【曹操 side】
周りのいたるところで剣戟の、兵たちの戦っている音が聞こえてくる。
ある者は目の前の敵をただがむしゃらに、ある者は無念を晴らすために、必死に剣を振るい戦っている。
「やあっ!はあっ!……それにしてもこの人形たち、斬っても斬っても全然減らないわね」
「えいやっ!……あら孫策、もう弱音を吐いているの?」
「まさか。まだいけるわよ。でも…」
「そうね、私たちは良くても兵たちは疲れが見え始めているわね」
地の利を活かした戦いで、私達のほうが敵を圧倒している。
しかし敵は司馬懿の傀儡、感情も無くただ襲い掛かってくる姿はまさに異形と言える。
恐れを知らず向かってくる敵に、こちらの兵は恐怖の念を感じている者も居るであろう。
そのような緊張状態で戦っていてはすぐに体力を消耗してしまう。押し返されるのも時間の問題であろう。
「何か、流れを変える一手が欲しいわね」
「そうね。でも今は目の前の敵で精一杯よ、策を施すにしても難しいわよ」
少し考えてみたが良い案も思いつかず、今は目の前の敵に専念しようと、そう決めた。
その時、谷の両岸に人影が見えた。
その影はみるみる増えてゆき、それが皆武器を持った兵であることに気がついた。
「我が戦友よ!この世界を消そうとする輩に、鉄槌を下す!
我が友のため、我らの世界のため力を貸してくれるか!!」
「「「おおおぉぉ!!!」」」
「良しっ!華雄義勇軍、突撃ぃぃぃ!!!」
戦闘に立っていた女性、華雄は丘の急斜面をもろともせず一気に下り、勢いそのままで傀儡たちにぶつかった。
後ろに続く兵たちも皆、恐れず丘を駆け下り傀儡を倒してゆく。
「華雄…?なんであいつがこんなとこに?」
「知らないわ。でも、これで流れを変えることができるわ」
実際に華雄軍の勢いを見てか、こちらの兵の勢いも復活したように感じられる。
敵に突撃し、蹂躙しながら華雄がこちらにやって来た。
「うむ?孫策に、お前は曹操ではないか!?」
私達に気が付いた華雄はおどいた様子で声を上げた。
「久しぶりね、華雄。ところであの兵たちはどしたの?」
孫策は片手を挙げ、まるで友達に話しかけるように気楽な感じで華雄に話しかける。
「ああ、あれは私の義勇軍だ!劉備のところ…今は蜀か…そこでお前たちと別れた後、私は大陸を見て回ろうと思い放浪の旅にでたのだ。
その途中で、山賊に悩まされている村に立ち寄ってな、私がそこの村の若者達を連れて退治してやったんだ。
それを機に各地の賊どもを退治して回るようになってな、それとともに兵が集まり、義勇軍が出来たというわけだ」
胸を張り誇らしげに華雄は今までの経緯を話した。
「……あなたも色々と苦労したのね」
真っ直ぐなところは春蘭に似てるわね。ちょっと脳筋っぽいけど。
「で、どうしてここに?」
「ああ、少し前に貂蝉という者が私達のところに来てな、司馬懿のことを話してくれたのだ。
そこで、少しでも戦力が必要だと思い、やってきたというわけだ」
「そう。でも、正直助かったわ。おかげでこっちの勢いが戻ったわ」
気力が戻った兵たちの勢いにより、周りにいた司馬懿の傀儡たちがみるみる砂へと変わっていく。
「それで、孫権は?」
「一刀は司馬懿のところよ」
私達は傀儡たちに後方、司馬懿と一刀が戦っているであろう方向を見た。
私達がこんなに頑張ってるんだから、必ず勝ちなさいよ、一刀。
【曹操 side end】
「へやぁっ!!」
「くうぅっ!甘い!」
思春の鈴音を弾き、司馬懿は体勢を立て直す。
「思春ばかりじゃないぞ!」
思春に注意がいった隙を逃さず、剣を突き出す。
俺の攻撃を自分の剣に滑らせるようにそらし、司馬懿は攻撃を躱す。
「まだだっ!」
「ふんっ」
俺の攻撃に司馬懿の気を逸らした隙に、思春は静かに背後に迫り、斬りかかる。
「くっ、気味の悪い奴め!」
「狼顧の相…俺の特技でねぇ。気配を消してもどこに居るのかすぐに分かる」
司馬懿は身体を俺の方に向けたまま真後ろの思春に顔を向け、つまり首をぐるりと後ろに回しながら思春をキッと睨みつけ、
「邪魔をするな、女!」
「ぐぅっ…」
剣を横に薙ぎ払い思春を吹き飛ばす。
とっさに鈴音で攻撃を防ぐも、その一撃に片膝を付きその場にうずくまってしまった。
司馬懿は強かった。決して舐めて掛かった訳では無いが、華琳の話から司馬懿は老人で弱々しい印象を受けたので、実際の姿が想像と違い驚いた。
「これでやっと、お前との戦いに集中できる」
「ふっ……じゃあ第2回戦、いくとしようか」
どちらからともなく前に出る。
「はあっ!!」「ふんっ!!」
剣と剣とが激しくぶつかり合う。
「俺の憎しみは、こんなものでは無いぞ!」
剣がぶつかるたびに、司馬懿からなんとも言えぬ憎悪がこちらに向かってくる。
最大限の憎しみ、突き刺さるような殺気が一緒にぶつかってくる。
これまで戦ってきた者達よりも力が強いわけでもない、技術が優れているわけでもない。
ただ、俺を殺そうとする気持ちだけはこれまで出会ってきた者の中で一番あふれている。
最悪の敵、それが今目の前に居る司馬懿であった。
だからと言って俺も負けるわけにはいかない。
これは俺だけの戦いじゃあない、この世界を――貂蝉の言う外史を――守る戦いでもある。
だから……
「ちっ、このままではキリがない。はあっ!」
司馬懿は
するとその人形はみるみるうちに周りに居る司馬懿の傀儡と同じような兵の姿となり、こちらに襲いかかってきた。
「なにを、悪あがきが!」
飛んできた傀儡を袈裟斬りになぎ払う。しかし傀儡のせいで一瞬、司馬懿を視界の内側から外してしまった。
「一刀様っ!」
鈴音を杖に立つ思春の叫びが後ろから聞こえる。
「そこだー!!」
「ぐっ……!」
横腹にくる強烈な痛み。
司馬懿の繰り出した剣が脇腹に突き刺さる。
「終わりだ!!」
司馬懿が俺に止めを刺すため、剣を振り上げる。
……守りたいものがある、だから、
「負けるわけには……負けるわけにはいかないんだ!」
その時、胸のあたりが暖かくなるのを感じた。
しかしそれも一瞬のこと。次の瞬間、
「うあっ!?」
「くっ!?なんだ!?」
俺の胸から強烈な光があたりに放たれた。
正確には貂蝉からもらった首飾りからその光は出ている。
突如光り出した首飾りは強い光を発しているものの、不思議と眩しくない。
しかしそれは俺だけのようで、司馬懿はその光に怯み、動きを止めた。
その隙を俺は、逃さなかった。
最短距離で司馬懿の心臓めがけ、剣を突き刺す。
「終わりだ、司馬懿!」
「…がっ!?」
司馬懿は俺の動作を察知したがすでに遅かった。
互いのいきが当たるところまで顔を近づけ、深く手に持つ剣を司馬懿の胸に差し込む。
「ぐっ……!貴様ぁ……」
俺を掴もうと司馬懿が腕を挙げる。
しかし途中で力だ抜け、ダランと垂れる。
「俺は…俺は消えても、お前を呪い続ける…この世界を…すべての外史を呪い続ける……」
司馬懿は足元からゆっくりと砂に変わり、風に流されてゆく。
「俺は認めない…外史の存在を…お前の存在を………ほんご…!!」
最後の叫びは聞こえず、司馬懿は砂となり消えた。
司馬懿が消えたことにより、周りの傀儡たちも一斉に砂へと変わりだす。
「「「…………」」」
一瞬の静寂。
「「「…うおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」」」
次の瞬間、兵たちの歓喜の声があたりを埋め尽くす。
生き残ったことを、勝利の喜びを兵たちは互いに讃える。
「俺達の、この世界の勝ちだ!勝鬨をあげろ!!」
「「「おおおおぉぉぉぉぉ!!!」」」
剣を高く挙げそう発すると、周りの兵たちも同じ様に各々の武器を空高く突き上げ叫ぶ。
ここに居る皆の願いが叶った瞬間、そう思った。
……だから俺は、次に起きた光景が信じられなかった。
「……っ!?」
「え?」
ドサリと、何かが倒れた音が聞こえた。
後ろを振り向くと、先ほどまで居た思春の姿が見えない。
いや居た。思春は地面に伏せていた。
「思春?どうしたんだ?」
呼びかけても返事がない。思春はピクリとも動かない。
「思春、思春!」
駆け寄り彼女の身体を抱える。何度呼びかけても返事がない。
「思春ー!!」
この日この外史は、正史から切り離された。
次回、真・恋姫†無双 ~君思うとき、春の温もりの如し~ 最終回
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あわわ、久しぶりの投稿だよぅ。忘れられてたら大変だよぅ。
……本当にすみませんm(_ _)m
第40話です、どうぞ!