No.493170

Masked Rider in Nanoha 三十七話 連戦

MRZさん

五代達がいない六課。光太郎はノーヴェ達三人に先輩ライダーの事を語る事となり、思わぬ言葉を聞く事になる。
一方、真司はヘリポートでの事をセインやチンクへ話す。人ならざる悲哀。それへ彼らは微かに思いを馳せるのだった。

2012-10-07 08:58:20 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:2798   閲覧ユーザー数:2678

 五代達を見送った光太郎は一人格納庫へとやってきていた。今回居残りを決めた時、フェイトが一瞬見せた悲しみ。それを見て光太郎は確信した。フェイトが自分へ異性として想いを抱いている事を。

 アグスタでのやり取りでも薄っすらと感じていたが、それを完全に理解した瞬間、光太郎は何とも言えない気持ちになった。嬉しさはある。光太郎から見てもフェイトは十分美人だ。しかし、光太郎には隣を歩かせる訳には行かない理由が多くある。

 

 一つは、彼が元々居た世界で想いを寄せてくれた女性である白鳥玲子への配慮。もう一つは、光太郎がこの世界の住人ではない事。本来の世界へ帰還すればおそらく二度とこちらには来れなくなるだろうため。

 そして、最大の理由。それは、彼が仮面ライダーである事。人ならざる身体と人知れず悪と戦い続ける宿命。それを背負う自分と寄り添う事は誰にもさせたくないと光太郎は考えているからだ。

 

(フェイトちゃんの傍に長く居すぎたのか? ……いや、それだけじゃない。互いの秘密を知り合ったのも大きいだろう。そうか……ある意味で似た者同士と考えているのかもしれないな)

 

 フェイトの好意のキッカケをそう結論付ける光太郎。確かにそれもあるだろう。フェイトの出生は他者に軽々と話せるものではないのだから。しかし、それだけでフェイトが光太郎を愛する訳ではない。

 一番の理由は、その心と在り方。内面的なものこそフェイトがもっとも重視する部分。故に、フェイトは光太郎へ惹かれていったのだ。自然を愛し、平和を愛する光太郎。悪い事は許さず、誰が相手であってもそれを正そうと行動出来る男。そんな光太郎だからこそ、フェイトは知らず好意を愛情へ変化させてしまったのだから。

 

「あれ? 光太郎さんは行かなかったの?」

「一緒に行くって思ってたッス」

 

 光太郎が顔を見せた事に多少疑問を浮かべるディエチとウェンディ。それに光太郎は思考を切り替え、笑顔を浮かべて答えた。

 

「そうだったんだけどさ、ちょっとこっちでやる事が出来てね」

「そうなんだ」

「じゃ、忙しい感じッスか?」

「いや、まだ大丈夫だよ。どうして?」

「いやぁ、聞きたい事があるんスよ。ほら、光太郎さんの言う先輩ライダーって何人いて、どんな人達なのかって気になって」

 

 ウェンディがそう言うとディエチも興味があったのか頷いた。自分も気になると。それに整備員達の手伝いをしていたノーヴェも耳聡く反応し振り向いた。

 

「アタシも聞きたい!」

 

 その仲間外れするなと言わんばかりの声に光太郎は苦笑。それぞれの先輩ライダー達の名前と簡単な話だけならと前置き、彼女達へ話し出した。まずは一号。技の一号とも呼ばれる程の多彩な必殺技を持ち、これまで多くの怪人と戦った事もあり、様々な状況や戦術にも対処出来る歴戦の強者。

 ショッカーという悪魔の軍団を倒した後も休む事無く怪人達と戦い続ける英雄。心・技・体の全てにおいて優れた頼れるライダー達のリーダーでもあるのだ。

 

 次は二号。力の二号と異名されるだけあり、技にも豪快なものが多い。更に、一号と同じく多くの戦いを経験しているため、そこからくる助言や勘は信頼出来るものがある。

 その戦いはまさに嵐。闇を蹴散らす旋風の如し。更に、その真紅の拳は怒りの紅。悲しみを砕き、悪を打ち倒すためのものなのだ。そして、一号と二号は共に連携を取れば負ける事はないという伝説を持つ”ダブルライダー”。

 

「……はぁ~、凄いッスね」

「ダブルライダーって、今の光太郎さん達も二人になれば同じだよ?」

「そうじゃなくてね。先輩達の場合は人数を意味するんじゃなく、一号と二号だからこその”ダブルライダー”なんだよ」

 

 感覚の問題なんだと光太郎は笑って言った。それに何となくだがウェンディ達も納得。それを確認し、光太郎は続きを話す。

 

 仮面ライダーV3。ダブルライダーの力と技を受け継ぐ最強の呼び声も高いライダー。二十六の秘密を持ち、その特殊能力を駆使されればRXといえど勝つ事は難しいと思わされた存在。

 ダブルタイフーンと呼ばれる命のベルトがもたらすエネルギーは、変身だけではなく攻撃にも転じる事が可能。その”逆ダブルタイフーン”は強力な反面、一度使用すると三時間変身が出来なくなる諸刃の剣でもあると光太郎は告げた。

 

 そしてライダーマン。様々なアタッチメントを使いこなす彼。V3が戦っていたデストロンの科学者であった彼は最初こそ自身の復讐のためだけに戦っていたが、最後にはV3と協力し自らの死も覚悟の上で命を賭けて東京を守った。その事でV3から仮面ライダー四号の名を贈られたのだ。

 強く優しい男。故にどんな相手であろうと弱者を踏み躙る者へは立ち向かい、その存在を許さない。自身が知らず犯してしまった過ちに苦しみながらも、それを償うために戦い続ける四号ライダーだ。

 

「一号と二号の力と技を……」

「二時間変身出来ない、か。使い所を間違えたら危ないけど、それだけ凄い威力なんだろうな」

「アタシとしてはV3よりもライダーマンッス。何で名前が一人だけ仮面ライダーで始まらないのかって思ったッスけど、これで納得ッス」

「ライダーマンは先輩達の中で一番頭脳戦が得意なんだ。色々な発明や発見をしたり、かつて敵組織の人間だった事を利用し、敢えて敵の中へ入り込む事で先輩達を助けた事もあるらしい。仰々しい特殊能力は無くても、知恵の使い方次第では戦局を動かす事が出来る事を示したライダーだよ」

 

 光太郎の補足に三人は揃って頷いた。彼女達の長女であるウーノ。彼女もまさにそうなのだ。ISは戦闘向きではない。それでも、それを活用し戦術や戦略を練る事でヴァルキリーズの司令塔を担っているのだ。光太郎は、三人がそんな風に自分の話を理解してくれた事を確かめ、更に続ける。

 

 仮面ライダーX。深海用の改造人間―――カイゾーグとして生まれたため、海中の強さは他を圧倒する。更にライドルと呼ばれる特殊武器を所持し、それを使った攻撃も強みの一つ。

 光太郎は知らないが、実はその体を改造したのは父親。それは、瀕死の息子を助けたい親の愛情故の措置。だから、Xはその思いを無駄にしないために戦っている。海を愛した父。そんな父の平和への叫びが波の音となって聞こえ続ける限り、今日もXライダーは行くのだから。

 

 次はアマゾンライダー。野生的な動きや技で相手を翻弄し、決め技はキックよりも腕の鋭い刃を使った大切断を多用する。更にギギとガガの腕輪と言う古代インカの力を秘めた物を使えば、その力はおそらくライダーの中でトップクラスにもなる。

 彼は自然と人をこよなく愛し、トモダチのためならどんな相手にも勝利してみせる。明日の世界を守るため、今日もどこかでアマゾンは戦っているはずだと光太郎は言い切った。

 

「深海って、そんな所でも怪人は動けるの!?」

「凄いッス。でも、逆に考えれば当然ッスよね。世界征服するなら、どんな場所でも戦えないと話にならないッスから」

「アマゾンは古代の力か。クウガみたいだよな」

「確かに近いものはあるね。先輩もインカの秘術を受けてライダーになったらしい。もしかすると、小さな接点ぐらいはあるかもしれない」

 

 光太郎の指摘に三人は軽く驚き、クウガと歴代ライダーの共通点に少し嬉しそうに笑った。五代に話せばきっと喜ぶだろうと思ったからだ。そんな三人の表情に光太郎も笑顔を浮かべて話を続ける。

 

 仮面ライダーストロンガー。電気人間と呼ばれるため、その技は電気を使う物が多い。しかもチャージアップというフォームチェンジをする事で、時間制限はあるものの凄まじい力を発揮する事も出来る。

 天が呼ぶ。地が呼ぶ。人が呼ぶ。悪を倒せと俺を呼ぶ。そんな口上が決め台詞の漢。正義の心をカッと燃やす熱い正義の戦士だ。

 

 次はスカイライダー。名の通り唯一空を飛べるライダー。セイリングジャンプと言う飛行能力は、多くのライダーが苦手としていた空中戦を完全に自分のものとしたのだ。更に一号を凌ぐ技の数を誇る。

 専用バイクでのライダーブレイクという攻撃で壁や怪人を砕く事も出来、地上戦でもかなりの力を発揮出来る万能型の仮面ライダーなのだ。

 

「電気か。エリオやフェイトさんみたいな感じかな?」

「チャージアップってクウガの超変身と何が違うんだ?」

「角が銀色になって、全ての力が大幅に強化されるんだ。俺も見た事はないけど、そう先輩は教えてくれたよ」

「空中戦をものにした唯一のライダーッスか。残念ながら、龍騎がもうそれを名乗らせないッスよ」

 

 ウェンディはそう言って不敵に笑みを浮かべた。ノーヴェとディエチはそれに頷き、光太郎は苦笑。実際、アギトとユニゾンしなければならない龍騎は本当の意味ではスカイライダーに及んでいない。しかし、それを言い出すのは無粋とも思ったのだ。

 何故ならウェンディは、別にライダーに優劣をつけているのではなく単純に思った事を口にしていると分かっているからだ。故に光太郎はそれに構う事無く話を続けた。

 

 仮面ライダースーパー1。宇宙開発を目的に生まれた改造人間。ファイブハンドと言う特殊装備を使いこなし、たった一人で二つの組織を相手に戦い抜いたライダー。唯一、本人が希望した平和利用の改造人間である事も他との相違点だ。

 更に、二台のマシンを使い分け、状況に応じた使用法であらゆる場所を駆け抜ける事もあった。赤い正義の血を燃やし、銀の機械の腕を振るう金の心を持つ男。だからこそ、彼は惑星開発用改造人間S-1ではなく仮面ライダースーパー1なのだから。

 

 最後は仮面ライダーZX。脳以外は全て機械というパーフェクトサイボーグ。そのため全身に武器が内蔵してあり、その能力や戦い方から忍者ライダーとも言われる事もある。彼も最初は復讐心で戦っていたが、先輩ライダー達と触れ合った事で仮面ライダーとして目覚め、その名を名乗るようになったのだ。

 悪の渦を、深い闇を裂く稲妻のような電撃。そんな激しさを兼ね備えた熱風のような色の存在。その名に込められた意味というのは、仮面ライダーとしての完成形と言う”最後の者”を示しているのかもしれない。そこまで告げ、光太郎は息を吐いた。

 

「……と、以上の十人が俺の先輩達。名前と能力はざっとこんな感じかな」

「忍者ライダー……ドロンって消えるんッスかね?」

「いや、見えないぐらい速いんだ。トーレ姉達が見失うぐらいにさ」

 

 ウェンディとノーヴェがどこか楽しそうに話す横でディエチだけはその雰囲気が違った。

 

「自分で望んで仮面ライダーになった人もいたんだ……」

 

 ディエチが驚きを浮かべて告げた言葉。それに光太郎は首を静かに振った。スーパー1は、仮面ライダーになりたかった訳じゃないのだと。彼はただ、自分と両親の夢のために、そして人類の夢のために宇宙開発用の改造人間になる事を望んだのだ。

 決して戦うために、仮面ライダーになるために改造されたのではないと、はっきりと告げた。それに三人は神妙な表情で黙った。自身との違いを感じたために。彼女達は生まれた時から普通の人とは違う身体だった。だが、中には夢のために敢えて普通とは違う身体になる者もいる事を知って。

 

 その事実はとても不思議で、そしてどこか理解出来てしまったのだ。真司が彼女達へ尋ねた戦闘機人として生きるか人として生きるかを選ぶ事。それをスーパー1は、改造人間として生きる事を選んだのだ。それは、欲望のためではなく自分と多くの者達の夢を叶えるために。つまり、みんなで幸せになるためにだ。

 

「……その人は、誰よりも人らしい心の持ち主だったんだね」

「そうだな。だから、夢のために自分を捧げる事が出来たんだ。きっと、それが多くの人の笑顔に繋がるって思ったから」

「でも、それを怪人との戦いに使うはめになった……辛かったはずッス」

 

 光太郎は三人の言葉にこみ上げるものを感じていた。もしこれをスーパー1―――沖一也が聞いたのならどう思うだろうと。少ない情報からその心境に思いを馳せる少女達へ、きっと一也は感謝と笑みを返すだろう。

 更に、君達も人らしい心の持ち主だと力強く告げたに違いない。そう考え、光太郎は嬉しく思った。一也だけではない。全てのライダー達が三人の言葉に同じ気持ちを抱くだろうと思ったからだ。

 

 強大な力に憧れるのではなく、それを持たざるを得なかった事に対して思いを馳せる。そして、その使い道とその気持ちを思いやり、悲しみを抱く。これが本来の人間なのだ。決して他者を顧みず、自分だけを守ろうとするのではなく、自分と他者を大切に考えその心を汲み取ろうとする。

 そんな存在と思うからこそ、仮面ライダー達は人間を愛して守り続けるのだから。光太郎はそう改めて思い直し、手を叩いて動き出した。

 

「さ! 話はお終い。みんなで仕事に戻ろうか」

「「「了解(ッス)」」」

 

 そう元気よく返事をし、三人は口々に光太郎へ話の礼を述べ仕事へ戻る。それを見つめ、光太郎はこれだけでも残った甲斐があったと感じていた。

 

(先輩達、帰ったら是非聞かせたい事があります。俺達の戦いは決して無駄じゃないって事と、人を守る事は間違っていないって事を改めて思う事が出来る話を……)

 

 絶対に戻って歴代ライダー達に聞かせるのだ。この魔法世界での出来事を。明日を変える事が出来ると信じる力をくれる思い出。それを他のライダーにもと、光太郎はそう強く誓うのだった。

 

 

 

 

「何かアインさんがいないと変な感じだね」

 

 ぽつりと呟かれたセインの言葉にチンクも頷いた。今までどんな時も食堂に居たリイン。それが今回に限りいない。その違和感はやはり拭えない。それでも、あのアグスタの時と同じようにドゥーエがいるし、更に今回はトーレとセッテが手伝いをしてくれる事になっている。

 

「そうだが、その分今日は手伝いも多い。ディードも出来たら来ると言っていたしな」

「そっか。でもセッテはともかくさ、トーレ姉はあまりやった事ないけど大丈夫かな?」

「……まぁ、セッテと共に簡単な事を任せよう」

 

 セインの指摘にチンクもラボでの日々を思い出し、トーレが家事を手伝った事の少なさに思い至って苦笑混じりにそう言った。セインも同じように苦笑しつつ視線を真司へと向ける。

 真司は一人で五代と翔一が朝やってくれた仕込みを引き継ぎ、食堂の準備を進めていた。だが、何故かその表情が曇っているような気がしていたのだ。セインもチンクもそれを先程から感じている。見送りに行く時まではいつも通りだったのに、帰って来た時はやや暗いように見えたのだから。

 

(何があったんだろう、真司兄)

(あの様子では自分から話し出す事はなさそうか。やれやれ、今度は何を抱えたのだ?)

 

 二人して軽くため息さえ漏らし、それに気付き合って顔を見合わせ苦笑。そして、意を決してチンクが真司へ声を掛けた。

 

「真司」

「ん? 何さ?」

「見送りで何があった?」

 

 真司相手に回りくどい聞き方は意味がないと知っているチンクはそうはっきりと尋ねた。それに真司はどこか躊躇う感じだったが、何かを思いついたのか一度頷いて視線をチンク達へ向けて告げる。

 光太郎が何故かフェイトと距離を置こうとしていると。それだけで二人は大体を察した。それは光太郎の気持ちだ。仮面ライダーである光太郎。その人生はきっと過酷なもの。故にその隣を歩かせる事はしたくないだろうと。そう、それはある者にも当てはまるのだから。

 

「……真司、それは私達が容易に口出し出来る問題ではない」

「そうなんだよな、やっぱ。俺なりに考えてみたんだけどさ、簡単に出来る事なら光太郎さんも受け入れてるはずだし」

「難しいよね、ライダーに恋するって」

「だなぁ……」

 

 セインの複雑な想いを込めた言葉を普通に頷く真司。それにチンクもセインも微かに笑みを浮かべるが、同時に小さく悲しみも浮かべた。

 光太郎とは違った意味で仮面ライダーとして生きる真司。彼もまた同じような結論を出すのではないか。そう二人も思っている。願いを叶えるために殺し合う真司の世界のライダー。それを変える、もしくは止めるために戦う真司。彼の生き方もまた苛烈になるだろう事は想像に難くない。

 

 優しい真司は光太郎とは違う反応を見せるかもしれないが、それでもその隣を歩く事をさせるようには思えなかった。チンクもセインも、未だに真司へその胸の内を明かす事が出来ないのは拒絶される事を恐れているから。この時間を、この雰囲気を失いたくないからの弱さ故に。

 

「でも、きっと光太郎さんも気付いてるはずさ。人は一人じゃ生きて行けない。それは仮面ライダーだって同じだって。どこかで誰かと支え合うから、ライダーもまた人なんだってさ」

「……そう、だな」

「真司兄が言うと説得力あるよ。何せ、仮面ライダーだし」

 

 真司の告げた言葉。それが二人の中に希望を灯した。それは、もしかしたらとの淡いもの。真司ならば、この想いを受け止めて頷いてくれるのではないか。そんな風に思う事が出来たのだ。そんな事を思い笑顔を見せる二人を見て、真司も嬉しそうに笑顔を見せるのだった。

 

 そんなどこか和やかな食堂とは違い、指揮所ではグリフィスがはやての代わりを務めるため、いつも以上のデスクワークに多少忙しそうに手を動かしていた。

 その隣でオットーがそれを支えるために手伝いをするのももう当たり前の光景になり、アルトとルキノはクアットロと三人でデスクワークをしているし、ディードはそれぞれに飲み物を用意してデスクに置いていた。

 

「では、私は食堂の手伝いに行ってきます」

「頼むねディード。今日はアインさんもいないから」

「美味しい料理期待してるって、真司さんに言っておいて」

 

 ルキノとアルトの言葉にディードは笑顔で頷き、指揮所を後にする。それを見送ると二人も視線を前に戻した。

 

「しかし、管理外への出張とは大変ですね」

「しかもぉ、行き先はなのはちゃん達の故郷でしょ?」

「何か妙だよな」

「ええ。だからこそ光太郎さんはこちらに残ったのでしょう。これが邪眼の仕業かもしれないと考えて」

 

 オットーの言葉にクアットロが続けて告げた言葉。そこに全員が感じているだろう事をアギトが代弁した。その会話を聞いてグリフィスはやや険しさを覗かせて答えた。彼自身、どこかでこの任務は邪眼絡みではないと思っているが、それでも現状の指揮官である自分が警戒していると周囲に思わせる事で全体に緊張感を持ってもらおうと考えていたのだ。

 それを周囲も理解したのだろう。先程までとは違った空気が室内を満たす。それは適度な緊迫感。いつ何があってもいいようにとの心構えをした雰囲気だ。それにグリフィスは内心で笑みを浮かべる。やはりこの部隊はいい部隊だと思ったのだ。

 

(こうして上の者の雰囲気を感じ取ってくれる。そして、上は下の者達の気持ちや行動を支えてやれる。どこでもこうであって欲しいけど……)

 

 それが中々厳しいのは彼もよく知っている。人事部の人間で彼の母であるレティからも多少なりと聞いている話。管理局全体のしがらみや管轄争い。そう、内輪揉めだ。特に顕著なのが陸と海の確執。もっと人と資金をと叫ぶ陸。担当する事件内容のため、優秀な人材と資金は優先的に回して欲しいと考える海。どちらにも一理あり、故に難しい問題なのだ。

 確かに海の事件は下手をすれば次元世界を危機に陥れるレベルのものが多い。対して陸はまだその世界で留まるレベルばかりなのは認めざるを得ない。だが、だからこそ陸を重視するのもグリフィスには分かるのだ。

 

(陸は治安の基本だ。そこが乱れれば安全も何もない。特に、管理局発祥世界のこのミッドがそうなら余計に……)

 

 だからといってレジアスのような過激な発想には至らない。質量兵器の限定的な解除。それが新たな火種になる気がグリフィスにはしているのだ。そこまで考え、彼は小さく首を振った。今はそんな事を考えている場合ではないと思ったのだ。

 今ははやての代わりに部隊長としての責務を果たす事。それこそが自分に与えられた仕事なのだと。グリフィスはそう思い、少し鈍り出していた指の動きを戻す。それにオットーが気付いたのか小さく笑みを浮かべた。

 

「こちらは終わりましたよ、ロウラン部隊長」

「オットー、その呼び方は止めてくれないか?」

「ですが、この方が感じが出ると思います」

「……今はそれぐらいの責任感を感じた方がいいのか」

 

 オットーの軽い冗談にグリフィスは苦笑混じりにそう応じる。はやての代わりだけではなく、一日だけでも自分なりの部隊運営をしてみようか。そんな風にさえ思い、グリフィスはそう告げたのだ。

 しかし、そんな彼の反応にクアットロが楽しそうに振り向いた。その顔にはからかいの色が強く浮かんでいる。それを見てグリフィスは少しだけ嫌な予感がしていた。

 

「あら? じゃ、どう呼んで欲しいのかしらぁ?」

「いや、別に呼び方は普通で」

「部隊長補佐って言い難いし、長いもんなぁ。あ、なら司令代行ってどうかな?」

「何か余計偉くなった感じだよ、それ」

「あ! ならさ、ニセ部隊長とかは?」

 

 ある意味予想通りのクアットロの疑問にグリフィスが答えるものの、それを遮るようにアルトが言った内容にルキノが苦笑。そこへアギトが軽くふざけたように挙げた呼び名に二人が笑ってそれがいいとふざけだす。

 それを聞いたクアットロが視線で意見を問えば、グリフィスは困ったように首を横に振る。オットーはそんなやり取りを笑みを浮かべながら聞き、さり気無くグリフィスのやりかけの仕事へ手を出し始める。そんな指揮所の一幕だった。

 

 一方で何があっても変化しない場所もある。それはジェイルとシャーリーがいる場所。デバイスルームだ。

 

「これで……どうだ?」

「……あ~、駄目です。これじゃ対消滅は出来ないですよ。弱体化が精々です」

 

 共にモニターを見つめるジェイルとシャーリー。二人が先程から試しているのはAMFCだ。何とか理論は完成させ、以来シュミレーションを繰り返しているのだが思うような効果が出せていない。原因はAMFのみに効果を出させるための調整の難しさだ。

 強ければAMFと同じく他の魔法も無力化してしまうし、弱ければ効果がない。故に先程から微調整を繰り返し何度と無く挑戦しているのだが、それが中々上手くいかないのだ。

 

「しかし、やっと一定の効果を出せるレベルにはなったね」

「そうですね。これで二歩ぐらい前進でしょうか?」

「そうだねえ……まだ実装レベルではないし、調整は難航しそうだから……一歩だよ」

「ジェイルさん厳しいですね。でも、大きな一歩ですよ」

 

 ジェイルの辛口感想にシャーリーは小さく笑みを浮かべるが、それでも進んだ事を喜んでそう笑顔で告げた。それにジェイルも頷き、視線をモニターへ戻す。

 邪眼が自分の開発した物をいつまで使うかは分からない。だが、必ずそれを上回るようにしてみせる。少なくても邪眼の一方的な展開にはさせないと。そのためにジェイルは、AMFCだけではなくブランク体の再現を目指したバトルジャケットや龍騎のためのベントカード作成を同時進行で進めていたのだ。

 

(バトルジャケットは私が実験してもいいんだが、生憎運動は苦手だし……誰かうってつけの人物はいないかね?)

 

 総重量などを思い出し、ジェイルはとてもではないが自分には無理だと思った。実はバトルジャケット自体の製作は完了している。後はそれを着て実験するだけなのだが生憎とそれを任せる事の出来る相手が六課にはいなかった。

 フォワードメンバーは訓練で疲れているし、ヴァルキリーズも同様。ライダー達はそれぞれが忙しく働いているし、かと言って他の課員達を頼れる程の信頼関係がジェイルにはまだない。よって、バトルジャケットは未だ日の目を見る事なくデバイスルームの片隅に眠っているのだ。

 

「でも、ライダーシステムを開発した人って凄いですよね。あれを独力でやったんですから」

「確かにね。でも、その使い道は間違っている。私が言えた事ではないが、科学はみんなの笑顔のためにある物だよ」

 

 ジェイルがそう真剣な表情で言うのを見て、シャーリーは声を失う。かつてその言葉と正反対の道を歩いていたジェイル。それが心からそう言った事に驚いただけではない。その声に込められた気持ちに気付いたからだ。

 それは、仮面ライダーに人殺しを強いた事への怒り。そして、更に真司へ望まぬ戦いを強いる事になったその物への激しい怒りだ。その静かな怒りを感じ取り、シャーリーは改めて真司のした事の大きさと五代達の影響力を知った。

 

 だが、それだけではない。そのジェイルの表情は実に漢らしかったのだ。いつものどこか飄々としたような雰囲気でもなければ、仕事中に見せる科学者としての顔でもない。一人の男がそこにはいた。

 

(ジェイルさんもやっぱり男の人なんだな。ううん、それだけじゃない。きっと、ジェイルさんも後悔してるんだ。自分がトイを作った事や……誰かの笑顔を壊す物しか作っていなかった頃の自分を)

 

 ジェイルはシャーリーが何も言わなくなったのに気付き、ふと視線をそちらへ向けた。当然ながら二人は視線を合わせる。

 

「どうしたんだね、シャーリー」

 

 その瞬間、シャーリーが我に返る。そしてやや慌てたように手を振った。なんでもないと。それに若干の違和感を感じるジェイルだったが、ならば気にする事はないと思ったのだろう。特に何も言わず視線をモニターへ戻した。

 そして再びAMFCの微調整を開始する。それを見つめ、彼女は気付かれないように息を吐く。多少熱を持った自分の顔に手を当て、己へ問いかけるように小さく呟いた。

 

―――どうしたんだろ? まさか……私、ジェイルさんに惚れたとかないよね?

 

 その問いかけを彼女は自分の心の中で笑い飛ばす。そんな事はないと。ただ驚いただけなのだ。胸に当てた手が感じる鼓動がやけに煩く鳴っているように感じるのもそのため。そう自分を納得させ、シャーリーもジェイルの補佐をすべく席に戻る。

 ただ、その顔の熱はそこまで嫌じゃないと彼女は思って軽く微笑む。微かに、だが確かな変化がここにも起きつつある。絶えず変わらぬ事などないのだと証明するかのように。だが、デバイスルームにいるべきはずのウーノはそこにはいない。そう、彼女は普段とは違う場所にいたのだ。

 

 それは訓練場。そこでいつものように自主訓練を終えたトーレやセッテと共に隊舎へと向かって歩いていたのだ。

 

「で、例の施設は判明したのか?」

「ええ。もう行動まで把握済み。後は時間を待つだけよ」

 

 ウーノはトーレの問いかけにそう答えた。今日はシャマルがいないため、普段彼女がしている救護員をウーノが代わったのだ。そこには、もう彼女がやっていた仕事が落ち着いたのも関係している。

 聖王のコピーを培養している施設の特定と監視。そして万が一のための備えなどをウーノはもう片付け、最近は専らレジアスとの連絡ばかりをしていた。レジアスも怪人の脅威を目の当たりにし手を打つ必要があると感じたらしく、ライダーへの秘密裏の協力さえ考えているのだから。

 

「ならば、残る問題は怪人達の能力ですね」

「それと、私とドゥーエが警戒しているのはスパイよ」

「……そうか。ライアーズマスクだな」

 

 トーレの言葉にセッテが息を呑み、ウーノは苦々しい表情で頷いた。ドゥーエのコピーがいるのならそのISを使わぬはずはない。誰に変装するかは分からないが、おそらく六課に近しい者達に化けるだろうとウーノもドゥーエも考えている。

 性質の悪い事にそれを見分ける方法は無いに等しいため、僅かな癖や些細な違和感を頼りにするしかない。そのため、ウーノはいざとなったら光太郎に頼ろうと考えていると告げた。

 

 それに二人も納得。光太郎ならばその勘から本物と偽者の区別をしそうだと。それに流石のライアーズマスクも仮面ライダーへの変身までは不可能。ならば、ライダー達四人だけはいつでも頼る事が出来る。

 そこまで考え、トーレもセッテも安堵した。正直に言えば六課の誰かを疑うような事態にはなって欲しくない。もっと言えば、自分達の姉妹を疑う事にはさせたくないのだ。

 

「まぁ、心配はいらないわ。邪眼が誰に化けさせるかしらないけど、六課に潜入する事自体が命取りになるのだから」

「そうだな。南で駄目なら緑のクウガに頼もう」

「確かにそれも手ですね。きっとクウガならライアーズマスクであっても見破ってくれます」

「それに、五代さんがそういうやり方は許さないでしょうしね」

 

 そのウーノの締め括りにトーレとセッテも頷くように笑う。人を欺くような事を五代は決して許す事はないだろうと、そう心から思えたのだ。それが誰かを笑顔にするための事ならば見逃す事もあるだろうが、そうでないのなら絶対に見過ごす事はないだろうから。

 

 そんな少し暗い話から始まった三人の会話も、五代の事を話し出したところから徐々に明るい内容に変わっていく。今は真司が食堂で頑張っているだろうとウーノが告げると、トーレとセッテが手伝う事を思い出し、対照的な表情を浮かべた。

 セッテは久しぶりの家事手伝いに楽しみさえ感じているが、トーレは数える程しかない家事手伝いに不安しか感じていない。そんなトーレに気付いてウーノは小さく笑った。

 

「花嫁修業とでも考えたら?」

 

 その言葉にトーレが顔を真っ赤にしながらも馬鹿な事を言うなと一蹴。それを聞いたセッテは少し不思議そうに尋ねた。

 

「トーレ姉上はどこにも嫁がないつもりですか?」

 

 それにトーレは当然だと答えようとして何故か躊躇う。そして、結局それが出来ず、捨て台詞のようにこう言うのが精一杯だった。

 

———答える必要はないっ!

 

 そう告げるとトーレはやや早足で隊舎へと向かっていく。その背を見つめ、軽く首を傾げるセッテと小さく笑うウーノ。彼女の人間らしさを好ましく思ってウーノは呟く。変わったものねと。それに昔のトーレを知らぬセッテは増々疑問を抱くのみだった。

 

 

 

 その頃、ゼスト隊の隊舎ではギンガが荷物を纏めていた。出向期間の終了がきたためだ。あの違法施設の事件は適切に処理されたものの、ジェイル達の事は結局上層部へ報告する事は出来なかった。邪眼の存在を明かすのはゼスト達にもはばかられたのだ。信じるはずはないと思ったのもある。

 そして、同時に仮面ライダーの事も報告する事は躊躇われた。今は希望と絶望が混在する状況だ。それをもし何らかの形で世間が知れば、必ず希望よりも絶望へ目が向いてしまう。そう結論を出した彼らは、邪眼が動き出す前に一度ゼストが個人的に繋がりのある陸の代表格であるレジアスと話し合う事になった。

 

 更にクイントはギンガと共に夫のゲンヤと示し合わせて、自分達と108だけでもいざという時に備える事を提案した。メガーヌは出来る限り陸だけでも横の連携を取れるようにと関係各所への働きかけをする事に意欲を見せて、ここでも六課とは違う形で邪眼へ備え始めていた。

 

「じゃ、母さん。またね」

「ええ、あの人によろしく。あ、その前にスバルによろしくね」

 

 そしてギンガはこの日休暇となっていた。なので所属する108へ戻る前に六課へ顔を出し、シャーリーとジェイルに頼んで簡単なデバイスチェックをしてもらうと考えていたのだ。勿論妹であるスバルと久しぶりに食事をとも考えていたが。

 

「真司君達へもね。ルーテシアと今度遊びに行くって伝えておいて」

「はい」

「八神二佐へは、有事の際俺達だけでも協力すると伝言を頼む」

「分かりました」

 

 二人の言葉に笑顔を返し、ギンガはゼスト達の前から立ち去った。それを見送り、ゼスト達も業務に戻る。ギンガはそのままクラナガンの中心部から離れるように歩く。正直何か乗り物を使いたかったのだが、余計な出費を抑える事と体のために湾岸地区まで歩く事にしたのだ。

 

(スバルとティアナは頑張ってるかな? フェイトさんや光太郎さんと話が出来るといいんだけど……)

 

 これからの事を考え、嬉しさのあまり小さく笑みさえ浮かべてギンガはその足取りも軽やかにクラナガンの街を行く。やがてその周囲の風景が高層ビルから青空と海原だけになり、潮風が香るようになった。

 日も高くなり、昼近くなった頃、ギンガは六課隊舎近くに辿り着いていた。視線の先に見える六課隊舎に彼女は逸る気持ちを抑える事なく走り出す。すると丁度格納庫からノーヴェが出て来た。それを見てギンガは大声を出して手を振った。

 

「ノーヴェ!」

「え? ……ギンガ?」

 

 昼食時の席を確保するため、ウェンディ達よりも先に食堂へ行こうとしていたノーヴェ。しかし、何故か外に出たらいないはずの相手がいて、こちらに大声で呼びかけてくる。そんな状況でどうしてここにと言わんばかりの表情を見せるのは当然だ。

 

 そんなノーヴェの顔や反応が自分の愛しい妹と重なって見え、ギンガは笑顔を浮かべてこう告げた。

 

「遊びに来たよ!」

「……はぁ~?!」

 

 予想だにしない答えにノーヴェは全力で疑問を浮かべた。そんな彼女へギンガは走る勢いそのままに抱きついた。それを咄嗟に受け止めようとするも、やはり堪えきれずに二人は後ろへ倒れる。しかしその体が地面へぶつかる瞬間、それを支える者が現れた。

 

「っと、危ないよ二人共」

「ふぅ……助かったぜ、光兄」

 

 光太郎の声に安堵の息を吐き、ノーヴェは体勢を立て直しながらそう返した。同じように体勢を立て直していたギンガだったが、その呼び方に軽い驚きを見せる。兄と呼んでいるのかと、そう思ったのだ。ギンガの疑問を察したのかノーヴェはやや戸惑いながらも仮面ライダーの話を聞かせ始める。

 その間、光太郎は何も言わず黙ってギンガを見つめるのみ。そして簡単な仮面ライダーの話と光太郎の体の事を理解し、ギンガは何かを少し考えていたようだったが、その結論が出たのか頷いて笑顔を向けた。

 

―――確かに、親戚のお兄さんって感じです。私も光太郎兄さんって呼ぼうかな?

 

 そんな明るいギンガの声に光太郎は少し照れくさそうだが嬉しそうに笑みを返した。だが同時にそれは勘弁して欲しいとも告げたのだが。そんなやり取りを聞いて、ノーヴェは笑みを見せてギンガへサムズアップ。ギンガは、それがスバルの癖となっている仕草と気付きながらも、やや不思議そうに感じてそれを返す。

 すると、そこへ仕事にけりをつけて昼食を食べるために外で出て来たウェンディとディエチが現れる。そしてノーヴェと同じくギンガの姿に疑問を浮かべたので、先程と同じ答えを彼女がする事でその場は決着となった。

 

 そんな彼女達が向かおうとしていた食堂は大賑わいを見せていた。そこで忙しく働くのは戦乙女給仕隊。チンク、セイン、ドゥーエを中心とし、ディードにセッテとトーレを加えた六人だ。それぞれが龍騎マーク入りやクウガマーク入りといったエプロンを付け、動き回っている。

 真司は一人黙々と料理を作り続けていたのだが、それを見かねたウーノがリインのエプロンを借りて手伝いを買って出ていた。そんな、いつも以上に華やかな食堂の光景を見てヴァイスは苦笑する。

 

 目に見えて男性課員達の反応が良いのだ。女性達は普段とあまり大差ないが、男性達の様子は明らかに違う。それぞれがノリの良いセインやドゥーエに声を掛けたり、懸命に働くチンクやディードへは進んで動く事でその負担を軽減させ、セッテやトーレには抱いていたイメージをやや覆されたのか感心や意外そうな反応を見せていた。

 しかし、彼ら全てに共通している事がある。それはその顔。男性陣はみな嬉しそうなのだ。リインなどが相手をしている時もそうなのだが、今日は真司以外は女性ともあってか余計にややだらしない表情が多い。

 

(やれやれ……どいつもこいつも鼻の下伸ばしやがって)

 

 男というのはやはり皆同じようなものだなと内心で思いながら、ヴァイスは真司に向かって注文を告げた。

 

「おう、すまねぇが真司風ポレポレカレーを一つ頼むぜ」

「はい。盛りは普通でいいかしら?」

「あ、ああ……」

 

 しかし答えたのはウーノ。エプロンを付け、普段とは違った家庭的な雰囲気を漂わせていた。その差にヴァイスは不覚にも少し視線を奪われ、これでは自分も周囲の事を言えないなと思いながら頬をかく。

 そこへ光太郎達も姿を見せた。ギンガは初めて見る昼食時の六課食堂にやや驚きと楽しさを見せ、光太郎は忙しく働いている真司達に笑みを浮かべた。その二人を置いてノーヴェ達は姉や妹達の手伝いを簡単にしようと動き出した。

 

「チンク姉、アタシも手伝うよ」

「ノーヴェか。気持ちは嬉しいが今はいい。そうだな……食事を終えたら、頼む」

 

 ノーヴェの申し出に笑顔を返し、チンクはそう告げた。その言葉にノーヴェは頷きながらも彼女の持っていた空のグラスなどを持って行ってしまう。それを少し苦笑しながらもチンクは嬉しそうな顔を見せた。

 

「じゃ、これは持ってくッス」

「ありがと、ウェンディ。助かるよ」

 

 それとは違い、セインとウェンディは互いに笑みを向け合っていた。ウェンディの教育担当がセインだった事もあり、この二人は本当に色々と近いものがある。その一つである他者の気持ちを有難く受け取る性格がそこには如実に現れていた。

 

「……ホントにいいんだね?」

「ええ。久しぶりの家事ですし……」

「こうしているとあの頃を思い出せる。だから、手伝いは遠慮させて欲しい」

 

 ディエチはディードとセッテの答えに何かを思ったのか少し苦笑い。そして、了解と小さく告げて二人から離れていく。二人はオットーと共に真司から家事を教わり、よくしていた事を思い出したのだ。

 だが、六課に来てからはそういう事をする事もなくなり、二人ととしては少し何かが溜っていたのかもしれない。そう考えてディエチは笑う。何せ、現に今の二人の表情は輝いているのだから。

 

 そんな風に三人が動いている中、ギンガは光太郎に苦笑されていた。注文量がとても多かったからだ。一つは全てのメニューを注文したため。もう一つは、妹のスバルと同じくかなりの量を食べるためだ。

 真司もウーノもスバルやエリオの事を思い出したのかやや呆れつつも料理に取り掛かる。その際、ウーノが何人かを呼び戻すのは当然。こうして、ホールにトーレ、セイン、セッテ。厨房にドゥーエ、チンク、ディードが常駐となる。よってウーノは三人と入れ代わりにホールの手伝いとなった。

 

「……やっぱり姉妹だけあって食べる量も似てるね」

「そうなんですよ。おかげで食費が家計費を圧迫して、一時期大変だったんです」

 

 そこから始まるギンガの笑えない話を聞いて光太郎は呆気に取られた。ギンガが管理局入りを決意したのは、両親に影響されただけではなく家計を助けたいとの思いもあったのだと。スバルは、空港火災に遭うまで管理局入りなど考えていなかったが、クウガやなのはとの出会いで純粋に局へ行く事を決めた。

 そうギンガは言って、どこか楽しそうにこう締め括る。自分はどこか現実を見て、でもスバルは夢を見て局入りしたのだと。その分、スバルの方が自分よりも芯は強いはずだから。そう実に楽しそうに言い切ったのだ。

 

 だがそれに光太郎は柔らかく反論した。例えそうだとしても、今もそれだけで局員をしている訳ではないだろうと。その言葉にギンガは若干驚きを見せたが、ゆっくりと頷いた。今の彼女は確かに明確な目標を持って局員として働いている。

 あの空港火災での出来事。失われるはずだった自分の命。それを助けただけではなく他の救助者も助け出していたRX。そして執務官でありながらも単身危険な場所まで救助活動をしていたフェイト。そんな二人の姿こそ、今のギンガが追いつこうとしている背中なのだ。

 

「……そうですね。今の私は明確な目標があります。仮面ライダーのように、失われる命や未来を守る人になる。それが私の目指す姿ですから」

「そうか。なら俺は、その目標にされた時のままで歩き続けるよ。一つでも多くの未来や命を守りながら」

 

 光太郎の静かな決意。それを込めた言葉にギンガは嬉しく、そして憧れるような思いで頷いた。そこへノーヴェ達が戻ってきたので全員で昼食を食べる事にし、光太郎達は賑やかな一時を過ごす事になる。

 

 

 

 日も暮れ、夜勤シフトの者達が動き出した頃、光太郎は一人ヘリポートからクラナガンの街を眺めていた。先程ロングアーチから聞いた話によれば海鳴のロストロギアは無害に近い物らしく、今は広域魔法の結果待ちとなっているとの事。

 光太郎はそれに安堵したが、同時にまだ何か嫌な予感が消えていない事に新たな不安を抱きアルト達に伝言を頼んだのだ。それは、五代達が帰ってくるまでは寝ずに待っているという言葉。

 

 そして、その後はこうして外を眺めていたのだ。何か起きるとすれば中ではなく外。当然そう考え、光太郎は見張りにも似た気持ちでここに佇んでいたのだから。

 

(何度でも甦る怪人、死者を喰らう古代の遺産、そして……強大な闇となった邪眼。決戦をする事になった時、必ず奴らは俺と五代さんを狙うはずだ。二つのキングストーンを、その手中にするために……)

 

 それで創世王になる事が出来るとは光太郎自身は思っていないが、邪眼はそれを本気で信じているのだろうと考えてはいる。故に、最終決戦で注意するのはクウガと自分だと思っていた。

 キングストーンもアマダムも奪われればそれぞれの命に関る。そのため、絶対に奪われていけないのだ。更に、光太郎が懸念するのは五代から聞いたクウガの最後の姿。究極の闇をもたらす姿の事だ。

 

 それを聞いた時、光太郎は直感的に感じた事がある。それは、その姿こそが自分のかつての姿の原型ではないかと。聞けば、クウガと対になるような存在はその体の色が白かったらしい。黒と白という対称的な存在。それは、BLACKとその宿敵の名にも共通するものがあったのだ。

 ブラックサンとシャドームーン。それは太陽の石と月の石という名のキングストーンを持つからこその名前。しかも、色合いは黒と銀。もしかしたら、月の石はゴルゴムの手を加えられたために本来ならば変身後は白い色になるはずが変化してしまったのではないか。そんな風にさえ考えたのだ。

 

(凄まじき戦士はきっとBLACKの原型。だが、ゴルゴムはその安定性を増させるために本来あった様々な能力を無くした。それがRXとなった時、覚醒と変化を起こした。アマダムは意志によって力を与える。悲しみや怒りの感情がキッカケで起きたロボライダーやバイオライダーへの変身は、まさにそれだ)

 

 そう、光太郎はこう考えていた。ロボライダーは紫の特徴や緑の武器を継承し、バイオは青の姿と込められた意味を発展させたもの。そしてRXへの変化は封じられていた凄まじき戦士への変身機能を太陽エネルギーが制御し、変化させたためではないか。

 そんな推測を光太郎は立てていた。太陽は生命の源。故にその輝きを強く浴びたため、その力を闇から光へ性質を変えたのではないのかと。

 

「何黄昏てるんすか」

「……ヴァイスさんか」

 

 光太郎がそんな事を考えている所へ軽い声が聞こえた。それに光太郎は小さく笑みを浮かべて振り向いた。そこには缶コーヒーを両手にしたヴァイスの姿があった。

 彼はその片方を光太郎へ向かって投げた。それを光太郎が受け取ったのを見て、自分の分のプルタブを開ける。そして、そのまま彼の隣へと歩いてきて軽く笑みを浮かべて尋ねた。

 

「自分が言った事で周囲に変な緊張を与えちまった。それを少し後悔してるって、そんなとこですかね?」

 

 その言葉に光太郎は何も言わない。そうだろうとも思う。だが、そうでないとも思っている。故に答えるのが躊躇われたのだ。言えば、そこから話が変な方向になってしまうような気がして。

 そんな光太郎の心境を察したのか、ヴァイスは少しバツが悪そうに頬を掻き、視線を彼が見つめていた方へ向けた。そして、噛み締めるように告げた。

 

「光太郎さんは、自分のした事を悔やむ時ってあるんすか?」

「……それがない人はいないと思うな」

 

 光太郎の答えにヴァイスは違いないと苦笑。だが、その後すぐに真剣な表情になって言った。でも、心から悔やむような事はそうそうないと。それに光太郎は視線をヴァイスへ向けた。その横顔は遠くを見つめていた。

 

「俺はね、昔は武装隊ってとこにいたんす」

「……シグナムさんの後輩だったらしいね」

「聞いてたんすか。なら話は早い。俺はね、そこでそれなりには腕に自信がある狙撃手だったんですよ」

 

 そこからヴァイスは簡単に自分の過去を話し始めた。何故自分が機動六課にいるのか。どうして武装隊を離れてヘリパイロットをしていたのか。そのキッカケになったある事件を。それは、ある立てこもり事件。ヴァイスはそこで狙撃手として犯人を狙撃するように指示を受けた。

 そして狙撃場所へ移動し、そこからスコープで狙いを定めようとした時だった。犯人は人質を取っていた事を受けての狙撃だったのだが、よりにもよってその相手が彼の妹だったのだ。

 

 それがヴァイスから集中力を奪った。外してしまったらどうするとの迷いや不安が彼から冷静さを失わせたのだ。結果、魔力弾は何と妹の目を直撃。だが、それで動揺した犯人は武装隊員によって取り押さえられ、結果事件は解決した。

 だが、ヴァイスはそれを最後に狙撃手を退いた。妹の目は魔力弾が非殺傷だったためにそこまで大きな悲劇にはならなかった。失明こそしたものの命に別状はなく本人は気にしていなかったのだから。しかし、もうヴァイスにデバイスを持つ気はなかった。

 

「……要するに俺は弱かったんす。妹が捕まっていたのなら、余計自分で助けてやろうって思わないといけないんですがね……」

「いや、そんな事はないよ。どれだけ固い決意を抱いていても、親しい人間を使われる事で鈍る事はある。迷ってはいけないと思っても、非情になりきれないなんてざらです」

 

 その光太郎の答えにヴァイスは視線を彼へ動かした。その言葉に実感が込められていただけではない。光太郎の苦い気持ちがそこから感じ取れたからだ。視線の先で光太郎は何かを思い出し、きつく唇を噛み締めていた。

 光太郎は思い出していたのだ。かつてのシャドームーンとの戦いで創世王が取った手段を。劣勢になったシャドームーンを助けるため、創生王は一度だけその姿を信彦へと戻したのだ。信彦の自分を呼ぶ声にBLACKだった彼は戦いを放棄して傍へ駆け寄った。

 

(分かっていたはずだった。もう信彦ではないなんて事は。でもあの時、俺は信彦の姿と声にそれを忘れた。仮面ライダーBLACKではなく南光太郎として動いてしまった。それが、一時的とはいえゴルゴムに日本を明け渡す事になってしまった……)

 

 そう、その直後信彦はシャドームーンへと戻り、油断し切っていたBLACKをサタンサーベルで襲い、その命を結果的に絶った。だが、光太郎は知らない。シャドームーンも一時的に姿が戻った自分を見てキングストーンを奪わずに撤退した事を。

 その後、彼はクジラ怪人の助けを受けて復活。その時の迷いを振り切りシャドームーンへトドメを刺し、見事創世王を打ち倒して日本を、世界を守りぬいたのだ。

 

「……妹さんは、ヴァイスさんを恨んでいるんですか?」

「……そうだったら、幾分楽だったかもしれない」

「そんな事は言っちゃ駄目だ。ちゃんと向き合って、先に進めるのならそうした方がいい。会う事さえ出来なくなる前に」

「光太郎さん……あんたやっぱり……」

「……俺もね、妹みたいな子がいたんです。でも、俺はその子から大切な人を奪ってしまったんだ。恨んでるとか恨んでないじゃない。俺自身がその子に合わせる顔がない。それに、今その子がどこにいるのかも俺は知らないんだ。でも、ヴァイスさんは違う。許してもらえるのなら、会って話す事が出来るのならそうするべきだ。したくても出来ない人だっているんだから」

 

 光太郎がそう言うと、ヴァイスは少し迷っているような表情を見せる。そんな時だ。光太郎に嫌な感覚が走る。それは、あの発電所の戦いで感じた感覚に近いもの。ゴルゴムと戦っていた事によく感じた一種の予感。故に光太郎はすぐに視線を隊舎周辺に巡らせた。

 すると隊舎の方へ向かってくるトイの集団とヴァルキリーズに似た者達を見つけた。その顔を見て光太郎はヴァイスへ告げる。戦いの時が来たとそう思って。

 

「ヴァイスさん、怪人の襲撃だ! 俺は先に迎撃するから、他のみんなに連絡を!」

「っ?! りょ、了解っす!」

 

 その返事を聞きながら光太郎はヘリポートから迷う事なく飛び降りた。その最中、力ある言葉を叫ぶ。

 

「変身っ!」

 

 RXへと変わり、大地へと着地する。即座に視線を前に向け、その視覚を駆使し見えていない場所に他の怪人が潜んでいないかを探るために。そんな彼へトイ達が襲い掛かる。その攻撃を掻い潜るように走り、RXはその内の一体へ拳を繰り出し沈黙させた。

 そして即座に跳び上がり、空中にいた二体へ両足を叩き込む。更にRXはそのトイを足場に更に空高く舞い上がる。そして、直後起きた爆発のためかその姿を見失う地上のトイへその落下の勢いを乗せたままRXは手刀を放つ。

 

「RX! チョップっ!」

 

 その攻撃に耐え切れるはずもなくトイがまた一体散る。RXはその残骸へ一度だけ視線をやり、距離を取った。すると先程までRXがいた位置に糸のようなものが降り注ぐ。それはすぐに爆発を起こして消えた。

 

「……やはりそう簡単にはいかんか」

「当たり前でしょ。私を一度倒した相手なんだから」

「無駄話はそこまでにしろ。どうやら他のライダー共はいないようだな。なら、ここで貴様のデータを取らせてもらうぞ、RX!」

 

 フュンフの言葉に馬鹿にするように答えるフィーア。そんな二人のやり取りへ吐き捨てるようにドライは告げ、視線をRXへ向けてそう言い放った。

 

「来るならこい! 俺は逃げも隠れもしないっ!」

 

 威風堂々宣言するRX。その迫力に三人も若干怯むがその姿を本来のものへ変えた。蟷螂、カメレオン、蜘蛛といった姿を見てRXは構えた。かつてのゴルゴム怪人に近い雰囲気を感じ取って。複数の怪人を相手取るのは初めてではないが、それでも苦戦する事は明らかだったのだ。

 そう、一人だったのなら。しかし今の彼は孤独ではない。そこへ遅れて真司達が姿を見せたのだ。そして三体の姿を見て臨戦態勢を取るヴァルキリーズ。真司はウーノが出現させたモニターに映る自分の姿を使い変身した。

 

「変身っ!」

 

 真司の体を覆うように出現する龍騎のシルエット。それが体に重なり、真司は龍騎へと変わる。

 

「っしゃあ!」

 

 気合十分とばかりに構える龍騎。こうしてRXと龍騎の初共闘が実現した。ウーノは司令塔として後方に控え、直衛をドゥーエとオットーが引き受け、ディエチはその傍で支援砲撃をする。残りはウーノの指示によりRXと龍騎の援護へ分散するように散った。

 

「いい? 決して無理はしないで。私達はそれぞれの全力を出す事が出来ればいいの。後はRXと龍騎を信じましょう!」

 

 ウーノの言葉に姉妹達が頷くように声を返して動き出す。RXはカメレオンと蜘蛛へ、龍騎は蟷螂へと向かっていく。それを受け、RXの方へはクアットロ、チンク、セイン、ノーヴェが援護に向かう。そして、トーレ、セッテ、ウェンディ、ディードが龍騎の援護となった。

 それを見守りながらもウーノは戦術を組み立て始める。オットーとディエチはISを使い、的確な支援を可能とするべくまずはトイを迎撃。ドゥーエはロングアーチへ怪人達のデータを取るように頼みつつ、周囲へ警戒を怠らない。

 

 そこへ遅れるようにアギトが姿を見せた。龍騎の奥の手となったユニゾン。それは邪眼戦までお預けとなった。そのため、アギトは本来出番がない。だが、居ても立ってもいられなくなり、何か手伝える事はないかとここへやってきたのだ。

 

「アタシも! アタシにも何か手伝わせてくれよ!」

「アギト……気持ちは嬉しいけど……」

 

 そう答え、ドゥーエは視線で前方を示す。そこではそれぞれが怪人と激しい戦いを繰り広げている。そこにアギトが入れる余地はない。それを理解しアギトはやや悔しそうな表情を見せるものの、何かに気付いたように顔を上げてドゥーエへ告げた。

 

「な、もう翔一達に連絡した?」

「したと思うけど? ね、ロングアーチ」

『今やってるんだけど、次元世界との通信が妨害されてるみたいで……駄目だ! 繋がらない!』

 

 アルトの声にアギトがやはりと言った表情で頷く。そして、疑問を浮かべるドゥーエにこう告げた。

 

「何かさ、身体がビリビリする気がするんだ。きっと、電波か何かで連絡出来なくしてる奴がいるんじゃないか」

「……そうか。どこかでデータ収集してる奴がいるって事ね」

 

 アギトの指摘にドゥーエは納得した。いくらデータ収集すると言っても、戦いながらでは色々と見落としや正確なものは取れない可能性がある。故に、どこかでこの様子を見つめている怪人がいるのでは。

 そう考えたドゥーエだったが悔しそうに爪を噛んだ。それを見つけ出すための人手が足りないのだ。自分達の誰かを動かすにしても、一人二人では怪人相手は辛い。だからと言ってここで複数を動かすのは不味い。

 

(相手に気付かれたら意味がないわ。どうにかして気付かれないように……そうだ!)

「ロングアーチ、ギンガは今どうしてる?」

『彼女なら、デバイスチェックが終わったからそっちに行こうとしてるよ』

 

 そんなドゥーエの問いかけに答えたのは新たに出現したモニターのジェイル。そのモニターにはリボルバーナックルを装着するギンガの姿も映り込んでいる。それを見てドゥーエは頷いて告げた。

 

「ギンガ、貴女に頼みたい事があるの」

 

 その内容を聞き、ギンガは真剣な表情で頷いて走り出す。ジェイルはそれを見送り、ドゥーエへこう伝えた。既に万が一に備えてゼスト達にも連絡がいっている事を。それに、ギンガには自分が新しい力を渡したからと。それにアギトもドゥーエも笑みを浮かべて頷いた。

 戦力としてはこれで何とかなる。怪人がもう一体増えても何とか許容範囲だと。そう思ってドゥーエとアギトは視線をウーノへ向けた。ウーノも話を聞いていたのかその視線だけで何を二人が言いたいのかを理解し、力強く頷いた。

 

「三体はこちらで完全に引き受けましょう。その監視役はギンガとゼスト隊にお願いするわ」

「いざとなったら、アタシがそっちへ援護に行くよ」

「そうがいいかもしれません。あまり融合係数は高くないですが、ゼスト部隊長はユニゾン出来ましたから」

 

 アギトの提案の意味に気付き、オットーがそう告げると二人も納得し頷いた。そして、再び彼女達は目の前の戦闘に意識を集中する。自分達のすべき事を果たすために。

 

 

 その頃、六課隊舎から離れたとある場所ではアインスが自身のISと特殊能力を併用してデータ収集と遠距離通信の妨害を行なっていた。全ての通信を妨害しなかったのは、それをすると彼女のデータ収集にも支障が出るため。あまりにも強力なため、邪眼のいるラボへのデータ送信さえも邪魔してしまうのだ。

 だから地球へ行ったであろう別働隊との連絡を妨害するしか出来なかったのだ。しかし、アインスは現状を観察して満足そうに笑みを浮かべていた。

 

「クウガとアギトがいつまで経っても出てこない。おそらく海鳴へ向かったのね」

 

 今、海鳴にはアハトが完成したばかりのマリアージュを引きつれ襲撃を行なっているはず。それを思い出し、六課の行動が早い事に若干感心するアインスだったが彼女は知らない。彼らはそれを受けて海鳴へ出かけた訳ではない事を。

 

「本当なら人形共も怪人にしたかったのだけれど……」

 

 マリアージュが怪人に出来ない理由。それはその体が起こす爆発だ。その厄介さが怪人にするための改造手術の妨害となったのだ。何せ、全身を拘束した状態にしただけで自爆し、改造施設を破壊したのだから。

 故に邪眼はマリアージュの怪人化を諦め、そのままの捨て駒として使う事にした。自爆兵器としても活用する事を考え始めていて、その手段を現在アハトが考案中だ。

 

 そこまで考え、アインスはふと何かが接近する反応を察知した。そして、それは凄まじい速度でその前へと立ちはだかった。

 

「……タイプゼロ・ファーストですって? どうしてここに……」

「違う! 私は、陸士隊108所属! 陸戦魔導師、ギンガ・ナカジマっ!」

 

 アインスの呟きにギンガはそう返した。その宣言はどこかRXを思わせるような雰囲気がある。そして、その足に装着されているのはマッハキャリバ−の同型機でもある”ブリッツキャリバー”だ。ジェイルが与えた力とはこれの事。

 スバルと戦い方が似ているギンガのために彼はシャーリーからマッハキャリバーのデータを見せてもらい、独自に改良を加えたのだ。ギンガはそれをジェイルから渡された時、こう言われた。

 

―――これをみんなの笑顔のために使って欲しい。

 

 それがジェイルなりの贖罪の気持ちから出た言葉だとギンガは理解し、笑みと共に頷いて受け取ったのだ。その手にあるリボルバーナックル。それはかつては母であるクイントが使っていた物だ。だが、ギンガが局員になったのを祝うためにクイントがその片方を渡してくれた。

 そして、スバルもまた同様に。その込められた思いは、常に自分の想いは傍にいるとのもの。現在クイントは新しいリボルバーナックルをつけているが、その型は敢えて古い物と同じにしている。ギンガは自身へ託された二人の想いを感じ取るようにゆっくりと拳を握る。

 

「貴女が邪眼の手先ね。通信妨害とデータ収集、すぐに止めてもらうわ!」

「出来るかしら……戦闘機人でしかない貴女に」

 

 その言葉と共にアインスの姿が変わる。それはフクロウ。森の賢者と呼ばれる鳥だが、怪人の素材となった時点でその面影はない。ギンガはかつて映像で見た怪人の姿を思い出し、やはり邪悪さは同じだと改めて痛感。

 その怯える気持ちを奮い立たせ、身構える。自分には母とジェイルの想いを託されたデバイスがある。ならば、怖くはないと。そう思い、ギンガは小さく告げる。今の自分は一人ではないと確かめるために。

 

「行くわよ、ブリッツキャリバー」

”了解です”

 

 ギンガはその返答に微かに笑みを浮かべると、意を決してアインスへと立ち向かった。自分のすべき事は怪人の妨害。ドゥーエから頼まれたのはその一点のみだった。故にギンガは無理をするつもりはない。

 自分の出来る範囲で相手を牽制し、時間を稼ぐ。いつか来るライダーを、ヴァルキリーズを信じて。その思いでギンガはウイングロードを展開し空を駆け抜ける。

 

「はあぁぁぁぁっ!」

(みんな、待ってるから! それまで絶対にこいつは逃がさないっ!)

 

 

 ギンガが戦闘を開始した頃、RX達は一度戦った相手とはいえ苦戦を強いられていた。原因はフィーアのISによる他二体への支援。幻影を創り出して龍騎達を惑わすのだ。従来の仮面ライダーと違い、龍騎には視覚に特殊な能力はない。そのため、本物の見極めが出来ないのだ。

 そして、それはヴァルキリーズにも同じ事が言える。確かに龍騎と違いセンサー機能は搭載されている。だが、それを以ってしても怪人となったフィーアのISは見破れなかった。

 

 周囲の苦戦を見て、RXは以前と同じようにキングストーンフラッシュを使う事も考えたのだが、あの時と状況が違う事を考えると迂闊にそれが出来なかったのだ。そう、念話の出来ないRXでは声に出さずに他の者達へ注意を促す事が出来ない。

 故に、怪人達へ知られず、しかもこちらに影響を出さずに無力化する事は不可能だった。更に彼はフィーアとフュンフを相手にしている。クアットロ達の援護があるが、やはり決め手に欠けるのは否めない。

 

(何か、何か考えるんだ! どうすればこの現状を打破出来る……?)

 

 その時、RXの視界に格納庫が入った。それを見たRXはある事を思いつく。そして、それを実行に移すために視線をクアットロに向けて告げた。

 

「クアットロ、俺の幻影を出すのと同時に、一度だけ俺の姿を隠してくれ」

「分かったわ」

「すまないがチンク達はそのまま少しだけ足止めを頼む」

「「「了解!」」」

 

 その声を合図にRXの幻影が出現し、彼の姿がクアットロのISにより消える。そして、そのままRXは格納庫へ向かって走り出した。RXが事実上戦闘から撤退したため、強力な前衛を欠いたチンク達が若干押され始める。しかし、それでも彼女達は決して弱音は吐かない。

 そこへウーノからクアットロへある作戦が提案された。それに頷き、クアットロは即座に念話でセインへ、口頭でチンクへ指示を出す。

 

「チンクちゃん! 煙幕っ!」

「了解だっ! IS、ランブルデトネイター!」

 

 クアットロの指示にチンクが応じ、手から放たれたスティンガーと呼ばれるナイフが次々と爆発を起こす。その煙にフィーアとフュンフが視界を塞がれ、僅かだが動きが鈍る。それを見てクアットロがセインへ視線をやって頷いた。それに応じるようにセインはノーヴェへ声を掛ける。共に動くために。

 

「ノーヴェ! 掴まって!」

「おう!」

 

 二人はそのままセインのISで地面へと沈んでいく。そして、煙が晴れた時には二体の前からセインとノーヴェは消えていた。ただし、それは本物の話。クアットロは二人の幻影をそこに出現させたのだから。

 

「何がしたかったのだ?」

「ホントねぇ。ただの目眩ましかしら?」

 

 しかし、それを聞いてクアットロとチンクは笑みを浮かべた。その反応から二体が揃って疑問を感じてその意味に気付く。だが、それはもう遅かったのだ。二体の後方から跳び上がるように出現する影がある。それはノーヴェ。

 それに二体の意識が向いた時、待っていたとばかりに二筋の閃光がその身体を直撃した。それは、オットーとディエチがクアットロとウーノの立てた戦術に応えた攻撃。横薙ぎに発射された射撃で本物を特定させる事が目的だったのだ。

 

 それに体勢を崩す二体を待っていたかのように、そこをノーヴェの一撃が襲う。

 

「一撃! 粉砕っ!」

 

 ジェットエッジがフィーアを、着地して放つガンナックルがフュンフを捉え、その身体を再度揺らす。そして、そのままノーヴェをセインが再びISで彼女を回収し撤退させる。その見事な連携にクアットロとチンクにも笑みが浮かぶ。

 だが二体がそこから立ち直るとその笑みも消える。中途半端に怒らせてしまったと感じたからだ。しかし、それでも自分達が相手から一本取った事には変わり無い。そう思い、先程とは違う不敵な笑みが二人に浮かぶ。

 

「チンクちゃん見た? さっきのあいつらの無様さ」

「ああ。滑稽だったな」

「貴様らぁぁぁぁ!」

「調子に乗らないで!」

 

 二人の嘲笑うような言葉に二体は揃って怒りを見せる。それに内心冷や汗を掻きながらも、ある事に気付いた二人は笑みを深めて告げた。

 

「「弱い犬程よく吠えるな(わねぇ)」」

 

 その直後、赤い風が怒りに燃える二体の前を横切った。それに吹き飛ばされるように地面を転がる二体。それはライドロンだった。そして、その運転席が解放されRXが降り立つ。だが、当然ながらその姿は誰にも見えない。

 そのため、クアットロはRXの姿を見えるようにした。それを受けて彼は周囲へ告げる。

 

「クアットロ達は俺の後ろへ! ライドロン、さっき言ったように動いてくれ!」

 

 その声に応えるようにライドロンは龍騎達の方へ向かう。そして、それを見届けてRXは立ち上がる二体の方を向いて叫んだ。

 

「キングストーンフラッシュ!」

 

 あの時と同じ光がRXの前方を包む。消し払われる幻影。視覚を封じられ、動けなくなる分身達。そして、同じように視覚を封じられた二体。それを見るなりRXは跳び上がった。それと同じくして地面からセインとノーヴェが姿を見せた。

 今まで二人はセインの指に仕込まれたヘリスコープアイで様子を窺っていたのだ。そんな時、RXが告げた内容に嫌な予感を感じ取り、セインはそれを引っ込め上に上がってきたのだった。

 

「セインちゃん、遅いわよ」

「ゴメン。何か嫌な予感がしてさ」

「話は後だ。一体はRXが倒してくれる。残りは私達でやるぞ!」

「チンク姉、アタシに考えがある。手を貸して!」

 

 ノーヴェが告げた言葉にチンクは頷き返し、その手にしたスティンガーをフュンフへ投げつけた。それが見事にフュンフの身体に突き刺さったのを見てノーヴェはエアライナーで走り出す。

 丁度RXがその拳をフィーアへ叩き込んだのを見ながらノーヴェは勢い良く跳び上がった。同時にRXも再度空に舞う。そして、二人はその落下速度を加えたまま怪人へ蹴りを放つ。

 

「RXっ! キックっ!!」

「吹っ飛べぇぇぇぇっ!!」

 

 RXキックがフィーアを蹴り飛ばし、ノーヴェの蹴りがチンクのスティンガーをフュンフの体内へと入り込ませた。そして、二人は反動を利用し着地。その直後チンクがスティンガーを爆発させる。

 

「これで終わりだ!」

 

 そう、自分の蹴りだけでは威力が足りないと考えたノーヴェは、チンクのISを使い体内から怪人を破壊する事を考えた。そのために自分の蹴りを使い、スティンガーを怪人の体内へと送り込ませた。どんな強い怪人でも身体の中までは鍛えられないと考えて。

 チンクの声をキッカケにフュンフは爆発。フィーアもそれを追うように散った。それを見届けたRX達は視線を龍騎達の方へ向ける事無く走り出す。目指すはギンガが戦っている場所。一刻も早く行かなくてはと、そう考えて。

 

(待っててくれギンガちゃん。油断するなよ、龍騎!)

 

 

「どうした! アギトの方がまだ手強かったぞ!」

 

 ドライの高速機動。それに龍騎は完全に翻弄されていた。改造人間であるRxや超変身出来るクウガやアギトと違い、常人が変身しただけの龍騎には感覚を鋭くする術がない。そして、それに対抗するような武器も無かった。

 トーレやセッテ、ディードが懸命にその動きを捉えようとしているが、幻影も多く本物を見極める事さえ難しい。ウェンディは射撃を使い幻影を消しているのだが、その度に幻影が再度出現し、いたちごっこの様相を呈していた。結果、龍騎達は完全にドライ一人に封じ込められていたのだ。

 

「くそっ! このままじゃ……って、うわっ!」

 

 体勢を立て直し、アドベントを使おうとする龍騎。しかし、そこへドライの鋭い鎌が振り下ろされる。何とか回避するものの、僅かに胸を掠り火花が散る。それでも龍騎は怯む事無くその手に別のカードを手にした。

 それはサバイブ。そう、もう彼はアギトとのユニゾン以外はデータを粗方取られている。故に、龍騎は迷わない。今は接近戦に適した状態よりも射撃戦に適応する方がいいと思ったのだ。

 

「これで!」

 

 周囲を覆うように出現する炎。それに僅かだがドライが怯む。それを見逃さずトーレとディードが動いた。

 

「IS、ライドインパルス!」

「IS、ツインブレイズ!」

 

 高速移動と瞬間加速。それを駆使し、二人はドライへダメージを与える事に成功する。しかし、その狙いは僅かに外した。二人が狙ったのはドライの羽。高速機動の要であるそれを切り落とせばこの戦いを有利に出来るはずだった。

 だが、ドライとてそれを熟知している。前回のようにはいかないとばかりにその腕で二人の攻撃を受けたのだから。そして、そんなドライの行動に悔しさを覗かせながらも二人はその場から離脱した。

 

”SURVIVE”

 

「俺はウェンディと射撃で援護する! トーレ達はそのまま接近戦を続けてくれ!」

「「「「了解(ッス)!」」」」

 

 龍騎の声に四人は気合を入れ直すように答え、ドライへと攻撃を再開する。龍騎はドラグバイザーツバイで射撃を行い、幻影を消す作業を始めた。二人の攻撃に幻影の数が少しずつだが減っていく。

 しかし、ある一定まで減らすとまとめて数が戻った。それに舌打ちするウェンディと驚く龍騎。だが、それでも諦めずに龍騎は射撃を続けた。それにウェンディも感化されるように射撃を再開。

 

 一方、トーレ達はドライの攻撃に防戦一方になりつつあった。やはり一番速度が速いトーレを凌ぐドライにセッテやディードも自分の身を守るだけで精一杯になっていたのだ。

 それでも、三人は諦める事無く立ち向かい続けた。一つは意地。そしてもう一つは、自分達を惑わす幻影を消し続ける存在がいるから。

 

(真司は我々を信じている……)

(兄上の期待に応えるためにも……)

(ここは退けない……)

 

 追い詰められていく中でも、三人の目には静かな炎が燃えている。どんな些細な事でも見逃さず、好機に変えてみせるとばかりに。そんな中、龍騎達の側面を塞ぐようにライドロンが現れた。それに視線を向けた龍騎達だったが、その瞬間ライドロンが自分を盾にするように車体を傾けその視界を塞いだ。

 それに疑問を感じる龍騎達は直後起きた閃光にドライが苦しんだのを見てその訳を理解した。きっとRXが自分達の目を守るためにライドロンを遣わしてくれたのだと。そしてその後に待っていたのは待ちわびた勝機だった。

 

「幻影が消えたぞ!」

「今が好機です!」

 

 トーレの声にディードが頷くように応じ、セッテは即座にブーメランブレードを投げ放つ。それが眩しさに苦しむドライの羽を綺麗に斬り落とす。

 

「兄上、ここはお任せを!」

「ウェンディ、トドメを託す! 行くぞ、ディードっ!」

「はいっ!」

 

 セッテの声にトーレが即座に声を返して動く。そして呼応するようにディードがそれに続いた。ウェンディは言われた意味を正しく理解し、ライディングボードにエネルギーを集束させていく。

 それを龍騎を黙って見つめる。信じる事にしたのだ。任せてくれと言われた事を。それでもいざという時のためにその手には一枚のカードが握られていたが。

 

 トーレの攻撃が羽を失い苦しむドライの鎌を綺麗に切り落とし、更にディードがツインブレイズでその腹部を斬る。それが小さくはない傷を付け、更にそこへもう一度ブーメランブレードが襲い掛かった。それが完全にドライへの大きな傷を作る事となる。

 痛みに叫び声を上げるドライ。それを聞きながらも、ウェンディは集束したエネルギーをそこへ放つべく狙いを定める。そして、それが定まった瞬間、トドメを告げるように叫んだ。

 

「エリアルキャノン、発射ッスっ!!」

 

 なのはの砲撃を彷彿とさせる閃光がドライの傷を直撃。そこから閃光はドライの内部を破壊し、その身体を崩壊へと誘う。それが爆発を起こすまでを見届け、龍騎達もギンガのいる場所へ動き出そうとした時、ウーノの切羽詰った声が響いた。

 

「トーレ! そこから離れて!」

「なっ!?」

 

 トーレを襲ったのは砲撃だった。それをトーレはISを使い際どく回避する。

 

「今の……まさか……」

「あたしのIS、だね。きっと、まだいるんだ」

 

 その攻撃を見たオットーがやや警戒するように呟くと、ディエチが苦い顔をして答えた。それを聞き、難を逃れたトーレが舌打ちする。

 

「チッ、ディエチのコピーを使った怪人か。遠距離からの精密砲撃とはやってくれる」

「どうしましょうか。下手には動けません」

「かと言ってここで留まればまた攻撃される。困ったわね」

 

 ディードの言葉を受けてドゥーエがそう告げると、ウーノが視線を砲撃があった方へ向けた。そして、何かを調べ表情を曇らせる。

 

「相手の位置が分かったわ。ギンガが戦っている辺りよ」

「じゃ、下手したらギンガ達も危ないッス!」

「兄上、行ってください。隊舎は私達が守ります」

「姉様達は戦闘で疲れているでしょうから、援護役に僕が一緒に行きます」

 

 オットーの言葉に龍騎は感謝すると走り出す。それを追うようにオットーが動こうとしたのを見て、ディエチがそれを引き止めた。

 

「待って。あたしも行く」

「なら、アタシはギンガ達にこの事教えてくる!」

 

 ディエチの申し出が自身のコピーと戦うためだと理解したオットーは、その気持ちを察して彼女を抱えるように飛んだ。アギトはそれに続くようにギンガがいる場所へ向かって行った。それを見送ってウーノはトーレ達へ視線を送る。

 そこには苦笑が混ざっていた。その意味を問い質そうとしたトーレ達だったが、すぐにその意味に気付いた。海上から飛行型のトイが集団で向かって来ているのを見たからだ。怪人との戦いを終えた直後だが、相手がトイならばまだ平気だ。そう思い、トーレ達は力強く笑みを見せた。

 

 唯一ドゥーエだけはこの後の展開を予想し、トーレ達へ聞こえるように呟いた。

 

―――少しぐらいは後ろへ通してもいいわよ?

 

 その呟きに彼女達は小さく笑うとなるべく楽をさせると返してトイの迎撃へ向かっていく。その背を見送りながらウーノとドゥーエは頼もしく感じて微笑むのだった。

 

 

 

「くっ!」

「どうしたの? 私のオリジナルが戦闘用じゃなかったからって油断したのかしら?」

 

 アインスの言葉にギンガはそんな事はないと返そうとするが、そんな事をしても意味はないと思い黙ってその飛んでくる羽をかわす。アインスはその翼の羽を飛ばし、攻撃に転用していた。既にギンガの身体のあちこちにはその羽がいくつか刺さっている。

 厄介なのは、その羽が抜けない事とそこから血が流れ出る事だ。おかげで時間をかければかける程、ギンガは意識が薄れていくのを感じている。そこから、相手は自分を殺す事ではなく捕まえる事を狙っていると彼女は悟っていた。

 

 何故ならば攻撃は先程から羽ばかりで直接攻撃は数える程しかないのだ。意識を失い、倒れるのを待つ。そんな事を思わせる相手にギンガは戸惑いを感じながらも、その目的をこう推測していた。

 

(きっと私を怪人にして、光太郎さん達を苦しめるつもりなんだ。絶対、そんな事はさせない!)

 

 消えかける意識を奮い立たせ、ギンガはウイングロードを走る。接近は危険だという事は最初の行動で知った。だが、ギンガには接近戦以外の戦い方がない。魔法も遠距離で有効性が高いものがないため、ギンガは打つ手無しの状態だった。

 出来る事といえば、今のようにウイングロードを使い距離を取り続けるだけ。しかし、アインスは飛行能力を有しているためにそれもあまり大きな効果を見せてはいない。どうするか。そうギンガが打開策を考えようとした時だ。

 

「さ、これでお終いよ!」

「そんなっ!?」

 

 アインスの宣言と同時に放たれる羽。その数は、今までの比ではない。ギンガの視界全てを覆うようなそれを見て、彼女は今までのアインスの狙いを理解した。いつでも今のような攻撃は出来た。だが、敢えてギンガが弱るまでそれを温存し、どうあっても絶望するしかないタイミングを待っていたのだと。

 

 だが、ギンガはそれでも諦めなかった。全てを防ぐ事が出来ないならせめて一矢報いようと考えて。それの呼応し、左腕のリボルバーナックルがカートリッジを排出する。そして回転を始めるリボルバーナックルを掲げ、ギンガは敢えて羽の中へ突入した。

 それはアインスも予想していなかったのか少し驚きを見せる。そして全身に羽を突き刺しながらもギンガはその拳をアインスへ突き出した。

 

「一撃! 必勝っ!」

 

 己のありったけを込めてギンガは叫ぶ。彼女にはスバルのように憧れから生み出した独自の魔法はない。だからこそ、彼女がここで放つのは元からリボルバーナックルで使える魔法。しかし、想いだけはそれに匹敵するだけの強さを込めて。

 

「リボルバァァァァシュートッ!!」

 

 ギンガの拳がアインスの翼を捉えた瞬間、それを打ち抜くように魔力の風が解放された。そして、その威力が翼に穴を開ける。その瞬間、アインスの痛みに喘ぐ声が響く。それを聞きながらギンガは嬉しそうに微笑み、そのままウイングロードから落ちていく。

 

(やったわ、これで少しはやり返す事が出来た。時間稼ぎ、出来たかな……)

 

 もう身体が動かない。出血が多すぎたのかそれとも全身の羽が原因かは分からない。だが、もうギンガにそこから助かるだけの力は無かった。不思議と恐怖はない。ただ、与えられた事を最後までやり遂げる事が出来なかった事だけが悔しかった。

 そんなギンガの視界に、ふと彼女に似た姿が見えた。最後に幻覚でも見てるのかと思い、ギンガは小さく笑った。だが、するとその相手は一層速度を上げてギンガへ近付いた。

 

「親を置いて先に逝くなんて、させないわよ!」

 

 クイントはギンガの身体を抱きとめるようにし、ウイングロードの上を駆け抜ける。その際、一瞬だけ苦しむアインスの姿を見てギンガが相手に何かをしてダメージを与えた事を理解して小さく笑みを見せる。だが、すぐに厳しい表情でギンガへ告げる。

 

「無茶は大目に見れても、無理は許さないって教えたでしょ!」

「……母さん」

 

 クイントの表情から自分がかなりの心配をさせたと実感し、ギンガは小さく項垂れた。だが、そんなギンガへクイントは先程までの表情を一変させ、微笑んでみせた。

 

「分かってくれればいいの。それと、よくやったわギンガ。後は母さんに……ううん」

「どこを見ている!」

 

 自分から完全に視線を逸らしギンガと話すクイントへアインスは怒り心頭といった雰囲気で襲い掛かる。だが、その攻撃がクイントへ届く事はない。その一撃を止める存在がそこにはいたからだ。

 

「ゼスト隊に任せておけ」

 

 クイントの言葉を受け継ぐように、ゼストがデバイスでアインスの攻撃を受け止めながらそう言い切った。そして、その隣へメガーヌが転送魔法で現れ、ギンガの身体に簡単な治療魔法をかける。

 

「これで一先ず大丈夫のはず。でも、油断は出来ないわ」

「ありがとうメガーヌ。なら、このままギンガを任せていい?」

「ええ。六課へ搬送したらすぐに戻ってくるわ。隊長、いいですか?」

「構わん。急げっ!」

 

 メガーヌの問いかけに答えつつ、ゼストはアインスを睨みつける。クイントはゼストを援護するべく動き出し、メガーヌはギンガを抱え転送魔法でその場から離脱する。

 それを見たアインスの表情が歪んだのを見て、ゼストは相手がギンガを狙っていたと考える。故にその目的も先程のギンガと同様の結論を出した。そして、ゼストは静かに怒りを燃やし、手にした槍状のデバイスへ力を込めるように握り締める。

 

「部下の愛する娘を化物にさせる訳にはいかん……なっ!」

「なっ!?」

 

 ゼストの全力で自分が少し押された事に軽く驚きを見せるアインス。そこへクイントが両手のリボルバーナックルを唸らせ襲いかかる。

 

「はぁ!」

 

 それをかわし、一度距離を取るアインス。クイントはゼストの隣で止まり、視線をアインスへ向け続ける。その目には確かな怒りが浮かんでいる。愛する娘を、ギンガを殺しかけた相手。それを思うとクイントは出来る事なら何も考えずにがむしゃらに戦いたいのだ。だが、長年局員として生きてきた身体が、思考がそれを許さない。

 それに、怒りに我を忘れてはいけないと彼女は思っている。何故なら、いついかなる時でも、優先するべきは相手を倒す事ではないからだ。そう、それはただ一つ。

 

(守るために戦う。決して勝つためじゃない。私達は、守るために戦うんだ)

 

 そう思い、クイントは拳を握る。そして視線をアインスの翼へ向けた。ギンガが開けただろう穴。それがゆっくりと塞がっているのだ。それが完治すればアインスは今以上の空戦能力を発揮してしまうだろう。

 ならば、もう一度同じようなダメージを与えるだけだ。そう思い、クイントはゼストへ念話を使う。自分が相手の気を惹き付けるのでギンガが与えた傷を大きくして欲しいと。それにゼストが頷いたのを見て、クイントは走り出す。

 

 アインスの羽に気をつけながらその距離を詰めるように動くクイント。ゼストはそれとは違う方向からアインスへ接近するべく動いている。

 

「ギンガの分、きっちりお返しさせてもらうんだから!」

「やれるものならやってみなさい!」

 

 こうして、ゼスト隊と怪人の初戦闘が始まった。一方、その頃援軍としてそこへ向かっていたRX達は予想外の攻撃にその行動を邪魔されていた。

 

「くっ! 何て正確な射撃なんだ!」

「これはきっとディエチちゃんのISよ」

「これじゃ……わっ! ギンガの所に行けないよ!」

「セイン姉だけでもISを使って先行すればいいんじゃ!」

 

 そんなノーヴェの提案にチンクが苦い顔をした。

 

「いや、それは不味い。ちっ! ……奴は我々の生命反応を追って攻撃している。ISといえどそれを消す事は出来ん」

「ならどうするってのさ!」

 

 セインの声と共に再び砲撃が放たれる。それを何とかかわし、全員が視線を砲撃の来る方向へ向けた。しかし、何故か次の砲撃がこない。それにヴァルキリーズが警戒する中、RXだけはその視覚を最大限に使い、射手のいる場所を見つめていた。

 そして、そこで展開されている光景を見てRXは一人頷いた。それにクアットロ達は少し疑問を感じるが、すぐに何かを思い出したのか笑みを浮かべた。

 

「「「「龍騎ね(か)」」」」

「ああ。今オットーにディエチと三人で戦闘を開始した。しかし、龍騎が紅い鎧になっていたんだが?」

「サバイブだ。そうか、龍騎は能力をほとんど邪眼に知られているのを逆手に取ったか」

 

 RXの告げた内容にチンクはそう返した。RXは、その言葉からサバイブというのが龍騎の超変身だろうと察しをつけたのか納得するように頷いた。そしてRX達は走り出す。目指すはギンガがいる場所。そこで孤軍奮闘しているだろうギンガを助けるために。

 その頃、アギトはやっとギンガのいた場所へ辿り着いていた。砲撃に苦しむRX達を横目にし、申し訳なく思いながらも彼女は狙われない事を利用してこうして先に目的の場所へ来れたのだ。そこで彼女が見たのは予想だにしないものだった。

 

「ギンガ? ……じゃない! ゼスト隊だ!」

 

 視線の先で怪人相手に戦うのは以前世話になったゼストとクイントの二人だけ。ギンガとメガーヌの姿が見えない事からアギトはきっと何らかの理由で戦場を離れたのだと理解した。未知の怪人相手にギンガは一人で戦っていた。そのためにダメージを負ってしまったのではないかと。

 メガーヌはきっと彼女の離脱を手伝うためにいないのだろう。そうアギトは納得してゼストへ念話でここの近くにもう一体怪人がいる事と、そちらへ龍騎達が向かった事を伝えた。

 

【それと、アタシも協力するよ。ゼスト部隊長、ユニゾンして一気に攻めよう!】

【いいのか? いや、分かった。協力感謝するぞ、アギト】

 

 一瞬アギトの矜持を考えて迷ったゼストだったが、彼女自身がそれを意識していない事に気付いてそう返した。その言葉にアギトは頷いてゼストの傍へと向かった。

 そして、ゼストはアギトとユニゾンしてアインスへと立ち向かう。その外見が変化した事にアインスは僅かに疑問を感じたようだったが、大した問題ではないと判断したのか特に何か言う事は無かった。

 

 そこへギンガを搬送し終えたメガーヌが現れた。そして、ゼストの変化を見てアギトの協力を悟り、小さく笑みを浮かべると自身も手を貸すべく召喚を行なう。

 

「頼むわ、ガリュー!」

 

 ガリューと呼ばれた人型昆虫のような存在は、メガーヌの声に頷きを返すとゼストの援護をするべくアインスへと向かって行く。それを見たクイントも負けじと動き出し、アインスは四対一の状況に追い込まれた。

 それでも羽を使い三人を怯ませようとしたのだが、アギトの魔法がそれを焼き払う事が出来たために自身の最大の武器を封じられる形となった。それでもゼスト達は油断する事無くアインスと戦った。

 

 羽の迎撃をゼストとアギトが引き受け、アインスへの攻撃をクイントが、その援護をガリューとメガーヌが受け持つ事で着実にアインスを追い詰めていく。

 

「こ、こんな……こんなはずは……」

 

 自分が追い詰められている事にアインスは信じられないと言わんばかりの声を出した。それを聞き、ゼストがはっきりと告げた。

 

―――お前達の弱点はただ一つ。自分達以外の者を見下している事だ。それでは俺達に勝てん!

 

 その言葉にアギトは同意を示すように彼のデバイスへ炎を纏わせた。クイントとメガーヌはそれを見て援護するべく動き出し、ガリューもそれに続かんとする。炎の槍を構え、ゼストはフルドライブと呼ばれるものを使うべく準備を始めた。

 それは凄まじい加速と力を与える機能。しかし、その反動も凄まじいまさに諸刃の剣なのだ。故に外す事は許されない。一撃必殺が信条の攻撃なのだから。それをよく知る二人の女性は息を合わせるように叫んだ。

 

「メガーヌ!」

「クイント!」

 

 アインスの両側から二人はバインドを仕掛ける。それをアインスはかわそうとするが、そうはさせじとその身体をガリューが取り押さえた。

 

「くっ! おのれ!」

 

 結果、アインスの身体は拘束される。それを何とか破ろうとするが、それよりも早くゼストが動く。

 

「「隊長っ!」」

「フルドライブ!」

”行っけぇぇぇ!!”

 

 身動き出来ないアインスを炎の槍が貫いた。そして、そこにトドメを刺すべくアギトが魔法を使う。それは、ユニゾンした相手と共に魔力を使う事で発動する強力なもの。その名は轟炎。

 ゼストとアギトの二人分の魔力を使い生まれた炎。それが槍を通してアインスを内側から焼き尽くす。それを見守り、ゼスト達は何も言わない。最後まで気を抜く訳にはいかないとの思いがそこからは見て取れる。

 

 やがてアインスは焼き尽くされ、そこには灰だけが残った。それに安堵の息を吐くクイントとメガーヌ。ゼストはアギトとユニゾンを解除すると、やや疲れたような声で周囲に告げた。

 

「まだ終わってはいない。念のため、俺達もライダーと合流するぞ」

 

 それにクイント達も頷いて動き出す。するとそこへRX達が現れた。初めて見る本物の仮面ライダーの姿に興奮するクイント。それを少し呆れつつも諌めるメガーヌ。ゼストはRXから大体の状況を聞き頷いていた。

 アギトは怪人と戦った事をクアットロ達へ話し、それを聞いた彼女達から無事で良かったと言われ、嬉しく思って笑みを返す。そして彼らは一旦六課隊舎へ戻る者と龍騎達の援護へ行く者と分かれる事にして動き出すのだった。

 

 

 

 クラナガンの街と湾岸地区の境目。その一角にあるちょっとした丘。そこでツェーンは砲撃を続けていた。最初は油断している龍騎達を狙った。だが、どうも距離があったせいで勘付かれて失敗したため、今度はアインスの所へ向かおうとしていたRX達を狙ったのだ。

 距離も近くなったので遠距離狙撃ではなく中距離狙撃に切り替える事が出来たおかげもあり、連射速度を上げる事が出来た事もあってそちらは思うような成果が出せた。本当ならば、彼女はアインスなど援護したくない。だが、邪眼のためと思う事でそれを実行していた。

 

「……中々当たらないな。やっぱり多少狙いをつける方がいいかも」

 

 そんな事を楽しそうに呟きながらツェーンは再度砲撃を放とうとして―――それが出来なかった。その視界に真紅の騎士と二人の少女が見えたからだ。

 

「……龍騎。それに出来損ないが二人、か」

「ホントにディエチそっくりだ」

「兄様、騙されないでください」

「そうだよ。こいつは外見だけを真似した怪人なんだから」

 

 初めて見る怪人の通常体に小さく驚きを見せる龍騎。それにオットーとディエチが現実を告げて構えた。それに龍騎も頷いて構える。それにツェーンは無表情で背中にある砲身を向けた。

 それにディエチが持ってきたイノーメスカノンを構えて対抗するべくチャージを開始。だが、相手の方が早く砲撃を放った。それをオットーがISを使って食い止めようとする。微かに、だが確実に押されていくレイストーム。

 

「くっ……ディエチ、まだ……?」

「ゴメン。もう少し待って……」

「なら俺も!」

 

 苦しそうなオットーの声にディエチは申し訳なく思うも首を横に振った。それを見て龍騎はシュートベントを使おうとするが、それをオットーが止めた。まだ見せた事のない力は出来る限り使わないように。そうオットーは言って小さく苦しみながらも笑みを浮かべた。

 こんな事ぐらいで負けない。そう告げてオットーは龍騎に笑みを見せた。それに龍騎が何も言えず戸惑う中、ディエチのチャージが完了した。

 

「お待たせ。あたしの全力、加減無く行くよ。IS、ヘビィバレル」

 

 解き放たれるディエチの全力砲撃。それがレイストームと合わさり、ツェーンの砲撃を飲み込んだ。そしてそのままツェーンへ押し寄せる。眩い閃光が爆発を起こす。しかし、まだ誰も油断はしない。

 ディエチは砲身の冷却時間を考えて少し距離を取り、オットーは周辺一帯をプリズナーボクスという結界で覆う。それは怪人を万が一にも周囲へ逃がさないためと、自分達の戦いを見られないようにするためだ。

 

 やがて立ち上った煙が晴れると、そこには亀の姿をした怪人がいた。もし、その姿を一号や二号、もしくはV3が見ればある怪人を思い出しただろう。その外見は、それだけその怪人の姿に酷似していたのだ。

 だが、その凶悪さと禍々しさは段違い。背にした巨大な砲身。吊り上がった目と鋭く尖った牙。それは、まさに名付けるのならカメバズーカ変異体とでも呼べるような姿だった。

 

「さっきのは中々良かったよ。でも、あれじゃあたしは殺せない」

「ディエチ、砲身が冷却出来るまでは僕の傍に。兄様は前衛をお願いします!」

「っしゃあ!」

 

 返事と共に龍騎は手にしたソードベントを読み込ませ、ツェーンへ斬りかかった。だが邪眼さえ怯ませたその一撃がツェーンには通用しない。刃は少しもその身体を傷付ける事無く止まり、それを当然のようにツェーンは見つめていた。

 戸惑う龍騎へツェーンは呆れたように告げた。自身の強度は邪眼を超えるのだと。大体硬そうなのは見た目からでも分かるだろうに。そんな事を言った後、ツェーンはドラグバイザーツバイを掴んで龍騎を殴り飛ばす。

 

 それで龍騎はドラグバイザーツバイを放してしまった。そのまま地面を転がる龍騎。そこへ追撃をかけようとするツェーンだったが、その行動を止めるように幾多もの光線がその身体を襲う。

 だが、それを察知したツェーンは背中をそちらへ向けて攻撃を無力化した。それに三人は驚きを見せるが、それでもオットーは攻撃を止めなかった。見えたのだ。龍騎がドラグバイザーツバイを取り戻そうと起き上がったのを。

 

「背中を向けたままでいいのですか? こっちの行動が見えないでしょうに」

「関係ないよ。お前達が何をしようとあたしの甲羅は砕けない」

 

 勝ち誇るようなツェーンの声にオットーはいつかの邪眼を思い出しほくそ笑む。何故なら、そんな風に自信満々に言っていた邪眼は龍騎に負けたのだから。それに、今は自分達も力を貸せる。なら、負けるのは自分達ではなく相手の方だ。そう思ったが故の笑み。

 

「……チャージ完了。いつでもいけるよ、オットー」

 

 そこへ聞こえるディエチの準備完了の言葉。それにオットーは静かに頷き、視線をツェーンから龍騎へ移す。龍騎はツェーンの視界から逃げるようにしながらその距離を詰めていた。その狙いを理解しているオットーとディエチはそれを支援するべくある行動に出た。

 龍騎が丁度ツェーンの真後ろに近付いたのを見て、オットーはレイストームによる攻撃を中断した。それにツェーンが気付いて振り向く。すると、その視界に真っ先に龍騎の姿が入る。それにツェーンが何か反応を見せる暇も与えず、ディエチが砲撃を放った。

 

「喰らえっ!」

「何度やっても……」

 

 無駄だ。そうツェーンが言おうとした時だった。背中を向けようとしたツェーンを龍騎が後ろへ回り込んで抑えたのだ。そして、その腹部に砲撃が当たるようにした。きっと腹部は背中よりも柔らかいはず。そう考えた龍騎と、きっと彼ならそう考えくれると信じて動いたオットーとディエチの思惑通りに。

 

「くっ……放せ!」

「行けっ!」

 

 龍騎の声と同時にディエチの全力の砲撃がツェーンの腹部に炸裂した。その衝撃が完全に殺せず、ツェーンから苦痛に呻く声が漏れる。そして龍騎は素早くドラグバイザーツバイを取り返すと、一枚のカードを取り出してそれへ読み込ませた。

 

”STRENGE VENT”

 

 読み込まれたカードは瞬時に別のカードへ変化し、再度読み込まれる。その効果を龍騎はある意味で予想していた。

 

”SHOOT VENT”

 

 その声と共にドラグランザーが出現し、龍騎のドラグバイザーツバイが示す場所へ火球を放つ。龍騎は邪眼がストレンジベントの効果を正しく理解していないと踏んで使用したのだ。きっと距離を取って戦う方がいいツェーン相手ならばシュートベントに変化してくれると予想して。

 狙いは当たり、龍騎が示したツェーンの腹部へドラグランザーはメテオバレットを吐き付ける。その高熱と威力にツェーンが堪らず後ろに退いたのを見てオットーが叫んだ。

 

「兄様! トドメをっ!」

 

 ツェーンの身体を封じ込めるようにレイストームを使い、オットーは龍騎へトドメを託す。ディエチも同じような期待の眼差しを向け、それに龍騎は頷いてファイナルベントを取り出した。

 

「行くぞ、怪人!」

 

”FINAL VENT”

 

 バイクに変わったドラグランザーに乗って龍騎はツェーンへ向かっていく。何とか背中を向けたツェーンだったが、そこへドラグランザーが火球を連発していく。更にそこへディエチの砲撃が加えられる。それは冷却弾。

 

「真司兄さん、お願い!」

 

 狙いは急激な温度差を利用した構造崩壊。全てはオットーの戦術だ。そして、そのまま龍騎は突撃を敢行する。オットーとディエチの信頼に応えるために。

 

「打ち砕けっ!!」

「そんなぁぁぁ!?」

 

 さしものツェーンの甲羅も温度差による構造崩壊には耐え切れるはずもなくその強度を落としていた。そこへ加速をつけたドラグランザーの突進を受けては耐える事は出来ずに圧殺される。ツェーンが爆発四散したのを見て安堵の表情を見せ合うオットーとディエチ。

 龍騎も変身を解除しほっと一息。怪人が全部で五体にもなる攻勢。それはかなり厳しい戦いになったと感じたのだ。しかし、これが自信になったのも事実だった。そう、クウガやアギトだけでなくなのは達がいなくても五体の怪人を相手に勝利出来た。それが持つ意味は大きい。

 

「……とりあえず戻ろうぜ。さすがに疲れたよ、俺」

「そうですね」

「お疲れ様、真司兄さん」

 

 こうして海鳴組の裏側で起きた六課襲撃は終わる。六課の完全勝利という形で幕を下ろしたのだった。

 

 

「で、どこでアリアさん達が出てくるんですか?」

 

 これまでの話を簡単に聞いてスバルは全員の気持ちを代表して告げた。それにロッテが苦笑して答える。

 

「実はね、この後戦いの後始末とか何やらでみんな慌しくなったんだよ」

「私達はその途中の方で六課に来たの。勿論手伝いはしたけど、戦闘はとっくに終わっててね」

 

 アリアの言葉に光太郎が頷いた。ロングアーチは様々な雑務に追われ、ヴァルキリーズは初めての連戦に披露困憊。アギトはゼストとのユニゾンと魔法使用のためダウン。真司も頑張ってはいたのだが、サバイブの長時間使用と食堂の後片付けのために疲れ果てた。

 ギンガは先述の戦いによるダメージから眠り続け、メガーヌはそんなギンガのために懸命に治療魔法を使い続けたので疲れから眠った。クイントはギンガの看病と初めての怪人戦の精神的疲労が祟って同じく眠ったと言う訳だった。

 

「……それで光太郎さんとゼストさん以外寝とったんか」

「そういう事。でも、相手の怪人の新しい情報も入ったしこちらの収穫は大きい。相手も多少は情報を得ただろうけど、それを活かせるとは思えないから大丈夫さ」

 

 はやての言葉に光太郎はそう答え、笑ってみせた。それに翔一が不思議そうに尋ねた。

 

「どうしてです?」

「簡単さ。奴らは、それを活かせないから怪人でしかないんだ」

 

 その光太郎の答えに五代が分かったとばかりに笑顔を浮かべて告げた。

 

「つまり、他者を見下すと痛い目を見るって事ですね!」

「そう。これを無くす事が出来るのなら、怪人は怪人じゃなくなる。だから言ったのさ。活かせないだろうって」

 

 その結論に全員が納得。そして、同時に思う。邪眼側が本格的にライダーのデータを集めにきていると。そして、そのために取る方法が凶悪になりつつあるとも。そう感じたからこそ、はやてがゼスト達へ視線を向けた。

 今回六課が無事で済んだのはゼスト隊の三人の協力があればこそだったからだ。それにギンガの訪問もそれに含まれる。だからこそ、はやては一度椅子から立ち上がり四人へ頭を下げた。

 

「ゼストさん、それにクイントさん、メガーヌさん、ギンガもほんまにありがとうございます」

 

「気にしないでくれ。俺達は同じ局員だ。なら、願いは同じはず。違うか?」

 

 その言葉にはやては嬉しく思い、力強く頷いた。それを見つめ、全員に笑顔が浮かぶ。だが、フェイトがふと思った事を口に出した。

 

「でも、これで邪眼が未だに見せてない怪人は……」

「ドゥーエさんのコピー、セッテのコピーにオットーのコピー。それと……」

「ノーヴェのコピーとウェンディのコピーに……」

「ディードさんのコピーです」

 

 なのはの挙げていく名前にそれぞれが指折り数える。そして、それをティアナとキャロが締め括る。それを考え、一体どんな怪人なのだろうと誰もが思考を巡らせる。今回戦った新しい怪人は、共に特殊能力が厄介極まりない相手だった。

 出血を促し続ける羽。邪眼さえ怯ませたサバイブの一撃を無効化する強度の甲羅。それはライダーであっても苦戦する事を意味する。ならば、なのは達が苦しめられるのは言うまでもない。

 

「しかし……まだ半数も残っているんだねぇ」

 

 ジェイルの何とも言えない言葉に誰もが頷いた。まだ未知なる怪人が六体もいる。いつまた海鳴へも襲撃を仕掛けるか分からない以上、今回のような事もない訳ではない。そう考えたウーノはせめてとある人物へ視線を向けた。

 

「ギンガ、貴女だけでも六課に協力する事は出来ないかしら?」

「あ、それいいね。で、ヴァルキリーズにおいでよ」

 

 ウーノの告げた言葉にセインがそう続けた。それを聞いたフェイトとはやてがそれぞれに視線を合わせて頷いた。

 

「ギンガさえ良ければ、私達がナカジマ三佐に掛け合ってみるよ」

「本当ですか?」

「勿論や。怪人と初めて遭遇して、痛手を負わせたなんて大したもんやし」

「どうするの、ギン姉?」

 

 スバルの問いかけにギンガが真剣な表情で頷いたのは言うまでもない。こうしてギンガはゼスト隊への出向を終えた翌日に六課への出向が決まった。表向きは、先日の隊舎襲撃事件の関係者として捜査に協力する事となって。

 ギンガを加え、六課の戦力は強化された。だが、それでもまだ不安は尽きない。その後ウーノとドゥーエから語られた懸念。ライアーズマスクを使ったスパイ。それに全員が驚愕し、同時に納得したのだ。そして、ゼスト達はゼスト達でそれらしい事があれば連絡するとなり、三人は六課を去って行った。

 

 邪眼の襲撃を退けた六課。しかし、まだ相手には見せていない手札がある事を思い出し、改めて気持ちを引き締める。そんな中、加わる新たな力。その名はギンガ・ナカジマ。彼女を加え、六課はその力を着実に増していく。全ては、邪眼を倒すそのために……

 

 

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サウンドステージ裏側でした。かなりの分量となり、分割も考えたのですがこのまま投稿する事にしました。

 

出来るだけ全員に見せ場をと考えたら、こんな長さに……。ここまで読んで頂いた事に感謝します。


 
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