生徒達からさまざまな新たな情報を入手したエステル達はふと、講堂に立ち寄って講堂の舞台に登った。
~講堂~
「あ……」
舞台に登ったエステルは舞台から観客席だった場所を見下ろした。
「………………………………」
「……おかしいですよね。数ヶ月前のことなのにとても懐かしく感じます……」
「うん……」
「ママ達の騎士姿やヨシュアさんのお姫姿……ミント、今でも覚えているよ!」
クロ―ゼの言葉にエステルは頷き、ミントも答えた。
「あれから本当に色々なことがあって……。澄ました顔でお姫様をやってたヨシュアは居なくなって……。そして観客だったミントがこうしてあたしの隣にいる…………今、あたしたち3人だけでこの舞台にいる……。何だか不思議な気分かも。」
「うん。そうだね、ママ。」
「そうですね……。ねえ、エステルさん、ミントちゃん。一つ白状してもいいですか?」
「え……?」
「ほえ………?」
舞台の縁側に座りながら語り合っていたエステル達だったが、クロ―ゼの言葉に驚いて2人はクロ―ゼを見た。
「私……ヨシュアさんが好きでした。初めて会ったときからとても惹きつけられるものを感じていたんです。」
「ええええ~!?」
「………………………………。……そっか。あはは、やっぱりね。そんな気はしていたけど……」
クロ―ゼの告白を聞いたミントは驚いて声を出し、エステルは逆に納得しているような様子で答えた。
「最後のキスシーンなんてすごくドキドキしたんです。エステルさんに申しわけないと思いながらも演技に熱が入ってしまって……。フリじゃなくて、本当に唇を奪いそうになってしまいました。」
「そ、そうなんだ……。クローゼって意外と大胆っていうか……」
「クロ―ゼさん、ヨシュアさんの事、それだけ好きだったんだ…………」
クロ―ゼの話を聞いたエステルは顔を赤らめ、ミントは驚いてクロ―ゼを見ていた。
「ふふっ、ユリアさんによれば私の行動にはいつもヒヤヒヤさせられるそうです。でもあの時……ダルモア市長がエステルさんに銃を突きつけた時……。ヨシュアさん……本当に恐い目をしていた……。どれだけエステルさんのことを大切に思っているか判りました。それで、これは見込みがなさそうだなって諦めたんです。………プリネさんでさえ勝てないのに、私なんかが勝てる訳ないですよ。」
「う、うーん……。あたしが言うのもなんだけど諦めるのは早いんじゃないかなぁ。クローゼとあたしじゃ正直、勝負になんないと思うし……ましてやプリネなんか、比べる方がおかしいし…………プリネ、美人でスタイルもいいし、性格もそうだけど、旅をしている時に作ってくれた料理も凄く美味しかったし。………まさに女性の鏡じゃない。」
「そうかな~?ママ、プリネさん達に負けないほど、一杯魅力があると思うけどな………」
「フフ………さすがにミントちゃんはわかっていますね。それにしても、エステルさんって本当にそういう事に疎いんですね。自分がどれだけ魅力的かいまいち自覚してないんですもの。」
「う……。何だかバカにしてるでしょ?」
微笑んで自分を見ているクロ―ゼにエステルはジト目で睨んで尋ねた。
「ふふ、とんでもないです。私、エステルさんのそういう所が大好きですし……。たぶん、ヨシュアさんも同じだったんだと思います。その意味では、私とヨシュアさんは似た者同士なのかもしれませんね。」
「あ……言われてみればちょっとそんな感じがするかも。頭が良くて礼儀正しいところとか涼しげなところとか……。だから最初、お似合いだとかヨシュアを唆(そそのか)したんだけど……」
「私は先生たちと出会うまで孤独な日々を過ごしていました。多分、ヨシュアさんもエステルさんと出会うまでは同じだったのかもしれません。私とヨシュアさんが違うとすれば……それは強さだと思います。」
「強さ?」
「ほえ?」
クロ―ゼの言葉を聞いたエステルとミントは首を傾げた。
「お祖母さまは、次期国王に私を指命しようとなさっています。状況を考えるとそれが最善だとは思いますが……。だけど、女王になれば私は2度と『クローゼ』には戻れない。大きな権力と責任を持つ『クローディア・フォン・アウスレーゼ』として生きていくしかありません。こうして友達と気軽に話したり、先生に甘えたり、あの子たちを抱き締めてあげることもできない……。それが恐くて……。そして、孤独に戻る恐さを感じてしまう自分が情けなくて……。いまだにお祖母さまにはっきり返事ができていません……」
「クローゼ……」
「クロ―ゼさん…………」
辛そうな表情をしているクロ―ゼを見て、エステルとミントはかける言葉がなかった。
「その点、ヨシュアさんは私なんかよりも強いと思います。誰よりもエステルさんから離れたくなかったはずなのに……。それでも、エステルさんを自分の事情に巻き込まないために姿を消したんですから……」
「……確かにヨシュアは強いよ。でも……それは間違った強さだと思う。」
「え……?」
「ママ?」
クロ―ゼの言葉を肯定したエステルだったが、静かに否定し、それを聞いたクロ―ゼとミントはエステルを見た。
「一国を治める女王様だもん。クローゼが悩むのも当然だよ。不安に思うのは当たり前だし、思わなかったらおかしいと思う。そんな風に悩んで、それでも答えを出そうとしているクローゼだからこそ、あたしは女王様にふさわしいと思う。リフィアみたいに、みんなに愛される女王様になれると思う。」
「エステルさん……」
「だけどヨシュアは……。ヨシュアは悩まなかった。悩みもせずに、さも当然のようにあたしたちの前から姿を消して……。あたしね……それが一番、許せないんだ。」
「エステルさん……。……そうですね。ちょっと許せませんよね。女の子の気持ちを何だと思ってるのかしら。」
「そうだよ~!ママ、頑張って告白したのに!それにミントももうすぐパパができると思って、すっごく楽しみにしていたのに~。」
エステルの言葉にクロ―ゼは頷き、ミントも頬を膨らませて頷いた。
「ぷっ……」
「ふふっ……」
「えへへ………」
そして3人は顔を合わせて笑った。
「あたし、クローゼと友達になれて本当によかった。ここまで本音で話せる人ってなかなかいないと思うし……」
「ふふ、私もです。恥ずかしいことばかり語ってしまいましたけど……。えっと、誤解しないで下さいね?私、ヨシュアさんのこと、今ではそんな風には思って……」
「ああ、いいっていいって。好きって気持ちが抑えられるものじゃないってあたしにもようやく判ったし。それに、こういうのも何だか青春っていう気がしない?」
遠慮しようとしているクロ―ゼにエステルは苦笑しながら制した。
「もう、エステルさんったら……。うーん、気持ちが残っていないと言えばウソになりますけど……。それ以上に、お2人のことを応援したい気持ちが強いというか……」
「うんうん、分かってるって。……さてと、すっかり話し込んじゃったね。生徒への聞き込み、続けよっか?」
「あ、そうですね。夕方になる前に回りきってしまいましょう。」
「はーい!」
そして聞き込みを再開したエステル達はさまざまな事を聞き、気がつくと夕方になっていたのでアガットやオリビエ達の情報を照らし合わせるために、一端生徒会室に向かった。
~生徒会室~
「あ、戻ってきたわね。それじゃあ一旦、各自報告をするとしましょ。」
生徒会室に戻って来たエステル達を見て、ジルは既に戻っていたアガットやオリビエ等を見まわして言った。
「各職員から話を聞いてみたが……。用務員が学園の敷地内で怪しい人影を目撃したらしい。旧校舎に通じる裏門のところでいきなり消えちまったそうだ。」
「他の先生方はテストの準備で忙しくて特に気づいた人はいなかったみたい。学食のおばさんと受付のファウナさんからも大した情報は得られなかったわね~。」
「なるほど…………あたしたちは、3人の生徒から気になる証言を聞いたんだけど……」
アガットとジルの情報を聞いたエステルはミントとクロ―ゼと一緒に、ある3人から『白い人影』が現れ、そして全て旧校舎の方に向かった事で終わった事を話した。
「どの証言も、校舎の裏手―――すなわち、旧校舎が鍵になっています。偶然にしては気になる符号ですね。」
アガットや自分達の情報を纏めたクロ―ゼはある共通点がある事に考え込んだ。
「それじゃあ、わたしの成果を発表しますね~。生徒・職員の方々を30枚、学園内の風景を50枚も撮りました~。えへへ。どれも可愛く撮れたと思うよ~。」
「ボクもの方も残念ながら大した収穫はなかったよ。フッ、リュートを演奏したら可愛い仔猫ちゃんたちがいっぱい集まってきたけどね。」
「もう、2人とも全然調査になってないじゃないの。あんまり期待もしてなかったけど……」
そこにドロシーとオリビエが雰囲気を壊すような関係のない話をして、エステル達を脱力させた。
「最後は俺か。過去の資料をあたって同じような事件がないかどうか調べてはみたんだけど……。この学園、建物自体は新しいから怪談めいた話は意外と少なくてね。それも大体が旧校舎に集中してたよ。」
「「「「「「「「…………………………」」」」」」」」
ハンスの説明を聞き終えたエステル達はある事に気付いた。
「どう考えてもその旧校舎ってのが怪しいな。いったいどういう建物なんだ?」
「裏門の奥にある築数百年の古い建物ですよ。20年前まで使われていて、こちらの新校舎が建造されてからは閉鎖されているんですけど……」
「あれ、学園祭の時には旧校舎の中に入れなかったっけ?」
アガットに旧校舎の事を説明しているジルの話を聞いて、ある事に気付いたエステルは尋ねた。
「あの後、魔獣が入り込んだりして危険だから裏門が施錠されたんです。2、3ヶ月は放置されたままだと思います。」
「フッ……。数百年の石造りの建物か。亡霊が住みつくにはピッタリのロケーションだね。」
「うーん……。正直、気は進まないけど他に手がかりも無さそうだし。……今日はもう遅いから明日の朝にでも調べてみない?」
「おや、エステル君。どうして遅いことがあるんだい?」
エステルの提案に首を傾げたオリビエはエステルに尋ねた。
「だ、だって、もうすぐ夜だし、魔獣もいて危険かもしれないし。昼間ですら薄気味悪いのに夜なんかに入った日には……」
「フッ、それがいいんじゃないか。肝試しといえば真夜中。幽霊の正体を掴むのにこの上ない時間帯と言えよう。」
「うんうん。やっぱり心霊スポットの取材に夜は欠かせませんよね~。」
慌てているエステルをオリビエやドロシーは気にせず、行く気満々である様子を見せた。
「ママ………ミント、怖いけど遊撃士としてお化けさんの正体を掴むために頑張るよ!」
「ったく、まだ渋っているのかよ…………ガキがここまで言っているんだから、保護者のお前がしっかりしなくてどうする。」
「う、うーん……。あれっ……」
ミントとアガットの言葉に悩んだエステルは窓に目を向けた時、ある事に気付いた。
「エステルさん?どうしたんですか?」
「うん……。窓の外に何か見えたような。」
クロ―ゼに尋ねられたエステルは答えた後、窓の縁に近寄って、窓の先を見た。
「白っぽい影だったからジークだと思うんだけど……。………………………………白い影?」
エステルが窓の先を見るとそこには仮面をかぶり、白いマントを着た人物が宙を舞っていて、エステルに気付くとお辞儀をした後、旧校舎のほうに飛んでいった。
「………………………」
「エステルさん?どうなさったんですか?」
「ママ?顔が真っ青だよ?どこか具合が悪いの?」
エステルの様子を見て心配したクロ―ゼとミントは尋ねた。
「あは……あはははは……。う、う~ん……」
そしてエステルは笑いながら崩れ落ちて気絶した。
「お、おい!?」
「ママ!?」
「エステルさん!大丈夫ですか!?」
崩れ落ちたエステルを見てアガット達は驚いた後、駆け寄り、そしてアガットがエステルを寮のベッドまで運んだ。
~女子寮~
「……テルさん……。エステル……きて……」
「………マ……目………さま………」
「ん……。あれ……」
途切れ途切れに聞こえて来る2人の声にエステルは目を覚ました。
「あ、エステルちゃん!」
「ママ!!」
「よかった……。目を覚ましたんですね。あの、気分はどうですか?」
エステルが起きた事にドロシーとミントは喜び、クロ―ゼは尋ねた。
「うん……悪くないけど。……………あれ……ここ女子寮よね?どうしてこんな所で……」
そしてエステルはベッドから身を起こしてベッドから離れた。ベッドから離れたエステルはすぐに直前にあった事を思い出した。
「あ、あたし!窓の外に『白い影』を見て!それでっ……!」
「はあ……。やっぱり幽霊を見たわけね。」
「ママ、お化けさんを見たの!?」
エステルの説明を聞いたジルとミントは驚いた。
「エステルさん……。その『白い影』というのはどのような姿をしていましたか?」
一方クロ―ゼは冷静な様子で尋ねた。
「う、うん……。古めかしい衣装を着た、仮面をかぶった男の人で……。白くてボーッと光りながら空中をくるくる踊っていて……。旧校舎の方に飛んで行っちゃった。」
「ポーリィが見た時と同じだ………」
「ふえ~、ずいぶん楽しそうな幽霊さんだねぇ。」
「各地で目撃されたという『白い影』の証言と同じですね。」
「それに、やっぱり旧校舎か。」
エステルの説明を聞いたミントとドロシーは呆け、クロ―ゼとジルは顔を見合わせた頷いた。
「……談じゃないわよ。」
「へっ……?」
「ママ?」
「幽霊だか何だか知らないけど上等じゃない……。ふざけた格好で人を脅かして気絶までさせてくれちゃって……。この落とし前、絶対に付けてやるんだからっ!」
「お、落とし前って……」
「エステルちゃん。幽霊苦手じゃなかったの~?」
エステルの様子を見たジルは驚き、ドロシーは尋ねた。
「あたしが幽霊が苦手なのは居るかどうかわからないから!こうして目撃しちゃった以上、今さら恐がるものですかっ!2度と化けて出てこないようとっちめてやるわ!」
「うーん、逞しいというか、ズレてるっていうか……」
「ふふ……。さすがエステルさんですね。」
「ふわ~………ママ、カッコいい!」
エステルの言葉を聞いたジルとクロ―ゼは苦笑し、ミントは尊敬の眼差しでエステルを見ていた。
その後アガット達と合流したエステル達はジル、ハンスとは別れ、クロ―ゼ、ドロシーを連れて旧校舎に向かった…………
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第193話