「ひっ、こ、来ないでくれ!!」
第34管理世界にある、ある研究所。研究所内はとても酷い惨劇だった。
辺りには研究員と思われる人物が何人も倒れており、人を中心に血の海が広がっていた。更には所々炎で研究所が燃えており、研究所内は熱がこもっていた。
倒れている研究員の中には腕や脚が無いものや、顔が無いものまで存在していた。
このような惨状を生み出したのはたった一人。
高町なのはである。
ヴィータとシグナムに会った第12管理世界にある研究所を破壊してから一週間、アリシアからもう一人で出来るという事をフィルノに伝え、一人で研究所を破壊しに来たのである。
この一週間の間になのはは幾つもの研究所を破壊し、幾つもの研究員を殺した。偶に管理局員が居たりもしたが、その管理局員も邪魔になると思って一人残らず殺している。
そして今、なのははこの研究所の研究長である最後の一人を殺そうとしている。なぜ彼を残しておいたのかというと、聞きたい事がたくさんあったからだ。
壁まで追い詰めると、なのははレイジングハートを彼に向け、そして聞く。
「この要求に答えてくれたら、殺さずに逃がしてあげる」
「そ、それは本当か!?」
「えぇ。ここに居る人体実験に使用されようとしていた被験者達は何処にいるの?」
なのはが聞きたかったのはそれだけだった。
なのはの言葉に研究長は一度拒否をしようとするが、拒否すれば自分が殺される。たとえ管理局の『裏』で働いている人間だとしても、自分の命だけは守りたかった。だから彼はなのはの要求に乗るのであった。
「き、君がから見て右側の扉をまっすぐに歩いて行けば、被験者に使用としていた人達が居る。人体実験に使用した者達は全員死んでいるから、生き残っているのはその部屋に居る者のだけだ」
「そう。教えてくれてありがとう。別に逃げても良いのだけど、あなたは逃げられるのかしら?」
「ど、どういう事だ?」
なのはが言っている事に彼はよく分からないでいた。しかしなのはの微笑みを見て何か嫌な予感がすると察していた。
「だって、私から逃げたとしても、どの道あなたは追われるのよ。管理局の『裏』からね」
その言葉でやっと理解した。なのはの言うとおりだったのだ。もしここでなのはに殺されず逃げ切れたとしても、次に追われるのは管理局だ。口を滑らせないように彼を捕まえ、捕まえられたら口を黙らせるために殺されるという事はなのはの言葉で理解できた。どの道、彼が助かる方法なんて全くなかったのだ。それが分かっていてなのはは逃げるチャンスをあげると言ったのである。
「まぁ、逃げ切れるかもしれないよ。逃げられる可能性が低いとしても、どうにかすり抜けて管理局に捕まえられずに済むかもしれないし」
悪魔だ。と彼はなのはを見て思うのだった。しかしなのはのいうとおり、可能性は低いとしても逃げられる可能性はわずかにあるのは事実だった。ある意味なのはから逃げるチャンスをくれたようなものなのである。
そう理解すると、彼はすぐさま立ち上がって研究所から逃げるのであった。なのははその様子を見て可笑しくてまた微笑みだした。
今のなのははフェイトやはやてなどが知るなのはではなかった。目的のためには人を殺し、更には人で遊んでいる。何度か人を殺したおかげでいろいろとふっ切れていたようだった。
「さて、そろそろ火が回ってきているし、私も急ごうか」
なのははそう言って研究長が指した方向へ向かい、被験者にされようとしていた人達を助ける為に移動するのであった――
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「これでもう五件目か……」
その頃、はやての家には住んでいるはやてとヴィータ、それとフェイトが居た。
はやてが言った五件目とは、エメリアが居た研究所を含めて今までなのはが行った研究所の破壊した数である。その内なのはが人を殺したのは四件であり、ヴィータ達が任務でいた研究所以外は全て人を殺しているという事であった。
これ以上なのはには殺してほしくないと思っていたはやての思いは、数日の内に打ち砕かされたのである。なのはが犯した事件の報告を見ると、今のなのはには人を殺す事に何の躊躇いもないような感じに見えてしまったのだ。
一体、なのはが行方不明の間に何があったのだろうか。その事が気になって仕方なかった。ここまでなのはが人を殺すという事を平気で行うとは思いもしなかったのだ。
そう思っていると、突然はやてに通話が掛かり、画面を開いて通話をする。相手はティアナとスバルであり、内容はまたなのはが研究所を破壊したという事であった。どうやら執務官として駆り出されたティアナと救助隊として駆り出されたスバルが、偶然にも同じ事件と救助を担当する事になったらしい。
仕事が大体片付いたので、はやてに連絡したような感じであった。そしてまたしてもなのはがやった犯行だという事を言ったのである。研究員は全員死亡、研究長も一度は研究所から離れたが、何者かによって殺されたという事を言ったのであった。
「――分かった。教えてくれてありがとうな」
大体な事を聞くと、はやては通話を切り、フェイトとヴィータが座っている方へ向く。
「これで六件目や。相変わらずそこにいた研究員は全員死亡という事は変わらへん」
「チッ、またなのはは人を殺したのかよ!!」
ヴィータはまたしてもなのはが人を殺したことに苛立ち、更にはなのはを止める事が出来ない自分にも苛立っていた。
それはヴィータだけが思っているだけではなく、フェイトやはやて、先ほど連絡してきたスバルやティアナ、それ以外にもシグナムやエリオなどが思っている事であった。
どこの研究所に現れるか分からないなのはを捕まえるのは容易ではない。だから何も対策が出来ずになのはがどこかの研究所に現れて、そこにいる研究員を全員殺している事が繰り返されていたのであった。
苛立っているヴィータをフェイトが落ち着かせると、はやてが口を開いて言う。
「そういえば、なのはちゃん以外の犯行で研究所が破壊され、そこに働いていた研究員が殺されたというケースはあるのか?」
「実はあるらしいよ」
はやての質問にフェイトは答え、持ってきていた鞄からある紙をはやてに見せる。
そこに書いてあった文章は、フェイト・T・ハラオウンの事情聴取を行うと報告であった。
「事情聴取? どないしてフェイトちゃんが?」
フェイトから見せてもらった紙を見て、はやては少し驚いていた。どうしてフェイトが事情聴取なんてする必要があるのかという事だった。
しかしフェイトは事情聴取があるというのに何故か苦笑いをしていた。
「どうやらある研究所の事件の近くで、私の姿を見たという目撃があったらしいの。けど見た感じが今の私より少し幼なかったような感じで、それにその時間帯は仕事で多くの人から私を目撃されていたし、私も目撃された通りの場所に居たから。念のための確認というだけなんだけどね」
「同じ時間帯にフェイトちゃんが二人。なんか気になるな……」
はやての疑問はフェイト本人も思っていた。フェイトが同じ時間に二人いるというのはあり得るわけがない。そうなると片方はフェイトではないという事になり、一体その片方は何者だろうかと思ったのだ。
しかし、そのもう一人のフェイトの存在について、フェイトは一つの予想はついていた。
プロジェクトF・A・T・E。要するにフェイトのクローンをどこかで作ったのではないかと思ったのである。もしくはフェイトと同様にアリシアのクローンというのも考えられた。可能性としてはかなり有り得るのだが、正直この予想だけは外れて欲しいと思っていた。
だがフェイトのクローン、もしくはアリシアのクローン以外の考えはほとんどありえないに近かった。アリシアはとっくに亡くなっているので、アリシアだという事はありえない。だからこそプロジェクトF・A・T・Eという可能性が一番高くなっていたのである。
「…………」
「フェイトちゃん?」
「え? あ、ごめん。ちょっと考え事してた」
いつの間にかもう一人のフェイトについて考えており、はやてに呼ばれるまではやてとヴィータが近くにいるという事を忘れいていたのであった。
はやてはフェイトちゃんの様子からみて、何を考えていたのかとなんとなく察するが、その事については触れない事にした。
「とりあえず、フェイトちゃんの事情聴取はあと一時間くらいらしいから、一度家に帰って準備した方がええんやないか?」
「あ、本当だ。それじゃあ、はやての言うとおりにさせてもらうね」
時間を見て、そろそろ帰らないとまずいと気づいたフェイトはすぐに帰る支度をして玄関まで行き、はやてとヴィータもその後ろから付いて来る。
「それじゃあ、また何かあったら報告してくれる?」
「もちろんや。それと、数日の間に特務六課としてフェイトちゃんを呼ぶかもしれへん。さすがに管理局側も幾つも研究所を壊されていると報告があるし、私がそのための特務六課をまた設立出来ないかと言ったら、簡単に通りそうなのでな」
「分かった。その時は連絡をお願いね。それじゃあね」
はやてからその事を聞くと、フェイトは玄関のドアを開けてはやての家から出ていくのだった――
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J・S事件から八年後、高町なのははある青年に会った。
その青年はなのはに関わりがある人物だった。
だがなのはにはその記憶が消されていた。
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