No.476865

魔法少女と錬金術師(キュウケツキ)

それから数年後。

新たな命が芽吹き、物語は始まる。


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2012-08-29 00:24:02 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1784   閲覧ユーザー数:1768

~第一夜 錬金術師、異世界に消える~

 

 

 

薄暗い部屋。

 

部屋は小さな図書館に実験室を入れたような有り様だ。

 

辺りにはフラスコやビーカーなどの実験器具、分厚い本やファイルなど様々な物が散乱している。

 

そんな中で、小さいデスクにスタンドライトだけを点け、羽ペンを動かしている紫色の短髪の少年の姿があった。

 

彼は手元にある用紙に何かを綴っている。

 

と、手の動きが止まり、大きく伸びをした。

 

 

「ふぅ、やっと終わりました。全く、論文は疲れるのでやっぱり面倒です」

 

 

なんて、丁寧な愚痴を漏らす。

 

彼の名前は遠野伊織(トオノイオ)、また彼が現在いる場所ではイオン・エルトナム・アトラシア。

 

正確にはイオン・エルトナムなのだが。

 

現在10歳だ。

 

彼がいる場所はアトラス院と呼ばれる場所。

 

その施設内部の彼の……否、正確には“彼ら”の個人研究スペースだ。

 

彼らとは主に彼の両親と彼のこと。

 

だが、そこには伊織の姿しかない。

 

 

「やれやれ、幾ら研究の為とはいえ、子供をこんな穴蔵に置いていきますか、普通。仲慎ましいのは良いことですが、少しは俺の事も気にしてほしいものです。」

 

 

ま、お二人で行ってきてくださいと言ったのは俺ですけど、などと自嘲を口にする。

 

本当に10歳の少年か怪しいほどだが、彼は10歳である。

 

着ていた白衣を脱ぎ捨て、白のシャツに黒いジャケットと黒いズボンを着込んだ彼は窓際に寄る。

 

外は激しい雨が降り注いでいる。

 

 

「今夜は夜通し降りそうですね。

となると、父さん母さんの帰りは明明後日ですかね。」

 

 

と、彼はほぼ予言に近い予測をした。

 

それが彼の領分であるからだ。

 

彼にとって、予測はお手の物。

 

予測こそが、彼の立ち位置を決めているのだ。

 

 

 

 

 

 

アトラス院、三大部門から成る魔術協会の一つ。

 

アトラス院は主に錬金術を使用する。

 

アトラスの錬金術師は、魔術師が『魔術回路』を『根源』につなげ理想の未来を現出させるのに対し、回路に乏しい為頭脳のみで未来をつくる。

 

彼らは『魔術回路』の変わりに『高速思考』と『分割思考』を駆使し、日々未来を計測している。

 

 

 

 

 

 

 

その中で、彼は母親と同じ『アトラシア』という称号を預かった。

 

称号だけではない、同じくして教官の資格を貰った。

 

アトラスを冠する錬金術師は、学院における代表と同意である。

 

つまり、彼は天才だった。

 

嘗てエルトナムの名は『ある者』によって没落貴族とまで呼ばれていたが、彼の母親と彼の代でその汚名も消えつつある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、夜が明けるまで何をしましょうか」

 

 

10歳の少年だが、既に夜更かしする気満々の伊織。

 

年齢相応な部分もあるようだ。

 

彼の父親がいたら何て言うだろうか。

 

彼はデスクの脇に置いておいた母親から譲り受けた金の腕輪など何時もの装備を身に付け(その中には何故かナイフもある)、部屋を出る。

 

彼が向かった先は書庫。

 

自分達の研究スペースにある本なんてたかがしれてる、と結論し彼はそこへ向かう。

 

知識を得る事には旺盛な彼は子供には珍しい勉強好きだ。

 

世の子供達が皆彼のような子供達なら、世の中は更に発展しているだろう。

 

因みに学院内は制服着用義務があるのだが、アトラスの紋が入った私服で学院内を歩き回るのは、彼の地位の高さ故なのだろう。

 

書庫に着いた伊織は、早速本を漁り始める。

 

書庫はかなり広く、球場と同じくらいだろうかという程である。

 

とても1日2日で読み終われない蔵書量は、知識を得るには事足りなかった。

 

夜更けという事もあり、書庫内には誰もおらず(正確には閲覧者が)、書庫内は更に広く感じられる。

 

かなり奥の方まで歩いてきた伊織は、足下を見て足を止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何でしょうか、これ?」

 

 

俺が拾い上げたのは青い宝石。

 

誰かの落とし物だろうか?

 

しかし、何でまたこんな場所に宝石を持ち込んだのだろうか。

 

全く、所有物の管理ぐらいきちんとしてほしいものです。

 

と、次の瞬間宝石が光り出す。

 

まるで何かに呼応するように。

 

咄嗟の事で分割思考が展開される。

 

――危険、得体の知れないエネルギー放出を確認

 

――放棄を推奨

 

――却下、既に手遅れ

 

――次なる打開策を――

 

一瞬にしてそこまで思考したが光に呑み込まれ、光が収まる頃そこには誰もいなかった。

 


 
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