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Fate/anotherside saga~ドラゴンラージャ~ 第三話『奇妙な村』

質問 『夏に一番上手いものといえば?』
答え 『飲み物!』

というわけで、第三話です。
今回は拓斗とネロが原作の主要舞台(というほど出てきてもないかな?)に到着します。

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2012-08-08 12:26:22 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1509   閲覧ユーザー数:1477

 

 

 

 

欠点は、表面に浮かんでいるわらのようなもの。

真珠を求めるなら、深く潜れ。

――ジョン・ドライデン

 

 

 

 

 

✞       ✞       ✞

 

 

 

 

 

 

「お、どうやら森を抜けたようだぞ、タクトよ」

「意外と早かったな。もっと時間がかかると思っていたけど」

 

 

しばらく歩くと、あっさりと俺達は森を抜けることができた。

コードキャスト――view_map( )のおかげで迷うことなく最短ルートで歩くことができたということもあるが、元々めがみが出口に近い場所に俺達を飛ばしてくれていたのだろう。

 

 

「ラッキーだな。ちょうど人の住んでいるところに出たみたいだ」

 

 

森を抜けた先には村が広がっていた。

豊かな自然の中にあまり多くない民家がポツポツと点在しており、その周りには畑や牧草地のようなものが広がっている。

一見するとのどかな田舎の村って感じがする。

 

 

……だけど。

 

 

「どうやら普通の村ではないようだな。妙な雰囲気を感じる」

「ああ、俺もそれは感じている。温かく、穏やかとしている雰囲気なのに、それと同時に冷たく、殺伐とした空気も感じる」

 

 

見た感じでは別に異常(おかし)なところはどこにもない。

だけど、ただの村にしてはあまりにも空気が重苦しい。

どうする?

ここには寄らないべきか?

この世界のことをなにも知らないのに、こんな得体のしれない村に入っても大丈夫なのだろうか?

 

 

「ふむ。どうする、タクトよ? どうも普通の村ではないようだし、ここは一旦引き返して別の村に行くというのも一つの案だと思うが?」

「……いや、このままこの村に入ってみよう」

 

 

迷った末に俺はこの得体のしれない村に入ることを決めた。

 

 

「このまま戻っても、またすぐに人の住んでいる場所を見つけることができるとは限らない。それに今の俺達は食料も道具もなにも持ってない。もし集落が見つからなくて野宿なんてことになったら、大変なことになる」

 

 

俺はなんの道具もなしで野宿ができるようなサバイバル知識は持ってないし、ネロだって生前はそういった生活とは無縁だったはずだ。

この温かい日差しや木々の柔らかい葉の様子からすると今の季節は春のようだが、それでも下手をすると一晩外で寝るだけで体調を崩すかもしれない。

病気になったとしてもcure( )やrecover( )で治すこともできるかもしれないが、できればそんな事態に陥るのは避けたい。

 

 

「……ふむ、確かにそうかもしれんな。タクトの言うことにも一理ある。…………それによくよく考えれば、未知のものを恐れたままなにもしないというのは余の美学に反するな」

 

 

ネロは難しそうな顔で考えたあと、いつもの自信満々な顔で俺に微笑みかけた。

 

 

「うむ、余もそなたの提案に乗ることにしよう」

「うん、ありがとう」

「先の方針が決まったのならさっさと行動に移すとしよう。このままこんなところで立ち尽くしていたら、この村の者に不審に思われるかもしれぬぞ?」

 

 

……確かに村の入り口でずっと立ち尽くしている人間がいたら、怪しく思われてしかないかもしれない。

 

 

「そうだな。それじゃ、もしものときは頼むよ、ネロ」

「うむ、任せるがよい!」

 

 

力強く頷くネロを頼もしく思いながら、俺は村の中に入っていった。

✞       ✞       ✞

 

 

 

 

 

俺とネロは村の大通りだと思われる、いささか広い道を歩いていた。

村の中は特におかしなところはない。

別に突然村の人に襲われることもないし、人骨が転がっているような変な光景も目にしなかった。

これでこの奇妙な空気感さえなければ、いたって平凡な村だと俺も言えるんだけど……。

 

 

「ふむ、やはりおかしなところはなにもない普通の村のようだな。やはり余達が勘ぐりすぎたのではないか?」

「うーん……。でも、この空気は異常な気がするんだよな…………」

 

 

周囲にあまり民家がない村の外れで、さらに朝早い時間帯のため、まだ一人も村の人を見ていない。

それにしても、ここの風景はとてもきれいだ。

めがみの言った通りここは元の世界では中世の時代に相当しているらしく、村には電柱やアスファルトのようなものが見当たらず、緑のきれいな景色が広がっている。

人によっては田舎くさいと言って敬遠しそうだが、俺はどちらかといえばこういった所は好きなほうだ。

争いとは無縁そうなこういった風景を見ると心が洗われる。

…………でも、だからだろうか。

戦いとは縁のなさそうなこの村に流れる、血の混じったような空気に違和感を覚えるのは。

ただの闘争の空気じゃない、喜びと悲しみの入り混じった奇妙な空気。

 

 

 

まるでここは月海原学園だ。

聖杯戦争の控所となっていたあの学園。

殺し合いをしていた人間が偽りの平穏を送っていた場所。

ここは戦場であって、戦場でない。

すぐ死ぬ心配はないが、気を抜けばすぐに命を落とす、戦争と平和の狭間の場所。

 

 

 

隣を歩くネロも複雑そうな顔だ。

 

 

「むう。なんだ、この村は? 一見すると平凡な村なのに、どこか普通ではない。まるで普段は剣闘士達がお互いが流した地の量を量るようにして戦っているコロシアムで、最高の劇団による演劇を鑑賞しているような感覚だぞ」

「うん。ネロのたとえも十分変だと思うよ」

「な、なにを言う、タクトよ! 今の余の言葉のどこが変だというのだ!」

「どこがって、全部だけど?」

「なっ…………! そ、奏者よ。そなたはもっと芸術を理解するべきだ! いや、ぜったいにさせてやる! 余がそなたに芸術のなんたるかを叩き込んでやる!」

 

 

ネロと冗談を言い合いながら、村の中を進んでいく。

 

 

「あら、あんた達見慣れない顔だね」

 

 

突然、話しかけられて立ち止まって前を見ると、そこには村人らしき三人の男女が立っていた。

三人とも農作業に行くところなのか、手にはスキやクワを持っている。

服には土や泥がついた跡がいたるところにあって、彼らが毎日汗水たらして畑を耕しているのがすぐにわかる。

村人らしき人々はみんな穏やかな微笑みを浮かべていて、悪い人のようには見えなかった。

 

 

「確かにお前の言うとおり知らない顔だな。ボウズ達まさか旅人かい?」

「ええ、そうです」

 

 

男の一人が珍しそうな顔で質問するので、とっさに肯定する。

べつにウソは言ってないはずだ。

 

 

「へー、うちの村に旅人が来るなんて珍しいこともあるもんだな。お前ら一体どこから来たんだい?」

 

 

さっきとは別の男も興味津津といった様子で俺に質問してくる。

でもこの質問、なんて答えよう?

 

 

「えっと……、遠いところから、ですかね…………」

 

 

ウソは言ってない。

 

 

「ハハハ! そりゃあそうだろ、ボウズ! わざわざ近くの村に行くような旅人はいないだろ!」

「あなた、笑うなんて失礼じゃない!」

「す、すまん……」

 

 

最初に質問した男が女性に叱られていた。

どうやらこの二人は夫婦のようだ。

 

 

「でも、まだそんな若いのに旅をするなんて危なくないかい? あんたたち、フチやジェムとたいして変わらない歳のようだけど」

「ああ。隣にいる少女がこう見えて強いですから、なんの問題もないんですよ」

「へー、そうなのかい」

 

 

女性が感心するようにネロを見る。

ネロもまんざらじゃないのか、胸を張って嬉しそうにしている

さっきからネロが一言も話さないのは、この場の会話を全部俺に任せたということなんだろう。

俺としてもそっちのほうがありがたい。

一人で話した方が、二人でデタラメなことを言うよりはボロが出にくいはずだ。

 

 

「それにしてもお前ら変わった格好をしているな。お前達の故郷じゃあ、それが普通なのかい?」

 

 

確かに俺達と村の人達じゃ全然、とまではいかなくても結構違う服をしている。

村の人達は上下ともに簡単な服装だけど、俺はいまだに月海原学園の制服だし、ネロにいたってはいつものドレス姿だ。

 

 

「ええ、そうなんです。俺達の故郷ってここからかなり遠いんで」

「もしかしてお前らヘゲモニアの人間かい?」

「え、えっと。そんなところです……」

 

 

マズイ。

ヘゲモニアってどこだ?

とりあえず遠くの地名ってことはわかったから答えたけど、これは失敗したかもしれない。

 

 

「そりゃあ、驚いたな! ボウズ達そんな遠いところから来たのかい!」

「え、ええ……」

 

 

隣に立っているネロが少しイラッとしたような顔で俺を見てくる。

大丈夫なのか、と言いたそうなのがよくわかる。

…………ごめん。

あまり大丈夫じゃないかも…………。

 

 

「でもボウズはともかく、そっちのお譲ちゃんはもしかして貴族の方なんじゃないのかい? ほら、高そうなドレスを着ていらっしゃるし……………」

 

 

男の言葉に、他の二人の表情がひきつる。

ヤバイ。

やっぱりネロのこの格好はこの世界でも高価なドレスのように見えるらしい。

 

 

「いえ、違うんです。彼女は確かに貴族のような服を着ているんですけど、別に普通の平民なんです。俺の故郷じゃお嫁に行く前の少女はみんなこういう服を着る習慣があるんで、彼女もこんな格好をしているんです」

 

 

これは完全にウソだ。

この世界にも貴族という身分が存在し、おまけに普通の人と比べると色々な面で天と地ほどの差があるということは、この人達の反応を見ていればわかる。

この村でこの世界のことを学ぶためにも、ここで村人に変な意識を植え付けるのは良いことだとはいえないだろう。

俺としてもそれだと寂しいし。

 

 

「うむ、タクトの言う通りだぞ。余はこのような変な口調で話すし、服もドレスのようなものを着ておるが、それは余達の村の風習でな。できれば気にしないでいてくれると、余としてもありがたい」

 

 

ネロも俺の意図を読み取ってくれて、演技に付き合ってくれる。

 

 

「そ、そうなのかい。いやー、てっきり貴族様だと思っちまってよー。焦っちまったぜ」

「ははは、そうだよな。本当に貴族様だったらきれいな馬車とかに乗ってくるよな」

 

 

俺達の言葉を信じてくれたのか、三人とも恥ずかしそうに笑ってくれた。

……よ、よかったー。

 

 

「それじゃあ、改めてヘルタントにようこそ、若い旅人さん。オレはロバートっていうんだ」

「あたしはヴィリー。よろしくね」

「そんでオレの名前はバルトだ」

「はじめまして、ロバートさん、ヴィリーさん、バルトさん。俺の名前は……えーっと……タクト・コノエっていいます。隣の彼女がネロです」

「うむ。よろしくな」

 

 

とりあえず、お互いに自己紹介。

一瞬、自分の名前をなんていうか悩んだけど、三人の名前から西洋風の言い方がいいだろうと判断。

『タクト・コノエ』って、すっごく新鮮な感じ。

 

 

「それで、ロバートさん。この村の名前はヘルタントっていうんですか?」

「ああ、この村はヘルタント子爵さまが領主として治めている。だからヘルタント領っていうのさ」

 

 

なるほど、領主さまね。

中世の時代だとしたらまだ封建制度だから、村の名前もここら一帯を治めている貴族の名前からつけられているのか。

でも、ここの領主は悪い人じゃなさそうだな。

村の人が領主の名前を言う時に微笑むくらいなんだから、少なくともここの人には慕われているんだろう。

えばり散らしているような領主だったら、こうはならないだろうからな。

 

 

「うんじゃあ、ボウズ達。俺がこの村を案内してやるよ」

「ちょっと、あなた! 仕事はどうするんだい!」

「なーに、一日くらい休んでも問題ないだろ。どうせ例年より早く仕事を始めようとしていたんだ。それにこのボウズ達をこのままにはしておけねーよ」

「そうだな。それなら俺もいっしょに案内してやるか」

「お、そうか! 俺一人じゃうまく案内できるか心配だったんだから、おめえがついてきてくれるのはありがたいぜ」

「俺達のためにそこまでしてもらっていいんですか?」

「おうおう、構わねえさ。めったに来ない旅人さんなんだから、盛大にもてなしてやらねえとな」

「まったく、しかたないねー……」

 

 

ロバートとバルトは楽しそうに笑い合い、それを見ていたヴィリーがあきれたように溜息をつく。

だけどそんな彼女も内心は夫と同じ意見のようで、ちらりと見えたその目は確かに笑っていた。

……うん、ここの人達は良い人ばかりみたいだ。

 

 

「ありがとうございます。それじゃあ、よろしくお願いしてもよろしいですか?」

「おう、任せな、ボウズたち!」

 

 

ロバートが不格好なウインクと共にグーサインをだす。

そんな暖かい空気が流れていた、そのとき。

 

 

 

 

 

 

「うわあああああああああああああああああああああああああ!」

 

 

 

 

 

 

血も凍るような悲鳴が俺達の耳に届いた。

あとがき

 

というわけで、第三話『奇妙な村』でした。

ドラゴンラージャの主要人物の故郷ヘルタントにやってきた拓斗とネロですが、さっそく事件に巻き込まれるみたいですね。

本人がどんだけ平穏を望んでも絶対に厄介ごとに巻き込まれる…………これぞ主人公補生!(えー)

ちなみに今回の話に登場したロバートたち三人の村人ですが、彼らは原作で名前のなかったモブキャラに名前をつけた半オリジナルキャラクターです。

こういったキャラはこれからも何人か登場する予定です。

 

 

では、また次回お会いしましょう。

(絶賛夏バテ中の)メガネオオカミでした。

 

 


 
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