No.494839

裏庭物語 第8箱

笈月忠志さん

原作キャラと原作には出てこない箱庭生たちによるスピンアウト風物語。

にじファンから転載しました。
駄文ですがよろしくです。

2012-10-11 02:08:59 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:417   閲覧ユーザー数:412

第8箱「ブッ殺すからね!」

 

『異常な遭遇・後編』

 

今回の語り部:杵築(きつき) (いつき)

 

 

 

 おう。杵築 樹だ。

 

 

 ~前話のあらすじ~

 

 報道部のカメラマンたる俺は、とんでもないスクープ写真を撮って開聞部長を驚かせようと一人時計塔付近へ訪れた。

 

 すると突如空から謎の真紅ツーサイドアップ女子が落ちてきた! どうやら時計塔の屋上から落下したようなのだ。

 

 そして彼女と同様に屋上から落下してきたのにも関わらず無傷なニット帽と覆面ナイフの二人組や、落下音を聞きつけ駆けつけた学園警察のトップ・風紀委員長『モンスターチャイルド』の魔の手をくぐり抜け、阿久根先輩の猫の手を借り、その落下した女子を第壱保健室へ運び込んだのだった!

 

 ~あらすじ終了~

 

 

 第壱保健室に着くと、阿久根先輩は俺に外で待っているよう言ったのち、その娘を抱え保健室の中へと入っていった。

 

 つまり俺は今、保健室前の椅子に彼女の無事を祈りつつ腰掛けている形だ。

 

「頼む……助かってくれ」

 

 阿久根先輩と共にその娘を運んでいるとき、俺は彼女が時計塔屋上から転落してきたことを阿久根先輩に伝えた。するとやはり驚愕していた。『普通であれば』即死なのだから当然だ。

 

 あの娘まだ生きてたけど……息してたけど、どんだけ頑丈なんだよ。

 

 しばらくすると、カラカラと保健室の扉を開けて中から阿久根先輩が出てきた。

 

「阿久根先輩! 彼女は助かりそうですか!?」

 

「あぁ、心配いらないよ杵築クン。さすがは赤さんと言ったところかな。意識はそろそろ戻るらしい。しかもあと3日もすれば歩けるようにもなるそうだ」

 

「!? ……それは良かったです……」

 

「そうだな」

 

 そうだな、じゃないだろ。

 さっき一瞬意識を取り戻していたから助かるだろうとは思っていた。

 しかし。数十分で意識が戻る? 地上数百メートルから落下して3日で歩けるようになる? どこのスーパーマンだよって話だ。一体どうなってるんだ? 赤先輩の治療の腕が良すぎるのか、それともあの娘が頑丈過ぎるのか。

 

「両方だよ」

 

「え?」

 

 阿久根先輩が俺の隣に腰掛けながら心の疑問に答えた。

 

「赤さんの治療の腕はピカ一だ。“どちらかと言うと患者が死にかけてる方が”、ミスやロスが許されないからか、より最適・最速で完璧な治療になる。そんな赤さんの治療を受けたから助かった、“ってだけじゃないらしい”。

 

 赤さんが言うには、あの娘は常人の比じゃない『体力(スタミナ)』を持っているようでね、だから傷に対しての損傷(ダメージ)が意外に小さかったようなんだ」

 

「へ、へぇ~。なんかスゴいですね。常人の比じゃない『体力(スタミナ)』って……」

 

 そういや覆面ナイフもそんなこと言ってたような。

 

「俺が思うに、めだかさんと同等か、それ以上の『体力』の持ち主だ。これ、保健室(なか)にあった箱庭学園の今年の生徒名簿なんだけど、……これが彼女のページだよ」

 

 見るとそこには、彼女の名前、顔写真、所属、血液型などの簡易プロフィールが載っていた。

 

「ご覧の通り彼女は三年の十三組(ジュウサン)だ。なるほど納得の強度だよ」

 

 阿久根先輩は俺に名簿を渡しながら感心するように頷いた。

 

 やっぱり十三組(ジュウサン)か。計り知れないな。

 黒神めだか。

 雲仙冥利。

 そして勝本(かつもと)先輩。

 さっきの「名瀬」ってのと「古賀」ってのも恐らく十三組(ジュウサン)だろう。

 確かにどいつも『異常選抜特別特待生』の名に恥じない異常者だ。

 

「つーか彼女三年だったんですね!?」

 

「うん。俺も驚いた。あの幼くて小柄な外見から、てっきり一年生だと勘違いしていたよ」

 

「ですよね……」

 

 そういや覆面ナイフとニット帽が「勝本先輩」って呼んでたな。うっかりしてた。

 

「じゃ、俺は生徒会の仕事があるから行くよ。赤さんによると彼女はもう大丈夫みたいだしね。あとはきみに任せたよ杵築クン。赤さんと一緒に面倒見てくれ」

 

「分かりました」

 

 阿久根先輩はスクッと立つと、前を向きながら手をひらひら振り、颯爽と歩き去っていった。

 

「……格好よかったな、阿久根先輩……」

 

 ついつい独り言が出る。実際格好よかったのだから仕方ない。

 容姿? もちろんそれもあるが、瀕死の人を前に適切な処置ができる判断力が格好よかったのだ。

 

 “今の”阿久根先輩になら憧れる。

 

 

「さて! じゃあ勝本先輩の世話するか。阿久根先輩の分までやってやろう」

 

 ガラガラッと保健室の扉を開ける。

 

「失礼しまーす」

 

 広い。なんて広さだ。さすが箱庭学園の第壱保健室と言ったところか。初めて入る俺にはどこに何があるか分からないな。

 

 すると、向こうから赤いナース服を着た鋭い目付きの人がやって来る。もちろん保健委員長の赤先輩である。

 

 二年十一組 赤 青黄。体育科の特待生(チームトクタイ)。通称、白衣の天使ならぬ赤衣の天使、『レッド・エンゼル』。

 

「えーっと、勝本先輩のお見舞い?世話?に来たんですけど」

 

「そう。勝本先輩のベッドならあっちよ」

 

 部屋の隅を指差した。

 

 って、爪長っ!!

 

 俺の視線に気づいたのか、すぐに左手で指し直した。

 

「赤先輩、爪長すぎません? 治療するときに余計に傷が付き――――っ!?」

 

 怖っ!

 すっげえ睨まれた!

 

「文句つけに来たんなら帰ってくれる? 私は今とっても忙しいから(ハート)」

 

 スタスタと歩き去って行く赤先輩。

 

 台詞中に「(ハート)」があったが、表情(めつき)はむしろ傷付ける方の『hurt』だったな(汗)。

 

「……勝本先輩……『五本の病爪(ファイブフォーカス)』を使わなければ危なかったわ。高貴くんにバレそうでもっと危なかったけど」

 

 歩き去りながら何かボソボソ呟いていた赤先輩だったが、俺にはよく聞き取れなかった。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 赤先輩が指差したベッドのところへ行き、ベッドを囲んでいるカーテンを開けて中へ入る。

 

「――スゥ――スゥ――」

 

 絶賛睡眠中だ。

 

 改めて詳細に紹介。

 

 

 勝本(かつもと) (あきら)

 

 所属:三年十三組

 性別:女

 血液型:AB型

 

 

 真紅の髪を二ヶ所髪ゴムで束ねているツーサイドアップ。不知火ちゃん並みの、高校三年生とは思えないほど幼い体型(胸以外)、そして童顔。

 体にかけられた薄い毛布からところどころ覗く身体は、あちこち包帯でぐるぐる巻き。

 

「……ぅーん……(ぱち)…………ん?」

 

 俺が丸椅子に腰掛けたと同時に目を覚ました。覚ますなり俺を見つけ、キョトンとしている。

 

「「…………」」

 

 二人して無言が続く。

 先に口を開いたのは、目を擦る仕草がかわいい勝本先輩だった。

 

「……あんた誰?」

 

 いきなりあんた誰?とは失礼な先輩だな。別に親の顔は見たくないが。

 

「一応命の恩人です」

 

 いきなり名乗ってもしょうがないし、まず敵でないことを分かってもらうために、俺は自分からそう言った。別に恩着せがましくするつもりなどなく。

 

「命の恩人?」

 

「まあそんな感じですかね?」

 

「なんで疑問形なのよ」

 

「……つーか先輩覚えてないんですか? 一瞬意識を取り戻していましたけど」

 

「意識? ……あれ? ここどこ?」

 

「そっからですか……。先輩は時計塔屋上から地上まで転落して、意識を失ってたんです。で、たまたまその場に居た俺と、途中で出会った生徒会の阿久根先輩で、ここ――つまり第壱保健室へ運び込んだというわけです。もう保健委員長の赤先輩が完璧に治療済みだそうで、3日後には歩けるようですよ」

 

「……………」

 

 俺の話をポカンと口を開けたまま聞いている勝本先輩。

 ……記憶喪失にでもなったのだろうか。

 

「勝本先輩、もしかして打ち所が」

 

「あーーーーーーっ!!」

 

「っ!?」

 

 俺の言葉が急遽あげられた勝本先輩の叫びに遮られた。

 そして先輩は急に上体を起こし、ハッとした表情を続ける。

 

「ど、どうしました?」

 

「思い出したっ! そっか! 私、時計塔の屋上から蹴り飛ばされて!! あ、そう! あーーーっ!!」

 

 

 ピシャッ!

 

「うるさーいっ!」

 

 勝本先輩があまりにも大声を出しすぎたためか、レッド・エンゼルこと赤先輩がベッドを囲んでいたカーテンを勢いよく開けて怒鳴りこんできた。

 

「……他の患者(せいと)の迷惑になりますから、もう少し小さな声で話してください(ハート)」

 

 ピシャッ!

 

 一言注意すると、カーテンを荒く閉めてスタスタと行ってしまった。

 

「……な、何なのあいつ! なんで私があそこまで睨み付けられなきゃならないっての!?」

 

 眉間にしわを寄せ、頬をぷくーと膨らませて怒る勝本先輩。

 

「いや、今のは明らかに叫んだ先輩が悪いでしょ。取り敢えず落ち着きましょ?」

 

「フン! まあいいわ。恩人に免じてあの赤いのは許す」

 

 この先輩、勝ち気だな。こんなキャラだったのか。つーか赤先輩も、俺と同じく命の恩人だってのに。

 

 ……そういえばなんでこの人が屋上から落ちてきたのかを聞かないといけないな。

 

 

「勝本先輩、聞かせてください。一体屋上で何があったんですか?」

 

 

「ねぇ恩人、一つ頼み事があるんだけど」

 

「あれれ!? 俺の話聞いてましたか!?」

 

 見事なまでのスルー技を喰らった。

 

「あと俺の名前は『恩人』じゃないですから」

 

「えっ!? そ、そうなの!? でもさっき、私が『あんた誰?』って尋ねたときにあんたは確かに『命の恩人』って言ったわよね? だからてっきりあんたの名前は『命の恩人』かと」

 

「違います! この世界のどこに『命の恩人』とかいう変な名前の人がいますか!」

 

 突っ込んでみて思ったのだが、この世界はみんな変な名前でした(笑)

 

「じゃああんたの本名はなんて言うのよ?」

 

杵築(きつき) (いつき)です」

 

「……ふーん。変な名前ね」

 

 ぐはっ。

 

 まあ『勝本 諦』に比べたら変だろう。しかしこの世界で名前と血液型に触れるのはたぶんタブーだろ。

 

「じゃあキツキイ、頼まれてくれる?」

 

「キツキ! キツキ/イツキ!」

 

「もう、うるさいわね。話が前に進まないじゃない」

 

 あんたのせいだよ。

 

「たぶん時計塔の屋上に私のゴルフクラブがあると思うのよね。それを取ってきてくれない? あれ無しじゃ生きていけない気がするかもしれない感じなの」

 

「つまり、あまり大事じゃないと」

 

「大事よ! 傷一つでも付けたらブッ殺すからね」

 

 キッと睨んでくる。

 本当になんなんだよこの先輩。ブッ殺すとか、命の恩人に対しての言葉じゃないだろう。

 

「じゃあまあ先輩の性格のよさに免じて取ってきてあげます(嫌み)。時計塔屋上のゴルフクラブでいいんですよね?」

 

「そうよ。早く取ってきなさい。寄り道するんじゃないわよ!」

 

「へいへい」

 

 全く。こんな横着な娘だと知っていたら助けなかった……ってことはないんだが。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「それにしても常人の比じゃない『体力(スタミナ)』か……。少し気になるな。そうだ、開聞部長ならなにか聞いてるかも!」

 

 俺は時計塔屋上へ向かって歩きながら、開聞部長に電話をかける。

 

「もしもし、杵築です。部長こんにちは」

 

《こんにちは。何か用かしら樹さん?》

 

「はい、三年十三組の勝本 諦って人について、何か知ってる情報ありませんか?」

 

《三年十三組の勝本 諦? ええ、いろいろ聞いているわよ》

 

「本当ですか!? いくつか教えてもらえないでしょうか?」

 

《うーん、そうねぇ。彼女は十三組(ジュウサン)だから、聞いている情報はほとんどが『異常な偉業』絡みね。例えば不眠不休で世界一周(アース)マラソンを成し遂げたのは割り方有名かしら》

 

「……は?」

 

《新聞でアスリートがアースマラソンした記事を見たらしくてね、それで“負けじと”自分も挑戦したそうよ。しかも一睡もせず一休みもせずに、ね。もちろん世界最速記録を更新したわ》

 

「ハンパないですね(汗)」

 

《通称:『負けず嫌い(ネバーギブアップ)』。

 

 彼女は生物学的に説明がつかないほど無尽蔵な『体力・持久力』を有しているそうよ。身体的な「疲れ」は生まれて一度も感じたことがないとか。

 同時に彼女はかなりの「負けず嫌い」らしくてね。その性格が彼女の異常性(アブノーマル)とどう関係してるのかなんてワタシは知らないけど》

 

「へぇ~……。教えていただいてありがとうございました」

 

 はい。幼い見かけによらず物凄く凄まじいお人でした。比喩でもなんでもなく、文字通り『世界をまたにかける』お方でした。俺の負けです。問答無用な無条件降伏。

 

《いえいえ。どういたしまして。ところで樹さん、アナタ今どこにいるのかしら?》

 

「えっと、俺は今、その勝本先輩に頼まれて時計塔の屋上に――――――――っ!?」

 

 俺はケータイ片手に電話しつつはしごを登るという器用さを使い、たった今、時計塔屋上へ辿り着いた。そしてその光景を見て、俺は絶句した。

 

 激しい戦闘痕。

 

 コンクリの床は、そういうデザインか?と思うほど余すところなく抉れており、蜘蛛の巣状に入ったヒビもある。小規模の紛争でも起こったのかのような荒れ具合。勝本先輩とあの二人組が戦闘したのだろうと想像できる。

 

 その中心に、ぐにゃぐにゃに曲がったゴルフクラブが落ちている。なんだよ、既に傷だらけじゃないか。

 

《……どうしたの樹さん? 急に黙り込んじゃって》

 

「……なんでもありません。じゃ、続きは部室で話します」

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「取って来ました。ゴルフクラブってこれですよね?」

 

「あ! サンキュー♪ 早かったじゃない。褒美として、私の専属パシリにしてやってもいいわよ」

 

 保健室に戻ってきて再びベッド横の丸椅子に腰掛けつつ言う俺に対し、勝本先輩はゆっくりと上体を起こしながら、俺に不名誉な役職を押し付けようとしやがった。

 

「褒美になってませんね。遠慮しときます」

 

 ボロボロのゴルフクラブを手渡すと、勝本先輩は大事そうに抱え込んだ。傷だらけなことには触れないようだ。おそらく分かっていたのだろう。

 

「先輩、それ、そんなに大事なものなんですか?」

 

「……べっつに~。ただの護身用の武器よ」

 

 なんだよ畜生。誰かの形見とかかと思ったのに。まあでも屋上の光景から言って、そのゴルフクラブを武器に戦ったのは明白か。

 

「さて勝本先輩、頼みも聞いたし、今度はきちんと答えてもらいます。屋上で何があったんですか?」

 

「…………。」

 

 目を伏せて黙る先輩。

 あれ? これ聞いちゃダメな感じのやつか?

 

 俺が謝ろうとした瞬間、勝本先輩が口を開いた。

 

 

「いきなり声をかけられたの。見るからに異常な二人組の生徒から……。

 

 ~~~回想~~~

 

 私はご存知の通り十三組(ジュウサン)だから登校義務はないんだけど、たまに学校に遊びに来るのよ。学園内を散歩したり校舎の屋上で昼寝したりするのが好きでね。

 

 そして今日は前から気になってた時計塔に行ってみようと思ったの。あそこの屋上で昼寝すると気持ちいいかなって思ってさ。まあ実際は風が強すぎてあんまり気持ちよくはなかったけどね。

 

 それで眠れないままボーッと寝転がってたら、いきなり時計塔の側面からニット帽した娘が現れたの。しかも覆面の娘を抱かかえて。そりゃあもうビックリだわ。私も幼い頃から異常と呼ばれ育ってきたけど、建物を側面から登ったことはなかったから。

 

 そしてその二人組の包帯覆面の方が、私を見るなりこんなことを言ったの。

 

「お前が三年十三組『負けず嫌い(ネバーギブアップ)』の勝本 諦か。噂はかねがね! 聞くところによると『体力(スタミナ)』の異常性(アブノーマル)をお持ちだとか。ちょっくら俺とトークしよーぜ」

 

「……あんたたち誰?」

 

「そっか、やっぱ自己紹介は必要だよな。

 

 俺は二年十三組『黒い包帯(ブラックホワイト)』の名瀬 夭歌」

 

「私は私で 二年十三組『骨折り指切り(ベストペイン)』の古賀いたみ―!」

 

 思った通り二人とも十三組(ジュウサン)だった。しかもその名前には聞き覚えがあった。なんたって二人は今期の『十三組の十三人(サーティン・パーティ)』のメンバーなんだもの。

 

「それで? そんなお二人が私になんの用? 寒くなってきたしそろそろ帰りたいんだけど」

 

「うん、まあ用ってほどのことでもねーんだけどよー。勝本先輩、お前ちょっくら俺たちの研究に協力してくれねーか? あんたの力が必要なんだよ」

 

 私はすぐに、それがこの学園で秘密裏に行われているとある計画に関わるなにかだと分かったわ。秘密裏とか言ってるけど、実際十三組(ジュウサン)の連中はみんな知ってるもの。

 

 それで私は喜んだ。『十三人(パーティ)』に入れるのかと思ってね。

 

 でも違った。話を聞いていくと、ただ古賀さんのヴァージョンアップのための研究対象(サンプル)となるだけだと分かった。彼女の全力駆動時間を延ばすとか何とか。

 

 私は断ったわ。だって『十三人(パーティ)』に所属してないのに研究に関わるってことは、研究者側にはなれないってことで、イコール一方的な被験者ってことじゃない。そんなの私のプライドが許すはずがない。だからキッパリ断った。

 

「ごめん。そういうことならいいや。お断りってことで」

 

「ハハ! まーそー来るよな。断られるってことくらいお見通しだ。

 

 んじゃ、古賀ちゃん、やっちまえ」

 

「了解!」

 

 断ったらニット帽が襲ってきた。是が非でも私を研究したいらしい。

 

「手足をへし折ってくれ。睡眠薬投与して工房(ラボ)へ運び込むからよー」

 

「はーい☆ それじゃあ一気にキメるよ勝本先輩! あんたの得意は長期戦、そして不得意は短期戦! どうやら私と真逆みたいだからさ! 遠慮なくいくねー☆」

 

 私はたまたま持っていたゴルフクラブで応戦した。でもさすがは『十三人(パーティ)』、歯が立たなかった。

 

 そしてニット帽の蹴りが腹部にクリンヒット。そのまま時計塔から落下したの。

 

「あ。やべ。どうしよう名瀬ちゃん! 足加減できずに蹴り落としちゃった!」

 

「……追うぞ古賀ちゃん!」

 

 上を向いて落下していると、ニット帽が覆面を抱えて飛び降りてくるのが見えたわ。もしかしたら、大事な研究材料を死なせたらマズイと思って助けようとしたのかもしれない。でも間に合わず、私は地面に激突した。そしてそのまま気を失ったの。着地寸前に体の向きを変えて頭部を守ってなかったら、さすがの私でも死んでいたわ。

 

 ~~~回想終了~~~

 

そのあと落下した二人組は、あいつらのことだからおそらく傷一つ負わずに着地したと思うんだけど……。ってあれ? あんたどうやってあいつらを撒いたのよ?」

 

 

「……こっちもいろいろとありまして……」

 

 なるほど……。そんなことがあったのか。しかし『サーティン・パーティ』?とか『秘密裏の計画』?とかナンノコッチャ。

 

「ふぅ~ん。……ま、取り敢えずお礼言っとくわ」

 

「別にお礼なんていいですよ。あの場面で助けない人はそういませんしね」

 

「…………………。」

 

「?」

 

 急に勝本先輩が黙り込んでしまった。この人急に黙り込むのが趣味なのか?

 

 顔を見てみると、いつの間にか赤くなっている。眉を窄めて、モジモジと恥ずかしそうに、上目遣いでこっちを見つめてくる。先輩だがすごくかわいい。この人こんな表情(かお)もできたのか。

 

「先輩どうしました? トイレですか?」

 

「ち、違うわよ!! 黙ってて!」

 

 怒られた。余計に赤くなっている。

 

「……えっと……だから……その……」

 

「??」

 

「……た、助けてくれて……ありがとうございました……!」

 

 真っ赤な顔を隠すようにペコッと頭を下げる先輩。結ばれた髪がフワッと一瞬、宙に浮く。

 

 はは~ん、分かったぞ。この先輩、人に感謝するのに慣れてないな。勝ち気な性格だからだろう。まぁ、ある種のツンデレみたいなモンだろ。俺を雑用に使った仕返しをしてやろう(笑)

 

「……勝本先輩、しおらしくて最高にかわいいですよ」

 

「えっ……ホ、ホント?」

 

 顔を上げる先輩。さらに赤くなっている。

 

「ええもちろん。今の先輩は天使ですね。さっきの『お前なんかブッ殺してやる! グハハハハ!』っていう悪魔みたいな態度に比べたら断然」

 

 ガン!

 

 ゴルフクラブで殴られた。

 

「そ、そんなこと言ってないし! でもあんたには悪魔で十分よ! フン! 次、からかったらブッ殺すからね!」

 

 だから命の恩人に対する言葉じゃない……。

 

 

 

 そんな感じで、黒神の他にもう一人、十三組(ジュウサン)友達(しりあい)が増えた。

 

 

 


 
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