No.494843

裏庭物語 第9箱

笈月忠志さん

原作キャラと原作には出てこない箱庭生たちによるスピンアウト風物語。

にじファンから転載しました。
駄文ですがよろしくです。

2012-10-11 02:12:06 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:477   閲覧ユーザー数:475

第9箱「みんなと同じ」

 

『異常な遭遇のその後・前編』

 

今回の語り部:杵築(きつき) (いつき)

 

 

 

 おう。ついにある人から「変な名前ね」と言われてしまった杵築 樹だ。

 

 前も言ったが、この世界(観)においては、キャラが他のキャラの『名前』や『血液(エービー)型』に触れるのはタブーだよな。

 

(だってみんな変な名前だしみんな同じ血液型なんだもの ゐつき)

 

 なのに勝本先輩ときたら、俺が見舞いに行くたびにタブー発言を連発するのだからおっかない。

 

 たとえば、「あんた血液型なに? え!? AB型なの!? 私とおんなじじゃない! なんか1つでもあんたと同じカテゴリーがあるとかイヤな気分だわ……。冗談よ♪」とか、「でも私が大量出血しても、あんたの血液だけは輸血してほしくないわね。だってあんたの血が体内にあるとか気持ち悪いもの……。冗談よ♪」とか言ってくるのだから、どうしたものか。

 やれやれ、常識破りで『型』破りな破天荒娘である。

 

 そして今日は、転落事件があった日からずっと第壱保健室でリハビリをしていたそんなおてんば先輩の退院(退室?)の日である。

 

 ということで、俺は放課後に早速第壱保健室へ足を運んでいた。

 

 

「おめでとうございます勝本先輩!!」

 

「むぐぅう!? ……ゲホッゴホッッ!」

 

 退保健室祝いの言葉を発しながら勢いよく勝本先輩のベッドを囲んでいるカーテンを開けた俺だったが、ベッドから上体を起こしておやつを食べていた先輩を驚かして喉に詰まらせてしまったようだ。

 

「大丈夫ですか先輩!? 俺でよければ力になりますけど」

 

「……ゲホッ……あん…たのせい…でしょうが……ゴホッ」

 

「取り敢えずお水を飲みましょう」

 

 阿久根先輩を見習って、適切な処置をしないとな。なんか睨まれてるが気にしない。

 

「ゴクゴクッ……ふぅ~。全く、驚かせないでよね! 赤いのかと思って焦ったじゃない」

 

「俺が赤先輩だったら何かマズかったんですか?」

 

「当たり前よ! あの睨めっ子は私に、

 

『全快するまでは、私が飯塚くんや米良さんたち食育委員会と共に考えた栄養価の高くてバランスの取れた食事のみを摂取してもらいます。それ以外のたとえばお菓子のような嗜好食品は全快するまで禁止です(ハート)』

 

 とかのたまってきたのよ! どう思う? 酷くない!? だから私はこうやってあの赤いのにバレないようにコッソリとヒッソリと! 惨めにお菓子を隠れて食べていたのよ」

 

「……………。」

 

 悪意を感じるほど似ている赤先輩のもの真似をして、不満を露にする勝本先輩。赤先輩は優しいなあ。勝本先輩はガキか!? まさに『(おや)の心勝本()知らず』って感じだ。

 

「……赤先輩は優しいですよ。勝本先輩の体のことを本人以上に気遣ってますし、本人以上に気配ってます」

 

「なに? あんたは赤いのの味肩を持つっての?」

 

 今のは『味方』と『肩を持つ』とを掛けたのか。

 

「いえ、そういうわけじゃなくてですね、」

 

「もういいわ。あんたなんか知らない!」

 

 頬を膨らませ、プイッとそっぽを向いてしまった。と同時に、そっぽを向いた反動で、結んでいる髪がでんでん太鼓と同じ原理で彼女の顔面をベチッと叩いた。自覚があるのかないのか知らないが、とても可愛らしい。

 

「さて。じゃあ退室しましょう先輩。一人で立てますか?」

 

「フン! 当たり前じゃない! あんたの力なんか要らないわよ!」

 

 完璧に拗ねているな、こりゃ。どこかで「プライドが高い人には執事を演じろ」とか聞いたことがあるから、試してみよう。

 

「勝本先輩、そんなに怒らないでください。いつだって俺は先輩の『味肩』ですから」

 

「……ホント?」

 

 悲しげな表情で見つめてくる。これはこれでアリだな。

 

「ええ、もちろん」

 

「……フン! なら許すわ」

 

 急に偉そうになった。機嫌直したんだな。この人(内牧さんに比べて)チョロいな。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 その後、赤先輩にお礼をして第壱保健室をあとにした。そのときの勝本先輩の台詞には驚かされた。その台詞というのが、

 

「……その……ありがとう……ございました……私みたいな迷惑な患者(せいと)にも……平等にお世話してくれて……。

 

 って、なんで私がこの赤いのにお礼なんか言わなくちゃいけないのよ! 保健委員長なんだからお世話して当たり前でしょ! それに私は命を助けてもらったっていう負い目があってお世話されてただけなんだからねッ! いろいろと感謝しなさい!!」だ。

 

 ツンデレか!とツッコミを入れたくなったが、

 

「はぁ? 最後に及んでまでそんな態度ですか、呆れました。むしろここは治療してもらったあなたが『感謝しています』って言うべき場面なんじゃないですか? 『無惨に死にかけているところを助けて頂いてありがとうございます』でしょ?」

 

 と、赤先輩が即座に応戦してきたので、二人を宥めるのに精一杯だった。疲れた。

 赤先輩とツンデレ属性は『混ぜるな危険!』。

 

 

 んで、やっとかっと保健室から出た。

 

「勝本先輩、これからどうします? 校門まで送っていきましょうか?」

 

「いや、私生徒会室に行くから。生徒会の阿久根くんにもお礼を言いたいの」

 

 そうか。勝本先輩の命の恩人は、第一発見者:杵築 樹、治療者:赤 青黄の二人の他にもう一人、アドバイザー:阿久根 高貴が存在する。彼の適切なアドバイスがなければ、勝本先輩は命を落としていたかもしれない。

 

「じゃ、俺は部室へ行きますんで。先輩、さっきの赤先輩の時みたいにならないように頑張ってお礼してきてくださいね」

 

 そう言って踵を返そうとすると、制服を引っ張られた。

 

「……なんですか?」

 

「あんたも行くの!」

 

 有無を言わせない鋭い目付き。実際の目線はかなり下からだが、上から目線。そうではあるのだが、同時に『お礼するのに失敗して暴走するのが怖いから、見張るためについてきて?』というかわいい本心が見栄隠れ……じゃなくて見え隠れしている。

 

 しかし俺は彼女の後輩とはいえ友達だ。彼女の今後のためには一人で行かせるのが最善だろうから、ここは心を鬼にして、ビシッと言ってやらないとな。

 

「……分かりましたよ。ついていってあげます」

 

 うん。

 俺の鬼の心は、先輩のかわいい本心には到底敵わない。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 勝本先輩と肩を並べて(身長差がありすぎて並ばないが)生徒会室へ向かって歩く。

 

「そういや勝本先輩、アースマラソンを不眠不休で成し遂げたって聞きましたけど、本当ですか?」

 

 前から気になっていたことだ。アースマラソンとは、ランニングとヨットのみで世界を一周するという文字通りの鉄人競技。その移動距離は陸上・海上合わせて約4万kmにも及ぶ。かかる年数はなんと約二年! よく考えると、その間ずっとの不眠不休はさすがにありえないと思っていたのだ。

 

「あー、あれね。実はその情報には、いろいろとカラクリがあるのよ」

 

「……カラクリ?ですか?」

 

「そう、カラクリよ。知ってると思うけど、アースマラソンはその半分が海上、つまりヨットに乗っているのよ。ヨットの移動はほぼ風力! その間は必然的に休んでいることになる。コッソリ寝てもいたし♪ だから実際に不眠不休だったのは、全体の半分しかない陸上の間だけよ」

 

 なんじゃそりゃ。

 

「いや、でも先輩、残りの2万㎞の陸上はランニング、つまり人力! その間ずっと不眠不休だったってことにカラクリはないんですよね?」

 

「それはそうだけど……。2万㎞くらい余裕でしょ。途中で海を挟むんだから、なにも連続じゃないしね。それに私疲れないからさ、寝ずに休まずにずっと走ってりゃすぐに次の休憩(うみ)にぶち当たったわ。そんな感じで結局一年もかかからなかったの」

 

 だから“寝ずに休まずにずっと走る”のが異常なんだよ……。

 

 

 

 俺のモヤモヤは解消されないまま、生徒会室へ着いた。

 

 ガラガラと扉を開ける。

 

「失礼しまーす」

 

 中にいたのは黒神、人吉、阿久根先輩。黒神は相変わらず凄まじい速さで業務をこなしている。効果音にすれば『シュバババババ』って感じか。それに引き換え、人吉と阿久根先輩はキツそうだ。今にも『バタン!』って感じ。なるほど、阿久根先輩が最近は生徒会業務で忙しすぎると言っていたが、これほどとは。

 

 ここで、黒神が手を止めてこちらを向いた。

 

「む? 杵築同級生と……………………十島同級生」

 

「違うわよっ!! 誰よ十島って! しかも私三年だし! 勝本 諦三年生だし! 見た目で一年と決めつけないで!!」

 

 勝本先輩が黒神の机までズカズカと歩いていって、ムキーッとつっかかる。それを横目に、人吉が阿久根先輩に「あの子誰ですか?」と尋ね、阿久根先輩が「まあ、知り合いかな」と答えた。

 

 言ってなかったが、勝本先輩は、今回の転落事件のことや自分が保健室に入院(入室?)していることを広めないようにと俺や阿久根先輩や赤先輩に口止めしていたので、人吉や黒神は当然勝本先輩のことを知らない。極力広めない理由は『あの二人組』に居場所が漏れるのを防ぐためだろう。

 

「……ゼェ……ゼェ……。怒鳴り疲れたわ……」

 

 と言う勝本先輩だが、しかし演技だろう。この先輩は疲れない体質だからな。

 

 その後すぐに「ちょっと阿久根くん借りるわね」と言って、阿久根先輩の手を引っ張って生徒会室を出てきた。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 生徒会室前の廊下。阿久根先輩の前に勝本先輩、そして俺。先に口を開いたのは阿久根先輩だった。

 

「勝本先輩、無事退室おめでとうございます。ちょうど今から第壱保健室へ行こうと思ってたところでした。すみません、少し遅かったですね。

 三日前、全身傷だらけで意識も朦朧としていたあなたを最初見たときは、正直助けることができるのか不安はありました。しかし、さすがは勝本先輩、擦り傷でも治すようにあっという間に全快してしまいましたね。先輩の素晴らしい元気と体力には、ただただ感服するばかりです」

 

 さすがは阿久根先輩だ。定型文のような祝い詞である。

 

「………………。」

 

 対して勝本先輩(このひと)はダメだ。お礼の言葉が出てこないのか言いにくいのか知らないが、赤くなって黙って俯いている。

 

「……えーっと、杵築クン? 彼女どうしたのかな?(汗) いつもに比べて別人のように大人しいようだけど」

 

「あ、黙ってた方がいいですよ阿久根先輩。彼女今準備中ですから」

 

「準備中??」

 

 心底不思議がった表情をする阿久根先輩。しばらく沈黙が続き、ついに勝本先輩が口を開いた。

 

「……えっと……その……助けてくれてありがとう……ございます……!」

 

 ペコッと頭を下げる。

 おお、今回は上手くいきそうだな。場数を踏んで、もう慣れてきたのか。

 

 しかし阿久根先輩の方は驚いている。どうやら彼女のこんな一面は初めて見るようだ。

 ……ってことは、今まで阿久根先輩がお見舞いに来たときに一回もお礼言ってなかったのかよ! おいおい、どんだけ感謝が苦手なんだ? もうそこまで行くと異常の域だろう。異常者だけど。

 

「阿久根先輩、勝本先輩はあの日助けてもらったお礼を(今頃)しに来たんですよ。気恥ずかしくて、今まで言えなかったようで」

 

 我ながらナイスフォローだ。

 

「……そうだったのか。はははは! いや~驚いたな。勝本先輩にこんな“意外な”一面があるだなんて!」

 

 ドガ!

 

「ぐおっ!?」

 

 勝本先輩がどこからともなく出したゴルフクラブで急に阿久根先輩の頭を殴った!

 マズい! 暴走する!

 

「なっ……なんなのよッ! 意外って! どうせあんたも私のことバカにしてむぐっ……むぐぐ~~っ!」

 

「阿久根先輩! 彼女なりの愛情表現です! 気にしないでください!」

 

 勝本先輩の口を背後から押さえ、ズルズルと引きずって退散する。

 

「失礼しました! また今度!」

 

「むぐがうーーーーっ!」

 

「ちょっ、手を噛まないでください痛いです。あと暴れないでください引き摺りにくいです」

 

 この娘には『体力』はあるが『筋力』はないから引き摺るのは簡単だ。若干矛盾しているようだが、しかし実際そうなのだから仕方ない。

 

 前に、開聞部長に十三組について聞いてみたことがある。部長曰く、十三組(ジュウサン)の生徒はみな何か一分野に対して圧倒的に長けているそうだ。

 

 一点豪華主義(ピンポイント)

 

 そのバランスの悪さこそが、異常者(アブノーマル)異常(アブノーマル)たる所以にして、万能型の特別(スペシャル)との決定的な違いなのだとか。

 

 この先輩の場合は『体力』であるから、それ以外の『筋力』なんかは普通の少女と大差ない。

 

 そんな彼女を阿久根先輩から見えない位置まで引き摺り退散させて、一息。

 

 すると、遠くから阿久根先輩の声がかすかに聞こえてきた。

 

「……フフッ。めだかさんもそうだけど、『異常』とか呼ばれてる十三組(ジュウサン)の生徒たちでも、実際に接してみると案外『普通』の人間だったりするんだよね。喜んだり、怒ったり、哀しんだり、楽しんだり。そして躊躇ったり、恥ずかしがったり。

 

 異常と(どう)呼ばれようが、みんなと同じ『人間』だ」

 

 

 頭を擦りながら感慨深い独り言を言って、生徒会室に戻っていく阿久根先輩であった。

 

 

 

~おまけ~

 

高貴「こんにちは、赤さん」

 

青黄「あら、高貴くんじゃない。どうしたの?」

 

高貴「赤さんが、勝本先輩の回復を誰よりも望んでいて、勝本先輩の退室を誰よりも喜んでいたと聞いてね、だから一言『赤さんは優しい』って言いに来たんだよ」

 

青黄「…………。

 

(望んだのも喜んだのも、ただ単にあの無礼な先輩のお世話するのがイヤだっただけなのよね……。)

 

 ありがとう高貴くん(ハート)。たったそれだけのために、この生徒会業務が凄まじく忙しい時期にわざわざ保健室まで出向いてくれて(ハート)」

 

高貴「本当に優しいね、赤さんは。他人の業務のことを心配してくれているなんて。将来赤さんの夫になる人は幸せものだねえ」

 

 

 

青黄「!?

 

(皮肉が全く通じてない!?)」

 

 

 


 
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