ついている。
鋭く睨む張飛を見て、俺は小さく呟いた。
張飛は猪々子や斗詩より強いだろう。
だが相手にするならば、張飛一人の方がまだやりやすい。
二人相手では単純に手数で押されるだろうからな。
「ま、待てよ!あたいらは一刀に用があるんだ!!」
「お姉ちゃん達の事情何て知らないのだ」
張飛は聞く耳を持たない。
緊迫した雰囲気の中、斗詩が小さく溜め息を吐いた。
「文ちゃん。ここは退いて右翼の援護に行こう」
「斗詩!?何で……」
「ここで味方同士啀み合っても仕方ないよ。早く右翼に行かないと」
流石斗詩だな。
左翼では張遼が雑魚相手に無双しているだろう。
俯いた猪々子は数秒唸り、顔を上げ、叫んだ。
「うがーー!!一刀!負けんなよ!!」
「……あぁ」
敵に向かってその言葉はどうかと思うがなぁ……
猪々子と斗詩は後退し、姿を消した。
残ったのは俺と、先程から体勢を変えず武器を構える張飛。
「劉備が一の家臣、張翼徳なのだ」
「北郷だ。子供は嫌いじゃないが、戦いにおいては容赦しないぞ」
「鈴々は子供じゃないのだーッ!」
言葉と共に、自身の数倍はある武器を振りかざし俺へ襲い掛かる。
一歩下がり避けるが、蛇矛は地面すれすれで停止し、真っ直ぐ俺へ向かってきた。
縦薙ぎからの突き。迫る蛇矛を剣を振り右へ弾く。
捌いたと思いきや、張飛は弾いた蛇矛の勢いをそのままに一回転する。
反撃に一太刀入れる前に、左から豪撃が襲った。
「ちぃ!」
刃先を下に向け両手で受け止める。
が、咄嗟のため踏ん張れない。
「うりゃぁああ!!」
張飛はそのまま蛇矛を振り切った。
両足が浮き、体が空中に投げ出される。
急場での防御にしたってそりゃねぇだろッ!
背中から無様に着地。後転一回から両足で踏ん張り無理やり勢いを殺した。ホッとしたのも束の間、しゃがんだまま剣を振る。
刃が交差し、大きな金属音が響いた。
なんとか追撃を防いだが、鍔迫り合いに持ち込まれた。
ガリガリと耳障りな音が鳴る。
体勢が体勢なだけに満足に力が入らず拮抗せず押し込まれる。
身体事振りぬかれる前に、刃を寝かせ斬撃を逸らした。
真横に振り下ろされた蛇矛。好機と反撃に移ろうとするが、思い直し距離をとる。
張飛の武器、丈八蛇矛。
脅威なのはその武器の長さ。俺の持つ剣では間合いが違いすぎる。
しかも張飛自身の膂力の高さから、振りが大きいにも拘らず隙というものがない。
どうしたもんか……
荒れた息を整えながら考えをめぐらせる。
打開策が無いことも無いが……これは腹を括るしかないようだな。
張飛は再び武器を構えた。
剣を両手に持ち直し、上段に構える。
横撃への備えは皆無。しかし、張飛に勝つにはこれしかない。
「うりゃりゃー-ッ!!」
先に動いたのは張飛。
駆け出し構えた蛇矛を横に薙ぐ。
俺は張飛が駆け出した瞬間、大きく一歩前進し渾身の力で剣を振り下ろした。
鈍い音が重なる。
張飛の一撃は俺の脇腹へ食い込んできた。しかし、俺が前進したため刃ではなく柄が。
そして俺の一撃は……
「ぐ…うぅ……殺す気で、振り切ったん、だが…な……」
武器を手放し、地に倒れこむ張飛。
俺の剣は張飛の額に裂傷を刻んだだけだった。
振り切れなかったのは、恐らく鍔迫り合いのとき刃が潰れたんだろう。
だが衝撃を頭のみで受けたんだ。気を失うのは当然だった。
周りの蜀兵は慌てふためいている。
まさか張飛が負けるとは思っても見なかったんだろうな。
鈍い痛みを放つ腹部を無視し、声を張り上げる。
「劉備軍が将張翼徳!この北郷が討ち取った!!」
次の瞬間自軍から鬨の声が響いた。これで士気は申し分ないだろう。敵将の居ないこの右翼、俺が居なくても圧勝できるはずだ。
無理をしたせいで視界が一瞬暗くなり、足がふらついてしまう。
一撃もらっただけでこの様か……
部下に張飛の捕縛を指示し、俺は洛陽へと戻った。
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うーん。五月病っぽいのが発病して何もしないでだらだらする時間がかなり増えてしまっている……