No.483503

ゲイムギョウ界の守護騎士

ユキさん

タイチは協会を出てから道に迷っていた。
そこですれ違う一組のカップル。このカップルの正体とは!?

2012-09-13 22:07:36 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1139   閲覧ユーザー数:1091

第22話 迫る悪意

 

「あ―――ここは....宿かな」

 

青年が目を覚ましたのは、宿にしては少しばかり気品さがある部屋であった。

とにもかくにも「どうしよう」っと考えがまとまらないばかりで、ベッドの上で鎮座しているだけであった。

それを10分ぐらいやっていると、勢いよく玄関の扉が開いた。

 

「うむ、やっぱりクレープはバナナにチョコだね!」

 

一人の銀髪の少女が両手にクレープを持って部屋に侵入してきた。

青年は慌てる事も無く、ベッドから立ち上がり少女の前まで移動する。

 

「起きたの!?えへへ、じゃあさ!早速デートしようよ」

 

「え!?」

 

青年は手に無理やりクレープを押し付けられ、少女にもう片方の手を引っ張られる。

だが、青年は少女を反射的に引っ張り返してしまった。

なぜ、引っ張り返したのかは本人にも分からない。

 

「きゃ!?」

 

「うわ!?」

 

青年が少女を後ろから抱きしめる絵になってしまった。

小さな華奢の体からはミルクのような甘いにおいがする。

ちなみにクレープは何とか無事のようだ。

 

「いくらだからって―――でもでも、あなたが相手ならエッチなこと我慢できるよ?」

 

「なっ!?違う違うから!」

 

青年は女の子から離れ、抗議の声を上げる。

そもそも記憶自体ないのに、こんな事をしている場合じゃない。

少女の姿を改めて向かいあって見てみる。小柄な体躯に、腰まで伸びた銀髪、神秘的な紫眼(バイオレット)、服は白のパーカーに丈の長いロングスカート。

100人に聞いたら100人がこう答えるだろう。「可愛い!!」と。もちろん青年もその100人のうちの一人だ。

 

「記憶が無いんでしょ?だったら思い出せばいいだけだよ!」

 

「いや、そんなに簡単にい―――君は僕が記憶を失う前の僕を知ってるの?」

 

「えーっと正確には知ってるのかな?いやでも私が知ってるのは昔の君で....わぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!とにかく、出かければいいんだよ!」

 

少女はそう言うと空いてるほうの腕を青年の腕に絡め恋人のような形にしてしまった。

さらに腕に抱きついてくるもので少女のけっして大きいとは言えない控えめな胸の感触が腕に当たってくる。

 

「分かったよ。―――って言うか君の名前は?」

 

「私の名前?ないよ、私に名前なんて」

 

「え?」

 

「だって、私は武器なんだもん」

 

「....そうなんだ。じゃあ僕が名前をつけてもいいかな?」

 

「私に、あなたが?それじゃあ、お願いしようかな」

 

「うん。任された!」

 

行ってみたものの青年は早速悩んだ。

自分から名付け親になるとは言ったけど中々そう簡単には決まらないものであった。

 

「とりあえず街に出てみよう」

 

「うん!」

 

少女の元気の良い声が返って青年の心を深く抉った。

(なんだ?僕はこの子の―――名前を知っているのか?)

知ってるはずなんだ、ただ何かが邪魔をして最後の扉が開かない。

そう、僕が思い出すことを拒絶しているかのような感覚。

少女が扉から出て行った後青年は壁に力強く拳を横にたたきつけた。

 

「くっそ!僕はいったい―――誰であって、彼女の名前は何なんだよ!!」

 

ズゴン!

 

派手な音が叩きつけた方向からしたので、横を振り向いてみると壁が粉砕していた。

青年はその事実から逃げるように、部屋を飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

タイチは協会から出るなり、早速道に迷っていた。

と言うか、宿の場所をアイエフに聞かず飛び出したため迷うのは当然の結果だった。

タイチは「とりあえず人波に流されてみるか」と言う結論に至り、思うがままに流されていた。

そのおかげで現在自分がどこにいるか完全に分からないでいた。

 

「はぁ~...どうすんだよ」

 

道のど真ん中で途方にくれる。どう見ても自業自得だ。

適当にあたりを見渡してみるが、あるのは喧騒な人々の声に、立ち並ぶ家々に、飲食店ぐらいである。

そんなこんなでボーっとしていると

 

「あなたは、さっきの旅人さんじゃないですか!!」

 

前方からついさっき聞いたような声がした。

人の波に流されていたタイチの前に現れたのはメイドの茶色で長髪な女の子であった。

一般的な女性と比べたら、少しとは言わず結構可愛い顔立ちをしていた。

(たしか、フィナンシエとか言ったよな...道案内でも頼むか)

 

「協会のフィナンシエさんだよね。俺、道に迷ったから「それは分かってますよ。アイエフさんに聞きました。タイチが迷ってるから探してあげてって」...そっか。なら、お願いするよ」

 

そう言うとフィナンシエは人波の中をタイチが来た方向に歩いていく。

どうやら、タイチの進行方向は宿のある場所とはまったくの真反対だったようだ。

 

そして、その背を追いかけること数分。

タイチは一組のカップルの横を通り過ぎた。

その瞬間背中に悪寒が走り、振り向いてみると既にその姿は人波に飲まれ見えなくなっていた。

 

「まさか、もう戻ってきたのか?」

 

まるで獲物を捕らえようとする鷹のような鋭い目をして、後ろから射抜いた。

だが、現状どうしようも無いという結論に至り、フィナンシエの後を急いで追いかけるのであった。

 

 

 

 

 

宿に着くなり、説教をもらうかと思っていたが、それはある出来事により打ち消された。

驚いたことに隅っこの宿の部屋と言うか、一室を分ける壁がぶち壊されていた。

被害はこちらには届いていなかった。

 

「しかし、変だね~....最近の敵といい、タイチのイケメンぷりっといい」

 

「最後の関係ないですよ、ネプテューヌ」

 

「あ、あいちゃん!壁にお薬塗ってくるです!!」

 

「チョイ待ち、コンパ。直るわけ無いでしょ」

 

この四人は自室で相変わらずだった。

フィナンシエは仕事があるとかで、すぐにどっかに消えてしまった。

タイチだけは宿のソファーでずっと帰ってきてから考えていた。

(破壊された壁の付近を調べたが....もしかすると、あいつもここに泊まっているのか?)

 

「タイチ。明日はどうする?」

 

いつの間に近づいたのかネプテューヌがソファーに座りこちらをのぞきこんでいた。

本人は気付いていないようだが、タイチのアングルだと服の合間から小さなふくらみが見えるのだ。

 

「おいおい、フィナンシエに聞いただろ。女神様に話をつけるために、色々とやらなきゃいけないことがあるんだよ」

 

目を逸らしながら質問に答える。

 

「まず、明日はフィナンシエの案内でモンスターの棲みかとされた裏道を使って協会に進入するのよ。そして、その後女神様にもう一度話をつけるの」

 

「分かったですか?ねぷねぷ~」

 

「コンパ。これは私達でもう一回説明する必要がありますね」

 

タイチとアイエフの説明をいまいち理解していないネプテューヌは適当にイエスを決め込んだ。

そんなネプテューヌを見逃さず、コンパとライカは再び説明をし始めた。

 

「善は急げだな」

 

タイチは誰にも聞こえないぐらいの小さな声で呟いた。

 

「セフィア、君の全てを貰いにいく」


 
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