~グランセル城内・侍女控室~
「……お話はわかりました。ラッセル博士の伝言を女王陛下に直接伝えたいと……。つまり、そういう事ですわね?」
エステルとヨシュアから話を聞き終えたヒルダは真剣な表情で尋ねた。
「はい……そうなんです。女王様が本当に調子が悪かったらちょっと考え直しますけど……」
「それは問題ないでしょうが……。女王宮は、先ほどの特務兵によって24時間監視されている状況です。中に入れるのは、公爵閣下と大佐殿、そして身の回りの世話を仰せつかった私や侍女だけなのです。」
「ということは、やっぱり面会するのは難しそうね……」
女王に会うのがかなり難しい事をヒルダから聞いたエステルは溜息を吐いた。
「どうする、エステル?博士の伝言を、ヒルダ夫人に伝えてもらう手もあるけど……」
「うーん、でもやっぱり直接会って話がしたいかも……。デュナン公爵の狙いにリシャール大佐の真の目的……。リフィア達のはあくまでリフィア達の推測だし、まだ判らないことも多いしね。」
ヨシュアに尋ねられたエステルは唸った後、溜息を吐いた。
「今、『リフィア』という名前が出て来ましたが………」
一方ヒルダはエステルから出て来たある人物の名前を尋ねた。
「あ、はい。………どうしよう、ヨシュア?」
「ヒルダさんなら話してもいいと思うよ。」
「そうね。………実はあたし達、メンフィル大使に依頼をされて、リフィア達と旅をしているんです。」
「メンフィル大使………リウイ皇帝陛下から!?という事は先ほどの『リフィア』という方はやはり、リフィア殿下ですか………」
「後、第2皇女のプリネもいっしょに旅をしています。」
「プリネ姫まで………」
リフィア達と旅をしている事を知ったヒルダは驚いた。
「あ。やっぱり、リフィア達の事を知っているんだ?」
「………プリネ姫とは面識がありませんが、リフィア殿下とは何度か会った事があります。リウイ皇帝陛下という”王”が傍にいるのに関わらず自分なりの”王”を目指す独立独行な方で、自分の生まれを鼻にかけなく、常に民を思う素晴らしい跡継ぎだと私は思いました。プリネ姫も話に聞く所、リフィア殿下とはまた違った素晴らしい皇女であると聞きます。」
「あはは……リフィア達の評価って相変わらず凄い事ばっかり聞くわね。………とりあえずこの話は置いておいて、今は女王様に会う事ね。」
「……エステル殿、ヨシュア殿。私に少々考えがあります。晩餐会が終わったらまたここに来て頂けますか?」
「え、それって……」
「僕たちが女王陛下にお会いできる手段があるということでしょうか?」
ヒルダの提案にエステルは驚き、ヨシュアは尋ねた。
「そう考えて頂いても結構です。難しいかもしれませんが……試す価値があるかもしれません。ただ、いささか用意が必要なので晩餐会が終わってからでもいいですか?」
「やった、ラッキー!」
女王に会えるかもしれない事にエステルは明るい表情をした。
「わかりました。晩餐会が終わったら伺います。」
「お待ちしております。料理の下ごしらえが終わったのでそろそろ晩餐会も始まると思います。一度、お部屋に戻った方がいいかもしれませんね。」
そしてエステル達は自分達の客室に戻った。
~グランセル城内・客室~
「よう、エステル、ヨシュア。ずいぶんと遅かったじゃないか。そろそろ晩餐会が始まる時間だぜ?」
「ごめん、ジンさん。あちこち見物していたらつい時間を忘れちゃってさ~。それに、各地の市長さんたちと色々と話してきちゃったの。」
待ちくたびれている様子のジンにエステルは謝った後、説明をした。
「へえ、お前さんたち、お偉いさんと知り合いだったのか?」
エステルの説明を聞き、ジンは驚いた後尋ねた。
「ロレントの市長さんとは普段から親しくさせてもらっているんです。他の方たちとも、旅をしている時に知り合った方々ばかりです。」
「なるほどな。確かに、遊撃士の仕事をしてたらお偉いさんと知り合う機会は多いか。しかし、その様子じゃ、ずいぶん活躍してるみたいじゃないか?」
ヨシュアの説明に納得した後、ジンはエステル達がさまざまな所で活躍している話を持ち出した。
「えへへ……それほどでも。ジンさんは、王都に来てから何か遊撃士の仕事はやったの?たしか、他の国でも同じように仕事ができるのよね?」
「ああ、正遊撃士だったら国籍に関係なく仕事ができるが……。予選だの、大使館の手続だので仕事を受けてるヒマはなかったな。まあ、他にも遊撃士が4人いたから出る幕がなかったとも言えるがね。」
エステルの疑問にジンは溜息を吐きながら答えた。
「確かにこれだけ遊撃士が集まったら大抵の事件はすぐ解決しそうですね。ただ、王都に集中している分、他の地方支部は大変そうですけど……」
「わはは、そうかもしれんなぁ。」
「うう、なんだか今さら申しわけない気がしてきたわ。シェラ姉、ロレントで今ごろどうしてるのかしら……」
ヨシュアの言葉にジンは呑気に笑い、エステルは申し訳なさそうな表情をした。
「たしか前にもその名前を口にしていたが……。そのシェラ姉ってのはひょっとしてシェラザードのことか。」
「え……知ってるの!?」
ジンがシェラザードを知っている様子にエステルは驚いた。
「はい、僕たちの先輩で昔から親しくさせてもらっています。」
「なるほど、そうだったのか。前に彼女がカルバードに来た時に知り合ったことがあってな。いい師達に恵まれていたらしく、若いながらも見所がある娘だった。」
(その師達って……)
(うん、父さんと闇の聖女さんのことだね。)
コンコン
その時、部屋がノックされてシアが入ってきた。
「失礼します。晩餐会の支度が整いました。ご案内してもよろしいでしょうか?」
「おお、待ちくたびれちまったぜ。さ~てと、それじゃあタダメシにありつくとするかね。」
「うん、さすがに試合の後だからすっごくお腹が空いてきちゃった。さ~、食べまくるわよ~♪」
「あの、2人とも……。一応、テーブルマナーなんかも忘れない方がいいと思うけど……」
ジンとエステルの様子にヨシュアは内心冷や汗を垂らして、苦笑しながら言った。そしてエステル達はシアの案内によって、晩餐会が開催される広間に向かった。
~グランセル城内・1階広間~
「えっと……。これって夕食会なのよね?どうして食器だけが並んで肝心の料理がないの?ナイフとフォークがいっぱい並べられてるし……」
目の前の光景に首を傾げたエステルはヨシュアに尋ねた。
「正式なディナーだからね。前菜から順番に色々な料理が出てくるんだ。あと、ナイフとフォークは外側から使っていくんだよ。」
「うぐっ……テーブルマナーってやつね。ちょっと緊張してきちゃった。」
ヨシュアの説明を聞き、エステルは唸った後、緊張して溜息を吐いた。
「うふふ……。あまり気にする事ありませんわ。料理というものは美味しく頂くのが一番ですから。マナーや礼儀作法は二の次ですわ。」
「そうじゃそうじゃ。聞けば、君たち2人は出席しておる者たち全員と知り合いだそうじゃないか。固くなる必要はなかろう。」
緊張しているエステルに招待客であるメイベルやクラウスは場を和ませた。
「あ、それもそっか♪」
「それで納得しないでよ……」
あっさり納得したエステルにヨシュアは呆れて、溜息を吐いた。
「そういえば、そちらの方はナイフとフォークでよろしいんですの?東方の方々は、お箸の方が得意だと聞きましたけど。」
「ほう、よくご存じですな。ですが、郷に入っては郷に従えとも言いますからな。不調法ながらナイフとフォークを使わせてもらいますよ。」
「まあ……ご立派ですわ。さすが武術大会で優勝された達人の言葉は違いますわねぇ。」
「はっはっは。いやあ、それほどでも。」
(つくづく美人に弱いのねぇ……)
(まあ、女好きって感じじゃないと思うけど……)
メイベルに感心され、照れているジンを見てエステルとヨシュアは苦笑した。
「それにしても……公爵閣下はずいぶん遅いですな。いったい何をしてるんでしょう?」
「ふむ……確かに。それと上座は公爵閣下としてそこの席は誰が座るのじゃろうか?」
マードックの呟きを聞き、クラウスも首を傾げた。
「そうですな……。クローディア姫という可能性もあるかもしれないが……」
コリンズはクラウスの言葉に頷きながら、推測をした。
「皆様……大変長らくお待たせしました。公爵閣下、ご入室でございます。」
そこにフィリップが入って来て、礼をした後、入口の傍に控えた。するとデュナンを始めとし、リシャール、カノーネが入って来た。
「いやはや、諸君。待たせてしまって申しわけない。少々、打ち合わせが長引いてしまったものでな。彼はリシャール大佐。
王国軍情報部の責任者でな。テロ事件を解決するために日夜、尽力してくれているので礼の意味も込めて招待した。」
「お初お目にかかります。王国軍情報部のリシャールです。公爵閣下の格別のご厚意で晩餐会に招待していただきました。
無粋な軍服で失礼ですがどうか同席をお許しいただきたい。」
デュナンはリシャールを紹介し、紹介されたリシャールは丁寧に自己紹介をした。そしてデュナンはフィリップを後ろに控えさせて上座に座り、リシャールはマードック達が気にしていた空席に座り、カノーネはリシャールの後ろに控えた。
(ま、まさか大佐と一緒のテーブルで食事するなんて……)
(予想はしていたけど、やっぱり少し緊張するね……)
リシャールが現れた事にエステルは嫌そうな顔をし、ヨシュアは表情を引き締めた。
そうして晩餐会が始まった……………
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第138話