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魔法少女リリカルなのは~生まれ墜ちるは悪魔の子~ 十六話

海上激化!

2012-07-21 21:58:11 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2289   閲覧ユーザー数:2201

 海鳴市海上

 

 普段は穏やかで、きらびやかな海も、今ではそんな面影は無くして猛威を奮っていた。

 

 自然の穏やかな表情は伺えず、牙をみせていた。

 

 津波、竜巻、果てには台風の死のデルタが出来上がっていた。

 

 そして、そんな危険極まりない海上には一人の少女と一匹の赤い狼が空を翔けていた。

 

「はぁ、はぁ……見つ……けた」

 

 巨大な魔法陣を展開させて今の天変地異の大元であるジュエルシードを視線で掴んで離さないフェイト。

 

 そんな主を心配しながら竜巻にバインドをかけて動きを止めるアルフがいた。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 アルフは明らかに疲弊しきっているフェイトがどうしても心配だった。

 

(やっぱり……いくらフェイトでも六つのジュエルシードを強制発動させるのには無理があったんだ……ただでさえ病み上がりだっていうのに……)

 

 昨日は過労で倒れ、直前までジュエルシードを探し回っていたのに今度は大量の魔力を使っての強制発動

 

 もうこの時点で常人なら倒れるところなのに、この後にはジュエルシードの封印が残っている。

 

(無理だ!……もうフェイトにそんな体力は残ってない!!)

 

 かといってこんな災害と魔力暴走の密集地帯で魔力の回復を待つ自信も余裕もない。いつまでもここにいたら管理局にも追い詰められる。

 

 それなら自分はどうすればいい?

 

 簡単だ

 

 ここでフェイトのサポートに徹することだ。

 

(波が襲い掛かるなら防げばいい……台風も同じだ。管理局が来たなら叩き潰せばいい!)

 

 これは誰が為?

 

 決まっている。

 

 今戦っている主のため、今はいない友のため

 

 そして……

 

「アタシのためにも!」

 

 アルフは結界を張り、竜巻にもバインドをかける。

 

「フェイト!! 大丈夫かい!?」

「うん、アルフのおかげで大分楽になってるから」

「へへん! サポートはバッチリしてあげるからフェイトはジュエルシードに専念してて!」

「うん!」

 

 笑い合って互いの信頼に応えんとばかりにフェイトはバルディッシュに力を溜め、アルフは連発して起きる竜巻と津波をバインドしていく。

 

 傍から見たらこのままならいけるだろうと思われる。

 

 だが、その実、双方ともここが正念場であった。

 

(くっ……さっきので魔力をほとんど持っていかれた……魔力が足りない……)

 

 フェイトはジュエルシードの強大な魔力に対抗し得る魔力を振り絞っても全くといっていいほど集中できない。顔には出さないが、フェイトは焦っていた。

 

(くっそー! 竜巻に水が入り始めて圧力が強くなってきた……それにジュエルシードの魔力も強くなってる……)

 

 アルフもバインドする竜巻を抑えるのが段々と辛くなってきていた。疲弊していくアルフに対し、ジュエルシードはそんな彼女を嘲笑うかのように暴走する。

 

 双方共顔には出さずに堪えていた。

 

 やせ我慢

 

 弱体していく自分たちに対してジュエルシードの猛威は衰えるどころかより一層増していく。

 

「く……くぅ……!」

 

 アルフはバインドに力を入れてジュエルシードの進行を阻もうとしていたが、健闘も空しく一本のバインドが切れた。

 

「しまっ!」

 

 一つのバインドが破られるのを機に全てのバインドが破られ、その内の幾つもの竜巻がフェイトへと襲いかかった。

 

「フェイト! 危ない!!」

「!!」

 

 アルフの叫びにフェイトは気付くが、既に遅かった。

 

「フェイトーー!!」

 

 フェイトは巨大な力の奔流に飲まれて海へと叩きつけられた。

 

 声も出せぬまま海へと引きずり込まれても再び海上へ舞い戻る。

 

「ごほ! けほ!」

 

 海水を飲んでしまったフェイトの背後から再び魔力の籠った水流に飲みこまれた。

 

「がっ!」

 

 飲みこまれたなどと生ぬるいものではなく、鈍器で背中を殴られた痛みにフェイトの意識、そして感覚がブレた。

 

 再び海に叩きつけられたフェイトは抵抗できる力も残っておらず、海の中で意識が遠のいていく。

 

「フェイトオオォォォォォォ!!」

 

 アルフも水流に絡め取られ、フェイトから遠ざけられていた。

 

 時間とともにフェイトの体はゆっくりと海底へ引きずり込まれつつあった。

 

(こんな……ところで……)

 

 酸素が失われ、遠のく意識の中でフェイトは地上に向けて手を伸ばした。

 

 立ち止まれないのにそれが叶わない。

 

 叶えてあげたいのにそれができない。

 

 弱い自分が……嫌い……

 

 もう限界が近づいてきたフェイトの手がゆっくりと下がっていく。

 

 このまま召されるのを待つだけだった。

 

 

 

 

 

「あれだけ大見え切ったんだ。そんなお前が泣言など許されると思ったのか?」

 

 海の中ではっきりと聞こえた声と手を握られる感触を感じるまでは。

 

 急に体が強い力に引き寄せられ、遂には海上への脱出を可能にさせた。

 

「がはっ! ごぼっ!」

 

 飲みこんでいた大量の水を吐き出していると、またあの声が聞こえた。

 

「お前等を見てると親子だって実感させられるな」

 

 それは、昨日を境に聞かなくなってしまった声

 

 短い間だったけど、私はこの声が聞きたかった。

 

 決して折れない鋼の精神、決して屈さない強さを感じさせた。

 

「カリフ……」

「ふん、お前は無謀なことしかしないのか?」

 

 黒い髪をなびかせて、カリフは私に肩をかしていた。

 

 私が大丈夫だと感じるとゆっくりと降ろしてくれた。

 

 でも、なんでこんなところに……

 

「しゅっ」

 

 そんな中、目の前のカリフがアルフに向かってパンチしたと思ったらアルフを捕まえていた水流が砕けた。

 

 一瞬だけど拳が消えたようにも見えたが、そんなことにも驚く暇もなく更なる影が現れた。

 

「フェイトちゃん!」

「!?」

 

 上空からバリアジャケットを装着したなのはが姿を現したことによってフェイトの表情は驚愕のものに変わった。

 

 同時にその姿を捉えたアルフは海上で咳込むのを止めてなのはを睨む。

 

「あ、あんた!」

 

 なのはへと襲い掛かろうとするも、そんなアルフの前にユーノが踊り出た。

 

「待って! 僕たちは闘いにきたんじゃない!」

「それさどういう……ってカリフ!?」

「ふん」

 

 興奮で今までカリフに気付いていなかったアルフもここにきてその存在に気付いた。カリフはそれに鼻を鳴らして返した。

 

「カリフ……管理局に捕まったんじゃあ……」

「オレが? あんな三下どもに? マジで言ってるのか?」

「あ、はは……そうだよ……こいつがそう簡単に捕まる訳が無かったんだよ!」

「う……うん!」

 

 カリフが無事だという事実に二人は嬉しそうに話している。

 

「オレも頑張っているお前たちに送る言葉があるぞ?」

 

 そして、カリフは二人の前にまで降りると、薄い笑いを浮かべて言った。

 

「無様だな」

 

 

 

 

「「……え?」」

「「……は?」」

 

 突然のカリフからの罵倒に二人はおろか、離れて聞いていたなのはとユーノも突然のことに理解できなかった。

 

 それでもカリフの言は続く。

 

「無様、滑稽、無知、無力ときたもんだ。もう少し賢いと思っていたが、オレの買い被りだったようだ」

「カ……カリフ?」

 

 本当に突然のことにフェイトが笑顔のカリフに話しかけようとしたときだった。

 

 カリフの表情が険しいものへと変わった。

 

「「!!」」

 

 フェイトとアルフがそれに反応して体を震わせると、カリフは問い詰めるのと同時に責め立てた。

 

「昨日の今日で回復しきっていない体調でなにしてやがる」

「………」

「確かに休んだだろうな、顔色はマシになった。だが、幾らお前でも本調子とは程遠い今の状態でこれだけの力を放出、これだけのジュエルシードを暴走させればどんな結果になるかは容易に想像できたはずだ」

「それは………」

 

 明らかに図星を突かれたフェイトは何も言えずに俯き、悲しみを帯びる。

 

「っ!!」

 

 そんなフェイトの姿を目にしたアルフの頭に血が昇った。

「なに言ってるんだい!! フェイトはアンタのことを想ってここまでやってるんだよ!? そんな言い方はないだろ!」

「オレを想って? ならばいらん世話だ。お前らごときに心配かけられる謂われはない」

「なっ!」

 

 アルフの驚愕と怒りの声が響く。

 

 ここまでフェイトが無茶をしているのはプレシアのためというのがある。

 

 だが、それと同時にカリフに対する気持ちも反映されていた。

 

 それなのに、その気持ちを真っ向から否定された。

 

 アルフが怒るのも無理は無かった。

 

 怒りのアルフの形相を前にカリフは臆することなくアルフを睨み返す。

 

「そもそもお前は何をしている?」

「な、何がだい……」

 

 急なカリフからの詰問にアルフは怒りを忘れてたじろいでしまう。

 

「お前の役目はフェイト……マスターの身の安全ではなかったのか? 使い魔とは命を賭けてもマスターを守るのではなかったのか?」

「そ、それは……」

 

 確かにそうだ。

 

 カリフからの答えは間違いなく、以前に話した内容だった。

 

 それなのに、今の自分はフェイトを守るどころか危うくフェイトにさらなる深手を負わせるところだった。

 

 自分の未熟さのせいで

 

「それなのになんたるザマだ。主従揃ってここまで愚かだとは思ってなかったぞ?」

「「……」」

「どの道、お前等のママゴトを見るのにはもう飽きた。どけ、フェイトは封印、アルフは結界の強化にだけ努めろ。余計なことはするなよ? 邪魔で叶わん」

 

 あまりに冷たく、何より苛立っているような口調と視線に二人は何も言えなくなり、黙って指示に従うしかなかった。

 

 そんな光景を素直に受け止められない者もいた。

 

「カリフくん!!」

「あ?」

 

 なのははレイジングハートを握る手を震わせ、怒りに顔を赤くさせながらカリフの元へと詰め寄ってきた。

 

「なんでそんなこと言うの!? よく事情は分からないけど……フェイトちゃんたちはカリフくんのために……!!」

「知らないなら口を出すな。素人風情が……ガキに躾けをして何が悪い?」

「でも……躾けって彼女たちは動物じゃあないんだぞ」

 

 こればかりはユーノも我慢できなくなっていたのかカリフに鋭い表情で問い詰める。

 

 二人分の非難の視線を受けてカリフは……

 

「ふん! だから?」

 

 鼻で笑い飛ばした。

 

 全く反省の色を見せないカリフの精神に驚きと怒りが一層にこみ上げるが、カリフはここで二人を見据えた。

 

「だからぁ、そんな感情論なんか役に立たねえって言ってんだよ……お前等……どうしてもあの二人を殺したいようだなぁ?」

「な!?」

「違うよ!! そんなじゃなくてもっと気持ちを尊重して……!!」

「だからぁ!! そんな偽善があいつ等を殺すってんだよ!!」

「「「「!!」」」」

 

 遂になのはたちの駄々に業を煮やしたカリフは一喝で彼女たちを黙らせた。

 

 その一喝でなのはたちはおろか、ジュエルシードさえも大人しくさせるほどだった。

 

 だが、そんなことは気にせずにカリフは続けた。

 

「いいか? この際だからはっきり言う……てめえ等は何がしてえんだ? 命を賭けてえのか? それとも命を捨ててえのか?」

「賭け……」

「捨て……」

 

 四人はカリフの言いたいことが何なのかが分かってはいないだろう。

 

 それもそのはず、彼女たちは今まで一度も命が目の前で消えるのを見て来なかったからだ。

 

「その二つは似ているようで全然意味は違う……ある可能性に向かって命を燃やし、最期まで足掻く奴は大変にみすぼらしい姿だ……だが、その時の命が一番映えて、賞賛できる」

 

 なのはたちは自分たちとは同い年とは思えない少年の演説にただ聞くしかなかった。

 

 それだけの威圧と貫録が彼にはあったから。

 

「自棄になって何も考えず、命を捨てるような生き方も大いに結構!! だが、そんな生き方にはヘドが出る!! 自分の可能性も、可能性を信じない奴みたいなのが一番嫌いなタイプだ!!」

 

 カリフは額に血管を浮かばせながらフェイトたちとなのはたちを鋭い眼光で串刺す。

 

「こいつ等は今さっき命を捨てようとしたんだ!! そんな奴等の気持ちを尊重だと!? 冗談ではないわ!!」

「「「「っ!!」」」」

 

 カリフだからこそ知っている。

 

 周りの親たちは昔、どうしようもない絶望に何度も襲われた。

 

 だからこそ、諦めずに勝つための可能性に賭け、文字通り力づくで生きて強くなった。

 

 その諦めの悪さこそが強くなるための鍵。

 

 限界が来たならそれを越えるだけ

 

 その可能性を捨てた奴は生きる資格も価値もない。

 

「そいつ等の気概は認めてもいい……だが、オレの目の前でそんな腐ったことは死んでも許さん!!」

 

 その一言が決め手となり、四人は諦めたように視線を伏せるとカリフも少し頭の熱が冷めたのか諦めたようになのはたちに言った。

 

「……今回は手くらいは貸してやる。さっさとあれを回収して休みたいんだよ」

「う、うん……あの……」

「あ?」

「迷惑かけて……ごめん……」

 

 涙ぐんだフェイトが頭を下げたのを確認すると、カリフは少し沈黙して答えた。

 

「……分かれば問題ない……それよりも……問題はあれだ」

 

 顎でジュエルシードの咆哮をしゃくりあげると、そこには幾つものジュエルシードが浮遊していた。

 

 とは言ってもなぜだかその動作も凄く鈍くなっていた。

 

「ふん……出力不足かなんかで弱ったか……アルフ! ユーノ! お前たちは結界を維持してろ!」

「は、はい!」

「あ、うん!」

「フェイトとなのははジュエルシードの確保に専念!!」

「え、でも……!」

「カリフは!?」

「オレは……あのガラクタを少し躾けてやる」

「「「「……へ?」」」」

 

 カリフの意味深な言葉に誰もが首を傾げると、カリフは体から赤いオーラを出して手の平に赤いエネルギーを収束させる。

 

「さて……ファイナルフラッシュ……かめはめ波もまずいな……やっぱオレのオリジナルで勘弁してやるか……」

 

 手を重ね、悟空がやっていた見よう見まねで上体を捻ってエネルギーを振り絞る。

 

「精々あがけ。そして知るがいい……オレたちサイヤ人をなぁ!!」

 

 赤い霧のようなエネルギーが渦巻き、荒ぶる。

 

「クレイム……」

 

 そして、荒ぶるエネルギーは轟き……

 

「ハザーーーーーーーーーード!!」

 

 ジュエルシードを呑みこみ……

 

 

 

 

 

 

 雲を穿ち……

 

 

 

 

 

 

 大気圏を越え……

 

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙さえも両断した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわ……」

「これは……」

「すっご……」

「……」

 

 その光景を目の前で見ていたなのは、ユーノ、アルフ、そしてフェイトは驚愕しかなかった。

 

 カリフから突然光り出したと思ったら、急に手から赤い砲撃を繰り出したのだから。

 

 その砲撃はジュエルシードと拮抗していたのも一瞬だけで、すぐにジュエルシードを全て飲み込み、あろうことか極大まで高めていた硬度の結界を一瞬で破壊までしたのだ。

 

 その威力はどんなに軽く見積もってもオーバーSランク以上は確実だ。

 

 だけど、彼女たちは魔力を全く感じることができなかった。

 

 色んな不可思議なことに混乱しているところにカリフは大人しくなったジュエルシードを全て掴んだ。

 

「ほれ」

「え? あ!」

「あわわ……っと……」

 

 なのはとフェイトにジュエルシードを投げると二人は慌ててジュエルシードを受け取る。

 

「今の状態じゃあ全ての封印は無理だろう。今回は半分ずつで手を打つからな。今回はフェイトたちと共に見逃してもらう」

 

 カリフはいつも通りの様子でフェイトを手招きする。

 

「帰るぞ。フェイト、アルフもだ」

「う、うん……」

「……分かった」

 

 さっきのことと相成って、二人は気まずそうにしてカリフの目をまともに見れない。

 

 そんな状況の中、三人は空間転移でその場から去った。

 

 しばらくの間、なのはとユーノは何もできずに静かに穏やかな海の上で沈静化したジュエルシードを見つめるしかなかった。


 
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