No.457131

魔法少女リリカルなのは~生まれ墜ちるは悪魔の子~ 二十四話

地獄のしごき

2012-07-22 00:20:08 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2338   閲覧ユーザー数:2249

魔法が最も栄える地、ミッドチルダ

 

その巨大な地の中心にそびえ立つ塔こそ時空管理局本部である。

 

別名・法の塔と呼ばれるそれは広い青空の下、とてつもない存在感を醸し出していた。

 

まるで、街を見下ろしているかのように……

 

 

 

 

 

 

 

管理局本部が肉眼で確認できる場所に、普段から局員が訓練に使うための訓練場があった。

 

いかなる状況を想定したシミュレーションを実現させる最先端のテクノロジーと魔法を駆使した最新鋭の訓練を提供している。

 

そこへ向かっている三人の影があった。

 

「悪いわね。急にやってきて訓練場をかしてもらって」

「いいわよ、他ならない親友の頼みですもの」

「ああ~ん。ありがとう~レティ~」

 

リンディと抱き合うようにじゃれ合う女性は時空管理局本局運用部の提督・レティ・ロウラン

 

リンディとは親友同士であり、今回の行き先である訓練場も彼女の名で借りたと言っても過言ではない。

 

「私としても興味があったのよ。あなたが養子にしようとしている子がどんな子かとね……」

「とてもいい子よ? それに可愛いいからクロノのいい妹になるんじゃないかと思ってるのよ?」

「あら本当?」

 

養子……実はフェイトにリンディが彼女を養子したいと言ってきたのだ。

 

フェイトはプレシアという唯一の肉親を亡くし、今では天涯孤独の身として保護されている。

 

このまま親代わりの人が見つからなければフェイトは本局で預かることになるのだが、それは得策とは言えない。

 

フェイトの魔力量は正直言って並ではなく、絶対に逸材となる存在である。そんな年端もいかない素直で優しい子を利用する大人も出てくるだろう……

 

それなら自分がフェイトを引き取って守ってやらねば

 

そう思ったが故の行動である。

 

尤も、子供を持つ身であり、フェイトのこともなんとなく他人だとは思えなかったからである。

 

「母を亡くしたのにもう前を向いている……そんな子を放っておけなくて……」

「そう……」

 

そんな彼女の気持ちを理解してくれるレティに心から感謝していた。

 

だが、ここで彼女の感動も引く内容がレティの口から放たれた。

 

「それに……もう一人の功労者の顔を見てみたいもの」

「もう一人……あぁ……」

 

誰のことを言っているのか頭を巡らせた結果、一人に思いついて潤んでいた瞳が一気に乾いた。

 

そんな彼女の変化にも気付かずにレティは続ける。

 

「次元漂流者であり、魔法の素質が無いのにも関わらず民間協力者となって事件解決に協力したとされる子供……貴女から話だけは聞いたんですけど、どうも信じられなくて……」

「……子供っちゃあ子供よね……うん」

「どうかしました?」

「ええ、大丈夫よマリエル……」

 

頭を抑えて自身に言い聞かせるように何かを呟くリンディにその他の人物から声がかかる。

 

彼女こそエイミィの後輩にあたる時空管理局本局メンテナンススタッフのマリエル・アテンザ

 

彼女はなんでも、カリフからエイミィを通して依頼されていた品物を持ってきたらしい。

 

そんな彼女もリンディたちの会話に興味を持った様だった。

 

「それにしても本当なんでしょうか? 魔法が使えないのに事件を解決なんて……」

「それには私も信じ難いところね。魔法も無しに空を飛び、デバイス無しにSランク級の砲撃を放つなんて……」

「……見れば分かるわ」

 

好奇心は猫を殺す……そんな諺を思い出しながらリンディは問題の訓練場へと近づいていた時だった。

 

突如として地面が揺れた。

 

「きゃあ!!」

「あっ……!」

「うっ…!」

 

大袈裟なんて言えないほどの轟音が響き、地震のような地鳴りが彼女たちを転ばせた。

 

「なに!? 地震!?」

「結構大きいです!!」

 

この異常事態にレティもマリエルも驚き、どこか安全地帯を探しながら避難しようとしていた時、リンディには聞こえた。

 

地鳴りと共に聞こえてくる叫びを確かにリンディの耳が捉えた。

 

この地震の正体を知ったリンディは盛大に溜息を洩らして未だに動揺している二人に行った。

 

「大丈夫よ二人共、これは地震じゃないわ」

「え? でも……」

「訓練場に来れば分かるわ」

「「?」」

 

そう言いながら地鳴りによろけながらも訓練場に向かうリンディに疑問を覚えながら二人はリンディの後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でやあああぁぁぁ!!」

 

人型のアルフが拳を握ってただそこに佇むだけのカリフに殴りかかっていくと、カリフは渾身のパンチを首だけ動かして避けると同時に足でアルフの足を絡ませる。

 

「おわあ!!」

 

アルフは自分の足を上げられて派手に土煙を上げて転げる。

 

「フェイト!! 挟みこめ!!」

「うん!!」

 

そこからカリフの前後からフェイトとクロノがデバイスを構えて向かってくるが、カリフは冷静に、且つ正確に迎え撃つ。

 

「ま、妥当だな」

 

短くそう言いながらフェイトの黄金の鎌とクロノの杖をそれぞれ左右の手で捌く。

 

フェイトとクロノの連撃の嵐を手首のスナップだけで受け流し、ある程度受けたらクロノの杖を強引に掴む。

 

「うわ!!」

 

そして杖をクロノごと円を描くようにぶん回して一緒にフェイトのバルディッシュを掴む。

 

「え? きゃあ!!」

「ぐ……ぐ…」

 

S2Uとバルディッシュを一緒の手に掴んでいるため、フェイトとクロノは折り重なる様になって振り回される。

 

その勢いを保ったまま半円を描いて二人を遥か上空に投げ飛ばす。

 

「もらったあああああぁぁぁ!!」

 

投げ飛ばして態勢がまとまってないカリフの背後から今度こそはと意気込んで蹴りを放って来るアルフ

 

だが、カリフは蹴りが体に当たる部分を直前に力を込める。

 

すると、当たった瞬間にアルフは足だけでなくアルフ自身の体がカリフの体に衝突して弾かれる形となった。その図はまさに子供が大型トラックに体当たりして弾かれるようなものであった。

 

「あっつぅぅぅ!!」

 

アルフが衝撃で飛んでいきそうになるが、すぐにカリフに足を掴まれて動きが止まる。

 

「でかい声上げて馬鹿正直に突っ込んでくるな!! 直線的すぎる力は逆に利用されるぞ!! もっとフェイントを織り交ぜて相手に軌道を読ませるな!! そしてアルフ……お前は……」

「え……おわ!!」

「もっと狼の足腰を使ええええぇぇぇ!!」

「うわああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!」

 

アドバイスを送りながらアルフを訓練場の壁に向かって野球の投法でアルフを投げた。

 

「む?」

 

すると、カリフの周りを100,200は下らない量の魔力弾が埋め尽くした。

 

360度どこを見回しても逃げ場は……ない

 

「フェイト今だ!!」

「クロノも続いて!!

 

その瞬間、フェイトがなのはに撃った時の弾幕とは比較にならないほどの弾幕の雨がカリフに降り注ぐ。

 

だが、カリフは両手に力を入れて手を擦り合わせる。

 

すると、シャキンと手から有り得ない金属音が鳴り響かせ……

 

「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY……!!」

 

奇妙な叫びと共に襲ってくる弾幕を一つ一つ手刀で迎え撃つ。

 

しかも、手刀が当たった弾幕は弾き落とされるのではなく、“斬られた”。

 

あっという間に全弾を斬り終わると、すぐにフェイトの目の前まで瞬間移動する。

 

「!?」

 

弾幕を全て撃ち落とされたことを驚く暇も与えてもらえず、フェイトは目の前のカリフに驚愕して無意識のうちに体を動かそうとするが、カリフは動き始めていた腕を足で肩を抑えることで止めた。

 

「あ……!」

「その反応は見事な物だ……だが、お前には速さの他に腕力と……」

 

フェイトの腹部に片手を添え……

 

「体力が足りない!!」

「きゃあああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!」

 

手から気合砲を撃ち込んで壁に飛ばした。

 

衝撃だけでダメージの心配はないが、フェイトはアルフのすぐ傍の壁にめり込む。

 

「フェイト!!」

「人の心配をしてる場合か?」

「くっ!?」

 

クロノにもフェイト動揺に高速移動で目の前に現れると、クロノはデバイスをカリフの顔面目がけて振るう。

 

だが、ここでカリフは避ける素振りすらも見せないまま直撃を受けた。

 

傍から見たらそう見えるに違いなかっただろうが……

 

「な!? こんなのアリか!?」

「……ふん!!」

 

カリフはデバイスを噛みついて歯で受け止めていた。

 

上手く喋れないからかカリフは鼻で返すと、クロノのデバイスに噛みついたまま首を勢いよく振るう。

 

「うぐぅ!!」

 

クロノはまるで紙のように簡単に振り回されてしまい、突然の圧に飛ばされそうになるも何とか堪える。

 

しかし、カリフはそれを嘲笑うかのように首を振ってクロノを幾度も振り回す。

 

「が……ぐぐ……」

 

振り落とされないだけで精一杯のクロノの根性は流石だが、クロノの杖がカリフの頑強な顎ととてつもなく固い歯によってヒビが入る。

 

それに気付いたカリフは投げる要領で首を振るってクロノも壁へと叩きつける。

 

「ぐは!!」

 

クロノのめり込んだ場所の傍にはアルフとフェイトも一緒にいる。

 

そんな三人から背を向けて一つの小山へと向かうカリフ

 

「クロノォ……お前は経験的にもバランス的にもピカイチだが、戦い方がスマート過ぎる故に攻撃が軽くなる……もう少し強引に攻めることも考えろ!! フォーク!!」

 

その言葉と共に小山に手を突っ込み、もう片方の手を水平に構え……

 

「ナイフ!!」

 

怒号と共に振るうと小山が土埃と共にスッパリと斬れた。

 

そして、突っ込んだ方の手で小山を軽々と持ち上げる。

 

遠目で見ていたフェイトたちは驚愕と共に嫌な予感しか感じていなかった。

 

そして、予感を的中させるようにカリフは片足を上げて野球の投法のように構える。

 

次に出てきたのは確信的な一言

 

「潰れちまえよぉ!! オオォォォォラアァァァァァ!!」

 

それはもういい笑顔で文字通り山を“投げた”

 

山が宙を舞うといった非現実的な光景とは裏腹に小山が自分たちを潰そうとしている現実に三人は心の叫びを露わにした。

 

「「「うわあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」

 

悲鳴の直後に小山は壁と激突し、小山は壁を抉る様にして遠くへと吹っ飛んだ。

 

50メートルくらい飛んだ小山は地面に激突すると小山はまるでボールのように勢い良く回転しながら転がってゆく。

 

角が徐々に削り取られて丸くなり、やがて小さくなっていきながらスピードを落としていく。

 

“元”小山だった物が完全に停止した時、カリフはそれを半ば呆けながら見ている。

 

「はぁ…はぁ…」

「ぜぇ…ぜぇ…」

「……」

 

抉れた壁のすぐ下スレスレにはフェイトたち三人が呼吸を整えながら自分たちがいきていることを実感していた。フェイトに至っては呼吸さえもギリギリといった様子なのだが。

 

そして、カリフはいつものようなつぶらな瞳をクロノたちに向かって告げた。

 

「はーい。じゃあラウンド35はっじまるよー」

「「ふざけんなあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ」」

 

手をパンパンとまるで子供をお遊戯に誘う保育士のように、しかし感情のこもっていない声で戦闘再開の合図を告げるとクロノとアルフは涙を浮かべながらカリフに詰め寄った。

 

もう彼等には怒りではなく、懇願しか感じられない。

 

「おま……! 今さっき潰すって……!!」

「あれ……! マジだったろ!?……目が……目が本気……!!」

 

クロノとアルフはもう無我夢中で自分の気持ちを伝えようとするが、疲労と先程の死の恐怖で口が上手く回らず、声も掠れている。

 

それでも必死だと分かる意思の伝達にカリフはというと……

 

「元気があればなんでもできる……行くぞおぉぉ!! 1,2,3、ダァーーーーーッ!!」

「ちょっちょっちょっと待てええええぇぇぇぇぇ!!」

「もう嫌だあああああああああああああぁぁぁぁぁ!! 助けてリニスウウウウウウウゥゥゥゥゥゥ!!」

 

某プロレスラーのような叫びと共に地面をお得意の“ナイフ”で斬りこみを入れて作り、巨大な地面のブロックを片手のナイフで持ち上げてクロノたちへと振り下ろす。

 

訓練開始から三時間三十分経過、休憩時間まで後三十分

 

クロノたちはこの時を生き残れるのか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「……」」

 

モニター越しで訓練と言う名の公開処刑を目の当たりにしていたレティとマリエルは飲んでいたコーヒーをドバドバと零しながらモニターに釘づけにされていた。

 

二日しか猶予が無い中、一週間分の鍛錬を行うなら当然と言えば当然だと言えるかもしれないが……

 

リンディと先にモニターを見ていたエイミィはもう驚きを通り越していたほどだった。

 

唖然としながらレティは恐る恐る口を開いた。

 

「ね、ねえ……まさかあの子が……」

「ええ、生身で空を飛び、有り得ないほどの怪力、そしてロストロギアを粉々にするほどの砲撃を放つ民間協力者……カリフくんよ」

 

その事実にマリエルが信じられないといった様子で叫んだ。

 

「なんなんですかあれは!? 空を飛んで消えて魔力弾手で斬ってデバイス噛んだり大岩投げたり……!!」

「落ち着いて。マリー」

 

エイミィはあまりの非現実的な出来事に錯乱し、エイミィも彼女の愛称で呼びかけたりもする。

 

その横ではレティはモニターのカリフを見て思ったことを口にしている。

 

「……この実力……下手したら武装隊に匹敵する実力ね……」

「あれでも相当手加減してるわ……あの子見た目よりも繊細で警戒心強いから私たちに実力を見せてもくれないし……まあ、口ではそう言ってるだけで本当なら本気でやっても問題はない、だけど本気でやっちゃったらクロノたちが一瞬で壊れちゃうからって……」

「……」

 

できれば聞きたくなかった事実を聞かされてレティは深く沈んでしまった。

 

正直に言えば、レティはカリフを勧誘したかったのだが、実際に見て思った。

 

「笑顔がとても無邪気ね……」

「ええ、そりゃ子供だもの……」

 

キャッキャとクロノたちを嬉々として追い回すカリフを見て気持ちが一気に冷めた。

 

明らかに性格に問題がある。

 

これもリンディから聞いたことなのだが、正直ここまでとは思っていなかった。

 

短気で我儘なのは子供特有のものだと思っていたが、それがいかに甘い考えかを思い知らされた。

 

しかも、もっと厄介なのは彼自身が持っている哲学的な信念もそうだ。

 

彼は自分の我儘のためなら命令を平気で無視し、強引にでも実行する。

 

その行動にも彼の強い信念が関わっているのだから余計にたちが悪い。

 

妙に大人びた思想が彼の行動原理であるのならば、もはや彼を御する手綱はもう存在しない。

 

(こんなデータを上層部に見られたら……ゾッとしないわ……)

 

今は気付かれてはいないが、もし上層部が彼の戦闘力に目を付けたら一騒動は必ず起こる。

 

多分、その時には怪我人、いや、もしかしたら死人が出るだろう。

 

「リンディ……」

「なに?」

「……私も協力するわ」

「ありがとう」

 

それなら、それを起こさない様にすることが重要だ。

 

最初のリンディからの頼みである“民間協力者”の存在をできるだけ明るみにしないという意図も充分に理解した。

 

(確かに、この子は問題児ね……顔は可愛いのに……)

 

もはや、ただ一つの救いは“信義に篤い”ことと“出来る限り一般人や弱者には手を出さない”という彼のスローガンだけである。

 

ただし、なにか些細なことがあれば彼は大爆発を起こす。

 

例えれば“ニトロ”といったところか……

 

「はぁ……」

 

これからの重大な仕事に早くもレティは責任の重さ溜息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

余談ではあるが、レティが溜息を吐いていた時、横ではマリーとエイミィが騒いでいた。

 

「無理ですよ!! 無理無理!! あの子めちゃくちゃ怖すぎです!!」

「でも、実際にはマリーに頼んだことだから最後までお願い。ね?」

「いやああああああぁぁぁぁぁ!!」

 

カリフに注文の品を届ける役目を先輩から押し付けられてマリーはムンクの叫びにひけを取らない叫びを放ったのだった。

 

これで訓練場が若干揺れたのはまた別のお話


 
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