文芸部と書かれたプレートを掲げている部屋の扉をノックする。
とりあえずSOS団の拠点と言ったらココだろう。
ダメだったら……まぁ、他をあたるけど。
「……こんちわー」
「えっ……?」
扉を開けたらそこにはまだSOS団の物がない殺風景な部室だった。
そしてパイプ椅子に座って読んでいた本を閉じ、
驚いた表情でこちらを見ている青いハーフリムの眼鏡を掛けた長門の姿があった。
“あの時”と似たような構図だな。
「ど、どうもー」
「…………」
浮かべている表情がハッキリと解るから
こいつも性格が変わっているんだろう。
どこまで事態を把握しているかわからないが、
話してる内にそれとなく情報を集めればわかるかもしれない。
まっ、今は関係ない話だけどな。
さっさと目的を達成するとしよう。
昼休みは長いようで意外と短い。
まだまだやる事は有るんだ、一分一秒でも時間が惜しい。
と、言う事で……
「俺が新しく作る部活の部室としてこの部屋を貸してくれ」
……いや、もう少し言葉を考えようぜ、俺。
こんな頼み方で了承してくれる奴なんてそうそう、
「うん、良いよ~☆」
ここに居たぁ!?
長門は満面の笑みで返事をくれた。
やばい、ハルヒに続きこっちの長門もすげぇ可愛い。
「って、そうじゃなくて!
本当にここを貸してもらって良いのか?」
そしてなんか色々と変わり過ぎじゃないか長門!?
一体何なんだそのテンションは!
今まで築き上げてきた長門像が音を立てて崩れ落ちるどころかRPGによって木っ端微塵にされた。
もはや同姓同名の別人と見た方が良いかもしれない。
「良いって言ってるじゃん☆
あっ、その代り君の作る部活に入れてよ~」
あ、いやっ、むしろこれから部員になってくれないか頼むとこだったから
その条件はこちらとしても願ったり叶ったりなんだが。
「よし!なら、こーしょーせいりつだね!
わたしは一年六組の“長門有希”!通称ユキリン!!
気軽にユキリンって呼んでね~♪」
いや、ユキリンは遠慮しておこう。
「っと、そうだ、俺は一年五組の……」
クラスの時もそうだったが自分の知っている相手に改めて自己紹介するってのも変な感じがするな。
この感覚を皆様方に伝えられないのが残念だ。
「そっかぁ~
じゃ、わたしも“キョン君”って呼ぶよ♪」
……長門、お前まで“キョン”を使うのか。
「えっ……ダメだった?」
うぐっ、その上目づかいをやめてくれ。
理性が持ちそうにない。
「はぁ、しょうがない。
これからもソレで良いぞ」
「ホント!? やった~!!」
そんなに喜ぶことか?
まあ可愛いから良いのだが。
「ねぇねぇキョン君、部員って後誰がいるの?」
「ああ、俺と、お前と、
後一人同じクラスの涼宮ハルヒって奴だ」
「……へぇ~。
涼宮ハルヒ、かぁ」
長門がすごく真面目な顔で何か考え込んでいる。
やはりハルヒはこの世界でも自立進化の可能性なんだろうか。
「放課後ここにハルヒを連れてくるから待っててくれ」
「……うん。わかったよ。
なるべく早く来てね☆」
「ああ」
それじゃ教室に戻るか。
っと、その前に。
「なあ長門、お前っていつも眼鏡掛けてるのか?」
「ん?いや、いつも掛けてる訳じゃないよ~
コレは本を読むときだけ☆
実はわたしって遠視なんだ~」
……こっちの長門って遠視なのか。
そしてあっという間に放課後。
運動部の声を遠くに聞きながら廊下をハルヒと共に歩く。
そして、たどり着いた部室前でハルヒが発した言葉は、
「あれ、ここって文芸部じゃ?」
と言う至極まともな感想だった。
「今年の文芸部って一人しかいなくてな。そいつに頼んで
部室を貸してもらったんだ。ついでに部員になってくれるとさ」
「へぇ~すごいねキョン君」
昼同様ノックをしてから扉を開ける。
すると待ってましたと言わんばかりに長門が駆け寄ってくる。
「いや~待ってたよキョン君!!
あれ? その人が“涼宮ハルヒ”?」
「ひゃ、ひゃい!」
ハァ……もっと落ち着け。
これから一緒に部活をしていくんだから。
「う、うん、そうだよね」
二・三回深呼吸を繰り返すハルヒ。
「わ、わたしは一年五組の、す、涼宮ハルヒ……です。
ぇと……よ、よろしくお願いします!」
「わたしは一年六組長門有希!
気軽にユキリンって呼んでね☆
こちらこそよろしくぅ~♪」
「ゆ、ユキリン?」
「大体こんな奴だけど仲良くやってくれ」
性格が全く違うから疲れるかもしれんが。
その後一通り顔合わせが済んだところで、
俺は窓の側に立ち二人に向かって声を掛ける。
「って事で放課後はここ集合な。
もし来なかったら……死刑だ」
『え、えーーーーーー!?』
「文句は聞かない」
「ちょっ、ちょっとそれは・・・」
「お~ぼ~だ! お~ぼ~!!」
「そ、そうだよ」
冗談に決まってるだろ。
さすがに死刑はないぞ。
……私刑なら有るかもしれないが。
『それでもひどいよ!!』
はいっ、翌日だ。
退屈なだけの授業風景は全カットとさせて頂こう。
「ハルヒ、悪いが先に部室行っててくれ。
俺は部員に成ってくれそうな人を探してくるから」
そう言い残し俺は教室を出る。
と言っても次のSOS団員候補はあの人しか居ない。
確か……ハルヒに連れてこられる前は書道部だったはず。
ってか、あれ?
そう言えば書道部ってどこで活動してるんだ?
今まで部室棟でそれらしき人達を見た事は無いんだが。
しまった……事前に調べておけば良かったな。
「何かお困りごとですか?」
「あっ、いえ、ちょっと分からない…事が……」
声のした方に顔を向けるとそこに探していた朝比奈みくるさんがいた。
向こうから話し掛けてもらったのは今の俺にはとてもありがたいです。
「もう解決したので大丈夫です」
「そうですか。 それは良かったです」
「……それで、あの、ついでに相談したい事が有るんですけど」
「はい、なんでしょう」
「実は部活を作ろうとしているんですがまだ人数が足りないんですよ。
あと二人いれば良いんですけど、なかなか集まらなくて。
何か良い案は無いですかね?」
「そうですか、それは困りましたね。
わたしが誰か部活動に入ってくれそうな人を紹介できれば良いんですけど。
お友達は皆さん何かに入部してますし……」
さて、少し話してみた感じでの感想になるが、
ここの朝比奈さんはしっかりした人になってるな。
たとえるなら、朝比奈さん(大)の身長を縮めた感じか。
ハルヒにしては随分と地味な変化のさせ方だ。
……って、この時はそう思ってたんだけどなぁ。
「う~ん……
なら、わたしが入部しましょうか?」
「そ、それはありがたいんですが、
先輩は何か部活に入っていないんですか?」
「ふふっ、実は昨日丁度良く書道部を退部した所だったんですよ」
「そうなんですか?」
「ええ、ちょっとした事情がありまして。
続ける事が出来なくなってしまったんですよ」
「じ、じゃあ折角なのでお願いしても」
「任せてください」
よしっ、朝比奈さん勧誘完了。
退部云々は未来からの命令だろうが、
大した交渉もなく無事済んで良かったぜ。
「あ、忘れていましたが、わたしは二年生の“朝比奈みくる”です」
「ああ、すみません。俺は一年の……」
もはや恒例と成った知り合いへの自己紹介だ。
あと何人こんな事をするんだろうな。
「では、よろしくお願いします。キョン君」
……まあ、朝比奈さんは元から“キョン君”だし。
別に良いか。 ほんの少し釈然としないものはあるが。
「悪い、待ったか?」
「あ!きょ、キョン~く~ん。
た、助かったよぉ~!」
部室に入ったらハルヒが俺を見るなり泣きついてきた。
抱きつかれるのは嬉しいのだが、涙目でこっちを見上げるな!
り、理性が持たん!理性が!!
「な、何があった」
「長門さんが、ながとさんがぁ~」
「長門!お前ハルヒに何をしたぁ!!」
俺は長門に聞く。 いや、叫ぶ!
今の状況の恥ずかしさを紛らわせる為に。
「わ、わたしは何もしてないって。
ただ、涼宮さんが何も話さないからわたしから話し掛けていただけだよ☆」
「……なるほど、よく解った」
長門のマシンガントークがハルヒの許容限界を超えたのか。
恐らく質問攻めに遭ったんだろうな。
だが、涙目になるぐらいするのはやり過ぎだと思うぞ。
「え、えっとぉ~……そのぉ~、……………ごめんなさい」
「いや、俺に謝るな。
ここはハルヒだろ?」
「うん、そうだね。
ホントごねんね~涼宮さんっ!」
謝ってるように見えないし聞こえない。
だがまあ、本人はこれでいてちゃんと反省しているんだろう。
俺に謝った時声のトーンがいつもより低かったし、真面目だったし。
「あ、あれ? キョン君。
後ろにいる人は誰なの?」
「今から紹介する。
そしてハルヒ、そろそろ離してくれないか?」
「ふぇ?……………っ!!」
俺が言った意味を理解したであろう瞬間、
ハルヒは体育の授業じゃ見た事のない程のものすごい速度で離れた。
すげぇ、人間ってここまで速く動けるんだな。
ソレを普段の体育の授業で活かせられれば……じゃなくて、
「それじゃ、早速紹介する。
二年生の朝比奈みくるさんだ」
「朝比奈みくるです。
どうぞよろしくお願いしますね」
「話しましたが、この二人も部員です。
静かなのがハルヒ、軽いのが長門です」
「何その適当な紹介の仕方ー」
「ああ『よく当てはまる』って意味での『適当』だな」
「ちょっ、ひどいよ~!!」
長門は紹介の仕方に不満があるようだ。
ハルヒは顔を赤くして俯いたまま何も喋らない。
お、ハルヒが復活した。
「あの、あ、改めまして、わたしの名前は涼宮ハルヒです。
き、キョン君と同じクラスです」
「じゃあ、わたしもちゃんと自己紹介!!
一年六組の長門有希です☆」
「はい、よろしくお願いします」
あっ、長門が通称のとこ言わなかったな。
「ところでこの部活動の名称は決まっているんですか?」
それぞれの紹介が終わった所で、
朝比奈さんが俺に質問してきた。
それにしても、名称ね……
「ええ、一応は」
「そ~なんだ。わたし知らないな~
涼宮さんは知ってる~?」
「ううん、わたしも知らない。
ねぇキョン君、どんな名前なの?」
名称なんてもちろんあれしかないだろ?
「いいか、部活の名前は……」
いつぞやのハルヒよろしく腕を組み高らかに宣言する。
「“SOS団”だ!!」
その瞬間、部室内の時が止まった。
ハルヒ、長門、朝比奈さんの三人は見事に固まってしまっている。
遠くで練習している吹奏楽部の演奏が聞こえてくるぐらいに静かだ。
まあ、仕方がないだろう。突っ込むところが多いからな。
俺だって一年前は同じ事になっていた。
だが俺はこの空気をあえて無視し、言葉を続ける。
「正式名称は“世界の面白い事を探す団”
略してSOS団ってな」
流石に元の正式な名称は使えない。
だから、ここは変えさせてもらうぞ。
「……なんで『団』なの?」
最初に意識が戻ったのは長門のようだな。
なんか今のお前俺のよく知る長門みたいだぞ。
「まだ『部』って感じじゃないし、人も少ないしな。
で、どうだ?賛成か反対かで言ってくれ」
「えっ、えぇ~っと、い、良いんじゃないかな」
「わたしも賛成だね♪」
ハルヒと長門は賛成してくれるようだ。
朝比奈さんはどうですか?
「はい、良いと思いますよ。
素敵な(?)名前ですね」
朝比奈さん。
その括弧の中のクエスチョンマークは何ですか?
まぁ、その辺は別にいっか。
こうして、正式に名称が“SOS団”に決定した。
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キョン(以降キ)
:まだまだ始まったばかりだな
ハルヒ(以降ハ)
:い、一緒に頑張ろうねキョン君
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