機動六課のフォワード四人が、一度に二つの事件に立ち会った日の夜の事である。
「さて、あれとこれも買ったし後は、」
夜の闇のように黒い髪を長く伸ばした、少女のような容姿をした少年、以前ヴィータ達の前に現れた少年が買い物袋を持って人通りの少ない通りを歩いていた。
袋の中身を確認し、いざ家へ帰ろうとした時、
「あなたですよね、巷で噂のヤクザ狩りは。」
突如頭上から声が聞こえた。
「あなたで確かめたいことがあります。」
そこにいたのは仮面を付けた少女だった。
「………よく分かりましたね、足跡が残らないか、気を付けたのに。」
少年は少し考え込んだ後、こう言った。
「それで、確かめたいことって?」
少年は買い物袋を適当な場所に置くと、少女にこう訊いた。
「あなたと私、どちらが強いかです。」
少女はこう答えると、少年に装備を付けるように言った。しかし、
「そんなものは無いよ。」
少年はこう言って、構えを取るだけだった。
「っていうより、まだ子供じゃん。なんでこんな事をしてるの?」
少年が少女にこう訊ねると、
「強さを知りたいんです。」
少女はこう答えた。
「ああ、そうです…か!!」
少年はこう言うと、ほぼ全力に近い初速で少女に近寄り、キックの連打を放った。しかし、少女は見事なフットワークでそれをかわした。
(凄いな、俺の不意打ちを軽くかわすなんて)
「強さを知りたいってどういう意味だ!!」
少年がこう訊くと、
「言葉通りです、そして私はもっと強くなりたい。」
と、少女は答えた。
「だったらこんな問題行動してないで、真面目に練習してればいいじゃん!!」
少年のいう事はもっともである、だが、
「私の戦う意味は、表舞台にはないんです。」
少女はこう言って、鋭い突撃を放った。
(ちっ、速い)
それでも少年は、相手の攻撃の威力を逆に利用し、少女を投げ飛ばした。
「列強な王達をすべて倒し、このベルカの地に覇を唱えること、それが私の戦う理由です。」
投げ飛ばされた後、受け身を取った少女はこう言った。
(もしかしてこいつは?)
少年はこう考えると、
「改めて訊くけど、お前は”覇王イングヴァルト”か?!」
と少女に言った、
「はい。」
と、少女が言うと、
「なら竜王エイリーン、推して参る!!」
少年はこう言って、少女に飛びかかって行った。少女は迎撃しようと構えを取ったが、少年の方が途中で倒れてしまった、訳ではない。前転で少女の足の間をくぐると、腰を捕らえブリッジの容量で投げるプロレス技「ジャーマンスープレックス」をお見舞いした。
「このままでは終わりません。」
しかし覇王を名乗った少女も負けてはいない、竜王を名乗る少年をバインドで捕らえると、
「ベルカ時代の戦いはまだ、私の中では終わってないんです。」
こう言って、渾身のパンチを放った。
「覇王断空拳!!」
パンチは少年の腹部に直撃し、少年は大きくふっ飛ばされた。しかし、大技を喰らった後激しく動いた反動か、少女も気を失って倒れた。
「あーあ、ジャムパンつぶれちゃった。」
少年は大きくダメージを負ったようだが、腹部に仕込んだジャムパンで衝撃を和らげたようだ。少年が少女に近づくと、
「指一本触れさせないぞ!!」
建物の影から、耳がやたらと大きい白い生き物が出てきた。
(これは、テリアモンか)
少年は謎の機械を生き物に向けてこう言うと、とある住所を言って。
「そこにいけば、うまく保護してもらえる。お前みたいな生き物について詳しい奴がいるからさ。」
と、その生き物に言い残して、買い物袋を持って去って行った。その後、白い生き物は少女を担いで、言われた住所に向かっていった。
次の日である、
「まったく、昨日はあれ以来大きな事件が無かったから良いものの。」
タイキは朝一番からヴィータに説教されていた。昨日、いきなりぶっ倒れたことについてである。
「ヴィータ副隊長、そのへんで。」
新人四人も止めようとしているが、ヴィータは聞こうとしない。
「体の調子をしっかり整えられないようじゃ……」
時間的に、説教開始から30分になろうとした時である。
「あの、ヴィータちゃん。」
なのはがやって来た、
「あ、なのは、どうした?」
と、ヴィータが訊くと、
「実はタイキ君に会わせたい人がいるんだけど。」
なのははこう答えた。
なのはがタイキを連れて、問題の人物のいる部屋にやって来た。
「でもなんで俺に?」
こういうのは普通、部隊長である八神はやての役目じゃないのか、とタイキが訊くと、
「その人に同伴しているのがね、タイキ君に見てもらった方がいいタイプだから。」
なのはがこう言って扉を開くと、今まで寝ていた問題の人物は起きていた。そして、タイキと目が合うや否や、
「あー!!」
と、タイキと二人そろって叫んだ。
「工藤タイキ!!」
「えーと、パインアップル?」
「アインハルトです!!」
この様子を見ていたなのはは、
「あのタイキ君?もしかして知り合い?」
と、タイキに訊いた。
「えーと、この間出た格闘技の大会で俺に負けたらしく。それ以来雪辱を果たそうとこうして……」
タイキが答えて、
「っていうか、なんでここにいるんだ?」
と訊いた。
「僕が連れてきたんだ。」
すると、アインハルトの寝ていたベッドの影からやたらと耳の大きい生き物が出てきた。
「え、デジモン?」
「ちょ、テリアモン。」
タイキもアインハルトも驚いた、
「これで分かったでしょう、タイキ君に合わせた理由。」
なのははこう言って、制服のポケットから薄緑色のクロスローダーを取り出した。
「え、何時の間に?」
何時の間にクロスローダーを取られたのかと、アインハルトは驚きを通り越して慌てた様子になっている。
一方、部隊長の八神はやてはと言うと、
「うー、どうしよう。」
頭を抱えて困っていた。隣のフェイトも難しそうな表情をしている。何故かと言うと、明日やってくる査察をどうするかで悩んでいるのだ。
「どうしよう、うちはただでさえツッコミどころ満載なのに。」
はやての悩みの種はこれだ、自分たち機動六課はおろか下手すると管理局全体の戦力と同等の力がある軍隊を所有するタイキをどうやって誤魔化すかである。精鋭の集まりとはいえ、そんな規格外の戦力を持ち合わせていては、明らかな大目玉になる。しかも、その査察をよこすのはかのレジアス中将である。恰好の情報になってしまうだろう。
「うーん、何とかして正当な理由でタイキをここから遠ざけられればいいんだけど。」
フェイトがこう言った。
(事件を起こすわけにはいかないよね。そんな事したら査察が延期になる上、さらに大目玉だ)
フェイトがこう思っていると、
「フフフ。」
はやてが突然笑い出した。
(まったく、このタヌキ)
フェイトは心の中でこう呟いた。
「うち、ええ事思いついたで。」
はやてがこう言うと、
「ダメです!」
即答のタイミングでフェイトがこう言った。
「なんでや?うちはまだ何も言ってないで。」
はやてが文句を言うと、
「大方自分たちで事件をでっち上げてそれの対処にタイキを向かわせるか、自分がタイキをデートに連れて行くとかいうんでしょう。」
フェイトはこう言い放った。はやては少し考え込むと、
「なんでばれたんや?」
と言った。
(っていうか、当たったー?!)
フェイトが心の中で呆れていると、
「フェイトちゃん、今大丈夫?」
なのはから通信が入った。通信の内容は、昨晩保護した少女についてである。
なのはから、名前はアインハルト・ストラトス、ベルカ時代の王様「覇王イングヴァルト」の末裔であること、デジモン持ちである事、タイキと少なからず関わりがある事を訊いたフェイトが、
「分かった。」
と言って、通信を切った途端、
「閃いた!」
まるでタイキのようにこう言うと、ダッシュで部隊長室から出て行った。
そして、アインハルトは今も同じ部屋にいた。
(私は何をしてるんだろう。やらなきゃいけない事が沢山あるのに)
アインハルトがこう考えていると、
「もーまんたい。」
頭上のテリアモンがこう言った。
「ところでテリアモン、あなたが良く言う”もーまんたい”ってなんなの?」
折角なので、テリアモンの口癖について訊いてみた。
「気にするな、気楽に行こう。」
テリアモンがこう言うと、扉があいて八神はやてが入ってきた。
「気分はどうや?」
はやては部屋に入るや否やこう訊いた、
「まずますです。」
アインハルトがこう答えると、
「単刀直入に言うな、図々しいかもしれへんけど、今回の事を見逃してあげるから、うちの頼み聞いてくれんか?」
はやてはアインハルトにこう言った。
「それでなんですか?」
とりあえずアインハルトはこう答えた。このままいても事態は何も変わらないので、変化を求めてである。
「実は明日な…して、……してほしいんや。」
はやては自分のお願いを耳打ちで伝えた。その途端アインハルトの顔全体が真っ赤になったのは言うまでもない。
はやては、明日一日タイキとデートしてきてほしい、と言ったのだ。
そして次の日、いよいよ機動六課に査察が来る時間になった。当然今機動六課隊舎にタイキはいない、アインハルトが(半ば強引に)デートに連れてったからである。
「こないなぁ。」
はやては玄関に立ったまま、かれこれ30分待っていた。因みに時間では、本来の時間を15分過ぎている。
やがて、コートを着込み、帽子を被った少年がやって来た。
「初めまして、八神はやて部隊長ですね。自分は今回の査察を担当します、クラウド・クラウディウスです。」
少年はうやうやしく敬礼すると、
(本当はそちらの粗探しにきたんですけどね)
はやての手を取りながら、はやてにしか聞こえない小さい声でこう言った。
(なんやこいつ)
はやてはこう思った。自分自ら今回の目的を話すのは、何か裏がありそうだと考えたが、それを出すわけにはいかず。
「ところでお一人なんですか?」
と、訊いた。
「ああ、他の連中は道に迷ったようで。」
クラウドはカラカラと笑いながらこう言った、そして、
「まあそちらも忙しいでしょうし、こちらとしても早く帰りたいからさっさと済ませましょう。」
と、はやてに言った。
(ほんとうになんなんや、こいつ)
はやては完全に調子を狂わされた。
クラウドは、機動六課隊舎内を回りながら考えていた。
今回はレジアスより、絶対に教会やほかの連中を叩ける材料を持って来い、と言われているのだ。
(悪いけど、あんたの思い通りにはいかないぜオッサン)
クラウドが心の中でこう思っていると、ふと一つの部屋が目に付いた。
「あの、ところでこちらは?」
と、はやてに訊くと、
「ああ、ここは実験室です。今は使用中で、事件の重要なサンプルを調べてるんですよ。」
と、はやては答えた。
「その重要サンプルが何か教えては……もらえませんよね。」
クラウドは少し考えてこう言った、
「まさかとは思いますけど、この世界に存在しない生命体の体の一部とか言いませんよね?」
その途端、はやての表情が一瞬凍りついた。だがすぐに、
「まだ捜査中の段階なので、詳しい事の説明はできないんです。」
と、クラウドに言った。
因みに、クラウドの言ったことはあまり間違っていない。実験室内ではワイズモンとルーチェモンが、インペリアルドラモンの爪の欠片を調べているのだ。
「これは、」
爪の欠片を調べていたワイズモンは何かに気が付いた。
「これは特殊な力で一時的に増強された爪だ。おそらくは進化だろう。」
ワイズモンはこう分析したが、
「だが、いったいどんなデジモンが何の力を受けたんだ、これはタイキやキリハとは違う。」
最後にこう言った。
「それじゃあ、今日はこれで失礼します。」
査察も終わり、クラウドは最後はやてにこう言った。
(俺の本当の名はグランドラクモン。デジモンだ。今後ともよろしく)
そして、その場から去ってしばらく後、地上本部に連絡した。
「首尾はどうだ?」
「最悪に決まってるだろ。何もなかった。」
「何もないわけはないだろ。なにか怪しい捜査をしていたとか、」
「なかったよ。」
実際はバリバリあったが、とりあえず黙っておいた。
「んじゃ、俺はこのまま帰りますわ。」
「んな、ちょっとまt。」
相手の都合などお構いなしに連絡を切ると。ある場所へ向かっていった。
「それで、どうだった?」
査察が終わった後、フェイトははやてに訊いた、
「何だかな、完全に調子を狂わされた。なんなんや。」
はやては頭を抱えながら言った。
「とりあえずこちらの弱みは握られなかったはずやけど。実際はどうやろ、完全にこちらの事情を見透かされていた。」
はやては、査察中次々と痛いところをついてくるクラウドの様子を思い出しながら言った。
「さて、それだけど。」
クラウドは、繁華街にある中華店の一つに入ると、あらかじめ待ち合わせていた相手の席に座った。相手は、以前竜王を名乗ってアインハルトと戦った少年だった。
「そちらはどうだった、連中の内部情報は分かった。」
少年がかなり大盛りのラーメンをすすりながらクラウドに訊いた。
「まったくもってメチャクチャな部隊だよ。部隊長は経験浅い若者で、隊長も移籍じゃなくて貸出、部隊長の保有する戦力を除けば後は新人だけ。しかも期間限定のインスタント部隊。」
「いわゆる使い捨て?よくまあ部隊長もやる気になったな。少し問題起こせば即切り捨てられるのに。」
クラウドの説明を聞いた少年はこう言った。
「まあ、こいつ自信これも望んだ結果だと思うぜ。」
クラウドはこう言ったが、その後、
「しかしまあ、ろくな事は起こらないだろう。」
と言った。
カットマン
「カットマンと。」
モニタモンズ
「モニタモンズの。」
全員
「デジモン紹介のコーナ―!!」
カットマン
「さて、今回のテーマはメイルバードラモン。メイルバードラモンは戦闘機のような姿をした猛禽型デジモン。必殺技はエネルギー弾を発射する「プラズマキャノン」上空から敵に襲い掛かる「ナイトホーク」尾で攻撃する「トライデントテール」だ。」
モニタモンA
「普通のデジモンよりも頭がいいため、ただ格闘技が得意なデジモンよりも強いと言われていますな。」
モニタモンB
「常に冷静な性格で、上空から敵を狙う戦法が得意ですな。」
モニタモンC
「デジクロスを行うことで、メタルグレイモンの鎧を構成しますな。」
全員
「それじゃあまたね。」
次回予告
機動六課の査察中、タイキとアインハルトが何をしていたか。
次回、第十三話「タイキの初デート?」
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
第十二話 事を知る者