No.469951

おや?五周目の一刀君の様子が……12

ふぉんさん

どうぞ。

2012-08-14 13:30:02 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:12188   閲覧ユーザー数:10000

張飛を捕えたその後、右翼は案の定華雄軍が圧勝した。

左翼も斗詩達の援護甲斐無く張遼の活躍により大勝。

中央の呂布は抑えられ、均衡したまま。

流石の呂布も星と関羽の二人には手を焼いたらしい。

 

「やるじゃないあんた」

 

軍議の場。一通り戦況を伝え終え、賈詡が俺に労いの言葉をかける。

銀華のいない右翼を勝利へ導き、劉備軍の将を生け捕った。

自分で言うのもなんだが、素晴らしい功を上げたな。

 

「この戦が終われば、正式に将に取り立ててあげても……」

 

「まだ勝てるかもわからんのに、終わった後の話なんて意味が無いだろう。初戦をうまく捌けただけで浮かれてるのか?」

 

「なっ!そんなこと……」

 

一瞬、怒りに顔を赤くした賈詡だったが、すぐに表情を変え冷静になる。

 

「そうね、今するべき話ではなかったわ。それじゃあ明日の事だけど……」

 

と、明日の戦での戦略を伝え始めた。

まぁ、浮かれる気持ちも分らなくは無い。

初戦を大勝で収められたおかげで、戦の流れはこちらにある。

賈詡の考える未来にも、希望が見えてきたのだろう。

だが、油断は許されない。

相対的に見てまだこちらの劣勢は覆せていない。

斥候の報告によると、明日に出陣する軍は曹操軍と袁術軍。

曹操軍は兵一人一人の錬度が高いらしく、袁術軍客将孫策の持つ軍も、精鋭揃いと聞く。

 

「……儘ならないな」

 

このまま勝てるならいいが、そううまくもいかないだろう。

保険があるにはあるが……少し計画を早めるか。

「うー、早く解放するのだー!!」

 

洛陽の牢獄。後ろ手で縛られ頭に包帯を巻いた張飛が何やら喚いている。

 

「よう。元気してるか」

 

鉄格子を挟み相対する。

張飛は俺の顔を見ると、鋭い眼光で睨んできた。

 

「……鈴々を解放するのだ」

 

「できるわけないだろ。お前は俺と戦って負けて、捕虜になった。選択できる道は二つ。降るか、死ぬかだ」

 

「なら殺すのだ」

 

迷いなく、即答される。

 

「董卓軍に降るくらいなら、死んだ方がましなのだ!!」

 

何故張飛はここまで董卓軍を毛嫌いしているんだろうか。

……あぁなるほど。董卓軍が暴政を働いているという偽報を鵜呑みにしているわけか。

 

「なら、話をするか」

 

見張りの兵から鍵を受け取り退室させ中に入る。

張飛のすぐ近くにしゃがみ目線をあわせた。

眼前にある張飛の眼からは、ありありと敵意が読み取れるが、気にせず俺は話し始める。

 

董卓は暴政を行っていない事。

権力争いに巻き込まれ、結果諸侯の妬みにより捏ち上げられたこと。

むしろ、大義は連合ではなくこちら董卓軍にあるということ。

 

全てを話し終えたが、張飛の表情は変わらない。

 

「そんな嘘で、鈴々は騙せないのだ」

 

聞く耳持たずか。できれば使いたくなかったが、そうも言ってられない。

計画の通り張飛を動かすには、これしか手はないだろう。

 

「そうか。なら……」

 

張飛の顎をとり、正面へと向けさせる。

 

「これでもか?」

 

言葉と共に唇を奪う。

瞬間、星の時と同じくある光景が脳裏に浮かんだ。

活気のある大通り。両手を広げ楽しそうに微笑む張飛が、俺へと振り返る。

 

『鈴々はみんなが幸せになるために戦うのだ』

 

何気なく、当たり前のように言った言葉。それが張飛の行動理念……信念なのだろう。

頭を巡る一昔前の日々。

あぁ、この信念を貫き通す張飛の強さに、俺は何度も支えられたんだな。

 

『だから、鈴々も幸せでいいよね?』

 

『もちろんだよ。鈴々が幸せでいてくれないと、俺が困ってしまう』

 

俺は張飛を真名で呼び、頭を撫でる。

 

『ずっと、幸せでいてくれよ……?俺の隣で』

 

『心得たのだっ!』

 

臭い台詞を吐きやがる。

そう自分自身に毒を吐くと。急に目の前がフェードアウトした。

「ッ」

 

気が付けば、地面に寝ていた。しかも上には張飛が乗り、顔を俺の胸へ擦り付けている。

 

「お兄ちゃん……お兄ちゃんなのだ……」

 

涙を浮かべ嬉しそうに微笑む張飛に、俺は鼻白む。

星の時と同様、俺に蜀の記憶は戻っていなかった。

ただ、蜀で張飛とどのように過ごしていたかなどが思い浮かぶため、星の時よりは記憶が戻っているのだろう。

 

「何でいなくなったのだ……鈴々は、お兄ちゃんがいないと幸せじゃないのだぁ……」

 

いやいやと首をふる張飛の両肩に手を置き、距離を取る。

 

「俺には、蜀でお前たちと過ごした記憶が無い」

 

張飛の表情が固まる。

少し、胸が締め付けられるような感覚に陥るが、話を続けようとする。

が、その前に張飛が口を開いた。

 

「それでも、お兄ちゃんはお兄ちゃんなのだ」

 

その台詞に、俺は訝しげに眉を寄せる。

 

「お姉ちゃん達との事を覚えてないのは、すっごく悲しいのだ。でも、鈴々はわかるのだ。お兄ちゃんは、あの時のお兄ちゃんと変わってないのだ」

 

やはり予想通りの返答。

 

「ならわかるな、俺が言った事が本当だと」

 

「うん……分かってるよ。月を助けなきゃいけないのだ」

 

先程とは正反対の返事が返ってくる。

前の世界と同じ状況ってことがわかったようだ。

 

「……この後の扱いは追って通達する」

 

そう言い立ち上がると、張飛は悲しげに瞳を潤ませる。

舌打ちし、張飛の頭を少し乱暴に撫で、牢を後にした。

 

「ッ!!」

 

壁を殴る。

顔を俯かせ思い返す。

張飛の悲しげな表情を見ると、胸が締め付けられた。

去り際の表情を見かね頭を撫でた。

以前の自分では考えられない事。

体の内から、自分が自分でない何かに侵される感覚。

記憶を呼び戻す際、こんな副作用みたいなものがあるとはな。

 

「……俺は、北郷一刀だ」

 

静かに自分の名前を紡ぎ、歩き出す。

計画は順調。あとは張飛にまかせるだけだ。

俺は自分の仕事をするとしよう。

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
54
3

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択