No.496013

Masked Rider in Nanoha 三十八話 六課の休日 前編

MRZさん

スバル達四人へ六課に来て初めての休暇が与えられた。ヴァルキリーズも同じく休み扱いとなり、彼女達はそれぞれ休日を謳歌する事となる。
一方、なのは達も遂に予言を知る事となり、そこで五代と光太郎はある事に気付く。来たるべき最後の戦い。そこで彼らを待つかもしれない事態を。

2012-10-14 08:24:02 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:2467   閲覧ユーザー数:2348

「よし、今日はここまでにしよう」

「はい!」

 

 訓練場から離れた場所にある海岸。そこでRXは周囲へ特訓の終了を告げた。それにアギトが応じ、龍騎が少し疲れたように座りながら相方を務めていたクウガへ視線を向けた。

 

「やっぱクウガはいいよなぁ。棒切れだって武器に変えるんだからさ」

「でも、龍騎みたいに自分で武器を好きに出せる訳じゃないからね。どっちもどっちだよ」

「そうですね。俺達それぞれの長所を活かして、連携出来るようにしないと」

「基本格闘だけで戦える俺達と違い、龍騎は武器が必要な事が多い。だが、それはクウガやアギトも超変身後は同じ事が言える。なら、緊急時は互いの武器を貸し合ったりする事も必要だろう」

 

 そんなRXの言葉にアギトと龍騎が頷く中、クウガが少し申し訳なさそうに謝った。彼の武器は手を離した瞬間元の物へ戻ってしまう。そのため、貸したりする事は出来ないからだ。それを考えての謝罪に三人は少し苦笑する。

 別にそこまで気にする事はないと考えていたからだ。故に告げる。気にしなくていいと。逆にクウガはそれぞれの姿に対応する物さえあればいいのだからある意味では武器に困らない。時には一般的なデバイスがあれば必要な要素を全て満たす事も可能だからだ。

 

 それをRXに指摘されクウガも成程と手を打った。そんな風にライダー達が話す横では、なのは達隊長陣四人がスバル達を集めて今日の訓練結果を話していた。

 

「……で、実は今日の訓練が新しい段階へのテストも兼ねてたんだけど」

「結果は……合格だね」

 

 なのはとフェイトの言葉に四人が嬉しそうに笑みを見せ合う。怪人との戦い。ライダーからの教え。隊長達の指導。そこに、四人それぞれの努力も合わさり、スバル達は既に一線で活躍出来るような能力を身につけていた。

 それでも、なのは達が合格と認めたのはただその力が向上しただけではない。その心の強さをしっかりと見極めたからこそだ。そして、それに伴い四人のデバイスも次の段階への機能を解放する事となった。それにスバル達が表情を引き締めた。

 

 彼らからすれば、強力な力を持つという事はとても責任を伴う事なのだ。ライダー達を見ていたからこそ、新しい力を託される事の重さを知っている四人。故に、その顔に浮かぶは喜びではなく責任感だ。

 

「まぁ、お前達に言うまでもねえが、力の善悪は使う奴の心で決まる」

「それに第二段階の力は各自によって様々だ。その扱いには十分注意しろ」

「「「「はいっ!」」」」

 

 ヴィータとシグナムの言葉に四人は真剣な眼差しと声で応えた。それになのは達は笑みを浮かべる。そして、こう告げた。六課発足から今まで休暇らしい休暇はなかったので明日は四人を完全休養にすると。

 それに四人がそれぞれ嬉しそうな笑顔を見せるも、すぐにそれが曇る。それになのは達は一瞬不思議そうな表情をするも、即座にその理由へ思い当たって沈黙した。

 

「……でも、いつ邪眼が動き出すか分からないのに」

「休んでなんかいられません」

 

 スバルとティアナの言葉にエリオとキャロも頷いた。自分達の力は微々たる物でしかないかもしれないが、それでもライダーを助ける事が出来る。なら、有事に備えておくべきではないか。そう四人は考えた。

 そんな四人の思いになのは達は頼もしさと嬉しさを感じるも、だからこそ休んで欲しいと告げた。もしもの時は呼び出すし、余程がない限りライダーが四人揃っている時点で心配はいらないから。そう安心させるように。

 

「それにね、休むのもお仕事の内だよ?」

「そうだ。身体をしっかりと休めて英気を養うのも重要だ」

「それにな、お前らが先に休まないとあたしらが休みを取れねえだろうが」

「ま、まぁ、ヴィータ副隊長の言い方はともかく……みんなが休まないと私達も休めないのは分かるでしょ?」

 

 なのは達の言葉に納得し、四人は苦笑した。そして最後になのはの告げた「休める時に思いっきり休んでおいて」の一言に、四人は元気良く返事を返すのだった。

 

 その頃、ヴァルキリーズはと言えば訓練場にいた。そこで、はやて達も一緒になって訓練を行なっていたのだ。訓練場に爆音と大声が響いているのはそのため。それと共に時折はやて達の声も聞こえていた。

 

「ヴァルキリー10! それと11! ちゃんと相手の動きを見とるか? 狙いが甘くなってきとるよ!」

「すみません!」

「気をつけるッス!」

 

 トイへ牽制するための射撃を行なうディエチとウェンディ。だが、その狙いが少しずつ甘くなっている事に気付いたはやての檄が飛ぶ。それに二人が反省すると同時に声を返し、再び精度を心がけた射撃へ意識を集中する。そんな二人にはやては嬉しく思って頷くと魔法による援護砲撃を再開した。

 

 その少し前方では、シャマルがクアットロとオットーと共に中衛として前衛への指示を受け持っていたのだ。だが、そこでもシャマルの指摘が行われていた。

 

「ヴァルキリー4、それにヴァルキリー8。一旦後方へ下がるわよ。貴方達はヴァルキリーズの第二の司令塔だから前線の変化には気を配ってね」

「あら、いつの間に。下がりまぁす」

「いつの間にか前線が少し後退したのか。了解です」

 

 トイだけとはいえ二人が相手するにはやや分が悪い数がいる。そのため、シャマルは警戒をするよう呼びかけたのだ。クアットロとオットーはISによる支援のためにその場を動いていなかったのだが、前線が少し押されたために後退していた。

 それを気付かずにいたため、両者はシャマルの言葉に現状を正しく理解して後退を始めた。その前線ではノーヴェがザフィーラと共にトイを相手に奮戦していた。

 

「ヴァルキリー9、まだISや武装に頼り過ぎだ。純粋な格闘だけでも切り抜けられるようにしろ」

「くそ、了解だっ!」

 

 魔法を極力使わずに戦うザフィーラを見てノーヴェは自分の未熟さを感じると共に、それを指摘されるまで気付かなかった事に悔しさを滲ませながら答えて拳を振るう。一方、そんな二人とは違う場所ではトーレ達がリインと共に遊撃隊として動いていた。

 

「ヴァルキリー3、7、12。お前達は速度にやや重きを置き過ぎなきらいがある。状況によっては敢えて遅くした方が対応し辛い事もある事を忘れないでくれ。緩急をつけて戦う事を意識してみて欲しい」

「「「了解」」」

 

 その速度を活かして苦戦する場所や奇襲への対応をしながら動く三人。その速度へ変化をつけて相手を撹乱した方がいいとリインが告げる。それに三人は意識をしていなかったという風に感心し、頷いて返す。

 

 このようにはやて達四人を助言役として、ヴァルキリーズは指摘や注意を受けたりまたは直接指導をされていた。彼女達が相手をしているのは仮想敵として出現しているトイの集団。それだけではない。今後も現れるだろう強敵もそこにはいた。

 

「おっと! ……やっぱり速いね」

「ヴァルキリー6、気を抜くな! 後ろだ!」

「私が行くわ! はあぁぁぁぁ!」

 

 チンクの声にセインが振り向く前にギンガがドライへ向かっていく。そう、彼女達が更に相手をしているのは怪人のデータを基に再現した物。だが、さすがに何体も出現させるのは容量的にも厳しいため、こうして一体出すのが限度なのだが。

 ちなみにドライが選ばれたのは一番データ蓄積が多いため。遭遇した二回共に隊舎前で、しかも特殊能力も高速機動以外特にないと判断された。そのため、再現度も高く経験を積むには最適なのだ。

 

「ヴァルキリー2、ヴァルキリー0の支援に!」

「了解よ!」

 

 ウーノの指示にドゥーエは応じ、ピアッシングネイルを構えて走る。ギンガの攻撃をドライがかわしてその背後を突こうとしたのを見て、ドゥーエはこのままでは間に合わないと判断する。そこで彼女がとった手段は意外な事だった。

 

「このっ!」

 

 そのピアッシングネイルを伸ばしての攻撃。それがドライの背中を突くものの深手とはいかない。それでもその狙い通りの場所へ爪は刺さった。それは羽の付け根。そう、ドライの高速機動の要でもある場所への攻撃だ。

 故にドライの動きは僅かにだが鈍り、意識がギンガから僅かに逸れる。その間にギンガは体勢を整え、その場を離脱。そしてチンクがISを使ってそれを援護。すかさずセインがISを使い、ドゥーエの真下で待機する。

 

 ドゥーエが棒立ちになっているのを見てドライが襲い掛かるが、それに彼女は余裕の笑みを浮かべて手を振った。直後、その場からその姿が消え、ドライを困惑させる。その隙を突くようにギンガとチンクが動いた。

 

「ヴァルキリー5、コンビネーションバースト、行くわよ!」

「了解だ! ランブルデトネイター!」

 

 チンクの放ったスティンガーがドライの身体に突き刺さる。そして、その内一つが当たった瞬間爆発する。それによろめくドライ目指してギンガはウイングロードを疾走しながらリボルバーナックルを回転させる。

 狙うは一点。相手の身体に刺さったスティンガーのみ。そこへ全力の拳を叩き込むのだ。それは、ノーヴェがフュンフへ行なった攻撃の再現。あれをヴァルキリーズでは一種の怪人撃破攻撃として、ノーヴェとギンガ限定で行なうチンクとの連携技としたのだ。

 

「はあぁぁぁぁ……はぁっ!!」

 

 スティンガーを身体の内部へ押し込むようにギンガがその拳を叩き込む。更にそこへ零距離のリボルバーシュートを放ち、それをより確実のものとするのがギンガ流。

 その衝撃で軽くギンガとドライの距離が開く。それを見てウーノは勝利を確信すると頷いた。

 

「今よ!」

 

 ウーノの声と共にチンクがスティンガーを爆発させる。これでドライは何とか倒した。だが、休む間も無く新たに出現したフュンフを片付けるべくギンガ達は走り出す。その後、トーレ達の援護を加えてそれを撃破した所でヴァルキリーズも訓練を終えた。

 そして、ここでもはやての口からヴァルキリーズに翌日の一日自由行動を告げられ、十三人は揃ってどう過ごすかを話し出す。セインなどの行動派はクラナガンの街に出るべきと言えば、オットーなどの温和派は宿舎でノンビリするのも悪くないと答える。

 

 結局、それぞれが好きに過ごす事になり、街に行く者、六課で過ごす者、そして自主訓練に励む者と分かれる事になったのだった。

 

 

 

「じゃ、スバル達も明日はお休みなんだ」

「そうだよ。私はギン姉とチンク、ノーヴェにウェンディの五人で遊ぶ事にしたんだ」

 

 時間は夕刻。既に午後の訓練も終わり、スバルはセインと共に湯船で汗を流していた。話題はやはり翌日の休みについて。既に姉と出かける事にしていたスバルは、更に加わった三人に嬉しさを感じてご機嫌だった。

 

「あたしはさ、クア姉やディエチと一緒に映画見に行くんだ。初めてだから今から楽しみだよ」

「映画かぁ。私達はゲームセンターとかかな?」

 

 そんな風に話す二人の近くではティアナがクアットロにウェンディを交えて戦術を話し合っていた。とはいえ、内容は怪人対策ではなくライダーへの支援方法だったが。

 

「幻術だと一種の撹乱にはなるけど、所詮そこまでなのよ。手助けとは言い難いわ」

「それは私のISもよ。ま、それでも無いよりはマシでしょ」

「う~ん、あのカメレオンみたいに分身を出せればいいッスけどねぇ」

 

 ウェンディがフィーアの特殊能力を思い出してそう告げると、ティアナとクアットロが頷こうとして同時に何かに気付いたのか息を呑んだ。それは幻術とISを合わせて出来るかもしれない事を考えたのだ。そして、互いの表情からそれを相手も思いついたと察した二人は不敵な笑みを見せ合った。

 

「ね、クアットロ。何を考えたの?」

「きっと貴女と同じよ、ティアナ」

 

 そう言って、二人は呼吸を合わせるように頷き合う。視線を合わせ、同時に口を開いた。

 

「「本物のように動く幻影」」

 

 その言葉で互いに笑みを深め、聞いていたウェンディがやや不思議そうに首を傾げた。今でもそういう事が出来るのではないのかと思ったからだ。実際、クアットロのISはそういう事を実現しているのだから。

 そんな風にウェンディが考えていると、それに気付いたのだろうティアナが苦笑混じりに説明を始めた。確かにシルバーカーテンは幻影を動かす事が出来る。しかし、それはあくまで簡単な動きだけ。複雑な動きは出来ないのだ。

 

 だが、まずティアナが幻術を使い虚像を出現させる。そこにISを重ね、厚みを増して動きを与えてやるのだ。まだ発想でしかないがやってみる価値はある。そうティアナが締め括ると、クアットロも同じように考えているのか力強く頷いた。

 

 そんな風に幻惑コンビが新たな着想を得ている横で、キャロがディエチと後衛としての苦労を語り合っていた。フルバックのキャロと同じように最後衛として支援砲撃がポジションのディエチ。故に、抱く不安と目指す理想は似ているのだ。

 

「怖いのは前線を抜けてくるような怪人だね」

「それと、背後を取りそうな相手ですね」

 

 具体例として二人が思い浮かべるのはドライやフィーアだ。接近戦が不得意な二人にとって距離を詰められる事は致命的。なので、そうなる前にどう対処すればいいか。もしくはどう逃げればいいのかを述べ合う。

 そんな二人が目指したいのは緑のクウガ。鋭い感覚で相手の接近や奇襲を察知し、正確な射撃でそれを打ち抜く。キャロはフリードがいるので少し違うが、それでも憧れる戦い方ではあるのだ。

 

「どうやったらあれだけの感覚を身につけられるかな?」

「私達の場合は訓練あるのみです。せめて近づけるようにって」

「……キャロは頑張り屋さんだね」

「ディエチさんもだと思いますよ」

 

 互いに笑みを見せ合いながら二人はその後ほのぼのと翌日の事を話す。そうやってスバル達が大浴場で寛いでいる頃、休憩室には珍しい組み合わせが実現していた。

 

「……そっか。じゃ、定期的に緑になってみた方がいい?」

 

 五代の言葉にウーノとドゥーエは苦笑して首を横に振って告げる。そこまでしなくてもいい。ただ、光太郎や誰かが周囲の者に何か違和感を覚えるような事があった時だけ緑の力で観察してくれればいいと。

 その目的は敵のスパイを見つけ出す事ではなく内部の疑心暗鬼を防ぐため。故に、必要がない限りそんな事をしてくれなくていいのだと二人は口を揃えて言った。

 

 あの出張任務の翌日に話し合った事の一つであったスパイ対策。結局は光太郎の恐ろしい程の勘に頼る事になったが、それとは別にウーノ達は五代にこうして頼んでいたのだ。

 だが、それを多用して欲しくない理由は一つ。緑のクウガには欠点があるためだ。それは一定時間過ぎると二時間変身出来なくなる事。それを邪眼に知られる訳にはいかない。スパイを見つけ出すにしても、そのためにクウガの情報を与えるつもりはない。そうウーノ達は考えているからこそ、頻繁にクウガの力を使う事は望んでいなかったのだから。

 

「……だから、変身はこちらか光太郎さんが必要としたらでいいわ」

「クウガの力を頼るのは光太郎さんの勘でも分からなかった時。つまり、最後の手段にするつもりなのよ」

「……分かった。じゃ、光太郎さんやウーノさん達に希望されたら緑になればいいんだね?」

「ええ」

 

 五代の言葉にウーノが頷き、その話はそこで終わった。話題が終わったためドゥーエが次の話題として五代へ翌日の休みの事を話し出す。ティアナ達も休みになるから、きっと翔一とバイクで出かけるだろうと。

 それに五代が笑みを浮かべて、もう昼食時に翔一と約束していたと告げる。それにウーノが行動が早いと苦笑し、ドゥーエは行動的だと笑う。ちなみに明日は本当なら五代と光太郎は六課に残って仕事をし、翔一と真司が休日としての扱いになる。

 

 だが、実際には翔一を除いた三人は明日の予定を入れられている。はやて達三人と共に聖王教会へ行く。それを今日の昼食時にはやてから五代達は告げられていたのだから。

 

 ちなみに、今度なのは達が休みになった時は自身と光太郎が休み扱いになる予定なのだと五代は告げた。それにウーノとドゥーエが疑問を浮かべた。どうしてその組み合わせなのだろうと思ったのだ。それに気付き、五代は説明した。どうも、それを決めたのははやてだが提案者はなのはなのだと。

 五代がその話を昼食後に聞かされた時、そうフェイトが付け加えたのだ。その時彼女が小さく笑っていたので、五代はきっと何かあったのだろうと思ったのだが詳しく聞く事はしなかった。

 

(あの時のフェイトちゃん、どこか嬉しそうな笑顔だったもんなぁ)

 

 なのはがその隊長陣とクウガとRXの休みを合わせようと言い出した時、はやては反論したかった。それでは自分が翔一と過ごす事が出来ないと思ったからだ。しかし、それをなのはも分かっていたのだろう。どこか不満そうなはやてへこう告げたのだ。

 

―――はやてちゃんはお休みだから、翔一さんと二人でレストランアギトを切り盛りすればいいんじゃない? ほら、出来るなら翔一さんのお店を手伝いたいって言ってたでしょ。

 

 最後にリインと真司にポレポレを任せればいいと付け加えるのも忘れずに。こうしてはやては翔一と二人での食堂経営という状況を想像し、観念したように頷いたのだ。

 勿論、内心で楽しみにしている事などなのはやフェイトには分かっていたのだが。それを口に出す程二人は空気を読めない者では無かった。

 

 そしてはやては分かっていたのだ。何故なのはがそんな事を言い出したのかを。フェイトと光太郎が共に過ごせるようにするためだと。故に彼女は親友のためと思ってその提案を呑んだという訳だった。

 

「それで、ウーノさんとドゥーエさんはどうするの?」

「私はしばらく例の施設を監視しないといけないの。今週辺りに動く予定だから」

「私はエリオとキャロの保護者役よ。いらないだろうって思うんだけど、フェイトが念のためってね」

 

 ドゥーエのやや呆れた声に五代とウーノが苦笑した。ドゥーエがエリオとキャロへよくちょっかいを出している事をフェイトはたまに注意をしているのだ。それが、こういう時には頼る。それはドゥーエの事を信頼している証拠のようなものだからだ。

 

「トーレさんやセッテちゃんはまた訓練?」

「多分ね」

「オットーとディードは、朝はアイナさんの手伝いをして、後は読書して過ごすらしいわ」

「そっかぁ~。双子だけあって行動も似てるよね、オットーちゃんとディードちゃん」

 

 そんな風に三人はしばらく他愛もない話を交わし、スバル達がそこへ現れたのをキッカケに互いに風呂へと向かう。こうして休憩室は消灯まで人が絶えない。そうしてスバル達が飲み物や菓子などを手に楽しく語らいを始めた頃、デバイスルームではジェイルが一人通信を行っていた。

 

『バトルジャケットだと?』

「魔力を持たない者のためのバリアジャケットとでも言えばいいのかな。勿論それだけじゃなく攻撃面でも並の魔導師や騎士を超えるだけの力はあるよ」

 

 ジェイルはモニターに映ったレジアスと話していた。本来ならば、この話は自分達の生活を守るための交渉にするべきものだったが、状況を鑑みたジェイルは今は少しでも怪人に対抗出来る手段を構築すべきだと判断。

 そのため、レジアスへバトルジャケットのテストを頼もうと思ったのだ。魔力を持たずに実力で地上の中将まで上り詰めたレジアスならば、テストをしてもらうのにうってつけと思ったのもある。

 

『……それならばあの化物共と戦えるのか?』

「まあね。でも、現状では勝つ事は難しい。まぁ、データが蓄積されれば改良出来る。それに、今でも時間稼ぎや上手くすれば撃退ぐらいは可能なはずだ」

『そうか……いつ受け取りに行けばいい』

「いつでも。ただ、明日はやて君達は外出するらしい。だから会わずにすむのは明日ぐらいだよ」

 

 ジェイルの言葉にレジアスは小さく笑うとはっきりと告げた。自分ははやて達と会ったところで何も躊躇する事はないと。力強く断言した彼だったが、その後に声の調子を変えると続けてこう言った。

 はやて達と自分が互いへあまり良い感情を抱いていないのも事実。故に自分が協力している事は伏せておきたい。自分はあくまでも六課ではなくライダーに協力しているのだから。そうレジアスは語った。

 

 それにジェイルは内心で苦笑しながらも頷いた。そして、バトルジャケットは明日の昼前にレジアス本人が査察を兼ねて取りに来る事で決着した。

 

「色々と忙しいのではないのかい?」

『海との話し合いはグレアムとオーリスで進めている。それに、今はこの街を化物から守るための事が最優先だ』

 

 レジアスの言葉にジェイルは納得し、モニターを切った。そしてレジアスが最近目指し始めた事を思い出して小さく呟く。

 

―――しかし、陸も海もない管理局、か。彼も変わったね……

 

 あの報告を見たレジアスは怪人の脅威を認識した。娘であるオーリスからの意見もそれに拍車をかけた。今は陸だ海だと言い合っている場合ではないかもしれないと。その意見にレジアスは反論しようとしたが、目の当たりにした怪人の凶悪さや恐ろしさは確かにそう思わせるには十分だった。

 

 そのために彼はリーゼ姉妹やクロノなどを通じて邪眼の恐ろしさを知っていたグレアムと協力し、地上と本局の長きに渡る確執を取り除こうと動き出していた。

 無論、彼への反発もあった。それをレジアスはこう一喝したのだ。互いの主張を押し付け続ける事が本当に自分達の理想への道か。今は少しでも陸の安全と、そこに住む人々の暮らしを安定させるべきではないのか。どちらが重要かの主張などは後でも出来る。必要なのは、今を救う事だと。

 

 怪人との戦いによる被害。それはまだ大きく出てはいない。しかし、あのレリック輸送事件の際に出た被害はトイの仕業と認知されていた。その際、六課が提出した報告書に記載された”トイの目的はレリック”との事実。それをレジアスは持ち出し、こう告げたのだ。

 犯罪者が密かにレリックをミッドへ持ち込んだ場合、どうなるのか。それを狙うトイの出現。そして、それによるレリックの暴走。それが重なれば、どれだけの被害が出るか分からないのだから。

 

 そこにはジェイル経由でレリックが暴走すると恐ろしい事になるとレジアスが聞いた事も関係していた。あの空港火災。その原因がジェイルへ送られるはずだったレリックと聞いてレジアスは絶句したのだから。

 故に、今は海への不満や怒りを飲み込み、現状を少しでも改善する。有り得るかもしれない危機。それを未然に防ぐ事こそ自分達に与えられた仕事ではないのか。その言葉にレジアスの支持者達も反論する事なく従ったのだ。それは、レジアスが海に屈したのでも志を折った訳でもないと分かったから。

 

 レジアスは純粋に地上の平和を願い、少しでも要求を通して人々の暮らしを守ろうと考えていると彼らには伝わったのだ。そこまで考え、ジェイルはふと何かに気付いた。

 

「……まさか、彼も償おうとしているのか? 戦闘機人を望み、少なからず怪人誕生へ加担してしまった事を」

 

 そんなジェイルの呟きは誰に聞かれる事無く消えた……

 

 

 

 夜更けの部隊長室。そこになのは達三人の姿があった。明日の事を話すために集まっていたのだ。休憩室や宿舎の自室では色々と気を遣うため、こうして人の来ない場所を選んだという訳だ。

 

「聖王教会かぁ。私は行った事ないけどどんな所?」

「そやな……まぁ、想像通り教会や。ちょう規模が大きいけどな」

「会う相手はそこにいる騎士カリム、だったよね。話自体はシグナムやクロノから何度か聞いた事があるけど、真司さんにも会いたいなんて」

 

 それぞれ手に飲み物を持ち、している話題は翌日の外出に関してだった。色々とあったが現状の報告とライダー達の紹介を兼ねて、一度六課の後見人であるカリムへ会いに行く事になったのだ。

 本当ならばライダーが誰も六課にいない状態は好ましくない。だが、つい二日前に行なったジェイル達が所持していた施設の調査。そこでの戦いでフュンフを初めとする怪人三体とマリアージュを撃破した事もあり、なのは達はこう予想した。またしばらく邪眼達の動きはないだろうと。

 

 これまでの戦闘の起きた周期を鑑みて、その予想はかなり高確率で当たると思われた。それもあってライダー四人の外出が可能となったのだ。

 

「真司さんはクロノ君の希望や。ほんまは翔にぃも連れて行きたいんやけど……」

「ティアナのため、だね。はやてちゃん、おっとなぁ」

 

 翔一といつか一緒にツーリングをしたい。そんな約束を交わしていたティアナ。それを叶えさせてやるため、はやては敢えて翔一を連れて行く事を止めた。そこには、ティアナの立場が昔の自身とだぶった事が関係している。

 加えて彼女にはあの幼い頃の日々と思い出がある。ならば、ティアナへ翔一との思い出を作らせてやっても構わない。そんな風に思い、はやては大人の女になる事にしたのだ。本音を言えばやはり一緒に来て欲しいと思ってはいたが。

 

「そや。わたしは大人になったんや」

「はやて、若干無理してるような気が……」

「フェイトちゃん、それは思っても口にしたら駄目だよ」

「……そういえばグリフィス君がわたしらがおらんとデスクワークが大変や言うとったな。フェイトちゃんは、残ってその手伝いでもしてもらおか。なのはちゃんと光太郎さん達だけ連れてこ」

「は、はやて!?」

 

 フェイトの言葉にややムッとした表情になり、はやては両目を閉じてそう冷酷に告げた。それにフェイトが若干慌てる。すると、それを聞いてはやては片目を開けて視線をフェイトへ向けた。

 

「何や?」

「……ごめんなさい。謝るから私も連れて行ってください」

 

 その申し訳なさそうな声にはやては満足そうに頷いた。なのははそんなはやてを見て苦笑い。実にはやてらしいと思ったのだ。フェイトの気持ちを察しながらそれを応援しているにも関らずこういう手段を取る事が。

 フェイトははやてが許してくれた事に安堵の表情だが、なのはには分かる。そこには光太郎と離れる事を回避出来た事への安堵もあると。最近光太郎がフェイトと距離を置くようになったとなのはもはやても気付いている。その原因が何かは明確には知らない。しかし、確実に光太郎が改造人間である事が関っているのは間違いないとそう二人は判断していた。

 

 フェイトも光太郎が距離を置くようになったのは感じ取っていたが、それをどうこう言う事は無かった。最初は自分が何かしたのだろうかと悩んでいたが、エリオが何かをフェイトへ告げた後は違う事で悩むようになったのだから。

 今、フェイトはどうすれば光太郎との距離を縮める事が出来るかを真剣に考えている。なのはも何度か相談を受けたのだ。その度に結論として出たのは、ちゃんと自分の気持ちと向き合うしかないというものだったが。

 

(でも、フェイトちゃんはまだそれが出来ないんだよね……こう考えると私も結構鈍感だったんだなぁ)

 

 そこで自分へ想いを伝えてくれた相手を思い出し、なのはは少しだけ頬を赤めた。それだけ自分を愛し、その気持ちを伝えて気付かせてくれたのと改めて感じたからだ。幸せ者だなと思いつつ、なのははいつものような雰囲気に戻って話すフェイトとはやてを見て嬉しそうに笑みを浮かべるのだった。

 

 一方、男湯では遅めの風呂に浸かりながら光太郎から昔の話を聞く真司の姿があった。決め技や戦った怪人の事など実に多岐に渡る話をしてもらっていたのだ。それは、彼が書いている管理世界の本とは別の物を書くための取材。仮面ライダーの事をある程度書き綴り、自分の世界へ戻った際の説明材料などにしようと考えたのだ。

 

「へぇ、昔はライダーキックって言ってたんですか」

「ああ。BLACKだった頃はそうだね。RXになった時、蹴り方も変えたから名前も変えたんだよ」

 

 そんな話を横で聞きながら翔一とエリオは興味深そうに頷いていた。

 

「なら俺も今度から蹴る時はそう言います。五代さんも、そう叫んで蹴ったら心なしか威力が上がった気がするって言ってましたし」

「じゃ、俺もライダーキックって言おうかな。それにその方がこう、俺もライダーだって気持ちを強く持てそうだし」

「いいんじゃないかな。怪人を倒したい、みんなを守りたいと思う気持ちがそこに込めてあれば」

 

 光太郎がそう締め括ると、エリオが何かを呟いてから三人へこんな事を問いかけた。

 

「なら、変身ってどんな気持ちで言ってるんですか?」

 

 その質問に三人は揃って呆気に取られ、それから思い思いに悩み出す。実を言えばそこまで彼らに深い考えや気持ちはない。いや、決まった気持ちはと言うべきだろう。ある時は怪人への怒り。ある時は戦う決意。またある時は誰かを守るためや助けたいとの思いなのだから。

 そして、その質問に対して真っ先に答えたのは真司。基本的にモンスターを倒すためにしか変身しない彼にとって、龍騎になる時の気持ちは全て根底は同じだからだ。もう誰も犠牲にさせない。そんな思いで変身していると真司は告げた。

 

 それに翔一も続く。自分も今は誰も悲しまずに済むようにと思って変身していると。アギトの力は守る力。全ての人を守り、助けるためにある。そう思っているから。そう翔一は言い切った。

 しかし、光太郎だけは答えが出てこなかった。それは、ある意味当然とも言える。彼は二人と違い、ある意味では同胞とも言える相手と戦ってきた。確かに怪人や怪魔界の者達は人の心を持たぬ存在だ。怪物という表現がぴったりくる相手だったが、それだからこそ思うのだ。彼らは、脳改造までされた自分の成れの果てではないかと。

 

(俺も下手をすればシャドームーンのようになっていた。秋月の小父さんが助けてくれなかったら、俺も……)

 

 幸運が重なって仮面ライダーとなった光太郎。変身とは、二人とは違い別の姿になるのではなく自分の本当の姿へ変わる事を意味する。故に、そこに込める気持ちは複雑だ。光太郎自身は、今の姿こそ自分の本当の姿と思っている。しかし、どこかでこうも思うのだ。本当の南光太郎は、あの十九歳の誕生日の夜に死んでしまったのだとも。

 

 あの夜、自分は南光太郎ではなく仮面ライダーBLACKへ生まれ変わった。だから、変身とは光太郎にとって決意でも覚悟でもなくライダーとして戦うとの宣言。そう、あの日クモ怪人達を前に自分の意志で変身をした時から彼は誓ったのだ。人知れず人のために戦う事を。見つけたのだ。それが、俺の青春だと。

 

「……俺は、意思表示だね。ライダーへ変わるための」

「そうなんですか」

 

 エリオのどこか意外そうな声に光太郎は頷き、少しだけ懐かしむように笑みを浮かべた。エリオはその笑みに悲しみと決意を見た気がして何も言えなくなった。しかし、光太郎の隣へ静かに近付き、こう小さく告げた。

 

―――僕は、大きくなったら光太郎さんを追い駆けます。例えどこかにいなくなっても絶対捜してみせます。今は見つめる事しか出来なくても、平和のために戦う事を仮面ライダーだけに任せませんから。

 

 その言葉に光太郎は何かを言おうとして―――止めた。エリオの人生はエリオが決めるべきだと思っただけではない。嬉しかったのだ。辛く険しく苦い道。それを追い駆けようとしてくれるその気持ちが。

 実際に歩んでくれずともいい。そう思ってくれただけでも光太郎には何にも負けない励まし。一人じゃないとあの日すずかに言われた言葉を思い出し、光太郎は思う。

 

(この世界は優しい場所だ。どこにも愛が溢れている……)

 

 心からそう思い、光太郎は優しい笑みを見せる。それにエリオも嬉しそうに笑みを返して頷いた。そんな二人を見つめて翔一と真司も笑顔を浮かべた。自分達が守りたいものはこういう光景なのだと、改めて感じながら。

 

 

 

 その日の宿舎前はいつもとは違う賑わいを見せていた。スバルとウェンディが楽しげに談笑する横で、ギンガとチンクがそれを見つめ微笑んでいる。四人はノーヴェを待っているのだ。彼女は寝坊したため、現在急いで身支度を整えている。

 そこから少し離れた場所では、ビートチェイサーに乗って今か今かと翔一を待つティアナの姿がある。翔一が自分のバイクの点検をしてからと言い出し、現在格納庫で点検中のためだ。ビートチェイサーは前もって彼女自身が昨日の内にヴァイスや光太郎に手伝ってもらいながら整備などを終えていた。

 

 エリオとキャロはドゥーエから互いの手を繋いで歩くようにと厳命されていた。クラナガンの街は人が多い。そのため、はぐれないよう気をつけなさいと。彼女は二人の後ろをついていくように歩くがあまり邪魔するつもりはないと告げ、その意味合いを理解したのかエリオが多少慌てていた。

 そんな光景を眺め、柔らかく微笑むなのはとフェイト。はやては部隊長室で仕事をある程度片付けている。グリフィス達への負担を少しでも軽くしようとしているのだ。故に二人も見送りが終わり次第、時間まで少しでもデスクワークを片付けるつもりだった。

 

「じゃあフェイト、行ってくるわ」

「うん。二人をよろしくね、ドゥーエ」

「行ってきます」

「お茶菓子でも買って帰りますから」

 

 フェイトへ手を振ってエリオとキャロは仲良く手を繋いで歩き出す。その姿が兄妹のようにも幼い恋人にも見えてフェイトは嬉しそうに微笑んだ。それと同時に離れた所からバイクの排気音が聞こえてくる。それに即座に反応したのはティアナだ。

 

「やっと来た。翔一さん、おそ~いっ!」

 

 格納庫から宿舎目指して走ってくるバイクを見てティアナがどこか嬉しそうにそう叫ぶ。それを周囲が聞いて苦笑した。どう聞いても怒っていないのは明白だからだろう。そんな周囲の反応に構わず、ティアナはヘルメットのバイザーを戻していつでも走り出せるようにして翔一を見つめた。

 

「ゴメン! お詫びに今日のお昼は奢るから」

「当然。さ、じゃ行きましょ」

 

 どこから聞いても恋人のようなやり取りにしか聞こえない会話だが、それを誰かが指摘する暇も与えず二人はなのは達へ手を振ってそのままバイクで走り去った。目指す場所はあの時行った公園だ。それをスバル達が見送ったところでノーヴェがようやく姿を見せた。

 スバルの服を借り、上は赤いTシャツで下は白のハーフパンツという格好だ。そう、ヴァルキリーズは普段着をラボに置き去りにしたため、六課の者達で体型が近い者などから服をある程度貸してもらうしかないのだ。幸い普段着を着る事などは滅多にないのでそこまで困らなかったが、今日は全員が休日のためにアルトやルキノなども彼女達へ適当な服を貸していた。

 

 ちなみにスバルはある時を境に赤の色を好むようになった。その原因は語るまでもないが、ノーヴェは髪の色が赤なので余計に似合う印象があった。

 

「悪い。遅くなった」

「気にしないでいいよ。ギン姉、ノーヴェ来たからもう行こうっか」

「そうね」

 

 こうしてスバル達もなのは達へ手を振って動き出す。それを最後に宿舎前はいつもの静けさを取り戻した。それに一抹の寂しさを感じながらもなのはとフェイトは隊舎向かって歩き出す。すると、フェイトがこんな事を言い出した。

 

「……何か、大家族みたいだね」

「にゃはは、それじゃ……長女は誰?」

「う~ん……ウーノかな」

「長男は光太郎さんかザフィーラだね」

「真司さんは?」

「エリオがいるし末っ子ではないけど……」

 

 互いに笑みを浮かべてくだらない事を話題にしながら二人は歩く。せめて今日は何もなく平和で過ぎていきますようにと、そう心から願いながら。

 

 その頃、スバル達よりも先に動き出していたセイン達は到着した二度目のクラナガンの街を懐かしく眺めていた。

 

「いや、ある意味変わってないね」

「そうねぇ。でも、あの時はあの場所がブティックだったわよ?」

「そうなんだ。クア姉って記憶力いいね」

 

 ディエチが感心したように告げるとクアットロが当然というように胸を張った。それにセインが小さく笑みを浮かべる。クアットロは普段姉らしく行動している。後発組から頼られる事も少なくないからなのだが、今日のような姉らしくある必要が少ない場合はこのようなふざける一面も見られるのだ。

 セインとしてはそんなクアットロが大好きなので、今日のような状況はとても喜ばしく思っていた。そんな和やかな雰囲気のまま三人は映画館へ向かう。まだ上映時間には早いのでそこで上映されている物から何を見るかを決める事となった。

 

「サスペンスホラーなんていいんじゃない?」

「あたしアクション!」

「……ら、ラブストーリーは駄目かな?」

 

 しかし当然のように見事に好みが分かれ意見がバラバラだった。結局、上映時間を逆算し最初にディエチの希望を叶えてからセイン、クアットロの順になった。実は効率を考えて無駄無く見るなら、クアットロの映画を最初に見る方が良かった。しかし、妹達の方を優先させてやろうと考えたクアットロが順番を敢えてそうしたのだった。

 無論、それをセインとディエチは気付かない。クアットロが二人に先んじて提案したためだ。こうして上映時間まで三人は近くを適当に見て歩く事にする。あの平和だった頃に戻った気になり、彼女達は知らず笑顔が増えたのは言うまでもない。

 

 

 

 光太郎運転の車で五代達はベルカ自治区にある聖王教会へやってきていた。真司や五代はその景観にやや感動していた。ヨーロッパなどにある大聖堂を思わせたからだろう。長い歴史があるはずと五代が言えば真司もそれに同意し、作りが地球の方と似てますとどこか嬉しそうに返す。

 そんな二人を見てはやては笑い、なのはとフェイトは聞いてはいたのか二人よりも感動は薄い。光太郎は周囲の人々を見て平和で穏やかな雰囲気を感じ取り、笑みを浮かべていた。

 

 そうやって少しの間周囲を眺めさせていたはやてだったが、時間もあるのでと五代達に告げて動き出す。そして、少し歩くと入口の扉の前で一人の女性が立っていた。

 

「お待ちしていました、騎士はやて。そして、皆さん」

「お久しぶりです、シスター。こちらはカリムの秘書もしてるシャッハ・ヌエラさんや」

 

 はやての紹介にシャッハは軽く頭を下げる。それに五代達も会釈を返し自己紹介。五代と真司だけは名刺を取り出してシャッハに驚かれる一幕もあった。

 

「では、こちらへ。騎士カリムとクロノ提督がお待ちです」

 

 先導するように歩き出すシャッハ。その後ろをついて行きながら、真司は五代へ彼女が挙げた二人の人物について尋ねた。五代はクロノは知っているもののカリムは知らないため答えられないため、彼にそう申し訳なさそうに告げる。それは光太郎も同様だ。

 そんな三人へフェイトが笑みを浮かべて言った。六課でカリムの事を話せる程知っているのははやて達八神家だけだと。そんな話をしている間に五代達は一つの扉の前で止まった。いや、正確にはシャッハが足を止めたのだ。

 

「騎士カリム、騎士はやてとご友人方をお連れしました」

「入ってもらって」

 

 数回扉をノックし掛けた声に涼やかな声が返ってくる。それを聞いて真司が直感で美人だと思い、その旨を五代に告げる。それに五代もそうかもと応じ、光太郎が苦笑した。なのはとフェイトもそれを聞いて苦笑していたからだ。

 一人はやては思わせぶりな笑みを見せてどうだろうと告げる。そんな六人を見てシャッハはどこか意外そうな表情を浮かべていた。彼女ははやての事をよく知っている。だが、なのはとフェイトに関しては世間一般と同じ程度の感覚しかない。

 

 故に、二人が年相応に振舞っているのが新鮮に映った。それと、五代の雰囲気や真司の雰囲気にどこか翔一にも似たものを感じたため余計にそう顔に出たのだ。

 

「ま、とりあえず入ろか」

「そうだね」

 

 はやての言葉になのはが頷き、六人は部屋の中へと足を踏み入れる。シャッハはお茶の用意をするのでと告げると一旦下がった。室内に入った五代達が見たのは落ち着いた雰囲気の家具とテーブルに着く美しい金髪の女性。そしてクロノの姿だった。

 

「ようこそ、聖王教会へ。私はカリム・グラシアと申します。以後、お見知りおきを」

 

 カリムの自己紹介に五代達五人がそれぞれ自己紹介をして視線を隣へ移す。クロノはそれに軽い笑みを浮かべて応えるが、真司だけは初対面のために簡単な自己紹介をした。

 そして、それぞれが席に着いて話し出そうとした瞬間、フェイトがクロノへ少しからかうように告げた。

 

「久しぶりだね、お義兄ちゃん」

「……その呼び方は止めてくれと言っただろ」

「あ、クロノ君照れてる」

「俺はいいと思うけどなぁ。何が嫌なの?」

 

 クロノの恥ずかしがるような反応になのはと五代がそう返す。それとは別に真司は光太郎からクロノとフェイトの関係を教えられその反応に納得していた。きっとクロノが照れているのは呼ばれ慣れていないからだろうと。

 彼も最初はセイン達から兄と呼ばれ戸惑ったが今はもうそれが普通になっている。その体験談を真司が話すとクロノはやや驚いたようだったが、何かに気付いて頷いた。

 

「そうか。君も仮面ライダーだったな。五代や津上と同じか」

「え? 俺と五代さん達が同じ?」

 

 クロノの言葉に疑問を浮かべる真司だったが、聞いていたなのは達はどこか納得したように声を漏らした。

 

「つまり、自然体だと言う事だ。変にキバったりせず、ありのままに受け止める事が出来るんだろう。いや、尊敬するよ」

「そんなんでもないと思うけど……誉めてもらえるのは嬉しいな」

「翔一さんもそんな感じでしたね。しかし……」

 

 真司の反応に微笑みを浮かべるカリムだったが、改めて五代達三人を見つめて頷いた。そう、翔一と同じような空気感を感じるのだ。まるで同じような何かを秘めているような。

 それは、きっと仮面ライダーとしての力だろうとカリムは結論付け一人納得する。そして、はやてから現状を詳しく説明してもらう事にした。邪眼の目的とその手駒。狙っている行動時期とその理由。それら全てを語ってもらおうと。

 

 しかし、その前にはやてはカリムへある事を頼んだ。それはあの予言を五代達にも聞いてもらいたいとの提案。そこから自分達では分からない事も分かるかもしれないからと。それにカリムも頷き、視線でクロノへある事を頼む。

 それはカーテンを閉める事。予言の準備だ。とはいえ、もう今年の予言は行なわれているためそれを出現させる事しか出来ない。だが、それでも念には念をとの処置だった。

 

「……これがその予言です。良く当たる占い程度のはずですが、今回はどうやら確定と言っても良さそうですね」

 

 カリムが見せたそれが知っている文字である事に気付いた五代は若干嬉しそうに笑う。

 

「これ、古代ベルカ文字って奴ですよね?」

「はい。私のレアスキル”プロフェーティン・シュリフテン”は失われてしまった古代ベルカの力なのです」

 

 五代はユーノとの付き合いで少しだけだがベルカの事も学んだ。ミッド文字もベルカ文字も大元は同じだったようだが、ユーノ曰く細部が違うらしいのだ。しかし、五代にはその違いが今一つ分からなかったという苦めの思い出がある。

 なのは達も少し睨むように見つめていたがやはり読めるはずもなく断念。そこでカリムが翻訳した物を読み出した。それを聞いて五代は思わず息を呑む事となる。

 

 旧き結晶を使い、悪しき世を創ろうとする眼。そが操るは死者の列と物言わぬモノ。

 闇の覚醒がもたらすその力の前に、焼け墜ちる法の船。

 死者の列は群を成し、死人を喰らいて増え続ける。冥府を司る者求め、彼らは行く。

 そして古の王甦り、影と闇を争わす。しかし闇深く、甦る王を包まんとす。戦士、闇に立ち向かいそれを救わん。だが、それこそ闇の始まりなり。

 闇に汚れし仮面で哀しみを隠す戦士。太陽と進化の輝き合わさりし時、龍騎士の咆哮が聖なる泉を呼び戻す。

 

「……翻訳が完全ではない部分もありますが、こんな感じの文章になるはずです」

 

 カリムがそう告げると、ある事に気付いて光太郎が真っ先に視線を五代に向けた。

 

「五代さん、この最後の部分はあの姿を指してるんじゃ?」

「……多分、そうですね。そっか……そうなるのか、俺」

 

 五代が何かを思い出し何とも言えない表情になったのを見てなのは達が不思議に思う。予言の何が五代を反応させたのかが今一つ分からなかったのだ。そんななのは達へ、五代はゆっくりとある言葉を告げる。

 それは、彼にとって忘れる事の出来ない言葉。そして、決してあってはならない状況。たった一度だけ、五代雄介が自分を見失った時になりかかった恐ろしい存在への警告。

 

「聖なる泉枯れ果てし時、凄まじき戦士雷の如く出で、太陽は……闇に、葬られん」

 

 その言葉になのは達は驚愕する。その冒頭の単語が予言にそのまま出てくるからだ。更に続けられた内容もあまり良い物ではない。はやては凄まじき戦士の事を聞いていたが、その聖なる泉との単語は知らない。

 そのため、誰もが五代へその言葉の意味を教えて欲しいと視線で訴える。それに五代は静かに息を吐いて語り出した。あの黒の四本角のクウガの事を。究極の闇をもたらす忌わしき姿の事を。

 

 その頃、ミッドチルダ某所にある違法研究施設から一台の車両がある場所目指して動き出した。その積荷には幼い少女が入ったポッドと鎖で繋がれたケースが二つ混ざっている。向かう先は、ベルカ自治区にあるジェイルラボ。

 だが、その動きを監視する物がある。それはその施設に備えつけてある監視カメラ。それをウーノがISで管理下に置いていたのだ。即座に施設のコンピューターにハッキングをし、その車両が例の聖王のコピーを運んでいると分かるや否やウーノは隊舎で仕事をしていたシグナム達へ連絡した。

 

 まだこの時は誰も知らなかった。既にその車両へトイが向かっていようとは……

 

 

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六課の休日前編でした。次回はあの少女の登場です。そして、現時点での予言解禁。


 
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