最初の頃はオリヴィエが思ったように順調に進んでいった。
敵国を次々に倒していき、一つ一つ国を倒していくことに成功した。
「……今のところは順調だな。これがいつまで続くか」
あまりにも順調すぎて、オリヴィエは不安を持っていた。
オリヴィエが居る聖王家は確かに他国よりは強いかもしれないが、それにしても順調すぎた。
戦争というものは思い通りになるような事ではないし、その場によって左右されることだってある。だけど今まで戦った国々はそのような様子は見せず、聖王家が一方的に押し進んで行ったかんじであった。
これには何かあるのではないかとオリヴィエは思った。そうでなければここまで順調に進むはずがなかったから。
「オリヴィエ聖王女殿下、少しよろしいでしょうか? 事態が大変な事になるかもしれませんので」
「入れ」
自室で考えていると、突如ノックする音が聞こえたので、その人物を中に入れる。
中に入ってきたのはネネ・アルメイアという女性で、部下の一人であった。
「それで、一体何事なんだ?」
「それが……」
オリヴィエは戯言一つ入れずに彼女に問うが、ネネはなにか言いにくそうな感じになっていた。
それほど大変な事態なのかと思ったオリヴィエであったが、とりあえず用件を聞かないとどうしようもなかったので言う事にした。
「言いにくいことかもしれないが、私に話しておかなければならない話なんだろう? 一体何が起こったんだ?」
「それが、聖王家の部下であり、夜天の書の持ち主だったミハエル・ミストルが昨夜から行方不明であり、誘拐、もしくは脱走した可能性が……」
「ミハエル・ミストルがだとっ!?」
「はい。確認によると、数日前に戦ったミエハエトルとの戦いに勝利して帰還している途中で見たのが最後だという証言が」
オリヴィエはそのミハエルという名前を聞いて、突然声を上げて焦りが感じられた。
ミハエル・ミストル。彼は聖王家の中でもかなりの正義感を持っており、その正義感が昔オリヴィエと共感して聖王家と赴いた人物。彼の事はオリヴィエが良く知っているし、今回だって積極的にオリヴィエと議論していた。そして世界を守るために戦争をするべきだと二人で出した答えだった。
そのような人物が裏切るとは思わない。前にミハエルには本当に自分と共感を持っているのかと確認するために魔法で彼の思考を全て読み取ったのだが、聖王家に対する邪心は何一つもなく、オリヴィエについて行くと彼の思考を読み取って理解できた。
となると、ミハエルの行方が分からなくなったという事は誘拐されたという可能性が高い。夜天の書は魔導師の技術を収集して研究するためにミストル家が代々跡を継いでいるものであるのだが、もしその夜天の書を改ざんなどされたらとんでもない事となる。例えば、徴集するだけではなくて魔力を奪ったりするようにしたり、徴集で人を殺めることも出来るかもしれない。そして一番の問題は徴集が終わった時にどのような事が起こるか分からなかった。
「……なにか、裏で動いているな」
「えぇ、そのようかと」
「分かった。他に要件は?」
ネネの顔から察するにもう一つ用件があるのだろうと思い、そのように問うのであった。
「クラウス・G・S・イングヴァルト様が応接間にてお待ちです」
「クラウスが?」
「はい。どのような用件で来たのかは分かりませんが」
ここ最近戦争や国の事で忙しくてクラウスとは会っていなかったが、こんな時に突然会いにきたという事はなにかあったのかとオリヴィエは思う。
事態が事態という事もあって、オリヴィエとクラウスはお互いに会う事を避けていた。お互いにその事は知らないが、オリヴィエはクラウスがここ最近会いに来ていないという事は少し今の状況を気にしているのだろうと思っていた。
「……分かった。支度したら今すぐそちらに向かうと伝えておいてくれ」
「分かりました」
ネネはオリヴィエからそのように聞き、それから部屋を後にする。
部屋にオリヴィエが一人になると、オリヴィエはここ最近寝るとき以外はずっと来ていた騎士甲冑を脱ぎ、ドレスへと着替える。ドレスと言ってもそこまで豪華っていうほどではなくて動きやすくて綺麗なドレスで、いつでも襲撃に備えられるように対応した服装であった。
ドレスに着替え終わると、すぐに部屋を出て応接間へと向かおうとする。部屋の外にはオリヴィエの身に何か起こらないように側近の二人が待っており、その二人と一緒に応接間へと向かうのだった。
「ここまで良い。何かあったらすぐに報告を頼む」
応接間に着き、側近の二人をドアの前で待たせるように言うと、オリヴィエはクラウスが待っている応接間の中へ入っていく。入るとクラウスがソファーでくつろいでいる姿を見つけ、それを見ていたオリヴィエは溜息を吐きたくなった。
「……何のんびりしてるんだお前は?」
「ん? あぁ、どのみちこんなところで襲われることはないと思ってな。まさか自分の家よりもくつろげるとは思っていなかったが」
「少しは警戒心を持て。こっちはそれどころの問題ではないのだからな」
とりあえず自分も座ろうと思い、オリヴィエはクラウスと対面になるように反対側のソファーに座る。
そしてオリヴィエは戯言一つ交えずに本題へと入る。
「それで、用件というのは何だ?」
「……これは僕の国にも来たことであるのだが――」
クラウスの話によると、国同士で同盟を組んで他国を一掃し、それらの国で世界を統治しようとしているらしく。クラウスの国にも同盟を組まないかと言われたらしく、クラウスはその件については断ったらしい。
それを聞いたオリヴィエは他国と戦っても敵国が本気で勝利しようとしないわけが分かった。聖王家に戦っても勝ち目がないという事はほとんどの国が知っている事だし、同盟を組んでいる国は負けてもそれほど支障がないようにされているのだろうと理解する。どの国が同盟を組んでいるのかはクラウスでもわからないらしいが、同盟を組んでいる理由は聖王家を倒すためだろうとクラウスは言うのだった。
「成程……ようやく状況が読めてきた」
「それで、オリヴィエはどうするつもりなんだ? 一応有力な情報は教えたつもりだが」
「それについてはありがたい。だが今のところは現状維持としか出来ないのが痛いな。ベスカから何か情報をくれれば行動に移せるのだが……」
どの国が同盟を組んでいるのかを分からなければ虱潰しに国を潰していくしかなかった。結局はベスカの情報を待つしか次の行動には動かせなかったのである。
「そっか。まぁ、少しは役に立てそうだから良かったよ」
「少しはというより情報的にはかなり有力なんだな」
オリヴィエは苦笑しながらもクラウスに言う。
クラウスと話すのは久しぶりで、先ほどまで話していた内容だってシリアスな内容であったが、オリヴィエにとってはそれでもリラックスできるところであった。
「さて、私は忙しいので、失礼させてもらうぞ」
「分かってる。僕もそこまで長居するつもりはなかったからな」
そしてオリヴィエはクラウスと別れ、応接間から出て行くのであった。
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J・S事件から八年後、高町なのははある青年に会った。
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