家のカギをあけて中に入る。
当然のように誰もいない。
奈々子にとってはそれが普通なだが少しさびしくもある。
父親は今日は早番だと言っていたのであと一時間もしないで帰ってくるだろう。
奈々子は早速夕飯の準備に取り掛かることにした。
奈々子の家には母親はいない。
正確にはいたんだけど出て行った。
仕事が一番の父親に愛想をつかし浮気の果てに離婚という良くあるパターンである。
父親には不満もないし、自分を大切にしてくれているのだが
母親がいれば今日みたいな時に涙を流して心配してくれるのだろうか?
竜児の見返りを求めない優しさが不意に昔の優しかった母親と重なった。
奈々子はただただひき肉をこねていた。
下準備も終わり炊飯器のスイッチを入れて
ひと段落ついたところでちょうど父が帰ってきた。
「ただいま。あれ?まだご飯出来てないのか。めずらしいな。」
「しょうがないでしょ。今日事故っちゃって帰ってくるの遅かったんだから。」
今日も上司にぐちぐちと説教でもされたのだろう。
いつものようにしかめっ面だった父の顔が
みるみるうちに青ざめていった。
「事故って!?どうしたんだ?怪我ないのか。」
「事故って言っても未遂よ。クラスメートが助けてくれたの。」
「なんだ、それなら良かった。お前まで俺の前からいなくなったら俺は・・・・・・」
父も母が出て行ってなにも思わないわけがなかった。
だが奈々子がいたためいつまでも悲しみに浸っているわけにはいかないだけ。
奈々子はそんな父親の弱さも知っていた。
父は奈々子を失うのを極端に怖がる。
それは一人になりたくないという恐怖かもしれない。
それでも奈々子はそこに父の愛を感じていた。
だからいつものようにわらう。
「もうすぐご飯炊けるからそうしたらご飯にしましょ。今日も仕事お疲れさま。」
シャワーを浴びて着替えたりしているうちにご飯がたけたので
香椎家のちょっと遅めの夕飯が始まる。
その日のハンバーグは少ししょっぱいような気がしたが
今の奈々子には同じ食卓で父が笑っている、それで充分だった。
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11です。
大河との絡みはだいぶ後のほうになると思うので
そこらへんご了承願います。