No.450626 IS〈インフィニット・ストラトス〉 ~G-soul~ドラーグさん 2012-07-10 20:51:12 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:942 閲覧ユーザー数:911 |
「どうぞ、スポーツドリンクです」
「キャー、本物の桐野くんだ!」
「こっちもタオルおねがーい!」
放課後の体育館で、俺はバレーボール部に派遣されて雑用をしている。
「そうだ! 桐野くんもマッサージとかできるの?」
「え? まあ、できないことはないですよ」
「本当!? じゃあお願いできる?」
「あー、そういうサービスはしてませんので」
「ぶー! ケチー!」
「やってよぉ、マッサージィー!」
二年生の先輩方が詰め寄ってくる。ぐぬぅ、面倒だ。
「はいはい、そんなことやってる暇があったらもっと練習しなさい。大会も近いのよ?」
それを見かねて三年生の部長さんが助けてくれた。
「「「はーい」」」
部長さんの指示で二年生の先輩たちはコートの方へ戻っていく。
「まったく・・・、ごめんなさいね桐野くん。うちの部活の後輩たちが迷惑かけちゃったみたいで」
「いえいえ、全然大丈夫ですから」
律儀に謝ってくる部長さん。俺は笑みを浮かべて返答した。
「生徒会の仕事の一環ですし」
「生徒会ねぇ、虚ちゃんがいるのよね?」
「はい。お知り合いですか?」
「まあね。いっつも妹さんの話をしてるわ。あの子にはもう少し布仏家としての云々って」
「そうなんですか」
「でも、最近は生徒会長の更識ちゃんの話ばかりだわ」
「楯無さんの?」
「正確には更識ちゃんの妹のことを心配してる更識ちゃんを心配してるって話をしてるの」
「またややこしいですね」
心配してる人の心配をする、ややこしや。しかし楯無さんの妹ってことは簪さんか。興味があるな。
「虚ちゃんの話だと、小さいころは仲が良かったんだけど、中学生くらいの頃からあまり話さなくなったらしいの」
「なるほど」
「虚ちゃん、『お嬢様が何か無理をしないか心配』って言ってたわ」
確かに、簪さんのことを頼みたいと言ってきた時の楯無さんはいつもと違っていた。それも関係してるんだろうか。
「あぁー! 部長が桐野くんとおしゃべりしてる!」
「うそ!? 自分だけずるい!」
こちらに気づいたほかのバレー部の部員たちが声を上げる。
「さて、私も練習にもどるわ。雑務の方はお願いね?」
「はい、わかりました」
そして部長さんもコートの方へ走っていく。
(簪さんと楯無さん・・・・・、一筋縄ではいかないみたいだな、こりゃ)
俺は顎に手を当てて考える。
(タッグのペアを組まなきゃいけない事には始まらないし、今日は顔合わせだ。明日からでももっと積極的に誘うか・・・・・)
そしてふと、昼休みの簪さんの言動を思い出す。
(やっぱり気になるのは、どうして俺も殴られるのか、だな。一夏はともかく、何で俺ま―――――)
「桐野くん! 危なーいっ!」
「へ?」
顔を上げると、バレーボールが目の前に飛んできた。
バチコーン!!
ボールが俺の顔面に当たった。
カポーン・・・・・・・
「で、そんなことに」
「ああ、スゲー痛かった」
この日の夜、俺は一夏と大浴場で風呂に入っていた。
あのとき、ボールを当ててきたのは『八月のサマーエンジェル』こと冴木由里さんだった。そのサーブは八月を過ぎても威力は衰えず、こうして俺の左ほおを真っ赤にしてくれちゃっている。
でもまあ、あの後は大したハプニングも起きず無事に雑務を完遂できたから良しとするべきか。
「あ、そう言えば結局どうすることにしたんだ?」
今朝の黛さんの話を思い出して一夏に話しかける。
「ん? 何を?」
「インタビューだよインタビュー。お前と箒が頼まれてたやつ」
「あー、あれか」
「確かお前剣道部に派遣だったんだろ? 箒とその話したか?」
「まあな、最初はアイツ『見世物になる気はない』って断ろうとしてたんだけど、黛先輩が『一流ホテルの豪華ディナーへの招待券が報酬だ』って話をした途端に『何事も経験だ』って言って、結局受けることになった」
「へえ、そうか」
あの箒が食べ物の類に釣られるなんて。ちょっぴり意外だ。
「それはそうと、そっちはどうだったんだ?」
「うん?」
「楯無さんの妹さん、簪さんか? ちゃんと誘えたのか?」
「それがよ、中々難しそうなんだよ」
「断られたのか?」
「イヤ、そうじゃねえけどちょっと引っかかってな」
「何がだよ?」
「簪さんさ、俺とお前を殴る権利があるって言ってきたんだよ」
「なんで俺が・・・・・?」
「俺から言わせたら逆だよ。お前は簪さんの専用機の開発を邪魔してるから殴られても文句は言えないだろ? 俺の場合はその理由が思い当たらないんだよ」
「ふーん。そういうのってさ、意外と自分では思いつかないような些細なことが原因かもしれないぜ?
最近なんかしたか?」
「なんかって言われてもなぁ・・・・・、誕生日にお前と襲撃を受け・・・・・・・・あぁ!」
ザバァッ!
俺は思わず立ち上がった。
「ど・・・どした?」
一夏が目をしばたたかせている。
「思い出したぞ・・・。あの日の夜、俺はノートを見つけて、それに色々書き足したんだ!」
「書き足したって・・・・・落書き?」
「いや、ISのシステムやらなんやらが書かれてたんだけど、つい研究者の血が騒いで色々補正したりしちゃったんだよ」
「あ、もしかしてそれって・・・・・」
「ああ。多分簪さんのだ!」
だから勝手にそのノートに俺が色々書いたから怒ってるんだ。
「サンキュー、一夏! 明日もう一度挑戦するぜ!」
俺はグッと拳を握った。
「ああ、わかった。だけど座ってくれないか? お前のがちょうど俺の目の位置に」
おっと、いけね。
「えっと・・・お、ここか」
第三アリーナに隣接してるIS整備室。一年生がそこに入り浸っていると聞いた俺は放課後すぐにここにやって来た。
「よし・・・・・」
俺は入ろうと一歩踏み出して立ち止まる。
「あ」
「あ」
入ろうとした瞬間に案の定、簪さんが出てきたからだ。
「よう」
「・・・・・・・・・・・・・」
うお、敵意ある視線。しかも無言で。
「そう睨むなって。ほら、紅茶とオレンジジュースどっちが良い?」
「・・・・・・・・・・・・・」
そんなことはお構いなしにスタスタと歩きはじめる簪さん。俺はその横を歩く。
「なあ」
「・・・・・・・・・・・・・」
「なあってば」
「・・・・・・・・・・・・・」
「簪さーん? 聞こえてますかー?」
ピタリ、簪さんの足が止まった。
「名前で、呼ばないで・・・・・・・」
む、そういうことか。
「えーと、じゃあ、更識さん」
「苗字も、ダメ・・・・・・・」
えー・・・。どないせーゆーんじゃ。
「じゃあ――――――」
「私に構わないで・・・・・・・」
そう言い放ち歩き出す簪さん。
俺も意地があるからそのまま横を歩く。
「とりあえず、ジュースだけでも貰ってくれ。俺、二本も飲まねえし」
「・・・・・・・・・・・」
「どっち飲む?」
「・・・じゃあ、オレンジの方・・・・・・」
「あいよ」
良かった、これくらいには反応してくれた。俺は缶を差し出した。
すると、簪さんの手がほんの一瞬、俺の手に触れた。
「っ・・・・・!」
簪さんはその手をものすごい速さで引っ込めた。どうしたんだろうか?
「?」
「・・・・・・・・・」
すると、今度は少しむっとした表情になって、オレンジジュースの缶をひったくった。
「おっと」
「・・・・・・・・・・・」
取るものだけ取って簪さんは行ってしまう。
しかし、本番はここからなのだ。
「えーっと・・・・・そこの女子!」
「・・・・・・・・・・・」
「お前のことだよ! じゃああれか? 謎のかの――――――」
「・・・・・それ以上は、色々と、ダメ・・・・・・・・・」
おお、ツッコミもできるらしい。
「で・・・・・、何の、つもり?」
「お前さんが名前で呼ぶなって言ったんだろ?」
「そういう呼び方をされるなら、名前の方がまだマシ・・・・・・」
「そっか。なら、簪」
ギロ。睨まれた。
「・・・・・さん」
ふぅ、とため息をついて、簪さんは足を速める。
「簪さん。一つ言わせてもらいたいことがある」
「・・・・・・何?」
「お前のノート」
「!」
再び足を止める簪さん。どうやらビンゴのようだ。
「勝手に色々書き込まれてたろ? アレ、やったの俺なんだ。悪かった」
「・・・・・・・・・!」
ひぃ、簪さんの拳がグーの形で握られている。
「い、いや、あの、決して悪意があったわけじゃなくて、ただ単に研究者としての――――――」
「・・・・・・一つだけ聞かせて・・・」
「へ?」
「・・・・・どうして、私と、ペアを組みたいの?」
うぐ、いきなり核心を突いてきた。どう説明したものか。
考えて、二秒。俺の頭の豆電球が光った。
「お前の専用機がどんなものか見たいから」
「・・・・・・・・・」
「ほら、あのノートに書かれてたISの図面を見てたら、完成型が見たくなったんだよ。すごく興味をそそる・・・・・って、ん?」
見れば、簪さんは下を向いてプルプルと震えている。
「お、おい? どうし―――――――」
「っ!」
バシッ!
簪さんの平手打ちが俺の右ほおに当たった。
「・・・・・え・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・」
そのまま簪さんは走り去っていく簪さんを、俺はどうしていいか分からず見送るしかできなかった。
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簪、怒りの理由