竜児はいつのまにか奈々子の分の荷物を拾い集めてくれていた。
多分そのまま家まで持って行ってくれるつもりなのだろう。
正直言ってまだ体にうまくちからが入らなかったので
ここは竜児の好意に甘えようとおもった。
「そういえばなんで高須君はわざわざ戻ってきてくれたの?」
「ああ!どたばたして忘れるところだった」
そう言って竜児はポケットをごそごそとあさり一枚の紙を渡してきた。
「ほら、レジでもらった割引券。2枚あったのに俺が独り占めじゃ悪いからな」
「え?そんなのわざわざよかったのに・・・・・・」
「なに言ってんだ。俺が戻ってこなかったら今頃大変だったんだぞ」
「・・・それもそうね。ありがとう」
奈々子は嬉しかった。竜児が本当にそんな理由で戻ってきてくれたのだったら
少なくとも帰り道で私のことを考えていてくれたということだ。
奈々子はさっきまでの恐怖なんて忘れてとびきりの笑顔で竜児にお礼を言う。
しかしそれと同時に
奈々子と離れたくなかったなんて甘い台詞を期待していた自分に気付き
再び赤面してしまうのだった。
-竜児サイド-
奈々子「それもそうね。ありがとう」
思わずドキッとした。
竜児にはもう心に決めた人がいるのだが
他の女の子に興味がないかといわれるとそんなことはない。
竜児もお年頃の男の子なのだ。
(香椎って良く見ると可愛いな。こりゃクラスの中でもだいぶ上の方なんじゃないか?
それに大河と違って出るとこもちゃんと・・・・・・っていかんいかん。)
竜児にとって奈々子は自分に笑顔を向けてくれる数少ない女子の一人だ。
今までこんなふうに櫛枝みのり以外の女子にどきりとしたこともない。
自分でも気付かないうちに竜児の中の「香椎奈々子」が次第に大きくなりつつあった。
えてしてそんなふうに盛り上がった帰り道などというのは一瞬で終わるように感じるものだ。
「あっ、あそこがうちよ」
実際には15分ほどかかっているのだが5分のようにも1分のようにも感じられ
奈々子は少しがっかりした。
家に上がってもらってお茶でもと言おうとしたが
竜児がかのうやをでたあと急いでたことを思い出し言葉をのみこんだ。
「今日は色々ありがとうね。本当に助かったわ」
「気にすんなって。じゃあまた明日学校でな」
そういって走っていったところを見るとやっぱり急いでいたんだろう。
それでもここまで送ってくれた竜児の優しさが奈々子には温かかった。
いつもは帰ってこない「お帰り」のことも考えず鍵を回す奈々子だった。
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10です。
思ったより早く進められているので
もっと早く終わりそうですかね。
それではよろしくお願いします。