~旧校舎・地下・奥~
「か、勝った……」
「よかった~…………」
「ケッ……。手こずらせやがって。次はてめぇの番だ……覚悟はできてるだろうな!」
戦闘が終了し、エステルとミントは安堵のため息を吐き、アガットはブルブランを睨んだ。
「やれやれ……。優雅さに欠ける戦い方だな。仕方ない……私が手本を見せてあげよう。」
アガットに睨まれたブルブランだったが、溜息を吐いた後持っているステッキを構えた。
「Flamme!(炎よ!)」
「な……!?」
「篝火の炎が……!?」
「これは一体………?」
「な、何が起こるんですか!?」
周囲の篝火が大きくなった事にエステルとクロ―ゼは驚き、ニルは首を傾げ、テトリは慌てた。
「Aiguille!(針よ!)」
そしてブルブランは一瞬で懐からナイフを出し、それを篝火によって大きくなったエステル達の影にめがけて放った!
「「えっ……!?」」
「きゃっ……!?」
「おお……!?」
「う、動けません!」
「なっ………!?」
「これは……『影縫い』か!?」
ブルブランの技によってエステル達は動けなくなり、焦った。
「フフ、動けまい。君たちはダルモア市長の『宝杖』に驚いていたようだが……。この程度の術、執行者(われわれ)ならばアーティファクトに頼るまでもない。」
「そ、そんな……」
「クソ……見くびりすぎたか……!」
動けないエステル達が焦ったその時
「ピューイ!」
ジークが飛んで来て、ブルブランに攻撃しようとしたが
「フッ!」
「ピュイィッ!?」
ブルブランによって、エステル達と同じように『影縫い』を受けて、飛んでいる状態で動かなくなった!
「ジーク!?」
「現れたな、小さきナイト君。君の騎士道精神には敬意を表するが、しばし動かないでいただこうか。」
ブルブランは不敵な笑みでジークを見た後、クロ―ゼに近付いた。
「クロ―ゼさん!」
クロ―ゼに近付くブルブランを見て、ミントは焦りの表情で声を上げた。
「クローディア姫。これで貴女は私の虜(とりこ)だ。フフ、どのような気分かね?」
「……見くびらないでください。たとえこの身が囚われようと心までは縛られない……。私が私である限り、決して。」
不敵な笑みを浮かべて自分を見るブルブランにクロ―ゼは凛とした表情で見つめ返した。
「そう、その目だよ!気高く清らかで何者にも屈しない目!その輝きが何よりも欲しい!」
しかしブルブランは逆に喜び、高らかに言った。
(ニルさん、魔術なら口を動かすだけですから、放てるんじゃないですか?)
(ええ。でも、この状態だと、エステル達まで巻き添えにしてしまうわ。だから、気付かれないよう小声で詠唱をしていて、いつでも放てるようにするわよ。幸い、敵は今、リベールの姫にかなりの関心を向けているようだし。)
(はい!)
一方テトリとニルは念話をした後、いつでも魔術を放てるようにブルブランがクロ―ゼに夢中の隙を狙って、小声で魔術の詠唱を開始した。
「ふ、ふざけたこと抜かしてんじゃないわよ!」
「そうだよ!」
エステルとミントは無理やりブルブランの方向に向いた。また、オリビエとアガットも同じようにブルブランの方向に向いた。
「このキテレツ仮面!クローゼから離れなさいっての!」
「そうだよ!そんな仮面を被っているって事はよっぽどミント達に顔を見られたくないんだね!」
「やれやれ、この仮面の美しさが分からないとは……。君達には美の何たるかが理解できていないようだな。」
エステルとミントに睨まれたブルブランは呆れて溜息を吐いた。
「フフッ……」
そしてそこにオリビエが不意に笑みを漏らした。
「む……?」
オリビエの笑みに気付いたブルブランはオリビエを見た。
「ハハ、これは失敬。いや、キミがあまりにも初歩的な勘違いをしているのでね。つい、罪のない微笑みがこぼれ落ちてしまったのだよ。」
「ほう……面白い。私のどこが勘違いをしているというのかね?」
オリビエの指摘にブルブランは興味を惹かれ、尋ねた。
「確かにボクも、姫殿下の美しさを認めるに吝(やぶさ)かではない。だがそれは、キミのちっぽけな美学では計れるものではないのさ。顔を洗って出直してきたまえ。」
「おお、何という暴言!たかが旅の演奏家ごときがどんな理由で我が美学を貶(おとし)める!?返答次第では只ではすまさんぞ!」
オリビエの言葉を聞いたブルブランは怒り、オリビエを睨んだ。
「フッ、ならば問おう―――美とは何ぞや?」
そしてオリビエは静かに問いかけた。
(な、何?どこかで似たような事を聞いたわね…………)
(おい、どうした。)
一方エステルの身体の中で状況を見ていたパズモはオリビエとブルブランのやり取りから、遥か昔に似たようなやり取りがあった事を思い出しかけ、サエラブはパズモの念話を聞いて首を傾げた。
「何かと思えば馬鹿馬鹿しい……。美とは気高さ!遥か高みで輝くこと!それ以外にどんな答えがあるというのだ?」
「フッ、笑止……。」
ブルブランの高々とした答えに対して、オリビエは両目を閉じて口元に笑みを浮かべた後、両目を開き高々と言った!
「真の美―――それは愛ッ!」
「……なにッ!?」
オリビエの答えを聞いたブルブランは驚いた!
「愛するが故に人は美を感じる!愛無き美など空しい幻に過ぎない!気高き者も、卑しき者も愛があればみな、美しいのさっ!」
「くっ、小賢しいことを……。だが、私に言わせれば愛こそ虚ろにして幻想!人の感情など経ずとも美は美として成立しうるのだ!そう、高き峰の頂きに咲く花が人の目に触れずとも美しいように!」
オリビエの言葉を聞いたブルブランは一歩後退した後、すぐに立ち直って言い返した。
「むむっ……」
「ぬぬっ……」
そしてオリビエとブルブランは睨みあった。
「……えーと。」
「ほえ??」
「なんてアホな会話だ……」
「こ、困りましたね……」
一方オリビエとブルブランの舌戦を聞いていたエステル達は呆れて脱力した。
(思い出したわ………”美”にやたら拘っていた魔神…………アムドシアスを。)
(………待て。確かその名の魔神はソロモン72柱の一柱ではないのか?)
一方呆れている様子である人物像が浮かび上がったパズモは思わず呟き、パズモの呟きが聞こえたサエラブは尋ねた。
(ええ。………美や芸術にやたら拘っていたわ………)
(………どこにでも変わり者の魔神はいるのだな。…………全く。”色欲”の魔神といい、ソロモンの魔神共はそんな者ばかりなのか?)
パズモの説明を聞いたサエラブは魔神であるにも関わらず友好的な様子でウィルに知識を与え、争いはしたが最終的に自分達に力を貸していたソロモン72柱の一柱――魔神アスモデウスの事を思い出して、呆れていた。そしてその一方、ブルブランを挑戦的な目でオリビエを見て尋ねた。
「……まさかこんな所で美をめぐる好敵手に出会うとは。演奏家―――名前を何という?」
「オリビエ・レンハイム。愛を求めて彷徨する漂泊の詩人にして狩人さ。」
「フフ……その名前、覚えておこう。」
オリビエの名前を聞いたブルブランが不敵な笑みを浮かべたその時
「あ~!エステルちゃんたち見つけた~!」
なんと入口で待たせたはずのドロシーがやって来た。
「えへへ、あんまり遅いからガマンできずに来ちゃった♪」
「ド、ドロシー!?」
「いけません!早く逃げてください!」
「そうだよ!ここは危ないよ~!」
呑気な様子のドロシーを見てエステルは驚き、クロ―ゼとミントは警告した。
「ふぇ……?あーっ!仮面をかぶった白いヒト!あなたが幽霊さんですね~!?」
しかしドロシーは気にせず、ブルブランを見て呑気に尋ねた。
「い、いや……」
「はい、チーズ♪」
ドロシーに唐突に尋ねられたブルブランが戸惑っている所をドロシーはカメラで写真を撮った。
「うおっ?」
シャッターのフラッシュによって、周囲がまばゆく輝き、ブルブランはドロシーのいきなりの行動に驚いた。
「ピューイ♪」
「あっ……!」
「痺れが取れた……」
「やった~!」
「そうか……。フラッシュで影が消えたのか!」
「フッ、とんでもないお嬢さんだ。」
そしてドロシーの行動によって影が元通りになり、エステル達は動けるようになった。
「えっへん、任せてくださいよ~。何がスゴイのか自分でもわかりませんけど~。」
オリビエの称賛にドロシーは理由がわからなかったが、得意げに胸をはった。
「ククク……ハーッハッハッハッ!」
そしてブルブランは唐突に笑いだした後、大きく後ろに跳んで装置の所に戻り、装置に付けられていた『ゴスペル』を取り外した。
「「あっ!」」
「『ゴスペル』を!」
ブルブランの行動にエステル、ミント、クロ―ゼは警戒した。
「こんなに愉快な時間を過ごしたのは久しぶりだ。礼を言わせてもらうぞ、諸君。」
「てめえ……まだ何かやるつもりか!」
ブルブランの言葉を聞いたアガットはブルブランを睨んで尋ねた。
「フフ……今宵はこれで終わりにしよう。しかし、諸君に関しては認識を改める必要がありそうだ。さすが『漆黒の牙』と共に行動してただけの事はある。」
「『漆黒の牙』……!」
「え………!それって………!」
「まさか………ヨシュアさんのことですか!?」
ブルブランの口から出た予想外の人物にエステルとミント、クロ―ゼは驚いた。
「フフ、彼とは旧知の仲でね。最初に君たちを観察し始めたのは彼の姿を見かけたからなのだよ。全ての記憶を取り戻したようだが……今はどこでどうしている事やら。」
そしてブルブランはステッキをかざした。するとブルブランの廻りに薔薇の花びらが舞った。
「あっ……!?」
「な、なんだ……!?」
ブルブランの行動にエステル達は驚いた。
「!今よ、テトリ!爆裂光弾!!」
「重酸の地響き!!」
そして今まで黙っていたニルとテトリが消えかかっているブルブランに魔術を放った!
「何!?ぐあああああああああっ!?………………」
消えかかるブルブランに魔術が命中し、ブルブランは苦悶の声を上げながらその場から消えた。
「ぐっ…………さらばだ、諸君。計画は始まったばかり……。せいぜい気を抜かぬがよかろう。クッ………それとは別に、私は私なりの方法で君たちに挑戦させてもらうつもりだ。フフ、楽しみにしていたまえ………グッ!」
ブルブランは時折苦悶の声をあげつつ、エステル達に伝えた後、声はなくなり、気配も消えた。
「き、消えた……」
「し、信じられません……」
「う~…………せっかくヨシュアさんを知っている様子だったのに逃がすなんて………」
ブルブランが消えた事にエステルとクロ―ゼは信じられない様子でいて、ミントは頬を膨らませて悔しがった。
「うわ~!何だか手品みたいですねぇ。」
「ハッハッハッ。なかなかやるじゃないか。これはボクの方も好敵手と認めざるを得ないね。」
ドロシーとオリビエは呑気に笑っていた。
「そういう問題じゃないってば!キテレツな格好はともかく……あいつ、並の強さじゃないわ!」
「そうだな……。『身喰らう蛇』―――予想以上に手強そうだぜ。」
エステルの言葉にアガットは頷いて、ブルブランが消えた場所を睨んだ。
こうして、ルーアン各地を騒がした幽霊事件は幕を閉じた。翌朝、街に戻ったエステル達はドロシーと一旦別れて事件の報告をすべく、ギルドに向かった。
一方エステル達がブルブランと邂逅する少し前にウィル達に案内されてユイドラに到着したリウイ達は、ウィルの手配によって用意された宿に向かって部屋に荷物等を置き、リウイ、リフィア、エヴリーヌがウィル達が住む家にウィル達と共に向かった…………
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第197話