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魔法少女リリカルなのは~生まれ墜ちるは悪魔の子~ 十七話

ぶつかる不屈の魂と金色の閃光

2012-07-21 22:00:56 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2350   閲覧ユーザー数:2261

「な……なんだ……これは……」

 

 アースラ内で外の様子を窺っていたクロノは顔色を変えて静かになったジュエルシードを映すスクリーンから目を離せずにいた。

 

 クロノだけではない。アースラのスタッフもリンディでさえも信じられない物をみているような表情だった。

 

「ジュエルシードからは膨大すぎるほどの魔力を放出していたはずだ……個人の力でどうにかできる代物じゃない……」

 

 原因は聞いての通りカリフが七つのジュエルシードの暴走を一人で止めたことにあった。

 

 カリフの体が赤く光り出したと思えば突然に手から砲撃を撃ち込んできた。

 

 その光はジュエルシードを飲み込むどころか結界さえも貫き、最後には大気圏を貫いて宇宙へと飛び出していった。そして、ジュエルシードの全ての沈黙を観測した。

 

 こんなことが有り得るのだろうか?

 

 あの強固なバリア破壊から推測するに威力は最低でもオーバーSランク、いや、そんな計りで判断できるのかも怪しい。

 

(そもそもできるわけがない! Aランク級の魔法はデバイスのような媒介を通して始めて実行できるんだ!! それを生身だと!? そんなことすれば自身の力に体がバラバラにされるはずだ!!)

 

 そもそもあの光は? 魔力反応が全く無い未知のエネルギーだった。

 

(くそ!! なんなんだこれは!!)

 

 クロノは動揺を隠しながらも突きつけられた現実に葛藤している中、リンディはというと……

 

「……」

 

 何かを考えながら目を伏せるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジュエルシードを四つも手に入れた。

 

 残りのジュエルシードを手に入れるプランは既に構想済みである。

 

 後は最後の戦いに備えるだけ……

 

「さて、ちょっとツラかせ」

「「……」」

 

 その前に目の前で親指をクイっと首に横線を描く悪魔の関門を抜けねばならない。

 

 この日、フェイトとアルフは久しぶりにガチで泣いた。

 

 

 

 

 

「まあ説教はこれくらいにして……」

(説教つーか嫌みばっかだったろーが……)

「もう一日分追加してやろうか?」

「一日!? 単位おかしくない!?」

 

 小一時間でカリフの説教は終わった。

 

 わざわざ冷たい床に正座させるところは流石といったところだった。

 

 それを差し引いても、フェイトたちの反省度合いを見てカリフは一応良しとした。

 

 反省と疲労で座りこんでいるフェイトにカリフは改めて聞いた。

 

「で、どうする? こっからのことは大体予想はできるのだが……どう思う?」

「ど、どうって……はぁ、やっぱりカリフに隠し事なんてできないのかな……」

「お前は何かを隠そうとすると視線をきょどらせて手を組む癖があるからな」

「嘘!?」

 

 疲れた様子から一変させてカリフからの一言にフェイトは顔を赤くさせて自分の手を窘め、顔を背ける。

 

 傍のアルフは苦笑いしていると、カリフは仕方ないと言わんばかりに溜息を洩らす。

 

「相手を観察すればそれだけで色んなことが見えてくる。格上、格下関係無く戦うに至っては必須だな」

「うぅ~……だからってそんなところまで見なくても……」

「ふん。そんなことに気を取られている場合ではないぞ?」

 

 顔を赤くさせて頬を膨らませながら睨んでくるフェイトにカリフはそっぽを向いて無視する。

 

 そのままベランダに向かいながら続けた。

 

「相手はお前よりも火力はやや上だが、スピードはお前の方が上。経験の差を考えるとお前の方が有利だ」

「!……分かってる」

 

 カリフの言わんとすることを理解してフェイトも表情を引き締めて返す。

 

「だからこそ相手はなにか手を打って来るだろう。絶対に大局を見失うなよ?」

「うん」

「外野の露払いはオレがしてやる。お前は高町なのはだけに集中させてやる。有り難く思え」

「……ありがとう」

 

 黒いパーカーを着こみ、フードで顔を隠すカリフの気遣いにフェイトは素直に嬉しくなって礼を言った。

 

 対してアルフはカリフがベランダに出て手すりによじ登る姿に驚きながら聞いた。

 

「ちょっ! 何してるんだい!!」

「ちょっと小腹がすいた。行ってくる」

 

 そう言うと突然に風が吹いてカーテンが激しく波打った。

 

「「!!」」

 

 突風に二人が怯んでいると、カリフは小さく呟いた。

 

「今日の件だが、とても褒められたことではないが……お前のそういうところ結構好きだぞ」

「!?」

 

 確かに聞こえたカリフの言葉にフェイトの顔が赤くなる。

 

「みっともなかろうが馬鹿正直に歯を食いしばって戦う姿は好感が持てる」

「それって……!!」

 

 確かに聞こえたカリフの言葉にフェイトが呼び止めようとした時、既にカリフの姿は無かった。

 

「消えた……」

「うん……」

 

 二人で誰もいないベランダを見つめながらフェイトは決心した。

 

(……これからどうなるかは分からない……これがジュエルシードを取り戻す最後のチャンス……)

 

 ここまで支えてくれた人のため……

 

(あの子の実力はもう私と互角……苦しい戦いになるけど……)

 

 叶えてあげたい願いのため……

 

(きっと……絶対に勝つから……)

 

 笑ってくれた母のため……

 

(見ていてください……母さん、アルフ……カリフ……)

 

 フェイトはポケットから三角水晶状態のバルディッシュを握りしめる。

 

 その胸に決意を込めて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

(大丈夫? なのは)

(ユーノくん……うん、ちょっとさっきのことで……)

 

 夜の喫茶店で店番するなのはは今日のことで考え込んでいた。

 

 ちなみに、クロノからはもう一度自宅で休むように言われている。

 

「二人には怖い想いをさせてしまったからね。しばらくはゆっくりと休むといい」

 

 カリフの人質にされたことを詫びられ、一時帰宅させられていた。

 

 そして、帰った直後になのはは手持無沙汰ゆえに店番を名乗り出たと言う訳だ。

 

「はぁ……」

 

 だが、今のなのはの頭には海上でのやりとりのことで一杯だった。

 

 それはカリフがフェイトに言った心にも無い非情な言葉。

 

 その言い草に頭に血が昇ってカリフに反論した。

 

(だけど、カリフくんにはカリフくんなりの考えがあって……フェイトちゃんを守ってきた……私のことも……)

 

 あの時のカリフから感じた覚悟は疑うことができないほどの説得力を感じさせ、実際には的を得ていた。

 

 甘かったのは自分たちのほう

 

 決して遊び感覚ではなく、真剣に事件と向き合っていたなのはだからこそカリフの言葉の意味の重さを感じていた。

 

「はぁ……」

 

 レジの前で溜息をついているとアンティークなトビラがカランと鳴って開いた。

 

 うなだれていたなのはもお客の存在に気付いて接客しようと笑顔を作る。

 

 どんな時でも咄嗟に営業スマイルを作るところは流石喫茶店育ちの娘だと言うべきだろう。

 

「ショート、チョコ、チーズケーキ三十個ずつとオレンジジュースくださーいな」

「ふえ!? あ! にゃあああああああ!!」

 

 カリフの姿を目にしたなのはは驚き、カウンターの下へとこけた。

 

(なのは!? どうしたの!? 返事して!!)

 

 遠くでなのはの声を聞いたユーノは念話で倒れているなのはにしばらくの間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの……カリフくん?」

「なに?」

「えっと……今日はなんで……」

「最近噂のケーキを食しにきたのだ。未知なる味を追求するのにはまず興味を持つことから始まるからな」

「そ……そう……」

 

 現在、なのははカリフと向かい合うようにテーブルに座っている。

 

 なのはの奇声を聞いて駆けつけてきた高町一家の面々がカリフを見つけた時、シスコン兄がいの一番に襲いかかろうとしたのを止めたのは記憶に新しい。

 

「ただの友達だよ?」

 

 倒れていたなのはの一言に流石の兄も渋々と矛を治め、母親と名乗る人はニコニコしながら自己紹介してきた。

 

 その時、カリフはポーカーフェイスで握手に応じながら自分の母を思い出し、天が授けた試練(老い)に同情していた。

 

 一家の面々と一通り挨拶した後、母の高町桃子がなのはに一緒に話す時間をとなのはに休憩を与えて一緒のテーブルへと誘導した。

 

 その間に桃子がウェイトレス、父の高町士朗が調理にかかっていた。

 

(どうしよう……ユーノくん……)

(う~ん……とりあえずは話を聞いてみようか)

 

 再びフェレットに戻ったユーノをテーブルの上に置いてカリフをチラっと見る。

 

「ふむ……ショートはしつこ過ぎずまろやかな舌当たりなホイップにフワフワのスポンジが絶妙なバランスを保っている上にフルーツでさわやかな味わいを醸し出している。チョコは味もさることながらデコレーションで鮮やかに飾り付けて目でも楽しめる、それにクリームにクルミを混ぜることで風味を際立たせてチョコクリーム特有の味の強さを緩和させている。それにこのチーズケーキもチーズ特有のしつこさをここまで軽減してまろやかな味わい、スポンジじゃなくてパイ生地を使って程良い歯ごたえを演出させるところはまさに匠の業だな」

「うふふ……そこまで褒めてくれるなんて嬉しいわ。砂糖いるかしら? カリフくん」

「いや、オマケとはいえこのエスプレッソも程良い苦みだ。砂糖は小さじ一杯分以上を加えると苦みと甘みのバランスが崩れてしまう。これほどまでに味と香りが調和するコーヒーと出会えるなんて運がいい」

「へえ、その歳でケーキとコーヒーの本質を見抜くなんて凄いなぁ」

「ふむ、ここにはミルクコーヒーはないのか? 下手にミルクを入れるとこの味にまろやかさが出て子供には受けはよくなる代わりに味と香りのバランスが崩れることくらい分かっているつもりだが試す価値はあるぞ?」

「うん。今はそのミルクとコーヒーの黄金比率、そして風味と香りを逃がさない工夫を模索中さ」

「そうか。その時を楽しみに待つぞ」

「ああ、その時にはその舌を唸らせてみせるさ」

「ふん。やれるならやってみるがいい」

「あらあら、士朗さんったら凄く楽しそう♪」

 

 山ほどのケーキを腹に収めながらグルメリポーターさながらの解説でケーキとコーヒーを絶賛していた。そんな中、士朗とカリフが熱い握手を見て桃子はとても嬉しそうにお盆を抱えていた。

 

(……なんといいますか……お母さんとお父さんが私よりも仲良くなって……)

(というか、さっきの彼とイメージが違うような……)

 

 なのはは自分の父親と母親を羨ましく思い、ユーノはアースラと海上で見せたカリフにギャップを感じていた。

 

 この雰囲気になのはの心配も少し軽くなったのも事実なのだが……

 

 なのはが置いてけぼりを喰らったことに拗ねていたのも愛嬌だ。

 

 しばらくして桃子と士朗はいつもの仕事に戻ってなのはとユーノとカリフだけになるとカリフはケーキを食べながら本題に入る。

 

「それで、今回は私に何の用で……」

「ん……お前に朗報を持ってきてな」

「朗報?」

「ん、四日後にお前とフェイトは互いの全てのジュエルシードを賭けて闘ってもらう」

「え?」

「は?」

 

 何気なくカリフの口から出てきた重要なワードに二人の目が点になる。

 

「あの……闘うって……」

「そのまんま決闘だ。ボカスカ潰し合ってくれたまえよ」

「いや、そういうことじゃあ……」

「うっさい、それよりも日時と場所は一度しか言わんぞ」

「あ、ちょっと待って! メモメモ……」

「日時は今日から四日後の海鳴公園に午前の四時にしくよろ」

「ちょっ! 速いよ! えっと……四日後の海鳴公園に朝の四時……と」

 

 ユーノが器用にペンを抱えてメモする中、なのははカリフを不思議そうに見つめているとカリフもそれに気付いた。

 

「……オレの意図が分からないってことか?」

「あ! あの……はい……」

「話は簡単だ。こっちにはジュエルシードが圧倒的に少ないからな、お前たちが持っているのを手に入れるためのエサだよ」

「エサ……」

「とは言っても決闘するからには互いに対等、万全に臨むことが好ましいからこうして告知と忠告も兼ねてきた」

「忠告?」

「ああ」

 

 最後の一皿を平らげるとカリフは真っすぐとなのはと視線を合わせた。

 

「フェイトはオレほどとはいかないが中々いい線いってて強えぞ?」

「!……うん」

 

 すぐにカリフの言葉を噛みしめて力強く頷く。

 

「小手先の戦術ではあいつに勝つなんて到底無理だからな……この四日は力と知恵を蓄えるのに力を入れるがいい」

「戦術かぁ……うん、分かった」

「む?」

 

 比較的素直に頷くと今度はカリフが不思議そうになのはを見つめてきたのでなのはが返した。

 

「どうしたの?」

「いや、オレから言っといて難だがもう少し動揺するかと思ったんだがな……考えてみればしつこいし諦めの悪い聞かん坊な性格だったな。合点もいくし納得もできる」

「む……一言余計だよ」

「ふ、そうだな。オレも自分で余計なことしすぎだと思ってるさ」

「え?」

「オレも甘く……いや、なんでも」

 

 なのはの返しに人のこと言えないといった溜息の混ざった自嘲をする。なのはは首を傾げるもカリフに軽くあしらわれるとまた頬を膨らませる。

 

 そんななのはから視線を切ってコーヒーを飲み干すと、勢い良く立ち上がる。

 

「うし、じゃあもう帰る」

「え、もう?」

「ああ、ここにあのバ管理局の目もありそうだしな。今回のことは別にチクってもいいけど。ゴッソサン」

 

 そう言って三万円を置くとそのまま去ろうとする。

 

 その様子になのはは呼び止めようとするが、カリフがその前に言葉で遮る。

 

「お前の不屈の魂とフェイトの決心の心と、どっちが強いか示してみろ」

 

 その言葉を最後にカリフは店へと出た。

 

「!!」

 

 なのはが扉を出るが、既にそこにいたはずの姿は無く、人々の喧騒だけが響いていた。

 

(消えた……?)

(うん……でも……)

 

 なのははテーブルに戻ってメモを見ながらカリフの最後の言葉を思い出していた。

 

(フェイトちゃんにはフェイトちゃんなりの決心があるかもしれない……)

 

 フェイトの胸には強固な決心があるかもしれない。

 

 だけど、自分にも譲れない物がある。

 

(それでも、私はフェイトちゃんに言いたいことがあるから!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悲しみに囚われた母を救うため、母を想う主人を助けるため、自分を助けてくれた少女を助けるため、世界の秩序を守るため……様々な思惑が交差する。

 

「主演は大体揃った……か……」

 

 カリフはビルの避雷針を足の親指一本で立って明るくなった街を見下ろしている。

 

 この街で、それも四日後には戦いが幕を開ける。

 

「くく……実力は五分五分……どっちが勝とうが負けようが展開は変わらん……だが……」

 

 珍しく、カリフは年相応の笑みを浮かべて呟いた。

 

「この戦いで貴様等の覚悟とやらを見せて……オレを興じさせろ」

 

 半月型に裂ける口から洩れた一言は街の喧騒の中に潜んで姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いのゴングはすぐそこまで迫っている。

 

 不屈の魂か決心の心か

 

 勝利の女神はどちらに微笑むのかは

 

 だれにも分かりはしない……


 
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