No.477058

魔法少女リリカルなのはDuo 13~14

秋宮のんさん

恋物語編

2012-08-29 16:08:41 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1233   閲覧ユーザー数:1194

第十三 龍斗とキャロ・ル・ルシエ

 

 龍斗の予想通り、高町なのはと合流したはやては、この後の事も考えて情報交換と、会議の様な物をしていた。今後の重要な話だろうからと、龍斗も参加しよう進言したのだが、管理局内の重要な話もあるとかで、一時締め出されてしまった。

 本当は最近戦い通しの龍斗を休ませようと言う彼女達の配慮でもある。

 そうとは知らず、暇が出来てしまった龍斗は、これ幸いとさっそくキャロと約束の買い物に出かける事にする。

「じゃあ、先に行ってるから、準備が出来たら町の広場に来てくれよ」

「なんでわざわざ外で待ち合わせるんです? もう少しで準備できますから一緒に行けばいいのに?」

 髪を梳かしていたキャロは、さっさと出て行こうとする龍斗を不思議そうに見る。その目はいつものように嫌悪などではなく、ただ純粋に疑問に思ったものであった。

「いや……、はやて曰く、何でも、女の子を誘う時は、外で待ち合わせするのが常識らしいんだ? あと、男は絶対に女を待たせちゃいけないとか……? だから、とりあえず先に行って待ってようかと?」

「はやてさんが? ……そう言えば、前もエリオくんと出かける時に似たような事を言われた気がします」

「やっぱそう言うモノなのかもね?」

「そうなんですね……」

 デートと言う意識のない二人には、こう言ったセッティングはただの疑問でしかないのだった。

 

 

「お待たせしました。まあ、待たせても全然罪悪感とかないですけど」

「一言多いよキャロ……。まあ、今回はお詫びだから、その毒舌が無くなるように努力させてもらうよ」

「別に嫌味で言ってるわけじゃないです」

「それはまた、……俺も随分嫌われて―――」

「わざと言ってるんです」

「相当嫌われてるのね、俺……」

 出てきそうになった涙を堪え、龍斗は仕切り直すように手を差し伸べる。

「それじゃあ行こうか?」

「あ、はい」

 差し出された手を咄嗟に掴んでしまったキャロは、直ぐにその事に気づいて顔を真っ赤にしてしまう。だからと言って握り返されてしまった今頃、手を振り払うのも気が引け、ついそのままでいてしまう。

(っと言いますか、なんでさり気無く手を繋ごうとか考えられるんですか? 普通恥しくないんでしょうか?)

 龍斗のナチュラルな対応に困惑気味のキャロは、その思考をいつも通り毒舌に変える事で精神の安定を図ろうとする。

(こんな風に女の子の手を簡単に握る人なんてナンパなんですよね!? そうです! そうに決まりです! そうと決まれば言ってやればいいんです!)

「りゅ、龍斗さん!? あの、手を………!」

「え? あ、ごめん。子供扱いみたいで嫌だったか?」

 今気付いたと言う様に目を丸くした龍斗は、あっさり繋いだ手を放してしまう。

「あ………、………」

 しばらく繋いでいた手を眺めて意味も無く開いたり閉じたりしてしまう。

 放せと言おうとしたのは当然自分だが、いざ放されると何やら名残惜しい気持ちが胸中を満たすのだった。

(私……、結局どうして欲しいんだろう………?)

 自分の気持ちさえ解らなくなってしまい、キャロは自分自身に自信を持てなくなり始めていた。

(私、本当はどうしたいんでしょう?)

 

 

 龍斗もキャロもデートをした経験は皆無だ。正確にはキャロは機動六課時代に周囲の人間からエリオとのデートプランを送られたのだが、その時は互いにそう言った意識はなかったためノーカウントと言えるだろう。

 龍斗はミッド辺境のとある村に居た時、同年代の女の子と親しくあったが、こちらもまた互いに男女としての意識はなかった。故にやはり彼にも経験はない。

 

「キャロ、この御店はどう? 可愛い置物とか一杯あるけど?」

「わぁ~~~っ! 可愛いです! 水晶玉の中でクマさんとウサギさんが遊んでます!」

「こっちは狐のぬいぐるみだって、どう?」

「これも可愛いですね! ふかふかで温かいです~~!」

「こっちのは羊のぬいぐるみ。べそかいてるから『べそメェ~』なんだって?」

「ぷっ! 名前まで可愛いんですね♪」

「………俺には今のキャロの方が可愛く見えるけどね?」

「……ッ!? きゅっ……! 急に何言ってるんですか……!?///////」

「ん、ああ……、だって、キャロは普段、俺にはそんな無邪気に笑ってる顔なんて見せてくれた事なかっただろう? それがとっても新鮮に思えてさ」

「そ、そうでしたけど………、つ、次行きましょう! 次っ! ////////」

 

「………龍斗さん? もういいですか?」

「ん?」

「そろそろ一時間くらい立ち読みしてますよ?」

「え? 嘘っ!? ごめん……!」

「なんで本屋さんに来たんですか?」

「たまには本とかもいいかと思ったんだけど………、キャロは楽しい?」

「私より龍斗さんが楽しそうです」

「すまん……。俺の暮らしてた所、あんまり本とか置いてなくてさ、欲しい知識を仕入れるのに苦労したんだよ。だから、こう言った文で説明されている知識を見ると、ついつい今の内に頭に入れようってしちゃうみたいで………」

「私も色々見たかったので良いですけど、何の本を読んでるんです?」

「『対人マニュアル』」

「………龍斗さん?」

「参考だから!? さすがに全部鵜呑みにはしてないから!? ただ知っておいて悪くないと思ってるだけだし!?」

「いえ、その………、いくらなんでも………なんでそんな本を読もうと思ったんですか?」

「ん、ああ………。キャロともっと仲良くなりたいと思ってるからだよ」

「………。………~~~~~~~~~~~~~っっっっっ!?!?!? ////////////」

「こう言うのは直接接した方が近道だってのは解ってるけど、………それにしてはいつまでもキャロと仲良くなれてないだろう? 嫌われっぱなしもなんだし、キャロが俺の事を信じてくれてるなら、俺もキャロに近づけるように努力してみようかと思って。………どうしたキャロ?」

「何でも無いですっ!? もう時間も押してまうすから次ひきましょう~~~っっ!? ////」

「キャロ? 所々噛んでるぞ?」

 

「そろそろお昼ですかね? 喫茶店にでも入りますか?」

「予約してる所あるけど、行くか?」

「用意いいですね………!?」

「当日になっていきなり、はやてが『このお店に予約入れといたから御昼はそこで食べてな♪』って言ってきた。予約料が勿体無いし、ここは温情に預かろう?」

「そうですね………。そう言えば前にエリオくんと出かけた時も似たような事があった様な………?」

「『エリオくん』?」

「まだ話してませんでしたか? エリオくんは私の同期で、家族みたいな人です」

「家族………」

「? どうしました?」

「ん、ああ………! 何でも無い。そっか、家族なら大切にしないとな」

「っ!?」

「? どうしたのキャロ?」

「い、いえ……! (あんなさわやかな顔もできるなんて反則です……!)」

「?」

 

「龍斗さん、何だか食べにくそうですね?」

「………箸を使いたい」

「お箸って、なのはさん達の次元世界特有の食器でしたっけ?」

「いや、そんなに詳しくないから解らんけど……たぶんそれ」

「レストランには置いてないと思います」

「内装とか優雅で良いんだけど、出来ればスプーンだけで食べられる食材を選びたかった……」

「ステーキを目の前に文句を言う人初めて見ました……」

「でも景色は良いよな? 高いだけあって眺めが良い」

「それはそうですよね。でも、こう言う所って夜景の方が綺麗だって、前にティアナさんが……」

「(誰?)……そうかもな。俺もそう思ったけど、夜はちょっと立ち寄りたい所あるから」

「? 龍斗さんが何か計画してるんですか? 傘を買わないといけないかもしれません」

「真面目な顔でさらりと酷いよ……」

「今の内に美味しい物を食べて、幸福を満喫します」

「理由に少し傷つく……。でも、そんなに美味しそうに食べられるとこっちまで嬉しくなるな」

「なんでですか?」

「『連れてきて良かった』って気持になるからだろう?」

「//////////// 流石に慣れてきましたもんっ………!」

「?」

 

 デートの経験など皆無のはずの二人は、それでもとびっきりに『デート』を満喫していた。

 それはもう、周囲の人間が「アレは絶対にデートだ。付き合い始めたばかりで、デートの仕方が良く解っていない二人でやる手探りのデートだ!」と、思うほどにラブラブオーラを全開にしていた。これが天然だと言うのだから恐ろしい………。

 

 

 一方、その頃居残り組は―――。

「………何故だか物凄く嫌な気分です」

 シャマルが壁を見詰めたまま黒いオーラを背中に纏っていた。

「な、なにっ!? シャマルさんに何があったのはやてちゃん!?」

「お、おぉっ、おち、おち、落ちつきいぃっ!? こんなんいつもの事やぁ~~!?」

「で、でもっ!? 今のシャマルさんには、何か出ちゃいけないオーラが出てる気がするの!?」

「任しときぃ!? あんなん収めるのは簡単や! 私は主やで!? ―――っと言うわけで頑張ってやシグナム!」

 初体験で混乱するなのはを宥めるのを理由に、はやてはシャマルの対処をシグナムへと任せる。

「私ですか……っ!? まぁ、そう言うのでしたら……」

 一応は主の命令に忠実なシグナムがシャマルへの説得へと向かう。

「いいかシャマル?」

「なに? シグナム?」

 本人はいつも通りに話しているようだったが、振り返った目にはまったく光が宿っていなかった。正直笑って聞き流す事ができそうにない類の物だ。それでもシグナムは強敵と対峙する面持で対抗する。

「少し気が立っていないか? 主の前と言う事もあるし、少しは落ち着いたら―――」

「私は冷静ですよシグナムゥ~~~~~?」

「………」

 全然そうは見えなかったが、光を写さない眼の奥に赤い球体が浮かび上がった様な気がして、それ以上何も言えずに戻ってきてしまった。

「無理です主。今のシャマルには湖の騎士を超える何かが宿っています。………正直勝てる気がしません」

「シグナムさんが勝てないって……!? 一体どれだけ危険な存在になってるの!?」

「アカンはもう………、キャロの険呑解こうと思って龍斗くんと二人っきりのデートさせたんが、こんな形に―――」

「デ~トじゃありませんよ……? 絶・対・に・ッ!?」

 突然振り返って真っ赤な眼光を飛ばすシャマルに、主のはずのはやては慌てて自分の口を手で塞ぐ。

「あの龍斗さんがそんな意識でやってるわけないでしょう~~? もう~、はやてちゃんはいきなり何を言い出すんでしょう~~? 少し頭冷やした方が良いんでしょうか……?」

「ま、待ってシャマル……!? それはなのはちゃんの台詞やで? 何か色々違うんと違うん?」

「待ってはやてちゃん? あの姿のシャマルさんを見てどうして私の台詞が出てくるの?」

「とりあえず……、龍斗さんに付いて勘違いが無いよう、今後の為にも皆とはよく話し合った方がいいわよね? 『皆で』?」

 次の瞬間、はやて、なのは、シグナムは、今までに感じた事のない本能に従い、無我夢中でその場を逃げ出した。それはもう、デバイスを起動させての本気の逃亡だった。

「うふふ……っ、三人とも……クラールビントのセンサーから逃げられると思ってるのかしらね?」

 それを見送ったシャマルは、ゆっくりとデバイスを起動させ、魔王を思わせる悠然とした動作で三人を追い始めるのだった。

 

 

 そんな事を露とも知らない龍斗達は、公園広場に来ていた。アイドルの野外ライブにも使われる事のある公園はかなり広く、ペットの散歩をさせる者や家族連れでピクニックに来ている者達もいた。公園の中心は熱射対策なのか、地面から霧を噴き出している。

 食事も終わり、お腹の膨れた二人は食休みも兼ねてこの公園にやって着ていた。

「キャロはこの後行きたい所ある?」

「そう言えば御約束の買い物が一つも出来てませんね? でも私、何か欲しい物があるわけじゃないんですよ?」

「それに付いては一応考えがあるけど……、何かあったら言ってくれよ?」

「そうですね。龍斗さんの考えなんてずぶ濡れ間違いないですし」

「さっきの雨ネタ、まだ引きずるか……」

 龍斗が苦笑いすると、キャロは可笑しそうにくすくすと笑う。

 両手を広げて小走りに公園の中心を駆け回り、霧と戯れるようにくるくると回る。翻るスカートがふわりと広がり、まるで踊り子が躍っているような美しい姿だった。

 キャロは公園の中心で止まると、一度くるりと周ってから笑顔を龍斗へと向ける。

「龍斗さん。私、ちゃんと楽しかったです」

「ん?」

「龍斗さんの事は……やっぱりまだ怒ってます。でも、今が楽しいって言うのは本当です! だから龍斗さんが心配する事なんてありません!」

「キャロ……、でも俺―――」

「解ってます。龍斗さんが私のために色々考えてくれてるの。……いえ、分かった、って言うのが正しいんですけど……」

 キャロは少し恥ずかしそうに俯いてから、照れくさそうに頬を染める。

「私も怒ってばかりじゃなくて、少しずつ龍斗さんの事知りたいと思うんです。だって、龍斗さんはちゃんと私の事見ててくれましたから」

 キャロは思う。

 龍斗さんは確かにエッチな人だと思う。だけど、それにも増して真摯だ。どんな事にもちゃんと目を向けて、真直ぐ向かおうとする。誰に対しても真直ぐ自分の気持ちをぶつけて行こうとする。変な絡めてで誤魔化そうとせず、嘘を吐きたくなくて変な誤魔化し方をして、自分の正しいと思う方向にしっかりと歩もうとしている。

 ずっと『嫌い』だって言う態度をとってきた私にも、龍斗さんはちゃんと理解して、仲良くなろうとしてくれていた。なんで意固地になってるのか自分でも解らないけど、それでも怒ってばっかりなのはよくない。だから、今度は私の方から歩み寄ろう。……っと。

 キャロは二歩前に出て、龍斗の正面に立つと、緊張気味に手を伸ばす。

「えっと……、私も何だかよく解ってないですけど、龍斗さんの気持ちは、解ってるつもりです。だから……、その、……改めてよろしくお願いします」

「……っ!? ///////」

 はにかんだ表情で握手を求めるキャロ。

 この時、こう言った事に疎い龍斗でもはっきりと自覚できる程、やられていた(・・・・・・)。

 自分を嫌っていたはずのキャロ・ル・ルシエが、あの自分にだけ態度ががらりと変わってしまうほど嫌っていた女の子が、今、仲直りしようと意地らしい姿を見せてくれている。こんな女の子の姿に、真摯に対応しようとし続ける男がやられないはずがない。

 不思議と滲んできた手の汗を、さり気無くズボンで拭い、自分でもビックリするくらい緊張した面持ちでキャロの手を握る。

 小さくて柔らかい、片手で包み込めてしまう手に、龍斗の鼓動は確かに強く高鳴った。

 それは、目の前に居る小さな女の子も例外ではなく、互いの目を見つめたまま、次第に頬を赤く染めて行った。

 その時二人の間には、確かに何かが生まれようとしていた。そう、もしかすると、この瞬間に、何か人生の分岐が生まれようとしているかのように……。

 次の瞬間、二人の胸が一層高まった時―――ばしゃりっ! と、二人は仲良く水浸しになって地面にこけた。

 見ると床の霧を噴き出すポンプから勢い良く水が降り出し公園の中心広場に水のアーチを創り出していた。

「……ここ、時間になると噴水になる仕組みだったのか………」

 真実を知った二人は水浸しで、地面に腰を下ろしたまま互いを見つめる。

「本当にずぶ濡れになっちゃったな?」

 龍斗が先程キャロが言った言葉を肯定して苦笑いすると、途端に耐えられなくなったキャロも噴き出し、二人とも声を上げて笑いあった。

 もはや何が可笑しいのか解らない様に、二人はともかく楽しそうに互いに笑いあった。

 あの瞬間に生まれそうだった何かは、結局なくなってしまったようだったが、それでも二人の間から余計なフィルターはなくなった様だった。

 

 

 日もだいぶ傾き始め夕方になろうとしていた頃、龍斗はキャロをとある場所へと連れて来た。

「ここは何ですか? 被服屋………じゃないみたいですけど?」

「まだキャロと会ってなかった時、この辺に来た事があってね。その時偶然見つけたんだ。……あの頃はもう少し寂れてたと思ったんだけど、なんか持ち直してるっぽいな?」

「一体何の御店ですか?」

「まあ、入ってみてよ?」

 龍斗はそう言うとキャロを連れて店内に入る。

「いっっらっしゃいぃませぇぇ~~~~~っ!! 御二人様ウェ~~ルカァ~~ッムゥッ!!」

 突然テンションの高い巻き毛の店員がオーバーアクションで現れた。

「帰ります!!」

「割と同感だけど待ってみようか!?」

 本能から逃げようとしたキャロを捕まえ、龍斗は店員へと視線を向ける。

「お久しぶりですフレンツェさん……、前に会った時よりテンションが上がりましたか……?」

 龍斗が訪ねると、オーバーアクションをしていた店員が、突然身体の力を抜いて、疲れた人間の顔になる。

「いやぁ~~……、前に来たお客さんが『テンション低すぎるから客が来ないんじゃないか? 腕はいいのだからいっそ、キャラを濃くしたら意外と売れるかもしれんぞ?』っと言って下さったので試したら……ふっ、意外と売れました……」

「売れたのにテンション低い!? って言うか急にテンション低くするの止めてくれ!?」

「承知しましたお客さぁまぁ~~~~~~~~~ッッ!!」

 再びオーバーアクションに戻った店員を見ながら龍斗は「これはこれでウザイ……」と心中言葉にできない思いを悩ませるのだった。

「あ、あの……龍斗さん? 此処で一体何を……?」

「ん、ああ……、そうだった。フレンツェさん。この子に例のモデルでお願いできる?」

「お任せ下さいませぇ~~~~~~~っ!!」

「なっ!? なんです!? 何されるんですか!? きゃぁ~~~~~~~~っ!?」

 

 

「ん! 想像以上に似合ってるな!」

「そ、そうですか……?」

 数分後、再び龍斗の前に戻ってきたキャロはいつも通りのバリアジャケット姿になっていた。いや、マントはそのままだが、内側の服が今までの導師服ではなく、和物の着物に変わっていた。

「……これって私達のバリアジャケットを変えたんですか?」

「ああ、それだけじゃなくてバリアジャケットも強度を増してるんだぞ?」

「そう言えば……、いつもと同じなのに防御能力が上がってる気がします?」

「このお店はバリアジャケットの研究をしていてね。おかげでバリアジャケットを着てない俺の服にも似たような効果を持たせてくれたんだよ」

「このお店にも驚きですけど、龍斗さんの服も細工されている事にも驚きです」

「良かったらこれ、着てくれないかな? 結局何も買ってなかったし、これが俺からのプレゼントって事で?」

「これがですか? ……はい、いいですよ」

 キャロは邪気のない笑顔を向ける。その笑顔に満足したように頷いた龍斗は、外の暗さを確認して、一人頷く。

「ちょうど時間も良さそうだ……」

「なんですか?」

「外出てみれば解るよ」

 そう言って龍斗は自然な流れでキャロの手を取ると、そのまま外へと連れ出す。

 外ではいつの間にかあふれた人で賑やかになっていた。

「な、何の騒ぎですか……!?」

「俺も詳しくは解らないけど、なんかお祭りみたいな事をやってるらしいぞ? 俺の知ってる祭りと違って、着物姿とか出店とかはないみたいだけど……、ちょっとしたイベントとかやってるみたいだし、御店もそれなりに出てるみたいだから、一緒に周ろう?」

「龍斗さん……、この為にこの時間まで待ってたんですか?」

 龍斗は答えず軽く笑って見せる。

 その笑みに少しびっくりしてしまう自分を感じながら、キャロは笑みを返して一緒に雑踏へと向かう。

 

 

 

 雑踏の中、御店を見て周ったり、イベントに参加してみたり、私は龍斗さんと一緒に楽しい事を満喫しました。それは本当に楽しくて、今が『時食み』の所為で大変な事になっているなんて思えなくなるほど楽しかったです。

 そのはずなのに………、私の中で、ずっと胸の内でもやもやしているモノは消えてくれない。これは龍斗さんの事を嫌いだったからもやもやするんだ。って思ってた……。でも、龍斗さんと仲直りして、こんなに楽しんだのに、どうして私はもやもやしたままなんでしょう?

 

 

「ちょっと時間遅くなっちゃたかな? 大丈夫?」

「私は全然平気です」

 帰り道、私は心配してくれる龍斗さんに答えながら、胸のもやもやに付いて考えっぱなしだった。

 これは、龍斗さんの傍に居る時、龍斗さんの事を考えた時、ずっと胸の中に現れた。龍斗さんにだけ感じる初めての感情だったから、私はこれが嫌いな人に対する感情なんだと思ったんです。でも、仲直りした今でもずっともやもや……、これって一体何なんでしょう?

「ん? キャロなんか歩きにくそうだな?」

「え?」

 突然、上の方から龍斗さんが声をかけてきました。

 それにつられて顔を上げようとしたら、爪先で地面を蹴ってしまい、つまづいて転びそうになった。何とか自分で持ち直したけど、龍斗さんが心配そうに見つめてきます。

「やっぱ歩きにくそうだけど、……もしかして、着なれない服の所為?」

「えっと……、そうかもしれません? いつもはもっと幅の広いスカートだったから……。慣れればなんて事ないと思います」

「そっか……、でもいきなり慣れたりはしないだろうし、疲れた帰りだと辛いだろう?」

「え?」

 龍斗さんがそう言った次の瞬間、私の体が宙に浮き上がりました。そして龍斗さんの顔がとっても近い位置に来ました。

 私は自分が抱き上げられたんだって事に気付くのに一瞬かかってしまい、大いに慌ててしまった。

「りゅりゅるりゅ……っ!? りゅるとさん!?」

「噛んでる噛んでる」

 苦笑いする龍斗さんの顔が直ぐ近くで、お姫様見たいに抱きあげられてる事が恥ずかしくて、心臓が早鐘になったり、顔が熱くなったり、私はもう……っ! 一人で大騒ぎですっ!?

「せっかく楽しんだ帰りなんだから、少し楽して帰ろうぜ? それに元々、今日はキャロに喜んでもらうためのお出かけだったんだし?」

 そ、そそそっ、そんな事言われてもっ!?

 勝手にドキドキしてしまう心臓に、私は混乱して上手く頭が回らず、何を言えば良いのか解らなくなってしまう。訓練でも経験した事のない程、激しく脈打つ心臓が破裂してしまうんじゃないかと思った。

「りゅ、龍斗さん……、重いでしょうから良いです! 私、自分で歩けます!」

「いいからさ……、俺がキャロを甘やかしてやりたいんだよ」

「はうぅ………」

 意味のない呟きを洩らしながら、私は龍斗さんに抱えられたまま帰り道を行く。龍斗さんの体温が直接伝わってきて、男の人の匂いまで解ってしまう距離に、ドキドキが収まってくれない。だけど、不思議と私はこの状況が嫌じゃなくて、なんだかとても心が落ち着いた。こうして優しく抱きかかえられていると、胸のもやもや霞んでいくようで………、

「ぁ―――」

 突然気付きました。

 気付いて私は顔中に火が付いたんじゃないかと言うほど熱くなった。

 そうか……、私……、

 

―――龍斗さんに恋していたんだ………。

 

 

 

「あの……、もうすぐそこなので降ろしてください……」

 自分達の止まっているホテルが見えてきたところで、抱えられていたキャロは恥ずかしくなって龍斗に告げる。

 頷いた龍斗は優しくキャロを地面に降ろす。

「えっと……、ありがとうございました……」

「大した事してないよ。殆どはやてとかに聞いたデートをまんま実行しただけだから」

「でも、最後のは龍斗さんが一人で考えた事なんですよね?」

「俺なりに何もしないのはおかしいと思えたしね。喜んでもらって何よりだよ」

「龍斗さん………」

 苦笑いを見せる龍斗に、キャロは今までとは違う感情を胸に抱く。

 不思議だった。それに気付かなかった頃はただ感情の勢いに任せて、訳も解らず怒る事しかできなかった。だが、いざそれに気づいて見ると、ちょっとした気遣い一つで簡単に喜怒哀楽してしまう。胸の奥が温かくなって、何かに締め付けられるような不思議な感覚に苛まれる。

「あの……、龍斗さん……」

「ん? なに?」

 知る事と知らない事は違う。知らない内は目標から逸らす事も出来たが、知ってしまった心は不思議なくらい感情が昂り、その想いを言葉にして伝えたくなる。突き動かされる感情に、幼いキャロは身を任せる事以外を知らない。強過ぎる想いのままに、彼女は勢いだけで言葉を紡ぐ―――。

「私……っ! 龍斗さんの事が―――!」

「ん?」

 真っ赤になって俯きながら何かを言おうとしたキャロに対し、龍斗は不穏な気配を感じて視線を逸らしてしまう。

 そして、龍斗は視線の先に有り得ないモノを見つけ、思考が一瞬フリーズした。それはもう、キャロが何かを言おうとしている事も綺麗に忘れてしまうほど。無理も無い事だ。なんせ―――、

 

 ―――なんせ何故か真っ赤な馬に乗って戟を持った長く黒い髭を生やした男が真直ぐ自分目がけて突っ込んで来るのだから―――

 

「………は?」

 ようやく龍斗がその一言を呟いた時、車の速度を超えんばかりに駆ける馬は、何の躊躇も無く龍斗を轢いた。

「ほぉぉぉん……っ!!?」

 当たり所が悪かったのか、妙な奇声を上げて宙に弾き飛ばされた龍斗は、きりもみしながら十メートル近く投げ飛ばされた。

「ほへ……?」

 過ぎ去る風に気付いたキャロが顔を上げ、そしてそのまま頭上に視線を上げて龍斗を視界に捉える。まるで独楽のように回転する龍斗の姿は、あまりにも冗談過ぎて現実味が無く、キャロも呆然と見る事以外出来ないでいた。そしてキャロ・ル・ルシエが見守る中、たっぷり五秒かけて地面に頭から着地した龍斗は、そのまま帰らぬ人となった………。

「勝手、に……殺すな~~~………っ、がくっ、………………」

「龍斗さ~~~~~~~んっ!!?」

 血溜に倒れた想い人の姿に、やっと正気を取り戻したキャロは、先程とは全く違う意味でドキドキしながら慌てて駆け寄る。

「おや? 誰か轢いてしまったかい? これはすまない! しかしっ! 走り出した赤兎馬は急には止まれない!! WAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!」

 遠くの方で馬の男が走り去りながら何か言っていたが、それに応える余裕は誰にもないのだった。

 その後、龍斗は何故か馬に轢かれて病院に送られた。っと言う妙な体験をする事になった。

 

 

 

 

 ………余談だが、先にホテルに帰ったキャロは、そこで何故かシャマルに掴まっているなのは達の姿を目撃し、一人こっそり龍斗の付き添いと嘯き逃げたのであった。

 

 

 

 

 

第十四・シャマルの恋心………

 

 昨日、思わぬ交通事故に遭ってしまった龍斗だが、何故か一夜で完全復活して退院してきた。

 そこまでは良かったのだが……。

「龍斗さ~~ん! 今度あっち行きましょう!」

 龍斗はシャマルとのデートの約束があったため、今、近くにある遊園地へと遊びに来ていた。本音を言えば、龍斗は一日ずらして貰いたいと思っていた。直ぐに回復したとはいえ、赤兎馬に轢かれて身体の心配が無いわけではない。念のため身体を休めておきたかった。だが……、

 

『え? なんです? 昨日はキャロちゃんとデートを満喫して籠絡しておきながら、私とはデートがしたくないって事ですか?』

『ろ、籠絡なんて人聞きの悪い……、確かに仲直りはしたけど……ね?』

『え、あ……っ、………////////』

 ダッ! ←(逃げた)

『え!? キャロ!?』

『………(ニコッ』

『しゃ、シャマルさん……? 笑顔が怖いです……?』

『………(ニコニコ』

『ヒィ……ッ!? さ、さっそく何処か遊びに行こうか!?』←(恐怖に負けた)

『はい! ここにちょうど、遊園地のチケットが二枚ありますよ♪』

『用意……いいんだね……』

 

 と言った経緯があって渋々遊びに来ていた。

「まあ、シャマルと遊ぶ事自体は嫌な事じゃないしな」

 そして、どう言った経緯であれ、嫌がらないこの男の性格が原因で、こうなったとも言える。

「さあ、龍斗さん! 今度はこれに乗りましょう!」

「いいけど……、絶叫マシーン?」

「こう言うのは思いっきり叫ぶのが気持ちいいんですよ? 龍斗さんもやってみては?」

「いや、俺はなんと言うか……」

(たぶんこの程度のジェットコースターじゃ叫べるほど驚けない………)

 変に肝の据わっている龍斗は、絶叫マシ-ンを前に苦い笑いを浮かべた。

 だが、隣で楽しそうにしているシャマルに付き合わないのも彼としては気が退け、結局一緒に乗る事にした。

 市内の遊園地の所為か、ジェットコースターは旧式のモノで二人乗りの座席に一本のベルトで腰を押さえられるだけと言うモノだった。係の人間にベルトを締めてもらい、少しずつ機体が坂を登り始める最中、ベルトを握っていたシャマルが心配そうに呟く。

「龍斗さん、このベルトなんだか緩くないですか? このままだとちょっと怖いかも?」

「そう? 確かにちょっと緩いね……? これって手動で縛る奴だから係の人が加減間違えたのかも? まあ、手動ならこっちで勝手に閉めてしまえば良いか」

 そう言って龍斗はベルトを弄り始める。多少勝手が違い戸惑ったが、無理なら諦めてしまうつもりだったので慌ててはいなかった。やがてベルトが留め金から外れる感触を掌に感じた龍斗は、そのままベルトを締めようとして―――ズルっ! っと、ベルトが思いっきり緩んだ。

「………」「………」

「ちょっ!? 龍斗さん―――っ!?」

「あれぇ~~~……?」

 次の瞬間、機体は坂を登り終え、急降下を開始した。

「きゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~っ!!?」

「おわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~っ!!?」

 

 ………………………………………………………。

 

 

「いやぁ~~~~……、思いのほか叫べた」

「わ、私……、生きてます……」

 ジェットコースターから無事に生還した二人はベンチに座って二者二様の感想を述べていた。

 ぐったりしているシャマルに対して、ちょっとびっくりした程度の龍斗は既に余裕顔でシャマルを労わっていた。

「悪かったな。締めるつもりで逆にもっと緩めてしまった……」

「絶叫って言うより、絶凶マシーンを体験した気分になりました……」

「すまんすまん……、お詫びに何か飲物買ってくるよ。紅茶でいいか?」

「あ、はい……」

 龍斗はそう言って立ち上がると、近くの自販機を探す。しかし、探す場所が悪かったのか、思いのほか手間取ってしまう。

「あれ? すぐ見つかると思ったのに……、どこだ?」

 自分の考えが甘かっただろうかと足を止めて考え込んでしまう。

 と、そうしていると、誰かの話声が聞こえてきた。

「ねえ、本気であの人に付いて行く気なの?」

「ああ……、最初はどうかと思ったが、アイツには将としての才がある様にも思える。それに他の者達も一緒に居る。問題ないだろう」

「そうだけどさ……」

「お前は不安なのか? なら残ればいいだろう?」

「いや~~、賭けに負けたからそう言うのも……ね? それに嫌ってわけじゃないし」

「そうなのか?」

「だってぇ~~♪ 何だかんだで優しいし、あんなに情熱的に説得されちゃ~~♪ 『俺には、お前以上に必要な奴は知らない』なんてさ~~~っ♪」

「………『お前以上に必要な』の後に『足をもった』と続いてたいた気がするが?」

 龍斗が視線を向けると、そこには青い短髪のボーイッシュな女の子と、銀髪に青い服を着た褐色の男が何か話し合っていた。

 何とはなしに耳を傾けてしまう龍斗。どうやら二人の会話は、誰かに何かのグループに誘われて、入る事になったお互いの真意を訪ねているようだった。

「あたしは沢山の人を助けたい。だから、あの人がやってる事は許せないと思った。でも、それって結局勘違いで、実際あたし達も酷い目にはあってなかった。……そりゃあ、精神的には参っちゃった人とかいるけど、それでも、過去の事件のどれに比べても、一番被害が少なかった。きっとあの人にはあの人なりに誰かを気遣ってるんだと思うんだ?」

「だが、奴は他人を傷つける事に躊躇が無いぞ」

「でも、約束は絶対に守ってくれる。ザフィーラもそう思ったから一緒に行くって決めたんでしょう?」

「どうだろうな……。俺は俺なりに、奴に惹かれるモノを見た気がするから付いて行くだけだ……。まあ、心配な奴がいるから主のために同行したと言うのもあるがな」

「じゃあ、決まりかな?」

「ああ、そもそも他の奴らも一緒なのだから、断っても仕方あるまい」

「それもそうかな? あははっ!」

 話が決まったらしい二人は、そのまま龍斗を通り過ぎて去って行ってしまう。二人を見送りながら龍斗は首を傾げた。

「今の男、なんか妙だったな?」

 龍斗は人より他人の魔力を感じ取る力が長けている。自分が保有する魔力が強大な分、身体がその魔力に耐えられるよう、進化した結果、身体器官に乗じ魔力を使用している部分があるのかもしれない。それが探知、察知、感知、と言った能力のいずれかに作用し、他人の魔力を探り当てる事が出来るのだろう。

 そんな龍斗が通り過ぎた男の魔力を感じ取った時、人が放つそれとは違う微妙な感覚を得た。

「まるで野性的と言うか……、まあ、俺もそんな違いが解る程、色んな人の魔力を選別して来たわけじゃないから、何かの勘違いかもな?」

 龍斗は確かに魔力を感じ取れるが、それはあくまで『魔力が有るかどうか』であって、魔力の質までは解らない。精々「このくらいの魔力を持った誰かが此処に居る」と、言い当てるくらいが限界だ。

「隣の女の子も魔術師―――此処じゃ魔導師だっけ? ……みたいだし、それ繋がりかな? まさか時食みと関連してるって事は………、考え過ぎだよな……」

 何でも感じた違和感を事件と結び付けていては切りが無いと、頭を振って思考をクリーンに戻す。

「今は魔力の感知より、自販機を感知する能力が欲しい……」

 そうぼやきながら龍斗が自販機を見つけたのは、それから十分後の事だった。

 

 

「む~~~~~……っ」

 頬を膨らませて怒った様に膨れて見せて不機嫌を表わすシャマル。彼女は別に龍斗が遅くなったから怒っているのではない。

 アレから休憩をはさみつつ、二人はそれなりにアトラクションを周った。

 

「龍斗さん、空中ブランコつまらないですか?」

「ん~~……、つまんない事はないけど、ただ回ってるだけだし……、これなら今は自分で飛び回って出来るしな~~」

「じゃあ、今度は別のに乗りますか? 急流滑りって言うのありますけど?」

「こんな小さい遊園地によく作ったな……。それなら楽しそうかな? 水被って何だかんだと騒げそうだな」

「はいっ! ジョットコースターの延長戦かもしれないですけど、真っ暗なトンネルから落ちるのはまた別の感覚ですよ! ……正直、しばらくジェットコースターはいいです……」

「はは……、水を被ると言ったら、この前シグナムとの特訓水辺を選ばれたんだよな~。最初はこの程度が何かと思ったけど、実際始めたら飛沫が視界を妨げるわ、足場が悪いわ、水に沈められた時は上手く動けなくて大変だったんだよなぁ……」

「……へぇー、そうですか」

「あ、あれ……? シャマル、なんか怒ってる?」

「いいえ別に。その沈められた時、周囲の水を吹き飛ばして無理矢理飛び出した結果、はやてちゃんの胸の中に飛び込んでしまって、二人仲良くびしょびしょになっていた事なんて思い出してませんよ~~」

「………すんませんでした」←(本能のまま頭を下げた)

 

 

「少しお腹が空かないか?」

「そう言えば……そろそろおやつが欲しくなる時間でしょうか?」

「そこに美味しそうなパフェ売ってるけど?」

「あはっ! ちょうど良いですね! 早速食べましょう!」

 ………………。

「ほい、お持ちど」

「ありがとうございます♪ あん………、ん~~……っ! 美味しいですね!」

「抹茶味があってよかった。俺も普通に美味しく食べられるよ」

「あれ? 甘いの苦手ですか?」

「苦手って言う程じゃないけどね……、甘いお菓子よりブラックコーヒーかな?」

「自然にパフェを進めてくるから、てっきり甘いのが平気なんだと思いました?」

「ん、ああ……、これはただ、昨日出かけた時、キャロが美味しそうに食べてたから……、女の子はこう言うの好むのかな? って思って―――」

「………(ぽいっ)」←(無言でパフェをゴミ箱に捨てる)

「いきなりなんでっ!? 食べ物は大事にしろよ……!?」

「いえ、何故かとてつもなくまずく感じた物ですから……(ニコッ」←(瞳光無し)

「………すまなかった」←(訳も解らず腰を折る)

 

 

「ミラーハウスか? これは中々……、解ってても進み難―――あ痛っ!?」

「くすくすっ、大丈夫ですか?」

「ううぅ……、プラスチック製の鏡なおかげで言うほど痛くないが……、こう、道があると思ってる所に壁があるって言うのは、結構来るなぁ~~……」

「知略と言うより目を養わされますよね? 二人で頑張って脱出しましょうね?」

「とは言え……、ここまで入れ組んでいると……―――あ痛っ!? ……くっそ~~~! なんかやっちゃダメだと解ってても壁抜きしたくなるな~~!」

「本当にしないでくださいよ? どうしても我慢できなくなった時は、私がクラールビントで―――」

「そう言えばはやてが言ってたっけ? 壁抜きはなのはの専売特許の一つだとか? はやてにも言われたし、一度なのはに訓練見てもらったらいいのかな? シャマルはどう思―――居なくなってる!?」

「一人でゆっくり迷ってください。出口はクラールビントのバリアで塞いでおきますので」

「他のお客さんにも迷惑だから止めようよ!? ってか、いきなりなんで怒ってるんだ!?」

「………―――」←(姿が見えずとも圧倒的な存在感を持ったダークオーラ)

「すんっませんでした~~~~~~っ!!」←(危機感に従い土下座)

 

 

「お化け屋敷とか……、シャマル苦手なの?」

「わ、悪いですか!? 女の子なんですから苦手でも良いじゃないですかぁ!?」

「いや、そんなに必死にしがみつくほど苦手なら、最初っから入らなければ良かったんじゃ?」

「こ、こう言うのは―――! 定番なんです! 入らないと損するんです!?」

「そう言うモノなのかなぁ~~……?」

「うぅ……っ、ううぅ~~……っ!」

「……。シャマルでこれだけ怖がるんだから、他の皆ならどれだけ怖がるんだろうな? シグナム辺りとか、なんか怖がってる所想像できないけど、ちょっと見てみたかったりしないか? シャマルは―――」

「…………………」←(無言の威圧により、獣の耳と尻尾が出ている錯覚を得る)

「何だか知らないけどシャマルが中の人繋がりの別な存在になった様な気がするっ!?」

「何の事ですかハクオ―――龍斗さん?」

「今名前呼び間違えた!? 確実に違う人の魂が宿ってるよねっ!?」

「そんな事より、ちょっと聞きたい事があるんですけど……?」

「な、なんでしょう?」

「今、もしかして私の事をお化けより怖いとか思いました?」←(本日最高値のダークオーラ)

「……っ!!」←(わき目も振らずに逃亡した)

 

 

 そんな成り行きで、現在彼女の不機嫌状態に至る。

 もう日も暮れ始め、夕方となり、周囲のお客は殆ど皆帰ってしまっていた。遊園地も閉鎖のために係員が動き始めている。

 龍斗は、どうしてシャマルが不機嫌になっているのか解らず、困った様に頭の後ろを描いていた。

「なあシャマル? なんで怒ってるんだよ? 教えてくれないとちゃんと謝れないだろう?」

「さっきは解らずに謝りまくってたじゃないですか……っ?」

 トゲのある言い方に、反論の言葉を飲みこんでしまう。

 せっかくキャロと仲直りできたと言うのに、今度はシャマルと仲違いしては意味が無い。そう悩みながらなんとかしようと言葉をかけるが、つい最近のキャロ同様、投げかけた言葉を全部トゲにして返されてしまう。

「シャマル……」

「知りません!」

 そっぽを向いて取り合わない彼女に、龍斗は溜息を吐きながら、どうしたものかと悩んだまま何もできなくなってしまう。

 正直に言えば、こちらが怒ってでも彼女に何かしらの意見を聞き出せればとも考えた。だが、それは彼女に対して酷なのではないかと思うと言い出せない。ならば粘り強く呼びかけるのはどうだろう? それはそれで普通に鬱陶しいのではないだろうか? だがしかし、いやそれでも……。そんな風に思考がループして、押す事も引く事も出来なくなっている。

「弱ったな……、こう言うのが女心か……? 後ではやてかキャロにでも聞いたら教えてくれるかな?」

 それは龍斗にとって小さく口の中だけで呟いたつもりだった。だが、周囲も暗くなり始め、人も機械の音も無くなり始めている静寂の中では、思った以上に大きな声となり、シャマルの耳に届かせるのは充分だった。

「どうしてそんな事言うんですか……」

「ん?」

 急に立ち止まったシャマルは、龍斗に背中を向けたまま険呑な声を出す。

「どうしてそんな事言うんですか?」

「いや、今のは……」

「今のだけじゃない、今日はずっとそうです!」

 俯いたまま振り向き、声を荒げながら一歩一歩彼女は龍斗に詰め寄る。

「遊んでる時も! 食事の時も! 休んでる時も! ずっとはやてちゃん達の事ばかりっ!!」

「お、おい……っ?」

 初めて見せるパートナーの険呑さに、どうしてもたじろいでしまう。

 何処か悲痛さも感じられる荒れた声は、その場から逃げる事を躊躇わせる。

「今日はずっと! 今日はずっと……っ!!」

 龍斗の正面まで歩み寄ったシャマルは思いっきり足を踏み鳴らすと、その勢いのまま龍斗を見上げ言いのける。

「ずっと隣に私がいるのにっ!?」

 荒げられた声は、確かに怒っている物のはずなのに、その瞳の端には痛々しい雫が溜まっていた。

「泣いてるのか?」

 意識せず、勝手に口が動いた。

「な、泣いてるわけじゃありません……」

 両目を掌で擦りながら、反論するシャマルは、今にも決壊してしまいそうなほど弱々しく見えた。

「私はただ……っ! 皆ばっかり見ないで! 私の事をもっと見て欲しいんです! もっともっと……っ! シグナムでもない! はやてちゃんでもない! キャロちゃんでもない! なのはちゃんでもない! ……一番最初に、アナタの隣に居たっ、アナタの傍に居た……っ! 私を……っ! 私だけを見ていて欲しいんです……っ!!」

 それはシャマルの告白だった。劣情に流された勢いばかりの、しかし真実彼女の心を全て曝け出した精一杯の告白だった。

 僅か静寂。

 永遠とも思える間、シャマルはずっと待ち続けた。

 悠久とも思える間、龍斗は考え続けた。

 龍斗は考え考え、思考を巡らせ、シャマルの言葉を必死に理解しようとした。

 思考を巡らせ、シャマルの想いを聞き受け、そして自分なりの答えを模索する。

「俺………、シャマルの事、蔑にしてたんだな……」

「………」

 シャマルは何も言わず、また背を向けてしまう。

 真摯に接しようとする龍斗の顔を見ていられなくなった様に……。

「ごめんなシャマル。俺、これからは気をつける。もっとシャマルの事を大事にするよ」

「それ、は……?」

 言葉だけで先を訪ねるシャマルに、龍斗は一度息を吸ってからはっきりと告げる。

「でもごめん。……シャマルだけを見る事は出来ない」

「………」

「俺は、自分の我儘で皆を此処まで引っ張ってきた。その筆頭がシャマルで、おかげで皆と恙無く協力してもらえた。だから感謝している。そして、申し訳なくも思っている。本当なら、俺が皆に協力して、時食み達を沈める手伝いをしないといけないんだ……。俺の勝手な理由で皆に協力してもらって……」

「………」

「俺が今皆に出来るのは……、皆に失望されない様に力を示して、そして、できるだけ皆の事をしっかり見る事なんだ」

「………」

「それを教えてくれたのは、シャマルだよ。シャマルが俺に怒ってくれたから、俺は自分がしなきゃいけない本当の事を知れたんだ」

「………私のおかげ……ですか………」

 シャマルは小さく息を噴き出すように笑いを洩らす。

「私の言いたい本当の所は伝わらないで、そんな事ばっかり解ってしまって………此処まで言われたら、私も我儘言えないじゃない……」

 シャマルは振り返らないまま俯き、何かに耐える様に肩を震わせる。

「これじゃあまるで……ピエロじゃない……っ」

「シャマル………」

 泣いているかのように肩を震わせるシャマルが、とても小さく思え、思わず手を差し伸べようとする。しかし、寸前のところでそれを思いとどまった。

 震える小さな肩は、何かを求めているようで―――だがそれは、今龍斗がしようとしている物とは違うようで、行動に躊躇われた。

 恋する少女の想いに気付けない龍斗には、悔しさから震える乙女心を包み込む事は出来なかった。

 もしこの時、龍斗が彼女の想いを理解し、抱きしめる事が出来ていたなら………あるいは別の可能性もあったのかもしれない。

 結局龍斗は何もできず、二人距離を放したまま帰る事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

・Aria

 

 好きだって解ったのは最近の事だった。

 でも、その感情がここまで激しい物だったなんて知らなかった。

 込み上げる想いが暴走気味で、まったく制御なんてできない。

 幸いしたのは、私の大切な人達に嫉妬しなかった事だろうか?

 私の大好きな人達を、疎ましく思わなかった事……、それは私にとって大事な事だ。

 なのにどうして……、私はこんなに嫌な気持ちになるのだろう?

 

 

 全部あの人が悪いんだ……。

 全部あの人が気付いてくれないから………。

 

 

 それって変なの……。

 好きな人の所為にするなんて……。

 

 

 でも……、

 この思いは……何処かに吐き出してしまいたい。

 思いっきり、気兼ねなく誰かにぶつけて、そして私の想いをともかく肯定して欲しい。

 肯定して、私を認めて欲しい。

 ともかくこの想いを、誰かに理解してもらいたいんだ……。

 気の迷いだろうと何だろうと構わない。

 私の全てを吐き出して、それを受け止めて欲しい

 

 

 そしたら私も、もっとあの人に………ちゃんと伝えられたのだろうか………?

 

 


 
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