No.450330

Fate 魔女っ娘達の夜 起

第四次聖杯戦争が終わり、冬木の街は多大な犠牲を払いつつも平穏を取り戻した。
そんな中、戦後処理を行っていた遠坂家では大師父、キシュア・ゼルレッチの残した箱の片隅にあった“それ”が発見された。
最大級の災厄の種であるそれを…。

他のサイトにあったFateの逆行再構成物の外伝であり、時臣矢アイリスフィールなどが生きていて葵も健在です。

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2012-07-10 10:23:02 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:7364   閲覧ユーザー数:7096

 

・・・これは、記されてはならぬ物語である。

 

・・・故に、汝その全てを隠蔽、封印すべし。

 

それは、第四次聖杯戦争が終戦を迎えてしばらくして起こった事件である。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「葵、そっちの書類の束を取ってくれ」

「はい」

 

夫、遠坂時臣の指示に応えて葵が動く。

時臣が指差した書類を渡すと、受け取った時臣は頑丈そうな外見の宝箱の中に入れてゆく。

 

「ありがとう、助かるよ」

 

申し訳なさそうに言う時臣・・・その左手は手首から先がなかった。

それを見た葵の顔が曇る。

 

・・・時臣の負った傷は戦争によって失った・・・所謂戦傷だ。

 

しかし、それを知るものは殆どいない。

彼が参加した戦争は、人の世に知られるものではなく、知られてはならない戦い。

 

その名を聖杯戦争。

 

僅か数日前に終戦を迎えた長い・・・200年以上も続いていた戦争だ。

夫はそれに参加し、片手を無くして戻ってきた。

 

彼の弟子であった、言峰綺礼と言う男によって切られたと聞いた時の驚きを今でも覚えている。

 

死んでいても可笑しくなかったと言われたと聞いた。

それでも時臣は、腕をなくしても自分の前に戻ってきてくれた。

 

あの時ほど、自分の中の時臣の大きさを感じた事はない。

 

「しかし、中々片付かないね。すこし先祖に文句を言ってやりたくなる」

 

やれやれといった風に、時臣が残った手で頭を掻いた。

朝から作業しているが、部屋の地面には未整理の資料が山となっている。

 

これは全て聖杯戦争とそれに関わる資料だ。

 

魔術師ではない葵にはその内容は良く解からないが、時臣はそれらに目を通して残しておく物と処分する物を分けている。

そして、明らかに残す物より処分する資料の方が多い。

 

それも当然だ。

聖杯戦争はもう起こらないのだから。

 

それが、遠坂家の当主である夫にどういう心境の変化を与えたのか、魔術師ではない葵には判らない。

戦いの中で何があったのかを夫は語らないし、葵も無理に聞こうとは思わなかった。

 

おそらくそれは自分が理解できる物ではなく、理解できると思うのは傲慢だろうと・・・そう感じたからだ。

 

「お母様〜」

「お父様〜」

 

資料の多さに夫と苦笑していると、部屋の外から声が聞こえた。

入ってきたのは凛と、その背中に隠れるようにして桜がいる。

 

その構図は記憶の中の二人の立ち位置と同じだった。

それに気づいた二人が目を見合わせて軽く苦笑する。

 

・・・聖杯戦争が終わり、時臣が完全に無事とはいえないまでも帰ってきてくれた事が嬉しかった葵だが、それだけでは済まなかった。

 

帰ってきたのは時臣だけではなかった。

夫の側にいたのは、一年経って少しだけ成長した・・・桜がいた。

 

あの青年は約束を守ったのだ。

 

まず凛が突進し、桜を抱きしめて泣き出した。

それに吊られて桜が泣き出し、二人を抱きしめる自分も泣いて・・・そして三人を纏めて時臣が抱いた。

 

あの日の事は、きっと一生忘れられないだろう。

 

「お父様、お手伝いしますわ」

「む、そうかい?」

 

凛の後ろで桜もコクコクと頷く。

実に微笑ましい。

 

時臣も、二人の手伝いを断る気はないようだ。

 

ここにあるものはどれも破棄する予定の資料なので、別に見られて困るものではない。

それに、片手が不自由な身としては手伝いの手は多いに越した事はない。

 

凛と桜の手を借りて、宝箱に荷物を入れてゆく時臣・・・さっきからずっと不思議に思っていたのだが、時臣は既にかなりの数と大きさの荷物をあの宝箱の中に収納しているような気がする。

それなのに、時臣は更に宝箱の中に物を入れ続けていた。

 

・・・質量的に不可能なはずだが、これも魔術かと、葵は深く考えなかった。

 

「あ痛た」

「え?」

 

ばさりと書類の落ちる音がして、凛が涙目になっている。

どうしたのかと押さえている手を見てみると、薄い切り傷が付いて血が滲んでいた。

紙の端が鋭くて切ってしまったらしい。

 

この程度なら放っておけば血も止まるだろう。

絆創膏も付けない方が治りも早いはずだ。

 

「あら、凛にはまだお手伝いは早かったかしら?」

「そ、そんな事ないもん!!私お手伝いできる!!」

「わ、私も・・・」

 

むきになる凛と、まだはっきりとはいえないながらも自己主張を始めた桜・・・・・・自分は今、確かに満たされている。

 

葵はそれを実感していたが、同時に胸に刺さる棘の感触を感じずにはいられない。

 

・・・間桐雁夜。

 

幼馴染で、凛と桜を可愛がってくれて・・・そして自分を女としてみていた人。

 

何故自分は彼の思いに気づけなかったのだろうか?

 

それとも、気づかないようにしていたのだろうか?

 

雁夜が・・・葵が自分の事を友人としか見ていなかったことに・・・気づかなかったはずはないのに・・・自分は彼が命を賭けるような女じゃない。

 

「お母様?」

「え?」

 

はっとすると、凛と桜が不思議そうに自分を見上げてきている。

時臣も自分をじっと見ていた。

 

「・・・なんでもないわ、凛、桜・・・」

 

葵は慈しみの笑みで応えた。

それを見た不安そうな凛と桜の顔が笑みになる。

 

・・・そう、夫にも娘達には関係ないことだ。

 

これは自分の罪で・・・そして罰。

 

罪悪感・・・自己嫌悪・・・それを家族のまえで見せるのはこれで最後にしよう。

葵が一人で背負って行くべき物だ。

 

それがこの光景の・・・自分の大事な物が全て手の届く所に戻ってきた事に対する代償なのだ。

 

・・・雁夜君・・・私はあなたを忘れない。

 

そして、この幸せを甘受しながら生きてゆく二律背反。

それが葵の選んだ道だ。

 

「・・・・・・」

 

夫は・・・そんな自分の内心を見抜いているのかいないのか、何も言わずに宝箱の整理に戻っている。

その無関心が葵には嬉しく、ありがたく・・・そして申し訳なかった。

 

「・・・ん?」

 

不意に、宝箱の中を覗いていた時臣の手が止まる。

 

「んん?何でこんな物が?」

 

箱から顔を上げた時臣は、円柱状の棒を持っていた。

取り出してみると、白い柄の先には金色の輪が付いていて、輪の中にこれまた金色の星が入っている。

金の輪の横にはデフォルメされた白い羽のオブジェが付いている。

 

「魔法の杖?」

 

それを見た葵が第一印象そのままを口にした。

 

魔法とは魔術師にとっての最終目標の一つだと聞いているが、時臣の持っているものはどう見てもそういう神秘のかかわる物ではないように見えた。

むしろかなり身近な・・・休日の朝、テレビのアニメ番組で主人公の女の子が持っていそうな魔法の杖だ。

 

「凛、桜?貴方達自分の玩具をお父様の宝箱に隠していたの?」

 

葵は第一容疑者達を見て軽く叱る。

この家であんな物を持っている可能性があるのは娘達のどっちかだ。

 

「ひどい、お母様!私じゃないわ!!」

「私も・・・違うもん」

 

元気に反論してくる凛と、叱られると思って声が小さくなって目が潤み始める桜の姿は両極端だなと葵は思った。

多分、成長しても彼女達の立ち位置は変わらないのではないだろうか?

 

「そ、そうなの?ごめんなさいね、凛、桜」

 

葵は直ぐに謝った。

 

娘達の教育には彼女なりに自信がある。

そうでなくとも、二人とも親の目を別にしても聡い子だ。

嘘をつかないとは思わないが、こんなつまらないことで嘘をつく子でもない。

 

・・・となると、あの杖は誰が持ち込んだものだろうか?

 

そして何故宝箱に入っていたのだろう?

 

「葵、どうやら子供達の言っている事は本当のようだ」

「え?」

 

気が付けば、時臣が杖を小脇に抱え、説明書を広げて読んでいる。

 

・・・説明書付属と言う所がどうにもこうにも安っぽい玩具らしい。

 

「これはどうやら大師父が作った物らしい」

「え?」

 

さすがに葵も吃驚した。

時臣が言う大師父、それは先代遠坂家当主で今は亡くなった自分の舅ではない。

もっと前の遠坂当主が師事した五人の魔法使いの一人、宝石翁のキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグの事だ。

 

そんな人物の作った物が自分の家に保管されていたとは・・・時臣の様子を見ると、彼も知らなかったらしい。

 

「でも・・・本当に?」

 

葵の疑いの言葉は責められるものではない。

時臣の持つ杖は、おもちゃ屋に行けば何処にでもありそうな安っぽいつくりに子供向けのデザイン。

 

生きながら伝説を持っている人間の作品とは思えない。

 

「い、いや・・・この杖の素材はプラスティックではないし、何よりかすかに魔力を感じる。今は機能停止しているようだが・・・」

 

夫が言うなら本当だろうと葵は思うが、時臣自身もどうやら信じ切れていないらしく、言葉にいつもの自信が見られない。

杖と説明書を代わる代わる見ている。

 

「ふむ、どうやら女性限定の礼装のようだ。私には使えない」

「お父様、それなら私に見せて」

 

何時の間にか、凛が時臣の側に来て杖を見ていた。

隣には桜もいる。

 

・・・子供なら興味を惹かれて当然だろう。

 

「フム、良いだろう」

 

そう言って時臣は杖を凛に渡した。

杖を手に持つ凛には違和感がなかった。

 

やはりこれは子供用の玩具ではないかと時臣と葵の夫婦は思った・・・のも一瞬、変化はすぐに来た。

 

『あは〜、まってました〜』

「「「「は?」」」」

 

家族全ての声が重なった。

皆同じように目を丸くしている。

 

そしてここには家族以外の人間はいない。

 

『ここですよ〜ココ、ココ〜あは〜♪』

「「「「え?」」」」

 

全員の目が一点に、凛の持つ杖に集まった。

何時の間にかとんでもない邪悪な魔力を放出している。

 

「な、何だお前は!?」

 

時臣があわてた。

杖の魔力は魔術師ではない葵にも感じられるのだから相当な物だろう。

魔術師である夫には更に何か感じられるのかもしれない。

 

『はいはい〜私はですね〜っと説明がめんどくさいんで契約の後で良いですか?』

「契約?・・・血か!?」

 

葵は凛が紙の端で指を切っていたのを思い出してはっとする

確か血が滲んでいるままだったはずだ。

 

「り、凛に何をするつもり!?」

 

ここに来て、葵も黙ってられなくなった。

あの杖が遠坂家の師にあたる人物の作った物だとしても、娘の事となれば話は別だ。

 

・・・もう娘を失って後悔するのは嫌だった。

 

それに、杖から発される雰囲気は何処か危険を感じさせる類の物だ。

放って置けるわけがない。

 

「凛、それを放しなさい!!」

『あ、ちょっと待ってください!まだ仮契約でそんないきなり中断したら!!』

 

杖の言葉に聞く耳持たず。

葵は凛から杖を取り上げようとする。

 

母として娘を守ろうとする本能の行動だった。

時臣も、何時にない妻の様子に圧倒されて動けない。

 

「凛から離れなさい!」

 

葵は凛から杖をもぎ取る事に成功した。

覚悟を決めた女というのは、古今東西強い物だと相場が決まっている。

 

『ああ〜もうちょっとで契約成立だったのに〜〜〜なんちゃって〜あは〜♪』

「「「「え?」」」」

 

誰も反応できなかった。

杖から禍々しい赤い魔力の光が迸る。

 

『本命ゲット〜♪』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はあ・・・」

 

シロウは縁側に座り、庭を見ていた。

自分の家、衛宮の武家屋敷の庭だ。

 

つい数ヶ月前、草むしりをしたが、そろそろまた毟らねばなるまい。

 

これから太陽が高くなり暑くなって行くだろう。

放っておけば元のように荒れるのが目に見えていた。

 

「・・・もう、そんなに時間が経ったのだな」

 

ついつい、そんな言葉が漏れた。

冬の聖杯戦争から季節は移り、そろそろ夏の気配を感じるようになっていた。

 

「シロウ、お茶はいかがですか?」

「ん?」

 

横を見れば、この時代のTシャツにジーンズ姿の|ライダー(メドゥーサ)がいた。

目には眼帯ではなく、魔眼封じの眼鏡をかけ、その手には盆に乗った急須と湯呑みがある。

 

「感謝する。ちょうど一服したいと思っていた所だ」

「冷茶、という物に挑戦してみました」

「ほほう、それは楽しみだ」

 

ライダーも縁側に座り、シロウとの間に盆を置く。

急須から注がれたお茶からは当然湯気が上る事はなく、ライダーは湯飲みに入れたそれを勧めて来た。

 

受け取ったシロウは口に含み、味を見る。

暑い日に熱いお茶というのも悪くはないが、やはり冷たい物の方が欲しくなるのが人情だ。

 

「そういえばランサーは?」

「道場で槍を振るっていますよ」

「アイツらしいな・・・」

 

シロウは苦笑して、再び庭を見る。

 

今、この屋敷には四人のサーヴァントが同居している。

シロウにライダー、ランサーにバーサーカーだ。

 

キャスターとアサシンは柳洞寺に、ギルガメッシュは教会にいる。

ギルガメッシュを放っておくのが少し気になったが、聖杯戦争を経て何か思うところがあったのか、今のところ静かだ。

 

ずっと好き勝手にさせておくわけにはいかないだろうが、当面は大丈夫だろう。

何かあれば自分達全員で抑えれば良い。

 

そして、もうすぐ・・・今日の夕方にはこの屋敷に新たなる同居人が来る予定だ。

切嗣とアイリスフィール、そしてイリヤが一緒に住む事になっている。

元々この家は切嗣の物だし、アインツベルンと袂をわかった以上、あの森の中の城にいるのは気が引けるだろう。

 

部屋の空きはいくらでもあるので問題ない。

イリヤも家族が増えたと喜んでくれた。

 

今は私物や色々な物を持ち出すために、ヘラクレスを荷物もちに連れて城に行っている。

これがあの城に人が入る最後になるかもしれない。

 

・・・ちなみに、普通の部屋に入りきれないヘラクレスは、もっぱら道場で寝起きしていた。

 

「シロウ、何を考えていたのですか?」

 

ふと、隣に座っていたライダーが話しかけてきた。

 

「・・・これから何をしようかと思っていた」

 

シロウは聖杯戦争を終わらせる為に動き、衛宮士郎の存在を生み出さないように手を打ってきた。

そして悲願は成就した。

 

「賭けていた思いが大きかったせいか、気が抜けてしまってね・・・」

「そうですか・・・」

 

シロウの思いを理解しているライダーは、それ以上何も言わずに黙った。

その気遣いが素直にありがたい。

 

「焦らなくても、貴方ならきっとすぐに次に目指す物も見つけるでしょう」

「だと良いがね」

 

苦笑して、何処か古い連れ合いのような会話だなと思ってまた苦笑する。

きっとこれが平和という物なのだろう。

 

・・・しかし、こういうものは得てして長くは続かない物だ。

 

「ん?電話?」

 

シロウのポケットから電子音がする。

携帯電話を取り出して液晶を見ると・・・。

 

「遠坂家?」

 

・・・嫌な予感がした。

 

ライダーを見れば、硬い表情で頷いてくる。

通話ボタンを押して耳に当てる。

 

『ヒック・・・ヒック・・・シロウおにいちゃん?』

「桜か!?」

 

桜の名前が出た一瞬で、ライダーが彼女本来の漆黒の姿に取って代わった。

彼女にとって桜が最優先で守るべき対象なのは時代が変わっても変わらない。

 

しかし、今はそんな事はどうでも良い

泣いている桜を刺激しないように、努めて冷静に声を紡いだ。

 

「どうしたんだ桜?何を泣いている?」

『お母さんが・・・』

「どうした?」

『良いからさっさと来なさい!!』

 

桜では話にならないと、凛が電話を奪い取ったらしい。

懐かしくもある怒声に、しかしシロウは顔をしかめた。

 

「凛、今何処にいる?」

『家よ。玄関の電話の側!!』

「時臣はそこにいないのか?」

『いない!!』

 

桜よりましだが、感情の昂ぶり故か凛も話になりそうにない。

しかし緊急事態なのは間違いないようだ。

 

あまつさえ、時臣も側にいないらしい。

視線だけでライダーと言葉を交わし、駆け出したシロウの後をライダーが付いて来る。

 

「わかった。このまま電話は切らないでつなげておくんだ。直ぐにそっちに向かう。絶対にそこを動くな」

 

携帯電話の通話を繋げたまま耳から放す。

 

「ランサー!!」

「呼んだか?」

 

道場の方向から蒼い風が疾走して来た。

サーヴァントであるシロウ達と並走し、軽く声をかけてくる余裕まであるのはランサーだ。

 

「面倒ごとか?」

「面倒ごとだ」

 

シロウも一瞬で赤い外套姿となり、戦闘準備を整える。

赤、青、黒の人影が風となり、常人をはるかに凌ぐサーヴァントの疾走は、人の目に留まるより早く家々の屋根を駆け抜け、遠坂邸の前に

たどり着いた。

 

「ついたぞ、凛、桜、出て来てくれ」

 

シロウが携帯に話しかけると、家の戸が開いて小さな人影が二つ出て来た。

 

「シロウ!!」

「シロウお兄ちゃん!!」

 

外套に縋り付いてきたのは凛と桜だ。

怯えているように震えている二人から、ただ事ではないと悟るのは容易い。

 

・・・二人に話を聞くのは難しいが、見上げれば屋敷の二階でやたらと禍々しく強烈な魔力が自己主張していた。

 

シロウはライダーを見る。

 

「任せる」

「任されました」

 

それだけで十分だ。

ライダーに凛と桜を預けて自分は身軽になる。

 

「一人で行くのか?」

「それが最善だろう。君の長柄は室内では不利になる」

「それは挑戦か?」

 

挑戦的に睨んでくる瞳は無視だ。

 

「ルーンの結界を二つ、内向きのものと人払いだ。派手な事になれば君にも出番があるだろう」

「やれやれ、そいつに期待するしかねえか」

 

ぶつぶつ言いながら、ランサーがルーン結界の準備に入る。

獣が平穏の中でその爪牙を失うことはないように、サーヴァントは何処まで行っても戦士なのだ。

 

シロウは即座に双剣を投影し、警戒しつつ屋敷の中に突入した。

かって知ったるなんとやら、二階に続いている階段をは踊り場を経由せずに一足飛びで飛び上がり、手すりを取って音も立てずに降り立つ。

 

目標の部屋はここから数メートル先・・・確か未来において凛の部屋だった場所・・・即ち遠坂家当主の部屋。

 

「何を話している?」

 

途切れ途切れに時臣と・・・多分、葵の声が聞こえてくる。

二人が生きている事は確認できたが、部屋の扉が閉じている為によく聞こえない。

 

なんとなく、言い争っているようにも聞こえるが・・・。

 

「ぐあ!!」

「っつ!!」

 

いきなり衝撃がドカンときた。

部屋の扉が吹き飛ばされ、追いかけるように時臣自身が飛んでくる。

 

庇う暇も無く、反対側の壁にぶつかった時臣が崩れ落ちる一部始終をシロウは見た。

 

「くっ!!」

 

のんびりしている暇がないと悟ったシロウが、時臣の盾になる為、部屋の入り口との間に駆けつける。

 

「時臣!!・・・は?」

 

シロウは敵がいるであろう部屋の前に立ち、そのまま横にスライドしていった。

 

「たわば!!」

 

そのまま、廊下の突き当たりまで飛んで行き、壁にぶち当たって壁画になる。

 

「・・・い、今のはなんだ?」

 

シロウは確かに見た。

見たからこそ、止まるべき場所で制動しそこねて飛んで行ったのだ。

足から力が抜けて踏ん張る事が出来なかった。

 

壁から抜け出したシロウは、今度は慎重に扉がなくなった部屋に近づく。

元扉の横で呼吸を整え、覚悟を決めて部屋を覗き込むと・・・。

 

「体は熟女(アダルト)!心は乙女(ピュア)!夫の帰宅を三つ指突いて迎え入れるセレブ妻〜♪マジカル美少女ワイフアオイここに爆☆誕!!」

 

ドカンと、葵の背後で花火のように色の付いた魔力が爆発する。

それを見ていたシロウは呆然として・・・。

 

「まずい・・・あれには勝てないかもしれない」

 

シロウの全身に、かってない戦慄が走った。

 

 


 
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