No.462359

Fate/anotherside saga~ドラゴンラージャ~ 第二話『本当の名前』

地球温暖化は今すぐになんとかするべきだと思います!
じゃないと、夏が、夏が、夏がーーーーー!

というわけで、第二話です。
今回もお話がメインで物語に大きな進展はありません。

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2012-07-30 14:16:49 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1339   閲覧ユーザー数:1321

 

 

 

 

 

愛は時の威力を破り、未来と過去とを、永遠に結び合わせる。

――ミュラー

 

 

 

 

✞       ✞       ✞

 

 

 

 

 

「行ってしまったな、マスター」

「ああ……」

 

 

根尾丘めがみ。

不思議な人だった。

得体の知れない人でもあったけど、それでも俺達を助けてくれた。

できれば最後にもう一度くらいお礼を言っておきたかったな。

 

 

「なに辛気臭い顔をしておるのだ、奏者よ。別にもう会えぬというわけでもあるまい。めがみもそう言っておったであろう」

「それもそうだな。……実を言うと、めがみとはこれから何度も会うような気がするんだよな」

「うむ、奇遇だな。余もちょうどそのように思っていたところだったぞ」

 

 

それは奇妙な予感。

でも確かな予感でもあった。

おそらく、俺とめがみはこれから何度も再会することになるんだろう。

そのとき彼女がまた俺達に力を貸してくれるかはわからないけど。

それでも次にまた会ったときには、なんで俺達を助けてくれたかのか、もう一度聞いてみよう。

答えてくれるかは、別にして。

 

 

「それで奏者よ。これからどうする?」

「そうだな。とりあえずはこの森から出て、どこか人のいる場所――できれば村とか町を探そう。見つかったら、しばらくそこでこの世界に慣れよう」

「うむ、そうだな。めがみが教えてくれたこの世界の知識は最低限のものだからな。町で情報を集めるというのは良い手だと思うぞ」

 

 

今の俺達はこの世界のことをなにも知らない。

聖杯戦争で痛感したけど、情報は大切なものだ。

そもそも、今俺達がいる場所はもう前の世界とは違う世界。

めがみが言っていたが、異世界というのは元いた世界とは全く違うところらしい。

だったら歴史や文化……常識というものも、俺達が知っているのものとは異なっている可能性が高い。

いつまでも、右も左もわからない状況を続けるわけにはいかないだろう。

 

 

「しかしマスターよ。今の余達には資金がまったくないのではないか?」

「あっ。そういえばそうかもしれない。……というかお金どころか、今の俺達ってなにも持ってないんじゃないか?」

 

 

めがみの力で肉体は実体化したけど、アイテムやら礼装やらはしてないみたいだ。

まあ、めがみのおかげで俺自身の力でコードキャストが使える以上、礼装はあまり役には立たないし、アイテムだってここがセラフでないなら効果があるかどうかも疑わしい。

お金にいたっては俺が持っていたのはセラフで使える電子マネーだったんだから、実体化させろというほうが無茶だろう。

うーむ。

文字どおりの無一文だ。

こんなんで、このなにも知らない世界で上手くやっていけるのかと少し不安になる。

 

 

「ん? そういえばセイバーがいつも使っている剣はどうなっているんだ?」

 

 

今は持ってないみたいだけど。

 

 

「ふむ、いつものように魔力で編み出せるのではないか?」

「でもセイバーだって今はもう、ほとんど普通の人間なんだろ? 今までのようにいくかわからないんじゃないか?」

「まあ、その辺は議論するよりも実際にやってみたほうが早かろう」

 

 

そう言ってセイバーが左手を前に出す。

すると次の瞬間にはもう見慣れてしまった、あの歪な形の真紅の大剣が握られていた。

 

 

「うむっ。どうだ奏者よ。いつものように上手くいったであろう?」

「はは、そうだな。いらない杞憂だったみたいだな」

 

 

エヘンと胸を張って、自慢するように剣を見せるセイバー。

その可愛らしい様子に思わず笑ってしまう。

 

 

「安心するがいいマスター。たとえ、なにがあったとしても余がこの剣で今までのようにそなたを守りきる。金銭がないのならば、余がこの剣で稼いで見せよう。ドラゴンが襲ってきたのならば、余がこの剣で打ち滅ぼして見せよう。そなたは後ろでただ見ているだけでよい。そなたが余を見てくれている……ただそれだけのことで余は無敵になれるのだからな」

「………………っ!」

 

 

セイバーはさっきまでとは違い真剣な声を出す。

だが、その表情はひどく穏やかでその瞳には俺のことを想う深い慈愛に満ちていた。

それを見て、俺は心を揺さぶられるのを感じた。

……前言撤回だな、これは。

まったく、一体俺はなにを不安に思っていたんだろうな。

 

 

 

自分が生きていた世界と違う世界?

知人が誰もいない?

時代が中世?

ドラゴンがいるかもしれない?

言葉が通じるかわからない?

お金も物もなにもない?

 

 

 

……………なんだ、それくらいか。

 

 

 

それくらいなら、なんとでもなる。

別に世界がなくなったわけじゃない。

道だっていくらでもある。

これから俺はどこにでも進むことができる。

なによりも俺の隣には彼女がいるじゃないか。

彼女と進む限り、俺の前に不安も絶望もあるわけない。

そんなもの彼女が斬り捨ててくれる。

俺はそれを手伝うだけでいい。

そして彼女が壁にぶつかったんだったら、今度は俺がそれをぶっ壊せばいい。

もちろん、俺は弱いからそのときは彼女にもちょっとだけ力を貸してもらって。

そうだ。

それが俺達だ。

不安を感じる必要などどこにもない。

 

 

 

 

 

そして、俺はそのとき一つの決心をした。

 

 

 

 

 

「む、どうしたのだ奏者よ? 急にニヤニヤと笑いだして。少し気持ち悪いぞ?」

「ははははは! いや、何でもないよ。ただ、ようやく俺も本調子に戻ってきたみたいだ」

 

 

意味が分らないとでも言いたそうな、怪訝そうな顔をする彼女の顔がなんだかひどく愛らしく見える。

…………さすがにそろそろ別のことを考えたほうがよさそうだ。

彼女もいまだに怪訝そうな顔はしていたが、いつまでもこんな話をしていても時間の無駄だと思ったのか話題を変えてきた。

 

 

「むー、奏者よ。そろそろ移動を開始したほうがよいのではないか? 余はいつまでもこのような薄暗い森にいたくはないぞ。この陰湿な感じ、なんだかあのアーチャーが襲ってきそうで気に食わん」

「ああ、ちょっと待ってくれ。その前にこれを使っておくから」

 

 

俺はそう言うと目を閉じて神経を集中させる。

 

 

「view_map( )!」

 

 

呪文を唱えた瞬間、俺の頭の中にこの森の地図が映し出される。

view_map( )はshock(64)とは違い、補助用のコードキャストだ。

使えば一定時間、周辺の地形を頭の中で地図のように映し出すことができる。

聖杯戦争ではアリーナの隠し通路を見つけるのに役に立った。

 

 

「おお、そうか! そのコードキャストを使えばこの陰鬱な森で迷うこともなくなるということだな!」

「そういうこと。なんの装備もない今の俺達じゃ、万が一こんな森で遭難でもしたら一巻の終わりだからな」

 

 

さすがにここまでめがみにやってもらって、森で迷って死にましたー、なんて終わりは迎えたくない。

情けないにも程がある。

 

 

「うむ、では行こうとするかマスター!」

「…………」

 

 

彼女はアリーナの探索のときと同じように、俺が先に行くのを待ってくれている。

それは彼女が俺の指示に従ってくれるという意思表示でもあり、同時に俺の後ろにいたほうがなにかあっても対処しやすいということだと俺は今までの経験で知っていた。

だけど、彼女がいつものように俺のことをマスターと呼んだときに、俺はさっきの決心を固め直していた。

 

 

「マスター?」

 

 

中々動かない俺に、彼女はいぶかしむような声をかける。

でも、俺はその声になんの反応も返さない。

 

 

「むう。どうしたのだマスター? 行かぬのか?」

 

 

落ち着け。

落ち着くんだ、俺。

俺は深呼吸をしてから、ようやく口を開く。

 

 

「ああそうだな、行こうか……………………………………………………………………ネロ」

「えっ?」

 

 

彼女は呆然としたような声をだして固まってしまう。

その頬が赤く染まっていく。

俺も平然とはしていられなかった。

顔が彼女に負けず劣らず赤くなっているのが自分でもわかる。

 

 

「そ、そ、奏者よ! い、今、なんと言ったのだ? 余の耳はおかしくなってしまったらしい! そなたが今、よ、余のことを…………その……なんというか………………!」

 

 

彼女は普段の凛々しさが嘘のように、顔を真っ赤にしてしどろもどろに尋ねてくる。

 

 

「だから、そろそろ行こうかって言ったんだよ………………ネロ」

「っ!」

 

 

もう一度彼女の本当の名前を口にすると、彼女は今度こそピタリと動きを止めてしまった。

慌てて、俺は言葉をつなげる。

 

 

「い、いや。ほらさ。もう、俺達って主人(マスター)従者(サーヴァント)の関係じゃないだろ。聖杯戦争はもう終わったし、なによりもネロはもうサーヴァントじゃなくて、普通の人になれたんだから。だ、だからいつまでもセイバーなんて役割(クラス)名で呼んだら駄目だと思って…………」

 

 

口から出たのは偽らざる本音。

でも、この言葉は本当の想いの一部でしかない。

彼女のことをセイバーと呼ぶのが嫌なのは、もちろん聖杯戦争が終わったのにいつまでもこんな呼び方をするのは不自然という思いもある。

でも、それ以上に俺は彼女とは対等だと思っているからだ。

俺達は決して主従関係なんかじゃない。

俺達は切れることのない絆で繋がった相棒(パートナー)なんだ。

……………………………………いや、それも違う。

それでもまだ、自分の気持ちをごまかしている。

俺は。

俺はただ彼女のことを名前で呼びたかっただけなんだ。

ただそれだけ。

それだけの理由。

でも、俺にとってはそれこそが何よりも重要で一番大切なことだったんだ。

 

 

「…………」

 

 

彼女はまだ固まったまま動けずにいる。

……あれ?

もしかして俺は彼女を傷つけてしまったのか?

 

 

「もしかして、嫌、だったか…………?」

 

 

彼女にとって『ネロ・クラディウス』の名前は心の傷(トラウマ)だったのかもしれない。

なにせ彼女はその名前で生前、数々の不幸を体験したのだ。

 

 

 

実の母に権力掌握のためのコマにされ。

私腹を肥やすことしか頭にない元老院と対立し。

信頼していた師とは心がすれ違い。

母の毒により頭痛に苦しみ。

部下には反乱を起こされ。

ついには皇帝の座を追われ。

あれほど愛していた市民にも見捨てられ。

そして最後は夕陽のなかで自害するしかなかった。

 

 

 

彼女はそれを気にしてないと、後悔していないと言っていたが、それはもしかしたらただ強がっていただけじゃないのか?

本当は嫌な思いでの詰まった『ネロ』よりも、俺と聖杯戦争を戦った『セイバー』の名前で呼ばれたいんじゃないのか……?

 

 

「ごめん。勝手に本当の名前で呼んじゃって。もし、ネロがその名前で呼ばれるのが嫌なら、今まで通りセイバーって呼ぶけど…………」

「ち、違うのだ、奏者よ。別に嫌だったわけではない! むしろもっと呼ぶがよい! 余の名前をオリュンポスの神々の名のように呼び、称えるがよい!」

「いや、さすがにそこまではしないから」

 

 

彼女はまだ混乱しているみたいでよくわからないことを叫んでいる。

でも『ネロ』て名前で呼ばれるのが嫌、というわけではないということはわかった。

 

 

「混乱している?」

「あ、当り前であろう! 突然名前で呼ばれたら余だって驚くわ! だが……確かにそなたの言う通りかもしれないな。聖杯戦争は終わった。それなのにいまだにクラス名を名乗るのは美しくないな。うむ。よいだろう、我が奏者に余の真名を呼ぶ栄誉を与えよう!」

 

 

エヘンといつもどおりに胸を張って、そして尊大な口調で彼女は言う。

だけどその頬がいまだに赤くなっているのを俺は見逃さなかった。

かわいいな、本当に。

 

 

「ええーい。もうその話はよい! あまり余をからかうなら、いくらそなたでもただでは済まさぬぞ!」

 

 

笑ったのがばれたのか、彼女が本気で機嫌を悪くしそうになったので俺も出発の準備をする。

 

 

「ごめん、ごめん。じゃあ、そろそろ行こうかネロ」

「うむ、そうだな………………………………タクト」

「えっ!」

 

 

不覚にもさっきの彼女と同じ反応をしてしまう。

え、今の俺の名前だよな?

まさか彼女も俺のことを名前で呼んでくれるのか……?

うわ!

顔がすっごく熱くなっている!

 

 

「ふふ。どうしたのだ、タクトよ。まさか余のことは名前で呼んでおきながら、自分はダメなどと器量の狭いことを言うのではないであろうな?」

「え、いや。そりゃあ、別に良いっていうか。というか、呼んでくれたほうが嬉しいというか……」

「ふ、当然であろう。余がすでにサーヴァントでないように、そなたもまたもうマスターではないのだ。名前で呼ぶのは当然であろう?」

 

 

ネロはいたずらの成功した少女の顔で、堂々とそう言った。

なるほど、これは恥ずかしい。

先ほどのネロの反応がよくわかる。

とても嬉しいけど、それと同じくらいに恥ずかしい。

おかしいな。

俺のことを名前で呼んだのはネロが初めてってわけじゃないのに。

なんだか、すっごく恥ずかしい。

やっぱり呼んでくれたのが、ネロだからなのかな?

 

 

「ふふ、さあどうしたのだ? まだ行かぬのか、タクトよ?」

 

 

ネロは先ほどの意趣返しができて満足したのか、えらくご機嫌だ。

まったく……。

これだからネロには敵わないんだよな。

俺は苦笑しながら彼女の隣に立つ。

 

 

「はいはい。それじゃ今度こそ行こうか、ネロ?」

「うむ、タクトの思うままにするがよい」

 

 

そして俺とネロは隣に並んでいっしょに森の出口へと歩き出した。

 

 

 

 

あとがき

 

というわけで第二話『本当の名前』でした。

いやー、書いてて恥ずかしかったー(おい)

主人公も赤セイバーもEXTRAの終盤から飛んできましたから、お互いの好感度がすでにMAXの状態です。

これからも基本二人はラブラブカップル状態で進んでいく予定です。

 

では、また次回お会いいたしましょう。

(扇風機の前で倒れている)メガネオオカミでした。


 
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