No.494827

裏庭物語 第5箱

笈月忠志さん

原作キャラと原作には出てこない箱庭生たちによるスピンアウト風物語。

にじファンから転載しました。
駄文ですがよろしくです。

2012-10-11 01:32:49 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:499   閲覧ユーザー数:490

第5箱「あたしもです☆」

 

『人吉善吉庶務職就任インタビュー・後編』

 

今回の語り部:杵築(きつき) (いつき)

 

 

 

 おう。好きな鳥は啄木鳥の、杵築 樹だ。

 

 報道部員としての俺の初仕事は、第98代生徒会執行部庶務職に就任した人吉 善吉に行われる就任インタビューの写真撮影係(カメラマン)というものだった。

 

(ちなみに黒神への生徒会長就任インタビューは、前の日に報道部A班の方たちが行ったそうだ。)

 

 幼い頃から祖母より写道を叩き込まれてる俺でなくても分かるとは思うのだが、「報道写真」と「芸術写真」はその撮り方からまるで違う。

 

 しかし、インタビューが専門で写真撮影は専門外の開聞部長には、どうやらその違いは理解できないらしく、「芸術写真でも撮るように、いつも通りにやれば大丈夫よ」と言われてしまった。

 

 ……うーむ。報道写真など今まで撮ったことないので、結局初心者と同じ腕だろう。まあいいか。

 

 そんなこんなで、インタビューが始まる。

 

 

 

~庶務職就任インタビュー~

 

 

 

インタビュイー:人吉善吉(第98代生徒会執行部庶務職)

インタビュアー:開聞(かいもん)いらえ(報道部部長職)

 

写真撮影係:杵築 樹

内容記録係:内牧(うちのまき) (まき)

その他の係:B班の方たち

 

場所:生徒会室

 

 

 

いらえ「今日はワタシたちのインタビューのために貴重なお時間を頂き本当に感謝するわ」

 

善吉「いえいえ、こちらこそ。俺も『情報基地(データベース)』の異名を持つ開聞先輩から直々にインタビューされるなんて光栄です」

 

いらえ「あら。光栄に思われるなんて光栄だわ。それじゃ、早速インタビューを始めさせて頂くわね。まず、生徒会に入った経緯を聞かせてもらおうかしら」

 

善吉「えっと……それはですね、めだかちゃんに入ってくれと頼まれたから入ったとしか言いようがねーですね」

 

いらえ「いえ、善吉さん、アナタはめだかさんが立候補したあたりから、ずっとめだかさんから生徒会に誘われていたと聞いているわ。でもこの間までは拒み続けていたとか。だから何か転機でもあったんじゃないかしら?」

 

善吉「……カッ! すげーマジで何でも知ってるんですね(汗)」

 

いらえ「違うわ。ワタシが持っているのは知識ではなく情報よ♪」

 

善吉「知っているのではなく聞いているんだってやつですね……。つーかそれなら、その『転機』っつーのも知ってんじゃないですか?」

 

いらえ「……ええ、もちろん聞いているけれど、でもこれは生徒たちみんなに向けた学園新聞に載せるためのインタビューなのよ。ワタシが聞いているかどうかは関係ないわ」

 

善吉「なるほど。みんなのためのインタビューってわけですか。つーことは、そのみんなとやらが俺の『転機』を知りたがってると……。しゃーねー、恥ずかしいからきっかけとかあんま言いたくなかったけど、みんなのためなら仕方ねー。

 

 剣道場の一件。それが俺の生徒会へ入る『転機(きっかけ)』です」

 

いらえ「と言うと?」

 

善吉「めだかちゃんの公約の一つ、目安箱。それの第一号の投書が剣道場の一件。これをいつも通り見事に解決しためだかちゃんを見て、――いや、めだかちゃんのおかげで改心した日向や不良の先輩たちを見て、俺は生徒会に入ろうと決心したんです」

 

いらえ「へー」

 

善吉「!? 自分から聞いといて見るからに興味なさそう!?」

 

いらえ「すみません。ワタシが聞いていたことと寸分違わず同じだったから、つい映画を二回目見るときのような気持ちになってしまったわ。できれば誰も知らないことを話して頂きたいわね」

 

善吉「なっ……自分から聞いといて……! なるほどな。めだかちゃんから聞いてはいたが、これほどとは……。生徒たちのためとか箱庭新聞のためとか聞こえのいいこと言っといて、結局先輩が狙っているのは、“誰も知らない新しい情報”――そう、『情報基地(データベース)』と呼ばれる開聞先輩(じぶん)ですら知らない『未知』、ただ一つ!」

 

いらえ「ええ、その通りよ。隠すつもりはないわ。

 

 『開聞 いらえのインタビューの極意 その① 道なき未知を行く』。

 

 ワタシにとって情報とは常に新しくあるべきものなの。最新情報でなければ『情報基地(ワタシ)』が集める意味がないわ」

 

善吉「……さすがは報道部部長って感じだぜ!」

 

 

 

 こんな感じでインタビューは進行していった。

 

 俺のインタビューのイメージでは、インタビュイー:インタビュアーの発言率は9:1くらいなのだが、開聞部長のインタビューの場合は5:5くらいだった。

 

 インタビュアーがこんなに喋っていいのかと俺は正直驚いたが、しかし更に驚くことに、開聞部長は5割しかない相手の発言からみるみるうちに必要な情報をピンポイントで聞き出していったのだった。

 

 これこそまさに『開聞 いらえのインタビューの極意 その② 低頭を放して対等に話す』。

 

 まるで友達と雑談でもしているかのような雰囲気を作りだし、相手に変に緊張感や形式感を抱かせず、素直に情報を吐かせる常套手段にして高等手段。

 カウンセリングなどではよく使われる手法のようだが、限られた時間内により多くの言葉数を相手に話させることが重要視されがちな『インタビュー』でこの手法を使う人は、初めて見た。

 

 あ、何も描写されてないが、写真撮影係の俺はずっと人吉 善吉(インタビュイー)の写真を撮っていた。人吉の野郎がなかなかいい表情をしないので、かなり苦戦したのだが……。

 

 そんなこんなで、インタビュー終了。俺の初仕事は、まあ成功と言ってよい出来だった。

 

 人吉と世間話をしながら撤収作業をしていると、黒神が「インタビューは終わったようだな。貴様たち、お疲れ様だ」と言いながら生徒会室に入ってきた。インタビュー中は、邪魔になるといけないと思ったのか、外に出ていた。

 

 俺は、まだ就任祝いをしていなかったことを思い出し、声をかける。

 

「おう、黒神。少し遅れたが就任祝いだ。生徒会長当選おめでとう!」

 

「ああ、ありがとう! 感謝する。これで同中はコンプリートだな」

 

「ん? コンプリート?」

 

「私の同期、つまり今の第一学年の、箱舟中学出身者からの就任祝いは、実は杵築同級生、貴様が最後だったのだ」

 

「っ!?」

 

 いやいや。

 いやいやいやいやいや。

 確かに今までの就任祝いを全て覚えている記憶力も、箱舟中学出身者を全員押さえている把握力も驚きだが。

 真に驚くべきは、就任からほんの数日でそこまで祝われる『人望』。

 

「……はは……最後の一人になるつもりはなかったんだが、なれて光栄だ」

 

「光栄? そんな影衰な表情で言うなよ」

 

 乾いた笑いしか出ない俺を見るなり、人吉がにやにやしながら造語でツッこんできた。

 

 そこへ、『ぽきゅぽきゅ』という足音と共に、隣のクラスの幼っ子、不知火ちゃんが現れた。

 

「やっほー人吉ー☆ それにお嬢様~♪ インタビューとやらは終わったー?」

 

「おっす不知火! 今終わったところだぜ」

 

 不知火ちゃんの問いに人吉が答える。

 

 幼い。心身共に幼い。

 ヘタしたら小学生でこの子より老けてる人いるよ?

 

「そーだ紹介するよ不知火。こいつは杵築 樹っつって、俺やめだかちゃんと同じ箱舟中学出身だ」

 

「あー知ってるよ。一年二組でー、報道部でー、写真撮影係(カメラマン)でしょー?」

 

 人吉が俺のことを不知火ちゃんに紹介してくれたのだが、なぜかもう知ってくれていたようだ。妙に嬉しい。

 

「あたし不知火 半袖。よろしくねー☆」

 

「おう、こちらこそ」

 

「ところでところでところで!」

 

 不知火ちゃんはぴょんぴょん跳ねながら、撤収作業をしている開聞部長のところへ跳んで行く。

 

「そこの開聞いらえ報道部部長! あなたあたしが代理した学園側主催の役員募集会を欠席してましたけど、何か理由(ワケ)でもあったんですか?」

 

「ええ、あったわ。あの日の放課後は、樹さんへの勧誘の加勢に行っていたのよ。薪さんだけじゃ逃げられちゃう予感がしたからね」

 

 そうか……。

 二年三年の特待生を集めた役員募集会があったのは、俺が内牧さんから体育館裏に呼び出され、開聞部長から気絶させられ、そして報道部に入部したあの日の放課後。つまり全く同じ時刻。

 俺を勧誘するために、開聞部長は役員募集会までサボっていたのか。

 

「えー? 報道部は部員数そこそこいるんだから、一人逃げられたくらい大したことないはずでしょ? そんな些末なことで、この学園の未来が決まる大事な大事な、だぁーーーいじな役員募集会休んだんですかー? あたしにゃ理解できませんね、あひゃひゃ☆」

 

 にやりん、と悪戯な笑みを浮かべつつ、開聞部長の周りをクルクルと回っていく不知火ちゃん。

 

「それともあれですか~~~? この杵築カメラマンに何か特別な何かがあるとか!」

 

 ぴょんと俺のところへ戻ってきて、俺の顔を至近距離で覗き込んでくる。

 近いって。

 

「不知火! 開聞二年生にも何か考えがあってそうしたのだ。深く追究するのはよくない。それに開聞二年生の他にも欠席者はかなりいたようだし、現実問題この私が結局行っていないのだからこちらは何も言う資格はない」

 

 黒神が話に割って入った。

 しかし二人は向かい合ったまま。

 

「……フフフ♪ いつかアナタにインタビューしてみたいわ、半袖さん」

 

「……あひゃひゃ♪ あたしにインタビューしたけりゃまずあたしを掴まえないとねー☆ そう簡単には掴まりませんから♪」

 

「フフフ♪ 楽しみだわ☆」

 

「あひゃ♪ あたしもです☆」

 

 開聞部長と不知火ちゃん。

 

 大人っぽい彼女と子供っぽい彼女。

 

 『情報基地(データベース)』と『情報通』。

 

 二人は向かい合い、揃って笑みを浮かべている。

 部長は微笑んでいるが、目だけは笑っていない。

 不知火ちゃんは先ほどから続けている悪戯な笑顔。

 

 火花がバチバチと散る!

 ……メチャクチャ怖い!

 

 

 最後はキューバ危機みたいになったが、俺や黒神や人吉や報道部員やらその場の総出で押さえ込み、事態は収拾した。

 

 

 

 いやー、女の戦いってマジ怖い。

 

 

 


 
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