No.450623

IS〈インフィニット・ストラトス〉 ~G-soul~

ドラーグさん

楯無さんの妹をペアに誘ってみた

2012-07-10 20:49:55 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:964   閲覧ユーザー数:937

「やっほー、織斑くん。篠ノ之さん」

 

二時間目のあとの休み時間に、新聞部のエースこと黛薫子さんが教室にやって来た。

 

「あれ、どうしたんですか?」

 

「あのね、二人にお願いしたいことがあるんだけど」

 

「お願い? 私と一夏にですか?」

 

「うん、そうなの。あのね、私の姉って出版社で働いてるんだけど、専用機持ちとして二人にインタビューを受けてもらいたいの」

 

「へえ、インタビューだってよお二人さん」

 

話を聞いて一夏と箒の方を見る。しかし二人ともいまいち分からないという表情だ。

 

「?」

 

二人の視線は黛さんが持っていた雑誌に向いている。

 

「えっとー・・・、あの、これって、IS関係の雑誌じゃないですよね?」

 

黛さんが持っているのはティーンエイジャー向けのファッション雑誌だった。

 

「ん? あれ? もしかして二人ともこういうの初めて?」

 

「はあ」

 

一夏も箒も曖昧な返事をして頷く。

 

「えっとね、専用機持ちっていうのは普通は国家代表か代表候補生なわけで、タレント的なこともするのよ。国家公認アイドルっていうか、基本はモデルだけど。あ、国によっては俳優なんかもするらしいよ」

 

「ふーん、そうなのか? 箒」

 

「わ、私に聞くなっ!」

 

箒がぷいっとそっぽを向いてしまった。

 

「要するに、代表候補生でもなんでもないのに専用機を持ってるお前ら二人にインタビューしたい、って黛さんのお姉さんが言ってるんですよね?」

 

「そう、そういうこと」

 

黛さんの言いたいことを確認すると黛さんはうんうんと頷いた。

 

「そんなこと言われてもなぁ・・・・・」

 

一夏が難しい顔をしていると、そこに鈴がやって来た。

 

「何よ、一夏モデルやったことないわけ? 仕方ないわね、私が見せてあげるわよ」

 

どう仕方ないんだろうか、鈴はおもむろに携帯を取り出して一夏に強引に見せた。

 

(どうせカッコつけてんだろうな、どれ、ちょっと見てやるか)

 

ついでにと俺と箒も一夏の上から画面を見る。

 

「お・・・・・?」

 

「む・・・・・・」

 

「ほぉ・・・・・・」

 

画面にはしっかりとカジュアルを着こなす鈴が写っていた。

 

「へえ、良いじゃん」

 

「ふふ、そうでしょうそうでしょう? でねでね、こっちが―――――」

 

キーンコーンカーンコーン

 

休み時間終了のチャイムが鳴り響いた。

 

「一夏くん、今日は剣道部に貸し出しだよね? そのときまた来るわ」

 

そう言って黛さんは教室を出て行った。

 

「それで、こっちが・・・・・」

 

しかし、もう一人の方、鈴は未だに一夏に写真を見せている。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

その後ろには言うまでもなく織斑先生。ゆっくりと出席簿を振りかざす。

 

「志村・・・・・じゃねえや。鈴、後ろ」

 

「へ?」

 

ガン!

 

振り向いたと同時に鈴の頭に出席簿が振り下ろされた。

 

「さっさと教室に戻れ」

 

「は、はい・・・・・」

 

そしてすごすごと教室を出て行った。

 

ちなみにこんなことが最近良くある。鈴のやつ、放課後とかに来ればいいのに。

 

「さて、今日は近接戦闘における効果的な回避方法と距離の取り方についての理論講習を始める」

 

(ん? 代表候補生でもないのに専用機持ちって、俺もじゃね? ・・・・・まあ、いいか)

 

そして、いつも通り授業が始まる。

 

 

 

 

 

 

(よし・・・・・)

 

四時間目が終わり、俺は四組の教室のドアの前に立っている。

 

目的はもちろん、楯無さんの妹の更識簪さんとの接触だ。

 

シャルに食堂に行こうと誘われたけど、のほほんさんに連れ出してもらった。

 

それに楯無さんの話では妹さんは教室でパン食派だと聞いたからこっちもそれに合わせてパンを買ってきた。

 

(準備は万端・・・・・)

 

俺は四組の教室のドアを開けた。

 

するとドアの近くにいた女子達が俺に気づいた。

 

「えっ!?」

 

「うそ!? 桐野くんだ!」

 

「よ、四組に何か御用でしょうか!?」

 

わいわい言ってくる女子達に一言聞く。

 

「なあ、更識さんって、いるか?」

 

「「「え・・・・・・・」」」

 

女子一同がハモった。

 

「更識さんって・・・・・」

 

「『あの』?」

 

海割りよろしく女子たちの壁が開かれる。その直線上、クラスの一番後ろの窓際に彼女はいた。

 

購買のパンを脇によけ、空中投影ディスプレイを凝視しながらその手は休むことなくキーボードを叩いている。

 

(ほう・・・研究者タイプだな・・・・・。面白い)

 

そんなことを考えていると、女子の一人がつぶやいた。

 

「えっと・・・・・、もしかして朝のSHRで言ってたタッグマッチのペアを更識さんに・・・?」

 

「お、鋭いな。そんなところだ」

 

俺がそう言って頷くと、ざわざわと波紋が広がった。

 

「え・・・・・・。だってあの子、専用機持ってないじゃない」

 

「今までの行事、全部やすんでるしさぁ」

 

「それにあの子が専用機持ってるのって、お姉さんの―――――」

 

それ以上言葉続けて欲しくなかったので、俺はわざと大きな音を立てて手を合わせた。

 

「悪い! 俺、あの子に用があるんだ」

 

そう言って群集から抜け出し、真っ直ぐ簪さんの席に向かった。

 

「えっと、椅子、借りていいか?」

 

適当に近くの女子から椅子を拝借し、断りもなしに簪さんの正面に座る。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

カタカタカタカタとキーボードを素早く打ち続ける音が聞こえる。

 

「えーっと」

 

改めて目の前の女子を見る。

 

セミロングの髪は楯無さんとは反対の方向の内側にカールしている。ずっとディスプレイを見続ける目は細く、虚ろに見えないこともない。

 

顔にかけた長方形の眼鏡がなんか人を寄せ付けない雰囲気を漂わせている。

 

「初めまして、だな。桐野瑛斗だ」

 

自己紹介すると、ピタと手を止めた。

 

「・・・・・・・・知ってる」

 

お、ご存じだったようだ。

 

そして椅子から立ち上がると右腕をわずかに上げてまた降ろした。

 

「?」

 

「私には・・・あなたと・・・・・・もう一人を・・・・・・殴る権利がある。でも・・・・・疲れるから、やらない」

 

「は、はあ・・・」

 

もう一人・・・、一夏の事だろうか。しかし何故に俺も殴られんの?

 

「・・・・・・・用件は?」

 

おっと、そうだったそうだった。忘れるところだったぜ。

 

「単刀直入に言うとだな、俺とタッグマッチのペアを組んでくれ」

 

「イヤ」

 

ぐおお、即答かよ。

 

だがまだだ! まだ終わらんよ!

 

「そう言わずによ」

 

「・・・・・イヤよ。それにあなた、組む相手には・・・・・・困っていない・・・・・・」

 

「あー・・・、いや・・・・・・」

 

うーむ、良い理由が思いつかん。

 

『楯無さんに頼まれました』と言うわけにはいかないし・・・、うーむ。

 

「えーと、みんな実は決まってて―――――」

 

「見つけたぞ! 嫁!」

 

なぁっ!? 呂布!? 

 

じゃなかった、ラウラだった。

 

「貴様四組などで何をしている! とっとと来い!」

 

「ぐえ」

 

いきなり制服の襟を掴まれ、息が止まる。

 

「や、やめろオイ。制服が伸びたらどーすんだよ」

 

「良いから来い!」

 

「うぐっ・・・じゃ、じゃあ、更識さん、また来っから」

 

「・・・・・・・・・」

 

簪さんは俺に返事をすることなくパクッとパンを一口かじるだけだった。

 

―――――――――――で、廊下に出てきたわけだが、

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

シャルが無言で立っていた。え? 何? ヤバい、怖い。シャルさん、目が据わってるよ?

 

「しゃ、シャル・・・? お前、のほほんさん達と食堂に行ったはずじゃあ・・・・・・?」

 

「瑛斗が四組の専用機持ちをペアに誘ってるって聞いて、戻ってきたんだ」

 

「そ、そうか・・・・・」

 

バカな!? ほんの十分ちょっと前の話だぞ!? どうやったらそんなに速く情報が伝わるんだ!?

 

「そうか、貴様は四組の専用機持ちと・・・・・」

 

パッと俺の制服の襟から手を放し、こっちを向いたラウラ。ヤベぇ、こっちも目が据わってる・・・。

 

「瑛斗、どういうことか」

 

「説明してよ?」

 

「あ、ああ・・・あああ・・・・」

 

背中に尋常ならざる量の汗をかく俺。二人とも、腕だけISを展開して、シャルはマグナムを、ラウラはプラズマ手刀を構えている。

 

(考えろ! 考えるんだ! 思考を巡らせろ! この二人を納得させられるだけの言い訳を思いつくんだ!)

 

某借金まみれの主人公ばりに脳をフル回転させてこの状況を打開する方法を考える。

 

「答えないなら」

 

「体に直接聞くしかないね」

 

そして俺が未だに名案を思い付いていないところで二人とも動き出した。

 

プラズマ手刀が俺の顔面に迫る。その瞬間、俺の脳内で電球に明かりが点いた。

 

「お、俺は!」

 

「「?」」

 

「俺はお前たちと戦いたい! いや、戦わなくちゃいけないんだ!」

 

「え・・・・・?」

 

「何・・・?」

 

二人の動きが止まった。

 

「確かに普段からお前たち二人は俺と一緒に戦ってくれてる。だけど! 今度のタッグマッチでは俺はお前たちと戦いたいんだ!」

 

二人に聞こえるように多少大仰な感じで話す。

 

「この前の襲撃で、俺は自分の未熟さを知った。痛感した! それはきっと普段からお前たちが一緒に戦ってくれてたことから出る甘えだったんだよ!」

 

我ながら驚くくらいスラスラと言葉が出る。

 

「その甘えを取り払ったら、俺はもっと強くなれる。それに、シャル、お前とは真剣に戦ったことが無かった。ラウラとは戦ったことがあったけど、アレは本来のお前の力じゃなかった」

 

「確かに・・・」

 

「ふむ、一理あるな・・・」

 

二人とも揺らぎ始めている。もうひと押しだ!

 

「隣に立っているお前たちじゃない! 俺の前に、全力で! 全力で向かってくるお前たちが俺は見たいんだよ!」

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

どうだ? 行けるか? 俺が考えた中で一番の言い訳だが・・・・・。

 

「その言葉・・・本心か?」

 

「もちろんだ」

 

ラウラの問いに頷く。ってか頷かなきゃダメだ。

 

「瑛斗は、僕・・・僕たちが見たいの?」

 

「ああ」

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

二人とも再び沈黙する。しかし、妙に顔が赤い。

 

「・・・・・・私を見たい・・・だと・・・・・」

 

「・・・・・・・そんなにストレートに言われたら・・・・・・・・・・」

 

そしてくるっと俺に背を向けてひそひそと話し合っている。

 

「ど、どうするの・・・? あんなに真剣な瑛斗の目、僕見たことないよ・・・・・」

 

「う、うむ・・・。私もだ」

 

ヒソヒソゴニョゴニョヒソヒソゴニョゴニョ

 

三分ほど話し合ってただろうか、俺はその間の喉の渇きが凄まじかった。

 

そして二人は再びこっちを向いた。

 

「そ、そこまで言われたら、悪い気はしないよ」

 

「今回だけ、特別に認めてやろう」

 

「お、おお」

 

なんだか良く分からないが、一応の危機は脱したようだ。

 

「ただし! お前から言ったのだ。手加減はしないぞ?」

 

「僕たちも全力で戦うからね?」

 

「お、おう! もちろんだ!」

 

「で、ではな」

 

「じゃ、じゃあね」

 

そこまで話すと、二人ともぱぱっとどこかへ行ってしまった。

 

「ぶっはぁ~・・・・・!」

 

ひゃあ~、怖かった。あの言い訳が通じなかったらマジでヤバかった。

 

ガチで足が震えてる。イヤ本当に怖かった。

 

まあでも、俺が懸念していた二人からも許可?をもらった。これで堂々と簪さんを誘うことができる。

 

(そう言えば、俺が殴られる理由って、何だ?)

 

首を捻りながら焼きそばパンをかじる。

 

だが俺は殴られる理由が全く見当がつかなかった。


 
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