自分の部屋に戻りディアーチェと二人で夕食を食べた俺はリュックサックから着替えとバスタオルを取り出し、温泉に入る準備をした。
「ディアーチェ、俺今から温泉に入ってくるわ」
「む?そ、そうか…。分かった」
「ディアーチェはまだ入らないのか?」
「我はもう少ししてから行くからユウキは先に行けばいい」
「分かった。また後でな」
「うむ」
俺は部屋を出て温泉に向かった………。
~~ディアーチェ視点~~
ユウキが部屋を出てすぐに我も着替えとバスタオル、シャンプーも取り出す。
「こ、これで準備は出来た。あ、後は我も行くだけだな…。////」
これからの我の行動を考えただけで顔が赤くなってるのが分かる。
女将から聞いた話だと混浴には沢山のカップルや夫婦が入っているだろうと言っておった。
だから男湯と女湯はほぼ貸切りに近い状態だという。
ユウキなら混浴ではなく男湯の方に入っていくだろう。
周りに他の男もおらずユウキと二人で入浴……。////
小学生ならば異性の湯の方に入っても問題無いと言っておったので、我が入る分にはいいだろう。しかしユウキと一緒に行くと入ってくれなさそうだからな。少し時間差を付けていけばユウキも逃げられまい。
「…よし、では行くか」
こ、これでユウキと少しでも距離を縮める事が出来ればシュテル、レヴィ、ユーリ、すずかよりも一歩前に進める。
あやつらがこの旅館に来るとは思わなかったがユウキと同じ部屋にいる我の方がチャンスは沢山ある筈。
覚悟を決めた我は拳をグッ!と握り部屋を出た………。
部屋を出て少し歩くとユウキの後ろ姿を発見した。いかん。少し早過ぎたか?
そう思った我は歩く速度を落とし、ユウキと距離を取りながら浴場へ向かった。
そして浴場前。予想通りにユウキは『男湯』の暖簾をくぐり脱衣所に入って行く。服を脱ぎ、温泉に浸かるまで約3分程かかると思い、我は浴場の入り口が見える廊下の角で一旦立ち止まる。
「(ま…まずはさりげなく温泉に浸かっているであろうユウキの隣に行き、逃がさぬようにせねばな)////」
う、うう腕にでも抱き着けばいいだろう。//
うむ。昼に散歩した時の様に抱き着けばいい…筈。
む?そういえば昼は服を着て抱き着いていたが浴場では………。
…………
……
い…いかん。抱き着こうと思うだけで緊張してきた。
お、落ち着かねば!!深呼吸深呼吸。
スー…ハー…スー…ハー……。
う、うむ。少しは落ち着いたぞ。
こ…これ以上ここにいても意味はあるまい。色々考えている内に少し時間も経っておるし、い……いいい、いい加減覚悟を決めて行くとするか。//
我は『男湯』の暖簾をくぐり、脱衣所に入る。
どうやら女将の言っていた事は本当の様で、脱衣所の脱衣箱にある脱衣カゴの中にはユウキが脱いだ服以外に他の衣類は脱衣箱や脱衣カゴの中には見当たら無かった。ならこの先にいるのはユウキだけという事になるな。
我も服を脱ぎタオルを身体に巻く。さ、流石に全裸でユウキの前に行く勇気は我には無いからな。//
風呂に入る時もタオルは身体に巻いておくとするか。
そう思いながら浴場に続く扉を開け、ユウキのいる温泉に近付くのだった………。
~~ディアーチェ視点終了~~
~~シュテル視点~~
私は今、自分の宿泊部屋に戻ってきて鞄の中にある着替えとバスタオルを探しています。
まさかディアーチェがユウキと一緒に温泉に入ろうと男湯に向かっていくとは。
以前私はディアーチェ、レヴィ、ユーリに邪魔をされてユウキと一緒に入れませんでした。ユウキが混浴に行く事は無いと思っていたので今回一緒に入る事は諦めていたのですが…。
「フフフ、ディアーチェ。貴方だけに良い思いはさせませんよ」
まずはディアーチェにO☆HA☆NA☆SHIをしないといけませんね。抜け駆けをするのがいかに重い罪なのかを分からせる必要がありそうです。
「ちょ、ちょっと!シュテルは何であんなにキレてるのよ!?」(ヒソヒソ)
「わ、分からないよアリサ」(ヒソヒソ)
「長谷川君と王様のおる部屋に向かったんやろ?そこで何かあったんとちゃう?」(ヒソヒソ)
「誰か、シュテルに聞いてきてよ」(ヒソヒソ)
「む、無理だよアリシアちゃん。今のシュテルちゃんに声を掛けるなんて自殺行為だよ」(ヒソヒソ)
「こ、怖いの。今のシュテルに闘いを挑んだら絶対に瞬殺されるの」(ヒソヒソ)
「ヤ、ヤバイよユーリ。今まで見た事も無いくらいシュテるん怒ってるよ」(ヒソヒソ)
「ふ、震えが止まりません」(ヒソヒソ)
???後ろでなのは達が何か言ってますがどうしたのでしょうか?
…まあ今はどうでもいいです。ユウキは鈍感ですからディアーチェの気持ちには気付いていないでしょうし。
しかし今回の一件で万が一にでもディアーチェを意識する様な事になればディアーチェにとって大きなアドバンテージになります。それだけは避けねばなりません。
ですが逆にこれはチャンスです。ディアーチェを排除すればユウキと一緒に入浴できます。そ、それに少しは私の事を意識してくれるかもしれませんし。///
着替えとタオルを鞄から取り出し私は立ち上がります。するとなのは達が突然ビクッ!と反応します。
「???どうかしたのですか?」
「え、えーっと…シュ、シュテルは何処かに行くのかな?」
なのはがおずおずと遠慮がちに聞いてきます。
「ええ、温泉に入ろうと思いまして」
その言葉に他の者も反応します。
「そ、そういえばそろそろ入るのも悪くないわね」
「う、うん。時間的に丁度良いと思う」
「ほな、準備して入りに行こか~」
「「「「「「「賛成~」」」」」」」
皆も温泉に入りに行く様ですね。ですが一緒に来られると困りますね。私が男湯に行くといったら何て言うでしょうか。レヴィとユーリ、それにすずかは着いてきそうですし…。
「なら私は先に行きますね」
着替えやタオルの準備をしている皆に私は声を掛けた。
「えっ?少し待ってくれないかな?すぐに準備するから」
フェイトはそう言って私を止めようとしますが…
「私は少しでも早く(ユウキと)温泉に浸かりたいのです。それとも私が先に行ってはいけないのですか?」
私は一応笑顔で聞き返します。片手には着替えとタオル、もう片手にはルシフェリオンをなのは達の方へ向けながら。
「「「「「「「「いえ!どうぞお先にお楽しみください!!」」」」」」」」
皆が敬礼して私を見送ってくれます。敬礼までする必要は無いと思うのですが…。
まあいいでしょう。
「ありがとうございます。ではお先に」
そう言って私は部屋を出ます。そして目的地である(ユウキのいる)温泉に向かうのでした………。
~~シュテル視点終了~~
カポーーーン……。
はあ~~~~~~~。
頭にタオルをのせ俺は今温泉を堪能している。
温泉は良いねえ。日頃の疲れやO☆HA☆NA☆SHIで摩耗した精神が徐々に回復していく様に感じるよ。正にリリンが生み出した文化の極みだねえ。
しかも俺以外には誰もいないので貸切りみたいだ。
「うーーーーー。きもちいーーーーーー」
温泉の温度も丁度良く、思わず気が抜けてしまう。このままだらけたら溺れそうだがそれぐらい温泉が気持ち良いのだから仕方がない。
ガララララッ…
ん?扉の開く音が聞こえたが誰か入ってきたのか?
まあ俺がこの温泉を貸切りにしてるっていう訳じゃないから別の人が入ってきても不思議じゃないよな。
それにしても混浴の方は随分と騒がしいね。複数のカップルや夫婦が入ってるみたいだけど赤の他人達に裸とか見られて平気なのかねえ?
チャプッ…
っと、さっき入ってきた誰かさんが温泉に入ってきたみたいだな。
それにしても『男湯』は室内なのが残念だねえ。窓を覗けば外は見えるけどこういう温泉は屋根の無い屋外の方が俺的には好きなんだがなあ。だからといって屋外に温泉がある『混浴』に今は入りたくないね。
「き…気持ち良い湯だな///」
さっき入ってきた人かな?俺に喋りかけてきた。……それにしてもどこかで聞いた事有るような声色だな。
「ん~そうですね~」
…まあいっか。はふう~…。
「きょ、今日は旅行に来て良かったと思っているか?///」
俺が今日旅行に来てるってよく知ってるな~。
「ですね~。連れてきてくれた連れには感謝しないと」
「そ、そうか?そんなに感謝しているのか?///」
「そうですね。アイツの我が儘を一つぐらいなら聞いてもいいかな~なんて思ってますよ」
「っ!!………な、なら今我の我が儘を聞いてもらっても良いか?///」
「あ~、別にいいです……」
……チョットマテ?俺はディアーチェの我が儘を聞くと言ったのに、何故見知らぬ人の我が儘を……いや、その前にこの人は今自分の事を『我』と言わなかったか?俺の知る限りそんな一人称を使うのは一人だけだし。それにさっきも思った聞いた事のある声色……。
俺はさっきから会話していた人の方を向く。そこには…
「…………////」
顔を赤くしてこちらを見ているディアーチェさんがおりました。
ザバアッ!
「な…な、なな、ななななななっ!!!」
思わず立ち上がりディアーチェに指を差しながら声を出そうとする俺。しかしかなり動揺して中々言葉を上手く出せない。
「…………////////」
そのディアーチェさんは顔を更に赤くさせて俺……というより立ち上がった俺の下半身に目を向けている。今の俺は全裸でありタオルも頭の上に乗せているので必然的に立ち上がると大事な部分が丸見えになってしまう。
「~~~~~っ!!//////」
ザブンッ!
再び温泉に浸かる俺。頭に乗せていたタオルを掴み、座ると同時に下半身に右手で掴んだタオルを当て腰に巻き大事な部分を隠す。そしてディアーチェに背中を向ける。多分今の俺のぼせてるみたいに顔が真っ赤になってるだろうな。
「……見たか?///」
「……済まぬ////」
「……気にするな。ディアーチェは悪くないから///」
「う、うむ……////////」
それからしばらくお互いに顔を赤くしたまま黙り込む。
しかしこのまま喋らないと気まずいので俺は口を開く。
「そ、そういえばさ。さっき言おうとしてたお前の我が儘って何だ?」
「わ…我が儘か?それはだな…///」
ディアーチェは一呼吸置き
「わ、我と身体の洗いっこをその…してくれぬか?///」
……ナンデスト!?
「わ、我がお前の身体を洗ってやるからユウキはわ、我の身体を…その…////」
言ってて恥ずかしいのか語尾が段々と小さくなっている。
「いやいやいや!!おま、お前何言ってるのか分かってるのか!?もうのぼせてるんじゃないよな!?」
ついつい大声を出してしまった。声がよく響くので混浴や女湯の方にも聞こえてるだろう。
「まさか嫌だと言うのではあるまいな?ユウキが自分で言ったのだぞ。『我の我が儘を一つ聞いてくれる』と」
「うぐっ!そ、それは…」
確かに俺は言ってしまった。今更自分の言った言葉を取り消す訳にはいかないし。けど洗いっこって…。
そもそもディアーチェと一緒にいるこの状況だけでも恥ずかしさでいっぱいいっぱいなのに。
しかし彼女は俺に追い討ちをかける。
「ユウキ…そんなに嫌なのか?我の事…嫌いなのか?」
「いえ、決してその様な事は…」
「……」(ウルウル)
ディアーチェの目元に涙が溜まり始める。
だからその涙目攻撃は止めてくれ!俺は悪くない筈なのに罪悪感で押し潰されそうになるんだよ!!
「……せめて背中だけで勘弁して下さい」
俺撃沈…。
無理です。女の子の涙には勝てません。
「そ、そうか!?我はそれでも構わん!!」
一転して笑顔になるディアーチェ。そして俺の手を掴み
「な、なら『善は急げ』という。は、早くその…洗いっこするぞ///」
浴場から引っ張り出そうとする。
「分かったから引っ張らないでくれ。足を滑らせて頭でも打ったら大変だから」
そう言ってディアーチェを落ち着かせる。
「う、うむ!ではそこに座れ!わ、我から先に背中を洗ってやるから///」
壁際にある蛇口の側にまで俺を連れてくると近くにあった風呂椅子を持ってきて俺を座らせる。そして石鹸を泡立てタオルでゴシゴシと背中を擦ってくれる。あ、力加減が絶妙で気持ち良いかも。
「ど、どうだ?」
「ん、気持ち良いぞ」
「そ、そうか?まあ我に任せればこ、これぐらいは造作も無いからな///」
そういって少し擦る力を強めるが痛くはない。
それから2~3分背中を洗ってくれたディアーチェ。
そして洗面器に溜めたお湯を身体にかけ、洗い流してくれる。
もう終わりって事かな?なら今度は俺の番か。
「じゃあ今度は俺が洗ってやるから座れディアーチェ」
そう言って立ち上がり後ろを振り向くと
「で、ではよろしくお願いします////」
「んぐ!!む~~~~~!!!」
バスタオルを身体に巻き頬を染めて洗面器を持っているシュテルとバインドでグルグル巻きにされ口も塞がれているディアーチェがいた。お湯をかけてくれたのはシュテルだったのか…………じゃねえ!!
「シュシュシュ、シュテル!?え?何で!?何でここにいんの!!?てかいつ来たの!!?」
「たった今です。ユ、ユウキとお風呂に入ろうと思いまして///」
「マジで!?本気で言ってるのか!!?」
「はい。以前は一緒に入れませんでしたから///」
そういや以前もシュテルは俺と風呂に入りたいと言ってた。その時はレヴィ、ディアーチェ、ユーリがO☆HA☆NA☆SHIしたんだっけ(返り討ちに合ってたけど)。
「さあユウキ。その……私の背中を洗って下さい///」
自分で言って更に顔を赤くしていくシュテル。
「待て待て待て!!一つ疑問がある」
「???何ですか?」
首を傾げ聞き返してくるシュテル。
「何でディアーチェをルベライトで縛っているのかって事だ」
シュテルの後ろでは未だにディアーチェがジタバタともがいている。何で縛ったのかは分からないがここまでする理由があるのか?
「ディアーチェが抜け駆けしたのでO☆HA☆NA☆SHIする為です」
そういってディアーチェを見るシュテル。その瞳からは光が消える。ディアーチェは一瞬ビクッ!と身体を震わせるがすぐにシュテルを睨む。
「抜け駆け?何のこっちゃ?」
俺が疑問符を浮かべていると
「広い!!広くて気持ち良さそうだねユーリ」
「そうですねレヴィ」
壁の向こうの女湯の方から声が聞こえてきた。入ってきたのはレヴィとユーリみたいだな。
「あれ?シュテルがいないの?」
「ホンマや。先に温泉行くって言うてたのになー」
「旅館で迷子になってるとか?」
「シュテルちゃんに限ってそれは無いと思うけど」
他にも知っている連中の声が聞こえてくる。どうやら皆で温泉に入りにきたみたいだな。
「ていうか向こうにいる皆さんはお前の事探してるみたいなんだが?」
「ユウキは気にしなくてもいいですから。と、とりあえず私の背中を…その…///」
頬を染め、俯きながら身体をモジモジさせているシュテル。
「とりあえずディアーチェを放してあげてくれ」
「嫌です」
拒否られた。でも流石に
「んぐっ!!んうう~~~っっ!!!」
ジタバタジタバタ
……しょうがないな。
俺はバインドで縛られているディアーチェの元に行き、
「
俺のレアスキルを発動させる。
俺の足元に淡い光が現れ俺を中心に円状に展開される。
そしてディアーチェが
『
発動地点から半径10メートル内にいる者の能力を無効化する能力。発動範囲に入ればどんな能力でも無効化出来る。この世界に限って言えば魔力は当然の事、特殊能力やレアスキルですら封じる事が可能。更に無効化の対象は自分で指定出来るので敵味方が入り混じった乱戦の最中でも敵の魔力やレアスキルだけを一方的に封じられる。ガジェットが使用するAMFの完全な上位版。このスキルも俺の成長次第で発動範囲が更に大きくなる。
「っ!?私のルベライトが!?」
突然バインドが消えた事に驚くシュテル。そして
「感謝するぞユウキ。…シュテル、貴様よくもやってくれたな!!」
憤怒の表情を浮かべるディアーチェ。まあ気持ちは分かるが出来れば声を抑えてほしかった。何故なら…
「えっ?今の声ってディアーチェよね?」
「壁の向こう側から聞こえてきたけど…」
「ディアーチェ、もしかして混浴に入ってるのかな?」
「しかも『ユウキ』って呼んでましたよね?まさかディアーチェはユウキと混浴に!?」
「でもこっち側の壁の向こうって男湯だった様な…」
「しかも『シュテル』って大声で言ってたの」
「じゃあシュテルと王様と長谷川君は三人で男湯におるっちゅー事か!?」
ダダダダダダッ×3
「ちょ!?すずか、レヴィ、ユーリ!?何処に行くの!?」
やっぱり女湯にいる皆が騒ぎ出したよ。
「ユウキ!!どうしてディアーチェを助けるのですか!?」
「いえ、どうしてと言われましても…」
俺に詰め寄ってくるシュテル。しかし
「そんなの決まっておるだろう!」
自信満々にディアーチェが答える。
「ユウキが背中を洗うのは…その…わ、我だと決まっておるからだ!!///」
え?何か勝手に解釈されちゃってるよ?俺はただルベライトで縛られているディアーチェが可哀相だったからであって…
「なっ!?違います!!ユウキに洗ってもらうのは、わ…私です!!///」
シュテルさんも!?君とは約束すらしてないのに!?
「「「それ、どういう事?(ですか?)(なのかな?)」」」
そして新たな乱入者達が姿を現す。何か余計に話がややこしくなりそうな予感。
「ねえ…。何でシュテるんは男湯にいるの?」
「ディアーチェちゃんもだよ。女湯はあっちだよ?」
「二人共、抜け駆けはズルいと思いますよ?」
こちらを見て瞳から光を消したレヴィ、すずか、ユーリの三人が声を出す。ユーリも言ったけど抜け駆けって本当に何なのさ?
「ええい!この面倒な時に!」
「全く、厄介なタイミングで来ましたね」
ディアーチェとシュテルも『チッ!』と舌打ちして三人を見る。
そして五人でギャーギャーと言い合い始めた。俺の事は全く無視して。
「あの~…言い争う前に男湯から出て行ってほしいのですが…」
そんな俺の言葉も五人には聞こえておらず、言い合いは更に激しさを増していく。
俺は『はあ~』と溜め息をひとつ吐いて浴場を後にする。もうここにいても俺の疲れは増すばかりだろうし。
『何で温泉に来てもゆっくり出来ないのだろう』と思いながらも俺は服を着替えて部屋に戻るのだった………。
部屋に戻った俺はお茶を一杯飲んで20分程テレビを見ていた。すると不意に眠気が襲ってきたので布団を押入れから出して寝る準備をする。
今日は疲れた。温泉はあまり堪能できなかったが、まあまた朝一にでも入ればいいだろうからもう寝よう。
電気を消し布団に潜り込む。
ガチャッ
…扉の開く音がした。ディアーチェが帰ってきたのか?
「む?電気が消えておるな。ユウキ!部屋に戻ってるのか?」
やっぱりディアーチェだった。部屋の電気をディアーチェが点けたので俺は上半身だけを起こし
「ああ、もう寝ようと思ってな。流石に今日は疲れた。特に誰かさん達が温泉で喧嘩し始めてからはな」
「うっ!す、済まぬ…」
少し表情が暗くなって謝ってくる。俺はクスッと笑って
「いいよ。気にしてないし。ただ、あんなに大声で言い合ってて周りに迷惑かかってたんじゃないのか?」
「う…うむ。混浴にいたらしい恭也に怒られてな」
「ああ、恭也さん混浴にいたんだ」
じゃあ忍さんも一緒だったんだろうなあ。
「そこで我等全員落ち着いたのだがいつの間にかお前が温泉からいなくなってるし…」
「……俺一応温泉を出る際に皆に声かけたからな」
「そうなのか!?」
「そうなのです」
やっぱり聞いてなかったんだな……。まあいいけどさ。
「それであの後どうしたんだ?」
「全員で女湯に戻って普通に入浴したな。流石に頭も冷えたしやり合う気力も萎えたしな」
「そっか。あ、他の皆は?」
「自分の部屋に戻ったぞ。今回は皆にも迷惑を掛けてしまったしな」
肩を落としショボンとするディアーチェ。反省はしている様だ。
「まあ反省してくれるなら良いよ。次からは同じ事しなきゃいいだけだし」
というよりも男湯に乱入してこなければ何も起きなかったと思うのだがね。
「それよりディアーチェはまだ起きてるのか?」
「ん?いや、我ももう寝ても良いと思っているがどうかしたか?」
「ん~、電気消さないならアイマスクでも着けて寝ようかなと」
「…お前、そんな物持ってきてたのか?」
「『備えあれば憂いなし』ってね」
ゴソゴソと自分のリュックサックを漁り、アイマスクを取ってディアーチェに見せる。
「…はあ~、まあ良い。我ももう寝る」
そう言ってこちらに近付き、俺の方をみた後少し頬を染めて何故か俺の布団に潜り込んでくる。
「?ディアーチェ。布団なら押入れにちゃんと入ってるぞ?」
「よ、良いではないか。我も疲れているのだ。布団出すのも面倒くさいと思う程にな///」
顔を赤らめ布団に潜り込んだディアーチェがこちらを見ながら言う。
「…しょうがない。布団出してやるから待ってろ」
俺は身体を起こし布団から出ようとするが
「ま、待て!ユウキも疲れているのだろう?なら無理はしなくても良い。わ、我はこのまま同じ布団で寝ても問題はな、無いからな///」
何故か慌てて俺のパジャマの裾を掴むディアーチェ。
「でも二人で寝ると窮屈じゃないか?それに布団の大きさも結構ギリギリだし…いや、二人で寝ると少し身体が布団からはみ出てしまうな」
はみ出るといっても片腕がでる程なので気にする程でもないんだが。
「わ、我に案がある。だからユ、ユウキも一旦横になってくれぬか?///」
俺に寝転ぶように指示してくる。
俺は頭に疑問符を浮かべながらも言われた通りに横になる。すると
ギュッ!
「こ、これならば二人共布団のなかに収まるであろう?////」
あろう事か身体の向きをこちらに変え俺を抱き枕の様にして抱き着いてくるディアーチェ。
「ディ、ディアーチェさん!!?」
突然の事に驚く俺。確かにそんだけ密着してくれたら布団からははみ出ないだろうけど…。
「さ、さあ寝るぞユウキ!!////」
更に力を込めて抱き着いてくる。………って!!?
「い、痛い!痛いよディアーチェさん!?その身体強化は無意識にやってんの!?それとも意識してやってんの!!?」
そう訴えるが顔を真っ赤にしているディアーチェは何故か俺の声が届いていない様子である。
魔力で強化して抱き着いているのでとても同い年の女の子が出せるとは思えない程の力で俺の身体がギシギシと悲鳴を上げている。
ヤバい!!このままじゃほ、骨が…!!
「お…
即座に
身体強化が解除され、力が弱まった隙に俺は布団から飛び出す。い…痛かった。
「ちょっ!?ユウキよ何故離れるのだ!?」
俺がいきなり離れた事で驚きつつもやや不満そうな表情で言うディアーチェ。
「身体強化してまで抱き着く理由あんのか!?メチャ痛かったぞ!!」
「きょ、強化などしておらぬわ!!」
「してましたよ!?してなかったら俺が
強化魔法は無意識だったのか!?まあ意識的に使われても困るのだが…。
「そ、そうなのか!?それはその…済まぬ」
「……謝ってくれたからいいけど。第一さっき何か考えてたのか?俺が『痛い』って言ったけども聞こえてなかったみたいだし」
「それは…ユ、ユウキに抱き着いて寝れると思うとは、恥ずかしくなってな////」
「…やっぱ布団出そうか?」
この調子で一緒に寝たら俺はまた無意識に身体強化を使ったディアーチェに抱き着かれ絞め殺されるのではないだろうか?
…駄目だ。考えると怖くなってきた。
「い、いや!!大丈夫だ!!もう強化はしないと誓うから!!だから我と一緒に…その……////」
またまた顔が赤くなっていく。
「…まあそこまで言うなら信じてもいいけどまた強化魔法使うようなら俺は一緒には寝ないからな」
「わ、分かっておる!!」
コクコクと首を振りながらも答えるディアーチェ。そして自分で自分にリミッターをつけ魔法が発動しないようにしている。
「じゃあ改めて寝ますかね」
そういって俺は部屋の電気を消して再び布団に潜り込む。ディアーチェは俺が布団に入ってすぐに抱き着いてきた。
それからしばらく経つと睡魔が再び襲ってきた。意識を手放す前にディアーチェの方を見るとすでにディアーチェは眠っていた。
俺はそれを確認してからゆっくりと瞼を閉じ意識を闇の中に沈めていった………。
~~ディアーチェ視点~~
我は今ユウキと同じ布団に入り二人で寝ている。シュテル達が乱入してきたせいでユウキが温泉で我の背中を洗ってくれなかった事は不満だったがこうやってい、一緒に寝られると言うのも悪くはないな。///
今回はシュテル達の邪魔が入らぬ様、認識阻害の結界を部屋に張っている。これでシュテル達がサーチャーで監視していたとしても我とユウキが別々の布団で離れながら寝ておる様に見える筈だ。
…以前シュテルがユウキと一緒に寝ているのを目撃した時はシュテルの事を羨ましく思ったものだ。後でシュテルに聞いてみた所…
『最高の寝心地でしたね。ユウキの温もりを側で感じられて幸せでした////』
頬を染めながら幸せそうな表情で言っておったのを思い出す。
今その体験を我もしておる訳だが…
こ、これは確かに最高と言うのもなるのも頷ける。////
す、好きな者と一緒に寝られるだけでこんなにも幸せな気持ちになれるものなのか!?
しかも我は今ユウキにだ、抱き着いておるから余計にユウキの体温を感じて…。////
ユウキの身体は特に体つきが良い訳でもなく年相応の子供と同じように華奢な体つきをしている。柔らかくて抱き心地が良く、抱き枕としては最高だな。我専用の抱き枕になってくれぬだろうか?////
そんな事を考えていると少しずつ眠気が襲ってきた。
今夜は良い夢が見れるだろうと思いながら我は意識を手放していった………。
~~ディアーチェ視点終了~~
それから次の日、目を覚ました俺は横で寝ているディアーチェを起こさぬ様にゆっくりと布団から抜け出し昨日にあまり堪能できなかった温泉を朝からじっくり堪能した。それから部屋に戻りディアーチェが起きるまではテレビを見て過ごし、ディアーチェが起きるのと同時に朝食も運ばれてきたため、二人で朝食を食べて帰る準備をし始めた。準備をしてる最中にシュテル達が来たのだが俺達が帰る準備をしてるのを見て驚いていた。どうやらシュテル達は昼食も食べてからチェックアウトするみたいだったらしい。一緒に帰ろうとは言われたが特急電車の指定席をとっていたので乗り遅れたりすると特急券が無駄になってしまう。なので皆には『お先に失礼します』と挨拶して先に旅館を後にした………。
それから海鳴市に戻ってきた俺とディアーチェ。時間は昼前。
特に寄り道などせずに家に帰ってきた俺はある事を思い出した。
「ディアーチェ。昨日撮ったプリクラまだ貰ってないんだけど?」
「む?そういえばそうだったな。確か…」
ゴソゴソとリュックサックの中からプリクラを探すディアーチェ。
「っとあったぞユウキ。ほれ」
「サンキュー」
一枚貰いそれを携帯の裏面に貼り付ける。
「今回の旅行は楽しかったか?ディアーチェ」
「まあな。シュテル達が来なければ最高だったのだが」
ブスッとした表情で答えるディアーチェ。
「…なあ、お前等ケンカでもしたのか?もしそうならちゃんと仲直りしてほしいんだが…」
旅行先の旅館で皆と会ってから不機嫌なんだよな。特にシュテルとよく衝突しているし…。
「…心配いらぬ。ケンカ等はしておらんからシュテル達が帰ってくればまたいつも通りに戻る」
そんなに不機嫌そうに言われると説得力がなあ…。
まあ本人がこう言ってるから信用するしかないか。
「あやつらにとっては『ユウキと二人で旅行』というのが許せんのだろう」
「う~ん…。やっぱり仲間外れにされたとか思ってたのかな?でもペアチケットだったからしょうがない訳だし…」
俺が頭を捻って考えていたらディアーチェが呆れた様な表情でこっちを見ている。
「???どうしたんだ?」
「お前はホントに…いや、いい。どうせ気付いてないのは分かってる事だしな」
ハア~と溜め息を吐いて答えるディアーチェ。気付いて無いって何にさ?
「まあそんな事はどうでも良い。あやつらが帰ってくるまでに掃除と洗濯を済ませるぞ」
「あっ、うん。さっさとやっちゃおうぜ」
そうやってリュックサックの中から衣類を取り出して洗濯機に放り込みディアーチェと二人で家の掃除を始める。一日しか空けてないのだから部屋が特に汚れている訳ではないのだが。
「…なあユウキ」
「ん?」
不意にディアーチェが声を掛けてきた。
「またいつかふ、二人きりで旅行に行きたいな?///」
「二人きり?シュテル達と一緒じゃなくてか?」
「む~。お前はシュテルの事ばかり気にしておるな…まさか!?シュテルの事が!?」
「???シュテルがどうかしたのか?」
「…心配するだけ無駄だな。お前はそういう奴だから」
何か失礼な事言ってくれるなヲイ。
「それよりも旅行の事だ!!お前は我と二人で行きたくないのか!?」
やや怒り気味で聞いてくる。
「いやだから家族皆で…」
ギロリッ!!
「…行くのもいいけどディアーチェと二人ってのも悪くないな!うん!!」
「そ、そうか!『二人』で行きたいか。な、ならいつか絶対二人で旅行に行くからな!!約束だぞ!?」
何度も首を縦に振り頷く俺。何故かは分からないがもしも『二人で行く』と言わなければ俺は悲惨な目に合う様な気がした。
「で、では昼食は我が作ろう。休み前に買った食材があるからな」
そう言ってキッチンに向かい早速料理し始めるディアーチェ。余程約束が嬉しかったのか料理しているディアーチェから鼻歌が聞こえてくる。
アイツがあそこまで喜ぶなんてな。やや強制的だったが約束して良かったなと少し思ってしまう。
それから二人で昼食を食べ、シュテル達が帰ってくるまで俺とディアーチェは静かに家で過ごしていた………。
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神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。