「ふう・・・」
一夏は丁度変身を解いた所だった。隣には、同じ様に弾がカードデッキをバックルから引き抜いていた。
「しかし、驚いたな、まさか弾がライダーだったなんて。」
「俺もこうなるとは思ってなかった。でも、俺はこれで良いと思ってる。蘭が心配だがな。」
「ああ。あいつ、どうしてるんだ?」
「来年IS学園に行くんだとさ。いつもと変わらないぜ。」
「そうか。そりゃ良かった。大変だっただろうな。」
一夏が聞く所によると、弾がライダーになったのは、このご時世に自分を庇う妹を迫害から守れる位強くなる為だと言う。今ではライダーとしての実力は一夏に勝るとも劣らない。更に特殊カード、コピーベントによるトリッキーな戦法で何度か負けそうになってしまった事もあるのだ。
「しかし、そのコピーベントってカードえげつないな。」
「トリックベントとナスティーベント持ってる奴が言うか?まあ、どれもコピー出来るけど、使い所間違えたらヤバいんだよなあ、エビルバイザーの所為で片手しか使えないし。」
すると、アラームが鳴る。そろそろ出る時間である事を告げていた。
「おっと。そろそろ時間だな。じゃあな、弾。たまに連絡寄越すから。」
「おう。行って来い。」
互いの拳を軽くぶつける。マドカと司狼は普段着で既に待機していた。
「おお、中々様になってんじゃないか。一応ボディーガードとして森次を付けておく。俺は、優秀な秘書がいるから。スコール、行くよ?」
「はい。」
金髪でビジネススーツを来たメリハリのあるボディーを持つ女性秘書がブック型端末を小脇に現れた。
「森次も良いね?」
「準備オッケーだ、ボス。」
森次はジーンズに見紛う様な黒いスラックスに半袖のモスグリーンのワイシャツを着ていた。指出しグローブに両手の指全てに指輪が嵌っている。サングラスをかけているが表情はどこか楽しそうだ。五人はIS学園へ続くモノレールに乗った。何でも防衛用に出入りは航空機か船、そしてこのモノレールに限られているそうだ。
「ああ、一夏。お前、その内原チャリの免許取れ。前から乗りたがってたろ?」
「はい・・・・」
「国際免許はこっちで発行するから、練習はしとけよ?バイクは社宅に二台置いてある。」
「そっか。どのバイクですか?」
「CBR1000 RRだ。あれは結構速いぞ。もう一台は学園の方に搬送してある。」
「ありがとうございます。」
「そんな堅くならなくて良いって。久し振りに会ったんだからさ、もっとこう、フランクにいこう、フランクに。なあ、マドカ?」
「何故私に振る・・・・?」
「まあ、良いじゃん、別に。森次、生徒と教師の名簿は?」
「憲司が上手くやってくれました。理事長から生徒会長、更には清掃員の名前まで全部の資料があります。全員洗っておきますか?」
「ああ。だが、更識の方は外せ。あいつらは俺達よりも諜報活動に長けている。迂闊に手を出せば、こっちが危なくなる。今は泳がせておく。今は、な。」
「了解です。」
「ところでさ、司狼さんの会社って・・・・」
「ああ、そういや説明していなかったな。AD・VeX7は、
「ファントム、タスク・・・・?」
聞き慣れない単語に一夏は首を傾げる。
「ISを使って犯罪を行っていたテロ組織だ。目的も素性も不明だったが、俺が潰した。ここにいるスコールとマドカも、元はあいつらのIS乗りだったんだ。更に言えば、第二回モンド・グロッソでお前を拉致しようとしたのもあいつらだ。」
「なっ!?」
「大丈夫だ。コイツらは味方だ。俺が保証する。そう身構えるなよ。」
「けど・・・」
「コイツらは俺に従う。絶対に。目的は同じだからな。」
「目的?」
「そう。ファントム・タスクの目的は、この世界をあるべき姿に戻す事。つまり、男女平等の世界に戻すって事さ。俺は元々そのつもりでいた。だから、目的は一緒なんだよ。あいつらがやっているのは只の破壊工作だが、それじゃあ目的が遠のくばかりだからな。リソースの半分位はコイツらの恩恵なんだよ。」
「大丈夫だって。俺が保証する。万が一の場合は、俺が俺が粛正する。」
声が低くなった司狼の眼鏡の奥で光る目は、有言実行を物語っていた。
「・・・・・分かりました。」
「おっと、もう着くな。森次、俺にもそのデータファイル送信しといて。俺も目を通しておくから。」
「はい。」
モノレールを降りた所で、織斑千冬が腕組みして仁王立ちで待っていた。
「千冬姉・・・・」
「ここでは織斑先生だ、馬鹿者。」
「まあまあ、そう堅くならないで。」
「お前は・・・!!」
「久し振り、『ちーちゃん』。」
「御鏡・・・・!!」
「そ、俺だよ。一夏の事は勝手に決めちゃって悪いとは思ってるけど、本人が希望したから。さてと、転校生として案内してくれるかな?織斑先生。」
「・・・・・・着いて来い。」
踵を返した千冬の後ろを五人が歩いて行く。一年一組と書かれた教室の外で待たされる。中に入って来る様に促されると、三人は中に入って行った。
「織斑一夏です。原因は不明ですが、ISを動かせる様になりました。後、一応AD・VeX7のテストパイロットです。よろしく。」
「白鳥マドカだ。同じくAD・VeX7のテストパイロットをやっている。顔の事はあまり気にしないで欲しい。他人の空似と思ってくれ。」
「最後になったけど、AD・Vex7社の総帥、御鏡司狼だ。でも、出来ればフランクに接して欲しいかな。で、一応専用機はもう持ってる。好きな物は面白い物、嫌いな物は退屈。そう言う訳で、よろしく!」
「「「「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」」」」
「ワイルドよ!ワイルドな男よ!」
「向こうは知的でクールタイプ!!!」
「お姉様の分身よーーー!!!」
部屋が、比喩表現で無く、揺れた。音だけで、揺れた。恐るべし
「黙れ小娘共。空いている席に着け。後制服はどうした?」
「届いてませんでした。理事長にも掛け合いましたけど、普段着で構わないそうです。」
「制服は後で届ける。」
三人は空いている席に着くと、授業が始まった。特に滞りなく進んで行き、軽い休み時間。一夏の席に一人の生徒が近付いて来た。ポニーテールで切れ長の目を持った、大和撫子タイプである。
「箒か。久し振りだな。だが、今は生憎忙しい。」
「すぐに済む。」
「で、何だ。」
参考書から目を上げた一夏は箒を見やる。
「六年振りだぞ、もう少し、その・・・・」
「それもそうだな。ああ、そうそう。お前剣道の全国大会で優勝したんだってな。おめでとう。しかし、世の中は狭いな。まさかこんな所で会うとは思わなかったぞ。まあ、ポニーテールとリボンが目印になってすぐお前だと分かったが。」
「そ、そうか・・・・お前は、その・・・・変わったな。」
嬉し恥ずかしい表情を悟られまいと顔を軽く背けたが、内心は大いに喜んでいた。
「そうでもないさ。変わったとすれば、着る服が主に黒になった事位だ。ノートを完全に纏め終わってないから、又昼飯の時にでもゆっくり話そう。」
一夏はそれだけ言うと、再びノートと参考書に目を戻し、必要な箇所を蛍光ペンで塗り、シャーペンでそれをノートに映し、ページを捲っていた。
「どうだ一夏?馴れそうか?」
最前列の一夏の真後ろに座っていた司狼が訪ねる。
「微妙ですね。勉強の方は大した事無いですけど、この肩身の狭い感じは馴れないです。」
「ちょっとよろしくて?」
「「あ?(ん?)」」
「まあ!何ですのそのお返事?この私がわざわざ話しかけているのですからそれ相応の態度と言う物があるのではなくて?」
「初対面の相手に随分な物言いだな。それに、何の挨拶も無しにただ罵声を浴びせる様な奴に敬意なんか払う気もなくなる。言う事がそれだけなら他所に行ってくれるか?俺は見ての通り忙しいんでね。」
「何ですの、その態度は!?私をイ」
「(ああ、この手の奴ら嫌いなんだよなあ・・・・・いっそこいつサイコローグでバラバラに吹き飛ばしてからガゼール達に食わせようか?)イギリス代表候補のうちの一人、セシリア・オルコット。確か、ブルーティアーズの所有者だったな?」
「あら、貴方の方が物分かりが良さそうですわね?部下の躾がなっていませんわよ?」
「阿呆抜かせ、初対面の相手にいきなり喧嘩腰になったら誰だって反発するぞ?あれが不通の対応だ。それに、BT兵器の適性率トップなのにフレキシブルすら使えないとは・・・・・悲しいね。」
「なっ!?」
図星を突かれたのか、セシリアの顔が赤くなる。
「それに、言っておくけど君の国の政府は俺に大きな借りがあるって事をお忘れなく。」
「一体何の話を」
そこで会話がチャイムにより中断される。
「また来ますわ!」
「二度と来るな。さっさと失せろ。」
一夏が舌打ちをして低い声でそう毒突いた。千冬が教壇の前に立ち、皆が水を打った様に静まった。
「言い忘れていたが、クラス対抗戦での代表を決める。まあ、言ってしまえばクラス長だな。自薦他薦は問わない。だが、一度決まってしまえば一年間は変わらないからそのつもりでいろ。」
「はい!私は織斑君を推薦します!」
「じゃあ、私は御鏡さんを!」
殆どが一夏、もしくは司狼に票を入れる。
「んー・・・・じゃあ、俺は白鳥マドカを推薦する。」
「同じく。」
「では、織斑、御鏡、そして白鳥の三人か。他にはいないか?」
「お待ち下さい!その様な選出は認められませんわ?!」
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