No.49088

光速デイズ

xx凛さん

光の如く過ぎていく日々。
都会に生きる少年のある朝の風景です。

2008-12-29 00:51:32 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:663   閲覧ユーザー数:641

 

真っ青な空を仰いで、僕は溜息を付いた。

首を戻せばいつもと同じ登校中の光景。コンクリートの地面を踏み、ビルやマンションが立ち並ぶ都会を進み、学校近くに繋がる地下鉄へ向かう。

先程見上げた空はとても広く、ゆっくりと雲が動いているのにもかかわらず、そのすぐ下。つまり今僕らが暮らす地上はとても狭く、人々が慌しく速く動いている。まるで何かに追われているようだ。

 

 

「僕もそこに行きたいよ」

「そこって、何処?」

 

 

空をもう一度見上げ、ぽつりと呟く。

それは独り言で返事するものなど一人もいないはずなのに、後ろから僕に向けてへの問いが聞こえた。

それに驚き、ぱっと首だけ後ろを向くと、見慣れた顔が一つ。

 

「お前、驚きすぎ」

去年から同じクラスの親友に近い友人。

彼はとても驚いた僕に驚き、いつもと同じ少し掠れた、けれども良く通る声で言うと、軽く笑った。

彼とはたまに車内で会う。学校が同じだから良くあることだ。しかし、電車までの道程で会ったのは今思えば初めてで、どういった会話をすればいいのか分からない。

 

 

僕が黙っていると、彼から話しかけてきた。

「何か、悩み事?」

「まぁね」

愛想良く訪ねてきた彼に僕は愛想無く言葉を返す。周りは速く動いているのに、立ち止まっている僕らはどこか浮いている感じがして、取り残されてしまいそうな気持ちになって、僕は、歩こう。と彼に提案した。

彼は返事はせずに歩き出した。それに僕は遅れを取らないように歩く。

 

 

「言った方が楽かもしんねぇよ?」

 

遠まわしで、『話せ』という言葉。

僕がこのことを話し出さなければ、ずっと黙ったままで学校に着いてしまう気がして、僕は話すことにした。別にそんな大層なことでもないけど。そんな出だしの話。

 

 

「何かさ、色々と速い気がしてさ」

「うん」

「都会だからってことかもだけど、空はあんなにもゆっくりなのに僕ら人間達は速く動いて」

「うん」

 

僕の話に彼は相槌を打つ。

適当なものではなく、ちゃんと打つときに打っているので僕の話を聞いていると分かる。

動機が好奇心だとしても、それは話し手にとっては嬉しいことに変わりない。

 

「てかさ、何でそんなに焦ってるわけ?そこまで慌てなくてもいいと僕は思う」

「そだな」

「そんなに速くせかせか動いて、得られる利益を僕は知りたい。そんだけ」

僕は話を終え、彼のほうをちらりと横目で見ると、難しそうな顔で何か考えている。

しかし、僕の視線に気が付くと、僕と目を合わせ、にこりと笑い、こう言った。「同意」

 

 

 

「ひかりの、はやさ」

「光速?」

 

ぽつりと呟いた彼の言葉に僕は尋ねる。

すると、彼は当たりと言い、空を見上げた。僕も同じように空を見上げる。

彼の歩調はいつも速くない。まるでこの空のようにゆっくりとした足取りだ。

それは彼のマイペースな性格を表しているのかもしれない。

 

 

「人はさ、速い」

先程の僕の意見を彼は言った。

先程の彼と同じように僕は、うん。相槌を打つ。

すると、彼はめちゃくちゃな。と、微妙な付け足しをし、言葉を続けた。

 

「一番速い光速よりも速い」

比喩にしては少し飛びすぎだ。しかし、彼はいたって真面目。

ゆっくりとした足取りを、もっとゆっくりにした。また僕は人々に取り残されそうになり、彼を急かそうとした。

 

「別に、取り残されたって良いんじゃね?」

しかし、彼はぼくの心を読んだかのような言葉を言う。

彼はにこりとも笑わず空を見上げた。もうその足は止まっていた。

つられて僕も足を止め、空をまた見上げる。日光が眩しすぎて目がちかちかする。

僕と彼は目を細めながらも僕は空を見る。

 

 

「毎日毎日、いっつもいつも、光みてぇに速くしてると、すぐに老けて死ぬ。

 どんだけ頑張っても死ぬんなら同じだ」

「ふぅん。で?」

 

彼の言いたいことの真意が全く分からなくて、僕は彼に愛想無い尋ね方をする。

僕と彼の横を通り過ぎて行く人々は、とても速い。まるで光。

 

 

 

 

 

「そんなんなら、ゆっくり生きようぜ。ってことじゃね?」

 

「何で疑問系なんだよ」

 

 

 

そう僕が突っ込むと、彼は先程と同じように歩き出した。

まぁこんなことを言い合っていたって仕方が無い。僕は溜息を付くと、歩き出した。

どうせもっと大きくなれば、僕だって彼だって、慌しくこの都会を速く動く人々の一員になるのだから。

ならば、その光速のような日々が僕の元へ訪れるまで、ゆっくりとヒト本来のスピードで生きることにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

end.

 

 
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