頼んだ。

「あ、あの……アナタは」

「いいから呼べって言ってるんだ。痛い目にあわせるぞ!?」

「ヒィ……」

 本気で殴りかかりそうな勢いのプロデューサーに会社にいた人間がビビリまくった。

 今にも泣き出しそうな係員に連れられ、二人は応接室に入れられた。

 一時間し、比奈の両親が現れた。

 あまりにも遅い登場に普段は飄々としたプロデューサーもキャラを忘れて応接室の机を蹴飛ばした。

「自分の娘を待たせて、どういう了見だ!?」

「な、なんですか、アナタは?」

 普段のプロデューサーを知らないためか、父と母は若干、気圧されながら聞いた。

 蹴飛ばした机を踏みつけ、プロデューサーはヤクザのように言い放った。

「俺はコイツ……荒木比奈のプロデューサーをしてる!」

「プ、プロデューサー?」

 二人の顔が険悪そうに歪んだ。

「アナタですか。うちの娘に変なことを教えたのは!?」

「おかげでウチはいい恥さらしよ! どう責任を」

「責任はこっちのセリフだ!」

 バンッと倒れた机を壊した。

「アンタら、比奈の人生をなんだと思ってるんだ!? ようやく見つけた比奈の夢をアンタらの偏見で壊させやがって! コイツがどれだけ、辛い思いをしたかわかってるのか!?」

「プ、プロデューサー……」

 本気で怒ってることを再三理解し、比奈は嬉しさと同時に、この人への恐怖を覚えた。

(冗談ばかり言う人だと思ってたけど……)

 そして、今はこの恐怖が心強かった。

 今になって比奈は自分の中で否定していた感情を認めた。

 プロデューサーの怒鳴り声に逆上したのか、両親も血相を変えて大声を上げた。

「ぶ、部外者がなにを偉そうに家庭の事情を……」

「娘がアイドル候補生として努力してることも一ヶ月経ってようやく知ったアンタらに家族を名乗る資格があるのか!?」

「なっ!?」

 親としての自尊心を傷つけられたのか二人は憤慨した。

「う、うるさいぞ! アイドルなんていうくだらないものを育ててる人間が私たちに意見する気か!?」

「ちょ、ちょっとは私たちみたいに社会に貢献する仕事をしたらどうなの、アイドルと遊んでないで!?」

「遊んでんのはそっちだろう!?」

「ヒィッ!?」

 弱いものにしか吼えられない両親はプロデューサーの怒鳴り声に萎縮した。

「娘と真剣に向き合わず、仕事や体裁のことばかりに気にしやがって。今回だって、娘を辞めさせたいなら、自分の足を使って言ったらどうだ。面倒ごとを全て娘に押し付けやがって! お前たちは大人じゃない! 砂場で親が迎えに来てるのに駄々をこねて遊んでる、ただのクソガキだ!」

「~~~~~!?」

 怒鳴られてる理由がわかってない両親はプロデューサーの説教に顔を真っ赤にした。

 外からプロデューサーの怒鳴り声に反応したのか何人かの社員が入ってきた。

 プロデューサーは一度、比奈を見た。

「ここから先はお前が選べ。親を取るか……自分を、いや、俺を取るか!」

「え、プロデューサーを……?」

「帰ってから、大事な話がある。絶対に事務所に来い」

「……」

 一人帰るプロデューサーに比奈はドキドキ胸を高鳴らせた。

 両親は血相を変えて比奈を怒鳴りつけた。

 まるでそれしか出来ない幼稚な子供のように……

 

 

 次の日、プロデューサーは何杯目になるかわからないコーヒーを飲んで目にくもの巣を作っていた。

「遅い……」

 絶対に来いと言って、一晩中、事務所にいたのに比奈は来なかった。

(まさか、もう来ないつもりじゃ?)

 嫌な予感が膨れ、あの時、一人で帰すんじゃなかったかと立ち上がった。

 事務所のドアが開いた。

「お、おはようございます……」

「比奈!」

 ホッとした顔をした。

 比奈もプロデューサーの顔を見て、ビックリした。

「め、目……クマが出来てるけど、もしかして、一晩中?」

「これはメイクだ!」

「……」

 呆れた顔をして比奈はプロデューサーに近づいた。

「うん?」

 いきなり、物産広告のチラシを見せられ、プロデューサーは首をかしげた。

「親に勘当されたっす。新しい家を見つけないと住所不定で事務所にいられないっす……その……後見人になってほしいっす」

「後見人って……」

 不安そうに自分を見る比奈にプロデューサーはため息を吐いた。

「その前にお前に話さないといけないことがある」

「え?」

 一瞬、不安そうな顔をする比奈にプロデューサーはようやく、普段の明るい笑顔を浮かべた。

「なんと、お前のライブが決定した!」

「え……ラ、ライブ?」

「といっても、765プロと961プロの前座だが、お前の記念すべき第一歩だ! 他の女の子を差し置いてお前を押すのに苦労したぞ!」

「だ、大事な話ってそれっすか?」

「これ以外、なにがある!?」

 ふんっと鼻を鳴らすプロデューサーに比奈がガッカリした。

「期待して損した」

「なにか言ったか?」

「いえ、別になんでもないっす!」

 比奈も胸を張った。

「私、頑張るっす!」

「おう! 頼むぞ!」

 ギュッと手を握ると二人は楽しそうに笑った。

 本当に楽しそうに……

 

 

あとがき

 

 

 次回最終回です。

 比奈の両親はこんなじゃないと怒鳴らないんでくださいね?

 これはあくまで、スーサンワールドのパラレルなんですから!

 そうそう、比奈ちゃんがSR化したら、やはり、メガネは必要?

 不要?


 
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